Japanese Physical Therapy Association
NII-Electronic Library Service
Japanese Physioal Therapy Assooiation理学
療法
学第
40
巻
第4
号241
〜
243
頁(
2013
年)
疾患 別
セ
ミ
ナ
ー
脳 血
管
障
害
に
対す
る
理
学療法
の
エビ
デ
ン ス
*吉
尾 雅
春
* *は じめ
により認
知
され る理 学療法
である た め に根拠
に基づく
理学療 法
を志 向 してい く必 要がある。 根 拠に基づ く理学 療 法を行お うと する ときに影 響 を与 える おもな 要素と し て,
あ きら か に効 果を 証 明 された研 究 論 文の存 在,
基 礎 的 な 知 識に基 づ く理論,
治療
者の経験 対 象 者の意 思や価 値 観な ど が挙 げら れ る。
特
に ガ イ ドライン の策 定にあたっ て重視さ れ るのは客 観 的 論 文の存 在で ある。
残 念 なが ら脳血管 障 害の理学 療 法に おい てガ イ ドライン 策 定 を 満たす和 文 論 文 を多 く見だすこと はでき ない。
我が国に おい て脳 血 管 障 害に対 する理 学 療 法のあ り方を問 うた めの材 料 が相 当
不 足し てい るとい うことになる。
脳 血 管 障 害に対 する理 学療法
のエ ビ デン ス を考
える にあたり,
い くつ か問 題 提 起 を し な が ら,
今後
の方向性
を探
っ て み たい。
なお,
引 用・
参 考 文 献 は ガ イ ドラインに提 示し て あ るので参照 してい た だ きたい。
デ
ー
タ の蓄 積
を抑 制
した 歴 史 的背
景我が国における 理学 療 法士の誕生 は
1960
年代 に 欧 米 で神 経 生 理 学 的ア プロー
チ が盛ん になっ て き た時代と重なっ てい るこ とか ら,
ほ と ん どの理 学 療 法士の興 味は そ の ア プロー
チへ と 向 かっ た。 脳血管 障 害に おいて は ボバー
スコ ン セ プ ト に よ る アプ ロー
チが 多 くの支 持を得て,
卒 前
教育
ではもちろ んのこと,
日 本 理 学 療 法士 協 会におい ても現 職者 講 習会 (
現行
の理学療
法 士 講 習 会 )で頻 回にわ たっ て推 奨してき た。
よ く も 悪 く も ボバー
ス法は我 が 国の脳血管 障 害の理学 療 法の中心 的存在 で あっ た。
その後,
ボバー
ス概 念に つ い ては懐 疑 的で効 果につ いて は否 定 的 な論 文が多 くみられ,
その効 果につ い て客 観的 デー
タ と し て 示さ れた ものはほとん ど存 在 して いない。 我が国の理学 療法
士・
作 業 療 法 士 国 家 試 験の用 語と し て取 り.
ヒげら れ るこ と も な い 現 状にあ る。
脳 卒 中の リハ ビリテー
ショ ン に おいて運動療法
を核 とし て関わっ て い る理 学 療 法士の存 在は大きく,
長年
の経
過 で効果の蓄積が でき なかっ た責任は大 きい。
同 概 念の中の中 枢神 経 障 害は質 的 障 害であ り,
量 的に評 価 する こと は適 切では ない,
とい う見 解 もデー
タ化に影響 して いた と考 えら れ る。
痙 縮に代 表
さ れ る筋 緊 張や姿 勢 などの質を求めても,
そ れ を他 者 *Evidence for Physical Therapy of Stroke **
千里 リハ ビ リ テ
ー
ション病 院〔〒562
−
0032 大 阪府 箕 面 市 小 野 原 西4−
6−
1)Masaharu Yoshio
.
PT,
PhD:Senri RehabiLitation Hospitalキ
ー
ワー
ド:脳 血 管 障 害,
理 学 療 法,
エ ビ デン ス と共 有できるデー
タ として示 すことが 困 難で あ り,
また量とし て表 現 することへ の抵 抗 感 もデー
タの蓄 積 を抑 制 した。
エ ビデ
ンスにつ な が るデ
ー
タ の 蓄 積脳 卒 中理学 療 法
診 療
ガ イ ド ラ イ ン を ま と め る た め に 過去約
20
年
間の欧 米の研究論 文
を中心に,
脳卒
中 理学療法
の評 価 と アプロー
チ につ いて調 査検討
し た。
根 拠に基づ く理学 療 法の根 幹は 客観的 な デー
タ で あ る。
特 に 我 が 国の理 学療法 に あっ て は,
諸外国 で よ く用い ら れ てい るエ ビデン ス レベ ルの高い 評価 指標に馴 染み が薄く,
臨床に おい て積極 的 な 活 用 は な さ れ てい ない。
241
施 設を対 象と し た国際的 に標 準 化さ れ た 測定指 標 の 利用に関 わ る潮 見の調 査 報 告 によれば,
ごく一
部の指 標を除い て我 が 国ではほとんど使 用 さ れて い ないというこ と であるD
。 我 が 国の理 学 療 法 士 が 検 査 測 定・
評 価 に あ ま り興 味 を もってい ない ことは深 刻 な問 題である。 エ ビ デン ス につ ながるデー
タ を 蓄積 するため に は全 国 あるいは世界で共 通 した総 合 的 評 価 指 標 や個別の機 能 評 価 指 標 を用い て,
で きれば大 規 模に継 時 的に記 録 を残 すことが重 要である。
測 定 評 価 を行 うとき,
問題 点を分 析 する た めの評 価 指 標と し て評 価バッ テ リー
を利 用 する のか,
効 果 あるいは変 化を表 すた め の指 標 と して利 用 するのか,
ガイ ドライン策 定 にあたって求 められてい る評 価 指 標 は 後 者であ る。
臨 床 家 によっ て意 図 的 に,
定 期 的,
計 画 的にそのデー
タが 蓄積 されることが 大 切であ る。
理 学療 法に お け る臨床 場 面で は主 観 的 側 面 を極 力 避 け,
多 く の 客観的 情報に基づい て臨床 研 究 を行 う必 要がある。
適 切 な 評価を 継続的 に行い,
理学 療 法 効 果 を 客 観 的に示 して いかな け れ ば な ら ない。
多
くの理学 療 法 士は筋 緊 張に注 目 し,
冗 長に記 録し ようとす る が そ れは変 化として比較 する こ と は難しく.
量 的処理 は不 可能である。
筋 緊 張 を質 的に考 えて捉 え よ うとして も,
そ れ を 他 者 と共 有 すること 自体 困難 な よ うである。
策 定 したガイ ドラ インに おい て も筋 緊 張の評 価は高い レ ベ ルには な く,
過 去50
年 間の蓄 積を あ まり感 じ る こ と は で き ない。
臨 床に おいて筋 緊 張を もっ と 違っ た 側 面 か ら捉 え る 目 が求め ら れ てい る の かもし れ ない。
過 去
,
筋 緊 張の対 極 に 位 置づけ ら れ てきたとい っ てもよい 筋 力につ い て は,
ハ ン ドヘ ル ド ダ イ ナモ メー
タの利 用など に よっ て簡
易的 に臨床
で数値
化さ れ てい る。
さ ら には徒 手 筋 力 テス ト と ほ ぼ同様
の基準
で大 まか に検 査す
る ことで,
日本で よ く利 用さ れ るBrunnstrom stage の代
用 とし て 回復段
階 と筋 力 N工 工一
Eleotronio LibraryJapanese Physical Therapy Association
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Japanese Physioal Therapy Assooiation242 理 学 療 法 学 第
40
巻 第4
号 とを 合わせ た評価がなさ れ,
経 過が観 察さ れて い る。
そもそ もBrunnstrom
stage の意 味づけが
果た し て適 切である か,
十 分 な議 論 もなさ れ ない まま 今に至っ てい ること 自体 検 討さ れ な ければ ならない と考 えてい る。
Brunnstrom
の概 念に重 力 と の 関係や関節の基 本 的 なシ ステム,
あるいは脳の シ ステムな ど に つ い て十分 な考 慮 が な された形 跡はない。
世 界ではほと んど 利 用 さ れることのない こ のテス トの意 義につ いて は多 用し てい る我 が 国の理 学 療 法士 た ちの責任によっ て議 論 さ れるべ きであ ろう。
一
方,
選 択 すべ き運動療
法の根拠 と な る問題分 析 する た めの 評 価 指 標 は 現 実 的 に は存 在し ない といっ ても よい。
運動 療 法の 根 拠 を 得 る た め に 行 う評 価 は 動 作 分 析 ということ に な る が,
お よ そ 客観的 分析行 為 に は 程 遠い状 況 で あ る。
基礎的 な多 面 的 知 識 に基づ く知
識 や 理論を背 景に分析し,
アプロー
チを思 考・
決 定し てい くこと に な る が,
前
述の 長 年に渡る経 過は脳血管 障 害 患 者の問題を神経
学的 に一
面 的に捉え る こ と に固 執 する結 果 を も たら し た。
改めて脳血管障害
患 者のもつ 障 害に つ い て多 面 的 に解
明す
る努力
が な さ れな けれ ばならない。
結 果としてのデー
タ を蓄 積し た と しても,
その アプロー
チを選 択した理 論 的根 拠 が示さ れないもの であれ ば,
結 果と して のデー
タ が意 味 をな さ ないか らである。
そのため に は理 学 療 法モデルとし ての基礎
的 な学 問と研 究が必 須である。
脳 血管 障 害
の理 学 療 法 と
エ ビ デン ス1.
ボバー
ス コ ンセプ トによる理 学 療 法 ボバー
スが提 唱 した神 経 発 達学 的ア プロー
チ法で は 脳 卒 中 は質
的 障 害であるとして量 的に評価 治療 することをあ ま り好 ま な かった。
痙 縮 増 悪につ ながるとい うことで筋 力 増強 を 否定し た こと は その筆 頭である。
また,
装 具は動 き を止め る道具 で あ る と して使 用を制 限し たことで患者の参 加の幅 を狭く してい る場 面 を 目 に して きた。
講 習 会の開催 等によっ
て積 極 的に取 り組ん で きた ボバー
ス法の紹 介 も,
半.
世紀 経っ ても客観
的 に効
果を示 す 論 文 が 実 質 的に存 在 し ない以.
E,
厳しい 判 断 をせ ざる を得 ない。 そのた めにガイド ラ インで は肯 定的 に 評価す る こ と は で き な かっ た。
し か し,
ボバー
ス法のすべ てを否定す る も の で は ない とも考えて い る。
比 較 研 究した論 文でい うボバー
ス法と は 概 念 の どの部 分 を指 すのか明 確で は なく,
ボバー
ス法全体 が 否定さ れる よう な研 究ス タ イルで は ない。
神
経生 理学 的アプロー
チの 中で も我が国の多
くの理学療
法上 に受
け入れ ら れてきた歴 史 的 経 過は観 察 する 目 や基本
的 な治療姿
勢な ど を育 成 し,一
定の成 果 を あ げてきた ことは確
かであ る。
し か し,
すべ て の概 念 が 正 しかっ た わ けで はな く,
こ れ まで の歴史
の中でそのあ り方は大 幅に変更 さ れ てい る。
様 変 わ り し た 現 状のものを ボバー
ス法と 呼 称 するのは適切 で は ない と 考 え てい る。
ガ イ ドラインが策 定 さ れ る ように なった今,
効果 を あ き ら か に し てエ ビ デン ス を示 すこ との で き る臨 床 活動へ のラス トチャ ン ス であ り,
関 係 者の 相 当の努
力を 期待し たい 。2,
肩 関節の 課 題脳 血 管 障 害 患 者の肩関節の問 題は深 刻である
。
こ の30
年間 を振 り返っ た とき,
痛みを伴っ た可 動 域 制 限 を 特 徴 とする肩の 問題 が減少し たとい う認 識 を もつ こ とは できない。
し かも早期 か ら 回復期に移 行 する と き に は多 くの患 者が そ の 問 題 を有し て い る。
おもな関
節
に は 関節
筋が存在
し,
陰圧 で あ る関節
包 内が さ ら に陰圧 に なっ て 関節 包が 関節 内に 吸い こ ま れ ること を 防御
し て い る。
肩関節で は肩 板 構 成 筋が そ れ にあた り.
深 層 の筋 線維
を 関節 包に停 止さ せ てい る。
弛 緩 性 運 動 麻痺
を伴 う場
合,
筋収
縮 に よ る この防御
シス テム が機
能せず
,
理学療 法
士等
の他動
的 関 節 運 動に よっ て関 節 包の炎 症を引 き起こす 可 能 性 が 高い。
そ れ は肩 乎 症 候 群に発 展し,
深 刻 な 状 態になる こ とも少 な くは ない。
残 念 なが ら 理学 療 法士なら ば誰 もが共 有 してい な ければ な ら ない こ の知 識 が 卒 前 教 育の中で取 り扱 わ れていない。
医 学モデ ル ではな く,
理 学 療 法 学モデル と しての臨床 解 剖 学の教 育 が 必 要であ る。
3.
股関節屈曲運動股 関節
hip
joint
の構造 上の知 識 に おい て も問題 を 抱 えて い る。
臨 床 でい う股 関 節の屈 曲角度 に は寛 骨と大 腿 骨で成 す 寛 骨 大 腿 関 節coxofemoraljoint
の動 きと骨 盤の後 傾 運 動 を含 んで い る。
た と え ば股 関 節の他 動 運 動に よ る屈 曲 角 度 が120
度であ る とする と,
寛
骨大腿 関 節の角 度は70
一
80
度 程 度であ り,
骨 盤 と大 腿骨との問でインピンジメ ン トを 起こさない ように骨 盤 を後
傾して いる。
こ の骨 盤の後 傾 運 動は脊柱の運動に よ る。
こ の運動は 股関 節の骨性お よ び軟 部 組 織の抵 抗に よっ ても生じ る が,
加 えて筋 活 動に よっ て保 障さ れて い る。
こ の筋 活 動は網 様 体 脊髄 路等の関 与に よ るものと考 えら れるが,
脳 血 管 障 害に よっ て一
時的 に その活 動は抑 制さ れ,
股 関節の他 動 的 屈 曲 運 動 に おい て骨 盤 後 傾 運動の不 足 が 生 じるこ とになる。
この システ ムを知らずに早 期に積 極 的 に股 関 節の伸 張 運 動 を 行 う と股関節 の前 面にインピンジメ ン トによる炎 症 を 惹 起 する 可能 性があ る。 特に大 腿 骨と 下前 腸 骨 棘 との問 で大腿直 筋が 挟 み こ ま れ や すい。
きわ めて基 本 的 なこ の シ ステムは共通のエ ビデンスに し な け れ ば な ら ない。
これ らの知 識に重 力 を含んだ物理学的 思考を 加 え る と,
神 経生 理学 的視 点 巾心に説 明 して きたこれまでの臨床
が異なって見えてくる こと が考 え られ る。
これ らの蓄積
は 理学 療 法 士 自身の手で行 う必 要がある。
4.
脳の シ ステム障 害の理 解 とニ ュー
ロ リハ ビリテー
ショ ン近 年 ニ ュ
ー
ロ リハ ビリ テー
ショ ン という
表 現に代 表さ れ る ように脳 を中 心 とし た学問 を 基礎に,
今後の アプロー
チのあ り 方 を 見直して い くことが求め ら れ てい る。
その方 向 性 を 示 し て い くた めにも,
過 去 を 反省し,
臨床デー
タを蓄 積し てい くこと がなによりも重 要 なことで ある。
脳血管 障 害の 運 動 療 法が有
効
であること を明確
に し ていく
ため に は,
川平
に よ る促 通
反復 療 法
やCI
療 法Constraint
induced movement therapy の ように 確 か な 研 究法に 基 づい て
証 明 する必 要がある
。
そ し てこれ ら のアブロー
チ に学ぶべ き点は 適 応 と限 界をあ きら か に し てい ること で あ る
。
これ まで の脳Japanese Physical Therapy Association
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Japanese Physioal Therapy Assooiation脳 血 管 障 害に対 する理 学療 法のエ ビデ ン ス