はじめに1‒8) 頸椎捻挫いわゆるむちうち損傷は,頸椎の亜脱臼や靱帯に傷 害を受けるため,様々な神経症状を呈するようになる。たとえ ば視診では,頸椎の前彎角度の減少や斜頸位が認められ,主訴 としてめまい・耳鳴り・視覚障害・痺れ・疼痛等の症状を訴え ることが多い。問診や視診でこのような症状が認められた場 合,その程度によっては生命を脅かすことになる。 むちうち損傷を受傷した場合,その複雑な受傷機転により上 位頸椎に様々な傷害をもたらすことが知られている。上位頸椎 は,後頭骨と環椎そして軸椎で構成されている。環椎は円形で 椎体が存在しない。軸椎は,歯突起が上部に突出し後方に大き な棘突起をもっている。さらに上位頸椎は下位頸椎と異なり椎 間板をもたず,左右の椎間関節は下位頸椎が後方に位置してい るのに対して,上位頸椎は側方やや前方に位置するという特徴 を有している。また軸椎の歯突起は前方では環椎の前弓と,後 方では横靱帯と関節を形成している。 むちうち損傷に伴う頭蓋および上位頸椎領域における靱帯の 不安定性は,上位頸椎領域の血管や神経構造にも傷害を引き起 こすことが知られている。たとえば環軸関節の不安定性は,脊 髄神経に異常な圧力を引き起こし,椎骨動脈や神経根をも圧迫 する可能性がある。したがって患者に上位頸椎の不安定性や椎 骨動脈の症状が疑われた場合は,上位頸椎の安定性や椎骨動脈 のテストを行い構造体の状態を確認することが必要である。そ して上位頸椎に問題がなければ,下位頸椎の評価・治療に移 る。しかし,もし上位頸椎の不安定性が確認できれば,徒手療 法の明白な禁忌となる。ここでは,特に上位頸椎の評価を中心 に,下位頸椎の神経系の評価と治療を述べる。 頸椎捻挫における問題点 頸椎捻挫における問題点としては,下記のようなことが考え られる。 ・複合損傷であることが多い ・上位頸椎の靱帯損傷による過可動性 ・C4,C5 分節の複合靱帯損傷による過可動性 ・椎間板の脱出や椎体の終板の損傷 ・胸鎖乳突筋,頸長筋(咽頭後方の血腫)などの筋損傷 ・椎間関節の骨折・亜脱臼,関節軟骨の損傷,関節包の損傷 ・脳−脊髄損傷 ・交感神経や椎骨動脈の損傷 ・痛みが腰椎に波及することもある ・もともと頸椎に過可動性があった場合,特に厳しい損傷を受 ける このように頸椎捻挫の患者は様々な症状を呈するため,上記 のような問題点を考慮しながら評価・治療を行う必要がある。 上位頸椎の安定性に重要な靱帯2)3)7) 上位頸椎には,安定性を維持するために協調して働くいくつ かの靱帯があり,これが上位頸椎の動きを誘導・制限してい る。そしてこれらの靱帯の作用により環椎後頭関節は,主とし て屈曲−伸展の動きと同時に側屈と反対側への回旋をわずかに 伴う。環軸関節は,歯突起を中心として回旋の動きが主である が,椎間関節の形状によりわずかな側屈と回旋を伴う。した がって上部頸椎の連結運動は,屈曲−伸展ともに側屈と反対方 向への回旋の動きとなる。非連結運動では,屈曲−伸展ともに 側屈と同側方向への回旋の動きとなる。 上位頸椎において特に重要な 3 つの靱帯のうち,蓋膜は環椎 横靱帯を後方から覆う幅広い膜であり,後頭骨の斜台から起こ り第 2・3 頸椎体の後方で後縦靱帯に続いている。翼状靱帯は, 軸椎の歯突起と後頭骨を強固に連結している。そのため上位頸 椎の連結パターンにもっとも影響を及ぼしている。環椎横靱帯 は,歯突起を環椎の腹側椎弓に強固に固定し,回旋のコント ロールを行うだけでなく,歯突起の後方移動による脊髄の圧迫 を防いでいる。むち打ち損傷などの外傷や関節リウマチや感染 症などで,これらの靱帯が伸張されると上位頸椎不安定性の原 因となる。 翼状靱帯や環椎横靱帯が伸張や断裂した場合,歯突起が変 位・脱臼するため延髄の呼吸・循環中枢を圧迫し致命的となる。 さらに翼状靱帯の伸張や断裂は,上位頸椎の間で過度の回旋を 引き起こし,椎骨動脈を過度に圧迫し損傷を受けやすくなる。 翼状靱帯の損傷に伴う症状としては,頭痛(後頭部),めま い・嘔吐,四肢の感覚障害・四肢麻痺,視力障害,耳鳴り,バ
山 内 正 雄
** *Whiplash Injury and Manipulative Physical Therapy: Thinking about a Nervous System
**
済生会西条病院リハビリテーション科 (〒 793‒0027 愛媛県西条市朔日市 269‒1)
Masao Yamauchi, PT: Department of Rehabilitation Medicine, Saiseikai Saijou Hospital
キーワード: むちうち損傷,上位頸椎の安定性テスト,椎骨動脈テ スト
ランス障害などがみられる。環椎横靱帯の損傷に伴う症状とし ては,足下を見るときしばしばめまいを生じる,下肢の麻痺, 眼振,嚥下障害,舌の感覚障害,咽頭の違和感,頭痛,耳鳴り, バランス障害などがみられる。
上位頸椎の安定性のテスト1)3‒6)9‒11)
上位頸椎の安定性テスト(Joint integrity test)は,上部頸 椎の自動・他動運動テストと靱帯の安定性テストで構成されて いる。そしてむち打ち損傷などで頸椎に外傷を被った患者や頸 椎の不安定性が疑われる患者やリウマチ性疾患,感染症の患者 に特に有用なテストである。特に前記の翼状靱帯や環椎横靱帯 の損傷に伴う症状を有している患者,問診や視診で異常がある と判断した場合には必須のテストである考える。それ以外でも セラピストが,頸椎に問題がある患者の評価・治療中に頸椎の 不安定性を疑われた場合,上位頸椎の安定性テストを行うべき である。以下に記述する上位頸椎の安定性テストのいくつかが 陽性で,上位頸椎の不安定性が確認された場合は,徒手療法は 禁忌である。 1.主として蓋膜のためのテスト 主として蓋膜のテストは,基本的には上位頸椎になんらかの 形で牽引を加える誘発テストである。正常であれば動きはほと んど認められないか,認められたとしてもわずかである。もし 動きが 2 mm 以上認められるか,上位頸椎の不安定性の症状が 誘発・再現される場合が陽性である。陽性であった場合,他の テストと併せて評価する必要があるが,徒手療法の禁忌となる 可能性が高い。 1)Distraction test(牽引テスト) 患者は背臥位か座位。セラピストは患者の頭側(座位で行う 場合は患者の横)に立ち,一方の手で軸椎の棘突起と椎弓を固 定し,もう一方の手を後頭骨の背側にあてがい優しく頭部を牽 引する(図 1)。牽引は,中間位・屈曲位・伸展位の 3 肢位で行 う。正常ではほとんど動かないか,動いてもわずかである。も し動きが 1 ∼ 2 mm 以上あれば,陽性である。また牽引により 上位頸椎の不安定性の症状が再現される場合も,陽性である。 2) Distraction in upper cervical fl exion(上位頸椎を屈曲位で
の牽引テスト)
Distraction test を発展させた方法で,上位頸椎を屈曲位に して,牽引を加える。正常では,動きはほとんど認められない。
3)Upper cervical fl exion test(上位頸椎屈曲テスト) 患者は背臥位。軸椎の椎弓を固定し,セラピストの肩と同側 の手で患者の頭を前後から挟みつけて,上位頸椎だけを屈曲さ せる。正常では,動きはほとんど認められない。
4) Ventral horizontal translation between occiput-atlas-axis (上位頸椎腹側並進運動テスト) 患者は座位。セラピストは一方の手を患者の後頭骨下部,も う一方の手は前方から軸椎横突起に置き固定し,後頭骨を腹・ 頭(牽引)側へ動かす。正常では,動きはほとんど認められない。 2.主として翼状靱帯のためのテスト 翼状靱帯のテストは,上位頸椎に側屈・回旋ストレスをかけ て動きを確認するテストである。正常での動きはほとんど認め られないか,わずかである。
1)Side-bending stress test(側屈ストレステスト)
患者は背臥位。セラピストは軸椎の椎弓から棘突起を一方の 手の母指と示指で固定し,もう一方の手で頭部を把持し,後頭 骨と環椎を側屈させる(図 2)。反対側の翼状靱帯に問題なけ れば,頭部の動きはない。なおこのテストは,上部頸椎を屈曲 位・中間位・伸展位でも行う。もし,この 3 つの肢位すべてで 動きがみられるなら,テストは陽性と考えられ,翼状靱帯の断 裂か後頭骨環椎関節の関節不安定性が示唆される。
2)Rotation stress test(回旋テスト)
患者は座位。セラピストは軸椎の椎弓から棘突起を一方の手
図 2 Side-bending stress test
中間位・屈曲位・伸展位で行う.
図 1 Distraction test
の母指と示指で固定し,もう一方の手で頭部を把持し,後頭骨 と環椎を回旋させる(図 3)。
このテストは,前記の Lateral fl exion stress test と併せて行 うことが多く,陽性の場合に,上位頸椎の不安定性が翼状靱帯 の緩みによるものなのか,環軸関節の不安定性によるものかを 決定するために行うことが少なくない。もし 20 ∼ 30 度以上の 回旋がみられる場合,反対側の翼状靱帯の損傷が示唆される。 また過度の回旋の動きが同側への過度の側屈を伴う場合は翼状 靱帯の損傷が示唆され,過度の回旋の動きが反対側の過度の側 屈を伴う場合は環軸関節性の不安定性が示唆される。
3) Passive intervertebral movement ̶ occipito-atlanto-axial rotation(上位頸椎回旋テスト) 患者は座位。セラピストは下方の手の示指と中指を軸椎の椎 弓に置き尾背側へ押すように固定する。上方の手は示指を乳様 突起,中指を環椎横突起に置き,回旋を加えるように頭腹側へ 動かす。このテストは,軸椎に対する後頭骨・環椎の回旋の動 きの質と量を評価するためのテストであり,様々な回旋角度で 行われ過可動性を評価する。
4)Lateral translation stress test(側方並進運動テスト) 患者は背臥位。環椎に対して頭部だけを側屈する。たとえば 左側屈の場合,セラピストは環椎を右手母指と示指の間を用い て右から他動的に固定し,環椎が左方へ移動した状態を維持す る(この位置で翼状靱帯の左環椎付着部分と右後頭骨付着部分 が緊張する)。そして左手母指と示指の間を用いて軟部組織の たわみを取り,軸椎を右方向に動かす(図 4)。 このテストは,翼状靱帯のすべての線維方向を評価するため に,頭部を中間位・屈曲位・伸展位でそれぞれ両側性に行う。 動きが確認できなければ正常である。もし頭部を中間位・屈曲 位・伸展位すべての肢位で異常な終末感覚が認められれば,翼 状靱帯の伸張が示唆される。
5) Posterior stability test of the atlanto-occipital joint( 環 軸 関節の後方安定性テスト)
患者は背臥位。セラピストは患者の頭側に立ち,両手掌全体 で患者の後頭骨を把持し,左右の示・中指を患者の環椎と軸椎 の横突起から棘突起に置き,後頭骨に対して環・軸椎を同時に 腹側へ動かす(図 5a)。正常では,動きはほとんど認められない。 6) Anterior stability test of the atlanto-occipital joint(環軸関
節の前方安定性テスト) 患者は背臥位。セラピストは患者の頭側に立ち,左右の母指 を患者の環・軸椎の左右の横突起の前・側面に置き,両手掌全 体と残りの指で後頭骨を背側から固定する。そして両母指で同 時に環・軸椎を背側へ動かす(図 5b)。正常では,動きはほと んど認められない。 3.主として環椎横靱帯のためのテスト 環椎横靱帯のテストは,基本的に環軸関節に前後方向にスト レスをかけて行われる。翼状靱帯のテストと同じく,正常での
図 3 Rotation stress test
中間位・屈曲位・伸展位で行う.先行研究によると正 常可動域は,20 度から 35 度と分かれている.
図 4 Lateral translation stress test
後頭骨と環椎を固定し,軸椎を動かす.中間位・屈曲位・ 伸展位で行う.
図 5 Posterior or Anterior stability test of the atlanto-occipital joint
後頭骨に対して,環・軸椎を後方もしくは前方に動かす. a 環・軸椎を後方へ動かす b 環・軸椎を前方へ動かす
動きはほとんど認められないか,わずかである。 1)Sharp-Purser test(シャープ・パーサーテスト) 患者は座位。セラピストは一方の手掌を患者の額に置き,も う一方の手の母指を軸椎に置く。その状態で患者は頸部を軽度 屈曲しリラックスし,上位頸椎の不安定性の症状が出現した場 合,セラピストは額に置いた手掌で後頭骨と環椎を同時に後方 に押す(図 6a)。後頭骨を後方に押して症状が緩和もしくは消 失した場合が陽性である。 このテストは緩和テストであり,環─軸関節の前方不安定性 があるために,患者が頭部と頸部を屈曲して症状が出現し,頭 部を後方へ動かすことで緩和されるなら,陽性所見となる。 Sharp-Purser test には,様々な修正されたテスト方法があ る。よく使われる方法のひとつは,患者の頭部を手掌とセラピ ストの胸で保持し,軸椎の棘突起上に他方の手の親指と示指を 置く。その状態で患者はゆっくりと症状が出現するまで頭部を 屈曲し,そこでセラピストは軸椎棘突起を腹側に動かす(図 6b)。もし症状が改善されれば陽性。
2)Anterior shear test(前方剪断力テスト)
患者は背臥位。セラピストは患者の頭側に立ち,左右の母指 で患者の左右の軸椎横突起を前方から固定し,残りの左右の指 で後頭骨・環椎をひとつのユニットとして前方へ動かす(図 7)。このテストは,Sharp-Purser test と異なり誘発テストで あるため,慎重に実施する必要がある。正常では動きがみられ ないため,動きが認められるか,このテストによって上位頸椎 の不安定性の症状が出現した場合が陽性である。 変法として,患者を座位にして,背側から環椎の左右の横突 起を一方の手で把持し,腹側から軸椎の左右の横突起をもう一 方の手で把持し,環椎を腹側へ軸椎を背側へ同時に動かす方法 もある。
3)Cervical fl exion-extension test(頸椎屈曲・伸展テスト) 患者は座位か背臥位。患者は自分で頸椎の屈曲・伸展を繰り 返し行うテスト。テスト中に,軋轢音やスムーズでない動きが 認められれば陽性。
4) Posterior-anterior glide of the axis(軸椎の前・後滑り運動 テスト) 患者は背臥位。セラピストは患者の頭側に立ち,患者の上位 頸椎を症状が出現するまで屈曲し,一方の手掌を用いてその状 態を保持する。もう一方の手を軸椎の棘突起から椎弓を把持し 腹側に動かす。症状が改善した場合が陽性。 椎骨動脈のテスト1‒6)13) 椎骨動脈は左右の大動脈より分岐し,第 6 頸椎から各頸椎の 横突孔を通り,環椎で大きく蛇行し脳底で左右が吻合する。椎 骨動脈は頸椎横突起を通過するため,頸椎の動きや変性に大き く影響される。特に軸椎上での環椎の回旋により反対側の動脈 の蛇行が著しくなり,虚血性症状が生じることが考えられる。 つまり一側へ 30°∼ 45°頭部を回旋すると,環軸椎部で回旋と 反対側の椎骨動脈の血流が減るため,頸椎の位置変化を伴うこ との多い徒手療法を実施する場合,徒手療法を実施前に椎骨動 脈のテストを行うことは必須となる。 椎骨動脈不全の症状としては,めまい,複視,眼振,言語障 害,嚥下障害,意識障害,吐き気・むかつき,頭重感・頭痛, 蒼白・冷や汗などがみられる。セラピストは,テストの間は患 者に話しかけながら眼球の動きを注視し,椎骨動脈不全の症状 を確認する。もし,以下のテストを行い椎骨動脈不全症状がみ られた場合は,徒手療法は禁忌である。 1)Barre-Lieou Sign 患者は座位。左右に頭を回旋させる。一方向に 15 ∼ 30 秒保 持する。 2)Maigne’s Test 患者は座位。患者は頭頸部を伸展・回旋させ,その状態を
図 7 Anterior shear test
軸椎横突起を前方から固定し,後頭骨・環椎を前方へ 動かす.動きがみられない場合が正常.
図 6 Sharp-Purser test
15 ∼ 40 秒保持する(図 8a)。反対側でも繰り返して行う。 3)Dekleyn’s Test 患者はベッドの端から頭部をだした背臥位。患者は頭頸部を 伸展・回旋させ,その状態を 15 ∼ 40 秒保持する。反対側でも 繰り返して行う。 4)Hallpike’s Test 患者はベッドの端から頭部をだした背臥位。セラピストは患 者の頭部を保持しながら,頭頸部を伸展し,同方向への側屈と 回旋を加え,その状態を 15 ∼ 40 秒保持する(図 8b)。反対側 でも繰り返して行う。 下位頸椎の神経系のテスト1)2)4‒6)14‒16) 下位頸椎の神経学的テストについては,神経学的レベルに 沿った上肢の神経学的テストと,神経根症状のテストが行わ れる。 神経学的レベルに沿った上肢の神経学的テストとしては,頸 椎の病変で多くみられる腕神経叢からでた髄節ごとの筋力・反 射・知覚が有用である。 1.神経学的レベルによるテスト 上肢の神経学的な問題が,頸椎レベルの病変によるものかど うかを決定するために行われるテストであり,髄節ごとの筋 力・反射・知覚に分けて行われる(表 1)。 1)筋力テスト C5 レベルでは,三角筋,上腕二頭筋の筋力テスト。C6 レベ ルでは,手関節伸筋群(長・短橈側手根伸筋),上腕二頭筋の 筋力テスト。C7 レベルでは,上腕三頭筋,手関節屈筋群,手 指伸筋群。C8 レベルでは,骨間筋,手指屈筋群。T1 レベルで は,骨間筋を検査する。 2)反射テスト C5 レベルでは,上腕二頭筋反射。C6 レベルでは,腕橈骨筋 反射。C7 レベルでは,上腕三頭筋反射を検査する。C8 レベル では,なし。T1 レベルでは,なし 3)知覚テスト C5 レベルでは,上腕外側の皮膚知覚。C6 レベルでは,前腕 外側・母指・示指・中指の橈側の皮膚知覚。C7 レベルでは, 中指の皮膚知覚。C8 レベルでは,環指・小指・前腕内側の皮 膚知覚。T1 レベルでは,上腕内側の皮膚知覚を検査する。 2.神経伸張テスト 神経伸張テストとしては正中神経・橈骨神経・尺骨神経テス トが有用である。伸張肢位をとることで,しびれや疼痛が再 現・増悪すれば陽性である。 1)正中神経伸張テスト 患者は背臥位,セラピストは患者の検査側に立ち,肩甲帯を 下制・後退,肩関節を伸展・外転・外旋,肘関節を伸展,前腕 を回外,手関節を背屈,手指伸展し,頸椎を反対側へ側屈・回 旋させる(図 9a)。 2)橈骨神経伸張テスト 患者は背臥位。セラピストは患者の検査側に立ち,肩甲帯を 下制・後退,肩関節を伸展・外転・内旋,肘関節を伸展,前腕 を回内,手関節を掌屈,手指を屈曲し,頸椎を反対側へ側屈・ 回旋させる(図 9b)。 表 1 腕神経叢の神経根の検査 神経根 筋肉 反射 感覚 C5 三角筋 上腕二頭筋 上腕二頭筋 反射 上腕橈側 C6 上腕二頭筋 手関節伸展筋 腕橈骨筋 反射 前腕から小指橈側 C7 上腕三頭筋 手関節屈曲筋 上腕三頭筋 反射 第Ⅲ指を中心に腹・背側 C8 骨格筋 手指屈筋 なし 前腕から手指尺側 T1 骨格筋 なし 上腕から肘尺側 図 8 椎骨動脈のテスト a b
3)尺骨神経伸張テスト 患者は背臥位。セラピストは患者の検査側に立ち,肩甲帯を 下制・後退,肩関節を伸展・外旋,肘関節は屈曲,前腕を回外 (もしくは回内),手関節を背屈・橈屈,手指は伸展し,頸椎を 反対側へ側屈・回旋させる(図 9c)。 3.神経根症状テスト 各髄節の椎間孔の狭窄などによって出現した神経根症状を検 査するテスト。牽引テストは緩和テストであるため,症状が緩 和されれば陽生である。それ以外は誘発テストであるため,し びれや疼痛などの症状が再現・増悪すれば陽性である。 1)牽引テスト 患者は座位。セラピストは患者の背側に立ち,両手で患者の 頭部を把持し頭部の重さを取り除く程度の優しい力で頭部を牽 引する(図 10a)。 椎間孔による狭窄で神経根が圧迫されて疼痛などの症状が出 現していた場合は,牽引により椎間孔が広がるため症状が改善 する。疼痛などの症状が靱帯や筋のスパズムの場合は,症状は 増悪するかもしれない。 2)圧迫テスト 患者は座位。セラピストは患者の背側に立ち,両手を患者の 頭頂部に置き,優しい力で頭頸部に圧迫を加える(図 10b)。 椎間孔による狭窄で神経根が圧迫されて疼痛などの症状が出 現していた場合は,圧迫により椎間孔が狭まり疼痛などの症状 が再現する。疼痛などの症状が靱帯や筋のスパズムの場合は, 圧迫により症状が改善するかもしれない。 3)Spurling Test 下位頸椎の神経根を圧迫し,刺激症状を評価するテスト。 患者は腰かけ座位。セラピストは患者の背側に位置し,患者 の頸椎をやや伸展・斜め後方に側屈する。セラピストの両手を 頭頂部に置き,頸椎を下方に圧迫する(図 11a)。 陽性の場合は,頸椎側屈側の疼痛や上肢への放散痛やしびれ 感がみられる。 4)セグメント単位での Spurling test 患者は腰かけ座位。セラピストは患者の背側に位置し,患者 の頸椎をやや伸展・斜め後方に側屈する。片手を側屈と反対側 の頭頂部から側頭部に置き固定する。反対の手で,側屈側の頸 椎の椎弓をセグメント毎に腹内側に動かす(図 11b)。 図 12 ドアベルテスト 図 10 圧迫と牽引テスト a 牽引テスト b 圧迫テスト 図 11 Spurling Test a Spurling test b セグメント単位の Spurling test 図 9 神経伸張テスト
陽性の場合は,動かしたセグメント直上の神経根症状(疼痛 や上肢への放散痛やしびれ感)がみられる。 5)ドアベルテスト 患者は背臥位。セラピストは患者の頭側に立ち,頸椎横突起 の前結節と後結節の間からでてくる神経根に優しく圧迫を加え る(図 12)。 陽性の場合は,神経根を圧迫することで,疼痛や上肢への放 散痛やしびれ感などの神経症状が再現される。 治 療1)2)4)8‒10)15)16) 上位頸椎に不安定性が認められた場合は,基本的には徒手療 法は禁忌となる。ただ,頸椎の深部筋に対するスタビライゼー ションは,不安定性を保護するためにも必要である。また下位 頸椎の不安定性により椎間孔が狭窄し,神経根が圧迫されて疼 痛やしびれなどの症状が出現している場合は,頸椎の牽引や神 経のモビライゼーションを行う。 1.スタビライゼーション 上位頸椎周囲の深部筋を中心にしたスタビライゼーション は,眼球の動きと上位頸椎の動きが同調していることを利用し て行われる。以下に最初に指導する方法をいくつか記載する。 背側の筋のスタビライゼーションは,まずは眼球だけで上方 視を行ってもらう。頸椎は,動かさないように注意する。5 ∼ 7 秒間上方視し,休憩を 5 秒入れて 10 回繰り返す(図 13a)。 最初は,深部筋だけが収縮するように注意して行う。うまくで きるようになれば,真横や斜め上・下にも動かすとよい。次に 座位になり,眼球で上方視しながら頭部から体幹を真っ直ぐに したまま,股関節を屈曲しゆっくりともどす(図 13b)。1 回に つき 5 秒程度時間をかけて行うとよい。休憩を入れて,10 回 繰り返す。頸部の背側にベルトやタオルで抵抗をかけて,スタ ビライゼーションを行うこともできる。この場合も眼球で上方 視しながら,頸部の背側に回したベルトを両手で把持して抵抗 をかけて 5 ∼ 7 秒行う(図 13c)。休憩を入れて,10 回繰り返す。 腹側の筋のスタビライゼーションは,まずは眼球だけで下方 視を行ってもらう。頸椎は,動かさないように注意する。5 ∼ 7 秒間下方視し,休憩を 5 秒入れて 10 回繰り返す。最初は,深 部筋だけが収縮するように注意して行う(図 14a)。次に,患者 に 5 ∼ 7 秒間下方視しているときに,セラピストが一方の手で 患者の頭を背側から把持し,腹側から眉間に抵抗をかける。も しくは,5 ∼ 7 秒間下方視しながら自分の両母指で眉間に抵抗 をかける(図 14b)。どちらも休憩を 5 秒入れて 10 回繰り返す。 2.牽引 牽引治療には,頸椎全体の牽引治療とセグメント単位の牽引 治療がある。椎間孔の狭窄により症状が出現している場合,椎 間孔を開大させて症状の改善を図る目的で行う。 1)頸椎全体の牽引治療 患者は座位か背臥位。前術の牽引テストと同じ方法で(図 10a),セラピストは患者の背側に立ち,両手で患者の頭部を把 持し頭部の重さを取り除く程度の力で頭部を 30 秒以上牽引す る。症状の改善が認められるなら,1 分程度行う。疼痛などの 症状が強い場合は,もっとも症状が軽い肢位で行い,症状の改 善に合わせて中間位で行うようにする。 2)セグメント単位の牽引治療 患者は座位か背臥位。セラピストは一方の手で牽引を行うセ グメントの尾側の椎体を固定し,もう一方の手を頭側の椎体の 横突起から椎弓にあてがい,頭側にわずかな力で 30 秒以上牽 引する。症状の改善が認められるなら,1 分程度行う。 図 14 過可動性のある部位に対するスタビライゼーション(腹側) a 眼球を下方視 b 眉間に抵抗をかけた状態で, 下方視を行う 図 13 過可動性のある部位に対するスタビライゼーション(背側) a 眼球を上方視 b 眼球を上方視し ながら体幹を前 屈にしてもどす c 眼球を上方視しな がらベルトで抵抗 をかける
3.神経モビライゼーション 1)牽引を加えての神経モビライゼーション 患者は座位か背臥位。正中神経レベルのモビライゼーション を行う場合は,セラピストは患者の背側に立ち,両手で患者の 頭部を把持し牽引する。患者は,その状態で患側上肢の肩関節 を伸展・外転・外旋,肘関節を伸展,前腕を回外,手関節を背 屈,手指伸展する。次に,患側上肢の肘関節を屈曲する(図 15a)。そしてこの動きをゆっくりと繰り返す。 2)神経モビライゼーション 患者は座位か背臥位。正中神経レベルのモビライゼーション を行う場合は,患者は患側上肢の肩関節を伸展・外転・外旋, 肘関節を伸展,前腕を回外,手関節を背屈,手指伸展し,頸椎 を患側に側屈・(回旋)する。次に,患側上肢の肘関節を屈曲 すると同時に,頸椎を患側と反対に側屈・(回旋)させる(図 15b)。この動きを繰り返す。セラピストが動きを誘導する場合 は,一方の手で患者の患側手関節を把持し,もう一方の手で患 者の頭部を把持し動きをコントロールする。 おわりに むち打ち損傷などによって,上位頸椎の不安定性の症状を訴 える患者は少なくないと思われる。上位頸椎に重篤な問題があ る場合には,徒手療法は禁忌であるため,このような患者に対 しては,まずは問診や視診を行う。そして上位頸椎の不安定性 の症状を疑われた場合,必ず上位頸椎の安定性テストや椎骨動 脈テストを行い,安全性を確認した後で詳細な評価・治療を行 うべきである。ただ上位頸椎の安定性テストは,それぞれの靱 帯や椎骨動脈に応じたテストがあるものの,特異性や感受性に は差があるだけでなく,信頼性にも差があるように思われる。 したがって我々臨床家は,複数の上位頸椎の安定性テストや椎 骨動脈テストを行うことで,少しでも信頼性を向上させる必要 があると考える。 文 献
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