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妊婦の身体感覚と胎児への愛着の関連性

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日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 21, No. 1, 6-16, 2007

*1

大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻博士後期課程(Doctor s Course of Health Science, Osaka University Graduate School of Medicine) 川崎医療福祉大学保健看護学科(Department of Nursing, Kawasaki University of Medical Welfare)

*2

大阪大学大学院医学系研究科(Division of Health Sciences, Osaka University Graduate School of Medicine)

2006年3月10日受付 2007年1月11日採用

原  著

妊婦の身体感覚と胎児への愛着の関連性

Relationships between somatic sensations of pregnancy

and maternal-fetal attachment

鈴 井 江三子(Emiko SUZUI)

*1

大 橋 一 友(Kazutomo OHASHI)

*2 抄  録 目 的  本研究は,妊婦の身体感覚と胎児への愛着の関連性を明らかにすることを目的とした。 対象と方法  妊婦の身体感覚を客観的に評価するため,第1因子「全身的身体感覚」14項目,第2因子「局所的身体感覚」 8項目,第3因子「胎児位置身体感覚」4項目で構成された「妊婦身体感覚尺度」(Somatosensory Scale of

Pregnancy; SSOP)(26項目)を作成した。SSOPとMullerの「胎児愛着尺度」を併用して,妊婦健診内容

(超音波診断回数,妊婦診察・保健指導実施者と実施時間)の異なる3種類の出産施設において,初産婦 390人を対象に調査を実施した。毎回の妊婦健診時に超音波診断を提供する施設を「病院」「助産所あり」, 提供しない施設を「助産所なし」とした。 結 果  妊婦の胎児位置身体感覚得点は妊娠中期には「病院」に比して「助産所あり」が,妊娠末期には「助産 所あり」と「助産所なし」が有意に高い値を示した。胎児愛着得点は妊娠中期,妊娠末期共に病院に比し て「助産所なし」が有意に高く,「助産所なし」と「助産所あり」は有意差がなかった。全身的身体感覚得 点と局所的身体感覚得点は,妊娠中期,妊娠末期を通じて「病院」,「助産所あり」,「助産所なし」,の3 群間に有意差はなかった。また,胎児位置身体感覚得点と胎児愛着得点には有意な相関(p<0.000)が あり,相関係数は0.427(妊娠中期0.372,妊娠末期0.323)であった。 結 論  妊婦の身体感覚は全身的身体感覚と局所的身体感覚,及び胎児位置身体感覚の3因子があり,この中 で胎児位置身体感覚と胎児への愛着にはかなり関連性のあることが明らかになった。 キーワード:妊婦の身体感覚尺度,妊婦健診,胎児の愛着

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Abstract Objective

This study examines relationships between Somatic Sensations of Pregnancy and Fetal Attachment. Subjects and method

A Somatosensory Scale of Pregnancy (SSOP) was devised on the basis of a preliminary survey of 26 items, organized under Factor 1, “unlocalized somatic sensations” (14 items), Factor 2, “localized somatic sensations” (8 items), and Factor 3, “fetal-centered somatic sensations” (4 items). SSOP was used together with the Muller Maternal-Fetal Attachment Scale in a survey of 390 primiparas in three classes of maternity facilities that differed in numbers of ultrasound examinations performed and numbers of hours spent on antenatal examinations or health care counseling. The two types of facilities that conducted ultrasound scans at every examination were classified as a “hospital” or “maternity home conducting frequent scans,” while the third class of facility was treated as “maternity home conducting infrequent scans.”

Results

Subjects in the middle stage of pregnancy who received examinations at maternity homes conducting frequent scans showed significantly higher fetal-centered somatic sensation scores than those examined in hospitals; simi-larly, a significantly higher level of fetal-centered somatic sensation was shown by late-term subjects examined at both classes of maternity home, as compared to subjects examined in hospitals. Subjects in both the middle and late stages of pregnancy examined in maternity homes conducting ultrasound infrequently showed significantly higher degrees of fetal attachment, but there was no significant difference on this measure between subjects examined by either of the two classes of maternity homes. No significant differences were shown in unlocalized or localized somatic sensation scores of subjects in middle or later pregnancy subjects, regardless of the type of facility where their antenatal examinations were held. Fetal-centered somatic sensation scores and fetal attachment scores were shown to be significantly correlated (p<0.000), with a correlation coefficient of 0.427 (0.372 for midterm and 0.323 for later term pregnancy).

Conclusions

The somatic sensations of women during pregnancy may be classified as unlocalized, localized and fetal-centered. Of these three factors, it was found that fetal-centered somatic sensations are associated with fetal attach-ment.

Keywords: somatosensory scale of pregnancy, antenatal examination, fetal attachment

Ⅰ.緒   言

 妊娠期は女性が出産に向かう準備をする期間であり, 親になる意識を高める時期でもある。この間に提供さ れる妊婦への健康診査(妊婦健診)は重要であり,心 身ともに変化する女性への充分な対応が必要とされ る。この妊婦健診は,正常な妊娠,出産を図るために 妊婦の心身の経過を把握することを目的として行なわ れ,昭和17年公布の妊産婦手帳規定により確立された。 その後,母子保健法の制定により,さらなる健康の保 持増進に努力するという理念が明示され,妊婦の保健 指導の充実が教示された。この実施者は医師または助 産師となっている。つまり妊婦健診では,医師または 助産師が妊娠に伴う妊婦の心身の変化を診察し,正常 な出産を図るために必要な保健指導を行なうものであ る。  日本での妊婦健診を提供する出産施設は病院,診 療所および助産所である。さらに1970(昭和45)年頃 から超音波診断を含む妊婦健診が急速に普及し,1981 (昭和56)年には一般化したと考えられる(鈴井, 2004)。 その結果,2005年現在,超音波診断は妊婦健診に必要 不可欠な存在になっているといっても過言ではない (鈴井, 2005a)。  一方,1980年代に入り,社会学や女性学の領域にお いて医学の普及と妊婦の身体に対する関心が高まっ た(Oakley, 1984)。出産の医学的管理による過度な医 療テクノロジーの介入が,妊婦の身体感覚を衰退させ たというのである(O’Neil, 1985/1993)。中でもDuden (1991/1993)は超音波診断の導入と妊婦の身体感覚に 注目し,超音波検査を用いた胎児画像の視覚化が妊婦 の身体感覚を鈍化させたと指摘した。つまり画像上に 写しだされた胎児画像は現実のものとして価値を持ち, 見えない妊婦の身体感覚に対する信頼性を低下させた と警告した。  しかしながら,超音波診断の導入により妊婦の身体 感覚が鈍化したというこれらの指摘は主に歴史的資料

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分析に基づいており,妊婦の身体感覚の客観的な評価 を用いて明確に証明したものではない。著者のこれま での参与観察による研究結果(鈴井, 2005b)では,妊 婦の身体感覚を具体的に説明する時間が削減され,そ のことが妊婦の身体感覚の低下に影響を与えていたと の示唆を得た。しかし,この研究結果も妊婦からの聞 き取り調査を基に考察したものであり,客観性には問 題があると考える。  妊婦の身体感覚を評価する場合,日本に限らず,欧 米諸国においても妊婦の身体感覚に関する質問票 を用いた研究報告は見当たらない。日本において唯 一報告されている身体感覚尺度は,中尾ら(2001) が心身症患者を対象に開発した身体感覚増幅尺度 (Somatosensory Amplification Scale: 以 下SSAS と 示 す)である。しかし,SSASは心身症患者を対象にし たものであり,測定項目は本研究目的である妊婦の身 体感覚を測定するためには不適切である。  Caplan(1981)は妊娠期を将来母親になるための準 備として非常に大切な心理的段階であると指摘してい る。また松本(1996)は,妊婦は胎動を自覚すること で胎児への愛着を実感するものであると述べている。 Rubin(1975)も同様に,親役割の受容過程を示す指標 のひとつとして胎児に対する認識の仕方,特に妊婦の 身体感覚である胎動を挙げている。つまり,妊婦にとっ て,妊婦の身体感覚は重要な意味を持つと指摘してい るのである。しかし,超音波検査による胎児の視覚化 が妊婦の身体感覚を鈍化させたのであれば,胎児への 愛着を促す大切な要因が阻害されることとなり,産後 の育児に向けた親役割の準備が順調に行えない可能性 が考えられる。  そこで本研究では,妊婦の身体感覚と胎児への愛着 の関連性を明らかにすることを目的とした。まず,妊 婦の身体感覚を評価するために妊婦の身体感覚尺度 (Somatosensory Scale of Pregnancy:以下SSOP と称 す)を作成した。次に,妊婦健診を受診している妊婦 を対象に,妊婦の身体感覚と胎児への愛着の関連性を 検討した。

Ⅱ.言葉の定義

 身体感覚とは心理学や精神科学領域の分野では一般 的に使用されている用語であり,視覚や聴覚を除く皮 膚や筋肉などからの感覚を狭義に指す。しかし,本研 究では妊婦の身体感覚を妊娠前との比較において,妊 娠後に出現する身体的変化や,具体的で実感を伴う徴 候(胎動や腹部の増大等)と定義した。

Ⅲ.研 究 方 法

1.調査対象施設の選定  2005年現在の日本における妊婦健診の一般的な診 察内容を把握するために,全国1,500の出産施設(病院, 診療所,助産所を各500施設)を対象に郵送法による 全国縦断調査を実施した。有効回答率は37.9%であり 569施設(病院164施設,診療所300施設,助産所105 施設)から回答を得た。その結果,妊婦健診の形態は 出産施設の種類によって相違があり,主に「妊婦健診 毎の超音波診断の有無」,「妊婦健診の実施者」,「妊婦 健診の実施時間」,の3つの特徴があった。その特徴 は出産施設によって大別でき,病院と助産所に分ける ことができた。また助産所は,「妊婦健診毎の超音波 診断の有無」によって,2種類の形態に分けることがで きた(鈴井, 2005a)。  次に,上記の全国調査に用いた施設より病院6施設 と助産所11施設を対象に,妊婦健診場面を参与観察し, 妊婦診察の方法と説明内容,および保健指導の方法と 説明内容を調査した。その結果,病院と助産所におけ る妊婦診察と保健指導の実施方法,及び説明内容に相 違のあることが分かった。  前述した妊婦健診の特徴をふまえて,3種類の出産 施設を調査対象施設として選定した。依頼した調査対 象施設は全国調査を実施した母集団から抽出し,依頼 地区を県別に散在させて地域性偏在の解消に努めた。 依頼する際は,調査対象施設長の了解を得て妊婦健診 場面を参与観察し,3種類の出産施設として分類でき る内容であることを確認し,最終的な調査対象施設と して決定した。また,妊婦の希望により妊婦健診場面 の参与観察が困難な助産所1施設に関しては,調査対 象施設に電話をかけて妊婦健診の方法や内容について 確認した。  依頼した調査対象施設は15施設であり,同意が得 られたのは11施設であった。同意が得られなかった4 施設は全て「助産所なし」であり,初産婦の妊婦健診 数が極端に少ないためであった。  今回,最終的に調査対象施設として決定した出産施 設の特徴と規模については表1に示す。第1群は,妊 婦健診毎に超音波診断があり,医師による妊婦診察と 助産師による保健指導が提供され,1名30分以内の妊

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婦健診が実施されている病院(以下「病院」と示す)で ある。第2群は,妊婦健診毎に超音波診断があり,同 一の助産師により妊婦診察と保健指導が提供され,1 名1時間の妊婦健診が実施されている助産所(以下「助 産所あり」と示す)である。第3群は,妊婦健診毎の超 音波診断はなく,同一の助産師により妊婦診察と保健 指導が提供され,1名1時間の妊婦健診が実施されてい る助産所(以下「助産所なし」と示す),の3群である。 第1群は「病院」(2施設),第2群は「助産所あり」(3施 設),第3群は「助産所なし」(6施設)の合計11施設と した。選定地区は関東・東海地域,近畿地域,中国・ 四国地域,九州地域の4つの地区であった。  なお,2005年に実施した全国調査の結果から2割の 病院で助産師外来が実施されていた。しかし,助産師 外来での業務内容は主に保健指導と乳房ケアという回 答が多かったために,今回の調査対象施設からは除外 した。 2.調査対象者  調査対象者は妊婦健診を受けている初産婦で,研究 協力者が質問紙の配布段階で妊娠経過に異常所見を認 めないと判断した妊婦とした。調査時期は妊婦の身体 感覚の中でも,最も重要とされている胎動の初覚がみ られる妊娠中期(妊娠19週から妊娠25週まで)と,胎 動がより顕著になる妊娠末期(妊娠32週から妊娠36週 まで)とした。  なお,前回の妊娠経験や妊婦健診内容が,今回の妊 娠の身体感覚や胎児への愛着に影響を与えることが考 えられる経産婦は調査対象者から除外した。 3.調査の依頼方法  調査は,大阪大学医学部倫理委員会(審査番号517) の承認を得て開始した。 1 )調査対象施設への依頼方法  研究者から各施設の管理者に対して本研究の趣旨説 明を口頭と文書により説明し,同意が得られた施設の みを調査対象施設として調査を依頼した。本研究協力 への同意は同意書の署名をもって確認した。 2 )妊婦への説明と倫理的配慮  各施設の研究協力者(助産師)から妊婦に対して口 頭にて調査概要を説明し,本研究への協力意思を確認 した。承諾が得られた妊婦に対しては調査の詳細と目 表1 調査対象施設の特徴 出産施設別 内 容 別 1群:「病院」(超音波診断あり)(2施設) 2群:「助産所あり」(超音波診断あり)(3施設) 3群:「助産所なし」(超音波診断なし)(6施設) 1 妊婦健診毎の超音波診断の 有無     経膣超音波 診断    ○(妊娠初期から) 経腹超音波 診断    ○(妊娠中期から) ○(妊娠初期から) 2 妊婦診察の 実施者 医  師 ○(10分以内) 助 産 師 ○(30分以上) ○(30分以上) 妊婦診察の 実施者が行う 主な説明内容 妊婦に関する 内容     ・ 異 常 妊 娠 の 可 能 性(切 迫 流 産・早産),医療行為(検査結果, 検査の説明,投薬の説明・処方) ・日常生活についての保健指導 (つわり,体重増加,母子手帳等) ……主には妊婦診察後に助産師 が担当する。 ・妊婦の身体的変化;つわり・食欲, 腹部の増大,子宮底の高さ,帯下の状 態,下肢浮腫,外陰部痛,下腹部痛, 腹部緊満感,胃部圧迫感等 ・保健指導;食事指導,日常生活動作, 出産の準備,胎児の位置による出産予 定日の予測,胎動による胎児の位置の 説明,乳房の手当て,腹帯の着用等 ・妊婦の身体的変化;つわり・食欲, 腹部の増大,子宮底の高さ,帯下の状 態,下肢浮腫,外陰部痛,下腹部痛, 腹部緊満感,胃部圧迫感等 ・保健指導;食事指導,日常生活動作, 出産の準備,胎児の位置による出産予 定日の予測,胎動による胎児の位置の 説明,乳房の手当て,腹帯の着用等 胎児に関する 内容     胎児の形態,胎児の動作,付属 物の部位,計測値,画像に対す る評価,性別 胎児の形態,胎児の動作,画像に対す る評価 胎児の位置,大きさ,胎動の動き方,動く範囲,胎児心音 3 保健指導の実施者と実施 時間 医  師 助 産 師 ○(10分∼30分以内) ○(30分以上) ○(30分以上) 保健指導の 実施方法  病棟の助産師が当番制で担当し, 保健指導を提供する際,レオポ ルド触診法は殆ど実施しない。 ほぼ毎日同一の助産師が担当し,毎回 の妊婦診察時にレオポルド触診法の第 1段法∼第4段法までを実施。その間に 胎動や胎児の発育に関する保健指導を 行う。 ほぼ毎日同一の助産師が担当し,毎回 の妊婦診察時にレオポルド触診法の第 1段法∼第4段法までを実施。その間に 胎動や胎児の発育に関する保健指導を 行う。 施 設 の 規 模 年間分娩数 400件∼500件 70件∼110件 50件∼110件 1日の妊婦健診数 15人∼20人 6人∼10人 5人∼10人 勤務助産師数 10人∼13人 3人∼5人 3人∼5人

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的を口頭と文書で説明し,同意を得た。説明内容は以 下のとおりである。①調査に協力しなくても診療に不 利益はないこと,②調査内容は意見の良し悪しを判断 するものではないこと,③調査記録は厳重に保管し個 人名が特定される形で公表しないこと,④調査終了後 はデータを速やかに破棄すること,⑤いつでも調査協 力の中止が出来ること。  調査は無記名で行い匿名性を保持した。妊婦は妊婦 健診時に調査票に記入し,妊婦自身が回収箱に調査票 を返却することとした。この際,調査参加への自由意 志が阻害されないように配慮するため,調査票の回収 箱は外来待合室とし診察室の外に設置した。回収した 調査票には調査票番号を記入の上,主任研究者が保管 と管理の責任を負い,コード化されたデータは主任研 究者ならびに分担研究者のみが解析を行った。 4.調査時期  平成17年4月から同年12月まで 5.調査方法 1 )SSOPの作成手順 (1)項目試案の作成と測定概念の明確化  SSOP予備尺度の原案は,次の過程を経て作成した。  まず,2003年に実施した妊婦25事例への聞き取り 調査(病院と助産所で妊婦健診を受けている妊婦を対 象に,妊娠初期,妊娠中期,妊娠末期の3回に分けて, 妊婦の身体感覚に関する聞き取り調査を実施)の結果 (鈴井, 2003)から,妊娠後に出現した身体的変化に関 して出現頻度の高い言葉を抽出し,妊婦の身体感覚 に関する24の質問項目を作成した。また,妊婦の身 体感覚として重要な位置づけにあると考えられる胎動 に関しては,妊婦全員から共通に出現してきた胎動に 関する言葉と超音波診断を用いない妊婦健診を受けた 妊婦からの胎動に関する言葉を6項目追加し,最終的 に質問項目数を30項目とした。この際,質問項目の 構成概念は松本(1996)が報告している妊娠による全 身的変化(呼吸器系,循環器系,消化器系,泌尿器系, 皮膚)と局所的変化(子宮,腟,乳房),及び胎動に関 する内容と対応させた。  次いで,質問項目の内容や表現方法について臨床, 教育,研究共に経験豊富な助産師3名と産婦人科医で ある研究指導者1名と共に検討し,項目表現の修正を 行った(表2)。 (2)SSOP予備尺度の作成  ①選択肢の形式  SSOP 予備尺度の選択肢の形式として,回答には Linear Analogue Scale (LAS)を用い,両端のカテゴリー のみを「常にある」と「全くない」の2項目とし,その 間についてはスケールのみを設定した。得点化は,「常 にある」を9点,「全くない」を1点とした。  ②プレテスト  表2に示す質問項目を用いてSSOP予備尺度を作成 し,妊婦健診に来院した妊婦10名にプレテストを実 施した。その結果,10分以内で回答が可能であり,質 問項目の表現方法等に回答のしにくさが認められな かったため,最終的にこれをSSOP予備尺度として決 定し,以下の予備調査を行った。 (3)予備調査  調査対象者は,3群の調査対象施設において妊娠中 期60名,妊娠末期60名の妊婦120名を対象に行った。 表2 母体の変化に伴う身体感覚の質問内容  妊娠前と比べた現在のあなたの状態に当てはまる回答を、 回答例に従ってお書き下さい。 全 身 的 な 変 化 1 胸が圧迫される感じがする 2 息苦しい感じがする 3 動機(どうき)がうつ 4 めまいや立ちくらみがする 5 手足がむくむ 6 おしっこの回数がふえた気がする 7 おしっこが近い気がする 8 吐き気がある 9 実際に吐くことが多い 10 口の中が乾いた感じがする 11 口の中につばがたまりやすい 12 においが気になる 13 胸やけがする 14 頭が重かったり痛んだりする 15 体が疲れてだるい感じがある 16 足が引きつりやすい 17 腰や背中が痛い 18 肌が乾燥している気がする 19 下着にかぶれやすくなった気がする 変局 化所  的  な 20 帯下(おりもの)が多くなった 21 乳輪の色が濃くなった気がする 22 乳房が大きくなった気がする 23 お腹が大きくなった気がする 24 お腹が前に突き出してきた気がする 胎 動 の 変 化 25 胎動を感じる 26 胎児の頭の位置がわかる 27 胎児の背中の位置がわかる 28 胎児の手足の位置がわかる 29 胎児の発育、成長がわかる 30 胎児の動く範囲がわかる

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調査票は3群の施設に均等に配布されるように工夫し, 「病院」40名,「助産所あり」40名,「助産所なし」40名 とした。  調査方法は,各施設の研究協力者より妊婦への説明 を行い,同意を得てから実施した。調査当日に回収す る質問票として①「SSOP予備尺度」,②「妊娠経過に ついての質問票」を配布し,記入後,データの回収は 外来室に設置した回収箱にて行った。また,再現性を みるため1週間の期間をおいて再調査を実施した。期 間を1週間としたのは,妊娠末期の妊婦も対象にして いるため,次回の妊婦健診までに再調査の質問表を返 却してもらうためであった。  再調査の質問票(①と②)と返信用の封筒は調査当 日に手渡し,1週間後に郵送法にて回収を行った。調 査当日に配布する質問票と再調査の質問票は同一の番 号を付記した。  なお,「妊娠経過についての質問票」の項目内容は年 齢,妊娠週数,出産予定日,施設名,妊婦健診回数, 超音波診断の回数,妊娠中の異常症状の有無であり, 調査対象者の選定基準を再確認した。 (4)予備調査の結果  予備調査の回収率は62.5%(75名/120名中;「病院」 42.7%,「助産所あり」34.7%,「助産所なし」22.6%)で, このうち完全回答の有効回答率は93.3%(70名/75名 中;妊娠各期共に35名)であった。平均年齢29.3 5.5 歳,妊娠週数は29.7 6.4週,妊婦健診回数は8.5 3.1 回であり,3群共に有意差はなかった。超音波診断回 数の平均値 SDは「助産所なし」6.3 3.3に比して,「病 院」8.5 3.1と「助産所あり」8.7 3.0が有意に高い値(p <0.05)を示した。  再調査の回収率は51.7%(62名/120名中)で,回答 日間隔は7.5 2.7日であり有効回答率は82.3%(51名 /62名中)であった。各項目間の相関係数は27項目が 0.602∼0.921(p<0.000)であり高い相関を示したが, 10「口の中が乾いた感じがする」はr=0.465,12「臭い が気になる」はr=0.470,28「胎児の手足の位置が分か る」はr=0.484と,他の27項目に比してやや低い相関 係数であった。  因子分析では主因子法による因子抽出とバリマッ クス回転を行い,因子負荷量0.35以上の項目を選択し た。7「おしっこが近い気がする」と17「腰や背中が痛 い」は,2つの因子で0.35以上を示したが,因子負荷量 に大きな差があり,また重要な項目と判断したために 選択することとした。一方,20「帯下(おりもの)が多 くなった」と30「胎動の動く範囲が分かる」は,2つの 因子負荷の値が近似しており安定性に問題があるため 削除した。その結果,3因子26項目が抽出され,第1 因子14項目は「全身的身体感覚」,第2因子8項目は「局 所的身体感覚」,第3因子4項目は「胎児位置身体感覚」 と命名した。クロンバックのα係数は第1因子0.881, 第2因子0.869,第3因子0.836であり,累積寄与率は 45.2%であった。  SSOPの各因子の総和得点は,妊娠中期の平均値 SDは第1因子53.5 19.3,第2因子55.3 9.8,第3因子 15.1 7.4であり,妊娠末期の平均値 SD は第1因子 55.8 16.0,第2因子59.0 7.3,第3因子22.9 6.7であっ た。SSOPの特徴は,妊娠中期に比して妊娠末期の方 が第2因子(p<0.005)と第3因子(p<0.000)共に有意 に高い値を示す。また,SSOPは各因子の得点を総和 し,得点が高いほど妊婦の身体感覚が高いことを示す。  以上のことから,表3に示す26項目をSSOPの最終 的な質問項目とし,これを用いて本調査を行った。 2 )本調査 (1)調査対象者  調査対象者は,予備調査を実施した3群の調査対象 施設(「病院」2施設,「助産所なし」3施設,「助産所あり」 6施設)を受診した妊娠中期,妊娠末期の初産婦390名 であった。調査票は3群の施設に均等に配布されるよ うに工夫した。 (2)調査内容  調査に用いた質問票は①「SSOP」,②「妊娠経過に ついての質問票」,③「胎児愛着尺度」であった。  胎児愛着尺度は,妊婦の身体感覚と胎児への愛着と の関連を検討するために,Muller(1993)の開発した Prenatal Attachment Inventory(以下「胎児愛着尺度」 と示す)を,その開発者ならびに日本語版翻訳者(大 村, 2001)の許可を得て使用した。この尺度は21項目, 4段階のLikart Scoreであり,21項目の総和得点が高い ほど胎児への愛着が高いことを示す。 (3)調査方法  予備調査と同様に,各施設の研究協力者より妊婦へ の説明を行い,同意を得た妊婦を対象に調査を実施し た。 3 )データ解析方法  対象者の背景,SSOP得点,胎児愛着尺度得点は施 設別に一元配置分散分析を行い,各施設間の比較には

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Tukeyの多重比較を用いた。SSOP得点と胎児愛着尺 度得点の相関にはピアソンの相関係数を用いた。統計 学的有意水準を0.05とした。データ解析には統計ソフ トSPSS13.0Jを用いた。

Ⅳ.結   果

 質問票を285名より回収した(回収率73.0%)。質問 票に回答不備があった69名を除外し,有効回答216名 を検討対象とした(有効回答率75.9%)。有効回答数の 施設別の内訳は「病院」105名,「助産所あり」65名,「助 産所なし」46名であった。妊娠中期の妊婦の回答数は 97名であり,「病院」42名,「助産所あり」34名,「助産 所なし」21名であった。また,妊娠末期の妊婦の回答 数は119名であり,「病院」63名,「助産所あり」31名,「助 産所なし」25名であった。SSOP得点の平均値 SDは 「病院」127.9 29.9,「助産所あり」131.5 28.1,「助産所 なし」127.2 26.4であり,胎児愛着得点の平均値 SD は「病院」60.4 9.1,「助産所あり」63.7 8.6,「助産所 なし」66.3 0.9であった。  216名の回答結果を用いて,再度,SSOPの因子分 析を行い,構成概念妥当性の検証を行った。因子分 析は予備調査と同様に主因子法による因子抽出とバ リマックス回転を行った。その結果,予備調査でみ られた2重負荷項目(7, 17)はみられなかった。クロン バックのα係数は第1因子14項目の「全身的身体感覚」 は0.834,第2因子8項目の「局所的身体感覚」は0.823, 第3因子4項目の「胎児位置身体感覚」は0.899であり, 表3 妊婦身体感覚(30項目)の因子分析の結果 因子名 項目番号 項      目 (主因子法,バリマックス回転)因子分析 共通性 平均値±SD 第1因子 第2因子 第3因子 全 身 的 身 体 感 覚 α=0.881 15 体が疲れてだるい感じがある 0.794 0.079 ­0.016 0.75 5.5 2.3 8 吐き気がある 0.744 0.118 0.061 0.85 4.2 2.3 13 胸やけがする 0.719 ­0.135 0.071 0.85 4.6 2.5 12 においが気になる 0.681 0.153 0.008 0.83 4.3 2.5 14 頭が重かったり痛んだりする 0.651 0.098 ­0.165 0.68 3.6 2.4 9 実際に吐くことが多い 0.602 0.051 0.233 0.71 3.1 2.0 10 口の中が乾いた感じがする 0.596 ­0.019 0.164 0.58 4.1 2.1 11 口の中につばがたまりやすい 0.569 0.134 0.175 0.61 3.0 2.2 17 腰や背中が痛い 0.564 0.371 ­0.069 0.66 5.5 2.5 3 動悸(どうき)がうつ 0.549 0.088 0.065 0.65 3.5 1.9 4 めまいや立ちくらみがする 0.464 0.176 0.023 0.66 3.3 2.2 2 息苦しい感じがする 0.411 0.176 ­0.005 0.75 4.0 1.9 19 下着にかぶれやすくなった気がする 0.381 0.201 ­0.093 0.61 3.9 2.5 1 胸が圧迫される感じがする 0.371 0.029 0.044 0.61 4.0 2.0 局 所 的 身 体 感 覚 α=0.869 7 おっしこが近い気がする ­0.047 0.795 0.351 0.94 6.7 2.5 23 お腹が大きくなった気がする ­0.047 0.761 ­0.014 0.74 7.4 1.9 24 お腹が前に突き出してきた気がする 0.105 0.749 0.003 0.69 6.8 2.2 6 おしっこの回数がふえた気がする 0.002 0.739 0.345 0.93 6.8 2.2 21 乳輪の色が濃くなった気がする ­0.113 0.697 0.224 0.72 6.3 2.4 22 乳房が大きくなった気がする 0.107 0.655 0.081 0.71 6.3 2.4 25 胎動を感じる 0.215 0.548 ­0.016 0.59 7.7 1.9 18 肌が乾燥している気がする ­0.142 0.456 0.211 0.56 6.0 2.3 胎身 児体 位感 置覚 α=0.836 28 胎児の手足の位置が分かる ­0.023 0.122 0.766 0.78 4.3 2.6 26 胎児の頭の位置が分かる 0.095 ­0.061 0.759 0.73 4.1 2.7 27 胎児の背中の位置が分かる ­0.011 ­0.203 0.751 0.78 3.5 2.5 29 胎児の発育,成長が分かる 0.141 ­0.087 0.636 0.67 4.8 2.3 削除 5 手足がむくむ 0.201 0.087 0.201 0.34 3.6 2.7 16 足が引きつりやすい(こむら返りを起こす) 0.129 0.109 0.232 0.52 4.2 2.7 20 帯下(おりもの)が多くなった ­0.157 0.371 0.361 0.59 5.1 2.3 30 胎児の動く範囲が分かる 0.055 0.401 0.587 0.74 5.5 2.2 固   有   値 7.321 3.651 3.142 寄   与   率 19.336 15.939 9.893 累 積 寄 与 率 19.336 35.275 45.168

(8)

累積寄与率は44.8%であった。 1.妊娠各期における妊婦の身体感覚と胎児の愛着 1 )妊娠中期の施設別妊婦の身体感覚と胎児の愛着 (1)対象者の背景(表4)  妊娠中期の妊婦の年齢,妊娠週数,妊婦健診回数に は施設間で差を認めなかった。超音波診断回数の平均 値 SDは「病院」6.0 2.3回,「助産所あり」5.5 1.6回, 「助産所なし」3.4 1.6回であり,「助産所なし」で提供 される超音波診断の回数は,「病院」(p<0.01)と「助 産所あり」(p<0.05)と比較して有意に少なかった。 (2)施設別SSOP得点と胎児愛着尺度得点(表5)  施設別のSSOP得点を比較検討した。全身的身体感 覚得点の平均値 SDは,「病院」58.7 17.0,「助産所あ り」51.9 19.8,「助産所なし」51.1 19.2であり,「病院」 が最も高い値を示したが,3群間の有意差は無かった。 局所的身体感覚得点の平均値 SDは,「病院」56.7 7.4, 「助産所あり」52.6 11.1,「助産所なし」56.6 6.4であ り,「助産所あり」が最も低い値であり,「病院」と「助 産所なし」はほぼ同様の値であったが,3群間の有意差 は無かった。胎児位置身体感覚得点の平均値 SDは, 「病院」13.4 5.5,「助産所あり」17.7 8.7,「助産所なし」 15.0 8.0であり,「助産所あり」の値が最も高く,「病院」 に比して有意に高い値(p<0.05)を示した。  次いで,胎児愛着尺度得点の平均値 SDをみた場 合,「病院」58.8 8.9,「助産所あり」61.3 8.4,「助産所 なし」64.3 8.4であり,「助産所なし」が「病院」に比し て有意に高い値(p<0.05)を示した。 2 )妊娠末期の施設別妊婦の身体感覚と胎児の愛着 (1)対象者の背景(表6)  妊娠末期の妊婦の年齢,妊娠週数,妊婦健診回数は 施設間で差を認めなかった。超音波診断回数の平均値 SDは「病院」9.8 3.5回,「助産所あり」8.9 2.5回,「助 産所なし」5.9 2.2回であり,「病院」(p<0.01)と「助 産所あり」(p<0.05)で提供される超音波診断の回数 表4 対象者の背景(妊娠中期) 施 設 別 平均値±標準偏差 F p 年齢 病院 助産所あり 助産所なし (n=42) (n=33) (n=20) 27.7 5.3 29.0 4.3 30.6 2.8 2.332 0.072 妊娠週数 病院 助産所あり 助産所なし (n=41) (n=33) (n=21) 23.9 2.5 24.2 3.4 25.4 1.8 2.347 0.107 妊婦健診回数 病院 助産所あり 助産所なし (n=40) (n=33) (n=20) 6.0 2.0 5.7 1.7 5.5 1.9 0.390 0.572 超音波診断回数 病院 助産所あり 助産所なし (n=38) (n=31) (n=19) 6.0 2.3 5.5 1.6 3.4 1.6 8.164 0.000 **p<0.01,*p<0.05 ** * 表5 施設別のSSOP得点と胎児愛着尺度得点(妊娠中期) 妊婦の身体感覚得点 施 設 別 平均値±標準偏差 F p 全身的 病院 助産所あり 助産所なし (n=42) (n=34) (n=21) 58.7 17.0 51.9 19.8 51.1 19.2 1.892 0.260 局所的 病院 助産所あり 助産所なし (n=42) (n=34) (n=21) 56.7 7.4 52.6 11.1 56.6 6.4 2.646 0.076 胎児位置 病院 助産所あり 助産所なし (n=42) (n=34) (n=21) 13.4 5.5 17.7 8.7 15.0 8.0 3.486 0.034 胎児愛着尺度得点 病院 助産所あり 助産所なし (n=42) (n=34) (n=21) 58.8 8.9 61.3 8.4 64.3 8.4 4.043 0.049 *p<0.05 * *

(9)

は,「助産所なし」に比して有意に高い値を示した。 (2)施設別SSOP得点と胎児愛着尺度得点(表7)  全身的身体感覚得点の平均値 SDは,「病院」58.2 16.6,「助産所あり」55.1 16.7,「助産所なし」55.4 14.6であり,「病院」が最も高い値を示したが,3群間 に有意差は無かった。局所的身体感覚得点の平均値 SDは,「病院」58.6 6.4,「助産所あり」59.6 7.7,「助 産所なし」58.8 4.3であり,3群ともほぼ同様の値であ り,有意差は無かった。胎児位置身体感覚得点の平均 値 SDは,「病院」20.7 5.7,「助産所あり」25.2 7.2,「助 産所なし」24.6 6.4であり,「助産所あり」の値が最も 高く,「病院」に比して有意に高い値(p<0.05)を示し た。また,「助産所なし」も「病院」に比して有意に高 い値(p<0.05)を示した。  次いで,胎児愛着尺度得点の平均値 SDをみた場 合,「病院」62.5 9.1,「助産所あり」63.5 9.5,「助産所 なし」69.4 9.9であり,「助産所なし」が「病院」に比し て有意に高い値(p<0.05)を示した。  全身的身体感覚得点と局所的身体感覚得点は,妊娠 中期,妊娠末期を通じて3群間に有意差はなかった。 2.妊婦の身体感覚と胎児への愛着との関連(表8)  胎児位置身体感覚得点と胎児愛着尺度得点との相関 を検討した。妊娠中期はr=0.372(p<0.00),妊娠末期 はr=0.323(p<0.01),全体ではr=0.427(p<0.00)であ り,胎児位置身体感覚得点と胎児愛着尺度得点との間 表6 対象者の背景(妊娠末期) 施 設 別 平均値±標準偏差 F p 年齢 病院 助産所あり 助産所なし (n=63) (n=29) (n=23) 30.4 4.3 29.3 3.9 31.6 4.8 4.454 0.145 妊娠週数 病院 助産所あり 助産所なし (n=62) (n=31) (n=25) 34.5 2.0 34.1 2.9 34.0 1.9 1.097 0.484 妊婦健診回数 病院 助産所あり 助産所なし (n=54) (n=29) (n=25) 10.3 2.5 8.9 2.7 9.7 2.7 3.055 0.069 超音波診断回数 病院 助産所あり 助産所なし (n=52) (n=29) (n=23) 9.8 3.5 8.9 2.5 5.9 2.2 11.893 0.000 **p<0.01,*p<0.05 ** * 表7 施設別のSSOP得点と胎児愛着尺度得点(妊娠末期) 妊婦の身体感覚得点 施 設 別 平均値±標準偏差 F p 全身的 病院 助産所あり 助産所なし (n=63) (n=31) (n=25) 58.2 16.6 55.1 16.7 55.4 14.6 0.308 0.613 局所的 病院 助産所あり 助産所なし (n=63) (n=31) (n=25) 58.6 6.4 59.6 7.7 58.8 4.3 0.261 0.771 胎児位置 病院 助産所あり 助産所なし (n=63) (n=31) (n=25) 20.7 5.7 25.2 7.2 24.6 6.4 6.319 0.003 胎児愛着尺度得点 病院 助産所あり 助産所なし (n=63) (n=31) (n=25) 62.5 9.1 63.5 9.5 69.4 9.9 3.501 0.007 *p<0.05 * * * 表8 妊娠各期にみられるSSOP得点と胎児愛着得点との相関 妊婦の身体感覚得点 全身的 局所的 胎児位置 妊娠中期 n=97 r ­0.206 ­0.122 0.372 p 0.042 0.235 0.000 妊娠末期 n=119 r 0.077 0.047 0.323 p 0.405 0.616 0.001 全 体 n=216 r ­0.042 0.004 0.427 p 0.540 0.950 0.000

(10)

に正相関を認めた。しかし,全身的身体感覚得点と局 所的身体感覚得点には,胎児愛着尺度得点との相関は みられなかった。  なお,今回作成したSSOPは,調査対象施設の妊婦 健診の質が異なっても共通に妊婦の身体感覚が評価で きる尺度として開発したため,3群のデータを統合し たSSOP値と胎児愛着尺度得点との関連を検討した。

Ⅴ.考   察

1.SSOP尺度開発の意義  本研究では,妊婦の身体感覚と胎児への愛着の関連 性を明らかにするため,妊婦の身体感覚を評価する尺 度の開発を行った。妊婦の身体感覚の尺度開発は,日 本に限らず欧米諸国においても本研究が始めての試み である。  この妊婦の身体感覚とは,妊婦健診の場面において 妊婦の主観的徴候として表現され,妊娠経過を診断す る1つの指標にされてきたものである。中でも胎動は, 妊娠の経過や胎児の発育を知るものとして重要視され てきた。また,胎児への愛着を促す意味からも,妊婦 が胎動を感じることは大切であると指摘されてきた。 しかし,胎動を含む妊婦の身体感覚の評価法について, その信頼性・妥当性が検討されたことはなかった。こ れは妊婦の身体感覚には個人差があり,その症状を数 量化し評価するのは困難であると考えられてきたため ではないかと推察される。  本研究では妊娠後に出現する身体的変化を評価する 目的で,全身的身体感覚,局所的身体感覚,胎児位 置身体感覚の3因子から構成されるSSOPを開発した。 予備調査ならびに本調査での信頼性・妥当性の検討で は,妊婦の身体感覚を数量化して評価できることが示 唆された。また,SSOPは質問項目が26項目と少なく, 対象者の作業負担も少ないことから,簡便に妊婦の身 体感覚を評価できる。  しかし,今回開発したSSOPは妊娠中期と妊娠末期 の初産婦のみを対象にしたものであり,今後は経産婦 にも適応できるSSOPの開発を行い,SSOPの汎用性 を高める必要がある。また,さらなる尺度の妥当性の 検証も必要であると考える。 2.妊婦の身体感覚と胎児への愛着との関連性  今回,SSOPを開発することにより妊婦の胎児位置 身体感覚と胎児への愛着の関連性が明らかになった。 また妊婦健診内容の異なる調査対象施設によって胎児 位置身体感覚得点と胎児愛着得点に有意差のあること も分かった。  これを妊娠各期でみた場合,妊娠中期には胎児位置 身体感覚得点が「病院」に比して「助産所あり」が有意 に高い値を示した。このことについて,これまで著者 が行った参与観察の結果(鈴井, 2003)から,次のこと が考察できる。「病院」と「助産所あり」では共に超音 波診断を使用する回数に有意差はなく,ほぼ毎回の妊 婦健診時に超音波診断が提供されている。しかし,「助 産所あり」の方が「病院」に比して有意に胎児位置身体 感覚得点が高いのは,医師と助産師の用いる超音波診 断の説明内容に相違のあることが影響を与えていると 考えられる。つまり「助産所あり」の助産師は妊婦診 察を実施する際,超音波診断を用いて得た胎児情報を 基に,より具体的に胎児位置身体感覚に関する情報を 提供し,妊婦の身体のどの部分に胎児のどの位置があ るのかを理解させていた。一方,医師は超音波診断を 用いて得た情報を基に,胎児の身体各部の計測値およ び算出した数値,外表奇形の有無や身体各部の臓器の 状態等を説明し,胎児診断結果に傾倒した説明内容で あった。  すなわち,この説明内容の相違が,妊婦の胎児位置 身体感覚に影響を与えたと考えられる。したがって, Dudenが指摘する,胎児画像の視覚化が妊婦の身体 感覚に影響を与えているということは本研究結果から はいえなかった。  次いで,妊娠末期の胎児位置身体感覚をみた場合, 「病院」に比して「助産所あり」と「助産所なし」が有意 に高い値を示した。「助産所あり」は前述した様に説明 内容の相違が影響を与えていると考えられる。それに 加えて,妊娠末期になると「助産所なし」も有意に高 い値を示すのは妊婦健診実施者の役割分担が影響をし ていると考えられる。つまり「病院」では,医師によ る妊婦診察と助産師による保健指導という役割分担が 明確であり,助産師の保健指導は通常医師の診察後に 提供される。そのため,助産師が胎児位置身体感覚に ついての説明を妊婦に対して行う場合,直接妊婦の腹 部に触れながらの説明を行うことは極端に少なく,妊 婦と対座して口頭で説明するのが一般的である。一方, 「助産所あり」と「助産所なし」では同一の助産師によ り妊婦診察と保健指導が提供されているため,助産師 は妊婦の身体に直接触れながら胎児の胎位・胎向や動 く範囲などを詳細に説明することができる。このこと

(11)

が胎児位置身体感覚の有意差に繋がっていると考えら れる。  胎児愛着得点については,妊娠中期,妊娠末期を通 じて「病院」に比して「助産所なし」が有意に高い値を 示した。一方で,「助産所なし」の妊婦健診とその形態 が類似している「助産所あり」は,「病院」との有意差 がなかった。これは,「助産所なし」における胎児の診 察方法が影響を与えていると考えられる。つまり,「助 産所なし」では超音波診断を使用しないために,胎児 の診察にはレオポルド触診法の第1段法から第4段法 を中心に診察を行う。その際,同法の実施に時間をか けて詳細に胎児の位置を把握しながら,同時に妊婦に 対して胎児の位置,胎動の動き方や胎児の動く範囲を 具体的に説明していた。特に,診察者である助産師は レオポルド触診法による診断内容が適切かどうかを確 認するために,随時妊婦に胎児の動き方を聞き返し, その位置を再確認するのが特徴的であった。そして妊 婦はレオポルド触診法による腹部診察を受けることで, 妊婦の腹部のどの位置に胎児のどの部分があり,それ がどの範囲で,どう動くのかを理解する。また,妊婦 の腹壁上から助産師が胎児を触れることで胎児への存 在を体感し,同時に妊婦自身による胎児の触り方も学 んでいたのである。このことが胎児への関心を高め, 愛着を促すことに繋がっていたと考えられる。  この他の注目すべき点としては,妊娠中期と妊娠末 期共に,胎児位置身体感覚得点と胎児愛着得点が正相 関を示すことである。他方,全身的身体感覚得点と局 所的身体感覚得点は3群の施設間に有意差が無く,ま た胎児愛着得点との有意な相関もみられなかった。 3.本研究の限界  本研究を行う際,妊婦健診の形態別にみた調査対象 施設数の均一化を図ることには限界があった。つまり, 年間分娩数の異なる出産施設を調査対象施設とするた め,症例数と施設数の均一化が難しかった。特に,超 音波診断を実施しない出産施設は皆無に等しく,その うえ助産所での出産数が病院に比して極端に少ない現 状から,「助産所なし」での初産婦数を確保するのは非 常に困難であった。今後は,データの均一化をいかに 図るかが課題である。

Ⅵ.結   論

 本研究結果から,妊婦の身体感覚の中で胎児位置身 体感覚と胎児への愛着にはかなり関連性のあることが 明らかになった。また,妊娠中期と妊娠末期共に,「病 院」に比して胎児位置身体感覚得点は「助産所あり」, 胎児愛着得点は「助産所なし」が有意に高い値を示した。  なお本研究は,平成17年度木村看護研究財団研究 助成により行った。 引用文献

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参照

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