長野県産農畜産物の統一ブランド創設について
8
0
0
全文
(2) 図1 統一ブランド創設の進め方. ある。田植は、昭和50年代までは、泥田に腰をかがめ苗を1 株ずつ植えていく大変過酷な労働だった。 しかし現在、日本の田の98%は田植機で植えられており、 今の田植機は箱育苗で育てた土付苗を植え付ける。箱育苗はも. ⑶ 「園芸王国」長野県農業の確立 2014年の農業総産出額の作物別シェアは、野菜30%、果樹 19%、きのこ18%、花木5%の園芸品目計72%であり、7割 を超える。. ともと寒冷地の保温育苗技術で、昭和30年頃に長野県農試飯. 一方、全国の園芸品目計は44%であることから、本県が園. 山試験地で開発された。当時は大(成)苗が当たり前で、稚苗. 芸品目中心の農業であることがわかる。この本県の農業の特徴. の発想さえなかった時代であり、この画期的な農業革新が今で. を、元長野県立歴史館館長の市川健夫氏は、“精密農業”“グラ. は当たり前の育苗箱による田植機の普及につながっていること. ム農業”という言葉で表現されている。. は、長野県人としての誇りでもある。 3つ目は、消費者の嗜好に基づく絶えざる品種更新を行って きたことである。野菜・果樹の生産においては、消費者嗜好の. 園芸品目は生鮮食料中心のため、軽量で、かつ消費者嗜好の 変化に対応する技術力と品質が求められることから、精密工業 に対する精密農業という言葉は的を得ている。. 多様化や個性化により特色ある農産物が求められる。 県は消費者ニーズの変化にいち早く対応するため、新品種の 開発に努力してきた。. 3.1. 県の個々の制度を中心に設計. 本県は、農業・果樹・野菜花き・畜産試験場を持ち、1つの. 以上、述べてきた2つのおいしい理由と長野県農業の確立を. 品種が誕生するまでには最低20年はかかるといわれる中、積. うけ、この豊かな信州の風土から生まれた食べ物を3つの観点. 極的に研究開発に取り組んでいる。りんごの新しい品種である. から厳選し「おいしい信州ふーど(風土)」と表現、統一ブラ. 「シナノスイート」「シナノゴールド」や、ぶどうの「ナガノ パープル」、なしの「南水」、アスパラガスの「ずっとデルチェ」. 26. 3.統一ブランド「おいしい信州ふーど(風土)」. ンドとした。 3つの観点である「プレミアム」「オリジナル」「ヘリテイ. などがあり、特に信州サーモン・信州黄金シャモは今後の広が. ジ」については、長野県原産地呼称管理委員会会長の玉村豊男. りが期待される。. 氏からアドバイスを受けたものであるが、「おいしい」とは何. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017.
(3) 図2 「おいしい信州ふーど(風土)」の3つの観点. を指すのか、いくつかの基本的視点を確認しておく。そこで は、既存の制度の考え方をできるだけ活かし、新たに組み合わ せることで全体としての統一感を指向していく立場に立つ。 ⑴ 歴史的継続性 歴史ある伝統野菜や食文化はその地域の固有の価値を持って おり、作られ食べ続けられてきたものを、その地域の「おいし いもの」と位置付け、「ヘリテイジ」とする。 ⑵ 厳密基準 制度として厳しい基準を有しているもので、専門家の官能審 査やおいしさの基準を定めたものをいい、「プレミアム」とす. 3.2. 3つの観点からの整理 上記の視点に基づき、県の既存の制度を中心に組み立てた (図2)。 ⑴ プレミアム―厳選素材・厳密基準―“高品質” 信州産にこだわり、専門家の官能審査や科学的基準をもつ制 度により認定されたものを、「おいしいもの」と位置づける。 【長野県原産地呼称管理制度】は、2002年10月に創設され、 現在までにその対象品目を拡充等しつつ、ワイン、日本酒、焼 酎、シードル、米の5品目で認定されている。 従来よくある表示の秀・優・良ではなく、農産物の原料や栽. る。. 培方法・味覚により区別化し、「長野県で生産・製造されたも. ⑶ 県の開発育成品種. の」に対して自信をもって消費者にアピールし、一層のブラン. 消費者の嗜好の多様化等に対応して、長野県で独自に開発育 成した品種は、既存品種や他県品種と比較して好まれるよう、 モニタリング調査等を十分に行っており、オリジナル性のある 「おいしいもの」と位置付ける。ただ、一定の流通量が確保さ. ド化を図っている。 【信州プレミアム牛肉認定制度】は、長野県産牛肉の認知度 を向上させるため2009年3月に創設。 従来の「日本食肉格付協会」が定めるサシの入り具合などに. れていることが前提となる。. よって分かれる等級に加え、 「香りと口溶け」を左右するオレ. ⑷ 生産量全国シェア上位品目. イン酸含有率の一定基準を満たすものを認定している。おいし. 生産量が全国シェア上位ということは、消費者から支持され. さを基準に牛肉をブランド化するのは全国で初の試みで、両制. 食べられていることを意味しており、県内で加工された加工品を. 度とも高い付加価値を有するものとし積極的にに PR している. 含み、県の「オリジナル」として「おいしいもの」と定義する。. (図3)。 デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017. 27.
(4) 図3 プレミアム. 図4 オリジナル. ⑵ オリジナル─オリジナル品種と全国シェア上位品目─“独 創性”. 図5 ヘリテイジ. 【県選択無形民俗文化財】 長野県教育委員会が1983年に伝統的な食文化を県選択無形. 消費者の嗜好の多様化等に対応して、長野県内で育成開発し. 民俗文化財に指定したものである。対象は、各地域に伝わる笹. た品種であり、シナノスイート、シナノゴールドやナガノパー. 寿司・鯖鮨などの郷土食と、全県的に広がりを持っている手打. プル、信州サーモンや信州黄金シャモ等がある。特に、信州. ちそば、焼き餅(お焼き)、御幣餅、スンキ漬、野沢菜漬であ. サーモンは地域団体商標に登録されている。また、野菜やきの. る。これらを「味の文化財」という。この全国で初めての制度. こなどは、品種ではなく品目で流通しており、生産量が全国. は、県民の新たな関心を呼び、郷土食の再評価や市町村による. シェア上位(1位∼3位)を占める品目が多くあり、また多く. 商品化により地域活性化の一助となっている。. は産地名で流通しており、これらを消費者から支持されている 長野県のオリジナルなものとする(図4)。 ⑶ ヘリテイジ─伝統野菜と郷土食─“伝統の力” ヘリテイジ(heritage)とは「伝統・継承物」のことで、伝 統野菜や食べ方を含めた郷土食を指す。信州の生活文化と密接 に関わってきた郷土食やその地域固有の伝統野菜は、高度経済. 【信州伝統野菜認定制度】 2007年度に創設され、昭和30年代以前から栽培されている 品種等、一定の基準を満たすものを選定し、伝承地として栽培 している野菜と生産組織を認定。その味覚や食文化をより多く の人に提供・発信しており、現在82品がある。 以上、プレミアム・オリジナル・ヘリテイジの対象品目総数. 成長以降、生活文化が著しく変化してきたことから、このまま. は、現在157品目あり、当初より拡大してきている(図5)。. 放っておくと消滅しかねない。改めて私たちは、行事食・郷土. 3.3. 3つの観点からの整理. 食という食文化の価値を見直し、そして保存・維持し、次世代. 「おいしい信州ふーど(風土)」というネーミングについて. に引き継いでいかねばならない。また以下の制度が設けられて. は、敢えて風土という漢字をカッコ書きで付記しており、意味. いる。. を持たせている。県内のそれぞれの地域には、独自の自然の力 を基礎とする固有の風土がある。. 28. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017.
(5) 玉村豊男さん. 小泉武夫さん. 鎧塚俊彦さん. 鹿取みゆきさん. ジョン・ゴントナーさん. 岸本直人さん. 図6 6名の大使. かつて、長野県諏訪中学(現諏訪清陵高校)地理科教師の三. このような大使・公使・名人のオーラルマーケティングによ. 澤勝衛先生は、その風土をより深く理解し、活かした「風土産. り広く発信している。. 業」という考え方を提唱された。「おいしい信州ふーど(風土)」. ⑵ ポスター・チラシ他による発信. は、まさに信州の多様性を活かした「風土産業」による食べ物 である。. 独自のロゴマークによるポスター等の制作を行い、文字やデ ザインは、大使の玉村豊男氏に制作してもらい、キャッチフ. さらには、水力や雪・森林等の自然エネルギーを農・商・工. レーズは、平均寿命が男女とも全国一であることから、“長寿. に活かす信州発の大きな「風土産業」の創発につながっていけ. 日本一の恵み”としてポスターやクリアファイル、名刺、小冊. ばという思いを「(風土)」に込めている。. 子、うちわ等を作り、また市町村のイベント用チラシや申請が あれば民間の商品にも付与し、官民一体となってPR活動を. 4.今までの取り組み. 行っている(図7、図8)。. 4.1. 認知度向上策. ⑶ 民間によるデザイン・ロゴマークの使用と発信. 「おいしい信州ふーど(風土)」の認知度を高める政策とし. 官による発信だけでは限界があることから、統一ブランドの. て、人による発信と、ポスター・チラシ等のツールを使った発. ロゴマーク等を添付して商品販売やチラシ制作を行う民間企. 信を行っている。. 業・団体には、「おいしい信州ふーど(風土)」アカデミーとい. ⑴ 大使・公使・名人による発信. う実践者の会に入ってもらい、無料で使用してもらっている。. 全国的に発信力のある食のプロが必要と考え、知事が適任者. ちなみに、使用申込み件数は2016年3月末で累計96件にのぼ. を「大使」として任命。ワイン、日本酒・発酵食、料理、スイー. る。民間の自主的な発信により、年々増加しており、認知度. ツ担当の4名とした。また、現在は6名となっている(図6) 。. アップに結び付いている。. 首都圏のホテルでのPRや、県内産地生産者との交流、シンポ. ⑷ 認知度の実績. ジウムの講演、県内新聞紙上でのPR、県の推奨品種を試食し. 県内認知度の実績調査結果の推移は、2012年度・24%、. てのレコメンド(お奨めの言葉)などをお願いし、主なものは. 2013年度・40%、2014年度・52%、2015年度・66%と着. 農政部HPで情報発信している。. 実に上昇し、県民の3人に2人が認知している。銀座NAGA. また、県内の食や料理の専門家5名を公使とし、各地域ごと にも名人を任命しており、計55人となる。. NOや県外事務所によるアンケート調査にて県外の認知度は調 査を行った結果、18%となりまだまだであるが、今後の取組 デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017. 29.
(6) 図7 ポスター. 図8 飲食店の制作した幟. みを強化していく(図10)。 4.2. 消費拡大策 ⑴ 食べれる店の拡大 いくら認知されていても、実際に食べてもらい、消費が拡大 しないと、生産も増加しない。飲食店や旅館ホテルのメニュー に載せてもらい、酒店・小売店などにも取り扱いの拡大を図る ため、委託事業で普及担当者を配置した。現在、その登録店数 は1,300軒を超え、飲食店や旅館ホテルで700軒となっており、 それぞれ扱い品目を増やすようお願いしている。 ⑵ 商談会等による流通ルートの拡大 「おいしい信州ふーど(風土) 」と銘打った商談会を県内外で 開催しており、実需につながるよう信州産の農畜産物や食の魅 力を発信している。また、銀座NAGANOでは首都圏の消費者 に購入してもらい、実際に長野県を訪れてもらい、地産地消の 消費拡大につながる交流人口の増加を目指している。この、県 内と首都圏との連携をどう図っていくか、今後の課題でもある。 4.3. 他の施策との連携. 図9 信州ワインバレーのワイナリー数32. 農業や食は、インバウンドによる外からの観光客を呼び込む 有力なコンテンツである。長野県では特に力を入れている施策 として、「信州ワインバレー」構想があり、その推進と連動す ることが有効と考える。. 30. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017. ⑴ 信州ワインバレー構想推進との連動 県では、2013年に信州ワインバレー構想を策定し、推進組 織として、「信州ワインバレー構想推進協議会」を設立した。.
(7) 図10 認知度向上・消費拡大への取り組み. この信州ワインバレーは、県内を千曲川・日本アルプス・桔. り、日本酒の蔵元は新潟県に次いでワイナリー数も増加してお. 梗ヶ原・天竜川の4つのワインバレーに分け、それぞれの特徴. り、名実ともに発酵王国と言われる。. を活かした展開を構想している。. 他に、牛乳やきのこ、魚も多く食しバランスよく食べている. 長野県は全国的にも有数のワイン産地であり、県外からのワ. ことも長寿に関係があるといわれる。また、総農家戸数は全国. イン用ぶどうの栽培者が増加しており、ワイナリーの設立もこ. 1位(2015年調査)、高齢者の就業率も全国1位(2010年調. こ数年大きく増加している(図9)。. 査)であるが、定年後も農業を続け生き甲斐を持って働いてい. ワインは、日本酒と異なり、食中酒であることから、ワイン. ることが長寿につながっていると思われる。また、公民館数や. をたしなむ者にとっては、その地で採れた食材での料理を食. 社会体育施設数が全国1位であり、地域住民がコミュニケー. し、その地で醸造されたワインを飲むのが喜びである。「おい. ションを図る場を多く有していることは注目に値する。. しい信州ふーど(風土)」は現在157品ある。その他にも魅力. 最近は、農産物の海外輸出に注目が集まりつつあるが、長野. 的な食材が多くある信州で、その食材を活かした料理と、信州. 県は“長寿世界一”というキャッチフレーズでPRを行ってい. ワインバレーのバリエーションあるワインを併せ飲食するなら. る。. ば、長野県の食観光は大変魅力的となり、大きく飛躍するに違 いない。それぞれが違っているからこそ、組合せが豊富にあ り、まさしく、「バラエティ・イズ・バイタリティ」となろう。 ⑵ 長寿男女日本一との関連での発信 長野県の平均寿命は、2010年調査で男女とも日本一である。. 5.最後に 長野県の農畜産物の統一ブランド「おいしい信州ふーど(風 土)」について、その内容や具体的な展開を紹介してきた。改 めて意識したいのは、それぞれの地域の「固有性」をどう見出. 食生活は、野菜の摂取量が男女とも全国1位、味噌の消費量も. すかである。昨今の地方創生の動きをみると、短時間で見栄え. 全国1位となっており、野沢菜やスンキ漬などの漬物文化があ. の良い計画案が散見され、また、その地の風土・歴史を無視 デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017. 31.
(8) し、「食べたいものを作る」といった人間の欲を軸にした考え 方も聞かれる。 しかし、その地の固有性を活かした作物を育て、そこから生 活を組み立て、農畜産物を有り難くいただくという営為は、い つの時代でも変わらない。 「おいしい信州ふーど(風土)」は、 長野県を対象にした農畜産物や食べ物を厳選して発信している が、長野県=信州という事をよく理解し、愛着を持つことが前 提である。敢えて、 (風土)という文字を付加していることを しっかりと県民と共有し、次世代に引き継いでいく。限定した 自治体や地域を考える場合も、この方法論は同じと考える。 そして、次世代がローカルなこの地を深く考え、世界のロー カルな地を理解することにつなげ、共感力を醸成してもらえれ ばと思う。「Think locally, Act globally」で今後とも取り組んで いく。 【参考文献】 1)長谷川正之:信州自治2012年4月号,「おいしい信州ふー ど(風土)宣言!」とその展開,2012. 2)長谷川正之:信州自治2013年11月号,長寿日本一の恵み 「おいしい信州ふーど(風土)」∼信州産農畜産物の統一ブ ランド戦略について∼,2013. 3)長野県:信州ワインバレー構想,2013.. 32. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017.
(9)
関連したドキュメント
うことが出来ると思う。それは解釈問題は,文の前後の文脈から判浙して何んとか解決出 来るが,
市場を拡大していくことを求めているはずであ るので、1だけではなく、2、3、4の戦略も
ても情報活用の実践力を育てていくことが求められているのである︒
~農業の景況、新型コロナウイルス感染症拡大による影響
我が国においては、まだ食べることができる食品が、生産、製造、販売、消費 等の各段階において日常的に廃棄され、大量の食品ロス 1 が発生している。食品
[r]
・5月上旬より、1~4号機周辺道路やタービン建屋東側の一部エリアについて 、当該エリア で働く作業員の身体的負荷軽減や作業性の向上を目的に、Yellow zone
□一時保護の利用が年間延べ 50 日以上の施設 (53.6%). □一時保護の利用が年間延べ 400 日以上の施設