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ロコモティブシンドロームと大腿骨近位部骨折

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 46 巻第 2 号 133 ∼ 139 頁(2019 ロコモティブシンドロームと大 年). 骨近位部骨折. 133. 講  座 シリーズ 「ロコモティブシンドロームと理学療法」. 連載第 4 回 ロコモティブシンドロームと大. 骨近位部骨折*. ─予防から地域支援まで─. 藤 野 圭 司 1). 緒  言  大. 骨近位部骨折の発生頻度は欧米ではすでに 1990. 年代後半より減少に転じているが,我が国では現在も増 加を続けている。原因は 1.急速に進む超高齢社会,2. 未だに約 8 割の骨粗鬆症患者が未治療,3.再骨折例の 増加,(英国では Fracture Liaison Service(FLS)の普 1) 及が再骨折を大きく減少させている) ,4.住居や道路. など社会インフラ整備の問題など種々考えられる。今後 さらに加速する高齢化に伴う骨折リスクの軽減対策は急 務である。  そのひとつの手段としてロコモーショントレーニング (以下,ロコトレ)は転倒・骨折の予防に非常に有効で ある。. 藤野圭司,要介護者に対するロコモーショントレーニング(ロ コトレ)の効果,治療学,2010, 44, 818. 図1. ロコモ予防  高齢者で介護が必要となったおもな原因をみると要支. 適切な運動を開始することが重要である。そのためには. 援となる原因の 28%,要介護 1 となる原因の 27%は転. ロコモの国民への認知度を高めることが必須である。現. 倒・骨折および関節痛などの運動器障害である。高齢に. 在日整会,その関連学会,関連団体をあげて啓発運動. 伴う転倒の原因は変形性膝関節症,変形性腰椎症,腰部. に取り組んでいるが未だその認知度は 50%未満であり,. 脊柱管狭窄症などに伴う筋力やバランス能力の衰えによ. 今後さらなる努力を要する。. るものが多い。当院での調査によると変形性膝関節症や 変形性腰椎症で受診した 65 歳以上の患者に対し新規に. ロコトレ指導. 介護保険を申請してもらった結果,要支援 1・2 要介護.  平成 18 年に病名として新設された運動器不安定症は. 1 と認定された者が約 90%で非該当者はわずか 10.1%で. 医療施設でのリハが可能である。ロコモは疾患名ではな. あり,要支援・要介護に認定されたものの大部分はロコモ. く病態像であるためロコモの病名で医療施設でのリハは. 2)3). 行えず介護関連施設や介護予防事業として行われること.  したがって介護予防,ロコモ予防のためには運動器の. が多い。両者とも移動能力の低下,転倒・骨折により寝. 障害が出現し整形外科外来を受診する以前に本人に運動. たきり,要介護となることを予防するという運動目的は. 器の衰え,ロコモの危険性を認識してもらい,早期より. 同じでリハ方法も共通している。. ティブシンドローム(以下,ロコモ)であった(図 1). 。.  当院で行っているロコトレ(運動器不安定症リハ)に *. Locomotive Syndrome and Femur Neck Fracture 1)藤野整形外科医院 (〒 432‒8011 静岡県浜松市中区城北 2‒15‒12) Keiji Fujino, PT: Fujino Orthopedic Clinic キーワード:大 骨近位部骨折,地域連携パス,介護予防事業,ロ コモコーディネーター,SLOC. ついて紹介する。開眼片脚起立訓練,セラバンド体操, スクワット訓練は必須とし,あとは症状や原疾患に応じ てメニューを組み合わせる(表 1)。  片脚起立訓練は床,スポンジの上,バランスボード上.

(2) 134. 理学療法学 第 46 巻第 2 号. と個々の状態により難度を変えている。ロコトレ訓練で. 果,要支援 1・2 ともに 5 年経過しても多くに介護度の. もっとも重要なことは継続性である。ロコトレ手帳を配. 維持,改善が見られ,悪化例が少ないことがわかる(図. 布し,本人に実施した日を記入してもらい,1 ヵ月に 1. 3,4). 4)5). 度指導するスタッフが実施状況をチェックする。また定. 大. 期的に体力測定を行いロコトレの成果を確認,本人・家. 。. 骨近位部骨折と術後リハビリテーション. 族にも結果データを渡し,モチベーションの維持を図っ.  本稿では大. 骨近位部骨折のうち,骨頭骨折や転子下. ている(図 2)。. 骨折という主として高エネルギー損傷によって生じる骨 折ではなく,骨脆弱性や筋力・バランス能力の低下等を. ロコトレの効果. 有する高齢者が転倒することによって生じる頸部骨折,.  筆者の介護予防デイケア施設で 5 年以上維持期リハビ. 転子部骨折を対象とした術後のリハビリテーションにつ. リテーションを継続した者の介護度の推移を調査した結. いて述べる。 1.大. 表 1 ロコトレプログラム. 骨頸部骨折・転子部骨折の治療と術後リハビリ. テーション 1)大. ① 開眼片脚起立訓練   ①②③は全員に実施. 骨頸部骨折. ② セラバンド体操.  一般的に Garden 分類 stage I,II については pinning. ③ 立ち座り訓練(スクワット). が,stage III, IV については人工骨頭置換術が施行され. ④ バランスボール. る(図 5)。. ⑤ エルゴメーター.  術後リハビリテーションは全身状態にもよるが可及的. ⑥ トレッドミル. 速やかな早期離床,早期荷重訓練が望ましい。Pinning. ⑦ ステッパー. の場合,早期荷重による大. ⑧ バランスボード. 高齢による筋力低下,全身状態の悪化を考慮すると,廃. ⑨ タオルギャザー. 用症候群予防のため早期歩行訓練のほうが重要と考える。. ⑩ 敏捷性訓練. 骨頭壊死の危険性もあるが.  人工骨頭置換術については手術手技が前方侵入でも,. 図2.

(3) ロコモティブシンドロームと大. 骨近位部骨折. 135. 図 4 5 年間経過観察可能者(154 名中開始時要支援 2)の 者の推移. 図 3 5 年間経過観察可能者(154 名中開始時要支援 1)の 者の推移. 日本整形外科学会,日本骨折治療学会(監),大 骨頸部 / 転子部骨折診療ガイドラ イン(改訂第 2 版) ,日本整形外科学会診療ガイドライン委員会,大 骨頸部 / 転子 部骨折診療ガイドライン策定委員会(編),南江堂,東京,2011,p. 12 図5. 後方侵入でも理学療法士の注意深い指導により,転倒さ. め,転倒,再骨折のリスクが高くなる(図 6)。. えなければ早期荷重による術後脱臼の危険はほとんど.  外転筋群の等尺,等長運動にはチューブを使ったも. ない。. の,重錘によるもの,理学療法士による訓練などがある. 2)大. 骨転子部骨折. (図 7)。.  手術法には概ね Screw-plate によるものと Nail-plate によるものがあるが,近年手術器具の進歩により,侵襲. (2)股関節伸展筋(大殿筋,大. 二頭筋ハムストリング). 訓練. が少なく固定力の強い Nail-plate 法が主流となり,頸部.  術後患者の多くに患側股関節の伸展障害を認める。そ. 骨折と同様,手術後早期よりのリハビリテーションが可. のため歩行時,立脚期後半に完全伸展ができないため歩. 能となった。. 幅が狭くなり,摺り足様歩行を呈するため前述の内転位. 3)リハビリテーション手技の実際. 歩行とともに,転倒・再骨折の要因となりやすい(図. (1)股関節外転筋(おもに中殿筋)訓練  術後リハビリテーションでは大. 四頭筋訓練を主とし. て行われているが,もっとも重要なのは殿筋の訓練であ ると考える。特に外転筋訓練は重要で,術後筋力の衰え. 8)。股関節伸展筋群の等尺,等長運動にもチューブを使 用したもの,重錘を使用したもの,理学療法士によるも のなどがある(図 9)。 (3)大. 四頭筋訓練. により,トレンデレンブルグ(Trendelenburg)歩行と.  歩行,立位バランスのため大. なり,歩行時患側骨盤が挙上し,下肢が内転位をとるた. る。広く行われている手技なので詳細は省く。. 四頭筋訓練は必須であ.

(4) 136. 理学療法学 第 46 巻第 2 号. 図8. 図 6 股関節外転筋力低下のためトレンデレブ ルグ歩行となり患側骨盤が挙上し,下肢 が内転位となるため,転倒・再骨折の危 険が大きい.. 図 9 種々の股関節伸展筋訓練. 険とされるが,長期的には 2 年以内に起こるケースが多 図 7 種々の外転筋訓練. い 7)。また術後 ADL も経年的に低下する。再骨折防止 のためにはリハビリテーションの継続と骨粗鬆症治療の 継続が必須であり地域連携パスは非常に有効な手段で. (4)ロコモーショントレーニング(ロコトレ)   (前述) (5)B-SES(ベルト電極式骨格筋電気刺激法). ある。  地域連携パス(クリティカルパス)は平成 18 年の診 療報酬改定において①.医療機関の機能分化,②.急性.  全身状態その他の理由により早期離床,早期歩行,等. 期と回復期病院の切れ目のない連携により医療の質を守. 尺・等長訓練が困難な症例に対しては訓練可能となるま. る,という目的で制度化され,対象疾患は大. で B-SES の使用によりサルコペニアを予防するのも効. 折と脳卒中とされた。また現在では回復期病院から診療. 6) 果的である 。. 所までパスが拡大されている。. 骨頸部骨.  診療報酬改定のたびに地域連携パスの算定が複雑に 2.再骨折予防と地域連携パス. なっており本稿では詳細は省くが現在静岡県西部で実施.  転倒・再骨折の危険は術後 3 週∼ 3 ヵ月がもっとも危. 8) されている連携パスについて紹介する 。.

(5) ロコモティブシンドロームと大. 骨近位部骨折. 137. 図 10 静岡県西部広域地域連携パス. 図 11 大. 骨頸部骨折 地域連携パス 浜松方式. 1)静岡県西部広域地域連携パス  平成 18 年の診療報酬改定において大. リハビリの継続性が高い。さらにパス適応群においても 骨頸部骨折(現. 回復期病院で終わった者に比べ診療所まで連携が継続し. 在は近位部骨折)地域連携パスが導入され,静岡県浜松. た者では骨粗鬆症治療,リハビリの継続は非常に高かっ. 市を中心に急性期 9 病院,回復期 15 病院,診療所 73 施. た。また調査時点では診療所での治療を継続している群. 設の参加を得て静岡県西部広域地域連携パスが構築され. に再骨折例はなかった(表 2)。. た(図 10)。  患者情報を共有するため急性期病院,回復期病院,診. 3.地域との連携. 療所における治療内容や,注意点などを記録するシート. 1)ロコモコーディネーター制度. を作成,患者が施設を移動する際に次の施設へファック.  早期よりロコモ該当者を抽出しロコトレを実践しても. スで資料を送る。診療所では継続的にロコトレを実施す. らうには地域行政との連携が不可欠である。日本臨床整. るとともに骨粗鬆症の治療を継続する。万一再骨折を生. 形外科学会(JCOA)の姉妹組織である NPO 法人全国. じた場合は速やかに急性期病院へと紹介する(図 11)。. ストップ・ザ・ロコモ協議会(SLOC)ではロコモの普. 2)地域連携パスの効果. 及活動とともに地域でのロコトレ指導,ロコトレ実践体.  聖隷浜松病院でまとめた 313 例の骨折後 1 年目の調査. 制の整備を援助する目的でロコモコーディネーター制度. ではパス非適応群に比べパス適応群では骨粗鬆症治療,. を創設した。資格は表 3 に示すごとくで医療系,介護系.

(6) 138. 理学療法学 第 46 巻第 2 号. 表 2 予後調査結果:骨粗鬆症治療,リハビリ実施,再骨折状況 パス適応(205) 項目. 骨粗鬆症治療あり. 診療所連携 あり(42). 診療所連携 なし(163). パス非適応(108). 計(313). 骨折前. 7(16.7%). 24(14.7%). 18(16.7%). 49(15.7%). 骨折後. 34(81.0%). 59(32.2%). 20(18.5%). 131(41.9%). 39(92.9%). 80(49.1%). 43(39.8%). 165(52.7%). 0( 0.0%). 4(2.5%). 3( 2.8%). 7(2.2%).  リハビリ実施あり  再骨折発生. 表 3 ロコモコーディネーター 【仕事】 医療施設,介護施設,自治体活動におけるロコモ啓発, ロコトレ指導,ロコモ普及員の養成 【資格】:医療系:保健士,看護師・准看護師,PT, OT 国の定めるみなし PT     介護系: 5 年以上の実務経験を有する介護福祉士 主任マネージャー    医療系,介護系の有資格者を対象. 図 12 職種. 図 13. の有資格者を対象としている。年 3 回全国各地で講習. トレ指導を行う。現在全国で 1,781 名のロコモコーディ. 会を開催,講習会終了後試験を実施,合格者には SLOC. ネーターが誕生し活動している(図 12)。. より認定証を交付する。名簿管理は SLOC が行い,5 年. 2)浜松市と連携したロコモコーディネーターの活動. に 1 回の資格更新制度を設けている。ロコモコーディ.  SLOC では平成 26 年より浜松市高齢者福祉課と連携. ネーターはさらに SLOC の作成したマニュアルによっ. し , 介護予防事業のうち運動機能向上トレーニングにロ. てロコモ普及員(ボランティア)を養成し共同してロコ. コトレを取り入れた。そのためのスタッフとしてロコモ.

(7) ロコモティブシンドロームと大. 骨近位部骨折. 139. 図 16. 図 14. 1,527 名,サロン数 354, 参加者 8,132 名と飛躍的に増加 した(図 16)。 文  献. 図 15. 指導員(ロコモコーディネーター)を養成,さらにロコ モ指導員がロコモ普及員を養成し,サロン型(集団指 導)と在宅型(個別指導)でのロコトレ訓練を行ってい る(図 13,14,15)。  平成 26 年の開始時ロコモ指導員の数は 32 名,ロコモ 普及員が 175 名,サロン数 23,参加者は 520 名であった。 それが平成 29 年にはロコモ指導員 71 名,ロコモ普及員. 1)Mclellan AR, Gallacher SJ, et al.: The fracture liaison service;success of a program for the and management of patient with osteoporotic fracture. Osteoporos Int. 2003; 14: 1028‒1034. 2)藤野圭司:ロコモティブシンドロームと介護予防.整形外 科.2013; 64: 479‒486. 3)藤野圭司:運動器リハビリテーションと介護予防.日本医 事新報.2013; 4678: 56‒57. 4)藤野圭司:要介護者に対するロコモーショントレーニ ン グ( ロ コ ト レ ) の 効 果.Modern Physicion.2010; 30: 494‒496. 5)藤野圭司;高齢者の運動機能トレーニング─要介護者への ロコモーショントレーニング.臨床スポーツ医学.2010; 27: 49‒54. 6)種村洋二:ベルト電極式骨格筋刺激装置が筋機能へ与え る影響について.札幌理学療法士学術集会抄録 1,2015, p. 12. 7)Hagino, H, Sawaguchi T, et al.: The risk of a second hip fracture in patient after first hip fracture. Calcif Tissue int. 2012; 90: 14‒21. 8)藤野圭司;ロコモティブシンドロームと大 骨頸部骨折地 域連携パス.医学のあゆみ.2011; 236: 417‒424..

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参照

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