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振り返り支援の取り組みと成果

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要旨

 経験学習サイクル論(Kolb, 1984),振り返りサイクル論(Gibbs, 1988),振り返りフレームワーク (Ash & Clayton, 2004)では,学生による学習の「振り返り(Reflective)」が重視されている。Kolb (1984),Gibbs(1988),Ash & Clayton(2004)から,学生たちが学習意欲を向上,持続させていくため には,学習に対する「振り返り(Reflective)」が必要である。本稿では,学生たちにどのような「振り返 り支援(Reflection Support)」をすれば,学生たちは「主体的な学び(Autonomous Learning)」が実践 できるのかについて検討した。  授業 90 分と授業外学習 120 分が 1 対になった振り返り支援は,学生たちが Minute Papers に記してい るとおり,学生たちに 1 年を通した授業外学習時間の継続をもたらした。大学 3 年次編入学試験の受験結 果から,筆者の振り返り支援は,学生たちを自律的学習者(Autonomous Learners)へ成長させたと結 論づけた。 キーワード:主体的な学び,自律的学習者,振り返り支援,振り返りサイクル論,振り返りフレームワー

Ⅰ.研究課題

1.問題の所在  文部科学省初等中等教育分科会(2016)では,能動 的学修(Active Learning)によって,① 「主体的な 学び(Autonomous Learning)」,② 「対話的な学び (Interactive Learning)」,③ 「深い学び(Deep Learn-ing)」の三者を,いかに組み合わせて学生たちへ提供 するかという,質的な授業改善が議論され始めている。 さらに文部科学省高等学校部会(2016)では,学生た ちが「何ができるようになるか」,「何を学ぶのか」, 「どのように学ぶか」という,これからの教育課程が 示されている。そして「どのように学ぶのか」という 視点から,①「主体的な学び」,②「対話的な学び」, ③「深い学び」の三つを組み合わせた能動的学修 (Active Learning)による学習過程の改善が,いま各 校,各教員によって進んでいる1)  他方,文部科学省大学分科会(2016)では,「卒業 認定・学位授与の方針(Diploma Policy)」,「教育課 程編成・実施の方針(Curriculum Policy)」,「入学者 受入れの方針(Admission Policy)」の策定と運用を 定めている。この三つの方針の下に,高等教育機関各 校においても,①「主体的な学び」,②「対話的な学 び」,③「深い学び」の三者を,いかに組み合わせて 学生たちへ提供するかという,質的な授業改善が議論 され始めている。 2.研究の目的と意義  学生たちが高等教育を通じて,何ができるようにな るか,何を学ぶのか,どのように学ぶのか。学生たち が自律的学習者(Autonomous Learners)へと成長 できるように,大学教員は何をすべきか。  学生たちが学習意欲を向上,持続させていくために は, 学 生 自 身 に よ っ て 学 習 を「 振 り 返

る(Reflec-Note

The Journal of

Economic Education No.37, September, 2018

研究ノート

振り返り支援の取り組みと成果

主体的な学びの追求

Approaches and results for reflection support:

In pursuit of proactive learning

竹田 英司(松山短期大学)

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tive)」ことが必要である。学生が学習を「振り返る (Reflective)」ためには,教員による「振り返り支援 (Reflection Support)」が必要である。「振り返り支援 (Reflection Support)」とは,学生が授業を通じて, ①何を学んだのか,②どのように学んだのか,③なぜ この学びが必要なのか,④どのようにこの学びを使う のか,の 4 つについて,学生自身による学習の「振り 返り」を促すことである。  本稿の目的は,筆者による振り返り支援の取り組み とその成果について,授業外学習の時間と大学 3 年次 編入学試験の受験結果から検証することである。  振り返り支援の効果が,学生たちの授業外学習の時 間と大学 3 年次編入学試験の受験結果に表れているか どうかについて検証することは,主体的な学びの議論 が始まり出した経済教育研究に対する本稿の学術的な 貢献であると考えている。

Ⅱ.先行研究の整理

1.「振り返り(Reflection)」に関する先行研究  Kolb(1984)は,体系化・汎用化された知識を受動 的に習い覚える知識付与型の学習と経験学習を区別し て,図 1 のように「経験」,「振り返り」,「概念化」, 「実践」の四段階から成る経験学習サイクル論を唱え ている。Kolb は「具体的な経験(Concrete Experi-ences)」から,より深く学ぶには経験を,「じっくり 振り返ること(Reflective Observation)」が重要だと している(Kolb, 1984, pp.23-26)。その上で Kolb は, 振り返ったあとでその経験を次の経験に生かすべく, 「概念化すること(Abstract Conceptualization)」も 重要だと述べている(Kolb, 1984 pp.23-26)。「経験」 と「概念化」から得られた新しい考えや方法に基づい て「実践すれば(Active Experimentation)」,今まで とは異なる経験を積むことになり,経験学習はより良 い形で循環していく(Kolb, 1984, pp.23-26)というの が Kolb の経験学習サイクル論である。  Gibbs(1988)は,Kolb(1984)の経験学習サイク ル論を大学教育に応用した,振り返りサイクル論(Re-flective Cycle)を提示している。Gibbs の振り返りサ イクル論では,図 2 のように,「記述(Description)」, 「 感 覚(Feelings)」,「 評 価(Evaluation)」,「 分 析 (Analysis)」,「結論(Conclusion)」,「行動計画(Ac-tion plan)」の各局面における振り返りの方法を示し ている。その上で,Gibbs(1988)は,能動的学修 (Active Learning)を理想的な経験学習にするには, 「振り返り(Reflection)」が必要だと強調している。  Kolb(1984)や Gibbs(1988)が重視した「振り返 り(Reflection)」 に つ い て,Ash & Clayton(2004, pp.140-149)は,「振り返りフレームワーク(記述, 分析,表現の三過程)」を示した上で,「振り返り(Re-flection)」 は「 記 述(Description)」,「 分 析(analy-sis)」,「表現(Articulation)」の三つの過程を経る必

要があると指摘している2)。その中で,Ash &

Clay-ton(2004)は,学習者に対する問いかけとして,次の 四 つ を あ げ て い る(p.142)。「 ① 何 を 学 ん だ の か (What did I learn?)」,「 ② ど の よ う に 学 ん だ の か (How, specifically, did I learn it?)」,「③なぜこの学び が重要なのか,なぜこの学びが意義深いのか(Why does this learning matter, or why is it significant?)」, 「④どのようにこの学びを使うのか(In what ways

will I use this learning?)」の四つである。

 冒頭で取り上げた文部科学省初等中等教育分科会 (2017)が示すこれからの教育過程「何ができるよう

になるか」,「何を学ぶのか」,「どのように学ぶか」は, 上述した学習者に対する Ash & Clayton の問いかけに

・What sense can you  make of the situation? ・What happened? 記述 Description 感覚 Feelings 評価 Evaluation 分析 Analysis 結論 Conclusion 行動計画 Action plan

・What were you thing  and feeling?

・What was good and bad  about the experience? ・If it arose again, what

 would you do?

・What else could you  have done? 図 2 振り返りサイクル論 出所:Gibbs, G. (1988). 実践 Testing implications of concepts in new situations 経験 Concrete experience 振り返り Observations and reflections 概念化 Formation of abstract concepts 図 1 経験学習サイクル論 出所:Kolb, D. A. (1984, p.21), Figure 2-1.

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帰結するものである。文部科学省大学分科会(2016) が示す,「卒業認定・学位授与の方針(Diploma cy)」,「教育課程編成・実施の方針(Curriculum Poli-cy)」,「入学者受入れの方針(Admission Policy)」は, Ash & Clayton(2004)の学習者に対する四つの問い かけが土台になって策定されたと考えられる。

2.日本の大学教育における「振り返り (Reflection)」に関する先行研究

 Ash & Clayton(2004)は,経験を積んで学んだこ とを明確に表現していく過程を「明確な学び(Articu-lated Learning)」と呼んでいる。経験学習,振り返り, 明確な学びについて,倉本(2004),志々田ら(2009), 森定(2010)など,日本ではサービス・ラーニング (Service Learning)における振り返りの効果を検証 した一定の研究蓄積もある3)。しかしながら,「ふり かえる力に注目が集まる一方で,ふりかえり支援につ いての知見が進んでいるとは言えない」(和栗 2010, 96 頁)という指摘もある。和栗(2010)では「他者 と共に,思考や感情,行動などについて粘り強く考察 するプロセスを経て,意味や概念を創出する・ものご とを別な角度から見るための(ふりかえり)支援が必 要となる。そのような(ふりかえり)支援は,教員自 身がふりかえりの習慣を身につけていかなければ困難 である」(97 頁)と締めくくっている(括弧内筆者加 筆)。  米谷(2016)では,振り返り支援のために教員が果 たすべき役割は何か。その役割を果たすために必要な 能力は何か。必要な能力を身につけ,磨き伸ばすため に,教員は何をすべきかを議論している。和栗と同様 に米谷(2016)も「教員自ら Active Learning を通し て自立的な学習者となっていることが望ましい」(3 頁)と指摘している。 3.分析方法  いかに学生たちが「主体的な学び」を実践し,どの ような成果を残すことができたのか。筆者による振り 返り支援の取り組みとその結果を検証する。まず,筆 者による振り返り支援の取り組みと,それに対する学 生たちの受け取り方を検討する。次に,松山短期大学 2 年次生の大学 3 年次編入学試験受験結果と振り返り 支援の有無について検討する。  その上で,なぜ同じ授業を受けているにもかかわら ず,成績に差が出るのかを考察する。

Ⅲ.振り返り支援の取り組み:主体的な学

びの追求

 表 1 に示されたように,授業 90 分と授業外学習 120 分が 1 対になった授業を設計し,学生たちの振り返り 支援を行った。授業設計は,Ash & Clayton(2004) が示した「振り返りフレームワーク」に基づき,学生 たちが振り返りの三過程を経られるように設計し, Active Learning の各技法を導入した4)  表 1 に示されたとおり,筆者が担当している授業で は, 授 業 開 始 5 分 後, 中 高 生 向 け の「NHK for School:10min. ボックス 2017 年度公民」を学生たち に見せ,要点を記述させた。授業開始 15 分後の講義 (35 分間)では,講義の要点とレポート課題(大学 3 年次編入学試験小論文予想問題)を示した上で,板書 を記述させた。授業開始 55 分後には,レポート課題 を学生個々人で分析させた。授業開始 70 分後には, 学生 3 人でお互いの分析結果を採点,討論させた。そ の上で,授業開始 85 分後には,レポート課題の分析 結果に対して,自己と他者の違いを比較させて,授業 外学習でのレポート課題(大学 3 年次編入学試験小論 文予想問題)完成を促した。記述,分析,表現の過程 において,学生 3 人でお互いの分析結果を採点,討論 させることが「他者と共に,思考や感情,行動などに ついて粘り強く考察するプロセスを経て,意味や概念 を創出する・ものごとを別な角度から見るためのふり かえり支援」(前掲,和栗 2010,97 頁)である。  レポート課題の提出は任意としたが,レポート課題 の平均提出率は,表 2 のとおり 76%であった。授業 外学習を 120 分ほど取り,レポートを作成させること, 表 1 授業 90 分と授業外学習 120 分が 1 対になっ た授業設計 時間 内容 Active Learningの技法 振り返り過程 授業 5 分 前回の復習 10 分 動画教材 映像活用学習 記述 35 分 講義 当日レポート方式 ↓ 5 分 おさらい クイズ形式授業 ↓ 15 分 小論文作成 Peer Instruction 分析 15 分 相互採点 ↓ 5 分 独り反省会 Minute Papers ↓ 自宅 120 分 小論文完成 授業後レポート 表現

出所: 「The development of a rigorous reflection framework」 (Ash & Clayton, 2005, p.140)を基に筆者作成。 注: 動画教材は,振り返りサイクル(Gibbs, 1988,本稿第 II 章

図 2)の記述,感覚から評価へ橋渡しするために,中高生 向けの「NHK for School:10min. ボックス 2017 年度公 民」各回を使用した。

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つまり,大学 3 年次編入学試験小論文予想問題を解か せる一連の過程が,大学 3 年次編入学志望学生に対す る振り返り支援の取り組みである。  授業外学習時間を 120 分ほど取り,レポートを作成 させること(大学 3 年次編入学試験小論文予想問題を 解かせること)が,大学 3 年次編入学志望学生に対す る筆者の振り返り支援の取り組みである。この筆者の 振り返り支援について,学生たちはどのように受け止 めていたのかを示すものが,図 3,図 4,図 5 である。  履修者 A(図 3),履修者 B(図 4),履修者 C(図 5)に共通して言えることは,「①何を学んだのか」は レポート課題(大学 3 年次編入学試験小論文予想問 題)の各テーマ,「②どのように学んだのか」はレ ポート課題に対する経済学的な捉え方,「③なぜこの 学びが必要なのか」は大学 3 年次編入学試験問題であ る小論文を解くため,「④どのようにこの学びを使う のか」は大学 3 年次編入学試験合格水準を満たした小 論文を書くためであろう。

Ⅳ.振り返り支援の成果

 Kolb(1984),Gibbs(1988),Ash & Clayton(2004) の教育原理に基づき,筆者が松山短期大学で振り返り 支援を行った授業は「現代日本経済論Ⅰ・Ⅱ」と「中 小企業論Ⅰ・Ⅱ」である。大学 3 年次編入学試験では 小論文を課す大学が多いので,第Ⅲ章で述べたように, 学生たちが授業外学習時間を 120 分ほど取り,レポー トを作成する仕組み(大学 3 年次編入学試験小論文予 想問題を自宅で解く仕組み)を作ることが,大学 3 年 次編入学志望学生に対する振り返り支援の取り組みで ある。振り返り支援を受けた学生(現代日本経済論 Ⅰ・Ⅱ」と「中小企業論Ⅰ・Ⅱ」の履修生)と,振り 返り支援を全く受けていない学生(現代日本経済論 Ⅰ・Ⅱ」と「中小企業論Ⅰ・Ⅱ」の未履修生)につい て,振り返り支援の効果があったかを測る目安が,大 学 3 年次編入学合格者数に占める振り返り支援を受け た学生数の割合である。大学 3 年次編入学試験を受験 した松山短期大学 2 年次生 48 人のうち,合格者は 31 人であった(合格率 65%)。振り返り支援を受けた学 生 33 人の合格率 70%(合格者 23 人)に対し,振り返 り支援を受けなかった学生 15 人の合格率 53%(合格 者 8 人)と,振り返り支援を受けた学生の合格率が 17 ポイントも上回っている。  表 3 は,松山短期大学 2017 年度大学 3 年次編入学 試験受験者 48 人について,振り返り支援を受けた学 表 2 任意のレポート課題提出数(N = 26) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 合計 提出者数(人) 18 21 20 21 19 16 20 20 20 21 21 217 提出率 69% 81% 77% 81% 73% 62% 77% 77% 77% 81% 81% 76% 出所:松山短期大学商科 2017 年度「現代日本経済論Ⅰ」のレポート課題提出一覧表から筆者作成。 注: 表頭の数字は,レポート課題出題回を表していてい,松山短期大学商科 2017 年度「現代日本経済論Ⅰ」では,任意では あるが,11 回のレポート課題提出を促した。 図 3 授業外学習の取り組み①(松山短期大学商科 2017 年度「現代日本経済論Ⅰ」履修者 A) 出所: 松山短期大学商科 2017 年度「現代日本経済論Ⅰ」第 10 回(2017 年 7 月 3 日実施)Minute Papers から抜粋。 図 4 授業外学習の取り組み②(松山短期大学商科 2017 年度「現代日本経済論Ⅰ」履修者 B) 出所: 松山短期大学商科 2017 年度「現代日本経済論Ⅰ」第 10 回(2017 年 7 月 3 日実施)Minute Papers から抜粋。 図 5 授業外学習の取り組み③(松山短期大学商科 2017 年度「現代日本経済論Ⅰ」履修者 C) 出所: 松山短期大学商科 2017 年度「現代日本経済論Ⅰ」第 10 回(2017 年 7 月 3 日実施)Minute Papers から抜粋。

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生 33 人と振り返り支援を受けなかった学生 15 人を分 類したものである。  表 3 に示されたとおり,松山大学経済学部編入学試 験合格者 13 人のうち,振り返り支援を受けた学生が 12 人(92%)を占めている。他方,松山大学経済学 部編入学試験合格者 13 人のうち,振り返り支援を受 けていない学生は 1 人(8%)であった。松山大学経 済学部編入学試験合格者のうち,振り返り支援を受け た学生の比率は,振り返り支援を受けていない学生の 割合より 84 ポイントも上回っていた。  また,松山大学と他大学の経済学部以外の編入学試 験を合格した 18 人のうち,振り返り支援を受けた学 生は 11 人(61%)を占めている。他方,松山大学と 他大学の経済学部以外の編入学試験を合格した 18 人 のうち,振り返り支援を受けていない学生は 7 人 (39%)であった。松山大学と他大学の経済学部以外 の編入学試験合格者のうち振り返り支援を受けた学生 の比率は,振り返り支援を受けていない学生の割合よ り 22 ポイントも上回っていた。  このように,大学 3 年次編入学試験合格者に占める 振り返り支援を受けた学生の比率は非常に高く,振り 返り支援の成果が表れている。  松山大学経済学部編入学試験の合格率を比べると, 振り返り支援を受けた学生 71%(合格者 12 人/受験 者 17 人)に対して,振り返り支援を受けなかった学 生 20%(合格者 1 人/受験者 5 人)であった。松山大 学経済学部編入学試験の合格率は,振り返り支援を受 けた学生が 51 ポイントも上回っていた。  他方,松山大学と他大学の経済学部以外の編入学試 験の合格率を比べると,振り返り支援を受けた学生 69%(合格者 11 人/受験者 16 人)に対して,振り返 り支援を受けなかった学生 70%(合格者 7 人/受験者 16 人)であった。松山大学と他大学の経済学部以外 の編入学試験の合格率は,振り返り支援を受けた学生 が 1 ポイントを下回っていたが,振り返り支援を受け た学生と受けなかった学生の合格率には大差がない。  筆者による振り返り支援は,松山大学と他大学の経 済学部以外の編入学試験合格には有効かどうかはわか らないが,松山大学経済学部編入学試験合格にはとて も有効であったことが明らかになった。

Ⅴ.考察

 振り返り支援を受けた学生33人の中で,大学3年次 編入学試験に合格した学生 23 人と,合格しなかった 学生 10 人の違いは何か。成績,授業内容の理解度, 経済学習得の必要性,経済学を使った身の回りの課題 への適応,授業外学習時間などについて,振り返り支 援を受けた学生 33 人(大学 3 年次編入学試験受験者) に対するアンケート調査の結果を表 4 に示した(回収 数 18 人,回収率 55%)。しかしながら,このアンケー ト調査の結果は,水準あたりのサンプルサイズが 5 を 下回っていることもあり,検定力が低く,特徴がつか めなかった(有意な結果は出なかった)。  全く同じ授業を受けているにもかかわらず,なぜ一 方は大学 3 年次編入学試験に合格し,なぜ他方は大学 3 年次編入学試験に不合格だったのだろうか。  あるいは,全く同じ授業構成にもかからず,なぜ松 山大学生と松山短期大学生の成績に差が生じるのか。  筆者が担当している同じ授業構成の 2016 年度松山 大学「中小企業論」(N = 56),2017 年度松山大学 「中小企業論」(N = 45),2016 年度松山短期大学「中 小企業論Ⅰ」(N = 55),2017 年度松山短期大学「中 小企業論Ⅰ」(N = 41)の成績について,分布に違い 表 3 大学 3 年次編入学試験合格者数 経済学部(松山大学のみ) その他の学部(松山大学+他 大学) 受験者 合格者 合格率 受験者 合格者 合格率 振り返り支援あり 17 12 71% 16 11 69% 振り返り支援なし 5 1 20% 10 7 70% 合計 22 13 59% 26 18 69% 振り返り支援あり・経済学部合格者数 12 人/合格者数 13 人 92% 振り返り支援あり・その他の学部合格者数 11 人/合格者数 18 人 61% 出所:松山大学(2018)を基に筆者作成。 注 1: 表中の「振り返り支援あり」は,筆者が松山短期大学で振り返り支援を行った「現代 日本経済論Ⅰ・Ⅱ」と「中小企業論Ⅰ・Ⅱ」の履修者を表している。 注 2: 表中の「振り返り支援なし」は,松山短期大学「現代日本経済論Ⅰ・Ⅱ」と「中小企 業論Ⅰ・Ⅱ」の未履修者を表している。

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があるかどうかを検討するため,1 要因の分散分析を 行った。各群の平均値とそのバラツキは,図 6 に示し たとおりである。分散分析の結果,群間の得点差は 0.1%水準で有意であった(F (3, 196) = 8.23, p < .01)。次にボンフェローニの多重比較検定(5%水準) を行ったところ,各年度で短大 1-2 年生は大学 3-4 年 生に比べて,高い成績を収めていることが有意に表れ た。  授業構成,シラバス,担当教員が同じであれば,学 年から考えて大学 3-4 年生の方が短大 1-2 年生よりも 平均点は高いはずである。しかしながら,図 6 に示さ れたとおり,短大 1-2 年生の方が大学 3-4 年生よりも 平均点は高かった。  なぜ短大 1-2 年生の方が,大学 3-4 年生よりも成績 評価が高かったのか。なぜなら松山短期大学の短大 1-2 年生が松山大学の 3 年次編入学推薦試験を受ける ためには,高い成績評価を取らなければならないから である。短大 1-2 年生は単位修得に対する高い目標, やる気や学習意欲を持っていた。  全く同じ授業を受けているにもかかわらず,短大 1-2 年生の中でも,大学 3 年次編入学試験に合格する 学生と合格しない学生がいるかについても,単位修得 に対する高い目標,やる気や学習意欲に差があるから だと考察する。  授業に対する学生たちの単位修得目標,やる気,学 習意欲は,学生が授業を通じて,①何を学んだのか, ②どのように学んだのか,③なぜこの学びが必要なの か,④どのようにこの学びを使うのかに帰結する。振 り返り支援を受けた学生に共通して言えることは, 「①何を学んだのか」はレポート課題(大学 3 年次編 表 4 振り返り支援を受けた学生の特徴(n = 18) 成績 授業内容 経済学習得の必要性 経済学を使った課題適応 現代日本経済Ⅰ・Ⅱの授業外 学習時間/週あたり 2 年次前期 2 年次後期 2 年次通年 合格者 1 100 難しい 多少習得の必要性を感じた あまり自信がない 未回答 未回答 未回答 合格者 2 90 難しい 多少習得の必要性を感じた 自信がない 未回答 未回答 未回答 合格者 3 90 難しい 習得の必要性を感じた 多少自信がある 3-4 時間 5 時間 3-4 時間 合格者 4 100 やや難しい 習得の必要性を感じた 自信がない 3-4 時間 1-2 時間 2-3 時間 合格者 5 100 やや難しい 習得の必要性を感じた 多少自信がある 1-2 時間 3-4 時間 1-2 時間 合格者 6 94 やや難しい 習得の必要性を感じた あまり自信がない 3-4 時間 1-2 時間 2-3 時間 不合格者 a 90 やや難しい 習得の必要性を感じた 多少自信がある 未回答 未回答 未回答 不合格者 b 84 やや難しい 習得の必要性を感じた 自信がある 未回答 未回答 未回答 不合格者 c 79 やや難しい 習得の必要性を感じた 多少自信がある 未回答 未回答 未回答 合格者 7 94 やや難しい 多少習得の必要性を感じた 多少自信がある 1-2 時間 1-2 時間 1 時間 不合格者 d 71 やや難しい 多少習得の必要性を感じた あまり自信がない 未回答 未回答 未回答 合格者 8 100 ちょうどいい 習得の必要性を感じた 多少自信がある 3-4 時間 未回答 3-4 時間 合格者 9 98 ちょうどいい 習得の必要性を感じた 多少自信がある 未回答 未回答 未回答 不合格者 e 90 ちょうどいい 習得の必要性を感じた あまり自信がない 1-2 時間 3-4 時間 2-3 時間 合格者 10 90 ちょうどいい 習得の必要性を感じた 自信がある 3-4 時間 未回答 3-4 時間 合格者 11 85 ちょうどいい 習得の必要性を感じた 自信がある 未回答 未回答 未回答 合格者 12 100 ちょうどいい 多少習得の必要性を感じた 多少自信がある 未回答 未回答 未回答 不合格者 f 96 ちょうどいい 多少習得の必要性を感じた 多少自信がある 5 時間 1-2 時間 3-4 時間 出所:筆者が作成した授業アンケートの感想に対する集計結果から作成。 注 1:表中の「成績」は,2017 年度「現代日本経済論Ⅰ」の成績評価である。 注 2: 表中の「合格者」は,大学 3 年次編入学試験合格者,表中の「不合格者」は大学 3 年次編入学試験不合格者をそれぞれ表し ている。 2016年度大学生2016年度短学生2017年度大学生2017年度短学生 100 90 80 70 60 50 40 平均+SD 平均+SE 平 均 各水準の平均値 【年度別の大学生・短大生】 点数 図 6 各中小企業論の平均点と点数のバラツキ 出所:成績評価一覧から筆者作成。

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入学試験小論文予想問題)の各テーマ,「②どのよう に学んだのか」はレポート課題に対する経済学的な捉 え方,「③なぜこの学びが必要なのか」は大学 3 年次 編入学試験問題である小論文を解くため,「④どのよ うにこの学びを使うのか」は大学 3 年次編入学試験合 格水準を満たした小論文を書くためであった。「(Ac-tive Learning 授業では)何を問題にして,それにど のようにアプローチするか。それが学習者自身にとっ て意味のある,やる気を起こすものとなっているかど うか」(括弧内筆者加筆)という,米谷(2016,6 頁) の指摘のとおりである。  第Ⅲ章で述べたように,筆者が行った授業 90 分と 授業外学習 120 分が 1 対になった授業設計と学生たち に対する振り返り支援によって,学生たちは授業外学 習時間に 120 分ほど費やし,レポート課題(大学 3 年 次編入学試験小論文予想問題)を作成した。その積み 重ねの結果,振り返り支援を受けた学生 33 人のうち 23 人(70%)は,1 年を通した授業外学習時間の継続 と大学 3 年次編入学試験合格という成果に結びついた。 とくに,筆者による振り返り支援は,経済学部の合格 率に大きな効果があったこともわかった。  筆者の授業 90 分と授業外学習 120 分が 1 対になった 授業と学生たちに対する振り返り支援は,学生たちを 自律的学習者へ導くことができたといる。他方,振り 返りを支援する教員自身にも,授業を通じて学生たち に,①何を学ばせるのか,②どのように学ばせるのか, ③なぜこの学びが必要なのか,④どのようにこの学び を使うのかを常に自問自答し,学生に対しても教員自 ら自律的学習者の模範となるべきであろう。

Ⅵ.結論

 本稿の目的は,筆者による振り返り支援の取り組み とその成果について,授業外学習の時間,大学 3 年次 編入学試験の受験結果から検証することである。検証 の結果,筆者が行った授業90分と授業外学習120分が 1 対になった振り返り支援は,学生たちが Minute Pa-pers に記しているとおり,1 年を通した授業外学習時 間の継続をもたらした。つまり,筆者による振り返り 支 援 は, 学 生 た ち を 自 律 的 学 習 者(Autonomous Learners)へ成長させたと言えよう。  筆者が行っている振り返り支援は,「経験学習サイ ク ル 論 」(Kolb, 1984),「 振 り 返 り サ イ ク ル 論 」 (Gibbs, 1988),「振り返りフレームワーク」(Ash &

Clayton, 2004)で重視されている,学生による学習の 「振り返り(Reflective)」に重点を置いたからこそ, 学生たちは授業外学習に励むことができたと結論づけ る。  本稿で検証した授業 90 分と授業外時間 120 分が 1 対 になった振り返り支援は,高等教育機関における質的 な授業改善を考えていく上で,僅かながらも学術的な 貢献があったと思われる。 付記   本稿は,松山大学 2017 年度教育研究助成による成果の一 部である。 註 1) 文部科学省高等学校部会(2016)では,①「主体的な学 び」,②「対話的な学び」,③「深い学び」の実現に向け て,11 頁に以下のとおり整理されている。 ①  主体的な学びの実現とは「学ぶことに興味や関心を 持ち,自己のキャリア形成の方向性と関連づけなが ら,見通しを持って粘り強く取組み,自らの学習活 動を振り返って次につなげる」(下線は筆者による) ことである。 ②  対話的な学びの実現とは「子供同士の協働,教員や 地域の人との対話,先哲の考え方を手掛かりに考え ること等を通じ,自らの考えを広げ深める」ことで ある。 ③  深い学びの実現とは「習得・活用・探究の見通しの 中で,教科等の特質に応じて育まれる見方・考え方 を働かせて思考・判断・表現し,学習内容の深い理 解や資質・能力の育成,学習への動機付け等につな げる」ことである。

2) Ash & Clayton(2004, p.140) で は「 振 り 返 り(reflec-tion)」について,次の三つの過程を経なければならない ことを示している(斜字体は原文のイタリック体に合わ せている)。 ①  経験の(客観的な)記述(Description (objectively) of an experience)。 ②  学 び の 種 類 に 従 っ た分 析(Analysis in accordance with relevant categories of learning)。

③  学 ん だ 成 果 の表 現(Articulation of learning out-comes)。 3) サービス・ラーニング(Service Learning)とは「社会貢 献活動などを通じて学ぶ(Active Learning の)技法」 (中井 2015,172 頁,括弧内筆者加筆)である。 4) 以 下 の Active Learning の 各 技 法 に つ い て は, 中 井 (2015)による。 ①  映像学習法とは「ドキュメンタリーなど映像を活用 して議論やグループ研究する技法」(中井 2015,172 頁)である。

②  当日レポート方式(Brief Report of the Day)とは 「レポートを書くことを目的として授業を進める技 法」(中井 2015,167 頁)である。 ③  クイズ形式授業とは「講義の合間にクイズを取り入 れる技法」(中井 2015,171 頁)である。 ④  Peer Instruction とは「教員が提示した課題について, 学生同士で解答を考えさせる技法」(中井 2015,168 頁)である。 ⑤  Minute Papers とは「授業終了時に学生にコメントを 書かせる技法」(中井 2015,161 頁)である。

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⑥  授業後レポートとは「授業で学んだことや議論した ことをふまえて A4 用紙 1 枚程度のレポートを書かせ る技法」(中井 2015,175 頁)である。 参考文献 [1] 倉 本 哲 男(2004)「 サ ー ビ ス・ ラ ー ニ ン グ(Service Learning )の授業構成因子に関する研究:『リフレクショ ン』(Reflection)との関係性に着目して」『教育方法学研 究』30,59-70 頁。 [2] 志々田まなみ,熊谷愼之輔,佐々木保孝(2009)「サービ ス・ラーニングにおけるセルフアセスメントに関する一 考察:教育的体験を学習成果につなげるための『ふり返 り』に着目して」『広島経済大学研究論集』32(2),1-9 頁。 [3] 中井俊樹(2015)『アクティブ・ラーニング:シリーズ大 学の教授法 3』玉川大学出版部,228 頁。 [4] 松山大学経営企画部広報課(2018)『松山大学学園報 2018 WINTER』196,18 頁。 [5] 森定玲子(2010)「サービス・ラーニングにおける『ふり 返り』の視点と方法に関する一考察:プール学院大学の 実践を事例として」『プール学院大学研究紀要』50, 117-128 頁。 [6] 文部科学省中央教育審議会初等中等教育分科会(2016) 「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ補 足資料(整理中)」資料 2-4,25 頁。 [7] 文部科学省中央教育審議会教育課程部会高等学校部会 (2016)「第 5 回配付資料 1:学習指導要領改訂の方向性 (案)」10 頁。 [8] 文部科学省中央教育審議会大学分科会(2016)「第 5 回配 付資料 1:学習指導要領改訂の方向性(案)」10 頁。 [9] 和栗百恵(2010)「『ふりかえり』と学習:大学教育にお けるふりかえり支援のために」『国立教育政策研究所紀要』 139,85-100 頁。 [10] 米谷淳(2016)「授業改善に関する実践的研究 13:アク ティブ・ラーニングと教員(2)」『大学教育研究』24, 1-7 頁。

[11] Ash, S. L. and Clayton, P. H. (2004). “The Articulated Learning: An Approach to Guided Reflection and Assess-ment”, Innovative Higher Education, 29(2) : pp.137-154. [12] Gibbs, G. (1988). Learning by Doing: A guide to teaching

and learning methods, Further Education Unit, Oxford: Oxford Polytechnic, p.129

[13] Kolb, D. A. (1984). Experiential Learning: Experience as Source of Learning and Development, New Jersey: FT Press, p.288

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参照

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