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症例報告 脳性ナトリウム利尿ペプチドが異常高値を示した 一症例 原田あゆみ 1) 宮平 良満 1) 湯本 浩史 1) 石田 光明 1) 1) 滋賀医科大学医学部附属病院検査部 ) 滋賀医科大学医学部附属病院輸血部 要 白川 綾香 1) 九嶋 亮治 1) 山下 朋子 2) 滋賀県大

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症例報告

脳性ナトリウム利尿ペプチドが異常高値を示した

一症例

原田あゆみ

1)

湯本 浩史

1)

白川 綾香

1)

山下 朋子

2)

宮平 良満

1)

石田 光明

1)

九嶋 亮治

1) 1) 滋賀医科大学医学部附属病院検査部(〒 520-2192 滋賀県大津市瀬田月輪町)  2) 滋賀医科大学医学部附属病院輸血部 要 旨

脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide; BNP)は心不全等で高値を示すことが知られているが,強い心不 全等が存在しないにも関わらず BNP が異常高値を示し,心房性ナトリウム利尿ペプチド(atrial natriuretic peptide; ANP) 値と乖離した症例に遭遇した。そこで,その原因について検討し,推察される若干の知見が得られたので,報告する。症 例は 77 歳,女性。他院で狭心症・高血圧で経過観察されていた。ANP は 81.9 pg/mL であったが,BNP が 35,347 pg/mL と 異常高値を示したため,紹介受診となった。その後も BNP の異常高値が持続したが,臨床症状とは合致せず,心エコー や心電図からも原因は特定できなかった。一方,測定原理や測定法の相違により BNP 値に解離が生じている可能性を検 討するため,蛍光酵素免疫測定法及び化学発光酵素免疫測定法で測定したが,同様の値を示した。また,非特異反応の有 無を確認するために希釈直線性試験を実施したが,希釈測定による変化率は 6%以内であった。また,異好抗体の一つで ある HAMA や本法に使用されている標識酵素(アルカリフォスファターゼ;ALP)に対する抗体の影響を確認するため に,それらの吸収剤を添加し測定したが,同様の値であった。さらにゲル濾過分析を行ったところ,患者検体には BNP-32 の分子量である 3.5 kDa よりも高分子分画に免疫活性物質のピークを認めた。BNP の測定系は生理活性を有する BNP-32 だけでなく pro-BNP も測り込んでいることが知られている。本症例では,pro-BNP に自己抗体等の結合,或いは pro-BNP から BNP-32 に切断する酵素の欠損により pro-BNP が異常に蓄積したことで BNP 値が異常高値を示したと推察された。 キーワード 脳性ナトリウム利尿ペプチド,脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体 N 端フラグメント,心房性ナトリウム利尿ペプチド, 蛍光酵素免疫測定法,化学発光酵素免疫測定法 脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide; BNP)は,心筋へのストレスに反応して主に 心室から全身へ分泌されるホルモンであり,心不全 例では重症度とともに BNP 値が上昇することが知ら れている。さらに,心不全以外でも左室肥大,急性 心筋梗塞,肺高血圧などの重症度と比例して増加す るため,循環器疾患の治療効果の判定や予後の指標 になることが判明している1)。 我々は BNP 値が継続的に異常高値を示し,臨床症 状と合致しない症例に遭遇した。今回,その原因に ついて検討したので報告する。 I 症 例 症例:77 歳,女性。 既往歴:糖尿病,狭心症,高血圧で他院にて通院。 前医にて,心エコーで心筋肥大・拡張障害を認め るが,著明な肺高血圧や静脈拡張は認めず,NYHA III 度の心不全であった。2014 年 2 月 14 日 BNP 35,347 pg/mLと高値で当院に精査目的で紹介受診と なった。 当院での検査値:2014 年 2 月 18 日 BNP 35,117

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pg/mL(当院での基準値:18.4 pg/mL 以下),血糖 178 mg/dL(基準値:70–109 mg/dL),HbA1c 7.0% (基準値:4.6–6.2%),BUN 25.8 mg/dL(基準値: 8.0–22.0 mg/dL),CRE 1.44 mg/dL(基準値:女性 0.40–0.70 mg/dL),K 5.3 mmol/L(基準値:3.6–4.9 mmol/L),IgG 2,297 mg/dL(基準値:870–1,700 mg/dL)。外部委託検査にて NT-proBNP 30,600 pg/mL (基準値:125 pg/mL 以下),ANP 81.9 pg/mL(基準 値:43.0 pg/mL 以下)であった(Table 1)。BNP は 継続的に異常高値を示したが(Figure 1),ANP とは 大きく乖離し,心エコー(EF:68.6%),心電図上か らは,BNP 値が異常高値を示す要因は特定されな かった。 II 検討方法 1.使用機器・試薬 分析機器は AIA-2000(東ソー株式会社)を用い, 測定試薬は E テスト「TOSOH」II BNP を用いて, 蛍光酵素免疫測定(FEIA)法にて BNP を測定した。

Laboratory data at the time of visit

AST 16 U/L IgG 2,297 mg/dL

ALT 9 U/L IgM 103 mg/dL

BUN 25.8 mg/dL IgA 159 mg/dL CRE 1.44 mg/dL eGFR 27.7 mL/min/1.73 m2 BNP 35,117 pg/mL Na 141 mmol/L NT-proBNP 30,600 pg/mL K 5.3 mmol/L ANP 81.9 pg/mL GLU 178 mg/dL HbA1c 7.0% WBC 2,000/μL CRP 0.01 mg/dL 検査日(2/18) Table 1  BNP 検査結果 50,000 (pg/mL) 40,000 30,000 2/18 4/14 5/19 8/9 33,856 49,292 39,955 20,000 10,000 0 35 35,,117117 35,117 Results of BNP levels Figure 1  2.検討内容 (1)他の検査方法(CLEIA 法)との比較 (2)希釈直線性試験 (3)吸収試験 (4)ゲル濾過 以上 4 法にて分析を行った。 III 結 果 1.他の検査方法との比較 測定原理・方法の違いによる測定値の乖離の有無 を検証するために CLEIA 法で測定した。AIA-2000 (FEIA 法)で BNP 24,529 pg/mL であった検体が,ル ミパルスプレスト(富士レビオ株式会社,CLEIA 法)で BNP 23,000 pg/mL と,AIA-2000 と同様な測 定値であった(Table 2)。 2.希釈直線性試験 非特異的反応の有無を検証するために検体希釈試 験を行った。専用希釈液にて 20 倍,50 倍,100 倍, 200倍の希釈系列を作製し,各々の試料を測定した。 BNP値が 20 倍希釈では BNP 23,818 pg/mL,50 倍希 釈では 24,366 pg/mL,100 倍希釈では 24,727 pg/mL, 200倍希釈では 25,203 pg/mL であり,変化比率は, それぞれ 100%,102%,104%,106%であり,20 倍 から 200 倍の希釈測定において変化率が 6%以内と 直線性は良好であった(Table 3)。 3.吸収試験 異 好 抗 体 の 一 つ で あ る ヒ ト 抗 マ ウ ス 抗 体 (HAMA)の影響を検証するために,HAMA に対す る吸収剤である HBR-1(1 mg/mL)を添加して測定 した。 対照として無添加の検体を測定したところ,BNP 値は 27,953 pg/mL であり,対照を比率 100%とする と,HBR-1 添加では BNP 値は 26,720 pg/mL で比率 は 96%であり,HBR-1 添加ではほとんど変化はない ことから,HAMA による影響はないものと考えられ た(Table 4)。

BNP levels in different detection methods

分析装置(検査方法) BNP(pg/mL)

AIA(FEIA 法) 24,529

ルミパルスプレスト(CLEIA 法) 23,000

(3)

また,本法が標識酵素にアルカリフォスファター ゼ(ALP)を使用していることから抗 ALP 抗体の存 在の影響を検証するために抗 ALP 抗体の吸収剤とし て働く無活性 ALP(0.5 mg/dL)を検体に加えて測定 した。その結果,無活性 ALP 添加での BNP 値は

Results of BNP levels by dilution measurement

希釈倍率 BNP(pg/mL) 比率(%) 1/20 23,818 100 1/50 24,366 102 1/100 24,727 104 1/200 25,203 106 ※希釈倍率を乗じて求めた測定値 Table 3 

Results of absorption tests of HAMA and anti-ALP antibody 添加 BNP(pg/mL) 比率(%) 対照(無添加) 27,953 100 HBR-1 26,720 96 無活性 ALP 26,697 96 吸収剤:HBR-1(1 mg/mL) 無活性 ALP(0.5 mg/dL) Table 4  26,697 pg/mLであり,比率は 96%と無活性 ALP 添加 でも対照と比較してほとんど変化はなく,抗 ALP 抗 体による影響はないものと考えられた(Table 4)。 4.ゲル濾過 分子量の違いによる溶出パターンを確認するため にゲル濾過分析を行った(Figure 2)。ゲル濾過分析 のプロトコールは以下のとおりである。Column TSKgel G3000 SWXL(7.8 mm × 30 cm)× 2 を用い て,BioAssist eZ system(東ソー)にて分析した。溶 出液には 0.3 mol/L NaCl,5 mmol/L EDTA,0.1 mol/L phosphate buffer(pH 7.0)を用い,注入量 100 μL を flow rate 0.5 mL/minで 0.5 min ごとに 15~65 min 分 取し,それぞれの分画について BNP 濃度を測定した。 Figure 2はその結果である。上段は対照の BNP 高 値検体による pro-BNP および BNP-32 の溶出パター ンである。中段は患者検体,下段は患者検体のピー ク部分の拡大図である。患者検体には BNP-32 に該 当する約 3.5 kDa に免疫活性物質のピークは認めず, 45 kDaから 200 kDa の高分子分画にそのほとんどが 存在していた。 対照BNP 高値検体 (5,954 pg/mL) 患者検体 患者検体 拡大 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 pg/mL 0 10 20 30 40 50 60 70 pg/mL 0 50 100 150 200 250 300 pg/mL 69 71 73 75 77 79 81 83 85 87 89 91 93 95 fraction number 標準タンパク質 fraction number 1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31 33 35 37 39 41 43 45 47 49 51 53 55 57 59 61 63 65 67 1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31 33 35 37 39 41 43 45 47 49 51 53 55 57 59 61 63 65 67 69 71 73 75 77 79 81 83 85 87 89 91 93 95 1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31 33 35 37 39 41 43 45 47 49 51 53 55 57 59 61 63 65 67 69 71 73 75 77 79 81 83 85 87 89 91 93 95 fraction number 7/28 640,000 150,000 47,000 13,700 1,355 BNP 約3.5 kDa proBNP 約45 kDa ピーク1 約200 kDa ピーク2 約45 kDa

BNP level activity of the control and the patient plasma by the gel filtration compartmentation Figure 2 

(4)

IV 考 通常,BNP は,BNP 遺伝子から転写・翻訳後, BNP前駆体である pro-BNP(1–108)が生成され, その後,生理的に非活性の pro-BNP の N 端から 76 個のアミノ酸からなる NT-proBNP と,生理活性を有 する残りの 32 個のアミノ酸からなる BNP-32 に切断 され,それぞれが NT-proBNP,BNP として測定され る(Figure 3)2)。しかし,最近の報告では,BNP の 測定系は pro-BNP も測り込むことが知られており, 我々が測定している BNP 値は BNP + pro-BNP を意 味していると考えられる3)。また,BNP の前駆体で ある pro-BNP 自体も血中に多く存在することが明ら かになっており,さまざまな病態で pro-BNP が増加 していることが判明している4)~6)。本症例では,ゲ ル濾過分析の結果,BNP-32 の分子量である約 3.5 kDaよりも高分子分画にピークが認められた。その 原因として,pro-BNP に自己抗体等が結合したこと により高分子化されたことが考えられる。また,BNP が異常高値となった原因として,異好抗体の一つで ある HAMA の存在7)ではなく,pro-BNP が影響した preproBNP proBNP BNP-32 NT-proBNP −26 76 OH OH 1 76 108 108 OH 108 1 76 77 1

Schema of synthesis and secretion of BNP Figure 3  と考えられた。すなわち,体内にて生合成された前 駆体 pro-BNP から BNP-32 へ切断する酵素(furin) が欠損または作用できないか或いは pro-BNP に自己 抗体等が結合して高分子化したために BNP-32 へと 変換ができないため BNP が異常高値を示したと考え られる。 V 結 本症例では,体内にて生合成された pro-BNP が自 己抗体等と結合することにより,pro-BNP から BNP-32へ切断する酵素が作用できなかったこと, さらに高分子化し,体内に長く貯留することにより, BNPや NT-proBNP が継続して異常高値したと考え られた。 本論文の要旨は,第 54 回日臨技近畿支部医学検査 学会で報告した。 ■文献  1) 岡本 博照,照屋 浩司:「M 市運動相談事業データからみた中 高年住民の循環機能」,日本臨床内科医学会誌,2014; 29: 265–270.  2) 日本心不全学会:「血中 BNP や NT-proBNP 値を用いた心不 全診療の留意点について」,http://www.asas.or.jp/jhfs/topics/ bnp201300403.html  3) 錦見 俊雄:「BNP,ANP と高血圧」,京都大学内分泌代謝内 科心臓研究,血圧,2012; 19: 884–889.

 4) Nishikimi T et al.: “Direct immunochemiluminescent assay for proBNP and total BNP in human plasma proBNP and total BNP levels in normal and heart failure,” PLoS One, 2013; 8: e53233.  5) Nishikimi T et al.: “Diversity of molecular forms of plasma brain

natriuretic peptide in heart failure-different proBNP-108 to BNP-32 ratios in atrial and ventricular overload,” Heart, 2010; 96: 432–439.

 6) Shimizu H et al.: “Characterization of molecular forms of probrain natriuretic peptide in human plasma,” Clinica Chimica Acta, 2003; 334: 233–239.

 7) 徳竹 佐智夫:「2.事例編 2)検体に起因する異常反応(2)

異好抗体(HAMA など)」,Medical Technology, 2013; 41: 758– 762.

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Case Report

A case of markedly elevated brain natriuretic peptide level

Ayumi HARADA1) Hirofumi YUMOTO1) Ayaka SHIRAKAWA1) Tomoko YAMASHITA2)

Yoshimitsu MIYAHIRA1) Mitsuaki ISHIDA1) Ryouji KUSHIMA1)

1)Department of Clinical Laboratory, Shiga University of Medical Science Hospital (Seta-Tsukinowa-cho, Otsu-shi, Shiga 520-2192, Japan)

2)Shiga University of Medical Science Hospital/Blood Service Center

Summary

The brain natriuretic peptide (BNP) level is increased during heart failure. Herein, we report a case of markedly elevated BNP level with divergence of atrial natriuretic peptide (ANP) level and without severe heart failure, and discuss the possible cause of the elevated BNP level. A 70-year-old female with angina pectoris and hypertension was referred to our hospital because of a markedly elevated BNP level (35,347 pg/mL). The BNP level had been continuously elevated; however, the ANP level was slightly elevated (81.9 pg/mL) and no severe heart failure was present, as determined by echocardiography and electrocardiography. The BNP level was unchanged as determined by fluorescence enzyme immunoassay and chemiluminescence enzyme immunoassay. Dilution measurement revealed that the change ratio was within 6%, suggesting that no coexisting material was present. Moreover, neither a human anti-mouse antibody nor an anti-ALP antibody was present. Gel filtration analyses demonstrated the presence of an immunoreactive peak in the high-molecular-weight fraction, which was different from that of BNP-32. It is recognized that the BNP includes not only bioactive BNP-32 but also pro-BNP. Our analyses revealed that the markedly elevated BNP level in the present case is probably caused by the marked accumulation of pro-BNP owing to the bonding of the autoantibody to the pro-BNP or the lack of an enzyme that breaks down pro-BNP to BNP-32.

Key words: brain natriuretic peptide, N-terminal pro-brain natriuretic peptide, atrial natriuretic peptide, fluorescence

enzyme immunoassay, chemiluminescence enzyme immunoassay

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