1.緒 言 現在,日本は世界に類をみない高齢者社会に向かって おり,65 歳以上の高齢者は 2929 万 3 千人を超え,総人 口に占める割合は 23.1%という状況になっている1).こ のような背景のもと 2006 年 4 月に介護保険が改正され, 介護予防重視型施策への転換がなされ,介護予防事業の 3 本柱のひとつとして摂食,嚥下を支える口腔機能向上が導 入された.また,この改正では高齢者介護施設利用者の食 材費と調理費相当分は保険給付対象外となった.このため 食事提供者は,利用者の負担軽減のために厳しい努力が求 められているのが現状である.しかしながら,高齢者介護 施設においては,おいしさはもちろん喫食者の咀嚼および 嚥下能力に応じた食事を提供し,安全をも確保しなければ ならない.安全な咀嚼・嚥下の遂行には,食物の形態や物 性が重要な役割の果たしていることは既に周知のことで ある. 従来,高齢者介護施設では,咀嚼・嚥下困難者に対して は通常の調理操作によって出来上がった料理をきざんで提 供するきざみ食で対応してきた2).しかし,きざみ食は食 * To whom correspondence should be addressed
E-mail:[email protected] 資 料
要介護高齢者施設における食物形態の実態とその物性評価
鈴野弘子
1*,鈴木恵子
1,石田 裕
1,笹田陽子
2(
1東京農業大学短期大学部,
2盛岡大学栄養科学部)
原稿受付 平成 23 年 11 月 21 日;原稿受理 平成 24 年 3 月 31 日Survey on Forms of Food Served in Nursing Homes for the Elderly
and Evaluation of Their Physical Properties
Hiroko SUZUNO
1*, Keiko SUZUKI
1, Hiroshi ISHIDA
1and Yoko SASADA
2 1 Tokyo University of Agriculture Junior College, Setagaya-ku Tokyo 156-85022 Faculty of Nutritional Science, Morioka University, Iwate 020-0183
We conducted a survey on the forms of food served in nursing homes for the elderly and evaluated their physical properties by measuring the texture. The forms of food were mostly determined according to the observations of such experts as dietitians and registered dietitians. The suitability of the forms of the food was mostly assessed by care providers. We observed that the nursing homes provided 4.0 ± 2.5 forms of major staples and 4.4 ± 2.3 forms of side dishes as averages. The meat dishes served at the nursing homes had been cooked to be sufficiently soft according to the requirements specified by the universal design food table. The hardness of rice gruel and mixed rice gruel met the requirements applied to foods for people with difficulty in swallowing as specified by the Ministry of Health, Labour and Welfare, although the adhesiveness was too high to meet the requirements. The texture of chawan-mushi satisfied the Level III allowance, but the adhesiveness of steamed egg custard exceeded the Level III allowance. The hardness and adhesiveness of the rehydrating jelly drink met the Level II or III allowance, and its degree of cohesiveness was between 0.2 and 0.6. These results indicate that the forms of food served in nursing homes are suitable and safe for consumption by the elderly.
Keywords:mastication and swallowing difficulty 咀嚼・嚥下困難,elderly 高齢者,nursing home
事摂取量の減少を伴い,誤嚥性肺炎の発症が問題となって いる3,4).近年では,舌でつぶせる硬さですでに食塊を形 成しているなどの条件を備えたソフト食5)を要介護高齢 者施設に導入し,栄養状態の維持・向上に寄与したことも 報告されている6). 現在,多くの施設においては,提供する食物の形態は独 自で設定している7).このことから食物形態の分類や定義, 用語を統一し,情報を共有して食事の質を高めようとして いる現場サイドの動きもある.また,日本摂食・嚥下リハ ビリテーション学会では,中高年の脳卒中や加齢等による 中途嚥下障害を主な対象として想定した嚥下調整食 5 段 階試案を提案し,パブリックコメントを求めている8). 一方,食物の物性の目安になるものには,加工食品では 厚生労働省の定めた「えん下困難者用食品許可基準」9), 日本介護食品協議会の定めた「デザインフードの区分と物 性規格」の自主規格10)がある.しかし,実際に食事を提 供している現場においては,物性測定は困難であることか ら,食事提供者は安全であるかどうか常に疑問を持ちなが ら提供しているのが現状である. そこで,食事提供者も安心して提供し,喫食者も安心し て食べられるような安全な介護食が展開されるための情報 の共有を目的に,要介護高齢者施設で提供されている食物 形態をアンケート調査により把握し,さらに実際に提供さ れている介護食を再現し,物性評価を行った. 2.方 法 (1)食物形態の実態アンケート調査 1)調査対象 2009 年 8 月~ 9 月,東京都および岩手県の介護老人 福祉施設(特養),有料老人ホーム,軽費老人ホームなど 70 件に送付した.これらは,栄養士連絡会などで積極的 に情報交換などの活動を行っている施設である.回収率は 77.1%であった. 2)調査内容 アンケート内容は,①施設概要の項目として,施設の種 類,食事のサービス内容,入居者数,入居者年齢,介護度, 運営方法,調理システム,スタッフの人員および勤務形態, ②食物形態に関する項目として,食物形態の決定および適 性判断の方法,主食および副食の食物形態区分,食物形態 区分の基準の有無,市販介護用食品の利用,今後の介護食 の計画とした. (2)食物の物性評価 1)試 料 レシピおよび調理方法の情報提供等の協力が得られた高 齢者介護施設で提供されている料理を物性測定の試料とし た.料理の選択にあたっては,施設での提供頻度が多く, 共通性のある料理を選択した.すなわち主食として,粥は 全粥,ミキサー全粥,副食として肉料理はハンバーグ,豆 腐ハンバーグ,ミートローフ,松風焼き,卵料理は卵豆腐, 茶碗蒸し,高齢者介護では欠かせない水分補給ゼリーは, 紅茶ゼリー,ポカリスエットゼリーを実際に行われている 調理法に従って調理した.それぞれの料理のレシピは表 1 ~ 3 に示した.なお,肉料理は中心温度 85℃を確認して から調理を完了した. 2)測定方法 厚生労働省特別用途食品えん下困難者用食品の許可基準 の測定条件に従い9),粥,卵料理,水分補給ゼリーのテク スチャーをレオナー RE2-33005S(山電製)で測定した. すなわち,試料を直径 40mm,高さ 20 mmの容器に 15 mm充填し,直径 20 mm,高さ 8 mmの樹脂製のプラン ジャーを用いて圧縮速度 10 mm /sec,クリアランス 5 m m(圧縮距離 10mm,厚さの 66.7%)で 2 回の圧縮測定 を行い,硬さ,凝集性,付着性を求めた.測定温度は,温 かくして食するもの(粥,茶碗蒸し)は,調理完了後に 45℃と 20℃に保ち,また常温や冷たくして食するもの(卵 豆腐,水分補給ゼリー)は,20℃と 10℃に保ち測定した. また,日本介護食協議会のユニバーサルデザインフード (以下 UDF とする)の自主規格の試験方法10)に示された 表 1 粥のレシピ 料理名 施設名 材料 (g)分量 作り方 全 粥 A 精白米 100 ① 炊飯器で粥を炊く. ② 上新粉に分量の半分の 水を加え,よく混ぜる. ③ 残りの水を温めておき, ②を加え糊状になるま で加熱する. ④ ①に③を加え混ぜ合わ せる. 水 500 (米の 5 倍) 上新粉 10 (米の 10%) 水 65 (上新粉の 6.5 倍) B 精白米 100 ① 洗米し,分量の水に 30 ~ 60 分浸漬しておく. ② 鍋に入れ,ガス火にか ける. ③ 水に粘りが出てきたら 火を弱め 20 分間加熱 する. ④ 火を止め,ふたをして 20 分間蒸らす. 水 (米の 6.6 倍) 660 C 精白米 100 ① 洗米し,分量の水に 30 ~ 60 分浸漬しておく. ② 炊飯器で炊く. 水 600 (米の 6 倍) ミキサー全粥 B 精白米 100 ① 全粥(施設名 B)①~ ④の作り方と同じ. ② 粥 が 冷 め な い う ち に (80℃以上)スべラカー ゼを加え,米の粒がわ からなくなるまでミキ サーにかける. 水 660 (米の 6.6 倍) スベラカーゼ 3.4 (とろみ調整剤)
測定条件に従い,肉料理の硬さをレオナー RE2-33005S ( 山 電 製 ) で 測 定 し た. す な わ ち,30mm × 30mm × 15mm に切り出したものを測定試料とし,直径 20mm の プランジャーで圧縮速度 10mm/sec,クリアランス 5mm (または試料の厚さの 33.3% として)で測定を行った.得 られた硬さのデータは,それぞれの料理で比較した.一元 表 2 肉料理,卵料理のレシピ 料理名 施設名 材料 (g)分量 作り方 ミートローフ B 牛ひき肉 22 ① ひき肉に炒めた玉ねぎ, 粉ゼラチン,調味料類 を加え,よく混ぜる. ② ①にゆでたミックスベ ジタブルを加える. ③ クッキングシートで② を包み,ガスオーブン で焼く. 豚ひき肉 22 玉ねぎ 32 バター 2 ミックスベジタブル 9 卵 4 パン粉 1 塩 0.3 粉ゼラチン 0.4 牛乳 8 D 鶏ひき肉 30 ① ひき肉に炒めた玉ねぎ, 調味料類を加え,よく 混ぜる. ② クッキングシートで① を包み,スチームコン ベクションで焼く. 豚ひき肉 30 玉ねぎ 20 パン粉 2 卵 5 塩 1 こしょう 少々 牛乳 5 松風焼き B 鶏ひき肉 56 ① 玉ねぎを炒め,鶏ひき 肉の半量を加えてそぼ ろ状にし,調味料を加 える. ② 冷めた①の中に残りの ひき肉,卵,パン粉を 加え,よく混ぜる. ③ バットに②を平らに広 げ,ガスオーブンで焼く. 玉ねぎ 26 卵 5 パン粉 1 白ゴマ 適量 みそ 5.5 しょうゆ 1.7 砂糖 1.5 みりん 1 酒 1 C 鶏ひき肉 40 ① ひき肉に炒めた玉ねぎ, 湯 通 し 後 水 きりし て フードプロセッサーに かけた豆腐,調味料類 を加え,混ぜ合わせる. ② バットに①を平らに広 げ,スチームコンベク ションで焼く. 玉ねぎ 20 絹ごし豆腐 10 白みそ 5 砂糖 2 酒 2 卵 3 パン粉 5 サラダ油 2 卵豆腐 B 卵 37 ① 卵液を作り,こし器で こす. ② 器に卵液を注ぎ,蒸し 器で加熱する. ③ 冷めてから切り分ける. だし汁 37 うす口しょうゆ 0.6 みりん 0.6 塩 0.2 茶碗蒸し B 卵 29 ① 卵液を作り,こし器で こす. ② 器に卵液を注ぎ,蒸し 器で加熱する. だし汁 78 うす口しょうゆ 1 みりん 1 塩 0.5 料理名 施設名 材料 (g)分量 作り方 ハンバーグ B 牛ひき肉 50 ① ひき肉に炒めた玉ねぎ, 調味料類を加え,よく 混ぜる. ② 成形し,ガスオーブン で焼く. 玉ねぎ 26 パン粉 8 牛乳 16 卵 10 塩 0.2 D 豚ひき肉 30 ① ひき肉に炒めた玉ねぎ, 調味料類を加え,よく 混ぜる. ② 成形し,スチームコン ベクションで焼く. 牛ひき肉 30 玉ねぎ 25 牛乳 5 パン粉 10 卵 7 塩 0.3 こしょう 0.3 ナツメグ 少々 豆腐ハンバーグ A 豚ひき肉(赤身) 30 ① ひき肉,レバー,じゃ がいもをゆでる. ② ①と水きりした豆腐を フードプロセッサーに か け, 調 味 料 類 を 加 える. ③ 成形し,スチームコン ベクションで焼く. 木綿豆腐 24 豚レバー 20 生姜 0.5 にんにく 0.1 スキムミルク 1 卵 3 上新粉 2 マヨネーズ 2 粗砕きポテト 10 食塩 0.2 酒 1 D 木綿豆腐 40 ① 豆腐を湯通し後水きり し て フ ー ド プ ロ セ ッ サーにかける. ② ひき肉に①とみじん切 りねぎ,調味料類を加 え,よく混ぜ合わせる. ③ 成形し,スチームコン ベクションで焼く. 鶏ひき肉 30 卵 7 ねぎ 8 しょうが 1 塩 0.3 こしょう 少々 サラダ油 3 砂糖 3 しょうゆ 4 料理名 施設名 材料 (g)分量 作り方 紅茶ゼリー D 紅茶浸出液 300 ① 紅茶浸出液に寒天を加え, 煮溶かす. ② 火から下し,ゼラチンと砂 糖を加え溶かす. ③ 容器に入れて,冷蔵庫で冷 やし固める. ゼラチン 3.6 寒天 0.75 砂糖 7.5 ポカリスエットゼリー B ポカリスエット 22 ① 水を温め,ポカリスエット, ゼラチンを加え,溶かす. ② 容器に入れて,冷蔵庫で冷 やし固める. (粉末) 水 300 ゼラチン 5 C ポカリスエット 18 ① 水を温め,ポカリスエット, ゼラチンを加え,溶かす. ② 容器に入れて,冷蔵庫で冷 やし固める. (粉末) 水 300 ゼラチン 4.5 表 3 水分補給ゼリーのレシピ
配置分散分析後,Tukey-Kramer の HSD 多重比較を用い て検定し,5%未満を有意水準とした. 3.結果および考察 (1)食物形態の実態 1)調査施設の概要 回答施設の種類は,介護老人福祉施設(特養)36 件, 介護老人保健施設 10 件,軽費老人ホーム 4 件,有料老人 ホーム 3 件,その他 1 件の計 54 施設であった.食事サー ビスの内容は,入居者の食事提供(調査対象総施設に対す る割合:98.1%),次いでデイサービス(86.8%),ショー トスティ(79.2%),配食サービス(28.3%),職員への 食事サービスなどであった.入居者の食事管理と併せ,そ の他のサービスもウエイトの大きいものであった. 入居者の平均人数は 83.4 ± 34.0 人であり,全体とし て小中規模の施設が多かった.男女別では,男性平均人 数 16.9 ± 8.0 人,女性平均人数 66 ± 29.9 人であった. 平均年齢は 85.4 ± 2.7 歳であり,男性は平均 81.5 ± 3.3 歳,女性平均 86.1 ± 2.2 歳であった.平均の介護度は 3.60 ± 0.77 となった.すなわち,要介護 4 認定に近い入居者 が多く,中~重度の介護状態であった.これはアンケート の回答先が介護度の高い利用者が入居している介護老人福 祉施設(特養)に集中していることに起因している. 施設の運営状況は,委託と一部委託を合算すると全体の 60% を占め,栄養管理や調理部門における業務のアウト ソーシング化がうかがえた.しかし,調理はほとんどが施 設内の厨房で行っていた. また,調理システムはクックサーブがほとんどであった. 真空調理,クックフリーズ,クックチルなどの計画的な調 理は,労務管理,在庫管理などランニングコスト抑制のメ リットが大きいといわれるが,高額な初期投資が必要にな るため既存の施設への導入には不向きな面があり,まだ浸 透していない状況と思われた. 平均スタッフ数は,管理栄養士 1.2 ± 0.8 人,栄養士 1.3 ± 1.0 人,調理師(員)4.4 ± 3.0 人,調理補助 5.3 人± 5.3 人,その他 0.3 ± 1.0 人であった. 2)食物形態について 喫食者の食物形態の決定方法を図 1 に示した.食物形 態の決定は,管理栄養士・栄養士の判断(調査対象総施設 に対する割合:85.2%)が最も多く,ついで看護師の判断 (83.3%),本人の希望(75.9%),介護職員の判断(74.1%) であり,本人の意向も重要な決定要素になっていた.嚥下 造影検査,飲み込みテスト,RSST テストの結果を反映す るとの回答はわずかであった.介護食については,研究が 進んだ現在,科学的根拠に基づいた決定も必要と思われる が,経験を有した者の観察による判断が主であった.入所 時に摂食機能アセスメントを行っているところもあると思 われるが,本調査は決定方法の詳細を複数回答可として聞 いたものであり,その有無は判断できない.摂食機能アセ スメントを行っている場合は,その内容をすべて回答して いると考えられる.すでに報告されている同様の調査では, 介護職・看護職・歯科衛生士の判断が最も多く,次いで管 理栄養士・栄養士であり,特養,老健,療養型など施設の 違いによる食事形態決定者の違いに有意差はないとされて いる7).これは本調査とは,決定方法の分け方や回答の仕 方(単数回答,複数回答)が異なっているので,単に回答 割合での比較はできないが,決定方法の上位は同じであっ たことから同様な結果であると考えられる.また,本調査 *調査対象総施設に対する割合(複数回答あり) 図 1 食物形態の決定方法
い形態の区分には,とろみ調整剤を添加した粥がみられた. 回答が得られた全ての施設において,健康状態が良好であ り,咀嚼・嚥下機能について問題のない場合の主食は,白 飯が提供されていた.軟飯や全粥の提供については,咀嚼 障害,歯の不具合,口腔内のトラブルなどの理由であった. また,やわらかく,流動性が高まる分粥,重湯やミキサー 粥などでは,咀嚼だけでなく嚥下障害を理由としている割 合が増えた. 副食の形態名称とその形態区分を分類した結果を表 5 に示した.副食は主食に比べ,数多くの形態名称が回答さ れた.副食の形態は平均 4.4 ± 2.3 区分であり,主食同様, 食物形態を細分化して対応していた.特にきざみ食を表す 名称は多く,細かく大きさを設定しているものが多かっ た.2004 年に報告された先行研究の同様な調査の結果で は,主食は 3.1 ± 1.0 区分,副食は 4.1 ± 1.0 区分であっ た11).本調査の方が,若干区分が細分化されていた.こ れは調査対象も異なるため,一慨に言うことはできないが 介護食の進歩も考えられる.また,副食の場合,食物を切 る大きさを具体的に示しているケース,摂食時に利用する スプーンの大きさや箸の持ち上げ易さなど食事道具で示し ているケース,大きさの見本となるモデル食品を具体的に 挙げるケース,また,一般的な調理用語や調理方法によっ て示しているケースがあった.このように一口大やきざみ 食の定義は,各施設によって大きく異なっていた.一方で, ミキサーやペーストの区分では,ゼリー状,テリーヌ状な どのようにきざみ食の基準に比べて,物性の表現があいま いであった. さらに半数以上の施設で食物形態について明文化されて いなかった.すなわち現場の言い伝えで行われていた.日 においても施設の種類による決定方法の違いは認められな かった. 喫食者にとって食物形態が適正であるか否かを判断する ことは安全性を確保するためには必要なことである.そ の適性を判断する方法を図 2 に示した.最も多かったの は介護職員の随時の観察(調査対象総施設に対する割合: 96.3%)であり,看護師の随時の観察(87.0%),定期的 な栄養アセスメント(83.3%),喫食者の希望(70.4%) の順であり,日常的に喫食者の食事場面を担当している者 の観察が多かった.管理栄養士・栄養士は食物形態の決定 はしているが,適性の判断には定期的な栄養アセスメント 以外ではほとんど係わってない実態がわかった.栄養アセ スメントの内容は身体測定,生化学検査,臨床検査,食事 摂取状況調査などの内容である.また,食物形態と身体お よび栄養状態の関連については,本調査で回答の得られた 一施設を対象に調査したところ,適正な食物形態を確保し たことによって,喫食率が向上し,身体状況,血清アルブ ミン値など血液性状が維持され,誤嚥性肺炎も認められ なかったことを報告し6),すでにその効果を明らかにして いる. 主食の形態名称とその形態区分を分類した結果を表 4 に示した.各施設で提供されている主食の形態は,平均 4.0 ± 2.5 区分であった.回答が多かった名称は,ご飯,ミキ サー粥,全粥,粥,軟飯であった.ミキサー粥以外は一般 に良く使う名称であった.ミキサー粥は通常では用いない 名称であるが,上位の回答であったため介護の上では定着 した名称であると思われた.しかし,ミキサーにかけた粥 であってもミキサー粥,粥ミキサーなど施設によって名称 が異なっており,統一性がないことがわかった.やわらか *調査対象総施設に対する割合(複数回答あり) 図 2 食物形態の適性を判断する方法
本摂食・嚥下リハビリテーション学会の提案した嚥下調整 食 5 段階試案8)では,5 段階の区分を設けているが,そ のねらいと特色の説明の中に,各施設で特化した部分には 細かい区分を作成・利用してもよいとある.本調査におい ても特化した部分において,細分化された形態で提供され, 主食,副食ともその名称や基準は多様であった.この細分 化された形態の名称や基準も統一化されれば,より介護食 は発展すると思われた. 3)市販介護食品の使用と今後の計画 市販介護食品の使用は,そのまま提供できるゼリータイ プのものやレトルトの粥,副食,調理したものの物性を調 整するための増粘剤や固形化剤が多かった. 市販介護食品の形態や物性を調理現場で参考にすること が「よくある」,「たまにある」と回答した施設は,全体の 約 7 割であった.現場において試行錯誤している様子が 伺え,提供される食物の形態や物性に対して,現在のとこ ろ最も分かりやすい基準が市販介護食品であることが推察 された. 食事における今後の計画では,ソフト食導入を計画する 施設が最も多かったが,人員や設備の条件により実施が見 送られている場合が多く,ほとんどが検討段階であった. また,一方できざみ食を喫食者に適したかたちで提供でき るように検討したいとの意見もあった. (2)食物の物性評価 1)粥のテクスチャー特性 粥の硬さと付着性の関係を図 3 に示した.なお図中に は,厚生労働省のえん下困難者用食品許可基準の範囲を示 した.主食となる粥の食べ易さに関わる物性は,エネルギー 摂取の面からも重要である12). 測定温度 20℃および 45℃のいずれにおいてもミキサー 全粥以外は,硬さは基準内に入るものの付着性は基準外で 高かった.なお,図には示していないが,凝集性はすべて の粥が許可基準Ⅰを満たした.先行研究13)では,やわら かく,付着エネルギーおよび凝集性が大きいものは,口中 でまとめ易い食物形態であること報告している.したがっ てミキサー全粥より全粥の方が口中でまとめ易いと言え る.特に A 施設の全粥は米粉を添加し,離水などが起こ りにくいように箸でもすくえるぐらいのかたさに仕上げ ているのが特徴である14).A 施設は,独自で工夫し主菜, 副菜などもソフト食の形態として提供し,誤嚥性肺炎の出 現を抑えている6).全粥とミキサー全粥は,凝集性は変わ らないものの,ミキサー全粥の方がやわらかく,付着性が 小さくなっていたため,口中におけるべたつきが少ないと 言え,嚥下機能が低下した人に適したテクスチャーになっ ていると思われた.B 施設と C 施設の全粥は,ガスコンロ と電気釜の熱源の違う炊飯であるが,その物性にはほとん 区分 名称 件数* 関する記述物性に ごはん ご飯(米飯) 48 (88.9) 加水 1.3 倍 五分づき飯 1 (1.9) おにぎり 10 (18.5) 軟飯おにぎり 1 (1.9) 軟飯 13 (24.1) やわらかご飯 (やわらかめ) 5 (9.3) ご飯 7:粥 3 軟飯(飯:粥= 1:2) 1 (1.9) 飯 1:粥 2 ご飯+粥 mix 3 (5.6) 軟らかいご飯 半々 2 (3.7) ご飯 5:粥 5 パン パン 8 (14.8) パン粥 4 (7.4) パン粥ミキサー 4 (7.4) 粥 粥 19 (35.2) 全粥 27 (50.0) 炊粥 1 (1.9) 硬めの粥 1 (1.9) 重湯を除いた ご飯の多い部分 8 分粥 2 (3.7) 7 分粥 7 (13.0) 5 分粥 7 (13.0) 3 分粥 3 (5.6) 分粥(1 ~ 9 分) 1 (1.9) おまじり 1 (1.9) ミキサー粥 ペースト状 ゼリー状 重湯 5 (9.3) ミキサー粥 39 (72.2) ミキサー粥 (米粉) 1 (1.9) 米粉使用 ペースト粥 3 (5.6) 粥ミキサー (ピュレ状) 1 (1.9) ピュレ状 粥ミキサー (ジャム状) 1 (1.9) ジャム状 粥ミキサー (スベラカーゼ) 3 (5.6) スベラカーゼ 粥ミキサー (ソフティア重湯~ 5 分) 1 (1.9) ソフティア重湯~ 5 分 粥ムース 1 (1.9) ソフト粥 1 (1.9) ソフト(米粉使用) 1 (1.9) 米粉使用 とろみ粥 1 (1.9) ソフト 1 (1.9) 粥ゼリー 3 (5.6) 粥ミキサーゼリー 3 (5.6) ゼリー 1 (1.9) 経管経腸 経管・経腸栄養 5 (9.3) *( )内% 表 4 主食の形態名称とその区分の分類
区分 名称 件数* 記述事項 大きさ 硬さ・なめらかさ その他 一般食 普通食 6(11.1) 普通菜 1 (1.9) 小さめに切る 常食 15(27.8) 常菜 5 (9.3) 2 ~ 3㎝,細かめ やわらかめ 一般食 17(31.5) 一般食,普通食 軟菜食 軟食 3 (5.6) 肉一口大,そのまま 魚類骨なし 軟菜 5 (9.3) かみやすい大きさ 舌でつぶせる硬さ+トロミ, 軟らかい食材利用 軟菜一口 1 (1.9) 大きさは一般と同様,5㎜~ 1.0㎝ 漬物,揚げ物,煮物の硬さ調整, 揚げ物汁につける,あんかけ 骨なし魚 軟菜刻み 1 (1.9) 2㎝カット 軟菜極刻み 1 (1.9) 5㎜未満 消化食 1 (1.9) ネギトロ状 一口大 一口大 18(33.3) 常食とほとんど一緒, 箸でさして口に入れられる大きさ, スプーンにのる大きさ, 1 ~ 2㎝,2 ~ 3㎝大,1.5 ~ 2㎝, 1㎝角,2㎝角(以下) 魚料理のとき, 魚類軽く割る程度 一口スライス食 1 (1.9) 1.5㎝角トロミなし,一口大 一口大刻み食 5 (9.3) スプーンにのる大きさ,ブリクサーに よるみじん切り,一口大, みじん切り(+トロミ),2 ~ 3㎜, 3 ~ 5㎜,3㎜角トロミなし,1 ~ 3㎝, 5㎜角,5㎜角(+トロミ),5㎜~ 1㎝, 1㎝角,1.0 ~ 1.5㎝ 舌とあごで噛める フルーツのとき, 魚 3 等分以外常食と 同様 きざみ食 刻み食 35(64.8) 一口大,ティースプーンにのる 大刻み 1 (1.9) 2 ~ 3㎝ 大刻み菜 1 (1.9) 箸で持てる大きさ 魚骨とる 粗刻み 6(11.1) 刻みよりさらに細かく,一口大, 5㎜,1㎝角,2 ~ 3㎝角 荒刻み 4 (7.4) 五分菜 1 (1.9) 1㎝角,軟菜食をスライス 食べやすさと美観に 配慮, 魚などトロミあん使用 中刻み 1 (1.9) 丸のみするには少し大きいが 可能な大きさ,噛まなくてよい大きさ 歯肉でつぶして食べられる 小刻み 2 (3.7) 1 ~ 2㎜(+トロミ),1㎜以下, 小さめの一口大, ティースプーンにのる 小刻み菜 2 (3.7) 米粒大,荒刻みよりさらに細かく +トロミ,みじん切り,3 ~ 5㎜角, 2 ~ 5㎜,2㎜+トロミ,3㎜(+トロミ), 2 ~ 3㎜,5㎜角,5㎜以下+(トロミ) トロミをかけたり混ぜる 極刻み食 22(40.7) ふりかけ状,クッキングカッターにかけて だし+増粘剤でしっとりさせる あんかけ 極刻み菜 1 (1.9) 極極刻み 1 (1.9) 細かく刻む 超刻み 7(13.0) 3㎜+(トロミ),みじんサイズ (+トロミ),刻みより細かい,1㎝角 トロミつき 1㎝刻み 1 (1.9) ミキサーで半回転~ 1 回転 みじん食 1 (1.9) 5㎜角+トロミ 表 5 副食の形態名称とその区分の分類(※次 P に続く)
測定した粥においては,温度が低下すると硬さ,付着性が 大きくなっていた.特に B 施設のミキサー全粥が顕著で あった.このミキサー全粥の調製は,全粥をミキサーにか けペースト状にし,その後とろみ調整剤(成分:デキスト リン・増粘多糖類の混合)を添加しているが,このとろみ ど違いはなかった.えん下困難者用食品許可基準の測定条 件には,温かくして食する食べ物は 45℃と 20℃の測定と なっている.物性は温度によって影響を受けるため,温度 を変えて測定することは重要なことである.さらに高齢者 の食事時間を考えるとある程度の温度変化が考えられる. 区分 名称 件数* 記述事項 大きさ 硬さ・なめらかさ その他 ソフト食 ソフト食(ムース食) 1 (1.9) ペーストをゼリー化, 飲み込みやすい ソフト食 10(18.5) 塊のある刻み食,みじん切り+固形化, スプーンですくえる大きさ 舌でつぶせる硬さ,歯茎でつぶせる 刻み / ソフト 1 (1.9) 極刻み / ソフト 4 (7.4) 極極刻み / ソフト 1 (1.9) 歯茎でつぶせる硬さ 超刻み / ソフト 1 (1.9) テリーヌ状 刻み,ペーストに 代わる食事(移行食) 荒刻み / ソフト 1 (1.9) ゼリー食,ミキサー食をゲル化した もの,舌でつぶせる硬さ 経管栄養から経口摂取への訓練食 高齢者ソフト 1 1 (1.9) 液状+ペースト 高齢者ソフト 2 1 (1.9) 高齢者ソフト 3 1 (1.9) ミキサー ミキサー食 36(66.7) 水分多く滑らか,すりつぶし, すりつぶし,ミキサーしたもの +トロミあんかけ,ドロドロ状, ペースト状,ミキサー+トロミ剤, トロミ トロミ ミキサー食 1 1 (1.9) ミキサー食 2 1 (1.9) ムース状,テリーヌ状に固めたもの ミキサー寒天食 1 (1.9) ミキサー(固化) 1 (1.9) ミキサーかけて固化 ミキサー(ジャム状) 1 (1.9) ミキサー+増粘剤硬め ミキサー(ピュレ) 1 (1.9) ミキサー+増粘剤濃度薄め,流動 ミキサー(ソフティア) 1 (1.9) 固化されたもの 流動 流動 2 (3.7) ミキサー ムース ペースト ゼリー など ムース食 5 (9.3) ムース食+トロミ, ムース状のもの+トロミあん なめらか食 4 (7.4) テリーヌ状,ゼリーとペーストの 嚥下状態を把握するに適した食事 ペースト食 5 (9.3) 食物繊維あるなめらかな状態, スプーンで食べられる程度, 離乳食状,ムース状 うらごし 1 (1.9) ゼリー 2 (3.7) ムース状,ゼリー状, ミキサー+固形化補助剤でゼリー化 練習食 練習食 1 1 (1.9) 野菜硬いペースト状 肉魚はすりつぶし 練習食 2 1 (1.9) やわらかいもの 揚げ物禁 プレビ食 プレビ食 1 (1.9) その他 汁物のトロミ 1 (1.9) ムースに近い硬さ,流動より硬め *( )内% 表 5(※前 P の続き)
比較し図 4 に示した.なお,肉料理はえん下困難者用食 品許可基準の硬さと比較すると,その上限をほとんどの ものが超えたため UDF の自主規格のかたさの基準と比較 した. ハンバーグは,B 施設が表示区分 1(容易に噛める),D 施設が表示区分 2(歯茎でつぶせる)であった.また,豆 腐ハンバーグは,A 施設が表示区分 3(舌でつぶせる),D 施設が表示区分 1(容易に噛める)であった.このように 調整剤の添加が影響を及ぼしていると思われた.このよう にとろみ調整剤の添加によっては,温度の低下が飲み込み やすさに影響を与える可能性が示唆された.硬さは 20℃ においてもいずれの粥とも許可基準Ⅲの基準内であった. 全粥の物性は,温度の影響をあまり受けず比較的安定した ものであった. 2)肉料理の硬さ 肉料理の硬さと UDF の自主規格のかたさの上限基準を A:ハンバーグ(B 施設),B:ハンバーグ(D 施設),C:豆腐ハンバーグ(A 施設),D:豆腐ハンバーグ(D 施 設),E:ミートローフ(B 施設),F:ミートローフ(D 施設),G:松風焼き(B 施設),H:松風焼き(C 施設) abc:異なるアルファベット間に有意差あり(p< 0.05) 表示区分:「ユニバーサルデザインフードの区分と物性の規格」の自主基準 図 4 肉料理の硬さ 図 3 粥のテクスチャー特性
同じ料理であっても差が認められた.これは,加熱方法の 違いやひき肉の使用方法が影響したものと考えられる.す なわち,スチームコンベクションでの加熱よりガスオーブ ンでの加熱がやわらかく,また牛肉単独での使用が硬い傾 向を示した.B 施設,D 施設のいずれのミートローフも表 示区分 2 で,両者に有意な差は認められなかった.ミー トローフはハンバーグとは異なり,加熱法が異なっていて も硬さに違いが生じなかったのは,クッキングシートで包 むことによる蒸し焼き効果で肉汁の蒸発を防ぎ,適度な水 分を保持することで,ひき肉が硬く縮むことがなかったた めと思われる.このことより調理法によって多少の物性の 制御ができると思われた. B 施設のハンバーグと D 施設の豆腐ハンバーグ,B 施設 松風焼き,C 施設の松風焼きが他の肉料理に比べて有意に 高い値となった.これらは,表 2 に示したように鶏ひき 肉あるいは牛ひき肉を単独で使用していた.加熱方法や副 材料の量の少なさも影響を与えた一つと考えられるが,加 熱すると硬く収縮するという肉の特徴が現われたことも推 測された.しかし,いずれの肉料理もかたさの上限であ る容易にかめる表示区分 1 の基準を満たしていた.小池 ら15)は在宅と施設の高齢者の食事の物性を比較し,在宅 より施設の方がやわらかい料理が多かったことから,施設 では安全を第一に考えて,やわらかく調理するように工夫 されていると結論づけている.本結果からもその傾向がう かがえる.さらにこれらの肉料理は,実際はソースなどと ろみあんをかけて食している.平塚ら16)は,ゾル―ゲル 混合系試料で官能評価を行い,寒天ゾル濃度が高いゾルで は球状ゲルを混合した方が「飲み込み易い」と評価された と報告していることから,本実験に供したひき肉料理もそ の特有のバラバラになりやすい性質をとろみあんで補って 飲み込み易い状態になっていることが考えられる. 3)卵料理のテクスチャー特性 卵料理の硬さ,凝集性,付着性の関係を図 5 に示した. 茶碗蒸しより卵豆腐が硬かった.これはだし汁の量が影響 していると考えられる.すなわち,表 2 に示したように, 卵豆腐は卵とだし汁は同量,茶碗蒸しは卵に対してだし汁 の量が約 3 倍で調製されている.茶碗蒸しは,許可基準 Ⅲをほぼ満たしていた.しかし,卵豆腐は,付着性が基準 を超える数値であった. また,卵豆腐は冷たくして食べるものとして 10℃と 20℃,茶碗蒸しは温かくして食べるものとして 20℃と 45℃の測定を行ったが,温度による硬さ,凝集性,付着 性に違いはほとんど認められなかった.したがって,いず れも温度の影響を気にせず,安心して提供できる料理であ ることがわかった. 4)水分補給ゼリーのテクスチャー特性 水分補給ゼリーの硬さと凝集性の関係を図 6 に示した. 摂食・嚥下障害者は低栄養,誤嚥性肺炎そして脱水のリス クがあり,適切な栄養管理や水分管理を行う必要がある. 水分補給ゼリーは,水分を摂取したときにむせるなどの症 状がある人に対して,液体をゼラチンなどのゲル化剤を用 いて,固形物として摂取できるようにしたもので,高齢者 介護施設では日常的に提供されている. いずれの水分補給ゼリーも硬さは,10℃および 20℃の 測定温度において許可基準Ⅱ,凝集性は許可基準Ⅰの範囲 内であった.嚥下障害者に適する食品の物性としては,硬 図 5 卵料理のテクスチャー特性
このように提供者も工夫を凝らしながらも,経験的に安全 と認められる物性に調製していることがわかった. 4.まとめ 要介護高齢者施設で提供されている食物形態の実態調査 と,粥,肉料理,卵料理,水分補給ゼリーの物性評価を行 い,次の結果を得た. (1)食物形態の実態調査したところ,食物形態の決定 は管理栄養士・栄養士の判断が最も多く,ついで看護師の 判断,本人の希望,介護職員の判断であった.これに対し, 食事形態が適正であるか否かの判断は,日常的に喫食者の 食事場面を担当している者の観察によるものが多かった. 各施設で提供されている主食の形態は平均 4.0 ± 2.5 区 分,副食は平均 4.4 ± 2.3 区分であった. 主食,副食のいずれも形態の基準や定義は一様ではなく, それぞれ高齢者介護施設独自のものとなっていた. (2)高齢者介護施設で提供されている粥,肉料理,卵 料理,水分補給ゼリーのテクスチャーを測定した.粥は, 測定温度 20℃および 45℃のいずれにおいてもミキサー 粥以外は,硬さは基準内であったが付着性は基準外で高 かった.凝集性はすべての粥が許可基準Ⅰを満たした.ま た,ミキサー全粥は,付着性に温度の影響を受けた.ミキ サー全粥はとろみ調整剤を添加して調製されていたことか ら,このとろみ調整剤の添加が温度変化による飲み込み易 さに影響を与える可能性が示唆された.肉料理はいずれも UDF の自主規格のかたさの上限基準を満たし,やわらか く調理するように工夫されていた.卵料理の茶碗蒸しは, さ以外にも,まとまりがあること,くっつきにくいことが 重要な因子であることが報告されている13).また,まと まりを示す凝集性は 0.2 ~ 0.6 であったことから,咀嚼お よび口中においてもまとめる必要のない食塊の形態に調製 されていることがわかった.図には示していないが,付着 性は,D 施設の紅茶ゼリーが基準Ⅱを,B 施設と C 施設の ポカリスエットゼリーが許可基準Ⅲを満たした.したがっ て,D 施設の紅茶ゼリーは許可基準Ⅱ,B 施設と C 施設の ポカリスエットゼリーは許可基準Ⅲであった.いずれも温 度による変化はほとんど認められなかった.表 3 に示し たようにこれらのゼリーの調製に使用されているゲル化剤 はゼラチンが主である.ゼラチンゲルの嚥下への影響は, 食べる人の摂食機能によるとされている17).例えば,食 塊の送り込みが認められなくなった被験者にゼラチンゼ リーを食べさせたところ,口腔相の顕著な延長によってゲ ルがゾル化し,誤嚥が認められたとの報告18)がある.一 方,ゼラチンゲルは,その表面が口腔内の温度によってゾ ル化し,滑りやすくなり,飲み込み易くなるとして嚥下 食に用いられている19).この嚥下食における水分補給ゼ リーのゼラチン濃度は約 1.7%である19)ことを参考にす ると,D 施設の紅茶ゼリーがゼラチン濃度 1.2%と寒天濃 度 0.25%の混合,B 施設のポカリスエットゼリーはゼラ チン濃度 1.7%,C 施設のポカリスエットゼリーはゼラチ ン濃度 1.5%であり,それぞれのゼラチン濃度は妥当であ ると思われた.紅茶ゼリーは,ゼラチンと溶解温度がゼラ チンよりも高い寒天と併用することで,ゼリーの溶解温度 が上がり時間をかけて摂食することができる利点がある. 図 6 水分補給ゼリーのテクスチャー特性
施設の実態調査 -.日本咀嚼学会雑誌.2008,vol.18, no.2,p.101-111 8) 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食特別 委員会.日本摂食・嚥下リハビリテーション学会 HP 嚥下調整食 5 段階(嚥下調整食特別委員会試案)に対す るパブリックコメントのお願い.2011 9) 厚生労働省(医薬食品局食品安全部長).特別用途食品の 表示許可等について 食安発第 0212001 号.2009 10) 日本介護食品協議会.ユニバーサルデザインフード自主 規格.2003 11) 小城明子,藤綾子,柳沢幸江,植松宏.要介護高齢者施 設における食物形態の実態 - 食物形態の種類とその適用 について -.栄養学雑誌.2004,vol.62,no.6,p.329-338 12) 神山かおる.高齢者に咀嚼しやすい日本型食素材.日本 栄養・食糧学会誌.2005,vol.58,no.2,p.103-106 13) 高橋智子,増田邦子,佐々木真希,濱千代善規,大越ひろ, 手嶋登志子.摂食機能に応じた食事形態のテクスチャー の特徴 - 特別養護老人ホームの食事と市販レトルト介護 食品の比較 -.栄養学雑誌.2004,vol.62,no.2,p.83-90 14) 笹田陽子,中舘綾子,工藤ルミ子,重田公子,鈴野弘子, 石田裕,鈴木和春,樫村修生.特別養護老人ホームにお ける咀嚼・嚥下困難者用食の物性的機能性評価.日本食 生活学会誌.2008,vol.19,no.3,p.251-259 15) 小池雅子,岩森大.高齢者の咀嚼力と日常食事の物性 との関係について.日本食生活学会誌.2011,vol.22, no.1,p.3-12 16) 平塚陽子,川野亜紀,高橋智子,大越ひろ.ゲル - ゾル 混合モデル系試料の力学的特性と飲み込み特性.日本家 政学会誌.2004,vol.55,no.5,p.381-388 17) 高橋智子.“咀嚼と嚥下,嚥下と人による評価.”進化する 食品テクスチャー研究.山野善正.初版.(東京).エヌ・ ティ・エス,2011,p.153-160 18) 高橋素彦,廣田誠,東海林志保美.日本摂食・嚥下リハ ビリテーション学会誌.2007,vol.11,no.1,p.67-73 19) 江頭文江,金谷節子,栢下淳,坂井真奈美.“嚥下食レシピ.” 嚥下食ピラミッドによる嚥下食レシピ 125.医歯薬出版, 2007,p.35 20) 厚生省.高齢者用食品の標準許可の取り扱いについて 平成 6 年 2 月 23 日衛新第 14 号厚生省生活衛生局長通知. 1994 許可基準Ⅲを満たし,卵豆腐は付着性が基準を超える数値 であった.また,茶碗蒸し,卵豆腐ともに温度の違いによ る硬さ,凝集性,付着性の変化はほとんど認められかった ことから,温度の影響を気にせず安心して提供できる食べ 物であることがわかった.水分補給ゼリーは,ゼリーのま とまりを示す凝集性が 0.2 ~ 0.6 であったことから,まと める必要のない食塊の形態に調製されていた. (3)安定した安全な食べ物を提供するために高齢者の 介護の現場は,施行錯誤しながら日々努力を重ねている. さらに介護食が安全性を確保し発展していくには,科学的 根拠に基づいた検証,そしてこれらの情報の共有化が必要 である.検討課題13)となっていた硬さのみが物性基準で あった「特別用途食品」高齢者用食品群別許可基準20)が 2009 年に凝集性,付着性も含めた物性基準に変更された. 今回測定した高齢者介護施設の食物の物性もこの基準をほ ぼ満たすことが認められた.このことから科学的根拠の取 得には新しい基準が十分に活用できると思われた. また,この研究結果は協力を得た高齢者介護施設に フィードバックした.これらの情報が共有され,細分化さ れた食物形態まで統一基準が設定されれば,さらに安全な 介護食が展開できると思われる. 引 用 文 献 1) 総務省統計局.平成 22 年度国勢調査抽出速報集計結果. 平成 23 年 6 月 29 日公表 2) 永井晴美,鈴木隆雄,柴田博,松本仲子.特別養護老人 ホームにおける “きざみ食” の供食の実態.栄養学雑誌. 1994,vol.52,no.6,p.307- 318 3) 植田耕一郎.介護予防に関する口腔機能の向上マニュア ル.厚生労働省,2006,p.17-18 4) 齋藤真由.咀嚼・嚥下障害に関する研究.日本調理科学 会誌.2010,vol.43,no.5,p.281-285 5) 黒田留美子,松浦美和子,大迫智美,永田昌彦.高齢者 ソフト食の開発.月刊総合ケア.2004,vol.8,no.9, p.98-99 6) 笹田陽子,中舘綾子,工藤ルミ子,重田公子,鈴木和春, 樫村修生.特別養護老人ホーム入所者における咀嚼・嚥 下困難者食の導入による栄養状態.日本食生活学会誌. 2008,vol.18,no.4,p.354-361 7) 別府茂,江川広子,八木稔,黒瀬雅之,山田好秋.介護 保険施設で提供される食事形態の分類 - 全国の介護保険