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農場管理 2017 年 3 月 23 日作成
マイコプラズマ性疾患の衛生管理
1.マイコプラズマ性肺炎
子牛のマイコプラズマ性肺炎の原因菌としては、Mycoplasma bovis, M.dispar, M.bovirhinis が 知 ら れ て い る 。 特 に 病 原 性 が 高 い の は 、 Mycoplasma bovis(ボビス)であり、乳牛のマイコ性乳房炎や肺炎、関節炎、中耳炎なども引き 起 こ す 病 原 菌 で あ る 。 臨 床 的 に 健 康 な 子 牛 の 鼻 腔 に は 、 M.dispar, M.bovirhinis が高率に分離され常在していると考えられるが、これらは 1 歳令くらいには消失する。これには生体側の免疫力が影響していると考え られている。 感染経路は、乳汁、鼻汁、涙及び中耳炎の浸出物であり、呼吸器感染では鼻汁の直接や飛沫で感染拡 大が起きる。感染が成立した場合には、扁桃から血液に入り全身に行き渡り、全身の臓器で増殖する。 またマイコプラズマが付着した環境下では、ボビスはバイオフィルムを形成して長く生存している。 樋口豪紀、鈴木一由:呼吸器疾患の臨床微生物学6:マイコプラズマによる発病機序、臨床獣医 (2017),Feb,Vol35,P51-53 大 塚 浩 通 、 鈴 木 一 由 : 呼 吸 器 疾 患 の 臨 床 微 生 物 学 3 : ワ ク チ ネ ー シ ョ ン , 臨 床 獣 医 (2016),Nov,Vol34,P47-50 解説: 健康な子牛の鼻腔には、ある種のマイコプラズマは常在するが、免疫力が高ければ自然消失するので、病気 にならないと考えられる。しかし、出生からほ乳期間の免疫力を高く維持するためには、胎児期の栄養 すなわち母牛の乾乳期での栄養管理、出生体重、胸腺の機能、給与初乳の品質・量の問題などから検討し なくてはいけない。更に、呼吸器病には、細菌性疾患とウイルス性疾患があるので、これらの病気に対する ワクチンネーションが重要となる。これらの呼吸器病疾患に感染し、抗生剤で治療することにより抗生剤の効き づらいマイコ性肺炎が交代現象として出現する可能性が高くなる。この慢性化したマイコ性肺炎牛が搾乳牛群 に入り、マイコプラズマを拡散することにより牛群内にマイコ性乳房炎が発症するリスクを高める。
2 2.マイコプラズマ性中耳炎 子牛の中耳炎原因の 70%以上は、マイコプラズマ・ボビスである。3 から 6 週令に発症が多く、3 ヶ月令以 上には少ない。中耳炎発症の疫学として、殺菌不十分な廃棄乳の利用、バケツによる「がぶ飲み哺乳」 による誤嚥(食べ物や異物を気管内に飲み込んでしまうこと)や鼻腔内の汚染、哺乳欲を満たせないため に哺乳牛相互の吸い合いによる汚染の拡大が上げられる。耳と鼻はつながっているので、牛乳による鼻 腔付近のマイコ汚染により、やがて耳管に汚染が拡大して中耳炎が発症する。また、耳票の取り付け位置や 耳毛による外耳の換気不良などもリスク要因として上げられている。治療法として、内視鏡下での耳管 洗浄が勧められている。環境汚染対策として、2 回/週の細霧消毒や煙霧消毒が勧められている。 小岩正照:子牛マイコプラズマ感染症の病態と予防対策、日本獣医師会獣医学術学会年次大会(秋 田)2015 年度 ランチョンセミナー資料 解説: マイコプラズマ性中耳炎を防ぐには、免疫力を高めること、他の病気を防ぐこと(ワクチン接種)、そして疫 学から明らかになっているように、殺菌不十分な廃棄乳の利用、バケツによる「がぶ飲み哺乳」による 誤嚥や鼻腔内の汚染、哺乳欲を満たせないために相互の吸い合いによる汚染の拡大防止策が上げられる。 ニップル(乳頭)による哺乳(バケツまたはボトル)と、牛乳が空になってからのおしゃぶり、外耳の毛刈り と耳票取り付け位置が対策として重要と考えられる。治療法としては、内視鏡下での耳管洗浄や抗生剤 と鎮痛剤の併用が勧められる。大規模哺乳群では、環境汚染対策として 2 回/週の細霧消毒や煙霧消毒 が勧められる。 哺乳施設内の環境対策としては、オールインオールアウト方式がベストであるが、少なくとも哺乳卒 業牛の後にすぐに新生子牛を入れないこと。カーフハッチは使い回しをせずに、洗浄消毒後に石灰乳に てハッチ内壁を塗布し、牛床面は石灰消毒をして 2 週間程度は空けて、次に使用する事が望ましい。哺 乳施設内をいくつかの区画に分けて、その区画内ではオールインオールアウト方式で洗浄殺菌する事が 望まれる。 施設内の消毒では、カーフハッチは発泡剤を利用して糞便を洗い流し、更に発泡消毒を実施して後に 石灰塗布を行う。牛床面は、糞尿を除去後に石灰を散布することが不可欠である。
3 3.マイコプラズマ性乳房炎 マイコプラズマ性乳房炎は近年増えてきている乳房炎である。しかし、一般的な細菌検査では検出できな いので、発育菌なしとして処理される場合が多い。従って、発育菌なしが多く、伝染力が強く、いつもの 乳房炎と違うと感ずる場合には、マイコプラズマ性乳房炎を疑わなくてはいけない。早く気がつけるかどうか が、被害拡大防止の分かれ目である。マイコプラズマの増殖場所は、子牛の中耳炎と肺炎であると心掛ける。 1)マイコプラズマ性乳房炎を疑う状況とは 重度の臨床型乳房炎が続発するが、一般状態はよい(発熱例は少ない) 乳房は腫大・硬結し、乳汁中に凝固物が大量に含まれる。 複数分房罹患が多く、ほとんど無乳となる。 一般細菌陰性の場合が多く、一般の治療では治癒せず淘汰される例が多い。 解説:何かいつもと違う乳房炎と感じた場合には、迷わずマイコの検査をすべきである。 検査機関:日本動物特殊診断(株) 北海道恵庭市恵み野 3-1-1 恵庭リサーチビジネスパークセンタービル E-304 Tel0123-25-5886 http://www.ndts.co.jp 2) マイコプラズマ性乳房炎とは マイコプラズマと何とか共存しようとは思わず、この病気は一部のマイコを除き治療できないと考える。治療 作業がマイコプラズマを広げる原因となり得るので、マイコプラズマ陽性牛(特にM.Bovis)は、即座に淘汰しな ければならないと考える。下手な治療法とその搾乳作業が伝染を広める結果になり得る。予防としては 住んでいる地方に関係なく、少なくとも月に 1 度はバルクタンク牛乳でマイコの検査を継続して行うべき である。 マイコプラズマという微生物が原因であり、マイコプラズマは牛の鼻腔や生殖器粘膜に存在し、乳房内に侵入し た場合にマイコプラズマ性乳房炎となり、肺に侵入した場合にマイコプラズマ性肺炎となる。マイコ性乳房炎は子牛の マイコ性肺炎からの伝播や、導入牛や初妊牛がマイコ性乳房炎を持ち込み、搾乳群内に広げる。 M.bovis 伝染力が強く、治療に反応しない M.bovigenitalium M.bovirhinis M.califonicum この頃良く検出される。 M.arginini M.canadense 3) マイコプラズマ性乳房炎の特徴 症状:泌乳停止に至るほどの急性の乳房炎を呈すものから、慢性的なもの、また症状をほとんど示さな いものなど、様々な症状を示す。症状は劇的に進行し、乳汁は水様となり凝塊が認められる。泌乳量は 激減し無乳状態となることも少なくない。 伝播:搾乳機器、手指の不衛生が原因となり伝染。マイコ性肺炎牛の存在 搾乳作業者による媒介 治療:症状が無いもの、またあってもごく軽いものには抗生物質による治療が成功する場合もある。 慢性的に経過したものは治療が難しく、次の泌乳期に再発することもある。 予防:原因不明の乳房炎や、泌乳期毎に再発する乳房炎が続発する場合にはマイコプラズマの検査を実施す ることが必要。日常の衛生管理を徹底することが大切である。
4 4) マイコプラズマ性乳房炎発生後の対応策 マイコプラズマ分離陽性牛の早期摘発・隔離と選別淘汰、選別乾乳、その他の搾乳、飼養衛生対策を組み合 わせて実施することが有効である。細菌性の乳房炎同様に抗生物質投与による治療を行うが、発症牛の 多くは完治せず、再発を繰り返すので、発症牛は淘汰することも重要である。抗生剤療法は潜在性乳房 炎には有効であったが,臨床型乳房炎には無効との報告もある。 伝染を防ぐために感染牛を隔離し、搾乳手順の見直し・搾乳器具の点検を実施する。牛舎の洗浄・消 毒も対策として有効である。 具体的対応策: 毎週 1 回 バルク乳でマイコの検査を継続して実施する。 分娩牛は必ずマイコ検査で陰性を確認してから、搾乳群に入れる。 隔離群を作ることで、感染牛割合は作らない場合と比較して減少する。 おかしな乳房炎(症状、細菌検査陰性)と思ったら、マイコ検査を実施する。 マイコ陽性の分房は、盲乳化処置をして搾乳しない。 盲乳化したマイコ陽性分房が、乾乳期を経て分娩後治癒するかは不明。 マイコプラズマ・ボビスと判定され、症状がひどいものは淘汰する。事例では淘汰割合 2.1-9.5%程度である。 盲乳化したマイコ陽性分房が乾乳期を経て分娩後治癒するかどうかは不明。 通常の乾乳のように乳房がペシャンコになれば治癒率高い。 マイコが乳房の中にどれくらい居座るかは不明 マイコ陽性が自然治癒するかは不明。必ずマイコ検査にて陰性を確認する。 臨床症状が軽ければ、自然治癒もあり得る。 5) マイコプラズマ性乳房炎の検査方法 診断:乳汁の培養を実施するが、マイコプラズマは乳房炎原因菌を培養するための通常の細菌検査では分離 することができないので、今はPCR法が一番迅速な診断法である。本法は乳汁中の少量のマイコプラズマ を培養せずに検出でき、結果は12時間以内に入手でき、一般的な培養法に比べて迅速である。専門家 に検査をゆだねる。 6) マイコプラズマ性乳房炎の治療方法 PCR 検査では、M californicum の単独感染牛が 22 頭。泌乳中 18 頭にはエンロフロキサシン 3.3mg
5 /kg の皮下注射およびオキシテトラサイクリン塩酸塩の乳房内注入を 6 日間実施した処、10 頭は治癒。 この治療で治癒しなかった 6 頭および乾乳予定だった 1 頭の合計 7 頭は、オキシテトラサイクリン塩酸 塩を乳房内に注入して一発乾乳した。これらのうち 6 頭は分娩後の検査で治癒を確認できた。今回加療 した牛の 8 割以上が治癒したことから、M californicum または M bovigenitalium によるマイコプラズマ性 乳房炎は、積極的に治療対象とすることで経済的損失を最小限にできると考えられる。 7) マイコプラズマ性乳房炎の監視体制 第1段階:バルク乳を用いてマイコプラズマ検査を週 1 回実施。定期的には 1 回/月の頻度で実施する。 3 日間サンプリングして混合して 1 本にする。 PCR法にて判定する。牛群単位の検査を実施する。全頭検査をする。 最近または現在臨床型乳房炎の治療を受けた牛、最近分娩した牛(特に初産牛)、そして新しく牛群 に加わった牛から牛乳サンプルを検査する。 第2段階:PCR 法にてマイコ陽性グループの全ての牛の培養検査を行い、菌種同定を行う。 経産牛と未経産牛は全て分娩時に検査する。 搾乳時の衛生管理:牛毎にミルカーのバックフラツシングをする。 治療群の出入り牛の検査をする。他の病気であっても検査をする。 最低でも 4 カ月間は、週に 1 度バルク乳検査(PCR 法)をする。 草場信之,安里章,鈴木貴博,三木渉,木田克哉,宮本明夫:北海道における牛マイコプラズマ性乳房炎の発生 とその疫学的考察,日獣会誌、67,43-48(2014) 泰英司:牛マイコプラズマ乳房炎、北海道獣医師会雑誌、59、87-92(2015) 伊藤めぐみ、古岡みゆきら:乳汁中マイコプラズマ陽性農場における乳房炎発生実態調査、北海道獣医師 会雑誌、60,234-239(2016)