• 検索結果がありません。

Microsoft Word - profile-keikaku doc

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "Microsoft Word - profile-keikaku doc"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

合意形成の調整役機能理解のための

実践のプロファイリング手法の研究レビュー

松浦 正浩

1

・山口 行一

2

・山中 英生

3

・八木 絵香

4

・坂本 真理子

5 1正会員 東京大学特任准教授 公共政策大学院(〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1) E-mail: [email protected] 2正会員 大阪工業大学准教授 工学部都市デザイン工学科(〒535-8585 大阪市旭区大宮5-16-1) E-mail: [email protected] 3正会員 徳島大学教授 大学院ソシオテクノサイエンス研究部(〒770-8506 徳島県徳島市南常三島2-1) E-mail: [email protected] 4非会員 大阪大学准教授 コミュニケーションデザイン・センター (〒560-0043 大阪府豊中市待兼山町1-16) E-mail: [email protected] 5正会員 徳島大学博士後期課程 大学院先端技術科学教育部(〒770-8506 徳島県徳島市南常三島2-1) E-mail: [email protected] 政策形成や計画策定の過程では多様な価値観や利害を有する関係者間の調整が行われるが,近年,都 市・環境政策分野の研究と実務で,ファシリテーターなどの調整役が注目されている.この調整の実態を 探索的に理解する方法論として,「実践のプロファイリング(Profiles of Practitioners)」手法を本研究で はレビューした.現場で起きたことがらをストーリーとして聞き取り,その書き起こしの分析を通じ,合 意形成の技法に関する規範的な議論や評価では表出しない実態を捉える手法である.本研究は,合意形成 を研究する上で重要な手法として,同手法の特徴と位置づけを明らかにすることを目的としている. Key Words : Profiles of Practitioners, mediator, facilitator, consensus building, research method

1. 本研究の問題意識 (1) 政策形成・計画策定における合意形成の調整役 Dahl1)の多元主義に基づけば,政策形成や計画策定 は,多様な価値観や利害を有する関係者間の対立や利害 調整を通じて行われる.この前提に基づく政策形成や計 画策定過程に関する研究は,そのような対立や調整過程 の観察と分析をもとに,理論や示唆を導出してきた.た とえば,政策形成に関わるアクターとそれら相互の関係 性に着目するPolicy Network Theory2)や,利害集団間の合 従連衡に着目することで,ある政策が採用される過程を 分 析 す るSabatier and Jenkins-Smith3)Advocacy Coalition Framework (ACF) など,政策形成や計画策定のプロセス を俯瞰する理論,分析枠組みが構築されてきた.

また,特定の機能を果たす人物に着目した政策研究も 存在し,政策起業家(policy entrepreneur)の役割に着目した Kingdon4)のAgenda Setting,執行段階での現場職員の役割 に着目したLipsky5)のStreet-level Bureaucracy のほか,上記

のACF3)でも合従連衡の仲介役としてpolicy broker が定義 されている. 政策形成や計画策定における関係者間調整を促進する 役割として,近年,特に土木計画,都市計画,環境政策 等の分野の実務と研究において,ファシリテーター (facilitator)やメディエーター(mediator)と呼ばれる, 直接的な利害関係の弱い第三者的立場から,関係者間の 合意形成を促進する調整役が注目されている6)-12).その 先鞭となったSusskind and Ozawa13)やForester14)は,都市計画 の策定過程において,都市計画家は解決策を一方的に提 示する専門家ではなく,むしろ多様なステークホルダー の調整役として機能する可能性を示した.以後,計画策 定の実務,特に市民参加による計画検討の場面において, 対話に介入する調整役の必要性が特に強調されてきた. (2) 日本における合意形成の調整役に関する研究動向 日本国内の市民参加の現場で,参加者間の対話を促進 する役割としてのファシリテーターに対する関心は高く, 土木学会論文集D3 (土木計画学), Vol.70, No.5 (土木計画学研究・論文集第31巻), I_143-I_149, 2014.

(2)

土木計画学の領域においてもこれまで数多くの研究が行 われてきた15), 16).しかし,日本国内の政策形成や計画策 定過程において,ファシリテーターなどの調整役が実際 に提供している機能を新たに特定することを目的にした 探索型の研究が不足している.実際,既往研究の多くが, 海外で実践されている手法や事例の紹介や国内適用に基 づく検討や,意識調査などを用いた特定の手法等の定量 的評価が中心となっている. また,市民参加の対話を促進するという限定的な機能 を与えられた調整役(ファシリテーター)に限定した研 究が中心で,政策形成や計画策定の多様な現場における 合意形成のための調整を多面的にとらえ,市民参加の諸 技法に限定せず,多様な調整の場面から調整役機能をボ トムアップで浮き彫りにしていく作業は,研究としてま だ十分に行われていないと考えられる.この点において, 羽鳥ほか17)や澤崎ほか18)による実践の「物語」や,その 背後にある,藤井ほか19)によるナラティブに関する理論 的研究は,土木計画学の文脈における本論文の数少ない 先行研究と言える. 仮説検証型の研究が重要であることは言うまでもない が,そもそも合意形成の現場における調整の実態を直視 し,grounded theory20)として調整役の機能を描写すること も同時に必要だと著者らは考えている.また,自らの実 務を継続的にふりかえり,内省するプロセスを通じた業 務改善を勧めるSchönのreflective practitioner21)の考え方を援 用すれば,合意形成の現場における調整役の機能を,教 科書等に示された技法や手順にとらわれずに理解する取 り組みを通じ,これまで認知されてこなかったもののプ ラグマティックに調整役機能を果たしてきた人々の職能 に対する認知を高めるとともに,政策形成や計画策定に 本当に必要とされる調整役機能の特定につながると期待 される. (3) 調整役機能を探索するForesterの研究 政策形成や計画策定過程における調整役機能を理解す るうえで,主に米国における都市計画分野の合意形成の 実態を,調整役に対する聞き取り調査を通じて明らかに してきたJohn Foresterの研究が参考になる.

Planning in the Face of Power14)では,都市計画家が現場で は,客観的立場から合理的な専門的アドバイスを与える だけでなく,調整役としてさまざまな社会的な役割を果 たしていることを示し,たとえば土地利用紛争のなかで 都市計画家が用いる6つの戦略として,1) 規制主体とし ての都市計画家,2) 事前調整と交渉,3) 資源としての都 市計画家,4) シャトル外交,5) 積極的かつ関心の高い調 整,6) 役割の分担を明らかにしている.The Deliberative Practitioner22)では,実務の中にみられる感情などの要素を 排除して説明することが合理的な説明を成立させるよう でいて,それは客観的な観察ではなく実務の改善には必 ずしも貢献しないといった批判に基づき,まずは現場の ストーリーそのものに耳を傾けることの必要性を訴えて いる.そしてDealing with Differences23)では,公共的な合意 形成の場でメディエーターの役割を果たしている人々, 若干名の現場でのストーリーをもとに,価値観(value) に基づく対立を解決するためのヒントや,メディエータ ーによる対話の促進,討論の司会,交渉の調整という3 つの役割などを導出している. このように,Foresterは実践に着目することで都市計画 家,特に合意形成における調整役の役割を描出している が,近年ではその方法論として「実践のプロファイリン グ(Profiles of Practitioners)」を構築している. 1990年代のコーネル大学の講義で,Foresterがある学生 に実務家の聞き取り調査をさせたところ,その報告があ まりに抽象的な分析であったため,Stud Turkel24)によるエ スノグラフィーを渡して参考にするよう指示した25).学 生は,聞き取り調査の書き起こしを見直し,調査対象者 自らの言葉によるストーリーとして編集して再提出した. それを他の学生に配布して読ませたところ「都市計画と はどのような仕事か,これでやっと親に説明できる」と いう反応があったほど,実務に対する学生の理解が深ま ったとのことである.こうして,Foresterによる,聞き取 り調査を書き起こし,編集し,対象者の言葉によって現 場のドラマを再現する実践のプロファイリングを研究お よび教育として制作する活動が始まった. (4) 本論文の目的 本稿は,日本国内の政策形成や計画策定過程における 合意形成の調整役機能の実態を明らかにしていくことを 念頭に置き,実務を捕捉する探索型研究の方法論として, Foresterによる「実践のプロファイリング」手法に着目し て,その開発の背景,論拠,方法論を分析する.さらに, 同様の研究手法と比較することで,その特徴と位置づけ を明らかにする事を目的としている. 2. 実践のプロファイリング手法 (1) 手法の主旨 実践のプロファイリングでは,現場で困難であったと 認識されている業務について,当事者本人の言葉による ストーリー(stories)が記述される.ストーリーは,自 身の経験に基づいて抽象化や一般化した理論ではなく, 実際に個別の現場で何が起きたのかを,当事者がありの ままに語ることで捕捉される25). あくまで,その場で起きたできごとの記述としてのプ ロファイルを制作した上で,そのプロファイルに対して

(3)

理論的考察を行うべきであり,プロファイルそのものに 聞き取り対象者自身が抽象化した考察が混入することは 望ましくない.だからといって,無味乾燥な事実だけ列 挙されればよいわけではなく,ステークホルダーの発言 に含まれる感情の表現や,緊張感のあった場面について のより詳しい説明などを捕捉しなければならない. また,プロファイルは,追体験による学習をしたり, 新しい概念を導出したり,事後的に既往理論との整合性 を確認したりするために用いられるのであって,先行研 究に基づく仮説を設定した上でその検証データとして用 いられるわけではない22).もちろん,聞き取り対象者を 選定し,ストーリーを引き出すためには,何らかの着眼 点やリサーチクエスチョンは必要であるが,ある特定の 因果関係を念頭に置いてプロファイルが制作されるわけ ではない. このような個人の主観に基づくストーリーを用いた研 究は,導出される知見の汎用性,反証可能性などの観点 から,社会科学として不適切であるという批判も考えら れる.それに対しForester22)は,仮説検証による研究は有 益ではあるが,現実に実務家が何をどのように判断して いるのかを理解することも有益ではないとは言えないと 反論している.そのような観点から,Forester26)は,プロ ファイルに基づく分析をcritical naturalistic discourse analysis と呼んでいる.言説分析ではあるものの,通常の状況で はなく,緊張感がある重大な場面についてプロファイル が着目するためcriticalであり,著名な理論などを念頭に 置かず,対象者自身のフレーミングに基づき現場でどの ような判断が行われるのかをそのまま捕捉する点で naturalであるという. さらに,政策形成や計画策定の過程や技法について規 範的な「あるべき論」を展開するのではなく,実務家の 実践をあるがままにとらえることから,実践のプロファ イルの方法論はcritical pragmatismの思想に基づいていると 位置づけることもできる26), 27).Foresterは,実践に着目し た研究を進めるうえで,Habermasの道徳論ではなく社会 理論への着目を促し,権力構造の影響を注視しつつ,規 範的にならずに現実の行為をとらえるcritical pragmatismの 有用性を指摘している22).Dewey28),Argyris & Schön29) 一連のreflective pragmatismについて評価しつつ,権力構造 の影響への配慮が少ないことをFreie30)を参照して指摘し, これらを両立する思想として,critical pragmatismの重要性 を指摘している. (2) プロファイル制作のステップ プロファイルの制作手順については,コーネル大学の 講義で用いられるガイドラインが参考になる31).以下そ のガイドラインの要点をレビューする. a) 準備段階 第一に,調査を行う者自身が興味を持っている関心事 を明確にすることから始まる.仮説を検討するわけでは ないが,対象者を特定するためにも,何のためにプロフ ァイルを制作したいのかを明確にする必要がある.ガイ ドラインは,関心事を整理するうえで,以下の4つのポ イントを挙げている. ・実務にみられるどのような要素に興味があるのか. ・上記の興味の対象を理解するために,どのような情 報を探すのか. ・結果として何を明らかにできそうか. ・既往の学術研究を参照して,自らの興味の対象をど のように位置づけられるか. 関心事を整理した後で,聞き取りの対象者と事例を特 定する.プロファイルの対象として好ましい事例の特徴 として以下の6点が挙げられている. ・対象者自身が満足している業務や多くを学んだと感 じている業務 ・対応しなければならなかったチャレンジが明らかな 業務 ・対象者が中心的に深く関与した事例 ・過去3年以内の業務 ・すでに完了している業務 ・対象者の判断や対応が特徴的にあらわれている業務 b) 聞き取り調査 対象者に連絡し,聞き取り調査への協力を依頼する. 調査の前に同意書(consent form)を対象者に送付し,内 容を確認してもらう.同意書には,聞き取りの内容をど のような形で利用するのか,守秘義務はどのように守ら れるのかといった事項を明記する.米国では,人間を対 象とする研究調査におけるインフォームドコンセントが 必須とされており,聞き取り調査の場合も,被験者から の同意書の取得が大学等研究機関により義務付けられる ことが一般的である32). 実際の聞き取り調査は,主に以下の3パートから成る. ・簡単な経歴:出身地,学歴や職歴,現在の職務に影 響を与えた人や経験などの聞き取り. ・事例:聞き取り調査の中心部分.業務への関わり方, 困難への対処,混乱・対立・脅威・感情などへの 対応を聞き取る. ・省察:最後に業務に対する反省を10~15分ほど聞き 取る.事例の中でも特に重大な局面,窮地,驚い たこと,学習したこと,困惑した場面など. 聞き取り調査は,緩い構造化された(semi-structured) 聞き取りとして行われる33), 34).個別の質問への回答を引 き出すのではなく,事前に検討した自身の関心事を念頭 に置きつつ,対象者のストーリーを引き出すよう,適宜, 質問を差し挟む.ただし,聞き取り調査では「なぜ

(4)

(why?)」という質問は絶対に行わないとされている. この質問により,抽象化した理論や解釈を対象者に語ら せることになり,プロファイルの主旨である実体験のス トーリーの導出ができなくなる.代わりに,「どのよう に(how?)」という質問をすることが推奨されている. 聞き取り調査はその後の書き起こしのために必ず録音 する.また,対象者からストーリーを効率的に引き出す ための聞き取り調査の技法として,信頼関係を構築する ために雑談すること,最初に事例の概要などを聞いて時 間配分を想定すること,短い質問を区切って行うこと, 重要な単語をおうむ返しをすることでより詳しい説明を 引き出すこと,対象者の意見に反論しないこと,プロフ ァイル作成の意図を見失わないこと,などがガイドライ ンに挙げられている. c) 書き起こしと編集 聞き取り調査の結果をそのまま文字起こしする.プロ ファイルは,発話の分析の対象とするわけではないので, 間投詞や無言の時間などまで書き起こす必要はない.ま た,読みやすさを考慮して,適宜段落を挿入しておくこ とも許されている. 書き起こしについては,読みやすさ等を考慮し,編集 を加える.具体的には,必要に応じて段落の順序を入れ 替え,調査者による質問を削除するなどの作業を行う. 具体例として,以下の例がガイドラインに示されている. 〔書き起こし〕 Q:あなたが成長していくにあたって,誰の影響を受 けましたか? A:まずは家族からはじめなければなりません.両親 は,私がしたいろいろなことに,よい影響があり ました.他にも幼少の時期に影響が…メンターと までは言わないけれど,彼は私と同年齢の友達で した.彼は頭がよくて…(以下略) 〔編集後(1):質問内容を括弧書きで挿入のみ〕 (私の初期の影響については…)まずは家族から はじめなければなりません.両親は…(以下略) 〔編集後(2):質問を削除し大幅に編集〕 両親は,私がしたいろいろなことに,よい影響が ありました.また,私と同年齢の友達がいました. 彼は頭がよくて…(以下略) このように,編集についても,書き起こしを原則的に 踏襲する方法から,読者の読みやすさを考慮して大幅に 編集する方法まで,幅が許容されている.しかし,調査 者自身の判断で,対象者の言葉を補って追記することは 許されないとガイドラインでは示されている. また,編集後のプロファイルの長さであるが,聞き取 りの内容によって大きく異なる.ForesterのPlanning in the Face of Conflict35)に所収の12のプロファイルについて,そ の単語数をカウントしたところ,表-1に示す結果となっ た.平均で10,559語であるが,最短は6,571語,最長は 16,973語と2.5倍以上の開きがあり,標準偏差でも3,200語 程度の幅が見られる. (3) プロファイルの使い道 このように制作したプロファイルであるが,本稿の問 題意識のように,実際の現場における課題や特徴をボト ムアップでとらえる研究を目的に使用することができる. 具体例としては先述のForesterによる研究があり,合意形 成に関わるファシリテーターなどを対象としたプロファ イルの一部を参照しながら,合意形成とは何か,関連す る理論等を参照しながら説明したり,新たな論点を提起 したりしている.

ForesterのDealing with Differences23)では,第2章でFrank Blechman氏によるアメリカ先住民に関する論争のプロフ ァイルひとつをもとに,関係者が解決不可能だと思いこ んでいる論争であってもその先入観を乗り越えて解決策 を模索する方向へとファシリテーターが誘導する可能性 を示している.また第3章では,中東の国際紛争からあ る地域での人種間問題までを含む,4名のプロファイル を横断的に検討し,価値観に基づく論争におけるファシ リテーションの可能性を,紛争解決の段階に応じて示し ている.これらの事例にみられるように,単一のプロフ ァイルをもとに実務の特徴を詳細に検討することも,複 数のプロファイルをもとに比較検討することもできる. また,Forester et al.36)では,Larry Sherman氏による医療 施設の設計計画事例に着目したプロファイルに対し,6 名の都市計画研究者が別々に解釈を与え,後にそれらを 統合することで,ファシリテーターの実践にみられる要 素をボトムアップで抽出する試みが行われている.具体 的には,Lawrence Susskindが都市計画家がファシリテー ターとして機能する必要性,Karen UmemotoがSherman氏 の「直感」の背後にある規範などを挙げている.

表-1 Planning in the Face of Conflict 35)所収の

プロファイルの長さ 章 対象者 単語数 1 Lawrence Sherman 8,494 2 Frank Blechman 6,571 3 Peter Adler 7,882 4 Lisa Beutler 9,169 5 Ric Richardson 10,434 6 Bill Diepeveen 15,839 7 Shirley Solomon 12,367 8 Suzan Podziba 8,072 9 John Folk-Williams 10,920 10 Gordon Sloan 11,370 11 Michael Hughes 8,617 12 Lawrence Susskind 16,973

(5)

また,この手法の成り立ちに見られるように,大学教 育における利用も行われている.具体的には,プロファ イルを学生に読ませることで,実務への理解を深めるこ と22), 25),また学生自身がプロファイルを制作することで, 実務の中でも特に関心がある側面についてその理解を深 めることができる. 3. 類似の方法論との比較検討 実践のプロファイルについては,土木計画学のほか, 政治学,社会学,人文地理学などにおいても類似の取り 組みが見られる.相互に完全に排他的ではないと考えら れるものの,実践のプロファイルの特徴を浮かび上がら せるために,ここで比較検討を行う. まず,Foresterの着想がStud Turkelの著作24)であったよう に,聞き取り調査の記録という点で,実践のプロファイ ルはオーラルヒストリーに類似している.オーラルヒス トリーには多様な形態が見られるが,その中でも御厨37) は官僚を対象とした聞き取り調査を「ミニ・オーラル・ ヒストリー」と呼んでおり,類似が見られる.また,都 市計画では,地域の歴史を記録・把握するツールとして 「まちづくりオーラルヒストリー」が用いられている38). オーラルヒストリーの概念自体が多様なため一概に整理 することは難しいが,歴史資料の保存や事実関係の記録 に主眼がある点,対象者による解釈を排除しない点, (対象者が政治家などの場合)一定期間公開しない点な どが,実践のプロファイルとの違いだと考えられる. 日本国内では,民俗学の方法論として「聞き書き」も 行われてきた39).この手法は特に最近,地域の伝承や歴 史などを保存すること,またその経験を通じて地域につ いて学習することを目的として広まりを見せており,高 校生を対象とした「聞き書き甲子園」が行われている40). ストーリーに基づく学習が意図されている点で類似して いるが,分析よりも記録を残すことに主眼が置かれてい る点,書き起こしの要点のみを数ページで簡潔にまとめ て成果とする点,理論構築の意図が弱い点などがプロフ ァイルとの違いだといえる. 土木計画学の分野では,「物語」研究が先行研究とし て行われており,政策・計画やその過程の中で,物語が 有する機能を特定したり,物語の内容を分析したりして いる17)-19).実践のプロファイルでは,物語そのものの機 能性について分析することはないが,実務家に対するイ ンタビューに解釈を与えるという点では類似している. しかし,実践のプロファイルでは,聞き取りにおいて対 象者自身の解釈を極力排除することで事例における行動 や情動の記録を分析対象とするのに対し,「物語」の分 析では対象者の解釈を含め分析の対象としている.また, 前者の分析では,書き起こしを比較的長めに引用する点, 対象者の内在的な特性よりも他者とのcommunicative ac-tion41)に対する解釈が中心である点が特徴として挙げら れる.また,「物語」研究においては,これまでに比較 したオーラルヒストリーや聞き書きとは異なり,書き起 こしの記録そのものが成果とはされていない.

他にも,批判的言説分析(critical discourse analysis)42) 類似の方法論として挙げられる.Forester自身がcritical natural discourse analysisと呼んでいるように,実践のプロ ファイルを批判的言説分析の一種と位置づけることもで きるが,その対象は聞き取り調査だけでなく,マスメデ ィアでの言説なども扱われている点で違いがある.また, 批判的言説分析の成果は論文等であり,実践のプロファ イルを制作することだけでは分析とは言えない.解釈型 表-2 類似する他の方法論との比較 実践のプロフ ァイル オーラルヒス トリー 聞き書き 物語研究 批判的言説分 析 解釈型政策分 析 profiles of practi-tioners

oral history narrative research critical discourse analysis interpretive pol-icy analysis 目的 実務に対する探 索的理解と学習 実務に関する歴 史の口述記録 民俗学として地 域の歴史記録と 学習 物語の機能性や 内容の分析 言説の分析によ る権力性の特定 政策に関連する 諸事象の解釈 対象者 対象データ 主に都市計画の 実務家1名への 聞き取り 政治家や政策担 当者1名~複数 名への聞き取り 主に地域の従業 者1名への聞き 取り 実務家複数名へ の聞き取り,政 策文書など 新聞等の記事, テキスト 文書,デザイン など多様 対象者に よる解釈 排除 含む 含む 含む 含む 含む 分析対象 対象者の communicative action 政策決定などの 全体像 地域における役 割,記録 物語の機能,対 象者の特性 権力が言説に与 える影響 事象(artifacts)と意 味(meaning)の関 係性 まとめ方 書き起こし 書き起こし 書き起こしの簡 潔なまとめ 論文 論文 論文

(6)

政策分析(interpretive policy analysis)43), 44)も類似の概念に 基づく方法論と言えるが,批判的言説分析と同様に,実 践のプロファイルをその一部に位置づけることはできる ものの,その分析対象はかなり広範なものとなる. これらを比較すると(表-2),実践のプロファイルは, 分析や学習のためのデータとして,実務家の実践を記録 するための方法論として位置づけることができる.また, 記録そのものを残すことよりは,むしろ記録をもとにし た分析と学習にその作成目的がある.そして,実務家が 多様な関係者との間で繰り広げるcommunicative actionに 特に焦点を当てた手法だと位置づけることができる. 4. 結論 本稿では,政策形成や計画策定の過程における調整役 の実態把握を念頭に,実践のプロファイルの方法論をレ ビューした.実務家に対する聞き取り調査とその書き起 こしをもとに,実践のプロファイルを作成し,調整役機 能の分析や専門職としての学習などに用いることは,今 後の日本国内の研究,実務,教育において有益であると 考えられる. 日本国内においても,John Forester教授の協力のもと, 筆者らを中心に,実践のプロファイルの作成を試行して いる.具体的には,2013年12月時点で,22名に対する聞 き取り調査と書き起こし,プロファイルとしての編集を 完了している.また,高知市のコミュニティ計画に関す る実務家を対象としたプロファイルの分析を論文として 発表した45).その過程では,日本におけるコミュニケー ションの文脈依存性46)などから,聞き取りにおいて状況 や背景の説明が省略されがちで,書き起こしをプロファ イルという読み物へと編集する作業に困難を見出してい る.今後調査を継続し,政策形成や計画策定における調 整役について,ボトムアップで実態を把握するとともに, 方法論としての実践のプロファイルを日本国内で利用す る上での課題と対策も検討する必要があると考えている. また,受講生にForesterによるプロファイルを読ませ,そ れに対する解釈を議論する講義や,プロファイルを作成 させる講義を筆者の一人が試行しているが,その効果に ついても今後検討していく必要があると考えている. 謝辞:本研究はJSPS科研費 24330037の助成を受けたもの です. 補注 [1] 「ファシリテーター」と「メディエーター」の使 い分けについてはSusskindほか47)の整理などが存在 するが,本稿では,両者とも調整役としてほぼ同 一の機能があるという想定のもと,ファシリテー ターという単語で統一することとする. 参考文献

1) Dahl, R.: Who Governs?, New Haven, CT: Yale University Press, 1961.

2) Marsh, D. and Smith, M.: Understanding policy networks,

Political Studies, Vol. 48, No. 1, pp. 4-21, 2000.

3) Sabatier, P. and Jenkins-Smith, H.: The advocacy coalition framework: an assessment, In Theories of the Policy

Proc-ess, ed. Sabatier, P., Boulder, CO: Westview PrProc-ess, pp.

117–68, 1999.

4) Kingdon, J.: Agendas, Alternatives, and Public Policies (2nd Ed.), New York: Longman, 2003.

5) Lipsky, M.: Street-Level Bureaucracy, New York: Russell Sage, 1980. 6) 松浦正浩:第三者の補助を用いた公共事業に関する 合意形成— 米国におけるメディエーション— ,土木 計画学研究・講演集,pp. 33-36, 1999. 7) 馬場健司:米国の住民参加プロセスにおける第三者 の役割,電力経済研究,Vol. 49, pp. 63-68, 2003. 8) 国土交通省国土交通政策研究所:社会資本整備にお ける第三者の役割に関する研究,2005. 9) 山中英生:社会資本整備の合意形成における中立的 第三者の成立条件,都市計画研究講演集,Vol. 5, pp. 7-12, 2007. 10) 木下勇:ワークショップ:住民主体のまちづくりへ の方法論,学芸出版社,2007. 11) L. サスカインド,J. クルックシャンク(城山英明, 松浦正浩訳):コンセンサス・ビルディング入門, 有斐閣,2008. 12) 堀公俊:「まちづくり」におけるファシリテーショ ン,都市計画,Vol. 59, No. 4, pp. 47-50, 2010.

13) Susskind, L. and Ozawa, C.: Mediated negotiation in the public sector: The planner as mediator, Journal of

Plan-ning Education and Research, Vol. 4, No. 1, pp. 5-15,

1984.

14) Forester, J.: Planning in the Face of Power, Berkeley: University of California Press, 1989.

15) 曽我健,錦澤滋雄:まちづくりワークショップにお けるファシリテーターの介入に関する研究-大阪市 天王寺区「未来わがまち会議」を対象として,環境 情報科学論文集,Vol. 22, pp. 451-456, 2008. 16) 森崎孔太,塚井誠人,難波雄二,桑野将司:司会者 の関与が討議参加者の納得に及ぼす影響,土木学会 論文集D3, Vol. 70, No. 1, pp. 28-43, 2014. 17) 羽鳥剛史,藤井聡,住永哲史:“地域カリスマ”の 活力に関する解釈学的研究:インタビューを通した 「観光カリスマ」の実践描写,土木技術者実践論文 集,Vol. 1, pp. 122-136, 2010. 18) 澤崎貴則,藤井聡,羽鳥剛史,長谷川大貴:「川越 交通まちづくり」の物語描写研究-交通問題解決に 向けたまちづくり実践とその解釈-,土木学会論文 集D3, Vol. 68, No. 5, pp. I_325-I_337, 2012.

19) 藤井聡,長谷川大貴,中野剛志,羽鳥剛史:「物 語」に関わる人文社会科学の系譜とその公共政策的 意義,土木学会論文集 F5, Vol. 67, No. 1, pp. 35-45,

(7)

2011.

20) Glaser, B. and Strauss, A.: The Discovery of Grounded

Theory, Rutgers: Transaction Publishers, 1967.

21) Schön, D.: The Reflective Practitioner, New York: Basic Books, 1983.

22) Forester, J.: The Deliberative Practitioner: Encouraging

Participatory Planning Practice, Cambridge, MA: MIT

Press, 1999.

23) Forester, J.: Dealing with Differences: Dramas of

Mediat-ing Public Disputes, New York: Oxford Univ. Press, 2009.

24) Turkel, S.: Working, New York: New Press, 1974.

25) Forester, J.: Learning to improve practice: Lessons from practice stories and practitioners' own discourse analyses (or Why only the loons show up), Planning Theory &

Practice, Vol. 13, No. 1, pp. 11-26, 2012.

26) Forester, J. : On the theory and practice of critical pragma-tism: Deliberative practice and creative negotiations,

Plan-ning Theory, Vol. 12, No. 1, pp. 5-22, 2013.

27) Forester, J.: From good Intensions to a critical pragmatism, In The Oxford Handbook of Urban Planning, eds. Weber, R. and Crane, R., pp. 285-305, Oxford: Oxford University Press, 2012.

28) Dewey, J.: Human Nature and Conduct, New York: Mod-ern Library, 1957.

29) Argyris, C. and Schön, D.: Organizational Learning, Reading, MA: Addison Wesley, 1978.

30) Freie, P. : Pedagogy of the Oppressed, New York: Seabury Press, 1970.

31) Profiles of Practitioners

[http://courses2.cit.cornell.edu/fit117/]

32) Lincoln, Y. and Tierney, W.: Qualitative research and in-stitutional review boards, Qualitative Inquiry, Vol. 10, No. 2, pp. 219-234, 2004.

33) Mishler, E.: Research Interviewing: Context and Narrative, Harvard University Press, 2009.

34) Weiss, R.: Learning from Strangers: The Art and Method

of Qualitative Interview Studies, New York: Free Press,

1994.

35) Forester, J.: Planning in the Face of Conflict: The

Surpris-ing Possibilities of Facilitative Leadership, Chicago: APA

Planners Press, 2013.

36) Forester, J., Susskind, L., Umemoto, K., Matsuura, M., Paba, G., Perrone, C. and Mantysalo, R.: Learning from practice in the face of conflict and integrating technical ex-pertise with participatory planning, Planning Theory and

Practice, Vol. 12, No. 2, pp. 287-310. 2011.

37) 御厨貴:オーラル・ヒストリー,中公新書,2002. 38) 後藤春彦,佐久間康富,田口太郎:まちづくりオー ラル・ヒストリー,水曜社,2005. 39) 香月洋一郎:聞き書きとその周辺(シンポジウム: 〈 残 さ れ た 声 〉 が も た ら す 豊 穣 ) ,2005. [http://hdl.handle.net/10108/26276] 40) 代田七瀬,吉野奈保子:聞くこと・記録すること― 「聞き書き」という手法―,国連大学高等研究所, 2012.

41) Habermas, J.: Theory of Communicative Action (Vol. II), Boston: Beacon Press, 1984.

42) Fairclough, N.: Language and Power, Routledge, 2001. 43) Yanow, D.: Conducting Interpretive Policy Analysis,

Thousand Oaks, CA: Sage, 2000.

44) Wegenaar, H.: Meaning in Action : Interpretation and

Dialogue in Policy Analysis, Armonk, NY: M. E. Sharpe,

2011.

45) 宮田隆弘,山中英生:実践プロファイル分析による 住民行政協働型コミュニティ計画の成果と課題~高 知市コミュニティ計画の取り組みから~,計画行政, Vol. 38, No. 2, pp. 42-52, 2014.

46) Hall, E. and Hall, M.: Understanding Cultural Differences, Yarmouth, ME : Intercultural Press, 1990.

47) Susskind, L., Amndsen, O. and Matsuura, M..: Using

As-sisted Negotiation to Settle Land Use Disputes: A Guide-book for Public Officials, Lincoln Institute of Land Policy,

1999.

(2014. 2. 28 受付)

PROFILES OF PRACTITIONERS AS A METHOD FOR EXPLORING

FACILITATOR’S ROLE IN CONSENSUS BUILDING PROCESSES

Masahiro MATSUURA, Yukikazu YAMAGUCHI, Hideo YAMANAKA,

Ekou YAGI and Mariko SAKAMOTO

In the processes of policy-making and planning, parties with different values and interests are expected to interact and resolve the differences. Facilitators and similar coordinators’ contributions have been dis-cussed in the research and practice of urban and environmental policy-making in recent years. This arti-cle reviews Profiles of Practitioners as a research method for exploring such practice of planning and pol-icy-making. The method attempts to capture the practice, which often neglected in the normative discus-sion about consensus building techniques, by interviewing and transcribing a practitioner’s story of ex-perience in the field. The goal of our research is to outline the characteristics and its relative strengths as a critical method for conducting research about the practice of consensus building.

表 -1 Planning in the Face of Conflict  35) 所収の       プロファイルの長さ  章 対象者 単語数 1 Lawrence  Sherman  8,494 2 Frank  Blechman  6,571 3 Peter  Adler  7,882 4 Lisa  Beutler  9,169 5 Ric  Richardson  10,434 6 Bill  Diepeveen  15,839 7 Shirley  Solomon  12,367 8 Suza

参照

関連したドキュメント

LicenseManager, JobCenter MG/SV および JobCenter CL/Win のインストール方法を 説明します。次の手順に従って作業を行ってください。.. …

・広告物を掲出しようとする場所を所轄する市町村屋外広告物担当窓口へ「屋

あらまし MPEG は Moving Picture Experts Group の略称であり, ISO/IEC JTC1 におけるオーディオビジュアル符号化標準の

平成 26 年の方針策定から 10 年後となる令和6年度に、来遊個体群の個体数が現在の水

北海道の来遊量について先ほどご説明がありましたが、今年も 2000 万尾を下回る見 込みとなっています。平成 16 年、2004

当監査法人は、我が国において一般に公正妥当と認められる財務報告に係る内部統制の監査の基準に

〒020-0832 岩手県盛岡市東見前 3-10-2

(1) 会社更生法(平成 14 年法律第 154 号)に基づき更生手続開始の申立がなされている者又は 民事再生法(平成 11 年法律第