除草剤による果樹園の雑草管理
一茎葉処理型除草剤の作用性の比較と適用一
真部 桂・出口秀夫・三木政数・薮木広幸
伊藤於雄*
CHEMICAL CONTROL OF WEEDS IN ORCHARD
−Compar・ison of Postemer・eg・enCe HerbicidesinActivity and Their・Pr・aCtical
Application,
KatsuraMANABE,HideoDEGUCHI,MasakazuMIKI,HiroyukiYABUKI and MatsuoITOH* WeedvegetationinorchardswasinvestigatedatthefarmofKagawaUmiversity,andtheactivitiesof 4commercialpostemergenceherbicidesinspr−ingandsummerwereobservedonmajornineweedsinorchards lConsiderablechangeinweedspeciesbetweenspringandsummerwasobservedinthesameorchrad ThechangeinweedspecieswasindependentoflightconditionsinorchradsNocorrelationwasobserved between treecr’OpSandweedspecies2Grass weeds,perennialweeds and Acab4)ha ausimlis showed signi丘cant regrowthwith any treatT
mentsexceptglyphosate,Whilenoregrowthofwinterannualbr・OadleafweedsandCommelinacommuniswas Observedwith any treatments ofherbicidesThemixture of paraquat*diquat showed the highest quick
burndownactivityamong4herbicides,butthismixturehadshorttermCOntrOlofgrassandperennialweeds and AaustlarisGlyphosate providedlongtermcontrolofallweedsexcept Ccommuniswithout quick burndownactivityGlufosinateandbialaphoshadintermidiateactivityinquickburndownandlongterm COntrOlbetweenparaquat+diquatandglyphosate 本学付属農場果樹園において,発生した雑草植生を調査し,その主要な9雑草について市販されている4種類の 茎葉処理型除草剤の効果を春期と夏期に比較観察した. 1春期と夏期の間に冬生雑草と夏生雑草の著しい雑草草種の交替が認められた.この雑草草種の交替は果樹園 の日照条件とは無関係であった.また,果樹の種類と発生した雑草革種の間の相関は認められなかった. 2イネ科雑草,多年生雑草およびエノキグサはグリホサート以外の処理区で著しい再生を示したが,冬生の広 葉−・年生雑草およびツエクサはいずれの除草剤処理区においても再生を示さなかった.パラコート+ジクワット混 剤は最も高い速効性を示したが,再生力の強い草種に対する抑草効果は小さかった.グリホサートは速効性は小さ かったが,ツエクサを除くどの草種に対しても抑草効果が大きかった.グルホシネートおよびビアラホスは速効性 並びに抑苛効果の点で,パラコート+ジクワット混剤とグリホサートの中間的な効果を示した. *日本モンサント株式会社
香川大学農学部学術報告 第42巻 第1号(1990) 124 緒 果樹園における土壌管理法は,清耕法,草生法ならびにマルチ法に大別される(1).瀬戸内海気候に属する香川県で は降雨が少ないので,果樹と雑草の水分競合を防ぐために,晴耕法に近い土壌管理が行われている(2).また近年の労 力不足と新規除草剤の開発に伴って,除草剤を利用した清耕栽培が多くなってきている.除草剤による雑草管理を 効率的に行うためには,発生する雑草の特徴を理解するとともに,使用する除草剤の特性を知ることが不可欠であ る.果樹園の除草剤は,土壌処理型除草剤と茎葉処理型除草剤に大別されるが(3),果樹に対する安全性の面から,土 壌処理効果のない茎葉処理型除草剤が多く使用されている.本報では,果樹園の雑草の発生状況を調査し,また市 販されている4種類の茎葉処理型除草剤の果樹園の雑草に対する殺草効果を調べて果樹園におけるそれらの除草剤 の適用を考察した. 材料及び方法 香川大学付属農場において,ウンシュウミカン,モモ,ブドウ,ウメおよびカキの各果樹園ごとに,発生した雑 革の種類を1988年7月より2カ月執こ1年間調査した.また,ウンシュウミカン囲およびモモ園に発生した冬生− 年生雑草,夏生一年生雑草および多年生雑草の中から,それぞれ優占雑草3草種を選び,合計9草種に対する茎葉 処理型除草剤の殺草効果を調査した.各除草剤は標準薬量で,10a当たり1001の散布水量を用いて,上記の9種類 の雑草に散布を行った.試験は1区面積4Ⅰげ(2mX2m)の3連区制とし,対照区(無処理)を設けた.散布は,
1988年,7月7日(夏生一年生雑草)および1989年1月17日ならびに3月23日(冬生一年生および多年生雑草)に
行い,散布後32−45日まで目観察による評価を数回行った.散布日はいずれの日も晴天で,降雨による影響はない と考えられる. 倶試した一年生および多年生雑草ならびに茎葉処理型除苛剤は次のとおりである. 1)供試した雑草ならびに散布時の草丈 冬生一年生雑草 スズメノカタビラ(イネ科) ハコベ(ナデシコ科) カラスノエンドウ(マメ科) 夏生−・年生雑草 メヒシバ(イネ科) エノキグサ(トウダイグサ科) 15−20cm 25−40cm 50−60cm 70−80cm 60−70cm 30−50cm 20−30cm 30−40cm 40−50cm 標準成分薬盈/10a 50十70gai 180gae 90gae 93gai lOOgai ツエクサ(ツエクサ科) 多年生雑草 ヨモギ(キク科) ギシギシ(タデ科) ハルジョオン(キク科) 2)供試した茎葉処理型除草剤とその標準薬畳 成分名 パラコ、−ト十ジクワット グリホサート グリホサート グルホシネート ビアラホス 標準製品薬屋/10a l,000cc 500cc 250cc 500cc 500g 商品名 マイゼット ラウンドアップ ラウンドアップ バスタ ハービエース結 果 1果樹周における発生雑草 果樹園に発生する雑草は極めて多種多様で35種類以上の雑草が観察された.果樹の種類と発生した優占雑草の種 類に相関は認められなかったが,果樹園の地形や管理法の違いなどによって雑草の種類ならびに発生消長は様々で あった.調査園では4月下旬から5月上旬に草種の交替があり,春期と夏期では発生雑草が異なった(第1表).雑 草草種の入れ替わりは,ミカン,モモ,カキ,ウメの各園あるいは棚仕立てのブドウ園においても認められ,日照 条件との関係は明瞭ではなかった.春期には,カラスノエンドウ,ハコベ,オオイヌノフグリなどの一年生雑草が 優占し,ギシギシおよびベレニアルライグラスのような多年生雑草が散在した.夏期には,メヒシバ,ユノコログ サ,エノキグサ,ツエクサならびにイヌビュが優占した.多年生雑草ではヨモギが園内各所で観察された.また, スズメノカタビラ,オヒシバ,コゴメガヤツリ,チカラシバならびにシロクローバー は園内の通路に多く観察され, 路傍群落を形成していた. 第1表 香川大学付属農場の果樹園における主要雑草 生 育 期 −・年 生 稚 革 多 年 生 碓 冬 生 雑 草 イタリアンライグラス スズメノカタビラ イヌノフグリ オオイヌノアグリ オランダミミナグサ カラスノエンドウ ハコベ ホトケノザ イヌビエ ユノコログサ オヒシバ メヒシノヾ コゴメガヤツリ ツユクサ イヌビュ イヌタデ エノキグサ センダングサ イノコズチ イヌムギ カモジグサ ベレニアルライグラス ウマゴヤシ ギシギシ シロタロ1−バー ハルジョオン チガヤ ススキ チカラシバ スズメガヤ ハマスゲ コヒルガオ ヤプガラシ ョモギ セイヨウアザミ セイヨウアザミ 夏 生 雑 草 2茎葉処理型除草剤の牧草特性 上記のように果樹園の雑草植生は極めて多様であるが,春期と夏期に雑草草種の入れ替わりがあることが観察さ れた.そこで冬生および夏生の一年生雑草ならびに多年生雑草のなかで,優占度が高いか,あるいは大型になって 果樹管理の妨げになる合計9草種について,市販の茎葉処理型除草剤の速効性と除草効果の持続性を調べた(図1− 3). (1)速効性 速効性はパラコート+ジクワット浪剤が最も速く,処理後1日目でも著しい菩徴が認められた.特に広葉雑草に 対する効果が顕著で,夏生雑草では処理後2日以内に,冬生雑草では1週間以内で,80%以上が枯れ上がった.次 いで,グルホシネートおよびビアラホスが速く,夏生雑草では処理後1週間で,冬生雑草では2週間程度で80%以 上の害徴を示した.グリホサートは最も遅く,80%以上枯れるのに,メヒシバにおいて2週間を要し,夏生広葉雑 草で3週間を要した.また冬生の雑草では,80%の書徴を示すのに3−4週間を要した.
香川大学農学部学術報告 第42巻 第1号(1990) スズメノカタビラ 126 カラスノエンドウ 0 10 20 30 40 処理後の観察 日(日) 図1冬生一年生雑草における各種除草剤の効果 ○,グリホサ・−ト(500):●,グリホサート(250)‥△,パラコート/ジクワット混剤: ロ,グルホシネート:■,ビアラホス.
ツエクサ
エノキグサ
128 香川大学農学部学術報告 第42巻 第1号(1990) ヨモギ ハルジョオン 0 10 20 30 40 処理後の観察 日(日) 図3 多年生雑草における各種除草剤の効果,記号は図1と同じ
(2)除草効果と効果の持続性 パラコート+ジクワツト混剤のメヒシバにおける効果およびグリホサートのツユタサにおける効果を除いて,ど の薬剤もー度はほぼ完全に雑草を防除した.−・年生イネ科椎草,多年生雑草およびエノキグサは,グリホサート以 外の除草剤処理区で再生が認められたが,ツエクサおよび冬生の広葉一年生雑草ではどの処理区においても顕著な 再生は認められなかった. イネ科雑草であるメヒシバまたはスズメノカタビラに対する除草効果はグリホサ・−トが最も高く,250cc/10aの 薬量でもほぼ完全に枯死させた.次いで,グルホシネ・−トの効果が高く,処理後35日目でも50−60%の抑制を示し た.パラコ・一ト+ジクワット混剤は冬季のスズメノカタビラにおいて20日間80%以上抑制したが,メヒシバでは処 理後1週間でかなりの再生が認められ,処理後35日冒にはほぼ完全に再生した. エノキグサを除く一年生広葉雑草(ツエクサ,ハコベおよびカラスノエンドウ)に対する効果はパラコート+ジ クワツト混剤が最も高く,処理後4日−1週間でほぼ完全に防除した.次いで,グルホシネート,およびビアラホ スの効果が高く,処理後2−3週間でほぼ枯死させることができた.グリホサートは効果の発現が遅いが,ツユタ サ以外の広葉雑草を遅くとも1ケ月後には枯殺した.ツユクサに対するグリホサートの効果は,処理後35日目で80 %程度を示した.また250cc/10aの低薬魔のグリホサートはツユタサに対して50−60%程度の抑制しか示さなかっ たが,この場合でも,ツユタサの開花結実は著しく阻害された. エノキグサに対して,いずれの薬剤も1度は完全に防除することができた.上述のように,パラコ・−ト+ジクワ ツト混剤の効果は最も速かったが,処理後35日目ではほぼ完全に再生した.グルホシネ1−ト,およびビアラホスは, グリホサートよりも速く効果を示したが,いずれも再生が速く,処理後35日日では,グルホシネートで30%,ビア ラホスで10%程度の抑制を示した.グリホサ・−ト500cc/10aは効果の発現は遅かったが,処理後35日目で90%以上 の抑制を示し,4薬剤の中で最も高い効果を示した.しかし,低薬塵のグリホサートの効果は著しく低く,エノキ グサはツエクサと同様に,グリホサートが効きにくい草種のひとつであると考えられる. 多年生雑草(ヨモギ,ギシギシおよびハルジョオン)に対する効果では特に再生が問題になる.グリホサートは 効果の発現は遅いが,これらの多年生雑草の再生をよく抑え,30日以上の抑草効果を示した.次いで,グルホシネ ートの抑草効果が高く30日程度抑えることができたが,その後の再生は著しかった.パラコート+ジクワツト混剤 は再生が著しく速かった. 考 察 本学農場果樹園における雑草植生は春期と夏期に著しい差異があることが観察された.植木ら(4〉は大阪の果樹園 において,日照条件によって優占する下草雑草の種類が著しく異なることを報告している.すなわち,日照条件の 良好なカキ園では夏生イネ科雑草が夏期に優占するが,邁弊条件のナシ園では冬生のスズメノカタビラが夏期にも 優占する.しかし,本農場果樹園では遮光度の高いブドウ園においても夏期には夏生雑草に交替した.このことは 香川県の高温かつ少雨の気候に関係があると思われる.またこの雑草植生の交替は,果樹園の雑草管理の上でも春 期と夏期を明確に区別する必要があることを示唆している. 果樹園の雑草管理は経費,樹種,処理時期,労力および雑草草種によって異なるので,必要場面に応じた除草剤 の効果を考える必要がある.先ず,とにかく速く枯らしたい場合には,パラコ・−ト+ジクワツト混剤が最も効果が 高く,次いでグルホシネート,ビアラホスが高い(5)(6).特に,収穫前に急いで雑草防除をしたい場合には,経済性の 面からもパラコート+ジクワツトが最も優れている.次に,ある程度の速効性を必要とし,1ケ月程度抑制したい
130 香川大学農学部学術報告 第42巻 第1号(1990) 場合にはグルホシネ・−ト,ビアラホスが好適である.−般的にはグルホシネートの方が効果が高い.しかし,イネ 科雑草のヒメシバおよびスズメノカタビラ,広葉雑草のエノキグサ並びに多年生雑草のような再生力の強いもので は,1ケ月経過すると50−70%程度に抑草効果が減ずる.最後に,速効性は必要ないが長期間抑草したい場合には, グリホサートが最も効果的である.しかし,ツユタサのようにグリホサートが効きにくい草種もあるので,グリホ サートを連用すると草種の変遷が生じる可能性がある. 以上のように,各除草剤の特性を理解して使用することによって,必要に必じた的確な雑草管理を行うことが可 能である.また−・般には,冬生あるいは夏生雑草の除草剤による防除は,それぞれ春期(3月−4月)あるいは梅 雨明け後の盛夏に行われる.従って,次に果樹園の−・般的な防除時期の除草効果について考える必要がある. 春期の雑草防除は,いずれの薬剤も夏期の処理と比較すると,一般に雑草を枯死させるのに時間がかかる.グリ ホサートは効果の発現が遅いので,特に低温期の冬生雑草の防除には時間がかかる.果樹園内に冬生の広葉一年生 雑草の多い場合には雑草の再生があまり問題にならないので,経済性の点からもパラコ・−ト+ジクワット混剤が最 も効果的である.園内に多年生椎革またはイネ科雑草の多い場合には,効果の発現は遅くてもグリホサートによっ て確実にそれらを防除できる.グルホシネートおよびビアラホスも広葉の−・年生雑草に対して高い効果を示すが, イネ科および多年生雑草に対しては長期間防除することはできない.しかし,4月−5月には冬生雑草から夏生雑 草へと草種の交替があり,春期処理後の冬生雑草の生長期間噂それほど長くない.従って,春期処理のグルホシネ ートは夏生雑草の発生まで抑えることができる.またグルホシネートおよびビアラホスの効果の発現が比較的速い のも春期処理では望ましい点であると思われる. 梅雨明け後に行う夏期処理で雑草の長期防除を期待するためには以下の様な方法が考えられる.メヒシバの多い 果樹園ではグリホサートによって,1−2ケ月の防除が可能である.グリホサ・−トの効き難いツエクサの多い園で はパラコート十ジクワット混剤が経済的である.グルホシネ・−ト,およびビアラホスも広葉雑草には効果が高いが, メヒシバあるいは多年生雑草の多い果樹園ではその再生が速く収穫前にもう一度散布が必要となる.従って,長期 間の防除を目指す場合には,グリホサートとパラコート+ジクワット混剤を旨く組み合わせることによって,夏の 雑草を旨く防除できると考えられる. 以上のように,市販の茎葉処理型除草剤には一長一・短があり,それらを旨く組み合わせることによって,効率的 な果樹園の雑草管理が可能になると推察される. 文 献
(1)植木邦和,伊藤操子,伊藤幹ニ:雑草研究,17,38 (5)HoH,MIFuTIYAMA,MhandYAMANE,S:The
−45(1974) 12thAsian Pac摘cWeed Science Soc,387−392
(2)高橋健ニ∴雑草研究,33(4),241−246(1988) (1989)
(3)広瀬和栄:雑草研究,17,ト7(1974) (6)鈴木邦彦,広瀬和栄:雑草研究,25(別),135−136 (4)植木邦和,伊藤操子,沖陽子:雑草研究,22,19− (1980)