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自然エネルギー100%大学(電力)の実現—千葉商科大学が実践する省エネ・創エネ活動—

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自然エネルギー 100%大学(電力)の実現

̶千葉商科大学が実践する省エネ・創エネ活動̶

手嶋  進

・原科 幸彦

摘 要 再生可能エネルギーが主力エネルギーの一翼を担うという期待が高まる中,再エネ 100%を宣言する企業も増えてきた。しかしながら,再エネ100%の理想を掲げても実際 に達成した事例数はまだ限られており,達成の手法もあまり公開されていない。千葉商 科大学では,まず,教員有志が再エネ100%の可能性を2014年から検討し,2017年に 「自然エネルギー 100%大学」に向けたプロジェクトを正式に発足させた。照明のLED化 などの省エネ施策と,キャンパスから離れた場所に大学が所有する太陽光発電所の設備 を増設し,キャンパス内建物屋上に太陽光発電設備を設置する創エネ施策を実施した結 果,2019年1月末までの1年間でキャンパスの年間電力使用量と同量以上の電気を作ると いう目標を達成することができた。本稿では,再エネ100%を目指す他大学や事業者の参 考となるように,再エネ100%達成という理想と経済性などの制約との間でいかにバラン スをとって施策実行したかを実行当事者としての立場で報告し,一定の成果を上げるこ とができた要因について考察する。 キーワード: RE100,省エネ,再生可能エネルギー,ハートウェア,環境教育 1. は じ め に 18世紀の産業革命とそれに伴う化石燃料の利用 が始まって以来,エネルギー技術の進展は生活を快 適にし,文明の構築に貢献してきた。ところが,こ れまで依存してきた化石燃料は枯渇性資源であり, 燃焼により排出されるCO2が地球温暖化の要因と なっていることや,ほぼ全量を海外から輸入してお り安定供給の面でリスクがあることなど課題が多 い。1970年代の石油ショックにより加速された原 子力発電はこういった懸念を払拭し夢のエネルギー として注目されたが,海外での度重なる事故に加え 2011年の福島第一原子力発電所の事故によりその 安全神話が崩れた。 この事故を機に,これまで商用化が徐々にしか進 んでこなかった再生可能エネルギー(再エネ)利用 への期待がにわかに高まってきた。再エネは日本中 に広く賦存しているため地域に雇用機会を生み出 し,温室効果ガスの排出がほとんどないため,人間 が制御できる範囲で利用できれば理想のエネルギー となり得る。海外では風力や太陽光による発電が産 業としての競争力を持ちつつあり,再エネを積極的 に利用する大学や企業も増えている。米国では再エ ネ電力を100%使用している高等教育機関がすでに 52ある1) しかし,日本においては事業活動を全て再エネで 賄うことを宣言した一部の大手企業を除き,現実に は企業や教育機関が再エネを積極的に利用している とは言い難い。再エネ利用は理想と認められても現 実では経済性や知識不足などの理由により選択され ないという問題がある。再エネが主力エネルギーと して普及するためにはその利用が実務で受け入れら れなければならない。千葉商科大学(本学)はまず 試行することが重要と考え,市川キャンパスの電力 消費量と同量の電力を作る目標を設定して取り組ん だ。2019年には経済性も確保しつつ現行の制度を 2020年9月4日受付,2021年1月29日受理 doi: 10.11353/sesj.34.162 千葉商科大学,〒272‒8512 千葉県市川市国府台1‒3‒1 †Corresponding author: [email protected]

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に貢献した要因を考察する。この事例は再エネが実 務で受け入れられるかの実証であり,本稿を参考に することで他の民間事業者が再エネ利用への一歩を 踏み出せるようになれば,再エネによる分散型エネ ルギー社会の発展にわずかながらでも貢献できるか らである。 2. 方法の概要 2.1 対象事例 本学は千葉県市川市に約109,500 m2のキャンパ ス,約6,500人の学生と約760人の教職員(常勤・ 非常勤を含む)を擁し,5つの学部と大学院,および 研究機関からなる私立大学である。自然エネルギー 100%大学は2014年に原科が政策情報学部長時代に 発意し,同僚教員らと共に活動を始めたものだが, 本稿はこの経験から,他大学や事業者が同様の取り 組みを進める際の参考に資する情報を提供する注2 プロジェクトでは省エネ・創エネの機器や設備 を導入する「ハードウェア」,エネルギー・マネジ メント・システム(EMS)によるエネルギーの見 える化や情報整備をする「ソフトウェア」,人々の 具体的行動につながる意識を啓発する「ハートウェ ア」注3の3分野を同時に進めていくアプローチを 取った2)。資金調達や採算などの経済性の課題と, 知識・ノウハウを持った人材の不足は再エネ・創エ ネに取り組もうとしている他大学の関係者から頻繁 に聞かれる問題点であるため,目標と経済性のバラ ンスのとり方やプロジェクト推進体制については重 点を置いて述べる。これらの問題点は自治体や事業 者を対象としたアンケート調査3, 4)で再エネ導入の 障害として上位に上がる項目であり,以前,手嶋が 地方で再エネ事業の開発をしていた際の経験とも合 致する。また,学生による活動は大学でのプロジェ クトを特徴づけ,ハートウェア醸成における重要な 点として報告に含める。 2.2 再エネ100%の定義 本学の活動を報告するためには,まず再エネ 100%について一般的な定義と本学の定義の違いを 述べなければならない。近年,事業活動で使う電気 を100%再エネにしようとする大企業を対象にした 国際イニシアチブ「RE100」5)や日本国内の中小企 業や自治体,教育機関などが参加する「再エネ100 宣言RE Action」6)への加盟が増加している。この ような動きにおける再エネ100%の定義は概ね一致 している。例えばRE100の達成要件では,まず対 ヤーが保有する設備から購入する,③敷地外の設備 から系統を経由せずに自営線を経由して利用する, ④敷地外にある系統接続した発電設備から供給契約 (PPA)により直接調達する,⑤電力小売などが提 供しているグリーン電力(再エネメニュー)を購入 する,⑥電力とは別に環境価値を分離して扱う属性 証明(証書)を購入する注4 しかし,本学における再エネ100%の定義は,使 う電気を100%再エネにすることではなく,本学が 所有する敷地(キャンパスから25 km離れた野田発 電所とキャンパス)で創出する再エネ量を消費エネ ルギー量と年間で同等以上にすることとした。エ ネルギーには「つくる責任」と「つかう責任」があ り,一次エネルギーにおける再エネ比率が8.7%8) と低い日本においては,自らが消費するエネルギー 相当量を送電ロスが少ない近場の適地で「つくる責 任」をまず果たすことが必要と考えた9)。また,電 気だけでなく都市ガスの熱量も換算して全消費エネ ルギー相当量を作ることを最終目標とした。なお, 2019年1月に「つくる責任」を達成したのち,8月 には購入電力を全て再エネ由来に変更し,「つかう 責任」も果たした。 3. 事 例 報 告 3.1 背景 2014年から始めた再エネ100%の検討は翌年 の実行可能性調査を経て,原科が学長に就任した 2017年4月に「学長プロジェクト」の一つとして 全学的な「自然エネルギー 100%大学」プロジェク トへと進展した。以下の2段階の目標を設定した。 第1段階:【環境目標1】2018年度中に,1年間に 市川キャンパスで消費する電力の総量と同等の電気 を再エネにより創出する(電気における100%の達 成)。この目標は2019年1月に達成した。 第2段階:【環境目標2】2020年度中に,1年間に 市川キャンパスの電気と都市ガスの消費量をエネル ギー換算して,それと同等の電気を再エネにより創 出する(全エネルギーにおける100%の達成)。 3.2 推進体制 プロジェクト体制は学長を総責任者とし,プロ ジェクトリーダーの下に複数の学部から集まった 教員,施設管理や学長事務室などの職員,創エネ・ 省エネを進める学生団体のメンバーやプロジェク トに参加する教員が担当するゼミの学生などから 構成した。さらに,大学の子会社で施設管理を担

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う株式会社CUCサポート,創エネ・省エネの実務 を担う大学の関連会社であるCUCエネルギー株式 会社(CUCエネルギー)の社員も含む体制とした (図1)。 3.3 省エネ施策 省エネ施策の検討は2015年から開始した実現可 能性調査に遡る。サステナジー株式会社などの外部 コンサルタントの協力により,本学を対象として経 済産業省の補助金を受け,市川キャンパスにおける エネルギー消費量を,野田発電所での発電量と同 量にすることができるか,できるとすればどのよう な施策が有効かを調査した(ネット・ゼロ・エネル ギーキャンパス化可能性調査)。当時考えられる省 エネ策をリストアップし注5,それぞれの消費エネ ルギー削減量,省エネによる年間費用削減額,初期 費用,投資回収年を概算で計算した。2016年2月 に出た調査結果では,回収年が10年を超える施策 があるなど容易ではないが,照明のLED化を中心 に他の経済性ある施策を組み合わせることで,発電 量と消費量をネットでゼロにできる可能性があると 結論づけた10) 2016年度は検討を継続し,2017年4月に学長プ ロジェクトが発足するとまずLED照明とEMSの導 入などに取り掛かり,並行して他の施策も実行し た。主な省エネ施策は以下のとおりである。 3.3.1 LED照明の導入 2017年当初,建物内の照明はごく一部のみに LED照明が使われていたが大部分は蛍光灯であっ た。LED照明導入による投資回収年は,照明の年 間点灯時間が長い部屋ほど短期となる。教室,会議 室,廊下,トイレなど使用目的を考慮して点灯時間 を推計し,費用対効果とエネルギー削減量を考慮し て実行可能性調査よりも細かい単位で対象範囲を決 定した。結果として主要な建物の屋内はほとんど LED照明に取り替えられ,外灯など夜間しか点灯 しない照明は変更が見送られた。 LED導入による省エネ効果推計は年間1,219千 kWh(2016年度電力消費量の約25.8%)であった。 また,照度を70%に抑制できる装置を導入し,照 度が十分である箇所には運用により照度を下げるこ とでさらに年間55千kWh(同約1.2%)の省エネ 効果を想定した注6 3.3.2 CO2濃度監視による外気導入の適正化 時間設定にて外気を取り入れていた図書館に CO2センサーを設置し外気を必要以上に取り込ま ないよう換気の適正化を図った。これにより都市 ガス年間消費量13千m3(2016年度ガス消費量の約 5.8%)の削減を見込んだ。 3.3.3 エネルギーマネジメントシステム(EMS) の導入 これまで棟別のエネルギー消費量しかわからな かったが,EMSを設置して各棟各フロアの区域ご との消費量がわかるようになった。EMS導入で即 座に省エネになるわけではないが,施策検討や施 策導入後の効果測定が行いやすくなった。なお, EMS導入単独での効果は見積もっていない。 3.3.4 GHP空調温度設定の変更 従来,夏季の冷房設定温度は摂氏26度,冬季 の暖房設定温度は22度であったが,それらを夏季 27度,冬季21度とした。これは学生や教職員に我 慢させるのではない。夏に「寒い」,冬に「暑い」 という声が聞かれることがあり,過剰な空調設定に よる無駄を無くすのが目的である。人により温度の 感じ方は様々であり,中央監視室に電話をすればい つでも利用者の依頼に応じて設定温度を変更する運 用としている。GHP空調の設定温度変更により年 間9千m3(2016年度ガス消費量の約3.9%)の都市 ガス消費量削減効果を想定した。 3.3.5 空調機器の更新 空調機器によっては設置から15年以上経過して 図1 プロジェクト体制図

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いるものもあり,効率が低下していると思われる機 器があった。設備管理部署で検討し,必要と判断さ れた空調機器は更新時期を早めた。更新時期の変更 だけなので省エネ効果としては計算していない。 3.3.6 飲料自動販売機の撤去・更新 キャンパス内にある飲料自動販売機(自販機)は 夜でも電力を消費し,また,古い自販機は1台あた りの電力消費量も大きい。そのため,38台あった 自販機のうち7台を撤去し,残る31台のうち19台 を省エネ型の新しい自販機に交換した。これは学 生の提案により実現した。2017年度の授業の中で 環境をテーマにした調査をすることになった1年生 のグループがキャンパスの自販機に注目し,各自販 機の設置場所,月間販売本数,消費電力量を調査し た。複数台が並べて設置してある自販機や販売本数 が少ないなど撤去しても利用者の利便性を損ねない 自販機を特定して大学に提案した。旧型で消費電力 量が多い自販機もリストにして大学に新型への交換 対応を併せて要請した。大学と取引のある自販機ベ ンダー各社に対して学生が調査報告会を実施して理 解を求め,各社も意義を理解して協力した。これに より推計値で年間14,717 kWh(2016年度電力消費 量の約0.3%)の電力が削減された。 3.3.7 施策導入スキーム 上記のうちLED照明,CO2濃度センサー,EMS の導入は,CUCエネルギーが15年間のファイナ ンスリースで大学に貸与する形をとった(図2)。 CUCエネルギーは大学およびその関係者,地元の 信用金庫などの出資により設立したエネルギー施策 マネジメント会社である。これらの設備投資をす るにあたり,CUCエネルギーは経済産業省「平成 29年度省エネルギー投資促進に向けた支援補助金 (省エネルギー投資促進に向けた支援補助事業のう ちエネルギー使用合理化等事業者支援事業)」1億 1,240万円の交付を受け,3億円近い金額を地元の 信用金庫から借入して,設備導入を行った。資金 調達から施工の管理,外部コンサルタントへの業 務委託を関連会社に任せることで,大学としては リース料が効果に見合うかの意思決定に集中でき た。CUCエネルギーはこれらの事業関連費用も含 めて経済性を検討し,選択すべき施策を大学に提案 した。 これら2017年度の省エネ施策により,2018年 度のエネルギー消費量は2016年度と比較して,電 力で1,200千kWh,ガスで23千m3が削減された (表1)。 3.4 野田発電所 大学の創エネ活動は野田発電所と市川キャンパス の建物屋上の2箇所で取り組んだ。野田発電所は, 大学の野球練習場の移転に伴い空き地となった場 所を利用して建設された(図3)。2012年に始まっ た固定価格買取制度(FIT)が意思決定を後押しし て,約7億円の事業費を銀行より借り入れ,敷地面 積46,781 m2に10,032枚,容量合計約2,457 kWの 太陽光パネルを設置し,2014年4月から発電を開 始した。発電事業を開始するにあたっては敷地が住 図2 LED, EMS等の導入スキーム 表1 大学のエネルギー消費量 年度 電力 ガス 合計 千 kWh 原油換算 kL 千 m3 原油換算 kL 原油換算 kL 2016 4,731 1,201 237 275 1,477 2017 4,297 1,090 241 280 1,370 2018 3,532 894 214 248 1,142

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宅地から離れた場所にあり,太陽光パネルを設置し ても周囲の環境に問題を与えることがないことを確 認した。プロジェクト開始後の2018年2月末には 同じ敷地内の空きスペースにさらに1,610枚の太陽 光パネルを増設し,パネル容量合計を2,884 kWと した。2018年4月から2019年3月までの1年間の 発電量は,3,635,263 kWhとなり,増設前より発電 量が16.9%増加した。 野田発電所で発電した電気は全量をFIT売電して いるが,2019年8月からは野田発電所の電気を東 京電力パワーグリッド株式会社を通じてみんな電力 株式会社に特定卸供給してもらい,その電気を大学 が購入するようにした(図4)。ブロックチェーン 技術を利用したトレーサビリティシステムを利用す ることで,野田発電所のFIT電気を市川キャンパス で使用していることが証明される。ブロックチェー ンとは取引履歴情報を塊(ブロック)にしてチェー ン状につなげて記録される技術で,安価に利用で き,改ざんが困難と言われている。この特性を電力 取引に生かして,30分ごとにどの電源から電気を 買ったかを証明できるようにしたしくみがトレーサ ビリティシステムである11)。電力の不足分は,他 の再エネ発電所の電力により補充し,トラッキング 付き非化石証書を購入することで市川キャンパスが 使う電力を100%再エネとした。 3.5 キャンパス建物屋上太陽光発電 キャンパスにおける再エネ利用はプロジェクト発 足以前に風力発電や地域に多い梨の剪定枝などを利 用した木質バイオマスなども検討されたが,風速も バイオマス燃料も量的に不十分と判断された。太陽 熱利用も実行可能性調査時に検討したが,熱需要の ある建物は低層で他の建物や樹木の影となるため設 置には適さず,高層の建物に設置しても温水を熱需 要のある他の建物に送る必要があり費用面で合理的 ではないと判断した。結局,日照が十分あり耐荷重 において問題のない建物の屋上は全て太陽光パネル を設置することになった。キャンパスで屋上面積が 最も大きいのは体育館であったが,荷重の問題で太 陽光パネルを設置できないことがわかったため,残 る建物の限られた屋上面積で,最大限の発電量を目 指す必要があった。屋上面積あたりに設置できる太 陽光パネル枚数を多くするためパネルを南向きで はなく東西に面して設置することにした。(図5)。 キャンパスには築40年以上の既存建物も多く,屋 上に載せるパネル荷重には注意が必要であったが, 東西に設置することで設備の軽量化が図られるメ リットもあった。1号棟は屋上の幅が狭く,パネル を1列しか配置できず,パネルによってできる影を 考慮する必要がないため南向きとした。本館では屋 根の形状から架台を設置できないため掴み金具を 図3 千葉商科大学メガソーラー野田発電所 図4 大学の電力調達スキーム12)

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使って屋根に面して置いた。外部のコンサルタント の意見も聞き,設計時点で価格がそれほど高くはな らない範囲で1枚当たりの発電量が多いと想定され るパネルを選択した。最終的に,10棟の建物屋上 に合計で1,337枚,容量447 kWの太陽光パネルを 設置し,2019年4月から発電を開始した。発電し た電気は全てキャンパス内で自家消費されている。 図6は2019年8月9日における時間経過による発 電量推移である。自家消費であるため時間ごとの 発電量推移は気になる点であったが,3・4号館屋 上に設置した東西向きパネル(傾斜10度)による 発電量は,1号館に設置した南向きパネル(傾斜20 度)に比べて午前に早く上昇し,午後は早く下降す る傾向となるものの,1日を通しての発電パターン に大差はなかった。 次にパネル設置方向によって1枚あたりの発電量 にどのぐらい差があるかを示したのが表2である。 2019年4月から2020年3月までの12カ月間の発 電量を合計し,パネル1枚あたりの発電量を得た。 1号棟屋上に設置した南向きパネル1枚あたりの発 電量を100とすると,東西向きパネルは建物によっ てばらつきはあるが全体としては88.1であった。 なお,屋上には立ち上がり壁や突起物があり,それ らによりできた影による発電量への影響が季節に よって大きく異なるため発電量の評価をする際は単 月ではなく12カ月間のデータを見ることが望まし い。また,パワーコンディショナー(PCS)の容量 は太陽光パネルほど小刻みに拡張させられないた め,晴れた日の日中には容量上限に達して発電量が 抑えられることにも留意を要する。 購入する電気料金単価を超えないコストで発電 できるのであれば,再エネ100%目標を達成するた めにパネル1枚あたり発電量が低くてもパネル枚数 を20%以上増加できる東西置きを選択する意思決 定をした。発電量を増やすためにわずかであれば採 算性を犠牲にしてもよいという考えであった。しか し,稼働後1年間のデータを見ると採算性の犠牲は なかったと言ってよい。太陽光発電モジュールのコ 図5 パネル設置[左より東西向き,南向き(1号棟),平置き(本館)] 図6 2019年8月9日における30分ごとの発電量推移13)

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ストは総事業費の4分の1程度であり,パネル枚数 が20%増加しても他の費用はほとんど同じだと想 定されるため総事業費の増加は5%程度である。東 西向き設置によりパネル1枚あたり発電量が南向き 設置の88.1%になり,枚数を20%増加できたと仮 定すると発電量は5.7%増加する。したがって,東 西向きに設置した場合の採算は南向きに設置した場 合と大差ないと推測できる。 屋上太陽光発電設備投資額は約1億2,700万円 で,CUCエネルギーが環境省「平成30年度二酸化 炭素排出抑制対策事業費等補助金(再生可能エネル ギー電気・熱自立的普及促進事業)」2,820万円の 交付を受け,残りを信用金庫から借入して設備設置 を行い,大学に対して17年間のファイナンスリー スで設備を提供している。リース契約後も太陽光 発電設備は使用できるため,再リースなどで安価 に継続利用できるとすると,大学にとって屋上太 陽光設備により得られる1 kWhあたりの電気は約 14.4円,もし補助金が得られなかったとしても約 17.5円となり,いずれも大学が購入していた電気 料金(2017年は税込20円程度)よりも安い費用で 電気を作っていることになる注8 3.6 学生の参加 プロジェクトに関連する活動に多くの学生が参加 している。2018年3月に「自然エネルギー 100% 達成を支援する」活動を行う学生団体SONEが発 足し,学内の省エネパトロール,空調設定温度変更 による教室内温度の変化測定,他の学生と一緒に省 エネ週間で打ち水を行う啓発普及イベント「打ち水 大作戦」などの活動を実施し,また,シンポジウム などで発表して学外への情報発信を行ってきた14) 省エネパトロールでは省エネ週間開催中に建物ごと に数回に分けて巡回し,照明を消し忘れた部屋を見 つけてはスイッチのところに「点けたら消す!」な どと手書きしたビニールテープを貼り,消灯して 回った。教員によってはEMSデータを活用した分 表2 2019年度太陽光パネルあたり発電量(建物ごと)注7 建物 年間発電量(Wh) パネル枚数 パネル 1 枚あたり 年間発電量(Wh) 指数 パネル向き 1号館 38,387.0 93 412.8 100.0 南 2号館 129,653.3 346 374.7 90.8 東西 3・4 号館 121,453.7 328 370.3 89.7 東西 5号館 33,185.3 90 368.7 89.3 東西 6号館 30,917.3 84 368.1 89.2 東西 研究館 27,710.0 84 329.9 79.9 東西 Univ. HUB 24,101.1 68 354.4 85.9 東西 体育館横 B 棟 42,474.2 126 337.1 81.7 東西 東西向き合計 409,494.8 1,126 363.7 88.1 東西 図7 消費エネルギー量の推移と創エネ・省エネ効果15)

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とってプロジェクトは学びの機会となった。また, 他の学生はキャンパスの一角でぶどう畑と野菜畑を 作りその上に太陽光パネルを設置してソーラーシェ アリングを行っている。このぶどうを収穫しワイン を作るという企画で,これらの費用はクラウドファ ンディングによって集められ,資金提供者への連絡 や畑の世話なども全て学生が行っている。 3.7 省エネ・創エネ効果 プロジェクト発足からの省エネ・創エネ効果を 整理すると図7のようになる。2016年度の電気と ガスのエネルギー消費量を原油換算すると2016年 度は1,477 kL/年であった。2018年度の消費量は 1,142 kL/年だったので,2年間で335 kL/年(2016 年度消費量の22.7%)が削減された。野田発電所 の2018年 度 の 発 電 量 は3,635千kWh( 原 油 換 算 935 kL)で2016年度エネルギー消費量の63.3%に 相当する。キャンパス建物屋上の太陽光発電設備 による2019年度の発電量は487千kWh(原油換 算125 kL)であり,2016年度エネルギー消費量の 8.5%に相当する。これら省エネ・創エネの効果を 合計すると原油換算1,395 kLとなり,2016年度エ ネルギー消費量の94.4%に相当する。 4. 考 察 本学の事例は既存の制度を使い経済性を確保しつ つ,電気における再エネ100%を達成できることを 示している。プロジェクト開始直後は採算性が高い 施策から実施できるが,目標達成度が100%に近づ くにつれて投資回収期間が長い施策も検討対象とな る。どの施策も施工業者の提案をそのまま採用せ ず,目標達成への貢献度と投資回収期間の両方を勘 案しつつ,内部で検討を重ねた。 知識・スキル不足の課題についてはプロジェクト 期間を4年間(事前検討も含めると7年間)という 長期に設定したことが役立った。施策検討会議で案 を持ち寄ることで,当初はエネルギーに詳しくな かったメンバーの間でも知識やスキルが次第に向上 していった。CUCエネルギーを設立した効果は経 済性の面より知識,情報,外部リソースをそこに集 められたことが大きかった。 課題に継続的に取り組めた要因として,「つくる 責任」にこだわりを持ち,再エネ発電100%の目標 を設定して対外的に発表したことが挙げられる。 原科が2014年9月に「日本初の自然エネルギー 100%大学にしたい」と発案した際には,周囲には な投資は考えられない。重要なのは,省エネ,創エ ネのための設備投資も含めた大学組織としての対応 である。原科は当時,政策情報学部長であったが, 組織の意思決定を変える決断をした。そこで,覚悟 をもって臨めば達成できるとの思いで,当時の島田 晴雄学長をはじめ学内首脳部を説得するための多 面的な活動を展開した。例えば,2015年度のネッ ト・ゼロ・エネルギーキャンパス化可能性調査や, 2016年度から始めて7月恒例となった「打ち水大 作戦」などである。そして,2017年の学長就任時 には,千葉商科大学を「日本初の自然エネルギー 100%大学にする」と,明確に対外発表をすること ができた。願望から目標への転換である。 結果的に100%目標は誰の目にもわかりやすく, 学外からも注目され,学内のハートウェア醸成に役 立った。プロジェクトに興味を持って入学した学生 もいる。また,証書を購入するだけの再エネ100% とは異なり,消費する電力と同量を自ら再エネで作 る責任を目標に込めて掲げたことに共感するメン バーは多い。RE100の加盟企業の再エネ電力調達 方法で最も多い選択肢は証書の購入(調達再エネ電 力の43%)だが16),環境負荷を金銭取引の対象と することへの倫理的な批判もある17)。目標の考え 方はプロジェクトにおける行動の判断基準となっ た。 本学の事例は従来の社会経済環境におけるもの だが,制度や事業環境は変化するため本学で実施 した施策がそのまま他の大学や事業者にとっての 解にはならない。例えば,本学がFIT認定申請をし た2012年と比べて買取価格は低下し,入札が取り 入れられるなど経済性確保の条件が厳しくなってい る注9。その一方で,LEDや太陽光発電設備は毎年 価格が低下しており,これから取り組む事業者のほ うが本学の事例よりも有利となる可能性も高い。再 エネ利用の普遍的な成功要因を見つけるには事例の 増加を待たなければならない。 本学において,第2段階の目標(全エネルギーの 100%)は,実測値としては2020年6月に達成し た。だが,これはコロナ禍のもとでの消費電力の減 少も手伝っている。そこで本学は実質的には未達成 と判断し,コロナ禍の終息を待つこととし,目標年 を2023年度に繰り下げた。主要なハードウェア導 入は既に実行したため,今後は省エネのための学生 や教職員のハートウェア醸成がより重要になる。例 えば,SONE学生の調査により,夏休みの教室予約

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と実際の使用状況には乖離があり,教室予約に連動 して運転される空調機器のエネルギーの無駄が判明 するなど,改善すべき点が見つかっている。 今後は本学におけるエネルギー利用の理想を追求 しつつ,他大学などへの展開に取り組む予定であ る。米国では複数の大学が共同で再エネ事業を計画 することで企業の協力も獲得し,事業全体の投資効 率を高めた事例が複数ある18)。他大学などに我々 の経験を伝え,再エネ100%を広げてゆくことで, 日本を再エネ100%社会に変えてゆくことに貢献し たい。 注 注1  本学における取り組みにおいては「自然エネル ギー」という用語を再エネと同義として使用して いる。 注2  原科は2014年に同僚教員や学生らと共に自然 エネルギー 100%の活動を開始し,手嶋は2015 年から外部コンサルタントの一員として実現可能 性調査や施策実行を支援し,2019年4月からは本 学の教員としてプロジェクト活動と教育に携わっ てきた。 注3  原科(2007)は環境計画において環境意識や 倫理観によって人の行動が異なることを指摘し, ハードウェア(物理的側面)やソフトウェア(制 度的側面)に対して,その人的側面をハートウェ アと名付けた。本学の活動においてもこの3つの 枠組みを適用し,学生や教職員の行動につながる 意識をハートウェアとして重要視した。 注4  日本において使用できる証書は「グリーン電 力証書」,「J-クレジット(再生可能エネルギー由 来)」,「非化石証書(再生可能エネルギー指定)」 の3種類がある。グリーン電力証書は,グリーン 電力発行事業者が一般財団法人日本品質保証機構 による再エネ発電設備の認定を受けて発行する。 J-クレジットは,再エネによる電力を自家消費す る発電プロジェクトをJ-クレジット制度認証委員 会が承認し,国が認証する制度で,事務局が実施 する入札に参加するかJ-クレジット保有者(また は仲介事業者)から購入する。非化石証書は一般 社団法人日本卸電力取引所の非化石価値取引市場 において小売電気事業者が入札して購入できる。 非化石証書のうち,FIT電源を対象とした再エネ 指定の証書はFIT電気の環境価値を分離して購入 できるため潤沢な発行量が見込まれる。2019年 2月の入札から発電設備を特定する属性(トラッ キング)情報を付加したFIT非化石証書の実証実 験が始まり,同年8月から本学でも自らが所有す る野田発電所を指定して購入することにした。 注5  省エネ施策候補として建物別フロア別部屋別の LED化,窓への日射フィルム導入,高効率空調機 への更新,外気取り入れ制御,図書館の空調用冷 温水ポンプインバーター導入,教室割り当て使用 変更,昼光センサーによる窓際照明の節電が検討 された。 注6  事例報告において使用するエネルギーの単位 は,電気はWhまたはkWh,都市ガスはm3,電 気と都市ガスのエネルギーを合計した全エネル ギー量は原油換算値kLとする。1次エネルギー換 算係数は,電気は「エネルギーの使用の合理化等 に関する法律施行規則(規則)」別表第三イ(昼 間の電気)より1 kWhあたり9,970 kJ,都市ガス は京葉瓦斯株式会社の供給ガスに基づき1千m3 たり45.00 GJとし,1 GJを原油0.0258 kLとして 換算した(規則第四条)。 注7  EMS過去ログデータを基に筆者が作成した。 注8  17年間のリース料と初期設計支援費用(外部 コンサルティング費用を含む)の合計を20年間 の発電量で除した金額。初年度の予想発電量を 466,311 kWhとし,毎年0.5%発電量が低下する と仮定して計算した。補助金なしの場合は初期費 用に補助金交付額を足し戻して計算しており,事 業費増加に伴う資金調達費用等は含まれていな い。 注9  FITは発電事業者が適正な利潤を得られるよう に当該年度の再エネ発電設備コストを勘案して買 取価格が設定される制度であるため価格低下のみ をもって不利とは言えないが,本学の設備認定申 請時は特に利潤が配慮された年であり現在よりも 有利であった。(「電気事業者による再生可能エネ ルギー電気の調達に関する特別措置法」附則第 7条にて法律の施行日から「三年間を限り,調達 価格を定めるに当たり,特定供給者が受けるべき 利潤に特に配慮する」とされた。) 文 献 1) US EPA, https://www.epa.gov/greenpower/green-power-partner-list, (accessed 2020-3-19). 2) 原科幸彦(編)(2007)環境計画・政策研究の展 開̶持続可能な社会づくりへの合意形成.岩波書 店,349 pp. 3) 山下英俊・藤井康平・山下紀明(2018)地域に おける再生可能エネルギー利用の実態と課題̶第 2回全国市区町村アンケートおよび都道府県アン ケートの結果から̶.一橋経済学,11(2), 49‒95. 4) 経済産業省中国経済産業局資源エネルギー環境 部(2017) 平 成28年 度『 中 山 間 地 域 に お け る 「ひと」「しごと」「資源」の好循環による地域の自 立・継続に向けた支援方策調査』地域エネルギー に関するアンケート調査報告書(別冊4),31 pp. 5) RE100, http://there100.org, (accessed 2019-11-24). 6) 再エネ宣言RE Action, https://saiene.jp,(参照2019-

11-24).

7) RE100,RE100技術要件(Criteria)再エネ電力の 調達手段についての技術ノート2018年1月,http://

(10)

8) 経済産業省資源エネルギー庁(2019)平成30年 度(2018年度)エネルギー需給実績(速報). 9) 原科幸彦・鮎川ゆりか・山口勝洋(2019)再生可 能エネルギー社会へ「まず,隗より」̶「自然エ ネルギー 100%大学」への挑戦̶.環境と公害, 48(4), 66‒70. 10) サステナジー株式会社・株式会社テクノプランニ ング・紫波グリーンエネルギー株式会社(2016) 平成26年度地産地消型再生可能エネルギー面的利 用等推進事業費補助金(構想普及支援事業)千葉 商科大学におけるネット・ゼロ・エネルギーキャ ンパス化可能性調査,120 pp. 11) みんな電力株式会社プレスリリース(発信2018-12-5). 12) 千葉商科大学プレスリリース(発信2019-7-31). 13) 手 嶋  進(2019) 建 物 別 太 陽 光 パ ネ ル 発 電 量 会誌,32, 169‒175. 15) 千葉商科大学(2019)自然エネルギー 100%大学 達成に向けた省エネ施策の一例(2019年度省エネ 大賞東日本地区発表大会資料). 16) RE100, 年 次 報 告 書,http://media.virbcdn.com/ files/d0/0423e4c570b8a34e-RE100Progressand InsightsAnnualReportDecember2019Japanese.pdf, (参照2020-3-16).

17) Sandel M.J. (1997) It s Immoral to Buy the Right to Pollute. New York Times, December 15, 1997. 18) Bradford A., J. Sundby, B. Payne and J. Taber (2019)

America s Top Colleges for Renewable Energy̶Who s Leading the Transition to 100% Renewable Energy on Campus? Frontier Group and Environment Amer-ica Research & Policy Center, 39 pp.

Actions Toward 100% Renewable Energy at a University

̶Case Study of Chiba University of Commerce̶

Susumu Teshima and Sachihiko Harashina

(The Chiba University of Commerce, 1‒3‒1 Konodai, Ichikawa, Chiba 272‒8512, Japan)

Abstract

As expectations for renewable energy (RE) as a mainstream energy source have been increasing, some multinational corporations have declared their commitment to using elec-tricity generated from 100% renewable resources. Although discussions over the pathway to 100% RE are gaining momentum, few universities or businesses in Japan have taken action toward implementing 100% RE. After conducting preliminary research and internal discus-sions on its feasibility for three years, Chiba University of Commerce (CUC) officially started a project in 2017 to become a 100% RE university, aiming to produce more power than it consumes, and achieved this goal in 2019. Selecting which methods to use to reduce energy consumption and generate power required decision-making to solve the dilemma of how to balance financial performance and meeting the 100% RE goal. Based on their direct involve-ment in the project, the authors describe the CUC case study to provide an example of a 100% RE project for other universities and businesses who wish to implement something similar.

参照

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