尿中レジオネラ抗原検査キットを用いて
BALF 中レジオネラ抗原が確認されたレジオネラ肺炎の 1 例
増野智章
1;重永武彦
1;西山譲幾
1;田中 愛
1;藤島宣大
1;
宮 周也
2;板井真梨子
1;畑 正広
1;門田淳一
3 要約 ━━ 背景.レジオネラ肺炎は適切な治療がなされなければ高い死亡率を呈するため,早期診断・早期治療が重要 となる疾患であるが,早期診断が困難な症例もある.症例.53 歳,男性.発熱を主訴に近医を受診し,細菌性肺炎と診 断され,セフトリアキソンが投与されたが改善がみられなかったため,当院に転院となった.抗菌療法が無効であった ことと,胸部 CT 画像から器質化肺炎が疑われた.感染と器質化肺炎の鑑別を目的に,入院直後気管支肺胞洗浄を行っ たが,入院時に尿が採取できず尿中レジオネラ抗原検査が施行できなかったため,試験的に尿中レジオネラ抗原検査を 気管支肺胞洗浄液(BALF)で代用して行ったところ,陽性の結果が得られた.これによりレジオネラ肺炎が示唆され, その後の尿によるレジオネラ抗原検査でレジオネラ肺炎と診断した.速やかにレボフロキサシン,アジスロマイシンに よる治療を開始し,良好な治療経過が得られ,第 9 病日に退院となった.結論.レジオネラ肺炎が疑われる症例におい て,尿採取が困難な場合には,尿中レジオネラ抗原検査を BALF で代用しうる可能性が示唆された. (気管支学.2021;43:150-155) 索引用語 ━━ レジオネラ肺炎,尿中抗原検査,気管支肺胞洗浄液はじめに
レジオネラ肺炎は市中肺炎の原因菌として約 1% 程度 を占め1,適切な治療がなされなければ高い死亡率を示す 重要な呼吸器感染症である.その早期診断には尿中レジ オネラ抗原検査が有用であることが知られているが,尿 の採取が困難な症例においては早期診断が困難となりう る.今回,我々は尿採取困難であった症例に対し,試験 的 に 尿 中 レ ジ オ ネ ラ 抗 原 検 査 を 気 管 支 肺 胞 洗 浄 液 (BALF)で代用して行った.BALF 中抗原検査がレジオ ネラ肺炎の診断に有用である可能性を示唆した 1 例とし て重要と思われ,文献的考察を交えて報告する.症 例
症例:53 歳,男性. 主訴:発熱. 既往歴:高血圧症・脂質異常症. 家族歴:特記事項なし. 喫煙歴:なし. 職業歴:事務職員. 生活歴:温泉には行っていない. 現病歴:2018 年 6 月下旬からの集中豪雨により生じ た浸水被害の後処理を行っていたところ,7 月上旬より 38℃ 台の発熱が出現したため,近医総合病院を受診し た.胸部 X 線写真・胸部 CT 写真(Figure 1)にて右下葉 の細菌性肺炎と診断され,入院下にセフトリアキソン 2 g/日による治療が行われた.しかし,状態の改善がみら れず,器質化肺炎が疑われたため,治療開始 3 日後に当 院へ転院搬送された. 入院時現症:身長 166.5 cm,体重 66.4 kg.バイタルは 体 温 35.5℃(前 医 に て 解 熱 剤 内 服 後),血 圧 127/90 mmHg,脈拍 76/分,呼吸数 20/分,SpO296%(室内空気) であった.意識は清明,表在リンパ節の腫脹なく,聴診 にて右下肺野に coarse crackle と rhonchi を認めた.心 音は整,腹部は平坦で圧痛なく,四肢関節の腫脹・疼痛, 下 浮腫,皮疹などは認めなかった. 入院時検査所見(Table 1):血液検査所見では好中球 優位の白血球増多と CRP の上昇を認めたが,プロカルシ トニンの有意な上昇はなかった.また中等度肝酵素の上 昇を認めた. 入院時胸部座位単純 X 線写真(Figure 2a):撮影条件 が異なるものの,前医に比して右下肺野浸潤影の拡大をCASE REPORT
1大分赤十字病院呼吸器内科;2大分県立病院呼吸器内科;3大分大学医学部呼吸器感染症内科学. 受付日:2020 年 3 月 3 日,採択日:2020 年 10 月 30 日.Figure 1. Chest X-ray (a) and chest CT (b, c) on admission to the previous hospital. The
chest X-ray showed band-like infiltration in the right lower lung field (a), and chest CT dem-onstrated crescent-shaped dense infiltration surrounded by ground-glass opacities in the right lower lobe (b, c). Based on the above findings, the patient was initially diagnosed with pneu-monia.
Table 1. Laboratory Data on Admission to Our Hospital Hematology Biochemistry
WBC 9400/μl TP 5.9 g/dl
Neu 90.2% Alb 2.6 g/dl
Lym 5.3% AST 230 IU/l
Mon 3.6% ALT 221 IU/l
Eos 0.4% ALP 1175 IU/l
Bas 0.5% LDH 351 IU/l RBC 384×104/μl T-Bil 0.61 mg/dl Hb 12 g/dl AMY 68 IU/l Ht 35.5% γ-GTP 338 IU/l Plt 27.4×104/μl BUN 7 mg/dl Cr 0.67 mg/dl
Blood gas analysis (room air) Na 133 mEq/l
pH 7.457 K 3.7 mEq/l PaO2 73.9 mmHg Cl 100 mEq/l PaCO2 32.3 mmHg BNP 30 pg/ml HCO3− 22.3 mmol/l BE −0.8 mmol/l Serology AaDO2 35.5 mmHg CRP 24 mg/dl KL-6 166 U/ml PCT 0.37 ng/ml Chlamydophila pneumoniae-IgG (−) Chlamydophila pneumoniae-IgA (−)
Legionella Pneumonia Diagnosed by Detecting Legionella Antigen in BALF―Masuno et al
Figure 2. Chest X-ray (a) and chest CT (b, c) on admission to our hospital. The chest X-ray
showed the expansion of infiltration in the right lower lung field (a), and chest CT demon-strated extended consolidation that progressed from the ground-glass opacities (b), and the spread of irregular infiltration intermingled with reticular structures in the right lower lobe (c).
Table 2. Total Cell Counts,
Cell Fractionation and the CD4/ CD8 Ratio in the Bronchoalveo-lar Lavage (BAL) Fluid
Total cell count 1025/μl
Macrophage 45%
Lymphocyte 16%
Neutrophil 39%
CD4/CD8 ratio 1.57 The data showed a marked in-crease in total cells with a high percentage of neutrophils and lym-phocytes. The CD4/CD8 ratio was within the normal limit.
認めた. 入院時胸部単純 CT 写真(Figure 2b,2c):前医にて 認められていた右下葉の帯状陰影が拡大しており,また 非区域性の consolidation の拡大を認めた. 入院後経過:感染と器質化肺炎を鑑別する必要があっ たが,自尿が得られず,導尿の同意も得られなかったた めレジオネラ尿中抗原検査を施行することができなかっ た.また喀痰もみられなかったため,BALF の細胞分画 と細菌培養のサンプル採取目的で,先行して緊急の気管 支鏡検査を施行した.観察においては全体的に気管支表 面の不整や浮腫・出血などは認めなかった.右 B8より気 管支肺胞洗浄を施行した.なお,緊急で施行したため経 気管支肺生検は施行できなかった.BALF(Table 2)は 20% の回収率で性状は淡血性であった.総細胞数は 1.025 ×106/ml と増加しており,細胞分画はリンパ球 16%,好 中球 39%,肺胞マクロファージ 45% であった.気管支鏡 検査終了時点でまだ自尿が得られていなかったため,保 険適応外使用ではあるが,BALF を用いてイムノクロマ ト法による尿中レジオネラ抗原検出試薬(クイックチェ イサーⓇ肺炎球菌/レジオネラ,ミズホメディー)による 抗原検出を試みた.BALF については遠心分離をせず に,尿を用いて行う方法と同様にそのままの検体を使用 した.その結果,10 分の反応時間にて陽性と判定された ため,レジオネラ肺炎を強く疑い,速やかにレボフロキ
Figure 3. The clinical course from admission to our hospital.
Figure 4. Chest X-rays on days 3 (a), 6 (b), and 16 (c) showed the gradual improvement of the infiltration in the
right lower lung field under treatment with levofloxacin and azithromycin.
サシン(LXFX)500 mg/日とアジスロマイシン(AZM) 500 mg/日の点滴静注を開始した(Figure 3).なお,治療 開始後に自尿が得られたため,自尿でも尿中抗原検査を 施行したが,やはり陽性の結果が得られた.これをもっ てレジオネラ肺炎と確定診断した.治療開始後は解熱と ともに白血球・CRP の速やかな低下を認め(Figure 3), 胸部単純 X 線においても経時的に陰影の改善を認めた (Figure 4).経過良好であったため第 9 病日よりレボフ ロキサシン錠 500 mg/日の内服に変更し,同日退院と なった.第 16 病日に当科外来にてフォローアップを行 い,治癒を確認した.なお,退院後 BALF の培養結果が 報告され,Legionella pneumophila 血清型 1 の分離同定が 確認された.
考 察
レジオネラ肺炎は,細胞内寄生菌であるレジオネラ属 の細菌が原因で起こる感染症(感染症法第 4 類疾患)で ある.感染源としては,冷却塔や温泉・加湿器・空調設 備などエアロゾルが発生する装置や環境が広く知られて いるが,元々は自然界の土壌や淡水に生息するため,災 害下の直接的な環境への曝露にて発症しうるとの報告が あり2,本症例においても水害が原因となった可能性が考 えられる.レジオネラ肺炎は市中肺炎において鑑別すべ き疾患であるが,通常の市中肺炎と異なり,その死亡率 は 18∼40% と極めて高い3.そのため,早期診断・早期治 療が非常に重要となる.下痢・腹痛,頭痛・意識障害な どの肺外症状を呈しやすいが,特異的な症候はなく,患 者情報を集約して積極的に疑うことが推奨される.画像Legionella Pneumonia Diagnosed by Detecting Legionella Antigen in BALF―Masuno et al 所見では非区域性に分布するすりガラス影や consolida-tion が主体であり4,5,本症例のように器質化肺炎との鑑 別がしばしば問題となる5,6.レジオネラ肺炎の確定診断 には培養検査,ヒメネス染色,喀痰 PCR 法・LAMP 法, 血清抗体価測定法,尿中抗原検査などがあるが,一般の 病院では培養検査や喀痰 PCR 法,血清抗体価測定法の結 果を迅速に得ることは困難であり,有用性の高いヒメネ ス染色についても施行していない病院が一定数存在す る.このような状況を背景に,現在実臨床において最も 有用とされているのは簡便かつ迅速に尿中レジオネラ抗 原が検出可能な尿中抗原検査である. 尿中抗原検査は,イムノクロマト法の原理に基づいた Legionella pneumophila血 清 型 1 の LPS 抗 原 検 出 検 査 で あり,15 分以内に結果を判定することができる.診断能 としては感度 86%,特異度 99% とされており7,今回用い たクイックチェイサーⓇ肺炎球菌/レジオネラも同等で あることが報告されている8.しかし,血液透析患者のよ うな尿採取が困難な症例では実施できず3,また重症例で は急性腎不全を 10% 程度に合併することが報告されて いるため9,診断までに時間を要する可能性が少なくな く,その診断の遅れが患者の予後を左右する.本症例で も急性腎不全ではなかったが入院時乏尿傾向であったた め,尿検査を速やかには施行できなかった. これまでに尿中抗原検査を尿以外の液性検体で試みた 報告はいくつかあるが,BALF での代用は 1 報のみで あった.この中で BALF による尿中抗原検査の結果は BALF の培養結果と一致していた10.本症例においても BALF が培養陽性となったことから,尿中抗原検査を BALF で代用することの診断的有用性は高いと考えら れる.一方,血液透析患者において,尿中抗原検査を血 清で代用しレジオネラ肺炎を診断し得た症例が報告され ているが11,12,陽性の判定結果が得られるまでに 3 時間 を要したと報告されている12.一方,本症例では BALF で代用することにより 10 分の反応時間で陽性判定が得 られている.これは血清中のレジオネラ抗原量が尿中よ りも有意に低い13のに対して,感染巣から直接抗原を採 取する BALF 中には血清中よりも明らかに多くの抗原 が含まれているためと考えられ,尿と同様短い反応時間 で陽性判定が得られたものと考えられる.また,前述し たように尿中抗原検査の感度は 100% ではなく,尿中抗 原 検 査 陰 性 で も BALF 培 養 に て Legionella pneumophila 血清型 1 が分離同定された症例も報告されていることか ら14,気管支肺胞洗浄を行うことでより高感度に確定診 断が可能になると考えられる.気管支鏡検査は侵襲度が 高いため,尿採取が可能であればまず尿を用いて尿中抗 原検査を実施すべきではあるが,血液透析患者や急性腎 不全合併例において自尿が全く得られない場合にレジオ ネラ肺炎を診断するには,気管支肺胞洗浄が有用である 可能性が示唆される.ただし,本症例においては緊急を 要していたため BALF を用いて尿中抗原検査を施行し 治療開始したことについて当院院長に事後報告を行い了 承 を 得 た が,保 険 適 応 外 と い う こ と も あ り こ れ ま で BALF にて検査を施行された症例は限られるため,今後 さらなる症例の蓄積にて尿を用いた場合と 色ない結果 が得られるか検討していくことが必要と思われる.
結 語
尿中抗原検査を用いて BALF 中のレジオネラ抗原陽 性が確認されたレジオネラ肺炎の 1 例を経験した.器質 化肺炎と鑑別が困難で,さらに尿採取が困難な場合は, 尿中抗原検査を BALF で代用する方法が有用である可 能性が示唆された. 本論文に関連する開示すべき利益相反関係にある企業 等はない. 本論文の要旨は,第 42 回日本呼吸器内視鏡学会学術集会に て発表した. REFERENCES 1.日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン 2017 作成委 員会.成人肺炎診療ガイドライン 2017.2017:9-33. 2.砂川富正,齊藤剛仁,木下一美,ほか.東日本大震災に関 連して感染症発生動向調査に報告されたレジオネラ症. IASR.2013;34:160-161.3.Levcovich A, Lazarovitch T, Moran-Gilad J, et al. Com-plex clinical and microbiological effects on Legion-naires disease outcome; A retrospective cohort study. BMC Infect Dis.2016;16:75.
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A Case of Legionella Pneumonia in Which Legionella Antigen Was
Detected in BALF Using a Legionella Urinary Antigen Test Kit
Tomoaki Masuno
1; Takehiko Shigenaga
1; Yoshiki Nishiyama
1; Ai Tanaka
1; Nobuhiro Fujishima
1;
Shuya Miyazaki
2; Mariko Itai
1; Masahiro Hata
1; Junichi Kadota
3ABSTRACT━━ Background. Legionella pneumonia―when not properly treated―is associated with a high rate of mortality; thus, an early diagnosis and treatment are critical. In some cases, however, an early diagnosis may be diffi-cult to make. Case. A 53-year-old Japanese man who visited a local hospital with a chief complaint of fever, was diag-nosed with bacterial pneumonia and was given ceftriaxone; however, his condition did not improve. He was therefore transferred to our hospital for treatment. The initial antibiotic treatment failure and chest CT imaging suggested or-ganizing pneumonia as a probable diagnosis. In order to distinguish between bacterial infection and oror-ganizing pneu-monia, we performed bronchoalveolar lavage (BAL) soon after his arrival at our hospital. We could not perform a Le-gionellaurinary antigen test because we could not obtain a urine sample. Thus, we performed the Legionella antigen test using bronchoalveolar lavage fluid (BALF) as a substitute for urine on a trial basis. Based on the positive test re-sult, we suspected legionella pneumonia. The diagnosis of legionella pneumonia was subsequently confirmed by the analysis of a urine sample using a Legionella urinary antigen test. We immediately started treatment with levoflox-acin and azithromycin. He made a good recovery and was discharged on the ninth hospital day. Conclusion. When a urine sample cannot be obtained in a case of suspected legionella pneumonia, BALF can be substituted for urine for the Legionella urinary antigen test.
(JJSRE. 2021;43:150-155)
KEY WORDS━━ Legionella pneumonia, Urinary antigen test, Bronchoalveolar lavage fluid
1Department of Respiratory Medicine, Oita Red Cross Hospital, Japan;2Department of Respiratory Medicine, Oita Prefectural Hospital, Japan;3Department of Respiratory Medicine and Infectious Diseases, Oita University Faculty of Medicine, Japan.