Abstract
The purpose of this study was to examine the coordination and cooperation among university-based community sport clubs (UCSCs), university, and community in accordance with the regional triple helix model. Data from representatives of three UCSCs were collected by conducting semi-structured interviews. The UCSCs' developmental processes were explained from the perspectives of knowledge space, consensus space, and innovation space. Furthermore, the relationship between the UCSCs, university, and community was examined from hard, soft, and human perspectives.
As a result, a "consensus space" was formed during the founding phase of the UCSC's, and the UCSC's developed through the expansion of the "knowledge space" and "innovation space" around human resources in the university. The results indicate that with respect to the cooperation between UCSCs and the university, the latter provided its campus with sports facilities free of charge for the UCSCs' activities. Furthermore, the human resources at the university were also shared with UCSCs. However, UCSCs were utilized as places for practical student education. In relation to the cooperation between UCSCs and the community, local residents were involved in UCSCs as management staff and/or coaches. With respect to the cooperation between the university and community, the campus sports facilities were opened to the residents in the community as part of the university's social contribution. Moreover, various sport events were held at the university for local residents.
In conclusion, this study revealed that the cooperation among the triple helix can lead to the development of UCSCs by working with them toward the common purpose of community development.
《keywords》communitysportclub,university-based,regionaltriplehelixmodel
1) 神戸親和女子大学非常勤講師 〒651-1111 神戸市北区鈴蘭台北町7丁目13-1
Kobe Shinwa Women's University, Part-time Lecturer, 7-13-1 Suzurandaikitamachi, Kitaku, Kobe, Hyogo, 651-1111, JAPAN
2) 神戸親和女子大学発達教育学部 〒651-1111 神戸市北区鈴蘭台北町7丁目13-1
Faculty of Human Development and Education, Kobe Shinwa Women's University, 7-13-1 Suzurandaikitamachi, Kitaku, Kobe, Hyogo, 651-1111, JAPAN
<研究資料>
大学を拠点とする総合型地域スポーツクラブの発展:
地域トリプルヘリックスモデルの応用
与那覇秀勲
1),高松祥平
2)Development of the university-based community sport clubs: Applying the regional triple helix model Hideki Yonaha1) and Shohei Takamatsu2)
1.緒言
1995年に「総合型地域スポーツクラブ育成モデル事 業」がスタートしてから20年以上が経過し,2018年に は設立された総合型地域スポーツクラブ(以下,総合 型クラブ)の数は3,445クラブを数えた(スポーツ庁, 2019).しかしながら,全国の各市区町村において少 なくともひとつは総合型クラブを育成するという施策 (文部科学省,2000)が掲げられ活動が推進されてきた 一方で,ここ数年のクラブ育成率(総合型クラブがあ る市区町村数から市区町村数を除した数値)は約80% で推移している.第2期スポーツ基本計画(文部科学 省,2017a)の施策目標では総合型クラブの量的拡大か ら質的充実に重点が移され,認知度の向上や地域課題 の解決に取り組む総合型クラブの増加が期待されてい る. 総合型クラブの一つの特徴として,地域住民により 自主的・主体的に運営される(文部科学省,2001)と いう点が挙げられるが,大学が主体となって総合型ク ラブの設立・育成を進めてきた例もみられる.海老島 (2012)によると,体育系学部・学科・専攻(コース) を有する全国145大学及び12短期大学のうち,4分の1 の大学が総合型クラブの活動を大学内の施設で実施し ており(大学が中心となって総合型クラブを設立して いるのが16%,総合型クラブに施設を貸与している大 学が8%),地域貢献の一環として総合型クラブを育成 してきた大学は少なくない.総合型クラブを大学に設 置する意義は,学生の教育と地域への貢献の2点に集 約される(炭谷,2014).教育面の意義としては学生の アクティブ・ラーニングとしての学びの場となり,地 域貢献の意義としては大学資源の地域への開放が地域 のニーズを満たすことに繋がる.大学のスポーツ資源 (学生,指導者,研究者,施設等)の活用は,地域の活 性化の起爆剤となり得ることが指摘されており(文部 科学省,2017b),大学を拠点とした総合型クラブの在 り方を検証することは,今後の総合型クラブの発展を 考える上でも有意義な示唆をもたらすと考えられる. しかしながら,大学における総合型クラブに関する 研究をみると,各事例の現状と課題の報告は蓄積され ているものの,理論的な追究には至っていないのが現 状である.そして,大学を拠点とする総合型クラブ は,総合型クラブ・大学・地域の三者の連携・協働が必 要となるため,この三者の関わりを検証していくこと が求められる.そこで,本研究においては,Etzkowitz and Zhou(2018)の地域トリプルヘリックスモデルを 援用し,大学を拠点とする総合型クラブと大学,地域 との連携・協働を明らかにすることを目的とする.2.先行研究の検討
2.1 大学における総合型クラブに関する研究 2000 年に早稲田大学を拠点として設立された「所 沢市西地区総合型地域スポーツクラブ」を皮切りに, 全国各地の大学において総合型クラブの育成が進めら れてきた.それに伴い,大学における総合型クラブの 取り組みに関する事例(永谷・簗瀬,2006;馬場ら, 2008;竹田,2009;國本ら,2012;得本,2016;高松, 2019)が多数報告されている.炭谷(2014)は,こう した大学主導型の総合型クラブの研究を概観し,活動 内容を具体的事例に基づいて分析した研究と,大学に よる総合型クラブの育成に関する意義や課題を文献研 究やフィールドワークを通じてマクロな視点から分析 した研究の2種類に大別している. 大学において総合型クラブを育成するメリットとし て,活動拠点とする大学が財源を一部負担(大学から の補助金等)することや施設利用(減免や優先利用 等)に関する優遇が受けられることが挙げられる(池 田,2010).また,大学の教育・研究成果の地域還元と いう動機と,行政の地域コミュニティ形成という動機 は,ともに共通した動機とみることができる(行實・ 満園,2006)ことから,行政と関係を築きやすいとい う利点もある.一方,馬場ら(2008)は,大学による 総合型クラブの運営に関する課題について,①大学に おける総合型クラブの位置づけ,②財源確保,③大学 内の施設の確保,④教員・職員・学生の関わり,⑤地 域住民の関わり,⑥既存団体との軋轢,⑦行政機関と の良好な役割分担,⑧誰のための総合型クラブなのか の8つを挙げている.特に,プログラム実施における 教員と学生の負担は,大学における総合型クラブが抱 える特有の課題であり,それによって土曜日と日曜日 の活動を実施しない総合型クラブも存在する.また, 海老島(2012)は,大学を拠点とした総合型クラブづ くりの有用性について,エリートレベルの競技スポー ツにも適合する競技用施設や教員・学生といった豊か な人材活用が可能となる点を挙げているが,大学側の 主体性が強すぎると,地域住民の総合型クラブづくり への関与が受動的になる可能性を指摘している.すな わち,行政に依存してきた今までの体質と変わらない 隘路に陥る危険性があり,大学と総合型クラブ,地域 との関係性をどのように構築していくかが課題といえ よう. 2.2 地域トリプルヘリックスモデル トリプルヘリックスとは直訳すると「三重螺旋」 となるように,大学・産業界・政府という3つのアク ターが相互協力をすることによって,イノベーション を創出することを目指す枠組みであり(内田,2012), イノベーション戦略において主要要素となっている 生涯スポーツ学研究 vol. 17 No. 1 2020れる.そして,例えば研究志向の会社とマーケット志 向の会社の相互作用によって当初のプランからは予期 せぬ結果がもたらされることがある.また,イノベー ション空間は,知識に基づいて地域を活性化させるた めの新しい組織的メカニズムをつくり始めたり,コン センサス空間において設定された目標から進めたりす るかもしれない.そして,このような組織的メカニズ ムは,知識とイノベーションのギャップを埋めるため につくられる必要がある(e.g., ある場所で成功したメ カニズムをそのまま別の場所でつくったとしても機能 しない).これら地域トリプルヘリックスモデルの3つ の空間の出現には連続性があるわけではないので,地 域イノベーションの過程は知識空間から始まることも あればコンセンサス空間から始まることもある. 地域トリプルヘリックスモデルを援用した実証的 研究は非常に少ないものの,Marques(2014)は,大 学・産業・政府の相互作用と,地域における新しい企 業の設立やアントレプレナーシップとの関連を検証し ている.大学と関連する事業支援会社 18 社を対象と して,イノベーション空間を測定する6つの指標(i.e., 大学の技術移転,投資家,サイエンスパーク,アント レプレナーシップ・トレーニングプログラム,芸術家 の誘致,起業支援事業者),知識空間を測定する5つの 指標(i.e., 産学の共同研究,アカデミアの開放,信用 に基づくアントレプレナーシップ,学生のインターン シップ,社会的な学習ネットワーク),コンセンサス 空間を測定する5つの指標(i.e., 中央政府の介入,産業 の介入,地方自治体の介入,大学のサポート,地域の 介入)を用いて調査を実施した.その結果,イノベー ション空間においては地域においてどれだけ新規事業 をスタートさせる土壌があるか,知識空間においては 主に大学と産業界との関わりの中で研究・開発が可能 か,コンセンサス空間においては産官学の連携・協働 の度合いを確認している.Meyer et al.(2019)は,ス ウェーデン,ノルウェー,カナダ,フィンランドの4つ の会社の事例を,3つの空間を用いて検討している.そ の際,知識空間は,研究課題・研究資金の割り当て・ 年間予算規模・トピックの範囲の4指標を測定してい る.コンセンサス空間は,組織形態・産業の役割・予 測と診断・情報の精査と処理・知識処理と組み合わせ /組み換え・管理と仲介の6指標,イノベーション空間 は,テストと検証・認定・検証と規制・結果の保護・ 商用化・結果の評価の6指標を測定している.これら の研究から,各空間を測定する指標はロバストなもの ではなく,調査対象に大きく依存することが示唆され る.本研究においては,大学を拠点とする総合型クラ ブの考察を進めていくために,本来,大学・産業・政 府の3アクターから構成されるトリプルヘリックスモ デルを総合型クラブ・大学・地域の三者に応用し,検 証を進める.大学を拠点とした総合型クラブの活動の (Etzkowitz and Leydesdorff, 1995).トリプルヘリッ
クスモデル(図 1)は,大学・産業・政府間の関連を 円形で示された領域を用いて表現する.この円形で示 された個々の領域は,コア・フィールドモデルと呼ば れ(図 2),インターナルコアと相互作用力のあるエ クスターナルフィールドから構成される(Etzkowitz and Zhou, 2018).インターナルコアは円形の中心部 と定義され,独自の特徴を持った「非ハイブリッド要 素注1)」あるいは「単一要素」で構成される.エクス ターナルフィールドは中心を囲む領域と定義され,円 形間で相互作用しながら「ハイブリッド要素」を形成 する.トリプルヘリックスモデルは(1)各ヘリックス (i.e., 大学・産業・政府)における変容,(2)3つのヘ リックス間の相互作用,(3)3つのヘリックス間の相 互作用から生じるネットワークと組織の新しい組み合 わせの創造,の3つの次元を通して分析するモデルで ある(Villarreal and Calvo, 2015).中田(2013)の例 を借りると,大学は使命として核となる教育・研究を 行い,他のグループから独立性を保つ(i.e., インター ナルコア).一方,大学は社会・地域貢献として,産業 界の一員としての役割を果たしながら,外側の場で産 業界と影響し合い相互作用する(i.e., エクスターナル フィールド).産業界や政府も同様であり,三者の独立 性を担保する内側の核の部分と,三者が影響を及ぼし あう外側の場の空間から構成される.また,トリプル ヘリックスモデルにおいては,分野に関わらず,ネッ トワークの形成や,ヘリックス間の横断,ヘリックス 内部を循環する組織の誕生が期待され,循環する内容 としては人・情報・アウトプット等が想定されている (エツコウィッツ,2009). トリプルヘリックスモデルは,地域イノベーション のために新たな取り組みを創出する場にも応用され ている.それが地域トリプルヘリックスモデルであ り,知識空間(knowledge space)・コンセンサス空間 (consensus space)・イノベーション空間(innovation
space)の3 つから構成される(Etzkowitz and Zhou, 2018).Etzkowitz and Zhou(2018)に基づくと,知 識空間は,R&D(研究開発)活動によってつくられ ることが多く,地域におけるそのような研究の利用可 能性の向上や普及は,科学に基づく地域経済発展の ための必要条件であるといわれている.コンセンサス 空間では,既存のアイデアをテストしたり,新しいア イデアを試したり,地域の課題に対処するための適切 な方法を考えたりするなど,産・官・学の代表者が団 結する段階である.この段階では,異なる組織的背景 や観点を持つ地域のアクターが,経済的及び社会的発 展を促進させるためのアイデアをサポートし,地域に おける受容性を高めるために協働作業を実施すること がある.イノベーション空間は,研究から始まる場合 もあれば,社会的ニーズから始まるパターンも想定さ
総合型クラブの設立年,法人格,大学法人の種別,対 象地域の人口に偏りが出ないように配慮した.表1に 対象クラブのプロフィールを示す.総合型クラブの設 立年は,2006年~2017年であり,設立から10年以上経 過している2クラブと,3年未満の1クラブであった. 年会費は1,000円~10,000円であり,クラブ間に大きな 差がみられた.A クラブでは,常勤職員(有給)を 1 名配置しており,活動拠点は,3クラブとも大学内の体 育館やグラウンドなどのスポーツ施設であった.法人 格を有しているのはAクラブ及びCクラブであり,専 用のクラブハウスはすべてのクラブが有していなかっ た. 3.2 調査方法と調査項目 各クラブが拠点とする大学(以下,「A大学」「B大 学」「C大学」と表記し,表1のクラブ名のアルファベッ トに対応させる)において,クラブ代表者(以下「A 氏」「B 氏」「C 氏」とし,表 1 のクラブ名のアルファ ベットに対応させる)を対象に直接面接法による半構 造化インタビューを調査員2名で実施した.各クラブ の代表者は,大学教員や大学OBであり,大学と繋がり が深い人物であった.調査期間は2019年10月~11月で あり,1回当たりのインタビュー時間は,60分~120分 であった.調査時には,調査背景や調査目的について 説明し,同意を得た上でICレコーダーによる録音を実 施した.調査内容は馬場ら(2008),公益財団法人日本 体育協会(2006),炭谷(2014)を参考に「クラブプロ フィール」「クラブの始まり」「事業全体」「運営」「活 動施設」「財源・広報」を主な項目とした.その際,総 合型クラブ・大学・地域における三者の役割・相互関 係を明らかにするために,地域トリプルヘリックスモ デル(Etzkowitz and Zhou, 2018)との整合性を保ち ながら質問項目の修正を行い,「大学と地域との連携」 の項目を追加した. 3.3 分析方法 3クラブから得られたインタビューのデータを逐語 録に起こし,繰り返し精読を行うことで全体の内容を 把握した.次に,本研究では大学を拠点とする総合型 クラブが,大学と地域との関わりの中でどのような過 程を経て発展していくのかを分析する必要があったた め,2つの観点からインタビュー内容を分析すること とした.一つ目は,地域トリプルヘリックスモデルを 構成する3つの空間(知識空間・コンセンサス空間・ イノベーション空間)が各総合型クラブの発展過程に おいて,どのように形成されたかを明らかにした.二 つ目は,トリプルヘリックスモデルのエクスターナル フィールドにおける各ヘリックス間(総合型クラブと 大学,総合型クラブと地域,大学と地域)の連携・協 働を明らかにした.他方,トリプルヘリックスのうち 場は,「大学」や「地域」であり,これら三者の連携に よる相互作用を明らかにすることで大学を拠点とした 総合型クラブの在り方を提示したい.そして,三者の 連携による相互作用の理解を深めるために,地域トリ プルヘリックスモデルの3つの空間における各組織の 役割を捉えることで,総合型クラブが大学や地域との 連携・協働体制をいかに構築していったのかを明らか にすることが可能となる. なお,本研究における「地域」とは,総合型クラブ や大学と同様のアクター(行為者)として捉え,総合 型クラブや大学との関係性の検証を進めることから, Scotto di Luzio et al.(2017)を参考に,「共通の関心 や活動を基軸とした地理的範囲または関連グループ」 と定義する.
3.方法
3.1 調査対象 大学を拠点に活動している3つの総合型クラブを有 意に抽出した.調査対象クラブの選定にあたっては, 図1 トリプルヘリックスモデル 図2 コア・フィールドモデル 大学 政府 産業 インターナルコア エクスターナル フィールド 生涯スポーツ学研究 vol. 17 No. 1 2020も活用しながら,事業を展開している.A氏は,「大学 とクラブのすみ分けを明確に行うことで,研究とビジ ネスのすみ分けもできる」と述べている.このことか らも,クラブ運営の方針や双方の組織の関係性につい て十分に合意形成がなされていることが明らかとなっ た. Aクラブが大学と連携して取り組む教室事業は,企 業やプロスポーツチームからも注目を集め,多くの指 導依頼を受けている.この背景には,ドイツ等の諸外 国の先進事例を,視察を通して学び,独自のプログラ ムを開発し,実践していることが挙げられる.この点 についてA氏は「ドイツとかを見て,素晴らしいと思 うところはたくさんありますが,それをそのまま持っ てくるわけにはいかないので,まちに合った形をどう クラブに適用させていくのかを考えています」と語っ ている.また,クラブの規模が大きくなるにつれて, スタッフの確保も必要になってくるため,最近では学 生スタッフとして関わってきた学生が卒業とともにA クラブに雇用されることとなった. 本事例では,大学としての社会貢献活動の蓄積や大 学教員の研究をベースとした知識空間を起点として総 合型クラブ化の構想が形成されていた.また,大学と 大学教員間で総合型クラブの設立や運営に関するコン センサス空間を形成しながら,先進事例を参考にした 独自プログラムの開発等のクラブ事業の拡大ととも に,新たな雇用を創出する(i.e., 新しい組織的メカニ ズムの生成)といったイノベーション空間の広がりが みられた. 4.2 Bクラブの発展過程 クラブ設立のきっかけは,県体育協会から大学を拠 点にしたクラブづくりの打診を受けたことである. 「全国的に(総合型クラブを)つくりましょうってい うのがありましたよね.あのときは県体協ですけど, あっちこっち声をかけられた中の1つで,大学でもっ ていうので.経営学や社会学の先生が音頭を取って (総合型クラブづくりを)しませんか」という流れで総 合型クラブの育成が進められたという.B大学では, のどの領域においても,他の領域と関連する場合,コ ミュニケーションの重なり合いや人的資源の循環等が 存在し(エツコウィッツ,2009),人的資源に着目す る重要性が指摘されているものの(Rosenlund et al., 2014),どのような人的資源あるいは物的資源が,ど のように作用し合っているのかを的確に捉えるための 枠組みは提示されていない.そこで,スポーツ振興事 業や総合型クラブのマネジメント課題を把握するため の枠組みとして広く用いられている「ハード」「ソフ ト」「ヒューマン」の分類(山口,2006; 伊藤・山口, 2001)を用いて各ヘリックス間の連携・協働を捉える こととした(図3).
4.結果
4.1 Aクラブの発展過程 A大学では,クラブの設立以前から大学教員が中心 となり,地域の子どもたちを対象としたスポーツ教室 を開催していた.この活動は大学教員の社会貢献活動 の場であり,研究活動の実践の場でもあった.活動が 地域からも認知され始め,教室自体は順調に進んでい たものの,「活動の継続性」を考えた際にクラブとして 組織化する必要性を感じて,クラブ化構想が形成され ていった. クラブ化構想では,大学と総合型クラブの関係性を いかに構築していくかが課題であったが,教員間では 大学とは切り離して独立した組織としてクラブづくり を進めたいとの思いがあったという.このようにクラ ブ化構想が進む中で,大学卒業後に企業に勤めていた A氏が,大学時代に関わっていた総合型クラブづくり への思いが膨らみ「大学でもう一度勉強をして,総合 型クラブを設立するための知識をつけたい」という理 由から大学に戻ることとなった.そして,大学に戻っ たA氏と大学教員のクラブ化構想との思惑が一致し, 総合型クラブの設立は加速していった.A氏は,クラ ブの代表,クラブマネジャー,スポーツ指導者の業務 を兼任しながら急速に活動を拡大していった.活動場 所としては大学施設を拠点とし,地域のスポーツ施設 表1 クラブプロフィール ブ ラ ク C ブ ラ ク B ブ ラ ク A 年 9 0 0 2 年 6 0 0 2 年 7 1 0 2 年 立 設 名 0 5 4 約 名 0 0 5 約 名 0 5 1 約 数 員 会 年会費※ 一般:6,000円 ジュニア:3,000円 1,000円 一般:10,000円 ジュニア:6,000円 名 0 名 0 名 1 ) 給 有 ( 員 職 勤 常 活動拠点 大学体育施設 大学体育施設 大学体育施設 有 無 有 無 有 の 格 人 法 無 無 無 無 有 の ス ウ ハ ブ ラ ク ※ 年会費とは別に教室参加料を設定本事例では,大学教員を中心として,県体育協会と 大学との間でコンセンサス空間が形成され,それぞれ の政策課題や教育課題に対処するための適切な方法を 模索しながら,クラブ設立に向けた合意形成が図られ ていた.コンセンサス空間を起点として始まった総合 型クラブでは,運営に関わる大学教員と学生の模索の 中で知識空間が広がり,学生の取り組み意識の変化が イノベーション空間として形成された. 4.3 Cクラブの発展過程 クラブ設立のきっかけは,市からクラブ設立の打診 を受けたことである.C氏は,「当時,総合型クラブが 市内になかったんですよね.大学ではスポーツ系の学 科の新設が決まっていて,市から,そういう学科がで きるんだったら総合型クラブってものを一緒にやりま せんか?という投げかけがあった」と述べている.打 診を受けた教員は,大学法人の役職にも就く人物であ り,行政側と大学との合意形成において大きな役割を 果たし,クラブの設立が進められることになった. クラブの立ち上げに関わった大学教員の中には,大 学発のベンチャー企業を経営する人物がいたため,大 学側から学内のスポーツ施設(一部)の管理とクラ ブ運営業務の委託を受けることとなった.このベン チャー企業は,地域において健康教室を実施するなど 健康福祉関連の分野での実績を有しており,経営者が クラブの立ち上げに関わるメンバーとも重複していた ことから,ベンチャー企業の職員がクラブマネジャー を兼任する形で運営が進められることになった.大学 からの業務委託期間は2年で終了し,その後はクラブ をNPO法人化し,大学教員がクラブマネジャーの役割 を兼務しながら,学生をアルバイトで雇用するなど運 営体制を整えていった. 運営面では,学生指導者を養成することで,クラブ サービスの質の向上が図られていた.C 氏は,「うち スポーツ社会学を専門とする大学教員がクラブ立ち上 げの中心人物となり,県体育協会や大学内の教員の調 整にあたった.教員間でクラブの設立について協議し た際には,概ね設立に対して前向きであったが,「一度 スタートしてしまったら止められない」といった慎重 な声も聞かれた.最終的に大学においてクラブ設立の 合意が得られたのは,「(学生が地域の人々に)指導で きる場とかマネジメントの勉強の場を学内に作ってあ げたらいいんじゃないかって.それが一番大きかった ですね」というように,学生教育の一環としての位置 づけをクラブづくりの中に見いだしたからである. クラブの運営体制としては,総務・広報・イベント・ 施設管理・研究の5つのチームをつくり,主たる事業 として9つのスポーツ教室を展開している.チーム及 びスポーツ教室に関しては,少なくとも1名の教員が 指導的な立場で携わり,学生は授業の一環としてクラ ブ運営に携わることとなった.これにより,学生が授 業で得た知識をクラブで即実践することができるよう になり,学習の理解が深まったようである.また,B 氏は,「教員サイドから見ると学生がソーシャルスキ ルとか社会人基礎力というものを身につけるっていう ところが大きいですよね」というように,クラブ会員 とのふれあいの中で,学生が多様な対人スキルを身に 付けていくことを明らかにしている.一方,大学教員 の異動に伴って教室が消滅したり,新しく入った教員 と立ち上げ時のメンバーである教員との温度差が不安 視されたりなど,活動を継続していく中での課題もみ られた. また,学生の取り組み意識に変化がみられ,災害時 のボランティア活動への参加や教育現場への指導に積 極的に関わる学生が増えたことを実感しているとい う.その結果,教員養成課程の学生においては,教育 実習等の現場に出た際に高い評価を得られるという教 育効果の高まりが確認されたようである. 図3 コア・フィールドモデル インターナル・コア 総合型クラブ 大学 地域 エクスターナルフィールド ハード ソフト ヒューマン 生涯スポーツ学研究 vol. 17 No. 1 2020
大きなメリットといえるだろう. ソフト面では,Aクラブにおいては,大学教員等が ドイツの先進事例に学び新たなプログラム開発が行わ れており,クラブの看板プログラムとして定着してい た.これらの指導理論は大学教員を中心に定期的に アップデートされ,その内容がクラブにフィードバッ クされる仕組みが作られていた.大学における知的財 産を有効活用しており,大学を拠点とした総合型クラ ブならではの好例であるといえよう. ヒューマン面では,クラブ運営やスポーツ教室の実 施において教員及び学生といった人的資源の活用がみ られた.しかしながら,クラブ間で大学教員及び学生 の関わり方について大きな違いがあった.Aクラブで は,教員・学生ともにクラブからの依頼により指導業 務を請け負っており,クラブの規程に基づいて謝礼が 支払われている.一方,Bクラブでは,学生にとって総 合型クラブの運営に携わることが大学の授業の単位認 定になっているため,指導料は発生しない.また,教 員のクラブでの指導も授業の一環のような感覚で行っ ているため,ボランティアでクラブの運営にあたって いる.ただし,教室事業は,各教室において独立採算 制をとっており,会員からは定められた一定の参加料 を受け取っている.Cクラブでは,教員は,大学業務 の延長でクラブ業務を担っており,大学業務との明確 な線引きはされていない.そのため,クラブの運営に 関して大学教員が賃金を受けとることはないという. 一方,クラブ業務の補助として有志の学生をアルバイ トで雇用し配置していた.このように,いずれのクラ ブにおいても大学が有する人的資源なしでは,クラブ の運営は成り立たないといえる. 4.4.2 総合型クラブと地域との連携・協働 ハード面として,Aクラブでは,コミュニティセン ターの利用や第三セクターが指定管理を担うイベント ホールを借用してクラブ活動を展開していた.そのた め,Aクラブも一利用団体の位置づけで施設を利用し ていることになり,施設利用料の減免や優先予約と いった措置はなかった.他の2クラブは,大学施設を 拠点として活動をしているため,ハード面における地 域との連携はあまりなく,必要性も感じていないこと がうかがえた. ソフト面では,一部のクラブで学生とともに地域の 行事に参画したり,地域の施設に出向いて出前講座を 行ったりしていた.こうした地域団体との連携事業 は,地域から依頼を受けて実施する場合やクラブ会員 とのつながりから連携事業に発展する場合が多く,ク ラブ側から積極的に連携を呼びかけているわけではな かった. ヒューマン面では,地域住民が運営スタッフ(有給 職員)やスポーツ指導者としてクラブに参画してい でいうと3年時には健康運動指導士(の資格)がうま くいけば取れるので,そういう資格であったり.あと はサッカー(協会の公認スポーツ指導者資格)だった ら・・・(中略)・・・D級コーチでいいとか.とにか く外部の資格を1個取ってきなさいと.だから学生も きちっとそういう資格を取って研修を積んでトライア ル期間があって,会員さんからも(学生が教室で指導 することについて)何も問題ないっていうことであ れば,そこで初めて指導者として登録じゃないですけ ど,きちっと指導料のペイ(支払い)はする」とし,学 生の主体的な取り組みを促しながら,指導者として認 められた学生には謝礼を支払うことで学生のモチベー ションの維持・向上に繋げていた. 本事例では,行政・大学教員・大学との間で形成さ れたコンセンサス空間を起点としながら,大学発とな るベンチャー企業が総合型クラブのスタートアップに 関わるというイノベーション空間が創出されたことで 総合型クラブが発展を遂げてきた.運営面において は,学生をアルバイトとして採用し,独自の研修シス テムにより指導者養成を行うことで,知識空間やイノ ベーション空間が形成されていった. 4.4 総合型クラブ・大学・地域間の連携・協働 図 4 は総合型クラブにおけるトリプルヘリックス (総合型クラブ・大学・地域)の関係性について,「ハー ド」「ソフト」「ヒューマン」の面から連携・協働を示 したものである.総合型クラブと大学,総合型クラブ と地域,大学と地域の連携・協働について順に述べる. 4.4.1 総合型クラブと大学との連携・協働 ハード面ではすべてのクラブにおいて大学から学内 のスポーツ施設やスポーツ用具等を無償で提供されて いた.Aクラブでは,施設の利用調整は学内の活動が 優先されるものの,授業や部活動の合間に大学施設を 使って教室事業を展開していた.また,学内施設を授 業や部活動で利用できない場合には,地域のコミュニ ティセンターやスポーツ施設を活用し,教室事業の拡 大を図っていた.Bクラブでは総合型クラブの活動が 授業の一環として組み込まれており,授業と同じ優先 順位で施設利用が可能であった.B 氏は,「総合型ク ラブの優先順位は部活動よりも高い」というように, 大学施設を優先的に借りられるという恵まれた環境に あった.Cクラブでは,大学のスポーツ施設の管理を 大学側から委託されているため,総合型クラブで使用 する教室事業の場所は優先的に押さえることが可能で あった.一方で,施設の管理業務も請け負っているた め,施設の点検や他の団体の利用調整も行っていた. これらのように各クラブにおいて施設の利用調整方法 に違いが見られるものの,大学との良好な関係が築か れており,安定的に活動場所の確保ができている点は
あり,大学が行う地域貢献事業とは一線を画した位置 づけであった.ヒューマン面では,大学教員の研究活 動の成果を地域に還元することや,学生がボランティ アとして地域活動へ参加する取り組みがみられた.
5.考察
本研究の目的は,Etzkowitz and Zhou(2018)の地 域トリプルヘリックスモデルを援用し,大学を拠点と する総合型クラブと大学,地域との連携・協働を明ら かにすることであった.3大学の総合型クラブの代表 者にインタビュー調査を実施し,クラブの発展過程を 「知識空間」「コンセンサス空間」「イノベーション空 間」の観点から明らかにし,クラブ・大学・地域の連 携・協働を「ハード」「ソフト」「ヒューマン」の観点 から検証した.本研究で得られた結果をもとに,「知 識空間」「コンセンサス空間」「イノベーション空間」 の形成,学生の教育の場としてのクラブ,大学におけ る総合型クラブの在り方について,考察することとす る. 5.1 「知識空間」「コンセンサス空間」「イノベーショ ン空間」の形成 大学を拠点としたクラブづくりにおいては,大学が 有するスポーツ資源(教員,学生,施設,知的資源な ど)をいかに有効活用できるかが重要であった.トリ プルヘリックスモデルにおいては,多くの場合,関連 する研究開発活動を集約して構成された知識空間が初 期段階で創出されることが示されているが(エツコ た.Cクラブでは,子どもを通わせる保護者が,クラ ブスタッフと色々な話をするうちにクラブ活動に興味 を持ち,子どもがクラブをやめた後にもその保護者が 運営スタッフとして関わる状況がみられた.また,ク ラブ関係者の人脈を活用し,知り合いに声をかけて外 部のスポーツ指導者を招聘するケースもあった.クラ ブが地域に対して広く人材の募集を行うことは確認さ れなかったが,人と人との繋がりの中で必要な人材を 確保していることが明らかになった. 4.4.3 大学と地域との連携・協働 ハード面では,すべての大学が,大学施設を地域住 民等に対して無償あるいは安価で開放する施設開放事 業を実施していた.開放施設は,ホール,講義室,宿 泊施設,体育館,グラウンド等であった.A大学では, 市からの補助金で多目的活動施設にナイター照明を設 置していることから,地域住民に対して施設の夜間開 放を行っており,行政と連携しながら地域住民に対し て施設提供サービスを行っていた. ソフト面では,大学の地域連携を専門的に行う部署 が中心となり,イベントや運動・スポーツに関するプ ログラム,各種研修会や公開講座を地域住民に提供し ていた.運動・スポーツに関連する事業としては,運 動遊びのイベント開催やアダプテッド・スポーツの普 及・振興,高齢者の健康づくりに取り組んでいた.ま た,B大学及びC大学においては,大学における地域 貢献事業の一環として,総合型クラブの活動を大学の ウェブサイトで情報発信している.一方で A クラブ は,大学からは独立した組織として設立された経緯が 図4 総合型クラブにおける地域トリプルヘリックスモデル 総合型クラブ 大学 ハード ソフト ヒューマン ・学内施設や用具の利用 ・研究のフィードバック ・プログラムの開発 ・教員によるスポーツ教室 ・学生によるスポーツ教室 ・人的資源の活用 ・授業での関わり ハード ソフト ヒューマン ・コミュニティセンター ・イベントホール ・地域イベントへの参加 ・運動プログラムの提供 ・地域から外部指導者の雇用 ・地域から運営スタッフを雇用 ・指導者の派遣 ハード ソフト ヒューマン ・施設開放 ・イベント,プログラムの提供 ・研修会,公開講座 ・講師,ボランティアの派遣 地域 生涯スポーツ学研究 vol. 17 No. 1 2020
考えた場合,地域資源の活用は不可欠であろう. 5.2 学生の教育の場としての総合型クラブ 大学に設立された総合型クラブには,学生の教育の 場として大きな期待が寄せられていた.特にBクラブ では,クラブ設立の主な意義を学生教育に見いだして おり,授業の必修科目にクラブでの実践活動を位置づ けることで,顕著な教育効果が得られていた.しかし ながら,全国には25の大学を拠点とした総合型クラブ が存在するとされているが,総合型クラブでの活動を 単位認定しているのは3大学とわずかである(馬場, 2016).総合型クラブでの活動を単位として認定する ことで,学生のクラブへの参加が促進される一方,本 来,自発的に行われるべきクラブの運営が学生にとっ ての義務や単位取得のための手段として捉えられてし まってならない.そのため,単にスポーツ指導の実践 の場として総合型クラブを活用するのではなく,総合 型クラブの理念やその活動の意義に関しても理解を深 めたうえでクラブへの参画を促す必要があるだろう. 一方,総合型クラブにとっては,学生のマンパワー への期待は大きい.実際にAクラブやCクラブにおい ては,学生をクラブの運営スタッフやスポーツ指導者 として積極的に採用していた.採用にあたっては,一 定の研修期間を設けたうえで,専門の資格を義務づけ るといった独自の要件を定めており,学生にとっての 学習機会の促進に繋がっていた.さらに A クラブで は,大学を卒業した学生がクラブに就職することが決 まっており,学生の進路選択の一つとしてクラブが挙 げられていたことからも,クラブの存在が学生教育の 面で幅広く影響を与えているといえよう. 5.3 大学を拠点とした総合型クラブの在り方 総合型クラブとは,「人々が,身近な地域でスポ-ツ に親しむことのできる新しいタイプのスポーツクラブ で,子供から高齢者まで(多世代),様々なスポーツ を愛好する人々が(多種目),初心者からトップレベ ルまで,それぞれの志向・レベルに合わせて参加でき る(多志向),という特徴を持ち,地・域・住・民・に・よ・り・自・主・ 的・・・主・体・的・に・運・営・さ・れ・る・スポーツクラブ」である(文 部科学省,2001).しかしながら.Bクラブ及びCクラ ブでは,市行政や県体育協会の関係者と大学教員が設 立を主導した経緯がある.C氏は,「もちろん地域とは 関わりを持ってやらなければというのは根底にありま す.でも,なかなかそこのハードルは高いなって感じ ている」と述べている.行實・清水(2003)が総合型 クラブの課題として指摘するように,このことは一部 の役員によるトップダウン型経営と,会員の無関心体 質にも通じることから,総合型クラブの根本的な理念 に立ち返る必要がある.すなわち,会員をはじめとし た多くの地域住民が運営に参画できる仕組みづくりを ウィッツ,2009),本事例における知識空間の形成に は,大学教員<ヒューマン面>を中心した研究の蓄積 やプログラムの開発<ソフト面>,活動拠点としての 大学施設<ハード面>が重要な役割を果たしていた. 先行研究において,知識空間における研究課題・研究 資金の割り当ての重要性(Meyer et al., 2019)や大学 の知見から新たな開発に繋がる傾向にある(Todeva, 2013)ことが指摘されており,充実した研究環境によ り知識空間が広がっていくと考えられる.また,大学 教員<ヒューマン面>は,行政・県体育協会といった クラブ育成を推進する機関や大学側との交渉において も中心的な役割を果たしており,総合型クラブと関係 機関との間で形成されるコンセンサス空間において重 要なポジションを占めていることが明らかになった. 後藤(2006)は,総合型クラブの育成過程とは,突然 目の前に現れてきた総合型クラブに対して,どのよう にして正当性を確保していくかという実践過程そのも のであると述べている.本事例において,総合型クラ ブは“地域社会への貢献”や“学生の教育の充実”を 大義名分として,大学におけるクラブ設立の正当性を 確保し,“教員や学生のマンパワー”,“施設の無償貸 与”,“プログラムの提供”といったスポーツ資源を獲 得していた.これらの資源の活用は,一般的な総合型 クラブでは難しいため,大学を拠点とした総合型クラ ブの大きなメリットといえる.一方,地域貢献や学生 教育といった大義名分が大きいがために,大学教員に 求められる役割が増大し,負担になっていることも明 らかとなった.インタビュー内容から「(クラブの) マネジメントはボランティアで,片手間で出来る範囲 でしかやっていません.最初の頃は力を入れてやって いましたけど,最近段々しんどくなってきて」,「課題 をはっきり言うと,僕等にどれだけプラスになるのか なって.業務負担だけ増えてっていうところはあり ますよね」といった言述がみられたように,クラブ運 営について専門性の高い大学教員のマンパワーは貴重 な資源であるとはいえ,地域の人材も積極的に活用し ながら業務分担を進めていくべきである.Aクラブで はこうした課題を解決するために,先進的なプログラ ム<ソフト面>を積極的に取り入れ,収益を確保して いくことで,卒業生の雇用<ヒューマン面>に繋げて いた.さらに,Cクラブでは学生の指導者養成を積極 的に進めることでイノベーション空間が形成されてい た.これらはMarques(2014)がイノベーション空間 の指標として示した,大学の技術移転や,アントレプ レナーシップ・トレーニングプログラムの実践に対応 するものであった.今後,総合型クラブを持続発展さ せていくためにも,大学教員のマンパワーに依存する ことから脱却し,新しい組織的メカニズムの生成を模 索する必要がある.大学や地域によって求められる組 織的メカニズムは異なるが,クラブの永続的な発展を
合型クラブの存在意義は大きい.炭谷(2014)は,大 学を拠点とした総合型クラブは,アクティブ・ラーニ ングを可能とする場であると述べ,特に教員養成やス ポーツ指導者の育成を一つの教育目標として掲げてい る大学において,実際に子どもを相手にした指導実践 は,大切な学びの場であると指摘している.総合型ク ラブと大学間での連携・協働においては,双方の強み を十分に生かせるよう,人的・物的資源を共有しなが ら有効に活用することが重要である. 二つ目は,総合型クラブと地域間での連携・協働の 在り方についてである.大学を拠点とする総合型クラ ブの運営にあたっては,大学の資源に依存するだけで なく,地域住民をどれだけ巻き込むことができるかと いう点も重要である.本研究結果から,大学の人的・ 物的資源に頼り過ぎると,大学関係者への負担が大き くなり,新たな取り組みに着手できなくなるという可 能性が示唆された.冨山(2003)は,これまで地域住民 は,大学が企画するプログラムに,コストを負担して 参加する受動的に立場であったが,徐々に双方向の情 報をやりとりする傾向がみられると報告している.こ のことからも,クラブの会員や教室参加者に対して一 方的にサービスを提供するのではなく,クラブ運営を 支えるスタッフやスポーツ指導者として関わってもら うための工夫により,地域から多様な人材を確保して いくことが求められている.そうすることで,大学に おける総合型クラブの質の向上,ひいては地域スポー ツの発展に繋がると考えられる.
6.結論
本研究では,大学を拠点とした総合型クラブのケー ススタディから,各クラブの発展過程や総合型クラ ブ・大学・地域の三者間の連携・協働を明らかにした うえで,大学を拠点とした総合型クラブの在り方を提 示することができた.各クラブの発展過程において は,研究を進める大学教員を中心とした知識空間が形 成され,大学教員とクラブ育成を啓発する機関(行政 や県体育協会)や大学との間でコンセンサス空間が形 成されていた.また,コンセンサス空間における関係 機関の課題解決やクラブの発展といった共通の目的を 達成するために,新たな組織メカニズムを生成する等 のイノベーション空間が創出されていたことが明らか になった. 次に,各クラブの発展過程を踏まえ,総合型クラ ブ・大学・地域の三者間の連携を「ハード面」「ソフト 面」「ヒューマン面」の側面から分析した結果,大学の 施設は無償で総合型クラブに提供されており,大学の 人的資源も共有されていた.また,総合型クラブは, 大学における学生教育の場として活用されるだけでな く,地域住民に運営スタッフや指導者として総合型ク 行い,一部の熱意ある人材に依存した組織体制からの 脱却が急務である. また,大学における総合型クラブと地域が乖離して いる要因の一つとして,行政の総合型クラブへの支援 の乏しさが挙げられる.C氏は,「市の広報とかにね, (クラブの情報を)載せて下さいますけど.でも,そ れも立ち上げの時だけですよね.もう立ち上がってし まえば,各市区町村に1つ(新しいクラブが)できま した,で終わりですからね」というように,行政にお いてはクラブ育成率という施策目標を重視するがあ まり,目標達成後のクラブへのフォローアップがな されていない状況が浮き彫りとなった.文部科学省 (2016)の報告では,市町村において,総合型クラブに 対して特に支援していない市町村が32.1%にのぼるこ とが報告されており,このことは地方スポーツ推進計 画の策定率が34.0%に留まっていることに起因してい る.第2期スポーツ基本計画において,総合型クラブ の育成施策はクラブの量的拡大から質的充実に大きく 転換された.国は,「市町村が主体となり総合型クラブ の育成を促進する取組を支援することにより,総合型 クラブの自立的運営を促進する」と書かれており(文 部科学省,2017a),行政と総合型クラブの連携が求め られている.トリプルヘリックスモデルに基づくと, 各アクター(i.e., クラブ・大学・地域)のアイデアを 相互にサポートし,地域発展のために協働作業を実施 するという「コンセンサス空間」での取り組みをさら に充実させていかなければならない.大学,行政,地 域社会のそれぞれにとって有意義な総合型クラブとし て機能しなければ,大学を拠点としたクラブ運営の意 義が見いだせない(池田,2010)ため,行政からのサ ポートを得ながら総合型クラブ・大学・地域の三者の 連携・協力関係を強化していくことが重要であると考 えられる. 5.4 実践的インプリケーション 本研究で得られた結果から,大学を拠点とする総合 型クラブの発展に向けて二つの実践的なインプリケー ションを示すことができる.一つ目は,総合型クラブ と大学間での連携・協働の在り方についてである.大 学を拠点とした総合型クラブであるからこそ,大学の 人的・物的資源の活用を容易にすることができ,より 専門的なプログラムを提供することが可能となる.こ れは,総合型クラブの会員目線で考えると,非常に大 きなメリットであるといえる.総合型クラブの運営に おいては,この点を十分に理解した上で,会費・受講 料の設定(e.g., 原価志向の価格設定の重視)やプログ ラムの提供(e.g., 学生を指導スタッフとして育成,大 学特有の施設を有効活用)を考えていく必要がある. 大学側の視点では,学生のスポーツ指導等の実践経験 の場として機能し,学習の理解が深まることからも総 生涯スポーツ学研究 vol. 17 No. 1 2020し上げます。
文献
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注
1)飛岡(1982)は,ハイブリッドを次のように説明し ている.Hybridのhy-は,by-などと同じく,2つを表 す接頭語であり,brid は,breed(生む,品種改良す る)などと同じ意味を表し,もともとは「あいのこ,雑 種,混成物」の意味から派生しており,現在では「異種 のものを組み合わせたもの」を意味する言葉として広 辞苑に記述されている.Etxkowitz and Zhou(2018) は,例えば,社会制度としての大学は,ハイブリッド の要素は持たないとしている(i.e., 非ハイブリッド要 素).一方で,大学と地方自治体の連携によって作られ た組織やジョイントベンチャーのような組織は,他の 組織との相互作用により形成され,ハイブリッドの要 素を合わせ持つとしている(i.e., ハイブリッド要素).謝辞
本研究の趣旨にご理解いただき,調査にご協力くだ さった総合型クラブの関係者の皆さまに心より御礼申竹田正樹(2009)「京たなべ・同志社スポーツクラブ」 を例とした大学と地域連携による地域総合型ス ポーツクラブの提案.同志社スポーツ健康科学, 1:61-70.
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