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幼児及び低学年児童の運動能力調査項目等の変遷及び活用に関する研究

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Ϩ.問題の所在と目的 幼児の運動能力調査は多くの先行研究によって 行われてきているが、全国標準を持つ大規模なも のは東京教育大学体育心理学研究室作成の幼児運 動能力検査 (以下、東京教育大学式運動能力検査 と記す) とその流れを汲む幼児運動能力研究会に よる運動能力調査 (以下、MKS 幼児運動能力検 査と記す) が唯一であり、これまでに計 9 回実施 されてきた (森ら,2018 など)。この一連の研究 では、結果の年次推移や要因等が報告されている が、特に 1986 (昭和 61) 年から 1997 (平成 9 ) 年 にかけて調査した全ての項目に有意な低下が見ら れており、幼児の運動能力の低下や高低の二極化 の傾向などが明らかになったことで全国的に注目 されている (近藤・杉原,1999)。 運動能力の低下と共に、近年子どもの怪我の発 生率が高くなっている (鳥居,2003)。以前の子ど もの姿からは怪我をしないと思われる場面での怪 我が増加しており、怪我を回避するための基本的 な能力の低下が指摘されている (中村,2006)。つ まり運動能力の低下は幼児の健全な日常生活に影 響を与えていることが示唆される。 また幼児期の運動能力は、特に感覚を手がかり に目的に合わせ身体の動きを制御する運動コント ロール能力が急激に発達するとされる (杉原, 2000)。運動コントロール能力は中枢神経系の機 能であり、運動能力の低下は中枢神経系の発達に も影響する感覚や刺激の減少を示し、児童期以降 の発達にも影響を与えることが懸念される。 このように運動能力調査の結果について論じら れることは多いが、運動能力調査の開発の変遷に ついてはこれまで明らかにされてこなかった。ま た運動能力調査の結果が教育実践でどのように活 用されているかということも整理されていない。 運動能力調査によって対象の運動能力の現状を 明らかにし、保育の内容が幼児期の発達に適した ものなのか把握する必要性は以前から指摘されて いる (遠山ら,1973 など)。特に幼児の運動能力 の全国的な年次推移が明らかにされていない時代 は、現代とは異なる課題が認識されていて運動能 力調査が開発・実施されていた可能性もある。し かしながらこれまで幼児の運動能力調査の開発に 関する研究では、運動能力調査を実施する対象の 課題が論じられることが多く (堀江ら (1968);井 上ら (1967) など)、運動能力調査自体の年次比較 はあまりされていない。横断的かつ縦断的に運動 能力調査の開発・実施について見ることで各時代 の運動能力調査の意図や特徴を捉えることが出来 ると期待されるが、そのような検討をした研究は 見られない。 また運動能力の年次推移を検討するためには同 一の調査項目を実施する必要があるものの、項目 の適切さや時代背景によって変更の必要が出てく ることもあり、同一の研究者が行った運動能力調 査でも開発過程や年代によって再検討され項目が 変更されている (松田,1961;松田・近藤,1965b など)。MKS 幼児運動能力検査についても森ら (2018) は次回以降の調査種目の再考の必要があ ることを示唆している。これまでに複数の研究の 調査項目について整理した研究は少なく池田・青 柳 (2006) がわずかに見られる程度である。調査 項目を見ることによって特に運動能力の何を調査 しようとしたかが明らかになるが、特に幼児の運 動能力調査の開発初期に注目して項目を横断的に 検討した研究は見られない。 児童についても 1985 (昭和 60) 年から 1996 (平 成 8 ) 年にかけて運動能力が大幅に低下しており (小林,1999;西嶋,2002 など)、幼児と児童の運 研 究 論 文

幼児及び低学年児童の運動能力調査項目等の

変遷及び活用に関する研究

町山 太郎

(日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程)

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ϩ.幼児の運動能力調査の開発初期の特徴 幼児を対象とした運動能力調査では兒童母性研 究会が体力検査の名称で具体的な調査方法や基準 の作成を行っている (牛島・波多野,1949)。これ が現在確認できる最も初期の研究である。 牛島・波多野 (1949) によると「兒童母性研究 会は 1942 (昭和 17) 年に児童母性に関する総合研 究調査のため愛育研究会を中心として作られた委 員会で、その教養部の委員会において本研究を立 案し愛育研究所において実施した。委員としては 倉橋惣三、岡部彌太郎、兒王省、多田鉄二、高崎 能樹、大崎さちえ氏等が参加しており、研究整理 に当たっては松村学士、牛島義友氏等が谷島道 子、鮫島幸子氏の助力を得て行った。」 (p.83) と している。 東京女子高等師範学校 (現お茶の水女子大学) 教授であり附属幼稚園主事を務め日本の幼児教育 の礎を築いた倉橋惣三、幼児の運動発達に関する 研究を残しその後熊本大学教育学部附属幼稚園園 長を務めた大崎サチエ (大崎,1943;1956)、東京 女子高等師範学校教授であり愛育幼稚園園長を務 めた牛島義友といった幼児教育の専門家がこの運 動能力調査の開発に関わっている。このことは、 幼児期の運動発達が児童期以降と異なるものであ ることを鑑みると幼児の発達的特徴に即した運動 能力調査の開発という点から意義は大きいと考え られる。 牛島・波多野 (1949) は、従来の幼児保育では 体力について重要視されていなかったこと、親が 乳児期までは身体面に配慮するが幼少年期になる と関心が薄れることを挙げ、体力を養う積極的配 慮が必要であると指摘している。体力を管理し高 めるためには体力検査を行うことは有用であるこ とから、幼児体力検査を作成し幼児の体力基準を 示すことを目的としている。 なお、幼児体力検査という名称ではあるが、種 目は疾走 (25 m)、立ち幅跳び、投擲、荷重疾走、 懸垂 (回数ではなく持続時間)、片足連続跳びの 6 種目を計測するものであり、運動能力調査と捉え られるものである。この運動能力調査を約 1,400 名の幼児に実施し、各種目に+ 3 から− 3 までの 7 段階の基準を 4 歳から 6 歳まで年齢と性別ごと に作成した。 動能力の推移はほぼ同じ傾向にあることが示され ている。運動発達の側面だけではなく、運動能力 調査自体においても幼児と児童が関連しているこ とが考えられるが、児童においても幼児と同様に 運動能力調査の変遷を検討した研究は少ない。幼 児と児童の運動能力調査の項目の関連を見ること も必要である。 幼児の運動能力調査の目的は研究によっても異 なるが、最終的には幼児の発達を支える園や家庭 の保育の質の向上に帰することを目指しているこ とは想像に難くない。そのためには各園や家庭で の取り組みに加え、運動能力調査の結果が教育行 政に与える影響も広範囲の複数の園に影響を与え る点から重要な要素といえよう。近年では MKS 幼児運動能力検査を用いて文部科学省が 2007 (平 成 19) 年度から 2009 (平成 21) 年度に「体力向上 の基礎を培うための幼児期における実践活動の在 り方に関する調査研究」 (文部科学省,2011) を行 い、その結果を踏まえ 2012 (平成 24) 年に「幼児 期運動指針」を示している。文部科学省は、幼児 の運動能力の低下を指摘した上で、幼児期に必要 な運動能力等を培うように、幼児期運動指針につ いて各都道府県教育委員会等に関係各所への周知 徹底を通知している (文部科学省,2012a)。そし て 2013 (平成 25) 年度に「幼児期の運動促進に関 する普及啓発事業」 が行われている (文部科学省, 2014)。これは運動能力調査と教育行政とが直接 的に関わるものであるが、それ以前には国レベル では幼児の運動能力の調査及び向上に対して全国 的かつ具体的な施策を行っていない。そのため、 それまでは各地方自治体レベルでの取り組みが中 心であると予想される。ただし、地方自治体の取 り組みは研究として発表されていないものが多 く、運動能力調査と地方教育行政との関連は明ら かではない。 そこで本研究では運動能力調査の開発に関わる 先行研究から、幼児と児童の運動能力調査の目的 や項目の変遷及び幼児と児童の運動能力調査の歴 史の関連性について検討すること、さらに各都道 府県の教育委員会等が行った幼児の運動能力調査 の資料から運動能力調査が教育行政にどのように 利用されてきたかを明らかにすることを目的とす る。

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が、一般の状態である。」 (p.42) と指摘しており、 この時点では運動能力の向上に資する保育実践や 保護者への働きかけについては言及されていな い。しかし、兒童母性研究会の運動能力調査の基 準と比較すると筋力や持久力が低いことについ て、運動能力調査と同時に行った各家庭環境の調 査から「都市があるために、あそび場所が恵まれ ず、一方知的教育に偏し易い家庭が多いため、い きおい静的な室内遊びに傾き、活動的なあそびが 少なくなる。また一面、比較的恵まれた家庭が多 いため、毎日の生活に依頼心が助長し易い状態で あり、従って意志力に欠ける傾向である。」 (p.46) と考察しており、運動能力と家庭環境の関連があ ると捉えていたことがわかる。 また園単位の運動能力調査では調査対象が少数 になりがちであり、結果に地域差や園独自の要因 が関係しているかは明らかにされない。そのため 園全体の運動能力が全国的にどの位置にあるのか 明らかにするために全国標準の作成の必要性も指 摘されている。 Ϫ.幼児の運動能力調査の開発の振興と調査項目 の精査 林 (1963) によると、1960 年代に入っても幼児 の運動能力調査は東京教育大学・大阪学芸大学等 のごく一部の結果が残されているのみであること が指摘されている。実際に幼児の運動能力調査に 関する研究が多く見られるようになるのは 1960 年代後半からであり、運動能力検査の項目につい て多くの検討がされている。 その背景には、幼児ならではの運動能力調査の 課題が影響している。松田 (1961) は、幼児は時 間概念が不十分であり速さの理解が難しいこと、 競争意識が乏しく結果への関心も薄いこと、その ため継続して集中や努力することや力を十分に発 揮することが困難であることを指摘している。そ こで幼児の運動能力調査はなるべく日常的な遊び に近い形で動機付けを工夫しながら行うことが求 められる (松田,1961;竹内ら,1968 など)。また 幼児期の運動機能は未分化であるため、筋力等の 特定の体力要素の指標として測定することは妥当 ではないことが報告されている (市村ら,1969 な ど)。そこで様々な調査項目を用いて総合的に運 1952 (昭和 27) 年から 1954 (昭和 29) 年にかけ てこの兒童母性研究会の運動能力調査をお茶の水 女子大学文教育学部附属幼稚園 (現お茶の水女子 大学附属幼稚園) が行っている (安藤,1956)。安 藤は運動能力調査を行った目的を、「従来余り行 われていなかった体育的な面につき確実な基礎の 上に立って、幼児の発達に即した適切な指導を行 いたい考えから、生ず運動能力の調査を行ったの である。」 (p.42) としている。この結果を通して 安藤は、兒童母性研究会の数値と比較して調査対 象園の幼児は懸垂と片足連続跳びが低かったこと から筋力と持久力が非常に低いという認識を示し ている。その一方で、あくまで一園の実態を示し たものであり今後多くの地域と幼児の調査が累積 されて基準が作られることに期待を寄せている。 同時期に松井・松田ら (1951) が運動能力調査 の作成の検討を行っている。ここでは「運動能 力」ではなく「運動能」という単語を使用されて おり、その定義を「知的作業に対する適応性を意 味する智能に対して、運動に対する適応性を意味 するものである。」 (p.47) としている。つまり、 握力など単純な筋力を測るものではなく、身体を 上手く扱えるかを測ろうとした。調査項目から牛 島・波多野 (1949) も近しい視点を持っていたと 考えられる。 松井ら (1955) は、先行研究を基に予め主要な 因子を静的協調性、動的協調性 (主として両手 の)、全身の動的協調性、運動速度、同時運動能、 協応動作を排除する能 (分離動作) の 6 つを設定 し、それぞれに相応する計 55 項目を選択して実 施要項を作成した。その結果、21 項目まで絞り 込みを行っているが、その後の運動能力調査のた めの項目の決定や基準の作成は行われていない。 以上のように、それまでの保育実践現場では幼 児の運動能力の発達という視点があまりなく、幼 児を対象とした運動能力検査の研究も活発に行わ れていなかった。そのため、幼児の運動能力の高 低を話題にするよりも、幼児の運動能力の現状を 捉えること、保育者及び保護者に運動発達の視点 を意識させるといった運動能力調査の目的があっ たと考えられる。 安藤 (1956) はそれまでの保育について「漠然 とあそびの中でその効果を期待しているというの

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に一致していれば項目の名称は統一し、差異があ れば別の項目として集計し、近しい運動能力を調 査していると考えられるものごとにまとめた。 勝部 (1968) のように 30 項目以上を一度に調査 し、走・跳・投といった基本的な運動だけではな く生活や遊びの中で見られる運動を取り入れて多 角的に運動能力を捉えようとする研究も見られ る。一方、浅田 (1984) が幼児の運動能力調査の 条件として、測定のしやすさや事後処理が簡単で あることを挙げているが、項目が多いことはこれ に反し、大規模または複数の研究で採用すること は難しくなる。 そこで比較的限定した項目で幼児の運動能力を 総合的に捉えようとする動きが見られるが (松 田,1961 など)、走・跳・投といった基本的な運 動能力以外の項目ではどの項目を採用するかは研 究によって異なる。 また基本的な運動能力である走運動であって も、走る距離が研究によって異なっており (堀江 ら (1968);井上ら (1967) など)、幼児の走能力を 調査する適当な距離を見出そうとする動きもみら れる。直線走の距離は、20 m∼25 m の範囲が多く 用いられるが、25 m 走には理論的根拠がなく幼 児が速度を保つことができる 20 m が適当とする 意見もあれば (勝部,1979)、20 m では幼児ごとの タイム差が表れにくく不明確である (浅田,1984) という指摘もあり、見解が分かれている。 跳運動を扱う項目は比較的多いが、同じ跳運動 を含む運動能力を調査しようとしても研究によっ て様々な項目が選択されている。これは持久力の 指標としても捉えられる片足連続跳びや、調整力 に重きを置いた両足連続跳び越しなど、跳運動に 付随する要素が項目によって異なることから何を 調査者が重視するかによって項目の選択に違いが 出ると考えられる。 このように 1960 年代は幼児の運動能力調査の 開発が活発化し項目の精査が図られたが、未だ各 研究によって項目が異なる。そのため幼児の運動 能力調査の結果を基に複数の研究を横断的に検討 することが困難であった。この点からも標準的な 幼児の運動能力調査の作成の必要性が伺える。一 方で体支持持続時間など偶然では名称が重複しな い項目が多くの研究で採用されていることから、 動能力を捉えようとした結果、多くの項目が検討 された。 1960 年代に幼児の運動能力調査を検討した研 究を概観し、その中で扱われた項目を池田・青柳 (2006) を参考に表 1 に示した。なお、内容が完全 表1 1960年代の幼児の運動能力調査の項目 運動能力 項目 柔軟性 体前屈 2・伏臥上体そらし2,5,6,7,8・長座体 前屈5,6,7・立位上体後屈9 バランス 棒上片足立ち 1,2,5,6,7,8 ・一本膝バランス3・ 片足盲目立ち3・片足立ち4,9 支持 ・ 筋持久力 体支持持続時間 1,5,6,7,8,9 ・懸垂2,4,5,8・腕立 側臥3 回転運動 片足 1 / 2 回転 3・こま3・こま回り4・鉄棒 しり上がり4・鉄棒前回りおり4・前転4 歩く運動 熊歩き 1 ・平均台歩き4・棒上歩き5・糸巻 き歩き7・足踏み9 スキップ 連続スキップ4 走運動 25 m 走1,6,7,8,9・20 m 走2,4・平均台走り4 跳運動 立ち幅跳び1,2,4,5,6,7,8,9・垂直跳び2,5,8・片足 連続跳び2,8,9・閉眼後方片足 5 回跳び3・ 正座から跳んで立つ3・ゴム跳び4・3 回 跳び4・前後跳び4・左右跳び4・その場ケ ンケン4・連続ケンケン4・飛び降り4・縄 跳び4・走り幅跳び4・連続片足跳び5・両 足連続跳び越し6,7・反復横跳び6,9 登る運動 登り網4 投運動 ボール的当て2・ボール投げ2,9・大型ボー ル遠投4・小型ボール遠投4・大型ボール 狙い投げ4・小型ボール狙い投げ4・荷重 投げ4・真上投げ4・硬式テニスボール投 げ5・ソフトボール投げ5,6,7 蹴る運動 ボール蹴り 2・空中ボール蹴り4・転がり ボール蹴り4・静止ボール蹴り4 突く運動 まりつき2,5,9 打つ運動 大型ボール打ち返し4・小型ボール打ち 返し4・静止ボール打ち4・風船打ち4・打 球5 受ける運動 大型ボール受け 4・小型ボール受け4・捕 球5 握る 握力9 引用文献 1 . 堀 江 ら (1968),2 . 井 上 (1968),3 . 井 上 ら (1967),4 . 勝 部 (1968),5 . 松 田 (1961),6 . 松 田・ 近 藤 (1965b),7 . 松 田・ 近 藤 (1968),8 . 水間ら (1969),9 . 竹内ら (1968)

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東京教育大学式運動能力調査の項目を使用した研 究が見られるようになるが、完全に準拠している のではなく独自の項目を加えたものも見られる (堀江ら,1968・水間ら,1969 など)。 第 4 回以降は棒上片足立ちなどが廃止され、 25 m 走、立ち幅跳び、ソフトボール投げ、体支 持持続時間、両足連続跳び越しが行われ (松田ら, 1975)、これに加えて第 5 回は捕球と的当て蹴り が試験的に行われ以後捕球は採用されている (近 藤ら,1987)。 第 6 回は、25 m 走 (または往復走)、立ち幅跳 び、ソフト (またはテニス) ボール投げ、体支持 持続時間、両足連続跳び越し、捕球の 6 項目を行 い以後第 9 回まで変更は行われていない (近藤・ 杉原,1999;杉原ら,2004;森ら,2011;森ら, 2018)。 このように実施上の問題点や幼児期の運動発達 の特徴を考慮して項目の入れ替えが行われてい る。その結果、第 1 回から継続し行われている項 目は立ち幅跳びのみである。第 2 回から継続して 採用された 25 m 走、ソフトボール投げ、体支持 持続時間については、 第 6 回から 25 m 走の代替項 目として往復走、ソフトボール投げの代替項目と してテニスボール投げが用意されている。項目の 変更ではなく代替種目が用意されていることにつ いては以前行えていた項目でも現在では 25 m の 直線を確保することが困難になったことや、用具 の準備のしやすさを考慮したことが影響している と考えられ、浅田 (1984) の指摘のように特に規 模が大きい運動能力調査では時代に合った簡便性 が求められた結果と言える。 Ϭ.幼児と児童の運動能力調査の関連 1.児童の運動能力調査と項目の変遷 児童を対象とした運動能力調査については、 1927 (昭和 2 ) 年に『小学校体育指針並細案』の 中で西園 (1927) が石川県の児童約 8 千 500 人へ の運動能力調査の結果から児童運動能力標準を示 す な ど 古 く か ら 行 わ れ て い る。 こ こ で は 50 m 走、100 m 走、走り幅跳び、走り高跳び、トリプ ルジャンプ、ホ●スジャンプ (原文のまま)、ス ポンジボール投げ、バスケットボール投げ、懸垂 が選択されている。 各研究者が先行研究から新たに項目を選択し、取 り入れながら運動能力検査の開発を行っていたと 考えられる。 ϫ.東京教育大式幼児運動能力検査及び

MKS

幼 児運動能力検査の変遷から見る基準の作成と 項目の変更 先駆的に幼児の運動能力調査の開発を試みた松 井・松田ら (1951) などの一連の研究を基に開発 されたのが東京教育大学式運動能力検査である。 幼児の運動能力調査においては唯一全国標準を持 つ大規模なものであることから幼児の運動能力調 査に関する他の研究に与えた影響は大きい。この 全国調査は、第 1 回 1954 (昭和 29) 年∼1959 (昭和 34) 年、第 2 回 1962 (昭和 37) 年∼1964 (昭和 39) 年、第 3 回 1966 (昭和 41) 年∼1967 (昭和 42) 年、 第 4 回 1973 年 (昭和 48)、第 5 回 1986 (昭和 61) 年、 第 6 回 1997 (平成 9 ) 年、第 7 回 2002 (平成 14) 年、 第 8 回 2008 (平成 20) 年、第 9 回 2016 (平成 28) 年 ∼2017 (平成 29) 年にかけて行われており、2002 年の調査までは東京教育大学体育心理学研究室作 成の幼児運動能力検査の改訂版と呼ばれていたが 2008 年の調査から MKS 幼児運動能力検査と名称 が変更された (杉原ら,2004;森ら,2011 など)。 第 1 回は先行研究 (松井・松田ら,1951;松井 ら,1955) を基に項目を設定し、東京都内の幼児 約 1,000 名を対象に運動能力調査を行った (松田, 1961)。測定した項目の中で、立ち幅跳び、テニ スボール投げ、棒上片足立ち、長座体前屈、伏臥 上体そらしについて上・中・下の 3 段階評価の基 準を作成した。 第 2 回は第 1 回の基準が適切ではない項目があ ることから変更を行い東京都内の幼児約 2,000 名 を対象に、25 m 走、立ち幅跳び、ソフトボール 投げ、体支持持続時間、棒上片足立ち、長座体前 屈、伏臥上体そらしについて改訂された 5 段階の 判定基準が作成された (松田・近藤,1965a)。 第 3 回になり 34 都道府県 10,000 名以上を対象 に、25 m 走、立ち幅跳び、ソフトボール投げ、体 支持持続時間、両足連続跳び越し、棒上片足立 ち、長座体前屈、伏臥上体そらしについて初めて 全国的規模での標準化が行われて基準が発表され た (松田・近藤,1968)。この基準が発表されると

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幅跳び、ソフトボール投げの 8 種類である (ス ポ ー ツ 庁,2018)。6 歳 か ら 9 歳 を 見 る と、50 m 走、立ち幅跳び、ソフトボール投げが継続して実 施されている。 当初の児童の運動能力調査は、それまで全国的 な運動能力の資料がなかったことから基礎資料の 収集の目的が強かった。全国的な基準が作成され ると各県で全国平均と比較する研究が進められて いる (佐藤ら,1966 など)。 渋川 (1967) はスポーツテストの目的について 全国的な統計資料として結果を体育行政に反映さ せる目的だけであれば熟練した測定者と精密な計 器を使うことで実施できるとしている。むしろ調 査対象者に、「その体力と運動能力の現状を知ら せ、不足している能力を高めるように努力させ、 心身の健全な発達を図り、健康に自信を持って生 活できるようにするためのもの」 (p.46) であると している。そのためには、「発育過程にある青少 年の全部について行うことが必要で、そのために は、簡単で堅牢、安価な計器によって、熟練を要 しないで多人数を短時間に計測できることが必要 である。」 (p.46) としている。 全国的な規模の調査については、幼児と児童の 運動能力調査は 1950 年代後半から 1960 年代前半 の同時期に開発・実施されているが、児童期初期 に関しては幼児の運動能力調査が先行していたこ とがわかる。調査種目は立ち幅跳び、ソフトボー ル投げにおいて一致しており、今日まで続いてい る。これによって幼児と児童の運動能力調査の比 較が一部可能となっている。 2.児童の運動能力調査結果を受けた国の動向 運動能力調査の目的については、2000 年 (平成 12) 年に文部省 (現文部科学省) から告示された 「スポーツ振興基本計画」によって新たな目的が付 与されている。生涯スポーツ、競技スポーツ、学 校体育・スポーツの振興が施策の 3 本の柱として 盛り込まれ「児童生徒の運動に親しむ資質・能力 や体力を培う学校体育の充実」が掲げられ、その 到達目標の一つに「たくましく生きるための体力 の向上を目指し、児童生徒の体力の低下傾向を上 昇傾向に転じるため、児童生徒が進んで運動でき るようにする」と明記されている (文部省,2000)。 松井・竹之下ら (1951) は、全国の 8 歳から 17 歳 40,000 人強を対象に 50 m 走、立ち幅跳び、ス ポンジボール投げ、懸垂、垂直跳び、敏捷性、学 習能を項目とし、標準化を行っている。この結果 は文部省 (現文部科学省) の「学校体育実態調査 実施要項」及び「学校体育実態調査報告第 1 集」 として公表されている。この 1950 年代は幼児と 同様に地域が限定された研究が多い (安在,1953 など)。 児童の運動能力調査の全国的な広まりには 1961 (昭和 36) 年に制定されたスポーツ振興法 (現ス ポーツ基本法) に基づき、同年に当時の文部大臣 が保健体育審議会に「スポーツテストの内容と方 法」について諮問し (竹中ら,1965)、1963 (昭和 38) 年にスポーツテスト実施要項が作成されたこ とが大きく影響していると考えられる。 これにより文部省 (現文部科学省) が 1964 (昭 和 39) 年から 10 歳以上 59 歳以下を対象に国民の 運動能力調査を継続して実施している。小学生に ついては中学年及び高学年に該当する児童が対象 とされており、児童期初期の低学年は対象外で あった。これについて宇田川ら (1971) は小学校 低学年の児童の調査項目は明確に設定されていな いことを指摘している。そしてスポーツテスト実 施から 20 年近くが経った 1983 (昭和 58) 年になっ て 6 歳から 9 歳を対象としたスポーツテストが実 施された。調査項目は、6 歳から 9 歳が 50 m 走、 立ち幅跳び、ソフトボール投げ、とび越しくぐ り、持ち運び走の 5 種類、10 歳・11 歳が握力、立 位体前屈、50 m 走、走り幅跳び、ソフトボール 投げ、反復横跳び、踏み台昇降運動、斜懸垂腕屈 伸、ジグザグドリブル、連続逆上がり、垂直跳 び、背筋力、伏臥上体そらしの 13 種類である (小 林,1997)。 その後、スポーツテスト開始以来 30 年以上が 経過し、日本人の体位の変化やスポーツ医・科学 の進歩、高齢化の進展等に伴い、テスト項目の見 直しや新しい体力テストの在り方に関する検討が 必要になり、1999 (平成 11) 年からは「新体力テ スト」を用いている。 6 歳から 11 歳までと年齢区分が変更され調査項 目は、握力、上体起こし、長座体前屈、反復横跳 び、20 m シャトルラン (往復走)、50 m 走、立ち

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この運動能力の低下には直接的には運動経験が 要因であるが間接的には遊びの変化が影響してい るとされる (近藤 ・ 杉原,1999;杉原ら,2004)。 村岡 (2002) や仙田 (1998) によると 1970 年代後 半から 1990 年代後半にかけて幼児や児童の総遊 び時間が減少しており、その中でも特に戸外遊び の時間の減少が大きいとされる。体の動かさない 静的な遊びの増加は、身体を活発に動かす遊びの 減少を示しており、この遊びの変化が運動経験の 減少を及ぼし運動能力の低下の一因となっている と考えられる。 2011 (平成 23) 年にはスポーツ基本法が施行さ れ、2012 (平成 24) 年に第 1 期「スポーツ基本計 画」が策定された。ここでは「学校と地域におけ る子どものスポーツ機会の充実」が掲げられ、政 策目標で「子どものスポーツ機会の充実を目指 し、学校や地域等において、すべての子どもがス ポーツを楽しむことができる環境の整備を図る。 そうした取組の結果として、今後 10 年以内に子 どもの体力が昭和 60 年頃の水準を上回ることが できるよう、今後 5 年間、体力の向上傾向が維持 され、確実なものとなることを目標とする」とし ている (文部科学省,2012b)。また、「幼児期から の子どもの体力向上方策の推進」を図るために、 「全国体力・運動能力等調査等に基づいたすべて の子どもの体力向上に向けた取組において検証改 善サイクルの確立」をし「幼児期における運動指 針をもとにした実践研究等を通じた普及啓発」を 行うとされる。児童に対する具体的な数値目標の 継続と、運動能力調査の結果を踏まえた施策を幼 児も対象とする動きが明確化している。 2017 (平成 29) 年には第 2 期「スポーツ基本計 画」が策定され、「学校体育をはじめ子供のス ポーツ機会の充実による運動習慣の確立と体力の 向上」における施策目標に「子供の体力水準を昭 和 60 年頃の水準まで引き上げることを目指す」 ことが引き続き明記され、具体的施策の一つとし て「国は,地方公共団体と連携し,「全国体力・ 運動能力,運動習慣等調査」により全国的な子供 の体力・運動能力等を把握し,その分析結果を周 知する。これに基づき,地方公共団体及び学校 は,それぞれの成果と課題を検証し,体育・保健 体育の授業等を改善する」ことが挙げられている そのために「児童生徒の体力については、体育 の授業のみならず、特別活動、総合的な学習の時 間、運動部活動など学校教育活動全体や地域のス ポーツ活動を通じて、その向上を図る」とされて いる (文部省,2000)。ただし運動部活動やスポー ツ活動は強制されるものではなく、個人の主体的 活動である。「たくましく生きる」ことは運動部 活動やスポーツと直結するものではない。自らの 望む形で運動に親しむ資質・能力を支える体力が 育まれることが重要である。 またこの体力とは、日常生活に必要な体力に加 え、自らが行いたい運動を支える各年齢期に合っ た体力であり、他者と比較してより上位を目指す ものではないと考える。その上で特に運動能力は 幼児及び児童期に各年齢期の基礎が培われること から、幼児・児童期は運動能力の向上に繋がる 個々に合わせた教育実践が必要であろう。 さらに 2002 (平成 14) 年の中央教育審議会「子 どもの体力向上のための総合的な方策について (答申)」では、子どもの体力の現状や体力低下の 原因の分析が行われ、子どもの体力向上を目指す ことが掲げられ、「「体力・運動能力調査」の活用 をはじめ,体力の向上に資する取組や子どもの生 活実態などについての調査研究にも一層力を入れ る必要がある。」とされ、「体力の意義と求められ る体力」には、「「体力・運動能力調査」の平均値 を上昇傾向にし,当面これまでの最高値を超える ことを目標とする。」という文言が入れられてお り、1985 (昭和 60) 年頃の水準を超えることを目 標に掲げた (中央教育審議会,2002)。これは運動 能力向上の数値目標が設定されたことになる。ま た数値目標はないものの幼児教育の充実も掲げら れている。 1980 年代後半から長期的に子どもの体力が低 下傾向にあることに加え子どもの体力の高低の二 極化が広がっていることから、2006 (平成 18 年) 年には、「スポーツ振興基本計画」の見直しが行 われ、「新体力テスト」を活用し、「子ども自らが 進んで体を動かすことの励みとなる取組を促進す るとともに、運動能力調査の結果の普及啓発を図 り、各地域における子どものスポーツ活動の充実 に向けた取組を促すこと」が示された (文部科学 省,2006)。

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また東京都教育委員会は、1980 (昭和 55) 年度 より 3 年ごとに東京都公立幼稚園に在園する5歳 児を対象に計 13 回の運動能力調査を行っている (東京都教職員研修センター研修部,2017)。運動 能力調査の実施理由を「昭和 50 年代前半、都市 化の影響から運動能力の発達が十分でなかった り、遊びに意欲的に取り組めなかったりする幼児 の増加が問題視されるようになった。」 (p.61) と している。そこで運動能力調査の結果を基に、特 に課題となる運動能力を明らかにし、運動能力向 上のために寄与すると考えられる事例を提案して いる。だが「各園では、幼児の実態や園の環境に 応じて様々な工夫や効果的な取組が行われてい る」 (p.76) としつつも「広く東京都全体で共有さ れていないことが課題である。」 (p.76) と指摘し ている。 このように運動能力調査を基に運動能力の向上 を図るための取り組みも一部でされている。東京 都のように各都道府県での運動能力調査の必要性 を認知することによって運動能力調査が広がる可 能性があるが、積極的な幼児の運動能力調査の実 施は全国的にまだ少数である。園単位ではさらに 運動能力調査の実施率は低いと考えられる。 なお、神奈川県立体育センターや東京都教育委 員会の行った運動能力調査は MKS 幼児運動能力 検査に準拠しており、現在は地方教育行政におい ても幼児の運動能力調査を行う場合には、独自の 運動能力調査を開発するのではなく MKS 幼児運 動能力検査を用いる傾向が伺える。 また幼児の運動能力の向上の意識から長野県は 幼児を対象とした「長野県版運動プログラム」を 作成し、普及を図っている (長野県教育委員会事 務局スポーツ課,2018)。しかし、運動能力調査 は確認できず、その効果を客観的に図ることは難 しい。幼児の運動能力調査の実施を広める取り組 みが必要であると考える。 地方教育行政における運動能力調査の実施はご く一部に確認できた。その中で運動能力の現状把 握だけではなく、向上を目指すために運動能力調 査によって特に数値が低く課題となる運動を明ら かにし、課題に対応した運動プログラムの開発と 効果の検証を行っているものも見られた。これは 直接的な保育への介入によって運動能力を高めよ (スポーツ庁,2017)。 以上のように国の政策では、運動能力の向上を スポーツの振興によって目指すことが示されてい る。また児童に加え、課題に対する目標の達成の ために幼児に対しても言及されている。児童にお いて運動能力調査の結果を具体的に引き上げよう とする到達目標が設けられているが、運動能力調 査の結果が幼児と児童が類似した推移を示してい ることから、児童の到達目標の達成のために運動 能力を幼児から底上げしようとする意図があると 考えられる。 ϭ.各都道府県における幼児の運動能力調査の実態 文部科学省は幼児の体力測定が運動能力調査と して測定されることに言及した上で、「体力測定 で得られた科学的根拠を基に明確にし、運動遊び の内容を意図的に実践することによって健全な発 育発達にも寄与することが期待できる。」 (p.18) とし、「体力測定の結果に基づいて運動遊びの支 援を行い、一定期間の実践の後にその効果を再度 の測定によって検証し、取り組みの内容を修正す るといった展開が重要である。」 (p.18) としてい る (文部科学省,2011)。運動能力調査を実践に活 かすことに加え、再度の運動能力調査によって効 果の測定と実践の再検討を促している。 各都道府県の教育委員会等が実施した幼児の運 動力調査について見ると、継続的な研究ではな く、さらに様々な調査の一つとして運動能力調査 が行われていることが多い (三重県教育研究所, 1967 など)。単年度かつ幼児の運動能力が中心的 な話題ではない研究の場合、運動能力調査の結果 から課題を検討し実践に活かすことには繋がりに くい。 その中で神奈川県立体育センターは、2008 (平 成 20) 年、2009 (平成 21) 年と 2 年間にわたって 「幼児の体力の現状を把握し、その体力及び運動 能力の向上を図る方法等に関する基礎資料を得る ことにより、効果的な運動プログラムを作成す る。」 (p.1) ための継続研究を行っている (神奈川 県立体育センター指導研究部スポーツ科学研究 室,2009)。「子どもの体力・運動能力向上プログ ラム」を作成し事前・事後に運動能力調査を行う ことでその効果を検証している。

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体育の科学,18,122-126. 井上邦江・萩原 仁・松本寿吉他 1967 幼児の運 動 学 習 能 テ ス ト に つ い て 体 育 学 研 究,11 (5),160. 神奈川県立体育センター指導研究部スポーツ科学 研究室 2009 子どもの体力及び運動能力の向 上に関する研究,神奈川県立体育センター研 究報告書 勝部篤美 1968 幼児の運動能力に関する研究 体 育学研究,12 (5),48, 勝部篤美 1979『改訂幼児体育の理論と実際』杏 林書院 小林寛道 1997 何故体力テストが必要なのか―過 去 か ら 未 来 へ ― 体 育 の 科 学,47 (11),844-846. 小林寛道 1999 現代の子どもの体力 体育の科学, 49 (1),14-19. 近藤充夫・松田岩男・杉原 隆 1987 幼児の運動 能力 1 1986 年の全国調査結果から 体育の科 学,37 (7),551-554. 近藤充夫・杉原 隆 1999 幼児の運動能力検査の 標準化と年次推移に関する研究 平成 9 ∼10 年度文部科学省科学研究費補助金 (研究基盤 B) 研究成果報告書 大崎サチヱ 1943 幼兒の鍊成 幼兒の教育,43 (8-9),36-39. 大崎サチヱ 1956 熊本大学の保育者養成 (特集ノ 3 ) 幼児の教育,55 (2),13-14. 松田岩男 1961 幼児の運動能力の発達に関する研 究 東京教育大学体育学部紀要,1,38-53. 松田岩男・近藤充夫 1965a 幼児の運動能力に関 する研究 体育学研究,10 (1),272. 松田岩男・近藤充夫 1965b 幼児の運動能力検査 に関する研究 東京教育大学体育学部紀要, 5,23-35. 松田岩男・近藤充夫 1968 幼児の運動能力検査に 関する研究―幼児の運動発達基準の作成―東 京教育大学体育学部紀要,7,33-45. 松田岩男・近藤充夫・杉原 隆他 1975 幼児の運 動能力の発達とその年次推移に関する資料 東京教育大学体育学部紀要,14,31-46. 松井三雄・松田岩男・森國太郎 1955 幼兒の運動 能力検査に関する研究 体育学研究,1 (9), うとする意図が見られ、文部科学省の意向に近し い活動であると捉えられる。しかし、その運動プ ログラムの普及状況については明らかにはなって いない。 今後の課題 本研究では幼児及び低学年児童の運動能力調査 を開発・実施する立場や国及び地方の教育行政と いった視点から研究を行ったが、幼稚園・保育 園・小学校等の保育及び教育実践現場側の視点は ほとんど入っていない。今後はこの視点からも精 査することで幼児及び低学年児童の運動能力調査 が行われてきた背景やさらなる普及への知見を得 たい。 また幼児及び低学年児童の運動能力調査と地方 教育行政との関連については、資料がデータベー ス化されていないものも多くさらに詳しく検討す る必要があるだろう。 引用文献 安藤寿美江 1956 幼児の運動能力調査 (研究会よ り) 幼児の教育,42-46. 安在武八郎 1953 山形県生徒児童の体力の現状― 形態と運動能力について―山形大學紀要,教 育科學,1 (2),133-144. 浅田隆夫 1984『幼児の運動教育』学術図書出版 中央教育審議会 2002 子どもの体力向上のための 総合的な方策について(答申)(http://www. mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/ toushin/021001.htm 最 終 閲 覧 日 2019 年 4 月 1 日) 林美代子 1963 滋賀県における幼児の運動能力調 査報告 体育学研究,8 (1),39. 堀江 繁・広田公一・竹内正雄他 1968 幼稚園児 の運動能力に関する研究:第 1 報 体育的指 導効果 体育学研究,12 (5),122. 市村操一・鴨下礼二郎・越智三王 1969 園児の体 力構造の研究,13 (5),235. 池田孝博・青柳 領 2006 幼児の体力・運動能力 テスト項目の選択―Gallahue の基礎的運動ス キルモデルによる分類と検討―九州体育・ス ポーツ学研究,21 (2),1-16. 井上邦江 1968 幼児の運動能力テストについて

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The Study of Changes and Usages of Items on Physical Ability Survey of

Young Children

Taro MACHIYAMA

(Doctoral program, Graduate School of Social and Cultural Studies, Nihon University)

Keywords: Children, Elementary School Children, Survey of Physical Ability, Items of Survey, Educational Policy

The purpose of this study is to explore the history of how physical ability surveys have been used to measure children’s physical abilities, and to consider the relationship between changes over time in the purposes and items of the survey. This paper also aims to show how physical ability survey data have been used in educational policies.

 The development of the physical ability survey of children started in the 1950s. The foundation of the physical ability survey was based on the Physical Ability Test of Children, which is invented by the depar tment of psychology at Tokyo University and Research Institute of Children’s Physical Ability.

In the 1960s, items on physical ability surveys changed based on research. Researchers who worked on the development of the surveys suggested new items. Items were changed on the nation-wide physical ability surveys. Some versions of the physical ability surveys were constructed with the anticipation of alternative items. This shows that physical ability surveys need to take into consideration the contexts where the surveys would be conducted. It also suggests that the

physical ability surveys need to have flexibility to adjust to changing times and generations.

In the late 1950s and early 1960s the nation-wide surveys of physical abilities included versions for younger and older children. The physical ability surveys for young children was developed earlier than the one for elementary school children. For both children and elementary school children, the surveys included a short run (50m), a standing broad jump, and throwing a ball, items which are still consistently used today. This makes it possible to compare the abilities of children then and now, and of young children and elementary school children.

 Based on the findings from the physical ability surveys, educational policy evolved for developing children’s physical abilities. This paper presents the development over time in physical ability goals for elementary school children. The picture should be much the same for younger children, as the surveys show a very similar trajectory for young children and elementary school children.

At the local government level of educational policies, some of the local governments have started to develop exercise programs, but conducting physical ability surveys with young children is relatively rare. Physical ability surveys for children should be conducted much more widely.

参照

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