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前縦隔に発生した異所性甲状腺癌に外科治療を行った犬3例

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Academic year: 2021

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前縦隔に発生した異所性甲状腺癌に外科治療を

行った犬

3 例

Treatment of Ectopic Thyroid Carcinomas in Cranial Mediastinum by Surgical

Resection in 3 Dogs

村上 善彦

*

中野 康弘 加藤 太司 中川 恭子 南  毅生

Yoshihiko MURAKAMI*, Yasuhiro NAKANO, Taiji KATO, Kyoko NAKAGAWA, Takeo MINAMI Minami Animal Hospital, 291-3 Hattori Iga, Mie 518-0007, Japan

Summary: Ectopic thyroid carcinomas in cranial mediastinum were diagnosed and surgically removed in 3 dogs. All carcinomas were non-infiltrating to the surrounding tissues, and neither metastasis nor pleural effusion were found on computed tomography. Pathological examinations of the cytology samples in all 3 dogs and needle core samples in 1 dog were carried out prior to the surgery. The dogs survived on 1,050, 2,925, and 1,420 days without recurrence or metastasis. Although more cases would be needed, those ectopic thyroid carcinomas in cranial mediastinum without local infiltration into surrounding tissues or metastasis might be considered to carry good prognosis if diagnosed and surgically removed early.

Key words: ectopic thyroid carcinoma, cranial mediastinum, dog

要約:前縦隔に異所性甲状腺癌が発生した犬に外科手術を行った3例を経験した。3症例はCT検査を行い、他臓器への浸潤、 転移、胸水を認めなかったため、細胞診、病理組織検査後、外科手術を行った。術後、症例1、3はそれぞれ1,050、1,420日 経過しているが、再発転移なく良好に経過している。また、症例2は術後2,925日に腫瘍とは関連なく死亡した。症例の集積 による検討が必要ではあるが、前縦隔に発生した異所性甲状腺癌は、他臓器に浸潤や転移がない場合、外科手術を行うこと で良好な予後が得られる可能性が考えられた。 キーワード:異所性甲状腺癌、前縦隔、犬

Jpn. J. Vet. Anesth. Surg. 51(3&4): 36–40, 2020.

はじめに 犬の甲状腺癌は、最も多い内分泌系腫瘍であ り、発生率はCT 検査を行った犬4,520例中96例 (2.1%)と報告されている3)。その中でも異所性で の発生は稀であり、過去には前縦隔、心基底部、 舌下部で異所性の甲状腺癌の発生が報告されてい る。舌下部の異所性甲状腺癌に外科手術単独で治 療行った犬41例の報告では1,160日間の中央生存 期間が得られている1) 犬の前縦隔に発生する最も一般的な腫瘍は、胸 腺腫とリンパ腫であり、その他ケモデクトーマや 異所性甲状腺癌の発生の報告がある。外科治療の 適応となるのは胸腺腫と異所性甲状腺癌であり、 胸腺腫の外科手術を行った犬20例の中央生存期間 は790日間という報告がある9) しかし、今回の報告である前縦隔に生じた異所 性甲状腺癌の外科手術による生存期間の報告は、 2008年のLiptacらが報告した前縦隔に癌腫が生じ た犬の9例の中で経過が追えた2例のみであり、報 告は少ない。よって今回、前縦隔に異所性甲状腺 癌が発生した犬の3例に遭遇し、外科的に摘出を 行い、長期的な予後が得られたため報告する。 南動物病院(〒518-0007 三重県伊賀市服部町291-3) *連絡責任者:村上善彦 E-mail: [email protected] 受付日2020年6月8日 受理日2020年9月2日

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症 例 症例1はミニチュアダックスフンド、11歳齢、 雄、6.9 kg、主訴は活動性の低下であった。胸部レ ントゲン検査にて前縦隔に腫瘤が認められ、南動 物病院グループに紹介受診した。CT 検査(Optima CT660、GEヘ ル ス ケ ア ジ ャ パ ン 株 式 会 社、 東 京)では、辺縁が造影増強された4.7×3.4×5 cm (41.83 cm3)の腫瘤が認められた。腫瘤は前大静 脈、内胸動脈を圧迫、変位させ、心臓、腕頭動脈、 左鎖骨下動脈と接していた。明確な前大静脈への 血管内浸潤は認められなかった。また、腫瘤の圧 迫により左肺前葉前部に無気肺が認められ、その 境界は不明瞭であった。胸水、転移の所見は認め られなかった(図1A、B)。術前の超音波検査下で のFNAでは、神経内分泌腫瘍を疑い、Tru-cut 針に よる組織生検を行い、異所性甲状腺癌と診断した。 症例2はヨークシャーテリア、8歳齢、避妊雌、 3.4 kg、主訴は呼吸困難であった。胸部レントゲン 検査にて前縦隔に腫瘤が認められ、CT 検査では造 影増強される3.7×2.8×3.8 cm(25.13 cm3)の腫 瘤が認められた。症例1と同様に周囲組織と接し、 圧迫、変位が認められた。明確な前大静脈への血 管内浸潤は認められなかった。胸水、転移の所見 は認められなかった(図2A、B)。術前の超音波検 査下でのFNAでは、上皮系腫瘍が疑われた。 症例3はチワワ、8歳齢、雌、2.1 kg、主訴は特 になく、健康診断の胸部レントゲン検査にて前縦 図2 症例2のCT検査所見(A:横断像、B:矢状断像)。 前縦隔に生じた腫瘤により前大静脈の圧迫変位を認めた(矢頭)。 造影剤:イオヘキソール 2 ml/kg、平衡相での撮影。 図1 症例1のCT検査所見(A:横断像、B:矢状断像)。 前縦隔に生じた腫瘤による圧迫で無気肺となった左肺前葉前部を認める(矢印)。また 前大静脈の圧迫変位を認めた(矢頭)。造影剤:イオヘキソール 2 ml/kg、平衡相での撮影。

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隔腫瘤の発生が認められた。CT 検査では2.1×2.1 ×1.9 cm(5 cm3)の腫瘤を認め、心臓、前大静脈、 内胸動脈と接していたが、圧迫、変位は認められ なかった(図3A、B)。術前の超音波検査下での FNAでは、上皮系腫瘍が疑われた。 外科手術 3例はCT 検査、細胞診、病理組織検査などの結 果により外科手術が適応と判断され、飼い主の承 諾のもと摘出手術を行った。症例1には、前投与 として硫酸アトロピン(アトロピン硫酸塩注射液、 田辺三菱製薬、大阪)(0.02 mg/kg IV)、ミダゾラ ム(ドルミカム®注射液10 mg、アステラス製薬、 東京)(0.2 mg/kg IV)を投与後、フェンタニル(フェ ンタニル注射液、ヤンセンファーマ株式会社、東 京)(5 µg/kg IV)を投与し、プロポフォール(プ ロポフォール1% 静注50 ml「マイラン」、マイラン 製薬株式会社、東京)(3 mg/kg IV)を挿管可能と なるまでゆっくり静注した。イソフルレン(イソ フル®DSファーマアニマルヘルス、大阪)とフェ ンタニル(10 µg/kg/hr CRI)で麻酔維持を行った。 胸骨正中切開術により前胸部にアプローチした。 腫瘤は心臓、前大静脈、内胸動静脈、左肺前葉を 圧迫し、またそれらと癒着していた。内胸動静脈 は腫瘤に囲まれており温存は不可能だったため、 結紮(止血)クリップ(サイズM: クリップ閉高

5.85 mm,EUROPCRIP Ligating System、(株)川

崎生物科学研究所、東京)を用いて結紮、切断し た。CT 検査では左肺前葉との境界は不明瞭であっ たが、癒着は綿棒にて容易に剥離可能だった。心 臓への浸潤はなく慎重に剝離した。腫瘤から前大 静脈へ流入する血管が多数認められたため、結紮 (止血)クリップ(サイズM)を用いて結紮およ び切断し、前大静脈から剥離した(図4)。横隔神 経が腫瘤脇を走行していたが、剥離温存が可能で あった。横隔神経と並走する心膜横隔膜動脈は腫 瘤内へ流入していたため結紮(止血)クリップ(サ イズM)を用いて結紮、切断した。また周囲の細 かい血管からの出血には結紮クリップとバイポー ラコアギュレーター(SYNERGYマリスプレシジョ ン、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社、 図3 症例3のCT検査所見(A:横断像、B:矢状断像)。 前縦隔に生じた腫瘤は周囲臓器に接するが圧迫は生じていなかった。 造影剤:イオヘキソール 2 ml/kg、平衡相での撮影。 図4 腫瘍から前大静脈への血管を分離、結紮、切断し前 大静脈から腫瘤を剥離した。 鑷子側が尾側、異所性甲状腺癌(矢頭)、前大静脈(矢印)。

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東京)を用いて止血し、腫瘤を摘出した。 症例2は症例1と同様の麻酔を実施し、左側第 3–4肋間開胸術により前胸部にアプローチした。 症例1と同様に内胸動静脈と癒着が認められたた め、結紮(止血)クリップ(サイズM)を用いて 結紮、切断した。小さな血管に注意し、バイポー ラコアギュレーターにて凝固、止血しながら心臓 との癒着を剥離、前大静脈へ流入する血管を3–0 ポリジオキサノン縫合糸(モノディオックス®、ア ルフレッサファーマ、大阪)を用いて結紮、切断 しながら前大静脈と腫瘤を剝離し、腫瘤を摘出し た。CT 検査では腫瘤と前大静脈の境界が一部不明 瞭であったが、血管の処理後は鈍性に剥離可能で あった。 症 例3は 前 投 与 と し て 硫 酸 ア ト ロ ピ ン(0.02 mg/kg IV)、ミダゾラム(0.2 mg/kg IV)を投与後、 プロポフォール(5 mg/kg IV)を挿管可能となる までゆっくり静注した。イソフルレンにて麻酔を 維持した。左側第3–4肋間開胸術により前胸部に アプローチした。CT 検査所見と同様に、周囲の臓 器との境界は明瞭であり、腫瘤周囲の血管を3–0 ポリジオキサノン縫合糸もしくはバイポーラコア ギュレーターを用いて止血し、腫瘤を摘出した。 術後の病理組織検査 病理組織検査では、3例全てで濾胞細胞由来の甲 状腺癌と診断された。全ての腫瘍は、線維性の被 膜に覆われていたが、一部境界不明瞭の部位が認 められた。核分裂像は稀であり(400倍視野中3)、 脈管浸潤は認められなかった。 補助化学療法、追加療法 症例2においてのみ術後カルボプラチンを投薬 した。術後に軽度に血中クレアチニン値の上昇 (1.8 mg/dl)が認められたため減量して200 mg/m2 を計6回実施した。 甲状腺ホルモンについて 今回の3例では術前のCT 検査にて甲状腺の大き さ(縦径:症例1:13 mm、症例2:12 mm、症例3: 10 mm)に問題がなかったこと、臨床的に甲状腺 機能低下症を疑う所見がなかったことから甲状腺 ホルモンの評価は術前には実施しなかった。症例 1では、術後150日に体重の増加を主訴に来院し、 甲状腺ホルモンの血中濃度測定を行った。その結 果、血中サイロキシン濃度(T4):0.3 µg/dl 未満 (正常値:1.1–3.6 µg/dl)、血中遊離サイロキシン濃 度(fT4):0.3 µg/dl 未満(正常値0.5–3.0 µg/dl)、 甲状腺刺激ホルモン(TSH):3.77 ng/ml(正常値 0.08–0.32 ng/ml)であった。以上の結果より、甲 状腺機能低下症と診断した。症例2、3では特に甲 状腺機能低下を疑う臨床症状は認められなかった。 予 後 症例1、症例3はそれぞれ術後1,050日間、1,420 日間経過したが転移、再発の所見は認められてい ない。症例2は、転移、再発の所見は認められず、 術後2,925日目に腫瘍とは関連なく腎不全で死亡 した。 考 察 今回の報告では、前胸部に発生した3例の異所 性甲状腺癌を外科切除し、再発あるいは転移を認 めることなく1,050日以上、2,925日、1,420日以 上と長期間生存した。前縦隔に生じた異所性甲状 腺癌の長期的な予後に関して過去の報告は少ない。 2008年のLiptacらが報告した前縦隔に癌腫が生じ た犬の9例では、濾胞細胞由来の異所性甲状腺癌 で予後が追跡できたのは2例であり、1例は術前に 心臓、血管に浸潤していたため手術後512日に再 発、安楽死されており、もう1例の詳細は不明だ が、術後301日で椎間板ヘルニアにより死亡して いる6)。今回の報告では、診断時、他臓器に浸潤 や転移がなかったことから、過去の報告よりも病 態が早期だったと考えられ、周囲臓器より切除す ることで摘出し長期間の予後を得ることができた。 よって、周囲臓器への浸潤がないステージの早い 段階での手術が良好な予後につながると考えられ た。 今回の報告は前胸部に発生した異所性甲状腺癌 に対するものであるが、過去には頸部に発生した 可動性のある正所性甲状腺癌に対して外科手術単 独で治療した報告において3年以上の中央生存期 間が得られている5)。また、舌下部の異所性甲状 腺癌に外科手術単独で治療行った報告では1,160

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日間の中央生存期間が得られており、いずれも今 回の報告と同様に長期間の予後が得られている1) 甲状腺癌に関して正所性、異所性にかかわらず完 全切除できれば良好な予後が得られる可能性が考 えられた。また今回、3例全てが病理組織検査にて 脈管浸潤は認められなかった。2014年のCampos らの甲状腺癌の予後因子に関して調べた報告では、 病理組織検査での脈管浸潤は、無病生存期間の負 の予後因子と報告されており2)、これも今回3例全 てで長期間の予後が得られた1つの要因と考えら れる。 今回の3例全例で手術適応の有無を調べるため に術前にCT 検査を行ったが、症例1と2では前大 静脈の重度の圧迫、変位が認められ、浸潤の有無 に関しては明確な血管内への浸潤はなかったが判 断が困難だった。過去の報告でも同様のことが述 べられており、前縦隔腫瘤にCT 検査を行い、外 科所見もしくは剖検所見と比較した研究では、ス テージングに関してCT 検査は重要な情報を提供 するが、前大静脈への浸潤の有無に関しては偽陽 性(1/14)、偽陰性(2/14)が報告されており、圧 迫なのか、浸潤なのかを区別することはできない と報告している8)。よって、前大静脈への圧迫が 生じており浸潤の有無が明確ではない場合、浸潤 が生じている可能性も考え、術中の肉眼所見と一 緒に腫瘍と前大静脈を慎重に剥離する必要がある。 症例2では、腫瘍が大きく、飼い主の強い希望 もあり術後にカルボプラチンの投与を行った。過 去には甲状腺癌の化学療法としてシスプラチン、 ドキソルビシン、カルボプラチンが報告されてい る。シスプラチン単独またはドキソルビシン、外 科 手 術 と の 併 用 で は 奏 功 率53%(13例 中7例、 CR1例、PR6例)、無造悪生存期間の中央値223日 間4)、ドキソルビシン単独では奏功率23%(13 中3例、CR1例、PR2例)7)と報告されている。今 回副作用の少なさや漏出時の安全性からカルボプ ラチンを選択した。しかし、カルボプラチンを投 与しなかった2症例でも転移再発なく長期間の予 後が得られている。手術後の化学療法に関して、 その有効性については不明であり、症例の集積に よる検討が必要と考えられた。 今回の報告より、前縦隔に生じた異所性の濾胞 性甲状腺癌は、他部位で発生した甲状腺癌と同様 に、他臓器に浸潤や転移がなければ摘出により良 好な予後が得られる可能性が考えられた。 文 献

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参照

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