Title
[原著]接触性赤外線凝固器の口腔粘膜および肝組織にお
よぼす影響の実験的研究
Author(s)
藤井, 信男; 国島, 睦意; 山城, 正宏
Citation
琉球大学医学会雑誌 : 医学部紀要 = Ryukyu medical
journal, 9(1): 17-36
Issue Date
1986
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/2343
Ryukyu Med. J. 9(1): 17-36, 1986.
接触性赤外線凝固券の口腔粘膜および
肝組織におよぼす影響の実験的研究
藤井 信男 国島 睦意* 山城 正宏** 沖縄県立中部病院 ▼ l一 '*琉球大学医学部 緒 言 口腔粘膜病変の中にはその進展形態から外科 的に切除するのが困難な場合も多く,このため に今日までに種々の異った治療法が考案され, 使用されている.特に1961年にCooper^が液体 窒素を利用してcryosurgeryの治療を始めて以 莱,凍結外科は口腔粘模疾患の治療にも応用さ れて良好な成績を収めている…,3,4,5) 一方これとは逆に,高温の熟による焼灼作用を 利用して組織を破壊する,いわゆるcauterization の歴史は古く,皮膚科領域の疾患を中心に行な われてきておりヲ)近年では電気熱エネルギーを 利用したelectro micro cauterizationの開発 により,眼科ア)耳鼻咽喉租8,9)泌尿器科10)などの 多くの分野で利用されている. 今回われわれは最近西ドイツで新しく開発さ れた,赤外線による接触性凝固器(Infrared Contact Coa酢ilator,以下I.C.C.と略)を使用 する機会を得た.これをcauterizationに用いて 種々の口腔粘膜疾患の治療目的に利用する際の その性能や肝及び口腔粘膜に及ぼす組織学的影 響を調べるための動物実験を行なったので,そ の結果を報告し,本装置の紹介も合わせて行な つ. 接触性赤外線凝固器について I.C.C.は1977年に西ドイツでNath.Kiefhat光r らll)が新しく考案,開発した赤外線を利用した 接触怪の熱凝固界で,電源部の装置を合わせて 歯科口月空外科 病理学 歯科口腔外科学教室 全体の重量が約3100gの装置で,その保持部の 重量約220 長さ20cmのピストル型をしてい る(写真1).交流電源を利用し, -ンドスイ ッチの操作により内蔵された15Vのタングステ ン・ハロゲンランプから発する120-150Wの赤 外線が反射鏡を通じて中央の石英ロッドに集光 され、ロッドの先端から組織に接触照射される (図1)王2)また先端部までロッドはカバーで被 われているために周囲への赤外線の漏れは少な く,照射野を限定できて,照射時間も本体のタ イマー,あるいは-ンドスイッチの操作で自由 にコントロールできるo 照射に際しては石英ロ ッドの先端部がテフロンチップで被われている ために,電気メスでの凝固の際にみられるよう な組織の焦げや癒着を防ぎ,きれいな創面を形 成する.タングステン・-ロゲンランプより発 生する赤外線の波長は850mm付近にピークを有 する混合赤外線で(図2)チ3)石英ロッド先端で のエネルギー密度は40W/citf,接触端子表面の 温度は約100℃となる. 今までにこの装置は実質臓器出血の止血に吾3,14) あるいは耳鼻咽喉科領域での窟桃摘出後の止血 に12)また口腔外科領域での抜歯宿の難治性出血 の止血に15)と種々利用されて良好な結果が得ら れている。今回われわれはこの装置の特徴を利 用して口腔粘膜疾患の治療に使用出来ないかと 考え,以下の実験を行なった.接触性赤外線凝国器 I. C. C.の構造図 図1 I.C.C.の構造 (〟W蝣cm"2 -run 1) 400 500 700 800 900 1000 1100 1200 1300 1400 1500 1600 波長(run I. C. C.より発する赤外線の分光放射照度 (小西らより引用) 図2 I.C.C.より発する赤外線の分光放射照度 19
20 藤井 信男 ほか EB 眉 rJMP< I.C.C.を用いて組織の熟焼灼を行か、,これ の熱凝固,破壊作用が照射時間の違いで組織に どの程度の範囲に影響を及ぼすかを調べるため に次の実験を行なった. 実験材料には,屠殺後間もないランドレース 種の豚の頬粘膜と肝臓を用いた. I.C.C.は石英 ロッドの先端径が6mm ライトガイド長が120 mmのものを使用し,照射時間は1-4秒の間で 各々セットした.この条件下に,ロッドの先端 が照射組織に対して直角に接するように保持し, 無理に加圧せずに自重のみが加わるようにして 照射を行なった.照射後試料はただちに10%中 性ホルマリン液にて固定後,パラフィン包埋し て,創の中央部を横断するように4JJで簿切し, H.E染色標本を作製してこれを組織学的に検索 した(写真2). 実 験 結 果 1.肉眼的所見 1)肝臓 I.C.C.の接触ロッド端子に自重(220 の 加圧下で圧迫照射した際の肝表面の変化を肉眼 的に観察すると 0.5秒照射時には表面の変化 は殆ど認められなかったが1.0秒以上の照射 時にロッド端子の口径とほヾ一致した大きさに, 熟変性のためと思われる灰白色円形の変性像が みられた(写真2-a,d).この白濁は照射時間 が長くなるにつれて強くなってゆくが端子の触 れていない周囲表面への広がりはみられず,ま た表面はや、陥凹を呈するが平滑な面を保ち, 4.0秒連続照射時にも焦げや煙,あるいは水瓶 形成も認めず,照射終了後に離す際にも先端と 組織との癒着もなく容易に敵脱することが出来 た. 照射中央部を過る横断切片では,灰白色を呈 する変性部が中央で深い規則的な『おわん型』 を呈し,周囲-漏れる傾向もなく境界が比較的 はっきりした像を示していた(写真2-C). 2)頬粘膜 同様の条件下で接触照射を行なったが,肝臓 ・・・)も言上は・同蝣't<∴・叫!・'.j蝣i-tl.".?い・∴ 蝣-w.'l、Vi の場合には肝臓に比べて表面がや,硬く自色味 を帯びているために初期の変化が観察しにくく て1.5秒照射時にはじめて接触端子の口径に 一致した白濁円を認め,照射時間の延長につれ て白濁は強く,目立つようになるが口径以上の 大きさに周囲へ広がる傾向はみられず,また照 射中に焦げや水庖形成もなく,牡脱する際にも 組織との癒着はみられなかった. 2.組織学的所見 1)肝臓 豚の肝臓表面に直角の横断像所見では被膜は 非常に薄く,肝実質では小葉構造が明確に保た れている(写真3工 1.0秒照射時には被膜内のコラーゲン線経の 好塩基性変性が認められ,これと接する被膜直 下の小薬の肝細胞が軽度に圧迫されて核浪縞が みられるが,結合織での変性は殆ど認められな い(写真4-a,b). 1・5秒照射時には被膜の変性も強くなり, 被膜直下の肝細胞の核濃縮像が中心部で0.2 mm の深さまで認められるが,細胞質の変化は殆ど 認められない.一方グリソン鞄では,中心部で 0.7 mmの深さまで結合織の好塩基性変性がおよ び,これに沿った肝細胞にも幅0.2mmの範囲で 核濃縮像が認められる.さらに小葉内では,中 心静脈およびsinusoidの拡張がみられ,これは 照射の中央部で0.7mmの深さに達し周辺部に行 くに従って浅くなる『おわん型』を呈し,弱拡 大像では正常部と堺して白く透けてみえる(写 真5-a,d . 2.0秒照射時には,被膜の変性はさらに強く なり,被膜直下の小葉の肝細胞の核濃縮は著し く,細胞質の好酸性変性が認められる.ダリソ ン鞘のコラーゲン線経の変性は中央部で1.2mm の深さに達し,またsinusoidの乱れや破壊が一 部に生じてくる.この範囲に含まれる周囲の血 管の外膜の変性や内皮細胞の核濃縮もみられる (写真6-a.d
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接触性赤外線凝固器
写真3 正常像,弱拡大像
24 藤井 信男 ほか 写真4-a 秒照射,弱拡大像 去土V-サ・*->.蠎 t-v".'*¥+¥主 、・/・∴二 蟻迫だ鴫 > ^;,去 写真4-b 1秒照射,強拡大像
26 V .^一詛'" I;譲主;㍗ 、:て一寸*>:ォ声† 藤井 信男 ほか kJJfl^^^H ' I FSK f :㌔ L`㌦-I -・ミト′ 一蝣*<十 > 99 ヽ -㌔ 蛋 ^T I・{・:s・細 V " ?一・・・、こfc*. '′一・*-ギー"て:i. i ●ヽ 、 ヽ
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写真6-a ;声.lT ..蝣*:'チ蝣?-:卓二:-.
' `、蝣¥ :さ L . l f __l Jt_ 2秒照射,弱拡大像 *ai慧芝草㌫丁 ∴・-こ --・---"-接触性赤外線凝固器
写真7-a 秒照射,弱拡大像
写真7-b 秒照射,蝿拡大像
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藤井 信男 ほか
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写真8-a 4秒照射,弱拡大像
接触性赤外線凝固器
写真9 正常像,弱拡大像
30 *wH*K日 藤井 信男 ほか 写真10-a 1秒照射,弱拡大像 ン- 、一己さ"*"蝣'・" -J*一一一′ ・= ・J′r-ノ つ一蝣*-*- ---一蝣V----サ*-.・-<A'-ir-サr'=slv:-32S(・*5S^5>**>:t・一・->: ・-*'%-*'丁: .II.14 ・V,(`.!..I-・'tよ. `ー′蝣¥一・>`y*-r -tこ.: 5 ' L・`: I. 蝣r 一蝣:ォ
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写真10-b 1秒照射,強拡大像接触性赤外線凝固器 写真11- 1.5秒照射,弱拡大像 _メ / ・・、・・こ7lp Elロト-ヽ ′ 1 _ I -/ 1 ヽ i I.・ ▲ ! lヽ I 、Sry'-', I Lヽ!・ <"サN "サ 、
長音訟忘
・ I f 31 写衷ll-b 1.5秒照射,強拡大像32
藤井 信男 ほか
写真12-a 2.5秒照射,弱拡大像
接触性赤外線凝固器 lヽ 1ヽ tl. X L.耳 .・;・>蝣・ >vら上. サ.v
サ蝣:.lォa.恵畢表
*:?#- v、 ナc? 1兎二iTて 写真13-a 秒照射,弱拡大像 33 写真13-b 3秒照射,強拡大像34 藤井 信男 ほか 総括および考察 生体にある一定温度以上の熱刺激が加わると 組織は脱水,凝固,さらには炭化と一連の不可 逆反応を起こして変性,壊死へと至る16)が,こ の熟刺激を利用して病変部を破壊(治療)する cauterizationの歴史は古く,古代エジプト時 代以来今日に至るまで種々の方法が考案されて きている空.17)それらには①soldered iron法のよ うに熟した金属を直接患部に接触させる方法, ②石炭酸,硝酸銀のように化学的な焼灼作用を 利用する方法, ③electro microcauteryに代表 される電気エネルギー(ジュール熱)を利用す る方法,あるいは④レーザー光線のように赤外 線を利用する方法などがある。今回われわれが 使用した接触性赤外線凝固器( Infrared Contact Coagulator)は西独のM.B.B.社が新しく開発 したもので, 400-1600mmのスペクトルを有す る混合赤外線を発生する.レーザーの場ノ斜ま単 一スペクトルの赤外線であるという違いはある が④に属している.このI.C.C.は本来凝固止血 作用を目的に開発された器械であるが,われわ れはこれをcauterizationとして利用して粘膜 疾患の治療に使用する目的で今回の実験を行な った. 肝臓の場合,熟刺激を加えてゆくに従って被 膜の変性,グリソン鞠でのコラーゲン線経の好 塩基性変性,小葉内における中心静脈および sinusoidの乱れや拡張,あるいは肝細胞の核濃 縮などが次第に深部までみられるようになり, 2秒照射で細胞質の好酸憧変性が生じて小葉構 造の破壊,グリソン鞠の断裂などがみられ, 3 秒照射時には中央部で約3 mmの深さまで熱変性 がおよんでいた. 一方頬粘膜の場合には,熱刺激を加えると共 に上皮内の税細胞層の圧迫窟平化,基底細胞で の空胞変性がみられ,次第に上皮,間葉間の剥 離が強くなる傾向がみられた.またrete peg あるいは乳頭層も縮小し,上皮下ではコラーゲ ン線経の好塩基性変性が1.5秒照射時に1 mm 2.5秒照射時に1.5mm, 3秒照射時に2mmの深 さまで各々認められ,膨化,癒合する傾向がみ られた.これらの肝臓や頬粘膜の標本での変化 は共通して中央部が深く,周辺に行くに従って 浅くなる『おわん型』の変性を呈しており,輿 射時間の違いで深さは変化するが照射野より外 側に広がる傾向は殆どみられなかった.また接 触部位での表面の焦げや組織の癒着,離脱など も両実験を通じてみられなかった. 今回の実験では動物の生体を用いていないた めに,熱傷後に生体のとる炎症の修復機転や治 癒経過を追うことは出来なかったが,これと類 似している古橋らの実験18)によれば,開放剤や 凍結別とほヾ同じ経過をたどるものと推測され る,実際には生体では周囲組織の循環障害など による2次的なnecrobiosis19'のために更に広範 囲にわたっての変性が予想されるが,今回の実 験結果からこれらの作用を考慮に入れなくても 変性は深部にまでおよび,上皮内あるいは上皮 直下の病変を主体とする粘膜疾患にはかなり有 効な手段となり得ることが示唆された.しかし 一方では,熱傷が与えるであろう生体-の刺敦 の程度については今回の実験からは不明であっ た I.C.C.は前述の如く,他の方法では得られ ない種々の特長を有するが,これらを列記する と, ①電気メスなどの場合のように焦げや組織 の癒着を作らずにきれいな創面を形成する. ② タイマー操作により熱エネルギー量が自由にコ ントロール出来る. ③電源があればどこでも使 用可能でcryosurgeryのように液体窒素や炭酸 ガスのボンベを必要としない. ④従って維持費 が安価である.また⑤保持部が軽量で操作が簡単 である.このような特長から臨床的には(昏全身 反応が少なく,外来患者やhigh riskの患者に も応用出来ると考えられる. 将来われわれは生体下でも実験を行ない,熱 刺激の循環系への作用,あるいは創傷治癒の経 過を観察してゆく予定である. 結 論 接触性赤外線凝固器I.C.C.)を口腔粘膜疾 患の治療に応用する目的で,屠殺直後の豚の肝 臓と頼粘膜を用いて同器による照射実験を行な
接触性赤外線凝固器 いその効果範囲などについて肉眼的,組織学的 に調べた. 1)肝臓の場合,熱刺激時間の増加につれて 表面被膜,ダリソン蹄,小葉内の細胞や線経の 変怪が次第に深部にまでおよび, 3秒照射時に は中央部で約3mmの深さにまで熱変性がおよん てい」・ 2)頬粘膜の場合,熟刺激により上皮内では 轍細胞層の扇平化,基底細胞の空胞化がみられ 上皮と閉業間が剥離しがちになり,上皮下では コラーゲン線経を主体とした変性が3秒照射時 に中央部で2mmまでおよんでいた. 3)肝臓,頼粘膜共に熱変性は中央部が深く 周辺部に行くに従って浅くなる『おわん型』を 呈し,照射野より外側の周辺部に波及すること はなかった. 文 献
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Experimental study on the histological changes of the oral membrane and the liver using Infrared
Contact Coagulator (I.C.C.)
Nobuo Fujii, Nobuyoshi Kunishima*, Masahiro Yamashiro*
Department of Oral Surgery, Okinawa Chubu Hospital. 'Department of Pathology, Okinawa Chubu Hospital.
…Department of Oral Surgery, School of Medicine, University of the Ryukyus.
Key words : Infrared, Coagulator, Cauterization.
Abstract
We have examined the usefullness of I.C.C. for application to the treatment of oral membranous lesions with hver and cheek membrane of the pig. The results are as follows.
1) Liver: As the stimulation of I.C.C. elongates, degeneration due to heat develops deeper into the tissue from capsule to glisson's sheeth and cells of the lobules, and it gets about 3皿m depth in the center of the field at three second contact irradiation.
2) Cheek membrane: Within the epithelium, flattening of spinose cell layer as well as vacuolar
degeneration of basal cell layer are recognized. Degeneration and swelling of collagen fibers are also observed beneath the epithelium 2 mm depth in the center of the field at three second contact irradiation.
3) Characteristic "dish pattern" changes of degeneration due to heat are observed throughout these experiments, and there is no tendency that heat leak out from the irradiation field.