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エリクソンのアイデンティティ概念の捉え直しを議論する ――小沢論文へのコメント――

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Academic year: 2021

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(1)青年心理学研究. 意 見. 2021,32,102-106. エリクソンのアイデンティティ概念の捉え直しを議論する ――小沢論文へのコメント―― 能渡. 真澄1. A discussion of reconsideration of Erikson s concept of identity: Comments on OZAWA s article Masumi NOTO1  本稿は,小沢(2020)「自己理解のためにエリ. ことで,青年たちの自己理解への寄与という小沢. クソンのアイデンティティ概念を捉え直す――主. 論文の目的は十分に果たされたといえよう。さら. 観的視点から斉一性と連続性に焦点を当て. に,小沢論文による概念の捉え直しにより,斉一. て――」(以下,小沢論文と呼ぶ)に対する意見. 性と連続性が,空間的・時間的な自己に関する自. 論文である。. 分と他者の認識の一致であると示されたことは,.  小沢論文は,青年の自己理解に寄与するエリク. 「同一」が原義であるアイデンティティ概念(溝. ソンのアイデンティティ概念(Erikson, 1968)の. 上,2001)をより厳密に捉えることに貢献してお. 理解を目指した理論論文である。この論文は,. り,小沢論文の意義をさらに高めている。このよ. Erikson(1959)で記述された個人的アイデンティ. うに小沢論文は,様々な側面においてアイデン. ティと自我アイデンティティのそれぞれについ. ティティ概念の理解を促すことに成功しており,. て,アイデンティティに関する斉一性と連続性に. その学術的価値が高いことは間違いないといえ. 焦点を当てて捉え直し,理論的な枠組みを整理し. る。. ている。加えて,整理された理論を青年たちの自.  しかしながら,筆者はさらなる議論が必要な論. 己理解につなげるために,現象学の枠組みをもと. 点が 2 つあると考える。. にアイデンティティ概念のさらなる捉え直しを行.  第 1 の論点は,斉一性の根本に「自分が他者と. い,青年たちの主観的視点において各概念がどの. 違った自分」を据える論拠である。小沢論文は,. ように実感の中に表れているのかを論考してい. あらゆる他者に対する自分が同じであることを意. る。. 味する斉一性は,「『自分が他者と違った自分』で.  小沢論文による各概念の捉え直しによって,記. あること」が根本にあると述べている。他方,ア. 述が難解だと評されるエリクソンのアイデンティ. イデンティティに関する斉一性について取り上げ. ティ概念の内容が明解に説明されたことは,小沢. た先行研究(Pilarska, 2014; Pilarska & Sucha ska,. 論文の大きな功績であるといえる。加えて,それ. 2015; van Doeselaar, Becht, Klimstra, & Meeus,. らの説明が主観的視点によってさらに紐解かれた. 2018)では,自分が他者と違った自分であると認 識することは,斉一性とは異なる次元の概念であ.  . 1. 筑 波 大 学 大 学 院 人 間 総 合 科 学 研 究 科(Graduate School of Comprehensive Human Science, University of Tsukuba). ると示唆されている。しかし,小沢論文では,斉 一性の根本に他者とは違った自分の認識,すなわ ち自他の区別を据えることについて,その理由が.

(2) 能渡真澄:エリクソンのアイデンティティ概念の捉え直しを議論する――小沢論文へのコメント――. 十分に説明されておらず,論考と整合しない先行. 103. ( 1 )斉一性の根本に自他の区別を据える 論拠について. 研究の解釈が困難になっている問題がある。  第 2 の論点は,小沢論文が,自分への問いかけ に対する他者からの認識や承認の影響を過小評価.  小沢論文では,鑪(1990,2002)の図解と説明. して見えることである。小沢論文では,個人的ア. を元に,斉一性の捉え直しを行っている。最初に,. イデンティティや自我アイデンティティを持てな. 斉一性の感覚を「他者の特徴の中に埋没しない何. い状態と関連させて,「自分が誰かわからない」,. ものかを自分の中に持ち,またそれを経験的に確. 「私は違う」という思いを表す自分への問いかけ. 信していること(鑪,2002)」であると説明して. を,主観的視点から論考している。その中で,自. いる。加えて,「他者の特徴の中に埋没しない何. 分への問いかけにおいて,他者からの認識や承認. ものか」には,「『自分が他者と違った自分』であ. は,個人が自分自身に持つ認識や納得感を支持し. ること」が根本にあると捉え直した上で,「いか. 確認するものであり,それらを生み出したり変え. なる他者との関係においても,自分が同じ自分で. たりするものではないという説明がされている。. あること」が,斉一性そのものであると整理して. 一方,梶田(2016)は,社会的アイデンティティ. いる。. と呼ぶべきものが周囲の人たちとのコミュニケー.  その一方で,斉一性を取り上げた先行研究で. ションを通じて個人に伝えられていき,その個人. は,自他の区別と斉一性は異なる次元の概念であ. が自身に持つ「私はまさに〇〇である」という. ることを示唆するものも存在する。例えば,アイ. レッテルを形作っていくことも少なくないと述べ. デンティティ形成の構成要素に関する系統的レ. ている。また,以下の項で詳述する Kerpelman,. ビュー(van Doeselaar et al., 2018)では,アイデ. Pittman, & Lamke(1997)のように,他者のフィー. ンティティ形成の主要な構成要素として. ドバックによってアイデンティティを捉える基準. distinctiveness, coherence, continuity を挙げてい. が変容するという理論を展開した研究も存在して. る。これらの中で,distinciveness は自他の区別,. いる。これらを踏まえると,他者からの認識や承. coherence は斉一性にそれぞれ対応する概念であ. 認は個人の自分自身への認識や納得感を生み出し. る。van Doeselaar et al.(2018)は,これらの概. 変えるものではないという小沢論文の説明は,他. 念が主要な構成要素として取り上げられた理由と. 者による影響を過小評価していると考えられる。. し て,Erikson(1968) の 記 述 を 挙 げ て い る。.  以上より,小沢論文に対して本稿で取り上げる. distinctiveness は, the final identity, then, as. 論点は,( 1 )斉一性の根本に自他の区別を据え. fixed at the end of adolescence, is superordinated. る論拠と,( 2 )自分への問いかけに対する他者. to any single identification with individuals of the. からの影響の評価の 2 つである。これらの論点に. past: it includes all significant identifications, but it. ついて議論することで,小沢論文の論考が精緻化. also alters them in order to make a unique and. され,エリクソンのアイデンティティ概念の理解. reasonably coherent whole of them(Erikson,. のさらなる深化が期待できるだろう。. 1968, p.161). か.  なお,筆者の不勉強のために,誤解や的外れな. conscious feeling of having a personal identity is. ら,coherence は, The. 意見があることも考えられる。そのような内容に. based on two simultaneous obser vations: the. ついてはご容赦いただくとともに,拙論の誤りに. perception of the selfsameness and continuity of. ついてご教示いただければ幸いである。. one s existence in time and space and the perception of the fact that others recognize one s sameness and continuity.(Erikson, 1968, p. 50). から,それぞれ取り上げられた概念である。この.

(3) 104. 青年心理学研究 第32巻 第 2 号. ように,distinctiveness と coherence のもとになっ. と,それに対する他者からの認識が両立していな. た Erikson の記述は異なっていることに加えて,. い状態から生じると述べている。また,「私は違. distinctiveness に関する Erikson の記述では,青. う」という,自分に対する納得感が欠如している. 年期の終わりに定まる最終的なアイデンティティ. 自分への問いかけは,自分自身への納得感と他者. が持つ特徴として,他者と違う自分が見いだされ. からの承認が両立していない状態から生じると述. ることが取り上げられている。これらのことか. べている。. ら,自他の区別は,斉一性を支える根本にあると.  さらに小沢論文は,それらが両立しない状態を. いうよりも,斉一性と連続性からアイデンティ. 「自分の認識や納得感」と「他者からの認識や承. ティが見出された際に認識される特徴であると考. 認」の一方がない場合について論考している。そ. えられる。. の論考では,自分自身への認識や納得感が得られ.  また,アイデンティティ構造の次元を取り上げ. ていないことがアイデンティティを持てない根本. た Multidimensional Questionnaire of Identity. 的な問題であり,他者からの認識や承認は自分が. (Pilarska, 2014) は, 自 他 の 区 別 に 対 応 す る. 持つ認識や納得感を支持し確認するものだと結論. specificity と斉一性に対応する coherence を下位. 付けている。. 尺度に含んでおり,これらの関連を見た研究が行.  他方,他者がアイデンティティ形成に影響を及. われている。しかし,研究で示された specifity. ぼすプロセスを取り上げたアイデンティティ・コ. と coherence の関連はほぼ無相関か弱い正の相関. ントロール理論(Kerpelman et al., 1997)は,小. しか認められていない(Pilarska, 2014; Pilarska &. 沢論文の結論と異なる予測を展開している。この. Sucha ska, 2015) 。つまり,自他の区別をしてい. 理論は,他者からのフィードバックが,個人の行. ない人でも斉一性を認識している人もいくらかい. 動やアイデンティティに関する自己定義の維持・. ると解釈することができ,自他の区別と斉一性が. 変 更 に つ な が る こ と を 説 明 す る も の で あ る。. 異なる概念であることが示唆されている。. Kerpelman et al.(1997)によれば,個人のある.  このように,自他の区別と斉一性は別次元の概. 行動に対して他者からのフィードバックが生起. 念であることを示唆する研究も存在している。自. し,個人がそのフィードバックを知覚した際,個. 他の区別がアイデンティティ概念に重要であるこ. 人の自己定義を意味するアイデンティティ基準に. とは筆者も理解するところであるが,それが斉一. 従った比較が実行される。仮に,アイデンティ. 性の根本に据えられることについては理解ができ. ティ基準に対して他者からのフィードバックが. ていない。斉一性の根本に自他の区別が据えられ. 合っていたならば,何も変化は生じない。しかし,. る論拠について,さらに詳細な解説を願いたい。. フィードバックがアイデンティティ基準といくら かずれていた場合は,他者からのフィードバック. ( 2 )自分への問いかけに対する他者からの. がアイデンティティ基準に合うものになることを. 影響の評価について. 目指して,個人の行動の修正が図られる。そして, フィードバックがアイデンティティ基準と著しく.  小沢論文は,「自分が誰かわからない」や「私. ずれていた場合は,アイデンティティ基準そのも. は違う」といったアイデンティティ危機を意味す. のの変更を図るのである。このように,他者から. る自分への問いかけを,自分自身への認識や納得. の認識や承認といったフィードバックがアイデン. 感と,他者からの認識と承認が両立することと関. ティティ基準の修正を迫ることで,個人の中で自. 連させて論考している。すなわち,「自分が誰な. 己定義が変化していき,最終的に自分自身への認. のかわからない」という自分に対する認識が欠如. 識や納得感が得られる可能性が考えられる。. している自分への問いかけは,自分自身への認識.   加 え て,Kerpelman et al.(1997) は, 他 者 か.

(4) 能渡真澄:エリクソンのアイデンティティ概念の捉え直しを議論する――小沢論文へのコメント――. 105. らのフィードバックが個人の行動やアイデンティ. て,アイデンティティに関する自己定義を支える. ティ基準に影響する程度は,アイデンティティ地. 価値基盤が不明瞭になっていると同時に,一貫性. 位によって異なると述べている。特に,モラトリ. のある自己を維持することが困難な状況にある。. アム地位にある個人は,アイデンティティ基準が. そのため人々は,万人に共有されるような絶対的. 一時的なもので柔軟性があるため,他者からの. な価値基盤を見いだせず,様々な対人関係の中で. フィードバックによって容易にアイデンティティ. 多様な自己を持たざるを得ない中で,何かしらの. 基準を変更させると説明している。これに関連し. 価値観に基づいた自己定義とアイデンティティ形. て Berzonsky & Neimeyer(1994)は,コミット. 成を求められているのである。. メントの大きさによって,外部からのアイデン.  この議論が活発になる中で,心理学のアイデン. ティティ情報取得が制限されると述べている。こ. ティティ研究の基盤であるエリクソンのアイデン. れらの言及から,アイデンティティの基盤となる. ティティ理論を様々な視点から捉え直して議論す. 自己定義を模索している人やコミットメントを獲. ることは,人々が持つアイデンティティの特徴や. 得していない人では,他者からの認識や承認が個. 発達を理解する上で,ますます重要になるであろ. 人の自己定義を生み出し,それがアイデンティ. う。特にその理論的説明において,他者や社会に. ティ基準として積極的に採用されると考えられ. 関する概念をどのように捉えているかを示すこと. る。. は,その説明を行う研究者の視座の明確化につな.  以上のように,自分のことがよくわからなかっ. がり,ポストモダニズムの議論も踏まえた理論の. たり納得できない状態であっても,他者からの認. 精緻化に役立つと筆者は考えている。そのため,. 識や承認などのフィードバックによってアイデン. 自他の区別はどのように理解される概念なのか,. ティティの基準が変容し,それらが解決に向かう. 他者が個人のアイデンティティに対して持つ意味. という理論的予測も可能である。個人の自己認識. をどのように捉えているのか,小沢氏の考えを伺. や納得感がない状態だと他者からの認識や承認が. いたいのである。. 影響しないという予測について,再度ご説明いた. 引用文献. だきたい次第である。. おわりに. Berzonsky, M. D., & Neimeyer, G. J. (1994). Ego identity status and identity processing orienta-.  本稿では,小沢論文においてさらなる議論が必 要と考えられる 2 つの論点について,関連した先 行研究を紹介して筆者の意見を述べた。. tion: The moderating role of commitment. Journal of Research in Personality, 28, 425-435. Erikson, E. H. (1959). Identity and the Life Cycle..  本稿の論点は,自他の区別やアイデンティティ. Psychological Issues. Vol.1. No.1. Monograph1.. 形成における他者からの影響など,アイデンティ. New York: International Universities Press.. ティにおいて他者が関連する部分に焦点をあてて いる。その理由は,小沢論文でも指摘されている ポストモダニズムに端を発する議論において,他. Erikson, E. H. (1968). Identity: Youth and Crisis. New York: W.W. Norton & Company. 梶田叡一(2016).現代社会におけるアイデンティ. 者や社会が個人に対して持つ意味の変容が重要な. ティ マルチな在り方と新たな統合の道と . 問題とされているからである。溝上(2008)は,. 梶田叡一・中間玲子・佐藤 德(編)現代社. ポストモダン社会に特有のアイデンティティの特. 会の中の自己・アイデンティティ(pp.172-. 徴は,その形成プロセスに現れると述べている。. 186)金子書房. 簡潔にまとめると,現代社会は様々な要因によっ. Kerpelman, J. L., Pittman, J. F., & Lamke, L. K..

(5) 106. 青年心理学研究 第32巻 第 2 号. (1997). Toward a microprocess perspective on. tween identity structure and subjective well-. adolescent identity development: An identity. being. Current Psychology, 33, 130-154.. control theory approach. Journal of Adolescent Research, 12, 325-346.. Pilarska, A., & Sucha ska, A. (2015). The identity processes and the sense of identity: Interrela-. 溝上慎一(2001).アイデンティティ概念に必要. tions and significancde to the capacity for. な同定確認(identify)の主体的行為――実. closeness. Studia Psychologiczne, 53, 87-100.,. 証的アイデンティティ研究の再検討―― 梶. 34, 723-743.. 田叡一(編)自己意識研究の現在(pp.1-28) ナカニシヤ出版 溝上慎一(2008).自己形成の心理学――他者の 森をかけ抜けて自己になる―― 世界思想社. 鑪幹 八郎(1990). アイデ ンテ ィティの 心 理学  講談社現代新書 鑪幹八郎(2002).アイデンティティとライフサ イクル論 ナカニシヤ出版. 小沢一仁(2020).自己理解のためにエリクソン. van Doeselaar, L., Becht, A. I., Klimstra, T. A., &. のアイデンティティ概念を捉え直す ――主. Meeus, W. H. J. (2018). A review and integra-. 観的視点から斉一性と連続性に焦点を当て. tion of three key components of identity devel-. て―― 青年心理学研究,31,91-108.. opment. European Psychologist, 23, 278-288.. Pilarska, A. (2014). Self-construal as a mediator be-. (2020年 8 月21日受稿,2020年 9 月22日受理).

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参照

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