1 はじめに
「総合的な学習」 は, 1999 年 3 月に告示された学習指 導要領で, 小学校 3 年生以上に創設された教科である. 指導要領には以下のような目標が掲げられている. 「横 断的・総合的な学習や探求的な学習を通して, 自ら課題 を見付け, 自ら学び, 自ら考え, 主体的に判断し, より よく問題を解決する資質や能力を育成するとともに, 学 び方やものの考え方を身に付け, 問題の解決や探究活動 に主体的, 創造的, 協同的に取り組む態度を育て, 自己 の生き方を考えることができるようにする.」1) そして, 「学校の実態に応じて, 例えば, 国際理解, 情報, 環境,総合的な学習 「ボールから世界を見る」 に関する考察
澤
田
好
江
日本福祉大学 子ども発達学部A Study on Comprehensive Learning 「Look into the World from Balls」
Yoshie SAWADA
Faculty of Child Development, Nihon Fukushi University
Keywords:国際理解, 探求的・主体的・協働的な学び, 南北問題, 児童労働, 地球市民教育・共生 要旨 本稿は, 2007 年度の小学校 6 年生を対象にした, ボールに着目させた総合的な学習の一実践である. 筆者は当時, 小学校 教員であった. 担任していた学級には 4 人の外国人の子どもが在籍し, 彼ら彼女らは 「いじめ」 や排除の対象となっていた. また, 野球, サッカー, バレーボール, バスケットボール等のスポーツに親しむ子どもが多く, 子ども達は, 身近なボール から課題を見つけ, その課題を追究する中で, ボール製造国に視点を移させながら, ボール製造国が実は学校に行けない子 ども達の多い国, 紛争や戦争に巻きこまれたり, 貧困な国であったりする事実に気付いていく. 子ども達は自分の決めた 「マイカントリー」 (発展途上国) を調べる中で, スポーツ用品店の方, ボール製造社や新聞社へ質問状を送り, 係りの方か ら返答をもらう活動, 国際センターへの聞き取り調査, 外国人留学生や海外ボランティアの経験のある保護者, セーブチル ドレンの会の方の講演会等, 様々な活動を通じて, それらの方と繋がりながら, この探究活動を行っていった. そして, 発 展途上国の子ども達の置かれた状況=貧困, 格差, 紛争, 児童労働, 非識字率の高さ, 生活困難等を調べていきながら, 世 界でどのような取り組みが行われ, 日本に住む自分達は果たして 「幸せ」 と言えるのか, 真剣に討論し, 考えていった実践 である. 結果として, 本実践は, 2008 年度版学習指導要領, 並びに 2020 年度版新指導要領の目標にも合致し, なおかつ地 球市民教育という観点からも意義ある学びであったこと. また, 学級内の子ども達に, 外国人の子どもへの 「いじめ」 や排 除を乗り越えさせ, 「共生」, 「理解」 を学級内に培っていきたいという, 教師の総合的な学習に期待する願いも達成できた こと. この 2 点を結論付けようとするものである.
実践報告
福祉, 健康などの現代的な諸課題に対応する横断的・総 合的な課題, 地域の人々の暮らし, 伝統と文化など地域 や学校の特色に応じた課題, 児童の興味・関心に基づく 課題などを踏まえて設定すること」2) とある. この文言 を読む限り, 今までの 「教え込み」 中心, 暗記中心の学 習指導形態に一石を投じた学び方を, この 「総合的な学 習」 に期待したと言ってもよかろう. しかし, 2020 年 度版学習指導要領では一変して, 探究活動に重きが置か れ, 目標として, 育成する資質・能力が, 他の教科同様 「知識・技能」 「思考力・判断力・表現力」 「学びに向か う力」 の 3 つに限定されている. そして, 「知識・技能」 では, 他教科との知識・技能とが 「相互に関連付けられ, 社会の中で生きて働くものとして形成されること」, 「思 考力・判断力・表現力」 では, 「未知の状況において活 用できるものとして身に付けられるようにすること」, 「学びに向かう力」 では, 「自分自身に関すること及び他 者や社会との関わりに関することの両方の視点を踏まえ ること」3) と述べられている. そして, この 「総合的な 学習」 で育成された具体的な資質・能力は教科等を超え た全ての学習の基礎となり, 活用されることが期待され ている. ここには, OECDのキーコンピテンシーある いは 21 世紀型スキルと言われる学力観に共通するねら いが盛り込まれている. これらの学力観は, グローバル 経済社会において, いかに企業に役立つ人材育成に資す る学力を保障するのかに力点が置かれ, 21 世紀に求め られる人材として, 教科横断的な学びで身に付けた, 社 会で活躍できる力を子ども達につけさせたいというねら いが, はっきり打ち出されている. 本来は 「総合的な学習」 で, 生きている子どもの生活 現実から, 子どもの興味・関心, 疑問, 解決したい課題 等を前面に出させ, 子ども達自らが主体的に学びに向か い, 課題解決に乗り出す力を引き出すことが有効な学び である. また, 「総合的な学習」 に限らず, 他教科を含 め, およそ 「学び」 とは子ども達の生活現実から子ども 達に必要とされ, 要求とされる内実を含んだものを子ど も達自らが探求し, それがまた生活に還元され, 人間社 会の英知として受け継がれていくものではないか. それ は, 人として, この人間社会, リアル社会から要請され る, 自己実現のための 「学び」 でありたい. 本実践は, 筆者が小学校教員時代, 2007 年度に小学 校 6 年生を担任した際に実践した総合的な学習 「ボール から世界を見る」 である. 尚, 以後この実践を 「本実践」 と称して述べることとする. また, 本実践は 「国際理解」 を念頭に手がけたものである. 担任した学級には 4 人の 外国籍の子どもがいた. 彼ら, 彼女らは日本語もたどた どしく, 日本文化や慣習との違いから, 回りの子ども達 とのもめごとが絶えなかった. サッカーで遊んでも, ブ ラジル人の男児はひとりでボールを占有し, 回りの子ど も達から反感を買い, いじめの対象となった. また, 別 のブラジル人の女児は 「自分の意見や考えに固執する. 頑固だ」 という理由で排除の対象となった. 他の 2 人の 外国人も学力低下や, 日本の学校, 学級になかなかなじ めず, 排除の対象になりやすかった. そして, 4 人とも それぞれ仲がよいというわけでもなかった. これらの外 国人の子ども達を理解し, さらにもっと広く世界の国の 人々の生活を理解しよう, とりわけ, 脚光を浴びたり, 注目されたりしている外国観光地や先進諸国よりも, 困 難や課題を多く抱えている国, 発展途上国に目を向けさ せたいというのが, 教師 (筆者) の願いであった. また, スポーツクラブ等でボール競技に親しむ子どもが多かっ たことから, 「ボール」 の学びから世界の発展途上国の 子どもの実態を追及する学びへと広げさせることを構想 した実践である.
2 実践の概要
(1) 目標と培いたい能力 ○ 私たちの生活が世界とつながっていることを理解す るために, 「物=ボール」 を通して課題を設定し, 課 題を追究しようとする. (身の回りに対する関心) ○ マスメディアや書物, 人などから課題に合う情報を 収集し, 取捨選択し, その情報を学習に生かすことが できる. (情報の収集, 取捨選択, 資料活用能力) ○ 情報から課題を設定し, その課題を解決しようとす る. (課題設定, 課題解決能力) ○ 友だちとの交流や話し合いを通して, 自分の考えが 伝わるように工夫したり, 他人の意見を受け止めたり して, 情報を共有することができる. (コミュニケー ション能力) (2) 子どもの実態 本学級は, まじめに学習を重ねる子どもが多く, もの ごとに熱心に取り組むが, 皆で協力して 1 つのことを成 し遂げるには, まだまだひとりひとりの力を出し切れて いるとは言い難い. また, 外国人の子どもが多く (4 人),文字通り, 国際交流を普段から行っている状態であるが, 彼ら彼女らへの理解や, 日本の生活様式に馴染みにくい 面への子どもどうしの配慮, 友達関係づくりはまだまだ 不十分で, いじめや外国人排除の問題が学級内に生じて いた. 本校では 3 年生で 「福祉」, 4 年生で 「環境」, 5 年生で 「情報」 についての総合的な学習を積み上げてお り, それぞれ, 体験活動は豊富に行ってきた. また, 普 段から異年齢集団の 「なかよし班」 を中心に清掃活動, おはようなかよしタイムといった異年齢でのふれあい, 遊び, 運動会でのなかよし班競技, 観覧, 応援, なかよ し班での交流遠足等々を手がけてきており, 6 年生はそ のリーダー的役割を担っていた. 本校では, 今年度は特 に 「心のふれあいを大切にした交流活動・体験活動」 を テーマに, 「絆づくり」 「心のふれあい」 を体感できる活 動をめざしており, その中心的役割として 6 年生が活躍 し始めていた. 本学級でのグループ活動では, 活動経験 を多く取り入れているが, ともするとグループ内の発言 や活動が決まった子どもに偏ったり, グループ内でまだ, 自由に自分を表現できなかったりする子どもがいた. 言 われたことには真面目に取り組むが, 学習能力の格差が 大きく, 保護者の我が子への期待が高く, 学力競争が子 ども達の人間関係に影響していることは一目瞭然であっ た. 殺伐とした気配を筆者は感じていた. (3) 教師の願い 6 年生の総合的な学習のテーマは 「大きく世界に目を むけよう」 である. 指導要領には 「国際理解」 「国際的 視野」 「国際人」 が, 強調され, グローバルに世界を見 る目を養うことの大切さが説かれている. ここでは, グ ローバル教育=地球市民教育と捉え, 「地球市民意識を 育てる教育学習活動」 として, 今まで脚光を浴びていた 先進国から, 途上国にいたるまで, また, 「外国の理解」 から 「足元の国際問題」 へ, 「理解」 から 「共生」 へと シフトすることが大切であると考える. そこで, 子ども たちには 「国際人として, 共に生きることのできる社会 づくりに参加しようとする」 ことをねらって, 「様々な 他国の人々や文化の多様性の理解」 「貧困や格差の理解」 「地球的課題 (南北問題・子ども達のおかれた人権侵害 や権利の蹂躙等) の理解」 「それらの地球的課題と当事 者意識」 「地球的課題の解決への参加意識」 という 5 つ の視点をもって, この国際理解教育, 地球市民教育を手 がけたい. 本単元はグループ活動の形態をとり, 話し合いや課題 解決への討論を含むその共同学習, 共同作業を子どもど うしが実現できるものとして, 位置づけたい. また, 外 国人の子どもを含め, マイノリテイーもマジョリティー も互いに理解を深め合い, 彼ら彼女らの居場所が学級に あり, 学級の構成員の間に共生しようとする意識を養わ せたい. グループ内の発言や活動の偏り, 自己表現でき ない児童については, 要点を書かせてから発言させたり, 発言の少ない児童から指名するなどの手立てをとったり して, 配慮しあう関係性を養いたい. (4) 実践経過 33 時間完了 第 1 ステージ ボールで思いっきり遊ぼう (体育 5 時 間) 4 月 第 2 ステージ 好きなボールから課題を見つけよう (総合的な学習 1 時間) 4 月 第 3 ステージ 課題を実際に調べよう (総合 3 時間+ スポーツ用品店への聞き取り 3 時間) スポーツメーカーへの問い合わせ 5 月 第 4 ステージ ボール製造国とはどういう国だろう マイカントリーを決めよう (総合 2 時 間) 5 月 第 5 ステージ 学年共同ワークショップ 「世界がも し 100 人の村だったら」 (総合 2 時間) 「セーブアフガンチルドレンの会」 稲 葉先生の講演会 (総合 2 時間) NHK放送番組視聴 「世界がもし 100 人のむらだったら」 (総合 2 時間) 5 月 第 6 ステージ マイカントリー 「発展途上国」 の子ど も達の生活を調べ, 発表しよう (総合 9 時間) 新聞社への資料提供問い合わせ 外国 人留学生への問い合わせ 海外ボラン ティアを経験されたお母さんの話を聞 く 国際センターへ調査に行く 6 月 第 7 ステージ 発展途上国の子どもたちの願いは何か 私達にできることは何か話し合おう (総合 1 時間) 6 月
3 実践内容
(1) 本学級は, 地域少年野球や, サッカー, バスケットボー ルの部活, 地域ソフトボール部, バレエ, ダンスクラブ などに所属する子どもが多く, 日常からスポーツに親し む経験が多い. 4 月当初から, サッカー, ドッジボール, バスケットボール, ラケットベース, ソフトバレーボー ルで思いっきり遊ばせ, ボールに着目させようとした. (2) ボールから何を調べたいか, 子ども達から課題を見つ けさせた. 出された課題は, 下記のことがらであった. ○ボールの原材料 ○作り方 ○作るのにかかる時間 と必要人数 ○ボールはいつ生まれたか ○誰が発明 したか ○なぜ, この形, 重さ, 大きさ, 模様なの か ○性質 ○製造地 ○輸入方法 ○名前の由来 ○問題点 ○そのボールの他の使い道 〇ボールの元 の値段 (原価) 〇ボールの値段 (定価) 調べる方法は以下のような意見が出された. 〇インターネット ○工場見学 ○本や雑誌から ○メーカーに問い合わせる ○新聞の切り抜き 〇ス ポーツ用品店に聞きに行く ○その他のマスメディア (3) 子ども達が見つけた課題をもとに, 自分の好きなボー ルを選ばせ, 下のような表をボール別グループで完成さ せた. 資料は, インターネット, 「モノづくり解体新書」, スポーツ用品店への聞き取り調査, スポーツ用品メーカー からの質問依頼文へのファックスによる返答である. そ の中で, 注目されるのは, スポーツ用品店での聞き取り 調査で, 日本に輸入されているバレーボール, バスケッ トボール, サッカーボール, ドッジボールのほとんどが 「モルテン」 という会社が輸入し, サッカーボールにい たっては有名メーカー 「アディダス」 の名前を買って, モルテン製 「アディダス」 として販売していること. ま た, モルテンはタイを拠点としてタイ・モルテン工場で 主に製造し, これは, ボールの中に入れるチューブの入 手のために, どうしても, 生ゴムの生産地である東南ア ジアに工場が集中することと, 東南アジア, 中国の方が 人件費が安いというメリットがあるからだということが 分かったことである. これは, 子ども達に, サッカーボー ル, バスケットボール, バレーボール, 野球の硬球, テ ニスボール, ゴルフボールの輪切りにしたものをあらか じめ, 展示していたことも, ボールの中のチューブ (ゴ ム製) が必要であることと, 東南アジアに製造国が集中 することを結びつけるよい教材となった. この, 輪切り ボールでは, 野球の硬球に人気が集まり, 隣のクラスか らも見学者が絶えなかった. 地域で少年野球が盛んであ るが故である. また, 中国, 東南アジアの現地労働者の 人件費が安いということは, 後の, 中国やタイの人々の 貧困な実態や貧富の格差の大きいこと等を調べる上での きっかけともなった. また, インターネットでサッカーボールを調べ始めた 子どもが, 初めて 「児童労働」 の実態を知り, そのショッ キングな事実からどんどん研究にのめり込み, 後に皆の 前で 7 枚の論文を発表し, 子ども達の学習の中に新たに 「児童労働」 を意識づける役割を果たしてくれた. 第 8 ステージ 世界で行われている支援活動を知り, 国際人としての生き方を話し合おう (総合 2 時間) 子どもの調べた 「子どもの権利条約」 と 「ミレニアムゴール」 の発表を聞く 6 月 第 9 ステージ 外国旅行をしている人が言いました 「日本の子どもたちがいちばんかわい そう」 はなぜ? 話し合いをする (総合 1 時間) 6 月 第1ステージ ボールで思いっきり遊ぼう (体育 5 時間) 4 月 第2ステージ 好きなボールから課題を見つけよう (総合 1 時間) 4 月 第3ステージ 実際に調べよう (総合 3 時間+下 校後スポーツ用品店への聞き取り 1 時間+国語 2 時間) 5 月 ボール名 原 材 料 作 り 方 作るのに必要な時間と人数 作っている国 重 さ なぜ, この形, 大きさ, 模様? 性 質 いつ, どこで, ボールが生まれたか だれが発明したか ボール名の由来 その他, (問題点など)さらに, 特筆すべきことは, 各スポーツメーカーへの 質問依頼文の作製と, それに対する各メーカーからの丁 寧な返答である. どのメーカーもボールの原価について は企業秘密としながら, バレーボールは日本の販売価格 の約 50%で工場出荷, 中国製野球ボールは現地の労働 者の年間給料が約 3 万元から 5 万元 (日本円で 36 万円 から 60 万円) で安い人になると, 年間 12 万円以下とい う労働者もいるそうなので, おそらく, 日本の販売価格 の 10 分の 1 程度の原価ではないかと推測される. また, M社から送られてきた 「給与調査から見る中国進出日系 企業」 という報告文書からは, 中国の労働者の厳しい成 果主義, 能力給の実態がうかがわれる. 物価が日本とは 違うとはいえ, 人件費の安さから, 日本の企業が海外, 特にアジアを中心に進出していく実態と理由が, 各メー カーからの返答により, より一層明らかになった. この, メーカーからの返答は, 後のフェアトレードを学ぶ際に 大変役に立った. (4) 子ども達が作製したボールについての課題調べの表か ら, 日本で使用されているボールの大半が外国製である ことが分かった. そこで, 子ども達にボール製造国とは いったいどういう国であるか, そして, そこからさらに 調べたい国, 「マイカントリー」 を決めさせ, 発表させ る取り組みへと発展させた. まず, メーカーやスポーツ用品店, インターネット等 で調べたそれぞれのボール製造国を世界地図で調べさせ, 白地図に色をぬらせた. 尚, 今回扱ったボールは, バス ケットボール, バレーボール, 野球ボール (硬球), テ ニスボール (硬式) ゴルフボール, サッカーボール, 新 体操用ボールの 7 種類である. 子ども達が作製したボール製造国の世界地図と, 教師 の方であらかじめ作製しておいた 「未就学児の多い国」 を示した世界地図を比較させると, ものの見事に一致し 第4ステージ ボール製造国とはどういう国だろう マイカントリーを決めよう (総合 2 時間) 5 月 資料 2 ボールメーカーからの返答 資料 1 ボールメーカーへの質問依頼文
た. これはなぜだろうかとの問いかけに, 子ども達は, 「貧しい国だから.」 「教育が遅れている.」 と, 答えた. さらに教師の方で 「ストリートチルドレン, 貧困, 飢餓, 紛争, 戦争」 で困難を抱えている国を示す世界地図を示 すと, これも, ボール製造国とほぼ重なることが分かっ た. これらの国を総じて 「発展途上国」 と言うこと, そ してこれらの発展途上国の子ども達はどんな生活をして いるのか, 「マイカントリー」 を決めて調べたことを発 表していこうということになった. ただ, そのマイカン トリーはボール製造国に限らず, 発展途上国という意味 で広げさせた. ボール製造国に限ると, どうしてもアジ アに集中してしまうからである. (5) ワークショップ 「世界がもし 100 人の村だったら」 は, 開発教育協会から出されている教材で, 一人ひとりに異 なるカードを持たせ, 世界の 「人口, 性別, 年齢, 大陸, 言語, 識字, 格差」 の 7 テーマのアクティビティーから 成り立っている. 「世界の貧富の格差を構造的にとらえ ること」 と 「多様性の尊重」 を世界を 100 人村に見立て て分かりやすく教材化している. 「セーブアフガンチルドレンの会」 は, 今現在も, 名 古屋市でアフガニスタン出身のサーべ代表を中心にアフ ガンの子どもたちの支援活動を行っているNPO法人で ある. 当日は, 体調の悪いサーべ女史に代わって稲葉先 生 (元公立高校校長・現在大学講師) をお呼びし, ビデ オと講演で, アフガニスタンの子ども達の生活と, 支援 子ども達の調べたボール製造国 バスケットボール タイ・中国 バレーボール タイ・中国・インド・韓国・インドネ シア・ベトナム・パキスタンモロッコ・ ドイツ・ドミニカ テニスボール タイ・中国・インド・インドネシア・ アメリカ・台湾・日本 野球ボール 中国 新体操用ボール 中国 サッカーボール パキスタン・バングラディッシュ・イ ンド・タイ・中国・ベトナム ゴルフボール インド・インドネシア・マレーシア・タ イ・オーストラリア中国・韓国・台湾 第 5 ステージ 学年共同ワークショップ 「世界が もし 100 人の村だったら」 (総合 2 時間) 「セーブアフガンチルドレンの会」 稲葉先生の講演会 (総合 2 時間) NHK放送番組 「世界がもし 100 人の村だったら」 ビデオ視聴 (総 合 2 時間) 5 月 資料 3 子どもの調べた 「ボール製造国」 資料 4 子どもと調べた 「学校へ行かない子どものいる国」 資料 5 子どもと調べた 「児童労働をしている国」 資料 6 子どもと調べた 「貧困・飢餓・ストリートチルドレン・ 紛争・戦争にみまわれている国」
活動について講話を聞いた. また, HHK放送番組 「世界がもし 100 人の村だった ら」 は, ロシアのストリートチルドレン, ガーナのカカ オ農園で働く子ども達の児童労働, 14 歳で 2 児の母親 になった子どもらの生の映像が映し出され, その衝撃は 強かった. (6) 子どもの感想 (7) 子ども達が選んだ 「マイカントリー」 は以下のように なり, それぞれがグループ共同研究として資料を作成し, 発表し合った. その時に, 国の概要や, 気候, 首都, 言 葉などと同時に必ず, そこで暮らす子ども達の生活状況 を調べ, 発表させることを確認した. これらの国は, 児童労働あり, 貧困, 飢餓, 紛争, ス トリートチルドレンなど, およそ, 日本では考えられな い状態の国の子ども達が多く, 学級の子ども達はその数 の多さと, 生活状況に圧倒され, 熱心に調べ, 発表した. ・・・今, 私たちはボールから世界へ入っていって, 私は中国のことを調べています. 中国ってなんか, よ く聞く国だし, いい感じの国って思ってて, 児童労働 なんてないと思っていました. だけど, 児童労働をし ている子がいてびっくりしました. この前やった 「世界がもし 100 人の村だったら」 ゲー ムは楽しかったし, 勉強になりました. ビデオで見た, ガーナのカカオ農園で働く兄弟は, 自分たちの採る実 がチョコレートになることを知らないし, 食べたこと もない. この国では子どもが働くのは当たり前なんだっ て・・・. ひどい. 少しでも手を抜くとスクワット 40 分の罰が待っている. なんで, そんなにがんばれ るのか. かせいだお金は親に渡したり, 自分たちが食 べていくためのお金だって. インクの残り少ないボー ルペンが宝物なんだって. 今, 私たちにできることは何だろう. 募金でもいい, ご飯を残さず食べることでもいい. とにかく, お金が なく, 貧困な国があり, 貧困な人がいるってことを覚 えておかなくちゃ. これからも, もっともっと世界の ことを知らなきゃいけないと思いました. 第6ステージ マイカントリー 「発展途上国」 の子 ども達の生活を調べ, 発表しよう (総合 9 時間) 6 月 インド 2 人 メキシコ 1 人 パキスタン 1 人 ネパール 3 人 アフガニスタン 2 人 ペルー 1 人 エジプト 3 人 グアテマラ 3 人 ケニア 3 人 ルワンダ 1 人 タイ 3 人 中国 3 人 ブラジル 3 人 資料 7 子どもの調べたマイカントリー 発展途上国の様子 (概略)
また, 6 月に, 担任している子どもの保護者で, かつ て海外支援ボランティアの経験のあるお母さんからの話 を聞く機会も得た. 詳細な世界の子どもの状況をデーター 化した資料で説明してくださった. 若干, 補充として, 以下の数値を子どもに示した. 子ども達は様々な方法で 「マイカントリー」 調べを行っ た. 学校図書館では十分な資料が整わないので, 土曜日 に校外学習として 「国際センター」 へ総勢 20 名で調べ に行った. また, 新聞社へ資料提供をお願いし, 快く応 じていただいた. M新聞社からはかつての貴重な, ケニ アの飢餓状態を報じた新聞記事を送っていただき, 子ど もは大変感動していた. また, 中国の子どもや人々の様 子を, 筆者の知り合いの中国人留学生あてに質問として メールを送り, 回答を得て, 参考にした子どももいた. サッカーボールを調べていた子どもが, サッカーボー ルの多くがインドやパキスタンなどの国の児童労働によっ て製造されている実態に突き当たった. 彼は, パキスタ ンの子どもの状況を調べるうちに, フェアトレードやイ クバル君襲撃事件, セーブチルドレンの会等について調 べた結果, 以下のような発表を行った. (8) 子どもの発表 資料 8 海外ボランティアに行かれた保護者からの 世界の子どものデーター 世界で 17 歳以下の児童労働 者数 2 億 5000 万人 (2007 年当時 2012 年は 1 億 6795 万人) 学校に通えない子ども 1 億 2000 万人 (2007 年当時 2012 年は 6700 万人) 防げる病気で亡くな る 5 歳以下の子ども 1 日 3 万 人 (2007 年 当 時 2012 年は 1 日 1.8 万人) 日本の人口 1 億 2700 万人 (2007 年当時 2015 年は, 1 億 26744 人) 赤ちゃんの衛生セット 1000 円で 15 セット用意できる 3000 円で 5 人の子どもが 1 年間学校へ通える 「パキスタンの児童労働」 (原文のまま) ぼくは, パキスタンの児童労働について調べました. なぜかというと, サッカーボールの生産地を調べてい たら, 今, 使っているサッカーボールのほとんどがパ キスタンの子どもによる児童労働によって, 作られて いたので, パキスタンの児童労労働をもっとよく調べ たいと思ったからです. まず, 児童労働とは何か, 説明しましょう. (表を 見せて) ○ 心や体を傷つける仕事 ○ 大人に強制されて, 危険な仕事をする. ○ 学校に行けなかったり, 技術を身につける機会を うばわれたりする仕事 のことを言います. 日本では労働基準法で禁止されているが, 第 2 次世 界大戦の敗戦まで, 貧しい家庭では当たり前のように 行われていた. そのため, 1947 年制定の児童福祉法 でも, 児童労働禁止法が具体的に規定された. しかし, 発展途上国では, 今も多くの子どもたちが, 安い給料 で働かされている. では, どれだけの子どもがどんな児童労働をしてい るのか調べてみました. (表を見せて) ① 強制労働, 借金返済のため 570 万人 ② 売春やポルノ 180 万人 ③ 人身売買 120 万人 ④ 紛争に動員 30 万人 では, どうして児童労働が起こったのか, それを調 べました. それは, 1998 年にインドに対抗して, 核 実験を実施したパキスタン政府は, 主要国や国際通貨 基金からの経済資金からの経済制裁を受け, 国の経済 はひっ迫していた. そして, 1999 年, 10 月, パキス タンのシャリフ首相はムシャラフ軍事政権のクーデター 資料 9 中国の留学生からの手紙
(9) 今までのマイカントリー発表を通して, 世界の発展途 上国の子どもの実態を学んできた. 彼らの願いは何か, そして私たちに何ができるか討論を行った. 彼らの願い ○ 勉強がしたい ○ 普通の生活がしたい (安心して暮らせること) ○ 家族といっしょに生活したい 私たちにできること ○ ユニセフ募金 ○ ユニセフ以外の支援団体への募金 ○ ボランティア ○ 政府を動かす ○ 子どもの権利を守るよう訴える ○ もっとこういう国の子ども達のためにお金を使うよ うお願いする ○ 軍事費を減らさせる を受け, 首相の座を降ろされてパキスタンは軍事政権 となった. パキスタンのGNPは低い. にもかかわらず, パキ スタンの政府の国家予算内訳割合によると, なんと軍 事費に 31%を使い, 健康や教育関係の会計はたった の 3 %である. このような経済状態の中に児童労働が 生まれるのである. すなわち, パキスタンの未就学児 童は, 経済的な要因に多くが起因し, 親が子どもの労 働を期待し, その資金に頼らざるをえない経済的状況 なのである. 実は, 私たちが使っているサッカーボールの多くは, 安い労働力を頼りにインドやパキスタンなどの発展途 上国で作られている. しかも, そのサッカーボールの ほとんどは, 児童労働で作られている. その多くの子 ども達は, 親の借金のかたに働いている子どもである. 子ども達はサッカーボールを縫うことによって, 6 セ ントかせいでいる. そして, 親の借金のかたに働いて いる子どもは, 親が借りた負債を払い終わるまで, し ばられるのである. それは, カーペット工場, カーテ ン工場, れんが工場も同じである. 安い児童労働が続 く限り, 成人の労働資金も低いままになっている. つ まり, パキスタンのような発展途上国における児童労 働は今やなくすことのできない制度となっているので ある. では, その児童労働を解決するために, 誰がどのよ うに動いているのだろう. まず, フェアトレードサッ カーボールASPIRO (アスピロ) というプロジェ クトがあります. このプロジェクトは, 児童労働によっ て作られたサッカーボール 1 個につき 75 円から 175 円の援助金が通常とは別に支払われ, 子どもの教育や 労働者の福祉に使うというプロジェクトです. ASP IROは, 国際協力NGO, わかちあいプロジェクト の新しいプロジェクトで, 食品以外の品物を扱うプロ ジェクトブランドです. ASPIROとは, ラテン語 で何かを得ようとして, 努力する, 希望するという意 味です. 次の団体を紹介する前にこの事件を聞いてほしい. その事件はあるカナダの新聞に書いてあった. 児童労 働のひどさを訴えていた少年 12 歳殺される!!少年 の名はイクバル・マシー. パキスタン人だ. イクバル は 4 歳の時に親の借金を返すために, じゅうたん工場 で奴隷のように働かされていた. いねむりをすると, 工場長にムチでたたかれて, うっかりミスをすると罰 として借金を増やされた. けがをした時は, じゅうた んをよごさないように, 傷口に熱い油や火薬の粉をぬっ て, 火をつけ, 血を止められた. しかし, イクバルは 人権団体の助けで, 工場から抜け出し, 学校に行って 勉強できるようになった. そして, 子ども達がひどい 状態で働かされている児童労働のことを訴えて回るよ うになった. そんなある日, イクバルはいとこたちと 自転車に 3 人乗りをして, おじさんに会いに行った. 突然 「バン」 と銃声がして, イクバルは撃たれて死ん だ. という事件である. そのあと, その事件を見たイクバルの親友でクレイ グ・キールバーガーという少年が衝撃を受け, 世界の 子どもの権利を守るために 「フリー・ザ・チルドレン」 というグループを作ったのです. 「フリー・ザ・チル ドレン」 とは, 子どもの権利を守るために, 子どもが 主体になって取り組んでいる国際協力団体である. 世 界のすべての児童労働や子どもを苦しめる環境, 貧困 の解決などをめざして活動している. 今ではカナダを 始め, アメリカ, ヨーロッパ, オーストラリア, アフ リカそして, 日本を含む 5 カ所あります. ほかにもい ろいろな団体があります. ぼくがパキスタンの児童労働を調べて思ったことは, 先ほど紹介したような頼もしい団体, 組織があるのに, まだその助けが世界中の働く子ども達全員に十分に届 いていないんだと思い, この問題は世界の人が真剣に 考え, もっとそのような団体のためにお金を使ったら いいと思いました. 第 7 ステージ 発展途上国の子ども達の願いは何 か 私たちにできることは (総合 1 時間) 6 月
(10) 筆者はこの 「国際理解 ボールから世界を見る」 を通 して, 「地球市民教育」, すなわち先進国から発展途上国 にいたるすべての国を視野に入れた, 「理解」 から 「共 生」 へ意識させることが重要だと思っている. 第 8 ステー ジでは, 今現在, 地球的規模で, 不十分ながらも行われ ている支援活動や支援組織の紹介, また, その支援の根 拠となる 「子どもの権利条約」 を探し当ててきた子ども 達がパワーポイントで, その内容を皆の前で説明した. 自分達で 「子どもの権利条約」 を探し当ててきたことに, 筆者としてはまず, 驚嘆した. 第8ステージ 世界で, 行われている支援活動を 知り, 国際人としての私たちの生 き方を話し合おう (総合 2 時間) 6 月 資料 10 子どもの調べた 「子どもの権利条約」 パワーポイント
(11) 子ども達の考え この学習を通して子ども達が考えたことを意見発表さ せた. 主な意見は次のようである. ○ 私は, ブラジル人だが, ブラジルでは 「ものごい」 が多く, 前, 住んでいた家にも食べ物をもらいに来た 人がいた. ○ アジアの国が豊かになるとよい. ○ 中国の貧富の差がよく分かった. ○ アフガニスタンが豊かな国になるとよい, ○ アフガニスタンの国で, 不足しているもの (教育, 保健衛生) がよく分かった. ○ ぼくはペルー人だが, 前, 家の近くで爆弾が落ちて, 夜中, 街が燃えていたことがあった. ペルーが, 平和 になるのがぼくの夢だ. ○ 児童労働をしている子ども達, 貧困な国でくらす人々 の悲しみや苦しみを伝えたい. ○ ボランティアをしたい. ○ 募金をしても, 児童労働は減らないけど, 3 色ボー ルペンを送ってあげたい. ○ 発展途上国の人たちが仲間で団結してほしい. ○ 私たちは日本に生まれて幸せだ. ○ 日本に生まれて, 申し訳ない気がした. この幸せを 分けてあげたい. ○ 世界中から児童労働がなくなるとよい. ○ 児童労働をなくす方法はないのだろうか. ○ 世界が平和になるとよい. ○ 世界の人々が平等になるとよい. ○ 世界が 1 つになるように, 言語が同じになるとよい. ○ 私たちは, 恵まれているので, 物, ご飯, 給食を残 してはいけない. ○ 児童労働をしている子どもや, ストリートチルドレ ンの子どもたちがかわいそう. ○ 世界の子ども達の実態を知って, 悲しい. ○ 世界の子ども達の様子を知って, ショックだった. ○ 先進国と, 発展途上国との差の原因は何なのか? ○ 未就学児の子ども達を学校へ行かせたい. ○ 国連の (ユニセフ) などの取り組みを知って, すご いと思った. ○ 世界の子ども達の様子がよく分かった. (12) また, この授業の最後に, 「先生の知り合いで, 世界 を旅している人がいます. 世界でいちばんかわいそうな 国の子ども達はどこの国の子ども達かと, 聞いたところ, 日本の子ども達だと言われました. それはなぜだと思い ますか?」 との難解な発問に対して子ども達が, 班討論 を行い, 様々な意見を出した. 本授業では, 結論を出さ ず, 子ども達の 「自分たちは日本人に生まれて幸せだ. 世界の児童労働をせざるをえない子ども達や, ストリー トチルドレン, 貧困な国の子ども達はかわいそうだ.」 というよくありがちな意見, 考えに落ち着かせることだ けは避け, 多様な意見を保障しようとした. この発問に 対して, 子ども達はとまどいながらも, 一生懸命, 班討 論で考えあい, 以下の意見が班から出された. (13) 子ども達の考え 1班 自分がこの国 (日本) に生まれ, この環境で暮ら せていることに感謝していないから. 2班 日本では, 学校がめんどうくさいと思っている人 がいるけど, 児童労働や貧困な国の子どもたちは学 校へ行くことが幸せだと思っているから 3班 日本の子ども達はぜいたくをし, 食べ物も十分食 べられるし, 学校に来るのも当たり前に思っている けど, 児童労働をしている子どもたちは学校に行き たくても行けないので, 学校に行けることが幸せに 思っていて, うちらは幸せに思えない. 4班 日本の子はむだづかいやぜいたくをし, 児童労働 をしている子はがんばってかせいでいてすごい. 5班 日本の子はぜいたくで, 世界の子どもたちの苦し さを知らず, 楽に生きているから大変さや苦しさを 知らないから. 6・ 7 班 日本の子は働かなくても生きていけるから, ありがたみが分からないから. その後, 全体討論で詳しく話し合った結果, 以下のよ うな意見が出された. 〇 日本はぜいたくで, 世界の子どもたちのことを知ら ない. 〇 日本人はご飯もきちんと食べられるし, 児童労働を している世界の子どもたちにとって幸せに思うことは, 日本人にとっては当たり前になっていて, 日本の子ど もは自分で何かをして得たと思えるものがない. 第9ステージ 「世界でいちばんかわいそうな子ど も達は日本の子ども達」 とはなぜか
〇 日本人は, 何もかもちゃんとそろっていて, 食べ物 はすぐに残すし, 児童労働をしなきゃいけない子は働 いているのに, 日本人は自由に遊び, ニートとかフリー ターとかいっぱいいて, ぜいたくしている. 〇 日本はボールペンとかも, すぐに捨てたりして, もっ たいないけど, 児童労働をしている子たちは最後まで 大切にし, すごい努力して笑顔もある. 〇 貧困な子どもたちにとって, 幸せに思うことは私達 にとって当たり前になっていて, 幸せと思えることが 少ない. 貧困な子どもたちは, 食べ物がなくても, 生 活する知恵をもっているけど, 私たちは食べ物がなく なったら, どうやって生活していいか分からない. 貧 困な子どもたちは努力して食べ物を手に入れて立派だ し, それを幸せと感じている. 〇 日本人は当たり前にあるものや環境に感謝しないし, カカオ農園で働いていたアペティー君のような優しさ がない. 〇 日本人は義務教育だから, いやでも小学校や中学校 は行かなきゃならないけど, 児童労働をしている子は 行きたくても行けないから. 日本人は勉強がいやと思っ ている子がいっぱいいる. 〇 日本では不登校やひきこもりが多い. 〇 日本ではひきこもりとかしていて, 親に助けてもら う人が多い. 〇 カカオ農園で働いていた兄弟は勉強するのが夢. 〇 日本の子は勉強をやらされていて, 中学校では競争 の中でやる気がなくなる. 〇 エジプトの人は自分の国を誇りに思っているらしい. 90 パーセント以上の人がそう思っているって本に書 いてあった. (14) 子どもの感想文 「あなたのたいせつなものはなん ですか?」 を読んで 「先生の友達は, 様々な発展途上国を旅しているけ れど, いちばん不幸なのは日本の子どもたちだと言っ ていました. なぜだと思う.」 ある時, 国際理解について調べている私たちに, 先 生は問いかけた. 私は毎日, 家族や友達と楽しく過ご している. 家族や食べ物のない, 貧しい国の子ども達 に比べたら, 幸せに決まっているのに. 私は先生の問 いかけの意味がよく理解できなかった. ある日, 図書館で本を選んでいたら, 「あなたのた いせつなものはなんですか?」 という本が私の目にと びこんできた. 読みながら私は悩んでしまった. なぜ なら, すぐに答えることができなかったからだ. もち ろん, 大切なものはある. 家族, 友達, 自分・・・. でも, それは私にとって, ある意味, 当たり前のこと. 紛争が絶えず, 貧困の中で生きているカンボジアの 子ども達は, 「大切なものは何か」 の問いに, 「この国 の歴史や遺跡」 「戦争をなくすこと」 と, 生き生きと した表情で語っている. 自分の身近なことにしか目を 向けたことがない私は, 彼らの言葉に大きな衝撃を受 け, 自分の未熟さを痛感した. 私は国際理解の授業でカンボジアだけではなく, 世 界各地で見られるストリートチルドレンや児童労働の 問題について勉強した. 悲惨な環境の中, 必死に生き ている子ども達がいる. がれきの下で, 「あたいの大切なもんはお花よ.」 と, 靴もはかず, やせ細った少女がほほえんでいた. なぜ, この少女は笑顔でいられるのか. 戦争がすぐそ ばで起きているのに, 地雷がどこに埋められているの かも分からないのに. シエラレオネという国では 3 人 に 1 人の割合で子どもが死んでいる. それでも, 写真 で見る子ども達の笑顔は底抜けに明るい. なぜ, 彼ら は輝く笑顔でいられるのだろうと考えたところで, 完 全な答えは見つからない. もしかしたら, 人はどんな 環境であっても, 生を受けたことに感謝し, 美しい花, 青空, 豊かな自然に感動し, 生きる希望をもらいなが ら強く生きているのかもしれない. 恵まれた環境に育っ た私だから, 彼らの本当の気持ちは分からないが, 私 はそう思いたい. この本を読み, 先生からの問いの意味が少し分かっ たような気がする. 私は手を伸ばせば何でも手に入り やすい環境で生活している. だから, 貧困な国の子ど も達よりも当たり前に幸せだと思っている. それに比 べ, 発展途上国の子どもたちは, 実現不可能でも夢を 持ち続けている. それは, 「勉強がしたい, 家族のた めに役に立ちたい」 という強い願いだ. 今の私は 「あなたの大切なものは何か」 の問いに 「今, この時」 と答えるだろう. これがせめてもの精 一杯の私の答えだ. 私は一瞬一瞬を大切に生きようと 思う. 私の家族, 友達, 時間, 全てを大切にしたい. 私は, これからどんな時でも, どんな状況にあっても, 希望をもって強く生きようと思う. 自分なりに, ずっ と光っていたいから.
4 考察
本実践は以下の 3 つの点で, 意義ある学びであったと 考える. (1) 学習指導要領から導き出される学びの視点 本実践は, 学習指導要領 2008 年版ならびに改訂され る 2020 年版のどちらの目標とも合致するものである. とりわけ, 2020 年版の指導要領 「総合的な学習」 では, 「探求的な見方・考え方を働かせ, 横断的・総合的な学 習を行うことを通して, よりよく課題を解決し, 自己の 生き方を考えていくための資質・能力を次のとおり育成 することを目指す」 として① 「課題の解決に必要な知識 及び技能を身に付ける」 ② 「実社会や実生活の中から問 いを見出し, 自分で課題を立て, 情報を集め, 整理・分 析して, まとめ・表現する」 ③ 「探求的な学習に主体的・ 協同的に取り組むとともに, 互いのよさを生かしながら, 積極的に社会に参加しようとする態度を養う」4) という 目標が強調されている. 本実践では, 課題解決のための, すなわち 「ボールから世界の貧困・格差, 児童労働, 世 界の発展途上国の子ども達の置かれた状態を理解する」 ための, 知識や調べるための手段・方法・技能を, マス メデイアを含め, 様々な方法を駆使して子ども達は身に つけた. スポーツ用品店の方に聞く, ボールの製造社に 質問の手紙を送って返答をもらう, 新聞社から記事を送っ てもらう, 外国人に聞く, 書籍を調べる, インターネッ トでさがす・・等々. また, 自分の好きなボールを選び, そのボールについての特徴や使い方や起源等を調べる中 で, ボール製造国の共通点に気付いていく. さらに, 発 展途上国の子どもの実態を 「マイカントリー」 として 1 つの国にしぼり, 死亡率や識字率や子ども達は学校に行 けているのかいないのか, 児童労働はないのか等, 詳細 に調べている. その学びの過程の中で, 課題を立てる, 情報収集活動をし, 整理, 分析, 取捨選択を経て, まと める, 表現する (発表する) といった一連の活動をこな すことができた. また, 本実践そのほとんどが協働学習 である. 課題別のグループを組んで共同で調べ, 発表す るところまでを協働作業で行っている. その協同学習, 協同作業の中で他者を知り, 他者と交わる中で, 多様な 考え方や意見にも触れている. そして, 国際社会の憂う べき実態として, 世界の子どもたちの多くが直面してい る貧困, 飢餓, 格差, 南北問題等の課題をどうしたらよ いのか, 考え合っている. そして最後に, 日本の子ども 達, すなわち自分達の置かれた状況を 「かわいそうだ」 と評されるのは, なぜなのだろうかと, 客観的に見よう と試み, 自己の生き方を考えようとしている. 総じて, 課題の解決に必要な知識及び技能を身に付けたと言える のではないだろうか. (2) 「地球市民教育」 の視点 筆者はこの 「国際理解」 の総合的学習を 「地球市民教 育」 と位置づけ, 子どもたちには, 「国際人として, 共 に生きることのできる社会づくりに参加」 することをね らって, 「人間の尊厳と文化の多様性の理解」 「貧困や格 差の理解」 「地球的課題の関係性の理解」 「地球的課題と 自分とのつながりの理解」 「地球的課題の解決への参加 意識」 という 5 つの視点をもって臨んだ. そして, その とりかかりとして本学級の子ども達の生活の中の最も身 近にある 「ボール」 を選んだのである. それは, 子ども が好むスポーツの道具としての 「ボール」 が南北問題や 児童労働などを含む世界の現実と直面せざるをえない 「もの」 であること, 自分たちと同じこの地球上に生き る子どもの実態を 「ボール」 を通してさぐっていけるの ではないかと考えたからである. 案の定, サッカーのワー ルド大会が開催されていた時期とも重なり, サッカーボー ルを熱心に調べてくれていた子どもがインターネットで, サッカーボールがアジアの子ども達の児童労働によって 生産されていたこと, その実態を告発しようとした少年 が射殺された衝撃的な事件を発表したことに端を発して, 他の子ども達は, 児童労働以外でも, 貧困や紛争, 国の 政策の誤り等で, 学びたくても学ぶことのできない子ど も達の実態, その国の抱える問題に迫ることができた. また, ボールの中身にチューブが使われることによっ て, どうしても生ゴムの生産国との関係は切っても切れ ないものであること, そのために, ボール生産国はほと んどアジアや中南米の発展途上国に集中し, しかも, 現 地労働者の低賃金とコストの低い利点を利用して, 日本 の企業が進出している様をまのあたりに見ることもでき た. それはボール製造社への, 質問とそれに快く答えて くださった返答の中に如実に現れていた. そして, その 事実はやがて, 子ども達の思考を世界の国々を覆う 「格 差=南北問題」 へとかりたてるのに十分であった. おりしも, NHKで放映されていた 「世界がもし 100 人の村だったら」 の番組は, ビデオで全員に見せたこともあり, 「セーブアフガンチルドレンの会」 の方の講演 と映画, 外国で実際にボランティア活動を行ってみえた 保護者の話とあいまって臨場感あふれるものであった. こうして, 子ども達はこの一連の授業を通して, スポー ツ用品店, スポーツ用品メーカー, 名古屋国際センター, 新聞社, 中国人留学生, セーブアフガンチルドレンの会, 海外ボランティア経験者とつながり, やがて発展途上国 の子ども達と間接的ではあるがつながったことになった. 次に私が子ども達に対して問いかけたことは, この地 球的課題を解決する方法と, 自分たちは, この問題をど うとらえるかということであった. 解決方法は, 今現在, 微弱ではあるが行われている, 国連を中心とした動き, NPO, NGO, セーブチルドレンの会などの組織を中 心とした活動を調べさせ, パワーポイントで発表させた り, フェアトレードの原理を貿易ゲームなどを通して理 解させたりしたが, 主体的に自分たちに何ができるかを 幾度か, 討論させもした. おそらく, 「日本人に生まれ てよかった」 「私たちは幸せだ」 等の意見が出ることが 予想された. しかし, それだけで終わらせたくなかった ので, さらにゆさぶり発問として, 「日本の子ども達が いちばんかわいそうという意見があるが, なぜだろうか」 という難問に挑戦させたわけである. ここで, 私は発展 途上国の子ども達と, 自分たちとを比較させようとした のではなく, 彼らを理解させ, 共生への道を模索させた かったのである. お互いに, 国の事情の違い, 格差は歴 然とある中で, それでも共に手を取り合って生きていけ るグローバルな視点こそ, これからの 「国際人=地球市 民」 教育の重要なキーワードであると考える. 最後に, 「日本の子どもがいちばんかわいそうと言っ た筆者の友人の発言はなぜだろうか」 の問いに対して, 非常にするどく日本の子どもの現状を述べた意見が続出 した. 特に 「学校の学力競争主義の中でやる気をなくし ていく日本の子ども達」 「勉強は自ら進んで行いたいも のではなく, やらされている気がする」 「僕達は勉強を したいとは思わないのに, 発展途上国の子ども達は, 勉 強をすることが夢であり, 希望である」 等々, 日本の子 ども達が極度の競争主義社会の中で, もがき苦しみなが ら, この競争の渦中に投げ込まれている現状を, 子ども 達がそれぞれの言葉で表現した. これらの意見は, おそ らく子ども達自身が身近に感じていることなのであろう. そして, それらの意見に担任である筆者も同感であった ことを付け加えておきたい. (3) 教師の願いの達成 マイノリティーもマジョリティーも, 共に共生の一歩 としてこの授業に取り組んでほしいということが教師の 願いであった. 実際は, 外国籍の子ども達がこの実践に 積極的に取り組んだことで, 周りの学級構成員が彼ら彼 女らを改めて理解できたという筆者の見立てである. 教 師の願いは達成できたと考える. 4 人の外国籍の子ども は 「ブラジル」 「ペルー」 「ルワンダ」 の国の様子や子ど も達の生活の様子を調べ, 発表した. ほとんどが彼ら彼 女らの母国である. そこには紛争や飢餓, 児童労働, 貧 困, 差別があった. およそ, 日本では考えられない事実, 例えば 「爆弾が家の近くに落ちた」 「ものごいをする子 どもが近所にたくさんいた」 「今も紛争は終わっていな い」 「たくさんの人々が紛争で亡くなっている」 「日本に 出稼ぎに来たが, 父はこの日本で差別を受けている」 等々, 他の子ども達は真剣に当事者意識をもって話を聞いてい た. まだ, こうして日本で生活できるのは, 現地の人々 に比べてましな方なのだそうだ. この 「ボールから世界 を見る」 授業を子ども達と共に作り出している最中でも, 子どもどうしのトラブルやもめごとは根絶したわけでは ない. だが, この授業の最中だけは, 外国人の子どもも 日本の子どもも真剣だった. そしてお互いの意見や感想 や国の事情を発表し合い, 討論し合うときは, 皆, しん と耳を傾けていた. たどたどしい日本語と時には母国語 を含めて, 時には日本語をだいたい理解できるブラジル 人の子どもの通訳を交えて彼ら, 彼女らは母国の実態を 報告した. 本実践から, 筆者自身が改めて世界の発展途上国の抱 える課題に直面したといっても過言ではない. 一教師に 何ができるのか, 自問自答しながらも, こういった世界 の抱える課題を, 子ども達と共に学ぶこと自体に意義が あると考えた. ボールの製造国を調べていき, その先に 世界の抱える課題があり, 子ども達の知らなかった重い 現実が, 今なお課題としてあり, 子ども達がそれらの国 を理解することと, 今, 目の前にいる外国人の子ども達 を理解することとが結びつくような実践, そんな実践を 今後の教師達に望みたい.
注 1 ) 文部科学省 学習指導要領 解説 総合的な学習の時間編 2008 年 3 月告示 2 ) 同上書 3 ) 文部科学省 学習指導要領 解説 総合的な学習の時間編 2017 年 3 月公示 を筆者が要約してまとめた 4 ) 同上書 の目標を筆者が要約してまとめた 参考文献 開発教育教会 参加型学習で世界を感じる 2003 年 開発教育・国際理解教育アクションプラン研究会 教室から地 球へ―開発教育・国際理解教育 虎の巻 独立行政法人国際 協力機構 中部国際センター 2006 年 ジャン・ジグレール 世界の半分が飢えるのはなぜか 合同出 版 2003 年 日刊工業新聞社 モノづくり解体新書 ムック 1992 年 平出隆 ボール INAX ギャラリー名古屋企画委員会 1991 年 ロイド・ティンバレイク アフリカはなぜ飢えるのか 亜紀書 房 1986 年