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調停の既判力

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1一一『奈良法学会雑誌』第3巻1号(1990年6月〉

V

調停の既判力

目 次 民事調停法第二ハ条においては、調停調書の記載は﹁裁判上の和解と同一の効力を有する﹂ものとし、間接に、

一 一

回 現在の理論状況 諸 説 の 評 価 と 私 見 調 停 の 効 果 と 権 利 関 係 の 事 後 形 成 要 約 ﹁確定判決ト同一ノ効力﹂(民訴二

O

三条)を指示する。家事審判法第二一条第一項本文も、訴訟事項に関する家事調 停につき、調停調書の記載が﹁確定判決と同一の効力を有する﹂と規定する。しかし、これら調停調書の記載に確定

現在の理論状況

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第3巻 1号一一2 判決と同じく既判力まで認めるべきか否かについては、周知のように、 かねてから争われ、未だ定説をみるに至らな L

判例理論は、未だ確立していない。 民事調停の既判力を認めた裁判例として、しばしば、最高裁昭和田三年四月一一日判決民集二二巻四号八六二頁が 挙げられる。しかし、この引用は必ずしも正確でない。右判決の事案は、交通事故の被害者とその一一一人の子が加害者 の使用主を相手方として損害賠償請求の調停を申し立て、相手方は申立人等に金五万円を支払い申立人等はその余の

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請求を放棄する内容の調停が成立したが、子らのうちの一人が後に訴えを提起し、被害者の受傷および一一一年後の死亡 による自己の精神的損害につき金三

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万円の慰謝料の支払いと、被害者のために帰郷し用務の処理に当たった聞の日 当等の財産的損害につき金三万円余の賠償を求めたものである。最高裁の判文には、たしかに、 請求は、右調停において、既に解決済であり、上告人の右財産上の損害賠償請求権を、本訴において主張することは できないものというべき﹂だ、とする部分があり、調停に既判力を認める趣旨とみえなくもない。しかし、事件は本 人訴訟であって、上告論旨も最高裁の判文も、その表現のうえからは、はっきり既判力の問題を把えているとは解さ れず、調停上の合意につき民法第六九六条の実体的効果を言明したにとどまるともみえる。判決のあった時期も、裁 ﹁財産上の損害賠償 判上の和解につき既判力否定説が通説となる以前であり、 ﹁裁判上の和解は既判力を有する﹂と明言した最高裁昭和 一ニ三年三月五日判決民集一二巻三号三八二具の多数意見がまだ幅をきかせていた当時のものであるが、この判決でも 少数意見のなかにはすでに既判力否定説が出現していることを見逃すべきではない。しかも、最高裁昭和四三年四月 一一日判決における判旨の要点は、判例集所掲の﹁判示事項﹂ ﹁ 判 決 要 旨 ﹂ ﹁判決理由﹂が示すとおり、受傷に基づ く慰謝料請求と生命侵害に基づく慰謝料請求とは同一性を有せず、特別の事情がないかぎり、前者の調停が後者を含

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むとは解することができない、として破棄差戻しをした、 いわば原告救済の判決なのであり、調停の既判力に関する 肯定説の代表にもってくることができるような判決ではないのである。 下 級 審 裁 判 例 で は 、 つとに、民事調停が成立しても調停調書の記載につき既判力は生じない、と判示したものとし て、鳥取地裁米子支部昭和三一年一月三

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判決下民集七巻一号一七一頁、名古屋高裁金沢支部昭和一一一一年一ニ月五 日判決下民集七巻一二号三五六二頁が存する。前者は、調停無効確認請求訴訟において、被告が再審の訴えにより調 停を取り消さないかぎり調停の無効は主張できないとして訴えの却下を求めたのに対し、調停には既判力がなく請求 原因としてその無効を主張することを妨げないとしたものであり、後者は、さきに調停の無効確認訴訟において調停 を有効と認める裁判上の和解をした後に再びその調停の無効確認を求める訴えを提起したという事案について、調停 調書・和解調書によっては既判力は生じないと判示し、原審地裁の訴却下の判決を取り消して本案判決をしたもので ある。なお、家事調停に関する裁判例としては、大阪高裁昭和五四年一月二三日判決高裁民集三二巻一号一頁が、調 停調書において遺産の範囲を定める記載部分は、要素の錯誤その他の理由により効力を失わないかぎり、既判力を有 する、と判示しているが、これとても、相続人間での遺産確認の訴えの適法性を認めた最高裁昭和六一年三月二ニ日 および、意思表示に暇庇等がある場合につき既判力 判決民集四

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巻二号三八九頁の出現より以前の判決であること、 例外を認めていることに、注意を要する。 3一一調停の既判力 学説上は、裁判上の和解に関してすでに圧倒的に既判力否定説の支配をみるに至っている現状からすればむし

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ろ奇異に思われるのであるが、調停については、発言の絶対数がもともと少ないこともあって、未だ見解の対立を残 し (1) て L、 る

既判力肯定説

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第3巻1号一一4 代表的な所説として、小山昇・民事調停法[新版・昭和五二年] (法律学全集﹀三八五頁以下がある。すなわち、調停 は訴訟から独立の手続であり、訴訟における付随手続たる訴訟上の和解のアナロギーという方法で既判力の有無を論 ずるのは適当でなく、既判力制度の趣旨が調停制度の趣旨にかんがみ調停制度に採り入れられる必要があるか否か、 そしてそれが認められると解されるか否かにより決すべきだとし、次のように説かれる。 ( a ) 既判力は、権利義務 関係に不可争性を付与するものであり、紛争が解決されたとするために不可欠のものである。調停も、当事者の相反 する権利主張を決裁して、当事者聞に共通の一つの権利関係を当事者みずから裁断するものであり、調停によって確 定的のものとされた法律関係の存在が他の訴訟において尊重されないときは調停による紛争解決の目的を没却する点 で、裁判と同じく、既判力を必要とする。 ( b ) 調停においても、当事者の手続上の権利が十分に保障されうるよう に手続が法規制されており、規則違反に対する法的配慮として、専門の訓練を経た裁判官が調停委員会に加わるし、 当事者の任意によるということでの補完も働くから、調停は既判力を認める条件を備えているといえる。したがって、 既判力を否定する明文の存しない現行法の下では、調停には既判力ありと解すべきである、と。 民事調停の本質につき公権的判断説を唱道する佐々木吉男・民事調停の研究[増補版・昭和四九年︺二二二頁以下も、 裁判上の和解と調停との本質的差異を主張し、調停における公権的判断に既判力を認めるのは当然であると力説する。 すなわち、既判力が認められるのは民事紛争解決のための公権的判断であるからであり、調停の本質を当事者間の合 意に求めつつそれに既判力を認めようとするのは背理であるが、調停に代わる決定・調停案・調停条項の裁定は、 L

ずれも、本質的に国家の紛争解決機関の公権的判断にほかならず、民事調停制度がかかる公権的判断によって民事紛 争じたいを直接的かつ全体的に公正に解決することを目的とする紛争解決制度であるならば、 理 論 的 に も 、 また制度 の実効性の上からも、これらの公権的判断に既判力を認めるべきである、とされる。

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小山教授の所説は昭和二八年(民事調停法概説) 文 ) 以 来 、 ま た 、 佐 々 木 教 授 の 所 説 は 昭 和 一 一 一 七 年 ( 島 大 法 学 七 号 所 掲 論 一貫している。また、家事調停についても、既判力肯定説が根強い。しかし、民事調停に関する最近の文 以 来 、 献だけに限るならば、これらの既判力肯定説に追随するものをほとんど見出だすことができない。 q L 近時、裁判上の和解につき既判力否定説が確固たる通説の地位を占めるに従い、その効力が明文 もって裁判上の和解と同一とされる民事調停についても、裁判上の和解におけると同様の理論付けのもとに既判力を 否定する見解が多い。一一一ヶ月章・民事訴訟法[法律学講座双書]四五頁、石川明・民事調停と訴訟上の和解五六頁以 下、および、石川明ほか編・注解民事調停法一一一一一具以下[小室直人]などが、いずれも、これに属する。既判力否 定の理由として、裁判と調停との本質的差異、調停と和解との本質的類似、調停手続における当事者の手続権の保障 の不十分、調停における当事者の合意に意思表示の暇庇を伴うことの不可避、憲法第三二条違反の疑い、などが挙げ 既判力否定説 ( 民 調 二 ハ 条 ) を ら れ て い る 。

諸説の評価と私見

既判力肯定説は、調停の制度目的ないし本質を裁判のそれに類比することによって、結局、調停の紛争解決機 5一一調停の既判力 能を国く確保しようとするのに対し、既判力否定説は、調停の実質的内容に即して手続効を制限的に把握しつつ当事 者処分の実体的効果に解決を委ねようとする。 一般に、裁判上の和解が裁判所の関与のもとになされる当事者の自主的紛争解決であるのに対し調停は第三者たる 調停機関による解決であるとして、概念的区別がなされる。しかし、調停も、 ﹁当事者間に合意が成立し、これを調

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第3巻1号一一6 書に記載したとき﹂に成立したものとされ ( 民 調 一 ム ハ 条 、 家 審 一 一 一 条 一 項 ﹀ 発 効 す る 点 で 、 成 立 し た 調 停 は 、 そ の 本 質 的内容において裁判上の和解と全く異ならない。ここにいう合意は、調書作成についての合意でなく、調停対象たる 私的権利関係についての合意であることは、いうまでもない。たしかに、調書の作成は調停の成立要件であり効力発 生要件でもあって、調停機関は、成立した合意を相当としてこれに法的効力を付与すべきか否かを判断しなければな らない立場にある。問題は、その判断を受ける当事者間の合意の実質的内容の把握にある。 調停における合意は、裁判とは呉なり、法規を大前提とし認定事実を小前提として法的三段論法により権威的に導 き出される結論であるわけではない。調停は、当事者の互譲により条理にかない実情に即した紛争解決を図る(民調 一条﹀のであり、調停における合意の成立に当たって当事者は、特定の権利または法律関係の存否・内容についての それぞれの法的判断を突き合わせて調整するだけではない。現時点で、当該紛争につき、どのようなかたちで解決を 見出だし、どこで矛を収めるか、という総合的な考慮から、自主的処分として決断するのである。そこでは、紛争の 継続あるいは解決に伴う当事者自身ないしその関係者が受ける生活上の影響や経済的な利害得失、企業としての資本 効率や業態のうえでの計算や展望、社会的・世間的な評価に対する考慮、他の関連紛争の処理との相互関係などが、 しばしば、重要なフアグターとなる。場合によっては、別の利益の供与と絡めて、争われる権利の不可争を合意する ことも可能なのである。調停における当事者間の合意は、決して、純然たる法的判断である裁判と類比できる性質の も の で は な い 。

2

既判力は、法的安定の要請から、裁判所の終局的判断に基準性を与え、事後の訴訟において、当事者のこれに 反する主張を遮断し、裁判所もこれと矛盾抵触する判断をすることを許されない。このような既判力は、法的安定を 最終的に担うものとして、 およそそれ自体の当然無効の主張を制度上認めるわけにいかない裁判所の裁判についての

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み、存しうる。私人間の合意には、無効の主張を抑える理由がなく、その主張を認めて救済することができなければ な ら な い の で あ る か ら 、 たとえその合意が調書に記載されたからといって、これに既判力を肯定することはできない の で あ る 。 調停における合意について、当事者の意思表示に要素の錯誤があり、あるいは詐欺または強迫による意思表示とし て取消しがあったような場合には、その合意を無効とせざるをえない。既判力肯定説の論者は、調停においても裁判 官が審理し、合意が相当であるかどうか、とくに既存の権利義務の存否やその処分を決意せしめた事情の認識に重大 な錯誤がないこと等の検討がなされ、そのうえでの合意であるから、既判力を認める条件は具備され、既判力の作用 により民法第九五条の適用等の主張は原則として遮断される、という。しかし、建前論は別として、現実にどこまで そのような検討がなされているかは甚だ疑問なだけでなく、それが実施されることについて何らの手続的保障がある わけでない。当事者本人の出頭義務(民調規八条﹀はあるけれども、手続は非公開でなされるのであり(民調規一

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条 ﹀ 、 口頭弁論は聞かれず、当事者の主張の一致しない事実についても証拠調べは必要でなく、おおくは証拠調べを行わな し 、 ( 民 調 規 一 一 一 条 参 照 ﹀ 。 このような、調停における当事者権の保障の不備に対し、既判力肯定論者は、調停における 合意が﹁当事者の任意によるということによって補完されている﹂ それならば、任意のはずの合意に意思表示の暇庇がある場合には、既判力を認めえないことになるではないか。論者 ( 小 山 ・ 民 事 調 停 法 二 八 七 頁 ﹀ と い う の で あ る が 、 7-ー調停の既判力 は、あるいは、裁判上の和解の既判力に関する制限的肯定説と同じく、ここでも、調停は実体法上の無効・取消原因の ないときにかぎり既判力を有する、と説くかもしれない。しかし、和解や調停についてのこのような制限的肯定説が 既判力に関する概念矛盾を内含し、実質上、既判力否定説と異なるものでないことは、今日、ひろく承認されている。 いずれにせよ、調停手続において係争権利義務の存否や当事者にその処分を決意さぜた事情等の検討がなされると

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第3巻1号一-8 いうことが、どういうわけで、処分の結果として現われた調停条項の不可争性を導き、調停によって成立じた権利関 係について調停調書の記載の既判力を理由 e つけることになるのか。その理論的な説明は十分にできていないといわな く て は な ら な い 。 むしろ、肯定説が調停に既判力を認めるといっても、その場合に説かれる既判力の効果は、確定判決のそれと は同一でないのである。

3

この点は、既判力肯定説の論者も気付いている。すなわち、小山教授は、 ﹁調停の既判力の効果は判決の既判力の 効果と全く同じであるのではない。訴訟の判決においては、紛争の対象であクた権利義務についてのその存否の判断 が不可争のものとされる。調停においては、紛争の対象であった権利義務関係を処分してこれと交替した調停条項の 示す権利義務関係の存在が不可争のものとされる﹂と説く(小山・民事調停法二八七頁。傍点も小山﹀。これは、訓練さ れた裁判官が審理し判断をしたということを既判力付与の実質的条件とされる同教授の既判力肯定論拠と矛盾するで はないか。また、家事調停につき既判力を認める山木戸教授も、離婚のような法律関係の新たな形成を内容とする調 停では、﹁形成判決におけるような一定の形成要件の確定にもとづくのではないから﹂という理由で、﹁そこでは一 定の形成要件の存否については既判力を生ずる余地がなく、その点では調停の効力は確定判決の効力と同一ではな い ﹂ と 明 言 さ れ て い る の で あ お ) ( 山 木 戸 ・ 前 掲 一

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二頁以下三これらは、すべて、権利関係の終局的確認を含まない調 停に既判力を認める無理を覆うための修正にすぎない。

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もし、既判力を肯定する論者が説くように、調停の既判力の効果が、調停手続において審理された紛争の対象 たる権利関係についてでなく、それを処分して交替した調停条項の示す権利関係の存在が不可争になるのだとすると、 さらに重大な疑念が生ずる。

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それは、手続対象と既判力対象が髄顧する、という点である。たとえば、建物収去土地明渡しの調停において、建 物の敷地につき借地権の設定が合意され調停調書に記載された場合、その既判力により、借地権はもはや争えないこ とになるのであろうか。建物の借地権は、調停手続の対象でなく、土地明渡紛争の解決手段として選択されたにすぎ ない。それなのに、調停調書に記載されたことをもって、借地権設定の無効等の主張が既判力により遮断されてしま うのは、甚だ当をえない。右のような見解は、調停上の合意により成立した権利関係につき、憲法上の審問(審尋) 請求権の保断

γ

無視するものというべく、つとに岩松三郎氏ハ民事裁判の研究一

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一頁・二四きが裁判上の和解に関 し指摘されていたとおり、﹁裁判所の裁判なきところに裁判ありたることを擬制するものであり、結局これらの行為 の無効を事由とする民事紛争につき通常の裁判手続による裁判所の判断を拒否せんとするものであり、憲法第三二条 の規定に背反するものといわなければならない﹂。

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既判力肯定説の実際上致命的な難点は、調停の取庇に対する救済が甚だ不十分とならざるをえないことである。 調停の合意に無効原因を生ずることは、私人の行為である以上、不可避であるが、調停調書の記載に確定判決にお けると同様の既判力を認めるかぎり、合意の無効・取消しを有効に主張することはできず、再審に準ずる訴えをもっ て調停を失効させ、既判力を排除しなければならないことになる。既判力肯定説も、それを自認する(小山・民事調停 法 二 九 七 頁 、 佐 々 木 ・ 前 掲 二 二 五 頁 な ど ﹀ 。 し か し 、 与一一調停の既判力 救済を必要とする当事者にとっては、調停の失効のためだけに新た に準再審の訴えを提起し、その勝訴判決の確定をえなければならないということじたい、調停には不相応の重い負担 であるばかりでなく、再審に準ずるとなれば、確定判決に合わせて民事訴訟法が構成した再審事由の厳しい制限(民 および再審期間の拘束︿民訴四二四条)も、調停にかぶさってこざるをえない。このような結 訴 四 二

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条 一 項 ・ 二 項 ) 果の不当は、もともと三審級の慎重な審理を基本的前提とする確定判決に対する再審の制度を、全く判決手続を経ず

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第3巻1号一一10 上訴審をもたない調停にそのまま当てはめようとする不合理がもたらす帰結以外のなにものでもないのである。 現行の実定法にも、既判力肯定説に適合しない規定が出てきている。 6 民事執行法第三五条第一項がそれで、裁判以外の債務名義の成立について異議のある当事者は請求異議の訴えを提 起できる旨を定めている。これは、和解・調停の合意についての実体関係的な無効原因を直ちに請求異議訴訟におい て主張でき、準再審の訴えをもって既判力を排除するまでもない、とする趣旨に他ならない。同条第二項における既 判力標準時の規定も、法文上明瞭に、専ら確定判決に限定して立法されている。民事訴訟法第二

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三条および家事審 判法第二一条にいう﹁確定判決と同一の効力﹂とは、執行力・形成力にかぎり、既判力を含まないと解することによ って、はじめて整合的な解釈がえられるのである。 調停の効果と権利関係の事後形成 調停条項は、紛争の対象となった既存の権利義務の判断を示すものではなく、そこに定める権利義務は、争わ れてきた権利義務を当事者聞の合意により処分して形成されたものである。紛争解決の実効は、紛争再発の防止を規 制目的とする民法第六九六条の適用を含めて、調停上の合意における和解契約の拘束力に依存し、調停機関が関与し て作成された調停調書が、調停上の合意の存在・内容につき、判決に匹敵する高度の証明力をもって、これに寄与す る。既判力によるのではない。解決の実効確保のために既判力を認める必要はなく、むしろ、既判力を認めることに よって却って多くの困難な問題と不当な結果が派生するのである(岩松・前掲一

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四 頁 以 下 参 照 ) 。 2 調停条項の解釈は、原則として、契約解釈に準ずる。 裁判上の和解の内容について、 一般法律行為の解釈の基準が適用され、文字上の表現だけでなく他の事情ないし資

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料をも合わせ考えるべきだというのが、大審院十最高裁を通じての判例の態度であるが、調停についても同様でなけ ればならない。しかし、和解調書・調停調書には、和解・調停申立事件としての手続上の決着も表示される。これら の調書に慣用される﹁申立人はその余の請求を放棄する﹂旨の条項も、一般に、事件の申立事項の全部についての終 局的決着を示す実務的表現にとどまると解すべきであり、﹁その余の﹂実体的請求権が当該和解・調停手続において 十分に審理されたうえで請求権放棄の積極的意思表示がなされたと解釈上確定できるのは極めて例外的な場合に限ら れよう。和解調書・調停調書の債務名義としての解釈が和解・調停における当事者の合意の解釈と明瞭に区別されな ければならないこと、訴訟上の請求の放棄・認諾 ( 民 訴 二

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三 条 ﹀ さえ実体上の請求権の放棄・承認とは何ら関係が ないとされていること、および、甚だ疑問ではあるが訴訟上の請求の放棄・認諾にも既判力を否定する見解が最近で は増えていることをも、ここで考え合わせる必要があろう。 調停成立後は、その対象となった権利関係は、 調停条項によって形成された権利関係を、両当事者の合意によってさらに変更することは一向に妨げない。調停上 の合意による係争土地の売買契約も、一方当事者の債務不履行があれば、調停じたいは有効のままで、契約の解除に ( 裁 判 上 の 和 解 に つ き 同 旨 、 最 高 裁 昭 和 四 三 年 二 月 一 五 日 判 決 民 集 二 二 巻 二 号 一 八 四 頁 ﹀ 、

3

一 般 の 実 体 法 の 規 整 に 服 す る 。 至りうるし 調停の当時には全く予 11一一調停の既判力 想もつかなかったような社会的あるいは経済的な激変があれば、事情変更の原則の適用による契約の修正ないし解除 が可能となる。裁判例のなかには、調停成立による賃料増額からわずか一年六月しか経過しないうちに提起された賃 料増額請求訴訟において、先の調停で増額された賃料額が適正額に達していなかったとして、この事実とその後の土 地価額の騰貴割合とを勘案して、後の増額請求時の適正額まで増額を認容することができるとしたものがあり(大阪 高 裁 昭 和 三 七 年 九 月 二 五 日 判 決 判 例 タ イ ム ズ 一 三 六 号 八 二 頁 v 、調停の既判力を肯定する論者でさえこれに賛成しているこ

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、 AVJ とが一不すように、調停成立後の事情変更が事後形成の基礎となるのである。 第3巻1号一一一12

約 調停調書の記載には、既判力は認められない。 私人たる当事者の合意により成立する調停は、既判力と相容れず、既判力を認める前提となる当事者の手続権の十 分な保障を欠く。調停上の合意により形成された権利関係を既判力により不可争とするのは、憲法第三二条に違背す るというべきである。紛争解決の実効は、調停上の合意の実体的拘束と調停調書の証明効によって確保されるのであ り、その後の法律行為や事情変更等による権利関係の新たな形成に連なる。調停の既判力を認める必要もないのであ る 。 ( 1 ) 一一一ヶ月章・民事訴訟法︹法律学全集︺四四三頁以下、新堂幸司・民事訴訟法二五六頁以下、斎藤秀夫・民事訴訟法概論 ︹ 新 版 ︺ 一 三 一 一 五 頁 、 中 野 H 松浦 H 鈴木編・民事訴訟法講義三八

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頁以下︹松浦馨︺、石川明・訴訟上の和解の研究一

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九 頁 以 下 、 三 ヶ 月 H 中 野 H 竹下編・新版・民事訴訟法演習二六五頁以下︹吉村徳重︺、谷口安平・口述民事訴訟法四六六貰以下、住吉博・ 新訂民事訴訟法入門一五六頁以下、鈴木(正 ) H 鈴木(重 ) H 福永 H 井 上 編 ・ 注 釈 民 事 訴 訟 法 一 二

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頁以下︹鈴木重勝︺、兼 子日松浦 H 新 堂 H 竹下編・条解民事訴訟法七一八頁以下、中野編・現代民事訴訟法入門三

O

六頁︹榊原豊︺など。上回徹一郎 ・ 民 事 訴 訟 法 三 一 八 二 頁 以 下 も 否 定 説 か 。 これらに対し、現在もなお和解に既判力を肯定する立場を維持するものとしては、わずかに、小山昇・民事訴訟法︹一二訂 版︺四四一頁以下を挙げうるにとどまる。 ( 2 ) 山木戸克己・家事審判法︹法律学全集︺一

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二頁は、﹁調停によって定まった法律関係は不可争的であり、その限りで判 決と同様に既判力を有する﹂が、﹁離婚のような法律関係の新な形成を内容とする調停では、その形成は当事者の合意にもと づくもので、形成判決におけるような一定の形成要件の確定にもとづくのではないから、そこでは一定の形成要件の存否につ

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13一一調停の既判力 いては既判力を生ずる余地がなく、その点では調停の効力は確定判決の効力と同一ではない﹂と述べ、指導的立場に立つ。加 藤令造編・家事審判法講座三巻二八九頁以下︹沼辺愛二、家庭裁判所調査官研修所編・家事審判法総論︹改訂版・昭和五九 年︺一三二頁以下など参照。後者は、いわゆる制限的肯定説であり、次のようにいう。訴訟事項に関する調停に判決の再審事 由にあたる事由が存するときには、一再審の訴に準ずる調停取消の訴(民訴四二

O

条の準用)をもって、調停の取消を求めるこ とができるが、﹁調停は、私法上の和解契約であるとともに手続上の合意であるという両面を有し、前者について無効原因の 存するときは、和解契約は無効となるから、この場合には、調停無効確認の訴により争えば足り、再審の訴は許されない﹂と。 最も徹底した既判力肯定説は、斎藤秀夫ほか編・注解家事審判法六九六頁以下︹上村多平︺であり、離婚・離縁の調停につい ても、離婚・離縁訴訟の確定判決の既判力が離婚・離縁を求める法律上の地位について生ずるという新訴訟物理論に立てば、 既判力を認めることができる、とし、たとえその合意に実体的な無効・取消事由があっても、これを理由に調停の無効・取消 の主張をすることは許されず、確定判決の場合と同じく、調停内容が不明確・不定・不能・不法な場合にのみ調停が当然無効 と な る 、 と 説 く 。 ( 3 ) ほかに、石川明編・民事調停法︹現代実務法律講座︺所収の諸論稿(同書一三九頁以下︹三谷忠之ほか︺、四八二具以下 ︹ 若 林 安 雄 ︺ 、 四 九 七 頁 以 下 ︹ 西 沢 宗 英 ︺ 、 五

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五 頁 以 下 ︹ 波 多 野 雅 子 ︺ ) な ど も 同 旨 。 ( 4 ) この点をめぐる論議につき、中野 H 松浦 H 鈴木編・民事訴訟法講義三人

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頁および同所所掲の各文献を参照。 ( 5 ﹀ 注 2 に挙げた、他の積極説の諸論稿においても同じ。 ( 6 ) 中野﹁民事裁判と憲法﹂講座民事訴訟 1 巻 一 四 頁 以 下 参 照 。 ( 7 ﹀立法までの経緯に関し、中野・民事執行法上巻二二二頁以下(注 3 ) 参 照 。 ( 8 ) 詳細については、中野﹁債務名義の解釈││収去明渡の和解・調停を中心として││﹂判例問題研究強制執行法一一貝以下 参 照 。 ( 9 ) 中野・判例問題研究強制執行法人頁以下、中野 H 松浦 H 鈴木編・民事訴訟法講義三六三頁、松本博之﹁請求の放棄・認諾 と意思の環疲﹂大阪市大法学雑誌コ二巻一号一六七頁以下参照。 (印)小山・民事調停法︹新版︺二八九頁。これは、調停成立前に存した事実を、﹁成立した調停を蒸し返すために主張するの ではなく、賃料の現時の値上げのために主張するものであるから﹂、調停調書の既判力とかかわるものではない、とする。

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