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反応時間パターンの変化を指標とした空間的視点取得能力の生涯発達研究

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Academic year: 2021

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(1)

反応時間パターンの変化を指標とした

空間的視点取得能力の生涯発達研究

(研究課題番号

1

4

5

1

0

1

3

6

)

平成

1

4

年度

平成

1

6

年度

科学研究費補助金(基盤研究

(

C

) (

2

)

)

研究成果報告書

平成

1

7

3

研究代表者

渡 部

雅 之

(滋賀大学教育学部助教授)

(2)

。 q?(~r:

l

l

f

目次

研 究 組 織 研 究 経 費

…一一一一一一一一一……一一一一一一一一一一一一一一一一一一

2 研 究 発 表

一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一

3

謝辞……一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一

4 第1章 研 究 の 目 的 と 概 要

-

6 1.研究の背景と目的

-

一8

2.研究の概要(本報告書の構成)

一9

第 2章 空間的視点取得能力は高齢期にも維持される

-12 1.問題

.

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-

1

4

2.方 法 ..-18 3.結 果 ---・・・・・・・21 4.考 察 -・・・・25 5.文 献 ---・・・・・・・・29 6.付 録 -・・・・・34 第3章 児童と高齢者の空間的視点取得能力の特性

-

一3

8 1.目的

-

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_

-

-

-

-

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..

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.-

-

-40 2.方法(児童の特長に関して)

一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一

-

4

1

3.結果と考察(児童の特長に関して)

42 4.方法(高齢者の特長に関して)

一一一一一一一一一一一一一一一一一一一

44 5.結果と考察(高齢者の特長に関して)

45 第4章 空 間 的 視 点 取 得 能 力 の 生 涯 発 達 モ デ ル

-'48

(3)

研究代表者 :渡部雅之 研究協力者 :戎 謙 博 矢吹雄介

研究組織

(滋賀大学教育学部助教授) (平成15年 度 滋 賀 大 学 教 育 学 部 卒 業 滋賀大学大学院教育学研究科在籍) (平成15年度滋賀大学教育学部卒業)

(4)

研究経費

交付決定額(配分額) (金額単位:千円) 直 接 経 費 間 接 経 費 iロL 平 成14年度 900

900 平 成15年 度 120 0

1 200 平 成16年度 600

600 総 計 2 7 0 0

2 7 0 0

(5)

研究発表

ア.学会誌等

1.Watanabe, M. Spatialperspective-taking ability is retained even in later life. 投稿中)

イ.口頭発表

1.渡部雅之 空間的視点取得の反応時間にみられる特性 日本教育心理学会 第45回総会発表論文集 p.14. 2003年8月23日 2.渡部雅之 空間的視点取得の生涯発達過程 一児童期から老年期まで一 日本心理学会第 67回大会発表論文集 p.1084. 2003年9月13日 3. Watanabe, M. Life-long developmentof spatial perspective-taking ability. 18thMeeting of the Int巴rnationalSocietyfor the Study of Behavioural Development p.389. 2004年7月15日

4

.

渡部雅之 空間的視点取得能力は高齢期にも維持される 日本心理学会第68回 大会発表論文集 p.1118. 2004年9月14日 5.渡部雅之 なぜ高学年児童も13つの山問題Jに失敗するのか 日本教育心理学会 第46回総会発表論文集 p.250. 2004年10月9日 6.渡部雅之 エラータイフからみた空間的視点取得の生涯発達の特徴 関西心理学会第116回大会発表論文集 p.57.2004年 10月24日 7.渡 部 雅 之 ・ 戎 謙 博 視点取得を中心とする高齢者の空間認知能力の特性 日本発達心理学会第 16回大会発表論文集 2005年3月(発表予定)

ウ.出版物

該当なし

(6)

謝辞

本研究のご協力頂きました子どもたちと保護者の皆様、滋賀大学教育学部の学生の方々、 大津市シルバー人材センタ一所属の方々に深く感謝致します。

なお、本研究の成果の一部は、研究協力者である戎謙博君と矢吹雄介君の卒業論文と してまとめられました。また、戎謙博君の修士論文中にも記載される予定です。

(7)
(8)
(9)
(10)

1

.研究の背景と目的

ピアジェ(1948)に始まる空間的視点取得研究は、すでに今日的意義を失ったと近年まで は評価されてきた。しかし現在、この考えは否定され、新たな可能性に向けて胎動が始ま っている。それは、発想の転換によって研究の行き詰まりを打開し、新しい観点から光を あてることで一層の飛躍をはかろうとする動きである。期待されるその観点こそ、空間的 視点取得の生涯発達研究である。 従来の研究が抱えた最大の欠点は、成人期以降、空間的視点取得能力は変化するはずが ないと思いこんでしまったことだ。発達研究において生涯発達はすでに常識であったはず だが、逆に成人期以降を扱うものだという誤った先入観から、幼児が主な対象であった空 間的視点取得研究に立ち入ることはなかった。 これに対し渡部は、独自課題を用いた発達研究(渡部2000)挺から、空間的視点取得能 力が生涯にわたって発達することに気づいた。この仮説を実証することで、空間的視点取 得研究の停滞を打破することができる。さらに、空間的視点取得の生涯発達モデルを構築 することで、発達研究の範例とすることにもなる。 この試みを可能にするためには、新たな測定指標が必要であった。成人期以降の能力発 達を捉えるには、従来使用されてきた正答率などでは不適切であったからだ。渡部は、数 年前より予備的研究を積み重ね、空間的視点取得時の反応時間パターンが有力な指標とな りうることを確認してきた。そして今回、反応時間パターンを指標として用い、空間的視 点取得能力が生涯にわたって発達することを実証するとともに、変化の特徴を明らかにす ることを目的とした。申請期間中の年度ごとの目標は次の通りであった。 <平成 14年 度 > 実験装置・課題の作製と予備的資料の収集 <平成 15年 度 > 老年期から児童期までを対象とした資料の収集 <平成 16年 度 > 資料の補完と年齢群ごとの比較・検討、まとめ ※ 渡部雅之 2000 3歳児に空間的視点取得は可能か? 一顔回転課題による測定の 試み一 心理学研究, 71,26・33.

(11)

2

.

研究の概要(本報告書の構成)

本科学研究費補助金によって実施した研究成果を、

2

つ(第

2

3

章)に大別して報告 する。最後(第

4

章)に、本研究から予想される空間的視点取得能力の生涯発達過程につ いて、仮説的モデルを提案する。 まず第2章「空間的視点取得能力は高齢期にも維持されるJでは、児童、大学生、高齢 者の空間的視点取得能力の測定結果を紹介する。特に、高齢期に入っても空間的視点取得 能力が低下していなかったという画期的な発見に力点を置いて述べる。 本研究では、空間的視点取得の本質を空間内を仮想的自己が移動することであると考え、 これを他の情報処理過程とは分離して測定することのできる課題を新たに考案して、空間 的視点取得能力の生涯発達過程を検討した。各 10名の児童、大学生、高齢者が実験に参 加した。彼らに、被験者正面を起点とする

4

5

度刻みの

8

箇所について視点取得すること を求めた。被験者から視点取得すべき地点までの距離に対する平均反応時間の回帰直線の 傾きは、年齢群間で差がなかった。一方、平均反応時間は大学生<児童く高齢者の順であ った。仮想的自己の移動の不十分さを意味する左右逆転エラーがエラー総数に占める割合 は、児童>大学生>高齢者の順に高かった。こうした結果より、高齢者の仮想的自己の移 動機能は維持されていることが証明された。これは、空間的視点取得能力が高齢期に衰え るとする従来の常識を覆すものだ。この発見の意義がイメージ研究と脳科学研究との関連 から考察され、今後の空間的視点取得研究の方向性が提案された。 続く第3章では、「児童と高齢者の空間的視点取得能力の特性j として、児童の空間的 視点取得能力の未熟さの根本原因について検討した。 まず、児童 12名に、空間的視点取得課題のほかに WIsc-illの「記号探し課題J と「迷 路課題J を実施した。空間的視点取得課題の成績と「記号探し課題J、「迷路課題」の成 績との関連をみたところ、「空間的視点取得課題J正答率と「迷路課題」得点との聞に有 意な相関がみられ、「空間的視点取得課題」反応時間と「記号探し課題」得点との聞に負 の相闘が示された。このことから、高学年児童は、他視点の取得能力を欠いているわけで はなく、並列的な情報処理能力に特に未熟さが見られるのではないかと考えた。 続いて、高齢期の空間的視点取得能力の特徴について検討した。大学生と高齢者各 7名 には、空間的視点取得課題のほかに、心的回転課題、ゴッチャルト・テスト、符号課題、

(12)

方向感覚質問紙を実施した。空間的視点取得課題の成績と他課題の成績との関連を見たと ころ、高齢者群においては,空間的視点取得課題の平均正答率と心的回転課題の正答数と の聞に正の相関が,また空間的視点取得課題の平均反応時間とゴッチャルト ・テストの正 答数との聞に負の相関がみられた。大学生群では,空間的視点取得課題の平均反応時間と 符号課題粗点ならびに評価点との聞に正の相関が示された。これより、高齢者は思考の堅 さと情報処理の正確さの点で個人差が大きく、大学生は情報処理速度の違いが空間認知課 題成績に反映されたのだろうと考えた。 こうした結果を受けて、空間的視点取得能力の生涯発達過程をどのように考えるべきか を考察した(第4章)。そして、空間的視点取得能力の仮説的発達モデルを提案し、今後 の研究の方向性を含めて論じた。

(13)
(14)
(15)
(16)

1

.問題

Piaget

&

Inhelder (1948)に始まる空間的視点取得研究は、 1970年代をピークとして急速 に減衰し、今日ではすでにその意義を失ったと思われている。しかし、全ての事実が明ら かにされたわけではない。一定の成果は得られたものの、その後の研究の方向性を見いだ せないままに研究者の関心が失われたのである。以下では、本報告書の対象となった空間 的視点取得能力の生涯発達に関する研究成果を紹介し、あわせて今後の研究の方向性を提 案する。 盛んに研究が行われた頃の遺産として、幼児の空間的視点取得能力の発達に関する大量 の文献が存在する。その成果を概観すると、子どもたちの成績が課題内容に大きく依存し ていることがわかる (Hirata

1983)。例えば、課題内容を単純化すると、 Piagetが当初予 想したよりもずっと低い年齢の子ども達に正反応が現れた(例えば Borke,1975)。そのた め Piagetは、子どもたちの能力を低く見積もりすぎていたとしばしば批判を受けた。一方、 このうちのいくつかの研究は、課題を安易に単純化したために本来測定すべき射影的な空 間認識操作を扱っていないと批判された(例えば林・竹内 1994)。しかし、いずれの主 張が正しいのかをここで論ずることは生産的ではない。特定の課題に成功したか失敗した かという表面的な事実ではなく、その背後にある発達的本質を見抜くことこそが大切だか らである。 空間的視点取得は、異なる視点に立つ自分をイメージするための仮想的自己の移動操作 と、その位置からのみえを生成するために必要な認知的情報処理操作から構成され、前者 の操作に続いて後者の操作が実行される (Flavell,1977)。たとえ仮想的自己の移動操作が 適切に実行され、他視点から対象を眺めているイメージを持つことができたとしても、そ れに続く情報処理操作が不適切であれば、外部出力としての反応に誤りが含まれることに なる。例えば、処理すべき情報量が過大な場合、幼い子どもの限られた認知的処理容量は オーバーフローし、彼は誤答を生じるだろう。反対に、処理すべき情報量が最小限で認知 的負荷が処理容量内に収まっていれば、正答が期待される。空間的視点取得課題の内容が 反応の正誤と関連するとの指摘 (Newcombe

1989)や、課題を単純にすることで低年齢 の子ども達でも正答したという事実は、この考えと合致する。 このように空間的視点取得の発達を論じる上では、みえを生成するための情報処理操作

(17)

は本質的な重要性を持たず、仮想的自己の移動操作を抽出してその獲得過程を探ることこ そが重要となる。しかし残念ながら、十分に成功したその種の試みは、今日に至るまで極 めて少ない。渡部 (2000) は、顔回転課題と名付けた独自の課題を用いて,少なくとも 3 歳 6ヶ月児が仮想的自己の移動操作を保有することを確認したが、より幼い時期における 特徴やそれ以後の発達については依然未解決のまま残されている。 そうした課題は残るものの参照できる大量の資料が存在する幼児期に比べ、空間的視点 取得の児童期以降の発達を扱った研究は極端に少ない。その限られた文献からは、年長児 や成人も常に完全なパフォーマンスを示すわけではないという、大変興味深い事実が示さ れてきた。 Jacobsen& Waters (1985) は小学校 2年生と 4年生に空間的視点取得課題を課 し、双方において自分自身のみえを答える自己中心的エラーが現れたことを報告した。ま

た、 Rubin,Attewell, Tiemey, & Tumslo (1973)は,空間的視点取得課題を平均年齢 7• 1,12,1

44. 76歳の 5群に実施し 11歳児は 7歳児より優れるが、高齢群とは同程度の成績であ

り、若年と中年の成人群よりも劣ることを示した。 Inagaki, Meguro, Shimada, Ishizaki,

Okuzumi, & Yamadori (2002) は,異なる 3つの年齢の成人群 (18・29歳の群、 33・58歳の

群、 61・86歳の群)を対象に、高齢者群は若年の 2つの群よりも正答率の劣えが極端であ り,自己中心的反応が増すことを示した。 Hetmanand Coyne (1980) も Inagaki巴tal.と同 様の結果を得ている。 ただし、単調増加的な発達観が時として事実を見誤らせてきたことに注意すべきだ。特 に、高齢期になると認知能力が低下するはずだという思いこみは危険である。幼児期にお いて空間的視点取得課題への失敗が直ちにその子の無能力さを示すものではなかったのと 同様に,高齢者の低い成績が加齢に伴う空間的視点取得能力の低下を意味するとは限らな い。例えば、空間的視点取得課題では複数の参照枠を使い分ける必要があるが,青年にく らべて高齢者は一般的に選択的注意が劣る (Hartley, 1993) ため、表面的な成績低下が生 じた可能性も考えられよう。 実際高齢者は、複雑な情報処理を要求する空間的視点取得課題では劣るが,他視点を理 解する能力自体は衰えていないようだ。Looft,& CharIes (1971) は、空間的視点取得課題 の成績に従って、高齢者を上位群と下位群に分けた。同時に、 言語的視点取得課題である リファレンシャル・コミュニケーション課題を課し、正答率や反応時間における群問の差 を検討した。この種の手続きを子どもに実施したケースにおいては、空間的視点取得課題 がよい成績であれば言語的視点取得課題でも優れたのに対し,彼らの実験における高齢者

(18)

にはそうした明確な対応が示されなかった。 Happe,Winner, & Brownell(1998)も,他者 の心ではなく状況を推論させる課題で高齢者は若年成人に比べて劣るが,社会的視点取得 能力である「こころの理論J課題の得点は むしろ優れていることを明らかにしている。 これらの事実より本研究では、加齢に伴う空間的視点取得能力の低下は、その本質を意味 する仮想的自己の移動に由来するのではなく、他の情報処理能力の低下によるのだろうと 予想した。 この仮説を実証するためには、加齢に伴う能力変化を正しく捉えることのできる、適切 な測定手法を開発する必要がある。これまで、高齢期に空間的視点取得能力が低下すると 誤解されてきたのは、実験課題における方法論的な未熟さによるところが大きいからだ。 新たに用意されるその課題は,次の 3つの条件を満たすものでなくてはならない。 第1に,仮想的自己の移動と他の認知的情報処理とを十分に分離できなければならない。 被験者の示したある反応が仮想的自己の移動に由来するものであるのか否かを、自信を持 って判断するためである。

r

3つの山問題」に代表される従来の空間的視点取得課題は, あまりにも両者の混在に無頓着であった。第2に、反応の正誤だけに頼りすぎてはいけな い。正反応は、一連の適切な認知的処理の賜である。もし、処理過程中に lつでも不適切 な部分があれば、最終産物としての反応には過ちが含まれるだろう。それ故、年齢群間の 正答率の差だけで仮想的自己の移動の変化を示すことは困難であるのだ。最後に,幅広い 年齢層に適用できる課題であることが必要だ。年長児や成人は、年少児に較べて高い認知 能力を有している。そのため彼らを対象とする場合、課題の難易度を上げて対応すること が多かった。しかし,課題を安易に単純化することに批判的見解が存在するのと同様、課 題を安易に複雑にすることにも慎重でなければならない。なぜならそれは、情報処理過程 の認知的負荷をいたずらに高めることになり、肝心の仮想的自己の移動の有無に対する判 別力が低下するからだ。そうした危険性を極力排除した、適用範囲の広い課題であること が望ましい。 これらの条件を満たすために、本研究では反応時間とエラータイプを主な指標として用 いることにした。反応時間については、特に2つの値に注目する。 1つは、一般的な反応 時間としてしばしば用いられる、刺激提示から反応までに要した時間である。ここには、 課題解決に必要な全ての処理過程が包含される。もう lつは、仮想的自己の移動距離との 関数として捉えた反応時間である。この場合、反応時間が仮想的自己の移動の距離に対し て直線回帰するならば、その一次関数式 y=ax+b (xは仮想的自己の移動距離、 yは反応時

(19)

間)を求めることができる。傾き aは仮想的自己の移動の速さを意味し、切片bは課題が 要求するそれ以外の認知的情報処理に必要な時間を意味する。 エラータイプに関しては、左右関係において正答と対称な位置を答えてしまうエラー(以 後「左右逆転エラーJ と呼ぶ)とそれ以外のタイプのエラーとを比較することに重点を置 く。左右逆転エラーは、主に仮想的自己の移動の不完全さに由来し、それ以外のエラーは、 むしろみえを生成するために必要な認知的情報処理操作の失敗を意味するものと考えたか らである。両エラーの出現比率を比較することで、誤答を生み出す不適切な処理がいずれ であるのかを推定することができるだろう。 さらに、使用する課題が仮想的自己の移動過程を確かに含む空間的視点取得課題である ことを保証する手だてとして、整列効果を利用した。整列効果は、地図と現実空間との対 応づけという問題を論じた Levine (1982) によって指摘された。路上の案内図などのよう に現在位置の示された地図を見るとき、条件次第で読み取りが難しく感じられたり、反対 に容易であったりする現象である。身体準拠枠、地図、それに現実空間のそれぞれの向き が一致すれば地図の読み取りは容易であり、一致しなければ困難を感じる。これは、人が 空間定位のために身体準拠枠を重視していることから生じる現象であると考えられてい る。空間的視点取得課題においても整列効果を生じさせることで、心的に操作しなければ ならないのは刺激布置(現実空間)ではなく、地図とそれを持つ自分自身の視点(身体準 拠枠)であると被験者に思わせることができる。 本研究では、こうした工夫を取り入れた空間的視点取得課題を新たに考案し、これを児 童、大学生、高齢者に課すことで、仮想的自己の移動能力がどのような生涯発達を遂げる のかを明らかにする。

(20)

2

.

方法

被験者:児童、大学生、高齢者各 10名ずつに実験への参加を依頼した。大学生は 18歳 から 22歳までで、女性 6名,男性4名であった。高齢者は 64歳から 72歳までで、女性 は l名のみであった。これらの者には、適切な謝礼が支払われた。 9歳から 12歳の児童 は、男児6名、女児4名であった。参加者のいずれも、課題成績に影響する心身の障害は 有しない。特に高齢者は、老化に伴って生じやすくなる病理の影響を極力避けるために、 シルバー人材センターの関西圏のある支部を通じて軽作業の遂行に問題ない者を派遣して くれるよう依頼した。 装置:パーソナルコンビュータに、外枠が黒色の 18インチ液晶モニタと、スタンド付 きマイクを接続した。モニタは被験者正面の机の上に水平に設置し、その左隣にマイクを 置いた。着席した被験者からはモニタ画面の中心が約 45度下方に見下ろされた。マイク は、入力部が彼らの口のすぐそばに来るように位置を調節された。モニタの画面には、白 色の背景の上に直径約 25cmの黒色円が描かれた。その黒色円の外周付近には、被験者に 最も近い位置を起点として、そこから中心角が 45度ずつになるような位置に直径6cmの 白色円を8個、等間隔で描いた。この白円の位置を表現する場合には、以後、起点となっ た位置をO度と呼び,反時計回りにそれぞれ45度、 90度、… 315度と呼ぶ。それらの円 中には、「郵便局Jや「図書館」など日常生活において馴染み深い建物や場所を意味する 記号(練習試行)、もしくは 1""'8の数字(本試行:Figure 1) をランダムな配置で張り込 んだ。練習試行においてのみ、黒色円の中心に直径8cmの緑色の円が加えられた。これら の 刺 激 の 提 示 や マ イ ク か ら の 音 声 入 力 に 基 づ く 反 応 時 間 の 計 測 は 、 独 自 に 開 発 し た Windowsプログラムによって制御した。反応時間は 1000分の l秒単位で計測され、刺激 提示条件、反応、正誤などの情報とともにコンビュータ内に記録した。刺激提示の合図と なるビープ音は、液晶モニタに内蔵されたスピーカーから提示した。 手続き:着席した被験者に対して、最初に液晶モニタの位置とマイクからの入力音声の 感度が調整された。次いで、課題の内容を説明し課題に慣れさせるために練習試行を行っ た。練習試行では、まず円形の山を中心に「いJ""'

r

ち」の8つの建物が取り巻く街の地 図 (Figure 2) を手渡し、モニタ上の 8つの円はミニチュアの街を意味すること、手にし た地図はその街のものであることを教示した。両者の対応関係が適切に理解されたことを

(21)

確認するために、地図と街の向きが同じであるとした場合の、地図中のある建物記号

c

r

いJ " ,

r

ち」のいずれか)に相当するモニタ上の街の記号名

r

c

郵便局」、「図書館」など)を 答えさせた。 Figure 1 提示刺激の見本

:

:

o

-t ﹄ a s a -‘ ﹄ ﹂ Figure 2 被験者に手渡された地図

(22)

続いて、地図と街の向きが異なると想定し、同様の質問を行った。この際、地図と街の向 きの関係は、建物「いJに相当する記号名を口頭で伝えることにより指定した(例えば「地 図中の『い』がモニタ上の郵便局だとすると… J)0

3

問連続して正答できれば、課題内 容について十分な理解が得られたと判断し、本試行に移行した。本試行では、課題の進行 をコンビュータの制御によって行うこと、 l回の質問は次の 6つのステップから構成され ることを伝えた。 まず、①コンビュータの指示に従い、実験者が地図中の建物記号「いJ'"'-'

r

ちJのうち 1つ(以後設問位置と呼ぶ)を、口頭で被験者に指定した。②被験者が地図上でこの位置 を確認した 1秒後に、刺激提示の合図となる 1秒間のビーフ。音が鳴った。③l秒間のブラ ンクの後、 1'"'-'8の白円のうち 1カ所(以後視点位置と呼ぶ)が5秒間薄い赤色に変わっ た(その際、数字は透けて見えていた)。④視点位置と地図の建物「い」が一致するとみ なした場合の設問位置に相当する番号を、被験者は口頭で答えた。③の刺激提示から④で 発声が開始されるまでの時間をマイクからの音声入力によって自動計測した。実験は個別 に実施した。 実験計画:本試行では、設問位置(い ちの8つ)x視点位置(1'"'-'8の8つ)の計 64問 で1試行とした。提示順序はランダムであった。全ての被験者は、 2'"'-'3回に分けて計 6 試行を行った。

(23)

3

.

結果

[反応時間の分析] 視点位置ごとの平均反応時間を算出した。年齢群と視点位置を要因とし、前者に関して 繰り返しのある二元配置分散分析を行った結果、年齢群 (F=17.59

df=2/27

Pく0.01)、視点 位置 (F=33.44,df=7/189, Pく0.01) ともに有意な主効果が示された。交互作用は有意ではな かった。 (ms) 1600 1400 平 均 1200 反 応 時 1nnn 問 800 O A

a

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45 90 135 180 225 270 315 0 視点位置の被験者からの回転角度 ー @ ー 児 童 ....・....大学生 ・・企・・高齢者 Figure 3 年齢群/視点位置別の平均反応時間 年齢群別の平均反応時間は、児童 1154.9msec、大学生 985.8ms氏、高齢者 1363.7msecであ った。 0度から 315度までの視点位置に対して平均反応時間をプロットすると、いずれの 群も 180度付近を頂点とし、傾斜が直線に近い山型のグラフとなった (Figure3)。そこで、 直線回帰が適当であると判断して回帰分析を行った。この際、被験者正面の正中線に対し て左右対称な位置(例えば 90度と 270度)は被験者から等距離にあるという理由から、 180

(24)

度を超える位置のデータを 180度未満の相当する位置のデータに算入し、 0度から 180度 の間の

5

つの位置を説明変数(x)として計算を行った。全ての群において有意な回帰式が 得られた。児童群は y=76.9x+924(F=243.60

df=1/6

pく0.01)、大学生群は y=61.7x+801 (F=134.10, df=1/6, Pく0.01)、高齢者群はy=48.4x+1218 (F=32.84, df=1/6, Pく0.01)であった。 年齢群間で仮想的自己の移動の実行の速さを比較するために、傾きの平行性検定を行った が帰無仮説は棄却されず、回帰直線の平行性が示された。さらに、視点位置中で最も平均 反応時間が大きかった所と最も小さかった所との問の差を個人ごとに算出し、この値に関 して年齢群を要因とする一元配置分散分析を行ったが、有意な主効果は得られなかった。 [エラーの分析] 年齢群別の正答率は、児童が 94.4%、大学生が 98.1%、高齢者が 94.7%であった。大学 生群は児童群 (z=8.53)ならびに高齢者群 (z=8.02) に較べて、いずれも 1 %水準で有意 に高い正答率を示した。 次いで、エラータイプに関する分析を行った。まずエラーを4種類に分類した。第1は、 左右関係において正答と対称な位置を答えてしまう左右逆転エラー、 2つ目は正答の 1つ 隣の位置を答えてしまうエラー(以後「隣接エラー」と呼ぶ)、 3つ目は赤く点灯された 視点位置をそのまま答えてしまうエラー(以後「視点位置エラー」と呼ぶ、ただし設問位 置として Aを指定したためにこの位置が正答となった場合は当然除かれる)、最後に、以 上 3つのどのエラータイプにも属さないものを「その他」とした。 これらのエラーの他に、一般的な空間的視点取得課題では、被験者自身のみえを答えて しまう自己中心的エラーもしばしばみられる。自己中心的エラーは、被験者の位置からみ た対象のみえそのものであるため、他の誤答とは明確に区別できるはずで、ある。しかし本 実験では、あるエラーが自己中心的エラーであるのかそれとも別のタイプのエラーである のかを決定できないケースが多く存在した。例えば、被験者の対面位置である 180度を視 点位置とし、右手 90度方向の「は」を設問位置として指定した場合に、被験者がモニタ 上で 90度位置にある円の番号を答えたとしよう。被験者が、現在の自分の位置から見て 「はj に相当する番号を答えたと考えるならば、この反応は自己中心的エラーと解釈でき る。一方、視点位置として指定された 180度位置まで仮想的自己の移動を行ったが、何ら かの理由により正答とは左右逆の位置を答えてしまったと考えれば、それは左右逆転エラ ーとして分類される。児童期以降の被験者において自己中心的エラーが現れたと報告した

(25)

研究のほとんどは、かなり複雑な課題を用いている (Eliot& Dayton, 1976: Walsh, Krauss, & Regnier

1981)。そのため本研究のように、単純な課題を用いていながら自己中心的反応 が頻出することは考えがたい。この理由から、自己中心的エラーは皆無であったという前 提で、全てのエラーを先の4種のいずれかに分類した。 これらのエラータイフの出現比率を年齢群間で比較したところ、有意な偏りが示された (χ2=50

df=6,Pく0.01)。各年齢群のエラー総量に占める左右逆転エラーの比率は、児 童>大学生>高齢者の順に高く、逆に隣接エラーの比率は高齢者>大学生>児童の順であ った (Table 1)。 Table 1 年齢群ごとにみたエラータイプ別出現比率 左右逆転(% ) 隣接(覧) その他(% ) 視点位置(先) 合計(% ) 児童 147( 72.8) 38( 18.8) 15 ( 7. 4) 2 ( 1. 0) 202 (100.0) 大学生 42 ( 59.2) 17( 23.9) 8 ( 11. 3) 4( 5.6) 71(100.0) 高齢者 83 ( 39. 2) 80( 37.7) 40( 18.9) 9 ( 4. 2) 212(100.0) 合計 272 ( 56.1) 135( 27.8) 63( 13.0) 15( 3.1) 485 (1 00.0) また、視点位置ごとにエラータイプの生起率を年齢群間で比較した。エラータイプの生 起率に年齢群問の有意な偏りが示されたのは、被験者の向かい側である 135,180, 225度 の三カ所であった(順に χ2=24

df=6,pく0.01:χ2=14

df=6,pく0.05:χ2=24

df=6,pく0.01)。 これら全ての位置で児童群と大学生群は左右逆転エラーの生起率がそれ以外のエラーに較 べて非常に高く、一方高齢者群では、左右逆転エラーと他のエラーの生起率の差が小さい か同程度であった(一例として 180度における年齢群別エラータイプを Table2に示す)。

(26)

Table2 視点位置180。における年齢群ごとにみたエラータイプ別出現比率 左右逆転(% ) 隣接(% ) その他(目) 視点位置(先) 合計(見) 児童 47( 90.4) 2 ( 3. 8) 3 ( 5. 8)

o

(

0.0) 52(100.0) 大学生 9( 81.8) 1 ( 9.1) 1 ( 9.1)

o

(

0.0) 11(100.0) 高齢者 15( 55.6) 7( 25.9) 4( 14.8) 1 ( 3.7) 27(100.0) 合計 71 ( 78. 9) 10( 11.1) 8 ( 8.9) l( 1.1) 90 (1 00.0) さらに、設問位置ごとにエラータイプの生起率を年齢群問で比較した。エラータイプの 生起率に年齢群間の有意な偏りが示されたのは、地図の左右位置である「はJ,

r

へん「と」 の三カ所であった(JI聞にχ2=12,.4df=4,pく0.05:χ2=21.7,df=6,pく0.01:χ2=19.8,df=6,pく0.01)。 いずれにおいても児童群と大学生群は左右逆転エラーの比率がその他のエラーの比率に較 べて高く、逆に高齢者群では左右逆転エラーよりも他のエラーの生起率が高かった(一例 として270度における年齢群別エラータイプをTable3に示す)。 Table 3 設問位置「と」における年齢群ごとにみたエラータイプ別出現比率 左右逆転(% ) 隣接(目) その他(% ) 視点位置(覧) 合計(% ) 児童 32( 69.6) 12( 26.1) 2 ( 4. 3)

o

(

0.0) 46 (1 00.0) 大学生 11(64.7) 4 ( 23. 5) 1 ( 5.9) 1 ( 5. 9) 17(100.0) 高齢者 19( 30.6) 30( 48.4) 12( 19.4) l( 1.6) 62 (100.0) 合計 62(49.6) 46( 36.8) 15( 12.0) 2 ( 1.6) 125(100.0)

(27)

4.

考察

本研究では、反応時間とエラータイプを主な指標とする空間的視点取得課題を考案し、 これを用いて児童期から高齢期の間の空間的視点取得能力の発達を調べた。その結果、児 童期から成人前期にかけて反応時間が速まり、高齢期に入って再び遅くなるという山型の 変化が、従来の多くの研究結果と同様に確認された。しかしより興味深いのは、視点位置 に対する反応時間の変化が年齢にかかわらず同程度であったという結果である。これに関 して、 3つの重要な指摘を行いたい。 第 1に、空間的視点取得能力が仮想的自己の移動の過程とそれ以外の情報処理過程とに 大別されることが確かめられた。これらの区分について、古くは Masangkay,McClusky, Mclntyre

Sims-Knight

Vaughn

& Flavell(1974)が前者の獲得段階をレベル1、後者の獲 得段階をレベル2と呼び、発達的観点から検討を行っている。その結果、他者が何を見て いるのかはわかるがそのみえを特定することができないレベル1に、 3歳頃までには到達 することが示された。この年齢は、渡部 (2000)の指摘とほぼ一致する。レベル1とは、 仮想的自己の移動が可能であるが、情報処理能力がまだ未熟であるため、具体的なみえを イメージすることができない状態を意味するのであろう。しかしそれ以降の年齢において、 仮想的自己の移動がどのように発達するのかについてはほとんど検討されていない。そも そも、 2つの過程を操作的に切り分けて測定しようとする努力自体が、決して満足できる 水準で、はなかった。本研究において、仮想的自己の移動過程を回帰直線の傾きとして捉え、 他の情報処理過程を回帰直線の切片として捉えることで、ようやく両者を明確に分離して 捉えることができた。 第2に、被験者位置から視点位置が遠ざかるにつれて、反応時間が直線的に増加するこ とがわかった。この事実は、仮想的自己の移動が心的回転に類似しており、仮想的自己の イメージは絵画的な特性を持つことを暗示する。かつてのイメージ論争の帰結として、イ メージが絵画的か命題的かというこ分法では不十分であり、視覚的作業記憶内でリアルタ イムに処理を受けていると考えるべきだとの指摘 (Kosslyn,1980)がなされたのと同様に、 このイメージが常に絵画的であると断じるには、当然慎重でなければならない。実際、空 間的なイメージは状況の中に埋め込まれた意味を取り出す過程、ないしはそうして形成さ れた理解であると考える方が適切であるとの指摘も多い (Hutt叩 locher & Presson

1973:

(28)

Huttenloch巴r& Presson, 1979: Presson, 1982)。しかし、これまでほとんど問題にされること のなかった仮想的自己のイメージの特性について、その一端を明らかにしたことの意義は 大きいだろう。 第3に、仮想的自己の移動能力が高齢期においても低下していないという、画期的な発 見を得た。これまで高齢者においてしばしば報告されてきた空間的視点取得能力の低下は、 肝心の仮想的自己の移動過程において生じるのではなく、使用された課題ごとに固有な情 報処理過程に帰国するようだ。この仮説が正しいならば、従来の常識を覆す発見である。 この仮説を支持する証拠は、反応時間に関する特徴の分析からだけではなく、エラータイ プの分析からも見出すことができる。エラー総量に占める左右逆転エラーの比率は、児童 の方が高齢者に比べて高く、逆に隣接エラーの比率は高齢者の方が高かった。そしてこの 傾向は、被験者の対面位置である 135. 180. 225度が視点位置として指定された場合に顕 著であった。これらの結果は次のように解釈できる。児童は仮想的自己に対するイメージ 操作がまだ完全ではないために、時として不十分な視点取得の状態のまま、それに続く情 報処理を行ってしまう。この時、前後関係に比べて一般に認識が困難である左右関係にお いて誤りが生じやすく、加えて被験者からの距離が遠い 135. 180. 225度において仮想的 自己の移動の不完全さが露見しやすい。一方高齢者は、仮想的自己の移動はほぼ問題なく 実行できるが、その後のみえイメージを生成する過程において失敗し、隣接エラーをはじ めとする多様なエラーを犯してしまうのだろう。 高齢者にみられる不適切な情報処理の原因としては、抑制機能や選択的注意の低下、作 動記憶の機能低下などが考えられる。空間的視点取得課題で正反応を生むためには、刺激 布置の現実的知覚と他視点から予想されるみえのイメージとを適切に切り替える必要があ る。それには、知覚が生み出すイメージの認知的な活性化を抑制することと複数の葛藤す る参照枠をうまく使い分けることが必要である。前者の抑制機能が加齢に伴って低下する と、作動記憶に余分な情報が入り込みやすくなったり、環境や状況から容易に取り出せる 情報に依拠しがちになったりする (Hasher& Zacks. 1988)。また後者の選択的注意も、高 齢者は青年などにくらべて劣るとされる (Hartley,1993)。さらに、作動記憶自体も加齢 に伴いその機能が低下することが知られている (Salthouse,1991)。こうした原因のいずれ か、あるいは複数によって、他視点からのみえを正確にイメージすることに困難を生じる のだろう。 では、高齢期に入ると一般的には認知能力が低下していく一方で、仮想的自己の移動機

(29)

能に減衰がみられなかったのはなぜだろうか。加齢に伴う認知能力の低下の一因は、脳の 重量や神経細胞数の減少にある。その減少のペースは脳部位によって異なる。概して前頭 葉の減少は早くに始まり、一方身体運動に関わる領域は高齢でも余り減少しない。空間的 視点取得で実行されている仮想的自己の移動が、こうした脳の運動関連領域に依存してい るならば、この機能が他の認知能力にくらべて長く維持されることの理由となるだろう。 実際、ある種の仮想的自己の移動が脳の運動関連領域に関係しているとの実験報告は多い

(Jeannerod, 1995: POπ0, Francescato, Cettolo, Diamond, Baraldi, Zuiani, Bazzocchi, & di Prampero, 1996: Stephan, Fink, Passingham, Silbersweig, Ceballos-Baumann, Frith, & Frakowiak, 1995)。例えば Dec巴ty(1996)は,被験者にある行為を行っているところを想像させると, 実際の運動をコントロールしている脳領域(運動前野 前帯状回,下頭頂小葉,小脳)の 活動が高まることを示した。また、明確に意識されたイメージだけでなく,観察者の内部 で無自覚的に生じる筋感覚的なイメージも運動統制に重要な役割を果たしていること (Fery & Morizot, 2000)、またこの 2つのイメージは脳内で、は異なった領域で処理されて いることも示されている (Honda,Deiber, Ibanez, Pascual-Leone, Zhuang, and Hallett, 1998)。 こうした証拠から、本研究において加齢に伴う仮想的自己の移動機能の変化が小さかった のは、高齢者の脳の運動関連領域の機能が維持されていたためだろうと推測した。 ただし、本研究に参加した高齢者の年齢層である 65歳から 75歳は、高齢期の中でも比 較的健康であるという理由から、老年学や医療行政区分において前期高齢者として分類さ れていることを忘れてはならない。また、彼らが所属するシルバー人材センターは、日頃 から清掃や軽微な大工仕事、家事援助など、身体を動かす業務を多く仲介していることか ら、彼らの運動能力が同年代の平均水準以上に維持されていた可能性があることも指摘し ておかねばならない。なぜなら、運動機能の低下が顕著になる後期高齢者では、仮想的自 己の移動機能にも相応する低下がみられるかもしれないからだ。また、加齢に伴ってしば しば見られるアルツハイマー型痴呆などの病的変化も、空間的視点取得能力にダメージを 与えることが十分に考えられる。特に、脳の病変部位がいずれであるかによって空間的視 点取得が被る影響は異なるであろうから、この対応関係に注目することで、空間的視点取 得を司る脳機能について解明できるにちがいない。 また、仮想的自己の移動が脳の運動関連領域と密接に関連しているならば、現実空間内 において実際に身体移動することが難しいような位置へは、仮想的自己の移動をイメージ する際にも同様の困難が生じるはずである。実際 Sekiyama(1982)は、保持されている手

(30)

の触覚的・運動的情報の影響を受けて、両手像の心的回転処理が回転角度の一次関数とは ならないことを示している。また本研究においても、高齢者の平均反応時間のグラフは左 右対称とならず、被験者対面位置から左に 45度ずれた 225度に頂点を示した。これらは、 身体部位に生じた運動情報がイメージ操作に影響を及ぼす可能性を意味している。仮想的 自己の特性におけるこうした身体性の影響の検討は、今後の課題である。

(31)

5

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(35)
(36)

6.

付 録

このほかに、被験者画面 実験プログラム実行時に、実験者側のパソコンに現れる画面。 と同じものが、解答付きで示される。 r

視点問題進

設問位置

ち と 2 3 7 8

が。は合

色る左場

縁な、た

仁と合し

う象場と

よ対の効

は試一者

合再オ験

場仁問実

の後時で

効、は由

無れ右理

有効な回答の場合は

このよう仁青く示さ

れる。数字は反応時

聞を意味する。

視点位置

視点位置が

r

4

J

.

設問位置が「ろ

j

の場合

音声入力レベルのインジケーター

音声が入力されると

このボックスが

黄色L

こ変わる

モ一一 々一ー モ一一 設問位置ろ 音声闇 2000/1 OOOC

I

開始任 主C2) 4 入力 視 点 位 EV

占 。

J

すし

中入出

トをが

仁ス果示

かテ結指

I

f

母一一 位置を通知して下さい

(37)
(38)

練習問題で使用された刺激 下より左回りに「公園J,

r

本屋J,

r

郵便局J,

r

消防署J, 「病院J,

r

レストランJ,

r

飛行場J,

r

工場」と指示した。 実験風景 (対象は大学生) 左は視点位置提示前の風景、 右は視点位置が提示され解答している。

(39)
(40)
(41)
(42)

1

.

目的

r

3つの山問題Jに代表される空間的視点取得能力は、 Piagetが想定したよりも幼い年 齢で獲得されることが指摘されてきた。しかしその一方で、すでに完成段階に至っている はず、の小学校高学年児童でさえ、自己中心的反応を示すことがある。なぜ高学年児童も

r

3 つの山問題」に失敗するのだろうか。年長児に使用される課題が年少児に対するものより複 雑であるため、高い認知的負荷がかかるからか、あるいは彼らの空間的視点取得能力にも、 依然未発達な部分があるのだろうか。実際、第2章における実験結果から考えると、児童 は仮想的自己に対するイメージ操作がまだ完全ではないために、時として不十分な視点取 得の状態のまま、それに続く情報処理を行ってしまうのではないかと予想される。一方高 齢者は、空間的視点取得能力が必ずしも衰えないことが示され,これまで一般に能力低下 が指摘されてきた原因は,それ以外の認知能力や注意力が低下するためではないかと予想 された.すなわち高齢者は、仮想的自己の移動はほぼ問題なく実行できるが、その後のみ えイメージを生成する過程において失敗してしまうのだろう。また、彼らにみられる不適 切な情報処理の原因として、抑制機能や選択的注意の低下、作動記憶の機能低下なども指 摘できる。 こうした仮説を実証するために、空間的視点取得課題解決に必要な能力を2つ一視点移 動能力とその後に続く情報処理能力ーに大別し、両能力に関連する認知課題を合わせて実 施することで、いずれの能力に未熟さを抱えるのかを明らかにしようと考えた。児童、高 齢者それぞれに対して、空間的視点取得課題以外の課題を合わせて実施し、空間的視点取 得課題の反応時間や正答率などとの関連を分析した。視点移動過程に問題があれば、それ を反映する空間的視点取得課題の反応時間と関連課題との聞に有意な相関が示されるであ ろうし、逆にそれ以外の情報処理過程に問題があれば、主に空間的視点取得課題正答率に 関して相関が示されるだろう。 なお、児童と高齢者の分析は別に行うことにした。これは、使用する課題が児童用と成 人用とで異なること、両者の問題の所在が異なると予想されること、高齢者に関する検討 を大学生との比較で行ったことなどによる。児童を対象とした実験結果を第

2

3

節で、 高齢者を対象とした実験結果を続く第4,5節で述べる。

(43)

2

.

方法(児童の特長に関して)

課 題 :

r

空 間 的 視 点 取 得 課 題Jと WISC-llIの「記号探し課題BJ (Figure 4)、「迷路課題J (Figure 5)の3つを用いた。後者2つの実施と得点化は実施マニュアルに従った。空間 的視点取得課題は第l章の実験で使用したものと、装置ならびに手続きとも同じである。 被 験 者 : 小 学5-6年 生 15名(男8名、女7名)に依頼した。明らかに課題内容を誤解 したと思われる 3名を除き、残り 12名について分析を行った. 'F.

む G

ミ士} し く シ ー ~.む~ J.~ い 円 歩 同 ヰ=

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w 叫?鮎

T

4‘ , 、 々、宅 ,..、為 J" < ど .L 7事 、刈 J.b 々、‘ Figure 4 「記号探し課題BJの例示問題と練習問題

Figure 5

r

迷路課題」の例示問題

(44)

3

.

結果と考察(児童の特長に関して)

空間的視点取得課題の視点位置別平均反応時間は、ほぽ全員が被験児の対面位置である 180度付近を頂点とする山型のグラフを示した。全視点位置を込みにした平均反応時間と 正答率、記号探し課題と迷路課題の得点を被験者ごとに示した (TabIe4)。 被験者ごとの 「空間的視点取得課題」平均反応時間と正答率 ならびに「記号探し課題」と「迷路課題」の得点 Table 4

守 ' ・

守 ' '

﹁ 町

u h H M F

MF ﹃ 叫 F h u n M M 司 ‘ u ﹃,,﹃, a ' t 唱 1 1

h f ﹄ 1

1

1

' I 1 .

E e -勾 O A ﹃ n O 7 g q u q u n u n u w q u F a q v 内〆﹄内唱 un , ﹄ 向 , L 内 ‘ u 内 唱 叫 内 〆 ﹄ 内 ‘ 叫 向 〆 ﹄ n J ﹄ 内 J ﹄ F n w h K M 内 ' h h H d F 同 U F h u h f ﹄ 内 屯 M 司 毛 叫 n J ﹄ n ' ﹄ -n n u q u 7

I 7 S F b n H M A n u -F O R M 向 ﹃ d ' n 可ぜ由民 M n w d n M M n ﹃ d ' n n u n ﹃ M n H u n u d n ﹃ M

1

2

3

4

1

1

5

3

1

1

7

9

1

3

4

7

1

2

0

6

1

1

0

3

1

3

6

0

1

4

1

2

2

0

0

9

1

1

8

9

9

7

0

BCDEFGHlJKL

注:視点取得課題=空間的視点取得課題/記号課題=記号探し課題 各指標間でスピアマンの順位相関を求めたところ、空間的視点取得課題正答率と迷路課 題得点との聞に 5%水準で有意な相関(r=.656)がみられた。それは、並列的な情報処理(視 点移動とみえイメージ形成の同時処理/複数のルート検索)を共通項とするからであろう。 P また、反応時間と記号探し課題得点との聞に、同じく 5 %水準で有意な相関(r=一.634, く 0.1)が示された。こちらは情報処理の速さを共通項とするようだ。さらに、空間的視点 取得課題の誤答パターンを分類すると、左右逆転エラーが誤答(312個)中の約6割(186個) を占めた。 これらより、空間的視点取得でみられる高学年児童の不完全さは、迷路課題が捉えるな んらかの空間的情報処理能力に帰国すると考えた。特にそれは、視点取得後の解答形成過程

(45)

に影響するようだ。さらに、記号探し課題の示す認知処理の速さが‘反応を速めるだけで 正答率と関係しなかったことからも、ここで問題となる能力は、並列的な情報処理に関わ る能力、あるいはそうした処理を統制する空間的モニタリング能力である可能性が高い。 少なくとも高学年児童は、他視点の取得能力を欠いているわけではないのだろう。

(46)

4

.

方法(高齢者の特長に関して)

被験者:大学生と高齢者を各7名。大学生は 21歳から 23歳までで女性が4名。高齢者 は65歳から 73歳まで。女性は2名であった。 課題 5つの課題を用いた。このうち空間的視点取得課題は、第1章の実験で使用した ものである。他は、「心的回転課題JCVandenberg叩 dKu民 1978の 'MRT'を使用、Figure6)、 「ゴッチャルト ・テストJCWitkin et a,.l 1971の 'E町'を使用、 Figure7)、「符号課題」 C'WAIS-R'の同名の課題を使用)、「方向感覚質問紙J C竹内 1992の 'SDQ-S'を使用)で あり、この順に実施した。符号課題は実施マニュアルに従って行い、ほかは次のような手 続きを定めた。心的回転課題とコッチャルト・テストは、

1

/1

ページで印刷された冊 子を用い、 l問ごとに 30秒の制限時間で実施した。方向感覚質問紙はA 4用紙2枚に印 刷された 20個の質問への回答を求め、高齢者に対してのみ実験者が読み上げた。高齢者 ・大学生とも、

2

名から

5

名の集団で実施した。 Figure 6 MRTで使われた絵の例

G

Figure 7 EFTで使われた絵の例

(47)

5

.結果と考察(高齢者の特長に関して)

得点化:空間的視点取得課題は、全データの平均反応時間と平均正答率を個人ごとに算 出した。心的回転課題とゴッチャルト・テストは正答数を、符号課題は組点と評価点を指 標とした。方向感覚質問紙は、竹内(1992)の示した2因子別に評定値合計点を求めた(逆 転項目も考慮して方向感覚の良いほど高得点とした)。 年齢群聞の差:年齢群聞の各課題得点の違いを、 t検定を用いて比較した。空間的視点 取得課題の平均反応時間は、大学生が有意に速かった<t=4.32

df=12

Pく.01)。心的回転課 題とゴッチャルト・テストの正答数においては、大学生群が有意に高得点であった(それ ぞれ t=4.48,df=12, Pく.01.t=2.48, df=12, Pく.05)。符号課題は、組点において大学生群が有 意に高かった (t=7.99,df=12, Pく.01)が、評価点では差がなかった。これは、両年齢母集 団からのサンプリングに大きな偏りがなかったことを担保している。空間的視点取得課題 の平均正答率と方向感覚質問紙の2つの評定値合計点に関しては、年齢群問の差がみられ なかった。 課題間相関:空間的視点取得課題の平均反応時間と平均正答率に対して、他の課題得点 間でスピアマンの順位相関係数を年齢群別に算出した。高齢者群においては、空間的視点 取得課題平均正答率と心的回転課題正答数 (R=.87,t=4.00, Pく.05)、同平均反応時間とゴッ チャルト・テスト正答数 (R=一.84,t=3.41, Pく.05)の聞に有意相関が、大学生群では、同 平均反応時間と符号課題組点(R=一.93,t=5.59, Pく.01)ならびに評価点(R=.85,t=3.56, Pく.01) の聞に有意相関が示された。 これより、高齢者は思考の堅さと情報処理の正確さの点で個人差が大きく、大学生は情 報処理速度の違いが空間認知課題成績に反映されたのだろうと考えた。

(48)

6

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文献

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(51)
(52)

本研究の結果から得られた新たな認識に基づくと、これまでとは大きく異なる視点 取得のイメージが描かれる。視点とは空間内を仮想的自己が移動する絵画的イメージ に近いものであるようだが、かといって心的回転能力と同様の発達的変化をとるとは 限らない。特に、高齢期の発達変化については、従来の常識を覆すような示唆が得ら れた。 発達研究では、日常行動や課題への反応などで示されるパフォーマンスレベルと、子ど もたち(あるいは成人)の内に潜在的に存在するコンビテンスとしての能力とを見分ける ことの重要性がしばしば指摘される。これを本研究に当てはめてみよう。一般的な空間的 視点取得課題である f3つの山問題」に対する反応は、幼児期から児童期にかけて正答へ と向かい、長い安定期を経た後に、高齢期に入って再び低下すると指摘されてきた。しか し、こうしたパフォーマンスレベルの背景に、これまで十分に知られていなかったコンピ テンスレベルでの発達が隠されている。空間的視点取得の場合それは、「視点移動j能力 と「みえの情報処理J能力とに相当するようだ。そして、空間的視点取得の本質は仮想的 な自己の「視点移動」操作であり、一方の「みえの情報処理」は使用された課題によって 異なる空間的視点取得にとっては付加的な操作であると考えることができる。 本研究の成果を振り返ってみると、児童と高齢者の正答率はほぼ同程度であったが、彼 らのエラーパターンは非常に異なっていた。児童にみられた左右逆転エラーの比の高さか ら、空間的視点取得における彼らの困難さは、仮想的自己の移動機能における不安定さに 由来すると解釈された。一方高齢者は、隣接エラーなど他のエラーの比率が高く、仮想的 自己の移動よりもむしろ一般的な情報処理過程に問題があるのだろうと考察した。また視 点位置ごとの平均反応時間に基づいて算出した回帰式の傾きも、統計的に有意ではなかっ たが、児童が最大で高齢者が最小であった。こうした結果からは、次のような発達モデル が考えられるだろう。 視点移動能力は幼児期前期には可能となり、その後少なくとも高齢前期に至るまで維持 されるようだ。しかし、一度獲得された仮想的自己に対する操作能力が生涯を通じて不変 であるという保証はない。むしろ本研究の結果は、その能力が加齢に伴って変化している らしいことを示していた。この仮想的な自己視点の移動操作能力は、幼児期より連続的に 上昇し、高齢期に至るまで緩やかな上昇が続くと思われる。これを図示すると Figure8の ようになる。

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乳児 青年 高齢者 乳児 青年 高齢者

視点移動能力

みえの情報処理能力

k Y ノ 乳 児 青 年 高齢者

課題成績

Figure 8 空間的視点取得能力におけるコンピテンスとパフォーマンス このような生涯発達曲線は珍しく、この仮説の検証が待望される。さらに、仮想的自己 の移動機能の特徴を明らかにすることも非常に重要だ。その知見は、身体性の観点からみ たイメージ研究を深めることに役立つであろうし、同時にイメージ操作と脳機能との関連 に関する生涯発達研究という新たな領域を開くことにもなるだろう。こうした成果が結実 し始めたとき、空間的視点取得研究はかつての輝きを取り戻すに違いない。

参照

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