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児童と高齢者の空間的視点取得能力の特性

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1  .  目的

3つの山問題Jに代表される空間的視点取得能力は、 Piagetが想定したよりも幼い年 齢で獲得されることが指摘されてきた。しかしその一方で、すでに完成段階に至っている はず、の小学校高学年児童でさえ、自己中心的反応を示すことがある。なぜ高学年児童も

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3  つの山問題」に失敗するのだろうか。年長児に使用される課題が年少児に対するものより複 雑であるため、高い認知的負荷がかかるからか、あるいは彼らの空間的視点取得能力にも、

依然未発達な部分があるのだろうか。実際、第2章における実験結果から考えると、児童 は仮想的自己に対するイメージ操作がまだ完全ではないために、時として不十分な視点取 得の状態のまま、それに続く情報処理を行ってしまうのではないかと予想される。一方高 齢者は、空間的視点取得能力が必ずしも衰えないことが示され,これまで一般に能力低下 が指摘されてきた原因は,それ以外の認知能力や注意力が低下するためではないかと予想 された.すなわち高齢者は、仮想的自己の移動はほぼ問題なく実行できるが、その後のみ えイメージを生成する過程において失敗してしまうのだろう。また、彼らにみられる不適 切な情報処理の原因として、抑制機能や選択的注意の低下、作動記憶の機能低下なども指 摘できる。

こうした仮説を実証するために、空間的視点取得課題解決に必要な能力を2つ一視点移 動能力とその後に続く情報処理能力ーに大別し、両能力に関連する認知課題を合わせて実 施することで、いずれの能力に未熟さを抱えるのかを明らかにしようと考えた。児童、高 齢者それぞれに対して、空間的視点取得課題以外の課題を合わせて実施し、空間的視点取 得課題の反応時間や正答率などとの関連を分析した。視点移動過程に問題があれば、それ を反映する空間的視点取得課題の反応時間と関連課題との聞に有意な相関が示されるであ ろうし、逆にそれ以外の情報処理過程に問題があれば、主に空間的視点取得課題正答率に 関して相関が示されるだろう。

なお、児童と高齢者の分析は別に行うことにした。これは、使用する課題が児童用と成 人用とで異なること、両者の問題の所在が異なると予想されること、高齢者に関する検討 を大学生との比較で行ったことなどによる。児童を対象とした実験結果を第2,3節で、

高齢者を対象とした実験結果を続く第4,5節で述べる。

2 . 方法(児童の特長に関して)

課 題 :

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空 間 的 視 点 取 得 課 題Jと WISC‑llIの「記号探し課題BJ (Figure  4)、「迷路課題J (Figure  5)3つを用いた。後者2つの実施と得点化は実施マニュアルに従った。空間 的視点取得課題は第l章の実験で使用したものと、装置ならびに手続きとも同じである。

被 験 者 : 小 学5‑6年 生 15名(男8名、女7名)に依頼した。明らかに課題内容を誤解 したと思われる 3名を除き、残り 12名について分析を行った.

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Figure 5 

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迷路課題」の例示問題

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3 . 結果と考察(児童の特長に関して)

空間的視点取得課題の視点位置別平均反応時間は、ほぽ全員が被験児の対面位置である 180度付近を頂点とする山型のグラフを示した。全視点位置を込みにした平均反応時間と 正答率、記号探し課題と迷路課題の得点を被験者ごとに示した(TabIe4)。

被験者ごとの 「空間的視点取得課題」平均反応時間と正答率 ならびに「記号探し課題」と「迷路課題」の得点

Table 4 

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BCDEFGHlJKL 

注:視点取得課題=空間的視点取得課題/記号課題=記号探し課題

各指標間でスピアマンの順位相関を求めたところ、空間的視点取得課題正答率と迷路課 題得点との聞に 5%水準で有意な相関(r=.656)がみられた。それは、並列的な情報処理(視 点移動とみえイメージ形成の同時処理/複数のルート検索)を共通項とするからであろう。

また、反応時間と記号探し課題得点との聞に、同じく 5 %水準で有意な相関(r=.634,P  く0.1)が示された。こちらは情報処理の速さを共通項とするようだ。さらに、空間的視点 取得課題の誤答パターンを分類すると、左右逆転エラーが誤答(312個)中の約6割(186個)

を占めた。

これらより、空間的視点取得でみられる高学年児童の不完全さは、迷路課題が捉えるな んらかの空間的情報処理能力に帰国すると考えた。特にそれは、視点取得後の解答形成過程

に影響するようだ。さらに、記号探し課題の示す認知処理の速さが 反応を速めるだけで 正答率と関係しなかったことからも、ここで問題となる能力は、並列的な情報処理に関わ る能力、あるいはそうした処理を統制する空間的モニタリング能力である可能性が高い。

少なくとも高学年児童は、他視点の取得能力を欠いているわけではないのだろう。

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4 . 方法(高齢者の特長に関して)

被験者:大学生と高齢者を各7名。大学生は 21歳から 23歳までで女性が4名。高齢者

は65歳から 73歳まで。女性は2名であった。

課題 5つの課題を用いた。このうち空間的視点取得課題は、第1章の実験で使用した

ものである。他は、「心的回転課題JCVandenberg dKu 1978の 'MRT'を使用、Figure6)、

「ゴッチャルト ・テストJCWitkin  et  a ,.l 1971の 'E町'を使用、 Figure7)、「符号課題」

C'WAIS‑R'の同名の課題を使用)、「方向感覚質問紙JC竹内 1992の 'SDQ‑S'を使用)で あり、この順に実施した。符号課題は実施マニュアルに従って行い、ほかは次のような手 続きを定めた。心的回転課題とコッチャルト・テストは、 1問/1ページで印刷された冊 子を用い、 l問ごとに 30秒の制限時間で実施した。方向感覚質問紙はA 4用紙2枚に印 刷された 20個の質問への回答を求め、高齢者に対してのみ実験者が読み上げた。高齢者

・大学生とも、 2名から 5名の集団で実施した。

Figure 6 MRTで使われた絵の例

Figure 7  EFTで使われた絵の例

5  .結果と考察(高齢者の特長に関して)

得点化:空間的視点取得課題は、全データの平均反応時間と平均正答率を個人ごとに算 出した。心的回転課題とゴッチャルト・テストは正答数を、符号課題は組点と評価点を指 標とした。方向感覚質問紙は、竹内(1992)の示した2因子別に評定値合計点を求めた(逆 転項目も考慮して方向感覚の良いほど高得点とした)。

年齢群聞の差:年齢群聞の各課題得点の違いを、 t検定を用いて比較した。空間的視点 取得課題の平均反応時間は、大学生が有意に速かった<t=4.32

df=12

, 

Pく.01)。心的回転課 題とゴッチャルト・テストの正答数においては、大学生群が有意に高得点であった(それ ぞれ t=4.48,df=12, Pく.01.t=2.48, df=12, Pく.05)。符号課題は、組点において大学生群が有 意に高かった (t=7.99,df=12, Pく.01)が、評価点では差がなかった。これは、両年齢母集 団からのサンプリングに大きな偏りがなかったことを担保している。空間的視点取得課題 の平均正答率と方向感覚質問紙の2つの評定値合計点に関しては、年齢群問の差がみられ なかった。

課題間相関:空間的視点取得課題の平均反応時間と平均正答率に対して、他の課題得点

間でスピアマンの順位相関係数を年齢群別に算出した。高齢者群においては、空間的視点 取得課題平均正答率と心的回転課題正答数 (R=.87,t=4.00, Pく.05)、同平均反応時間とゴッ チャルト・テスト正答数 (R=.84,t=3.41, Pく.05)の聞に有意相関が、大学生群では、同 平均反応時間と符号課題組点(R=.93,t=5.59, Pく.01)ならびに評価点(R=.85,t=3.56, Pく.01) の聞に有意相関が示された。

これより、高齢者は思考の堅さと情報処理の正確さの点で個人差が大きく、大学生は情 報処理速度の違いが空間認知課題成績に反映されたのだろうと考えた。

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6 . 文献

竹内謙彰 1992方向感覚と方位評定,人格特性及び知的能力との関連.者背心g学研究,40, 47‑53. 

Vandnberg,S.G.& Kuse,A.R. 1978 Mental rotations , a group test of three‑dimensional spatial  visualization. Perceptual Motor Skills, 47,599601.

渡部雅之 2004空間的視点取得は高齢期にも維持される.日本心理学会第68@]大会定表 論文集.p.1118. 

Witkin, H. A.,  Oltman, P. K.,  Raskin, E., & Carp, S.A. 1971 Manual: Embedded Figures Test,  Children's Embedded Figures Test

, 

Group Embedded Figures Test.  Palo Alto

, 

CA: 

Consulting Psychologists Press. 

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