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地方都市の企業における外国人留学生の採用と定着の課題

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Academic year: 2021

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(1)

の課題

著者

門間 由記子, 猪股 歳之

雑誌名

東北大学高度教養教育・学生支援機構紀要

7

ページ

365-373

発行年

2021-03

URL

http://hdl.handle.net/10097/00131245

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1 .留学生の日本における就職活動状況

1.1 近年の日本における就職活動の状況 2020年 4 月入社学生を対象とした「2020年卒採用内 定動向調査/2021年卒採用計画」(ディスコ,2019) によれば,採用について「とても厳しい」「やや厳しい」 と回答した企業が82.9%,前年より内定辞退が増えた とする企業が33.2%と売り手市場にあったことが読み 取れる.同調査によれば大手企業の充足率は84.1%な のに対し,中小企業では67.5%と中小企業は優秀な人 材の確保が難しい状況にある. 2019年度版中小企業白書によれば就業者数299名以 下の中小企業では,大卒予定者の求人数が2015年卒か ら 5 年連続で増加している一方,就職希望者は2017  年卒から減少傾向にあり,2019年の求人倍率は9.9倍 と非常に高くなっており,中小企業の深刻な人手不足 の状態が伺える. 1.2 留学生の日本での就職状況 2017年より全国12拠点でスタートした留学生就職促 進プログラム(以下,留プロ)は,日本で就職を希望 する高度人材としての外国人留学生の日本での就職率 を現状の 3 割から 5 割へ向上させることを目指し,産 官学の連携によるプログラム運営を求めている. 日本学生支援機構(2018)によれば,日本で就職を 希望する留学生は留学生全体の 6 割を占めるが,その うち日本で就職できた学生は 3 割以下となっている. 門間ほか(2018)でも指摘されているが,在学中に学 業と両立しながら行う就職活動は,留学生にとっては 日本人学生以上に多くの困難を伴っており,一因には 留学生の大手企業志向の高さが挙げられる. 日本の企業の99%を中小企業が占めているが,ディ スコ(2019)の調査によれば,外国人留学生の就職し たい企業の規模は業界トップ企業が25.9%,大手企業 が40.5%と合計すると 6 割を超えている.しかし,そ の一方で20.1%が企業規模を問わない,13.4%が中堅 中小企業を希望しており,これらの層とのマッチング がうまくいけば,人材を求めている中小企業と日本で 就職したい留学生はwin-winの関係になり得る. 1.3 留プロの狙い 前述のように留プロは,地方における外国人留学生 の定着を目的の一つに掲げており,各拠点地域での就 職者数はプログラムの達成度を図る 1 つの指標となっ ている.プログラムのカリキュラムには,日本での就 職活動の際に求められるビジネス日本語,企業理解を 促すためのPBL(Project Based Learning)や地元企 業での 2 週間以上のインターンシップが含まれてい る.これらの機会を通じて各拠点の地元企業を知るこ とで,地方都市の企業を就職の際の選択肢の 1 つとす ることを狙いとしている.

【報 告】

地方都市の企業における外国人留学生の採用と定着の課題

門 間 由 記 子

1)*

, 猪 股 歳 之

1) 1 )東北大学高度教養教育・学生支援機構 *)連絡先:〒980-8576 仙台市青葉区川内41 東北大学高度教養教育・学生支援機構 [email protected] 地方都市の中小企業のなかには,言語や文化の相違等の課題はあるものの,自社事業の発展や海外展開を支える 人材として,日本で学ぶ留学生に高い関心を持っている企業もある.本稿では,「留学生就職促進プログラム」に参 加し,宮城県内で高度外国人材として留学生を採用した経験のある企業に対するインタビュー調査に基づき,高度 外国人材の定着に関する課題の分析を行った.その結果,高度外国人材の採用や定着に関する施策や取り組みはあ るものの,それらの情報が必要な地域内の企業に情報が届いておらず,自社のみで高度外国人材の育成に取り組ん でいるために大きな負担となっていること,また,組織内でも採用した高度外国人材に関する情報共有が不十分な ため,高度外国人材が孤立し,信頼関係が構築できず,組織に適応できない場合があることが明らかになった.

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東北大学が事務局を務め,東北学院大学,東北工業 大学,東北福祉大学,宮城学院女子大学の 5 大学,宮 城県,仙台市,宮城労働局の 3 公的機関,東北経済連 合会,仙台商工会議所,宮城県中小企業団体中央会の 3 民間団体の産官学によって構成される東北イノベー ション人材育成プログラム(通称DATEntre,以下 DATEntre)においても,インターンシップや交流会, ジョブフェア等,地元企業との接点を設け,就職の選 択肢となることを企図している. 日本での就職を希望している留学生でも,日本の就 職活動のスケジュールや必要な準備が理解できている 学生は非常に少ない.エントリーシートや能力テスト と 適 性 テ ス ト よ り な るSPI(Synthetic Personality  Inventory)のような適性検査等の対策を講じないま ま,大手ナビサイトに掲載されている企業数社に応募 して終了ということも少なくない.一方,規模を問わ ずに日本で就職したいと考えている学生の場合,接点 があれば地元企業に魅力を感じ,就職につながる可能 性もある.

2 .地方都市の企業と外国人材の関係

2.1 宮城県における外国人労働者の状況 宮城労働局(2018)によれば,宮城県内で働く外国 人労働者のうち,在留資格が専門的・技術的分野は 1,500名超に留まっているのに対し,資格外活動や技 能実習に基づく外国人労働者数は2,900名を越え,約 2 倍となっている.宮城県内において外国人材は,高 度外国人材よりも相対的に,技能実習等人材への需要 が強いことがうかがえる. 宮城県では留学生の就職支援に関する施策として, 2018年より経済商工観光部国際企画課(以下,国際企 画課)で「外国人留学生定着支援事業」と「外国人留 学生インターンシップ受入支援事業」,同雇用対策課 (以下,雇用対策課)で「外国人雇用アシスト事業」 を実施している. いずれの事業も外国人留学生の宮城県内への就職支 援を目的としており,留学生を対象とした就職支援セ ミナーやジョブフェア,受け皿となる企業の開拓,企 業を対象としたビザや異文化理解をテーマにしたセミ ナーの開催,インターンシップの受け皿拡大のための 中小企業を対象とした補助金の支給等を行っている. 国際企画課事業で対象とする留学生は,高専生・大 学生・大学院生だが,雇用対策課事業では専門学校以 上で学ぶ留学生を対象としている.いずれの事業にお いても就職に際しての在留資格は高度人材に該当する 「技術・人文知識・国際業務」となる.しかし実際に は学校種により来日目的や自分の強み,希望職種も大 きく異なっている. 2.2 宮城県内企業が求める高度外国人材 独立行政法人日本貿易振興機構(通称JETRO,以 下JETRO)「高度外国人材活用資料集」によれば,高 度外国人材とは「専門的・技術的分野に相当する在留 資格を有する人材」と定義されているが,本稿では「日 本国内の大学・大学院を卒業・修了し,専門的・技術 的分野に相当する在留資格を有する人材」と定義する. 宮城県内では,日常業務を円滑に進めることのできる 語学力やマネジメント力を有する人材が求められる傾 向にある.とりわけ沿岸部を中心に多くの技能実習生 が働いており,高度外国人材として技能実習生をまと めるマネージャー的役割が求められることもある. 「令和 2 年度宮城県外国人留学生受け入れ状況」に よれば宮城県内で学ぶ留学生のうち,専修学校等では 704名,大学では2,272名が学んでいる.大学で学ぶ学 生のうち92%が東北大学で学ぶ学生であり,多くが大 学院生となっている.大学院を修了した英語スピー カーの学生と日本語での日常的なマネジメント業務を 求める宮城県内の企業は必ずしも親和性が高くない. 宮城県内では毎年多くの高度外国人材が輩出される が,受け皿が十分とは言えない状況となっている.

3 .方法

3.1 定性調査(インタビュー調査) インタビュー調査は 1 社につき60分程度,訪問可能 な企業には訪問し,訪問できない企業にはZoomを使 用し,留学生採用の前と後に関して半構造化面接法で インタビューを実施した.インタビュー項目は,入社 前については採用方法,採用目的,採用前の接点,採 用のポイント,入社後については,業務を進めるうえ での課題,コミュニケーションの取り方,社内の異文

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化理解の進め方,今後のキャリアパス,期待する事柄 とした.インタビュー項目は事前に企業にメールで送 付し,事前にご準備いただいた.入社後の課題につい ては具体例を交えてお話いただき,掘り下げて質問した. 3.2 対象企業の属性 DATEntre主催のセミナーやジョブフェア等に参 加し,宮城県内で高度人材として留学生を新卒採用し ている企業 6 社の採用・人事担当者に対し,2020年 7 月から 9 月にかけてオンラインと対面でインタビュー 調査を実施した(表 1 参照). 今回インタビュー調査にご協力いただいた 6 社のう ち, 2 社が大企業, 4 社は従業員60名以下の中小企業 である.大企業 2 社では人事担当者,中小企業では採 用を担当している社長や経営幹部にお話を伺った.中 小企業では,業務や待遇に関する決定権を持つ社長や 経営幹部が採用・人事担当を兼ねている場合も多く, 業務や待遇に対する不満や不安がある場合,直接状況 を把握することができ,大手企業より改善を図りやす い. 6 社の基本属性は表 1 の通りである. 3.3 対象企業の概要 A社は在日・訪日外国人向けの多言語による映像制 作・発信を主たる事業としており,多くの留学生がア ルバイトしている.初めての外国籍社員y氏も現在の 正社員a氏も学生時代にA社でアルバイトしている. y氏は日本での就職を希望し,就職活動したものの希 望企業から内定を得ることができず,大学院修了後に A社の正社員となった.y氏はA社で 1 年半勤務した 後,大手企業への転職が決まり,a氏がy氏の業務を 引き継ぎ,A社の正社員となった.  オリジナルアプリの開発やシステム構築を主たる事 業とし,海外拠点の構築を検討しているB社では, 2016年より国籍を問わずに若干名の大卒定期採用を 行っている.現在の正社員であり,B社初の外国籍社 員であるb氏は,インターンシップとアルバイトを経 た後,日本の中小企業に勤務したいとの本人の思いと 海外進出を検討しているB社の思いが合致し,採用に つながった.ムスリムであるb氏は入社前に人事担当 者と相談し,飲食の制限やお祈りの時間の確保などを 会社も理解し,業務上の支障もない. プロパンガス販売を軸としたライフライン事業を展 開しているC社は,市場が縮小していることから今後 の新規事業を検討し,日本語N5レベルのc氏をイン ターンシップで受け入れた. 日本語能力試験は最もレベルが高い,「幅広い場面 で使われる日本語を理解することができる」ビジネス レベルのN1から,「基本的な日本語をある程度理解す ることができる」基本レベルのN5まで 5 段階のレベ ルが設定されている.前出の「外国人留学生/高度外 国人材の採用に関する調査(2019年12月調査)」によ れば,企業は留学生に対して内定時には文系 43.5%, 理系では37.8%,入社後には文系 71.8%,理系 64.4% がビジネスレベルの高い日本語能力を求めている. C社では英語を話せる社員はおらず,日本語とボ ディランゲージによって 1 週間のインターンシップを 終えた.他の社員との関係も良好だったため,今後の 新規事業を想定し,c氏の真面目な人柄と基本的能力 の高さを評価し,c氏を正社員として採用した. また,高級果物の栽培を軸に 6 次産業化を進めてい A社 B社 C社 D社 E社 F社 企業規模 50名以下 50名以下 50名以下 50名以下 1,000名以上 1,000名以上 業種 メディア IT 卸・小売 農業 金融 金融 転勤の有無 無 無 無 無 有 有 社内のキャリアパス 単一 単一 単一 単一 多様 多様 大卒定期採用 無 有 無 無 有 有 大卒定期採用人数 0 2~3 0 0 100~120 30~50 ナビサイトの利用 無 有 無 無 有 有 外国籍社員 1名 1名 1名 1名 7名 1名 受け入れ実績 有 無 無 有 有 無 採用者の日本語レベル N3 N1 N5以下 N1 N1 N1 採用者の出身国 インドネシア マレーシア ガーナ 台湾 中国他 中国 採用形態 新卒 新卒 新卒 新卒 新卒 新卒 採用時期 2019年 2018年 2019年 2021年 2020年 2018年 採用目的 海外展開 海外展開 海外展開 海外展開 優秀さ 優秀さ 採用方法 特別選考 特別選考 特別選考 特別選考 一般選考 一般選考 採用前の接点 有 有 有 有 無 無 メンターの有無 無 有 無 有 有 有 入社後の幹部との接点 有 有 有 有 無 有 事前研修 無 無 無 有 有 有 業務の課題 有 有 有 有 無 無 言語の課題 有 有 有 有 無 無 文化の課題 有 有 無 有 無 無 組織の課題 無 無 有 有 無 無 出所:インタビュー調査に基づき筆者作成 表 1  対象企業の属性

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る農業法人D社は,日常的に海外との接点も多く,経 営幹部は英語でもコミュニケーションにも問題ない. しかし,初めての外国籍社員z氏が言語の問題から他 の社員と信頼関係を構築できなかったことを踏まえ, 次の外国籍社員採用時には日本語を重視し,日本語の 堪能なd氏を採用した. 最後に宮城県に本社を置く金融業のE社,F社は毎 年30名以上の大卒定期採用を行っており,E社では 4 年前より若干名の留学生を毎年採用し,F社では 1 年 前にf氏を初の外国籍社員として採用した.

4 .結果

4.1 採用と定着の課題 6 社で採用された留学生のうち,大手企業 2 社(D 社,E社)で採用された留学生は,日本語でのエント リーシートの提出やSPI等の適性検査,複数回の面接 など日本人学生と同じ採用プロセスのなかでも優秀な 成績を修めており,「国籍問わずに優秀」なために採 用されている.人事制度やキャリアパスも確立されて おり,留学生も例外ではない.「留学生だから」では なく,日本語での業務遂行能力や自社の企業文化との 親和性も高く,成績も「優秀だから」採用されたので あり,原則として組織への適応が求められている.  留学生の場合,日本の社会への適応と入社する企業 組織への適応という 2 段階の適応が求められており, 日本人学生以上に適応が難しい.日本での就職を選択 する留学生は,日本の暮らしを好ましいと考え,継続 したいとの思いから日本で就職している.しかし,彼・ 彼女たちが知っている日本は大学であり,一般の地域 や企業よりも外国人に慣れており,ダイバーシティも 浸透している.これに対して地方都市の企業には,海 外への興味・関心のない社員もいる.日本に留学し, 就職した元留学生にとっては,自社内の日本人と大学 時代に出会った日本人とは価値観やダイバーシティの 考え方が大きく異なるため,カルチャーショックを受 けることがある.  高度外国人材の定着には個人の強みを活かせるよう な多様なキャリアパスの利用や構築は効果的な方法の 1 つとなる.しかし,高度外国人材の採用の少ない企 業では,外国人雇用に関する情報やネットワークも乏 しいため,高度外国人材としての強みを活かした人材 育成は,地方都市の中小企業において自社単独での解 決が困難な課題の 1 つとなっている.   4.1.1 言語の課題 6 社のうち,唯一N3以下の学生を採用したC社は, 初めての外国籍社員として大学院卒のc氏を採用し た.業務上,日本語での資格取得が必須であるため, 入社までの半年間に日本語学習を求めていたが,入社 時の日本語レベルはN5以下のままであり,日本語で のコミュニケーションが難しかった. そのため入社後は業務を円滑に進められるように日 本語能力の向上を第一と考え,会社の費用負担で通信 教材を使い,業務として就業時間中に日本語を勉強し ている.熱心に勉強するc氏に当初は社内でも温かい 目が向けられていたが,入社半年後も日本語でのコ ミュニケーションが難しく,雑用以外に担当できる業 務がないのは大きな課題であった.    生活できるようになってからは日本語力が上がって いかないんです.言葉が通じないから任せられる仕 事もなくて.事務所でチラシを折ったり,草取りを したり.雑用ですよね.日本語を覚える気がないの ならうちでは仕事にならないし,社内でも彼の担当 になると「面倒なことを押し付けられた」という感 じになって.このままでは良くないなぁと. 多少ながらも日本語が話せるようになったc氏は,買 い物や電車に乗るなどの日常生活においては困らなく なってきた.そのためそれ以上の語彙が増えず,専門 用語の多い業務の説明は進まなかった. 4.1.2 文化の課題 C社における業務の説明はc氏にとっては難解だ が,他の社員には初歩的な内容を説明しているに過ぎ ない. また,説明を聞いた後にc氏は「わかりました」と 言うものの,自分の取り組む業務について説明を求め ると説明することができず,理解できていないと言え る.説明内容をメモすることもしないため,説明する

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社員は何度も同じことを説明しなくてはならない.こ うした状況が度々起こり,状況の改善や努力の成果が 見られないため,社長も社員も苛立ちを感じるように なってきた.     「わかりました」と答えるけど,わかっていない. 返事と同じ.そこに気づくまでにずいぶん時間がか かりました.メモをしないこともそういう習慣がな いんですよね.自分たちの感覚で考えてしまうから 努力が足りないのではないかと思ってしまうけれど. C社の一員としてc氏を迎え入れたいという社長の 想いから,社員も協力してc氏の住居整備や役所手続 き,買い物などの日常生活のサポートを行ってきた. そこには早く日本の生活に慣れ,戦力になって欲しい との思いもあった.しかし,「わかりました」と言う ものの,実際はわかっていないc氏の日本語学習態度 や仕事に対する姿勢は,C社社長や従業員には努力が 足りないと映った. C社の社長や社員は,c氏に話を聞く時にはメモを 取り,使えなくとも日本語を使い,わからないことは 自分でも調べ,何度も繰り返し練習する「たゆまぬ努 力」を期待していた.しかし,こうしたことを言語化 して伝えたことはなく,当然にそうするだろうという 期待があった.ところがc氏はメモも取らず,自分で 調べることもなく,日本語が不十分だから自分から話 をしない,と社員や従業員が期待していた行動とは真 逆の行動を取った. アットホームな雰囲気で離職率の低いC社では,言 葉にしなくとも当然そのように考え,行動するであろ うと言う暗黙の了解があったが,異なる文化背景のc 氏には当然のことではなかった.   4.2 採用から定着へ 4.2.1 相談窓口の不在 Y氏はc氏と同国の出身で現在も仙台で暮らしてい る.言語の問題もあり,c氏受け入れに際して雇用条 件の調整,来日時の生活準備などは身元引受人的存在 のY氏とDATEntreコーディネーター(以下,コー ディネーター)が社長をサポートする形で進めてきた. Y氏は東北大学博士課程修了後に日本企業に20年以上 勤め,現在も仙台で暮らし,日本語も堪能であり,同 国出身留学生の日本の父親のような存在である. 入社後 1 ~ 2 ヶ月の間はY氏やコーディネーター も頻繁にC社を訪問し,社長やc氏と毎週連絡を取っ ていた.その間は日本語学習も順調に進んでいたため, c氏の育成はC社で行うことができると判断し, 3 ヶ 月目には訪問や連絡の頻度を減少させた. 4 ヶ月目の状況確認時に社長からc氏の状況に関し て「日本語学習のスピードが落ちている」,「彼のため に仕事を作らなくてはならない」,「お客さんになって しまっている」と連絡があった.しかし,コロナウイ ルス感染拡大防止のため,C社も来客を控えており, コーディネーターも訪問することができず,c氏は今 まで通りに日本語学習を続けていた. 5 ヶ月目の状況確認時には,社長はc氏と理解を共 有するためにY氏に同席を依頼し,社内のc氏に対す る現状の認識を伝え,c氏の日本語学習の進捗状況を 確認した.c氏に現状のままでは 1 年後に雇用を継続 することが難しいこと,そのためにも日本語学習を頑 張って欲しいとの思いを伝え,12月の日本語能力試験 (JLPT)でN3を取得できない場合,退職勧告もあり 得ることを本人にも伝えた. 4.2.2 支援サービスの見える化 社長から 5 ヶ月目の面談内容について話を聞いた コーディネーターは,c氏の日本語学習とC社におけ るc氏の育成に活用できる既存のサービスの見える化 を行った. 育成については高度外国人材の採用・定着支援事業 を行っているJETRO,雇用対策課の定着支援メニュー を活用した.JETRO仙台には2020年 4 月より東北地 区担当の高度外国人材躍進推進コーディネーターが着 任したため,C社は伴走型支援を申請し,育成・定着 支援のために定期訪問や業務上の相談に応じてもらう ことになった. 雇用対策課では2018年度より「外国人雇用アシスト 事業」を実施しており,企業向け支援として,外国人 雇用に関するセミナーを開催すると共に,企業相談窓 口を設置している.企業相談窓口では外国人雇用に関

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する様々な相談を受け付けており,通常は有料となる ような専門家の紹介も行っている.こうした複数の機 関を見える化することにより,活用できるサービスや 情報が増え,解決策が見えない孤立した状況を大きく 変えることになった. 4.2.3 日本語学習のサポート 東北大学文学部日本語講座で提供している「みんな のひろば」では,週に 1 回,日本語学習者に対してス ピーキング練習の場を提供している.業務時間中では あるが,日本語学習に力を入れ,社内でもコミュニケー ションが取れるようになってほしいという社長の思い もあり,c氏は 5 月から毎週参加するようになった. 読解や文法の学習に関しては,通信講座に加え,仙台 観光国際協会による日本語教室にも通い始めた.  C社では朝のミーティングの際,日替わりで社員が スピーチしているが,c氏も日本語学習の成果発表・ 定着の場として,週に 1 度,朝の全体ミーティングの 際に今週習ったことを日本語で報告するようになっ た.これによって全員でc氏の日本語学習の進捗度を 把握し,c氏も「日本語を話そう」という意欲が高まり, わからない言葉はメモを取り,確認する習慣がついた. それによって日本語でのコミュニケーションの幅も少 しずつ広がり,営業同行機会も増え,専門用語に触れ る機会も増えることで,C社の業務に対する理解も深 まってきている. さらに学習成果の定着と状況把握のため,コーディ ネーターとも毎週同じ曜日・時間にオンラインで1時 間程度,日本語での会話練習を行っている.みんなの ひろばや日本語講座で勉強したことを報告してもら い,コーディネーターが質問し,c氏が不明な点を英 語も交えて確認している.これによってコーディネー ターはc氏の日本語の習熟度を確認することができ, オンラインで実施しているためC社社員もc氏の日本 語学習の進度を知ることができる. 4.2.4 支援プラットホームの必要性 採用前はY氏やコーディネーターがc氏とやり取り していたため,C社がc氏に直接指示する機会はな かった.しかし, C社の一員として業務に携わるため には日本語の指示を理解してもらうことが必要であ り,初めの第一歩で言葉の壁にぶつかることになった. 日本語ネイティブのC社のメンバーは日本語習得の 難しさが理解できず, 3 ヶ月経過しても指示も伝わら ず,何もできない状況には苛立ちを感じていた. しかし,現状改善のための支援策や相談窓口に関す る情報を持ちえず,解決策が見いだせなかった.その ためc氏採用が失敗だったのではないかという空気と どうにもならない閉塞感が漂っていた.コロナウイル スの影響もあり,コーディネーターやY氏も訪問でき ず,C社だけでc氏の日本語力の向上と育成を行わな ければならない状況が一層,閉塞感を強くしていた. コーディネーターやY氏はもとより,JETROによ る伴走型支援や雇用対策課の相談窓口,みんなのひろ ばなど,c氏の育成に多くの人が関わり,状況の共有 を行う体制を構築することで,C社には複数の相談や 情報収集のチャンネルが可視化された. 支援の見える化をすることで,「C社におけるc氏の 定着」という個人的課題から,「地方都市の中小企業 における高度外国人材の定着」という共通課題として 多様な関係者が関わるようになった.   4.3 定着の課題 4.3.1 言語の課題 D社は高級果物の栽培・販売,栽培技術指導,栽培 技術研究を国内外で行っており,海外でも事業を展開 している.研究・栽培チームのリーダーでチームの採 用を担当するN氏は海外での勤務経験があり,英語も 堪能である.D社では研究を通じて接点のある教育関 係者から,宮城県内の大学で学び,日本での就職を希 望する英語スピーカーの高度外国人材z氏を紹介さ れ,日本語を習得することを条件に雇用した. 首都圏での就職を希望していたz氏だが,日本人配 偶者を持ち,家族が増えることがわかっており,教員 から紹介された就職でもあることから,D社ではz氏 が日本語習得に努め,D社の業務にも積極的に取り組 んでくれるだろうと考えていた. しかしz氏は英語でコミュニケーションを取れる人 のみと会話とメールで業務連絡を取り,社員が日本語 で話しかけても「わからない」と言って会話が終了し

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てしまうため,話しかける人もいなくなっていった. N氏が長期出張などで不在の際は終日誰とも話さず, z氏の業務内容を把握できない状態となっていた. 4.3.2 チームで働くことへの理解 中小企業であるD社では,総合職として業務全般に 関わることを前提としてz氏を採用した.  データを取るのは地道な作業で,栽培スタッフと協 力しながら進めていくんだけど,そういう作業はや らないから.言葉が通じないって言うんだけど,栽 培スタッフは地元のおじいちゃんだからね.チーム で,みんなでやらないと(データを取ることが)で きないんだけどね. z氏は入社時から給与や業務内容に不満を持ってお り,自分はデータアナリストであるとし,総合職とし て多様な業務に取り組むことを受け入れられないでい た.そのため日本語がわからないことを理由にデータ 分析以外の仕事に積極的に取り組まず,データ取得の ための日々の作業や管理を他の社員と一緒に行い,人 間関係や信頼関係を構築するための努力をすることも なかった.D社の総合職はN氏のように栽培スタッフ のマネジメントも行い,チームとして仕事の成果をだ している.しかしz氏は専門職にこだわり,チームマ ネジメントの観点はないため,z氏の仕事ぶりを評価 する人は少なく,D社内でも孤立していった. 4.3.3 チームでのコミュニケーション 入社して半年が経過した頃,z氏のデータ解析が十 分ではなく,N氏は改善を求めたが,z氏はやり直し の指示に従わず,N氏の指示が悪いとして非を認めな かったことがあった.   解析方法についてもっと深く話したいし,こちらの 要望も伝えたいんだけど,そこまで細かいところを 伝える英語力はない.彼にすれば言われた通りで しょってなるんだろうけれど,そうじゃない.なぜ こうなったのか,これ以外の方法はないのか.詳し く聞かないとわからないんだけど,そこまでの話が できない.   英語が堪能なN氏であるが,専門的な事柄を英語で 指示するには英語力が足りない.そのためz氏に日本 語能力を求めたが,z氏は受け入れることができな かった.D社にとってz氏が必要不可欠な存在ではな いため,z氏の要望に応えるのは難しいことを伝え, 選択を委ねた. 日本の企業では多くの仕事にチームで取り組むた め,社内で仕事ぶりを評価され,信頼関係を構築でき なければ円滑に業務を進めることは難しい.人事異動 の少ない中小企業では特に信頼関係の構築は重要であ り,自分の要求だけを通そうとするz氏の態度はD社 の企業文化には適さず,人間関係を構築することは難 しかった. 4.3.4 定着を見据えた採用へ N氏はz氏が社内に適応できなかった経験から,高 度外国人材採用時には日本語を習得し,D社のメン バーとコミュニケーションを取ろうとする歩み寄りの 姿勢や自分の専門を押し付けず,自社の業務を理解し, 適応してくれる柔軟性が重要であると考え,二人目の 高度外国人材となるd氏採用時には,日本語レベルや 専門性を事前の面接で確認したうえで 1 週間のイン ターンシップを実施した.d氏の研究とD社の研究内 容は非常に近く,d氏の日本語もN1レベルと問題な い.z氏の反省を踏まえ,D社の業務内容や海外展開 の方針,社内の雰囲気や企業文化に対して理解を深め てもらい,お互いに誤解がないことを確認した上で面 接やエントリーシート提出などの採用ステップを進め た. z氏採用時は自社だけで手続きを進めたD社だが, d氏採用に際してはコーディネーターを通じてイン ターンシップ期間中は国際企画課のインターンシップ 補助金,採用決定後はJETROの伴走型支援事業を活 用し,雇用対策課の相談窓口も活用しながら入社手続 きを進めている.C社同様,相談できる機関を複数持 ち,自社だけの課題としてではなく,「地方都市にお ける高度外国人材の定着」としてd氏の採用に取り組 んでいる.

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5 .考察

インタビューの結果,地方都市において大手企業は 留学生を総合職として「国籍問わずに優秀」だから採 用し,日本人同様のキャリアパスを期待しているのに 対し,中小企業では「優秀な留学生」だから採用し, 留学生としての強みを活かして自社の新規事業で活躍 して欲しいと考えていることがわかった.中小企業で は社長や経営幹部との距離が近く,組織もフラットで 柔軟性が高い.大手企業と比べ,組織や規範を変更し やすいこともあり,外国籍社員の組織への適応を求め るのではなく,A社,B社,C社のように状況を見な がらお互いに歩み寄り,組織文化も形を変え,インク ルージョンを目指している. 外国人材の採用に関して,五十嵐(2018:65)は「少 なくない数の日本企業は,組織を構成する人材の国際 化を望んではいるものの,外国人の雇用を増やすため の特別雇用枠や彼らを活用するための具体的なキャリ アアップコースを用意していない」と指摘している. 前述のように地方都市の中小企業では,採用において 特別枠を設けており,入社後のキャリアアップコース の設定も必要があれば検討したいと考えているが,支 援策も見えておらず,どうしたら良いかわからないと いう状況にあった. 自治体においても様々な支援策が提供されている が,中小企業では専従の人事担当者がいるわけではな く,支援策の情報も届かず,何をどのように使ったら 良いかがわからないため,自分たちだけで取り組み, 出口のない閉塞感を感じている状況であった.これは 高度外国人材にとっても同様であり,本人は努力して いるつもりでも文化の相違から「努力が足りない」と 判断されることもある.コミュニケーションが取れな い状況では,相手がどのように感じ,自分がどのよう に動けば良いか先が見えず,信頼関係の構築も難しく, 孤立してしまっていた. 2019年には文部科学省・経済産業省・厚生労働省に よって「外国人留学生の就職や採用後の活躍に向けた プロジェクトチーム」が設立され,採用だけではなく, 定着に関しても議論されるようになってきた.厚生労 働省(2018)「高度外国人材にとって魅力ある就労環 境を整備するために―雇用管理改善に役立つ好事例集」 では,定着に際して「メンター制度をはじめ各種相談 体制の充実度」や「キャリアアップできるような制度」 を求める回答が高い割合を占めており,今後は各社で の実施が期待されている. しかし,地方都市の中小企業が,自社だけでこうし た就労環境を整備することは現実的には非常に難し い.相談窓口として自治体やJETRO,大学など複数 の機関と接点を持ち,自社が採用した人材に必要な支 援を共に検討することで,課題を複眼的に捉え,自社 だけでは見えてこなかった解決策を見出せるようにな る.複数機関が関わることで,企業,高度外国人材双 方が誰にも相談できずに課題を抱え込むという状況が 改善され,今後の支援の方向性が見えてくる. 地方都市の中小企業における高度外国人材の定着に は,相互の言語や文化,業務に対する理解など複合的 な取り組みが必要となっている.大卒定期採用を行っ ておらず,専従の人事担当者がいないような企業に とっては,留学生の新人育成は,自社で単独で取り組 むには大きすぎる課題ともなりうる. 複数の機関が行っている支援策にアクセスできるよ う見える化を図ることは,高度外国人材の定着が個人 的な課題ではなく,「地方都市の中小企業における優 秀な人材の確保」という社会的課題として,留学生採 用を検討している企業の負担を軽減し,実際の採用人 数の増加につながる.それによって留学生にとっても 就職の選択肢が広がり,地方都市の企業においても事 業の可能性が広がり,双方にとってwin-winの関係が 構築できると考える.今後も各社の調査を継続し,留 学生の定着において必要な支援策について検討をすす めていきたい. 参考文献 株式会社ディスコ(2020)「新卒採用に関する企業調査 (2020  年 7 月調査) 2021  年卒・新卒採用に関する企 業 調 査 - 中 間 調 査 」https://www.disc.co.jp/wp/ wpcontent/uploads/2020/07/2021_chukanchosa_ k-.pdf(閲覧2020/10/9). 株式会社ディスコ,「外国人留学生の就職活動状況」(2020)   h t t p s : / / w w w . d i s c . c o . j p / w p / w p c o n t e n t /

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uploads/2020/08/fs_2020-08_chosa.pdf(閲覧 2020/10/9). 株式会社ディスコ,「外国人留学生/高度外国人材の採用 に関する調査」(2019)   h t t p s : / / w w w . d i s c . c o . j p / w p / w p - c o n t e n t / uploads/2020/01/2019kigyou-global-report.pdf( 閲 覧 2020/12/20). 公益財団法人福岡アジア都市研究所(2014)「グローバル 人材活躍型都市形成に向けた外国人留学生の就職支 援に関する調査研究報告書」. 福岡昌子・趙康英(2013)「グローバル人材育成と企業の 留学生雇用に関する研究」,『三重大学国際交流セン ター紀要』第 8 号,pp.19-38. 五十嵐泰正(2010)「外国人『高度人材』の誘致をめぐる 期待と現実―日本の事例分析」,『労働再審 2 -越 境する労働と<移民>』,大月書店,pp.51-78 . 宮城県留学生交流推進会議「令和 2 年度外国人留学生受 け入れ状況」   https://www.insc.tohoku.ac.jp/MRKS/pdf/ Nationality.pdf 守屋貴司(2012)「日本企業の留学生などの外国人などの 外国人材用への一考察」,『日本労働研究雑誌』,第54 号第 6 巻,pp.29-36. 日本貿易振興機構(2018)「新輸出大国コンソーシアム事 業 高度外国人材活用資料集」   https://www.jetro.go.jp/ext_images/theme/hr/data/ data.pdf 末廣啓子(2013)「地方圏における外国人留学生の就職に 関する実態と課題―栃木県における外国人留学生 のキャリアデザインと企業のグローバル化をめぐっ て」,『宇都宮大学教育学部紀要』,第63号第 1 巻,  pp.279-295.

参照

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