Nagoya City University Academic Repository
学 位 の 種 類 博士 (薬科学) 報 告 番 号 甲第1767号 学 位 記 番 号 第364号 氏 名 佐藤 由美 授 与 年 月 日 令和 2 年 3 月 31 日 学位論文の題名 外来がん患者の緩和ケアにおける薬局薬剤師の役割の検討 論文審査担当者 主査: 鈴木 匡 副査: 粂 和彦, 頭金 正博, 松永 民秀, 大澤 匡弘
名古屋市立大学学位論文
外来がん患者の緩和ケアにおける薬局薬剤師の役割の検討
令和元年度( 2020 年 3 月)
名古屋市立大学大学院薬学研究科 神経薬理学分野 佐藤 由美
① 本論文は 2020 年 3 月名古屋市立大学大学院薬学研究科において審査され たものである。 主査 鈴木 匡 教授 副査 粂 和彦 教授 頭金 正博 教授 松永 民秀 教授 大澤 匡弘 准教授 ② 本論文は、学術情報雑誌に収載された次の報文を基礎とするものである。 1. Yumi Satoh, Masahiro Ohsawa: Patients’ awareness of palliative care in a
community pharmacy
Jpn. J. Pharm. Palliat. Care Sci., 12, 23-28 (2019)
2. Yumi Satoh, Kazuhiko Kume, Masahiro Ohsawa: Changes in quality of life of cancer outpatients at community pharmacies
Jpn. J. Pharm. Palliat. Care Sci., 13, 31-36 (2020)
③ 本論文の基礎となる研究は、粂教授の指導の下に名古屋市立大学大学院薬 学研究科において行われた。
目次 略語一覧 要旨 ... 1 背景 ... 6 第一章 薬局利用患者におけるがん医療の緩和ケアに関する意識調査 ... 9 1. 目的 ... 9 2. 方法 ... 10 1)調査期間と対象 ... 10 2)調査方法、調査項目 ... 11 3)統計学的処理 ... 11 3. 結果 ... 13 1)回答者背景 ... 13 2)緩和ケアの認知度 ... 14 3)緩和ケアのイメージ ... 14 4)緩和ケアの対象 ... 15 5)緩和ケアを開始できると考える時期 ... 15 6)緩和ケアの説明を受ける時期の希望 ... 15 7)緩和ケアを開始する時期の希望 ... 16 8)緩和ケアが提供されると考える施設 ... 19 4. 考察 ... 20
第二章 薬局を利用する外来がん患者のQOL と薬局薬剤師の関わりについての調査 ... 25 1. 目的 ... 25 2. 方法 ... 27 1)調査期間と対象 ... 27 2)健康関連 QOL 尺度 SF-8 ... 27 3)手順及び評価方法 ... 28 4)薬局薬剤師に対するアンケート調査 ... 35 5)統計学的処理 ... 35 3. 結果 ... 35 3 - 1.薬局を利用する外来がん患者の QOL 調査 ... 35 1)対象患者の背景 ... 35 2)外来がん患者の QOL ... 36 3)外来がん患者と国民標準の QOL の比較 ... 37 3 - 2.薬局を利用する外来がん患者の QOL 変化と薬局薬剤師の介入の影響 ... 38 1)対象患者の背景 ... 38 2)外来がん患者の QOL の変化 ... 39 3)薬局薬剤師の介入が外来がん患者の QOL 変化に及ぼす影響 ... 39 3 - 3. 薬局薬剤師ががん患者からの情報収集において困難と感じること ... 43 4. 考察 ... 44
結論・展望 ... 49 謝辞 ... 51
略語一覧
WHO: World Health Organization 世界保健機関 QOL: Quality of life 生活の質
SF-8: Medical Outcomes Study 8 Form Health Survey Japanese version
PF: Physical functioning 身体機能 RP: Role physical 日常役割機能(身体) BP: Body pain 身体の痛み GH: General health 全体的健康感 VT: Vitality 活力 SF: Social functioning 社会生活機能
RE: Role emotional 日常役割機能(精神)
MH: Mental health 心の健康 PCS: Physical component summary 身体的健康
MCS: Mental component summary 精神的健康 JP: Japanese population-based sample 国民標準値
1 要旨
がん医療において、積極的治療と同様に Quality of life ( QOL )の改善も
重大な治療目的の一つである。緩和ケアとは生命を脅かす疾患に直面している 患者とその家族の QOL を改善することであるが、日本では 2012 年に第 2 期がん対策推進基本計画の重点課題の一つとして、がんと診断された時からの 緩和ケアが盛り込まれた。これまでにがん患者に対する緩和ケアの充実のため に様々な取り組みが行われているが、本邦において緩和ケアの認知や理解は進 んでおらず、その普及は十分とは言い難い。平成 28 年度のがん対策に関する 内閣府世論調査では、がん医療における緩和ケアについて、「よく知ってい る」人が 26.2 % 、「言葉だけは知っている」人が 39.2 % 、「知らない」人が 34.0 % という結果であった。緩和ケアが普及しない理由の一つとして、がん患 者や家族に緩和ケアに関する情報や医療が適切な時期に提供されていないこと が考えられる。 近年、がん治療は入院から外来治療に大きくシフトしており、保険薬局 (薬局)においてがん患者に対応する機会が今後さらに増加すると予想され る。従って外来がん患者が QOL を維持しながら治療を継続していく為には、 薬局薬剤師がいかにがん患者を支援していくかが非常に重要になってくる。 そこで本研究では、市民に身近な存在である地域の薬局薬剤師による緩和 ケアの啓発及び実践を普及することを最終的な目的として、患者の QOL を薬 局で評価し、その運用を通じた薬局における介入の有効性について実地検証す ることを目的とする。 1. 薬局利用患者におけるがん医療の緩和ケアに関する意識調査
2 緩和ケアに対する認知度向上や正しい理解を促すために、薬局薬剤師が薬 局を利用する患者に対して緩和ケアの正しい情報を提供することは有効な手段 の一つと考えられる。薬局薬剤師が適切な情報提供を行うためには、薬局利用 患者が緩和ケアに対してどの様な考えを持っているのかを把握する必要があ る。しかし、これまでに一般市民やがん患者における緩和ケアの認知度や理解 度に関する調査報告はあるが、薬局利用患者を対象にした調査はない。そこ で、薬局薬剤師が患者の緩和ケアに関する認識や希望に即したケアを提供する ために、薬局利用患者を対象にがん医療における緩和ケアに関する認識や、緩 和ケアの情報提供の希望時期について、アンケート調査( 7 項目)を行っ た。本研究は、名古屋市立大学医学研究科及び医学部附属病院医学系研究倫理 審査委員会にて倫理審査の承認(管理番号60160040)を得て行った。 2015 年 5 月~ 6 月、10 月~ 11 月の計 4 か月間、スカイ調剤薬局本郷 店を利用した成人患者(がん罹患の有無を問わず)のうち、同意を得られた 209 名に対し無記名、選択式アンケートを行い、全て回収した。そのうち回答 に不備がある8 件を除く 201 件を集計した。「緩和ケアの説明希望時期」につ いては、がん診断時が 58.4 % 、身体的苦痛が出てきた時が 20.1 % 、積極的 治療困難時が 13.4 % であり、説明不要は 3.3 % であった。「緩和ケアはどの 段階から始められると思うか」については、がん診断時が 44.4 % 、積極的治 療困難時が 34.3 % 、がん治療と同時が 16.4 % であった。「緩和ケアを受けた い時期」についてはがん診断時が 44.5 % 、身体的苦痛が出てきた時が 30.1 % 、積極的治療困難時が 18.2 % 、緩和ケアは不要であると回答した者が 2.4 % であった。 本調査では、半数近くの回答者が緩和ケアはがん診断時から受けられると 考え、早期から緩和ケアの情報提供や緩和ケア導入を望んでいる事が結果とし
3 て得られた。しかし、自己申告による緩和ケアに対する認知度に関わらず、緩 和ケアががんと診断された直後から治療と同時に開始できるケアであるという 認識が十分に普及していないことが示唆された。 2. 薬局を利用する外来がん患者の QOL と薬局薬剤師の関わりについての調査 がん患者の QOL について数多くの報告があるが、薬局を利用するがん患 者の QOL に注目した調査は行われていない。そこで健康関連 QOL 尺度 SF-8 を用いて薬局を利用するがん患者の QOL を調査した。さらに、 QOL 評価 後の薬剤師の介入ががん患者の QOL に及ぼす影響についても調査した。本研 究は、名古屋市立大学医学研究科及び医学部附属病院医学系研究倫理審査委員 会にて倫理審査の承認(管理番号 60160041 )を受けて行った。 2016 年 1 月~ 2018 年 2 月、愛知、三重県内の 14 薬局にて、同意を得 られたがん患者を対象に SF-8 による自己記述式調査を初回(薬局内)及び 3 か月後(自宅に郵送)に行った。初回調査時、通常の服薬指導に加えて薬局薬 剤師が介入を行った場合には、その内容を薬学的介入(用量調整、副作用管 理、支持療法などの処方提案、医師へのフィードバックなど)、関連する他職 種の情報提供や紹介、その他の3 項目からの選択にて収集した。各尺度スコア を性別、年齢別( 60 歳未満 vs 60 歳以上)及び SF-8 の国民標準値と比較し た。各尺度スコアの変化を年齢別、薬剤師による介入群/非介入群別に行っ た。調査期間終了後、参加薬剤師に対して、がん患者からの情報収集のしやす さについてアンケート調査(選択式、複数回答)を行った。 (1)薬局を利用する外来がん患者の QOL 調査 全回答 129 件のうち記入不備 3 件を除く 126 件について解析を行った。 がん患者の QOL は全ての項目で性別、年齢別の差は認められなかった。国民
4 標準値との比較においては、体の痛み( BP )を除いた全ての項目でがん患者 のスコアが標準値より有意に低かった。 ( 2 )薬局を利用する外来がん患者の QOL 変化 初回回答 129 名のうち、 3 か月後に 70 名から回答が得られた。そのう ち、薬剤師介入群 42 件、非介入群は 28 件だった。薬剤師によるがん患者へ の介入内容は薬学的内容( 59.5 % )、がん相談支援センターなど他職種の情報 提供、紹介( 14.3 % )、その他(栄養相談、運動療法、傾聴など) ( 26.2 % )であった。 3 か月後の変化を調べたところ、全体、 60 歳以上及び介入群の BP が有 意に悪化した。また、心理的な理由で仕事や普段の活動に問題があるか否かを 示す精神的日常役割機能( RE )は介入群のみで有意に改善した。 ( 3 )薬局薬剤師によるがん患者からの情報収集 参加薬剤師( 13 名中 10 名回答)ががん患者から聴取しやすいと考える 情報は、疼痛の有無( 10 名)、がん治療内容( 9 名)であった。精神的問題 については聴取しやすい( 2 名)、聴取しにくい( 1 名)、どちらでもない ( 7 名)だった。 薬局利用がん患者の QOL は広領域で低く、BP は短期間で有意に悪化し た。痛みによる QOL の悪化を改善するため、薬局薬剤師による定期的疼痛ア セスメントと適切な薬学的介入が今後の課題である。 今回、薬局薬剤師はがん患者から精神的問題を聴取しやすいと考える結果 とはならなかった。しかし介入群においては、RE は介入 3 か月後に有意に改 善していた。薬局薬剤師が患者の精神的問題に積極的に介入することで、精神 的側面の QOL の 改善が見込まれる可能性が示唆された。
5 3. まとめ 薬局を利用する患者においては、約半数はがんと診断された時から緩和ケ アを開始できると考え、患者自身も早期から緩和ケアの情報提供や導入を望む 結果となった。しかし、自己申告による緩和ケアについての認知度が高くて も、緩和ケアについて良く理解しているわけではない可能性が示された。従っ て、薬局を利用する患者に対しても、緩和ケアに関する教育的介入が必要であ り、そのためには薬局薬剤師が緩和ケアに関する適切な情報提供を行うことが 重要であることが示唆された。 また、薬局を利用する外来がん患者の QOL は国民標準に比べて全般的に 低く、特に疼痛に関するQOL は短期間で有意に悪化していた。一方、精神的 日常役割機能領域の QOL は、介入群のみで改善を示した。本調査では、外来 がん患者が QOL を維持しながら治療を継続することに薬局薬剤師の介入が十 分寄与している結果とはならなかったが、薬局薬剤師が外来がん患者の QOL を評価し介入することで、精神的領域の QOL を向上する可能性が示唆され た。外来がん患者の QOL 改善に薬局薬剤師が寄与するために、今後は薬局に おける定期的な QOL 評価に基づく薬局薬剤師の患者介入ががん患者の QOL に及ぼす影響についてより長期的、詳細に調査する必要がある。
6 背景
がん医療において、がんの根治と同様、患者の Quality of life ( QOL :生
活の質)の改善も重大な治療目的の一つである。がんに伴う苦痛は、痛みやだ るさなどの身体的苦痛、不安やうつ状態などの精神的苦痛、仕事や家庭内の問 題、経済的問題などの社会的苦痛、そして人生の意味への問いや死の恐怖など のスピリチュアルペインといった 4 つの側面をもつトータルペイン(全人的 苦痛)として捉えていく必要がある1)。世界保健機関( WHO )は、緩和ケア とは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、 痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に 発見し、的確なアセスメントと対処を行うことによって、苦しみを予防し、和 らげることで、QOL を改善するアプローチである、と 2002 年に定義づけた 2)。本邦においては、第 2 期がん対策推進基本計画の重点課題の一つに、がん と診断された時からの緩和ケアが盛り込まれた3)。しかし、平成 28 年度のが ん対策に関する内閣府世論調査では、がん医療における緩和ケアについて、 「よく知っている」人が 26.2 % 、「言葉だけは知っている」人が 39.2 % 、 「知らない」人が 34.0 % という結果であり、本邦において緩和ケアの認識が 十分に普及しているとは言い難いことが示されている4)。 超高齢社会の到来によるがん患者の増加や近年の医療の進歩に伴い、抗が ん治療は入院から外来による治療にシフトする傾向にある5-7)。これに伴い、保 険薬局(薬局)において、内服抗がん薬、化学療法における支持療法薬や疼痛 治療に関する処方を必要とするがん患者に対応する機会が今後さらに増加する ことが予想される。このような流れの中、厚生労働省は 2015 年に「患者のた めの薬局ビジョン」を策定し、強化すべき薬局機能の一つに、高度な知識や臨
8 る患者の緩和ケアに対する理解や考えを把握し、患者の要望に沿った緩和ケア の提供を実施するために、薬局を利用する患者のがん医療における緩和ケアに 関する意識調査を行った。さらに、薬局を利用するがん患者の QOL を維持・ 向上するために効果的な薬剤師の介入を明確にするために、薬局を利用するが ん患者の QOL を調査し、患者の QOL に対する薬局薬剤師の対応が及ぼす影 響について検証を行った。 本研究は、地域包括的な緩和ケアの提供を可能にするシステム構築の礎と して、市民に身近な存在である地域の薬局薬剤師による緩和ケアの啓発及び実 践の普及を最終的な目標とし、がん患者を対象とした緩和ケアにおける薬局の 役割を明らかにするための調査である。
9 第一章 薬局利用患者におけるがん医療の緩和ケアに関する意識調査 1. 目的 本邦において、がん医療における緩和ケアへの認識や理解を普及させるた めに、これまでにさまざまな取り組みが行われている。2007 年の第 1 期がん 対策推進基本計画にて、重点的に取り組むべき課題として緩和ケアの推進が掲 げられ11)、2012 年の第 2 期同計画では、がんと診断された時からの緩和ケア の推進が盛り込まれた3)。さらに 2018 年の第 3 期同計画では、がんになって も自分らしく生きることのできる地域共生社会を実現する「がんとの共生」が 全体目標に掲げられた9)。 がん医療における緩和ケアの重要性が注目されるにもかかわらず、緩和ケ アについての国民における認識は不十分であり、正しく理解されているとは言 い難い。アイルランドで行われた緩和ケアに関する一般市民の意識調査では、 緩和ケアという言葉は知っていても、多くの人はその内容を知らず、緩和ケア は終末期や高齢者のための医療という認識であることが示された12)。イタリア 市民の緩和ケアに関する意識調査では、「緩和ケア」という言葉を聞いたこと がないと答えた割合は 41 % であった13)。さらに 2011 年に実施された日本に おける一般市民対象の意識調査では、緩和ケアの知識がないと答えた割合は約 63 % であった14)。 緩和ケアの認識や理解が普及しない理由として、死について語ることをタ ブー視する風潮、緩和ケアについての情報不足、緩和ケアに対する誤解、緩和 ケアの医療資源が都市部に集中し地方に提供されにくいこと等が挙げられてい る12-16)。さらに、適切な時期にがん患者や家族に緩和ケアの説明や提供がなさ れていないことも緩和ケアが正しく理解されていない原因であると報告されて
10 いる17)。また、緩和ケアについて、医療者と患者、家族間で話し合う機会が限 られていることも、早期からの緩和ケア導入が普及しにくい理由の一つである 17)。 緩和ケアに対する認知度向上や正しい理解を促進するために、薬局薬剤師が 薬局を利用する患者に対して緩和ケアの情報を提供することは有効な手段の一 つである。薬局薬剤師が適切な情報提供を行うには、薬局利用患者が緩和ケアに 対してどの様な考えを持っているのかを把握する必要がある。複数の診療科や 医療機関からの処方箋を応需する薬局には、様々な疾病を抱えた患者が来局す る 18)。多様な疾病を抱える薬局利用患者の緩和ケアに対する認識は、健常人を 含む一般市民やがんに限定した患者集団の認識とは異なる可能性がある。しか し、これまでに一般市民やがん患者における緩和ケアについての認識や理解に 関する報告はあるが 12-16)、薬局利用患者における緩和ケアに関する認識や理解 を調査した報告は無い。また、がん患者に緩和ケアを導入するタイミングについ ての患者遺族を対象とした調査報告はあるが 17)、自分ががんと診断された時、 医療者からの緩和ケアに関する情報提供の希望時期について調査された報告は 無い。そこで薬局を利用する患者のがん緩和ケアに対する認識を把握するため に、薬局利用患者を対象にがん医療における緩和ケアに関する認識や、緩和ケア の情報提供の希望時期についてアンケート調査を行った。 2. 方法 本研究は、名古屋市立大学医学研究科及び医学部附属病院医学系研究倫理 審査委員会にて倫理審査の承認を取得した(管理番号 60160040 )。 1 )調査期間と対象 2015 年 5 月から 6 月、10 月から 11 月の計 4 か月間に、スカイ調剤薬
11 局本郷店において実施した。当該薬局は乳腺科病院、婦人科医院、眼科医 院の近隣に立地し、主にこれらの医療機関から処方箋を応需していた。処 方箋調剤を受けるために当該薬局に来局した患者(がん/非がん問わず) に対してアンケート調査を行った。除外項目は、心身の特性により質問票 に回答することが困難な患者及び未成年の患者とした。 2 )調査方法、調査項目 調査の目的と倫理的配慮について説明し、調査に同意を示した患者に対し て質問票を薬局内で配布した。質問票は年代、性別、診療科及び質問 7 項目 からなり、個人を特定できる情報は含まれていない。回答は無記名自己記述に よる選択式とした。質問内容及び回答を表 1 に示す。なお、質問①、④以外は 複数回答可とした。 質問①での回答をもとに、緩和ケアの自己申告による認知度別に、緩和ケ アについて良く知っている集団を very aware 群、聞いたことはあるが良く知ら ない集団を aware 群、知らない集団を unaware 群とした。 3 )統計学的処理 緩和ケアの認知度別の群間の比率の差は Fisher の正確検定で解析し、有意 水準は p < 0.05 とした。すべての統計解析には EZR ソフトウエアを使用し た。EZR は R 及び R コマンダーの機能を拡張した統計ソフトウエアであ り、自治医科大学附属さいたま医療センター血液科のホームページで無償配布 されている19, 20)。
15 ( 24.9 % )、「病気療養中の社会的支援」が 9 名( 4.5 % )、「わからない」 が 26 名( 12.9 % )であった。また、自己申告による緩和ケアの認知度別で は、緩和ケアを「死期が迫った人のための医療行為」とイメージする者の割合 は very aware 群で最も高く( 39.5% )であった。「病気療養中の社会的支 援」と回答する割合は いずれの群においても低く 8% 未満であった。 4 )緩和ケアの対象(表 3 - 1 、質問③) 緩和ケアを受ける対象に対する設問では、「患者本人」と答えた者は 169 名( 84.1 % )、「患者家族」が 75 名( 37.3 % )、「分からない」が 21 名 ( 10.4 % )であった。 5 )緩和ケアを開始できると考える時期(表 3 - 1 、質問④) がん医療において緩和ケアを開始できると考える時期については、「がん治 療と同時」が 90 名( 44.8 % )、「がんと診断された時から」が 32 名 ( 15.9 % )、「積極的ながん治療が困難な段階になってから」が 69 名 ( 34.3 % )であった。自己申告による緩和ケアの認知度別では、very aware 群において「積極的ながん治療が困難な段階になってから」の回答割合が 51.2 % であり、他の群より高い結果であった。 6 )緩和ケアの説明を受ける時期の希望(表 3 - 2 、質問⑤) がん医療において、緩和ケアに関する詳しい説明を受けたい時期について 複数回答で調査を行ったところ、「がんと診断された時」が 118 名 ( 58.7 % )、「身体的苦痛が出てきた時」が 55 名( 27.4 % )、「精神的苦痛 が出てきた時」が 40 名( 19.9 % )、「積極的ながん治療が困難になってきた 時」が 26 名( 12.9 % )であり、説明は「不要」と答えた者は 7 名 ( 3.5 % )であった。自己申告による緩和ケアの認知度別では、「がんと診断 された時」と答えた割合が最も高かったのは unaware 群( 73.9 % )で、「積
16 極的ながん治療が困難になってきた時」と答えた割合が最も高かった群は very aware 群( 30.2 % )であった。 7 )緩和ケアを開始する時期の希望(表 3 - 2 、質問⑥) がん医療を受ける際に自分自身が緩和ケアを開始したい時期については、 「がんと診断された時」が 93 名( 46.3 % )、「身体的苦痛が出てきた時」が 65 名( 32.3 % )、「精神的苦痛が出てきた時」が 60 名( 29.9 % )、「積極的 治療が困難になってきた時」が 36 名( 17.9 % )であり、緩和ケアは「不 要」と答えた者は 5 名( 2.5 % )であった。自己申告による緩和ケアの認知 度別では、「がんと診断された時」と答えた割合が very aware 群( 34.9 % ) において最も低く、順に aware 群( 42.9 % )、 unaware 群( 65.2 % )とな った。また、「積極的ながん治療が困難になってきた時」と答えた割合が最も 高かったのは very aware 群( 32.6 % )であった。
20 今回の結果から、薬局を利用する患者において、「緩和ケア」という言葉は 認知されているものの、その内容や目的の理解は不十分であることが明らかに なった。2019 年に報告された一般市民の緩和ケアに関する認知、認識及び印象 についてのアンケート報告によれば、近年緩和ケアの分野は急速に拡大してい るにもかかわらず、一般市民の緩和ケアに関する認識や知識は全世界的にあま り浸透していない事が示されている21)。アイルランドの一般市民における調査 では、「緩和ケア」という言葉を聞いたことがある者の割合は 83% であった にもかかわらず、その大半は緩和ケアの意味についてほとんど、または全く知 識が無いという結果であった12)。カナダの一般市民の意識調査では、「緩和ケ ア」という言葉を知っている者の割合は 75.3% であるにもかかわらず、緩和 ケアについて正しく定義できたのはそのうち 48% のみという結果であった 22)。これら先行研究の結果は、一般市民の緩和ケアに関する認知と実際の理解 や認識との間にはギャップがあることを示しており、一般市民に対する緩和ケ アに関する教育的介入の必要性を強く示唆している21)。 今回の調査においては、「緩和ケア」という言葉を知っている回答者の割合 が約 77 % となった。本邦では、2012 年の第 2 期がん対策推進基本計画以 降、がんと診断された時から緩和ケアを提供することの推進や、がん患者の就 労を含めた社会的な問題の解決が重点的に取り組むべき課題として取り上げら れている。しかし、今回8 割近くの回答者が緩和ケアという言葉を知っている にも関わらず、緩和ケアの内容を良く知っていると答えた割合はそのうちの約 28 % にすぎなかった。薬局を利用する患者集団は、処方箋調剤を目的として 来局するため何らかの疾病を抱えていることから、一般市民に比べて緩和ケア に対する知識や認識が異なることも考えられるが、実際には一般市民の意識レ ベルと同様の結果であった12、22)。従って、病院などに入院をしているがん患者
21 やその家族とは異なり、薬局を利用する患者に対して、薬局薬剤師が緩和ケア に関する適切な情報提供や教育的介入を行うが必要がある。外来がん治療の発 展に従い、薬局におけるがん患者の対応も増加傾向が見込まれるため、薬局に おいても基本的な緩和ケアに関する情報提供や患者対応ができる体制作りや人 材育成が必要であることが示唆された。 また、緩和ケアの目的は患者とその家族も含めた QOL の向上としている が、今回の調査では緩和ケアの対象にがん患者の家族も含まれると認識してい る割合は 37 % にとどまった。さらに、緩和ケアには経済的問題、雇用問題、 人とのかかわりなどといった療養中の社会的問題も含まれると回答した割合は 僅か約 5 %であった。治療の進歩に伴いがん療養期間が長くなる一方、多くの 患者ががんと診断されることで失職しており、がん療養中の雇用や経済的支援 が社会的な問題となっている19-21, 23-25)。日本ではがん患者の雇用に対する問題 について政府の取り組みがようやく開始されたが、依然としてがん患者が直面 する雇用問題への支援は不十分である9)。今回の調査でも、雇用など社会的支 援も緩和ケアに含まれることが認知されていないという結果が得られており、 本邦の社会的情勢が反映されていると考えられる。 シンガポールにおける進行がん患者の緩和ケアに関する意識調査では、緩 和ケアを知っている患者の割合は 46 % であり、実際に緩和ケアを受けた患者 は そのうち 4% であった26)。さらに、緩和ケアを受けない主な理由は、がん の積極的治療中であることや、治療途中でありホスピスを利用するタイミング とは考えていないことが挙げられていた。この結果は、がん患者が、緩和ケア は治療をうけるためには積極的治療をやめなければならないと考えていること を示している26)。 今回、回答者の約 75 % が緩和ケアのイメージに対して終末期医療とは答
22 えず、さらに、約半数はがんと診断された時から緩和ケアを開始できると回答 していた。一方、緩和ケアの内容をよく認知していると回答をした very aware 群ほど、緩和ケアに対して終末期医療をイメージする割合が高く、緩和ケアは 積極的ながん治療が困難な段階に提供されると回答する割合が高くなった。対 照的に、緩和ケアの内容をよく知らないと回答した unaware 群ではがんと診断 された時から緩和ケアが提供されると答える割合が高かった。また、今回の結 果によると、緩和ケアをがん治療と一緒に始められると考えていた割合は約 16% と低く、自己申告による緩和ケアの認知度別の群間に差は認めなかった。 これらのことから、薬局利用患者においては、自己申告による緩和ケアの認知 度に関わらず、緩和ケアに関する理解は十分に普及していないことが示唆され た。 今回の調査において、薬局利用患者は自らががんに罹患した場合に、緩和 ケアに関する説明を希望する時期はがんと診断された時と回答する割合が全体 の約 60% と最も高く、さらに、緩和ケアの開始希望の時期についても、がん と診断された時と答えた割合が最も高かった(約 46 % )。さらに、緩和ケア についての説明や緩和ケアを受けることを不要とする割合は 4% 未満であっ た。緩和ケアは、終末期に行われる医療として、回復が見込めない患者に対し て穏やかな最期を迎えられるようにすることが主な役割として発展してきてい るため、現在でも緩和ケアを終末期ケアと考える風潮がある12-15)。一般的に死 に関わることの議論はタブーとされるため、医療者とがん患者や家族との間で 終末期のケアについて十分な話し合いの機会が少なく、緩和ケアの導入が遅く なり、緩和ケアについての認識が変わらない要因となることが報告されている 12, 17)。さらに、 Morita らによる本邦での調査によれば、がん患者の遺族の約 半数は、緩和ケアの導入時期が遅いと感じている17)。今回の調査でも、緩和ケ
23 アに関する説明や話し合いの機会をがんと診断された時期に持つことを患者が 希望している可能性が示された。一方、自己申告による緩和ケアの認知度別で は、緩和ケアに関する説明や導入を希望する時期は、緩和ケアの認識度が低い unaware 群においてがんと診断された時と答える割合が高く、認識度が高いほ どその割合は低くなる結果となった。反対に、緩和ケアに関する説明や導入を 希望する時期が積極的ながん治療が困難になってきた時と答える割合は、緩和 ケアの認識度が高い aware 群で最も高く、認識度が低いほどその割合は低かっ た。これらの結果から、薬局利用患者は、緩和ケアはがんと診断された時から 受けられるケアであると正しく理解されていない可能性が示された。 今回の結果では、緩和ケアを提供する施設として、緩和ケア専門医療施設 と答えた割合が最も高く、全体で約 63 % となった。緩和ケアに対して良く知 っていると考える回答者ほどこの傾向は強く、very aware 群では約 81 % とい う結果であった。また、現在本邦では病院とほぼ同様の緩和ケアが在宅医療で 受けられるにもかかわらず27)、在宅医療にて緩和ケアが受けられると回答した 割合は約 24 % 程度であった。さらに緩和ケアが提供される場所が分からない と答えた割合は24 % に上った。過去に行われた一般市民を対象とした意識調 査によれば、自宅で緩和ケアを受けたいと希望する傾向があると報告されてい る12, 13)。一方、がん患者を対象とした意識調査では、自宅での緩和ケアは家族 の負担が増えると考えていると報告されている28, 29)。さらに、多くのがん患者 は在宅緩和ケアでは病状の急変に対して適切な対応が不可能であると考えてい る28)。これらのことから、今回の調査で緩和ケアの提供場所として緩和ケア専 門施設を挙げる割合が多く、自宅でも緩和ケアを受けられると回答する割合が 低くなった理由として、在宅医療による患者支援体制や緩和ケアの現状につい て、患者やその家族に対して十分な情報が浸透していない可能性が考えられ
24 る。 今回の調査において、薬局は緩和ケアの提供の施設としてほとんど認識さ れていなかった。外来治療中の進行がん患者の約 20 % が中等度から重度の痛 みを抱えており29)、がん患者はがん治療に伴う問題だけでなく、心理的苦痛や 就労の問題などに直面していることが報告されている24, 25, 28)。外来がん患者は これら様々な問題を自宅療養中に対処しなければならない。薬局が緩和ケアの 提供の施設として認知されていないという結果は、薬局薬剤師がこれらのがん 患者の苦痛の軽減に関して十分な役割を果たしていない可能性を示している。 その理由の一つとして、薬局薬剤師の緩和ケアに関する理解が不足しているこ とが考えられる。2010 年に松江市で行われた薬剤師(回答の大半が薬局薬剤 師)の緩和ケアに対する意識調査によれば、緩和ケアとは全人的な苦痛の緩和 を行うケアであることは認識しているものの、その介入のタイミングについて は約半数ががんの進行期・終末期と回答していた30)。このことから、薬局薬剤 師に対する緩和ケアの理解を促進するためには、薬局薬剤師に対して緩和ケア の正しい知識を普及する機会が必要である。 今回は単一施設で行った4 か月間の短期間調査のため、結果の解釈には限 界がある。調査薬局の近隣に婦人科や乳腺科の医療機関が立地しているため に、回答者が女性に偏っている。今後は、薬局や回答者の背景や特性も含めた 多施設での調査をより長期間にわたり行う必要がある。
25 第二章 薬局を利用する外来がん患者の QOL と薬局薬剤師の関わりについての 調査 1. 目的 外来がん患者の約半数は何らかの疼痛を抱え31)、外来がん患者の QOL と疼 痛程度の間には負の相関があると報告されている 29)。さらに、がん患者は身体 的問題以外にも、精神的問題、社会的問題、そしてスピリチュアルな問題を抱え ている 31-35)。従って、がんのあらゆる段階でこれらの問題に対処していくこと は、がん患者の QOL を改善するために非常に重要である。 本邦では「がん予防」、「がん医療の充実」及び「がんとの共生」を 3 つの柱 として、がん患者を含めた国民が、がんの克服を目指し、がんに関する正しい知 識を持ち、避けられるがんを防ぐことや、様々ながんの病態に応じて、いつでも どこに居ても、安心かつ納得できるがん医療や支援を受け、尊厳を持って暮らし ていくことができることを目的とした第 3 期がん対策推進基本計画が 2018 年に策定された9)(図 3 )。その中で、緩和ケアをがんと診断された時から提供 するという活動の推進は重要課題の一つとなっている。 近年、本邦では高齢化に伴うがん患者の増加や 5, 6)、がん治療が入院から外 来治療へシフトする傾向にある。よって、薬局が外来がん患者を受け入れる機会 が今後益々増加することが予測される。最も市民に身近な医療職である薬局薬 剤師のがん治療における役割も広がりつつある 36)。従って、幅広いがん種、病 期の外来がん患者の QOL を維持、改善するために、薬局薬剤師は適切な抗がん 剤治療を継続するための服薬・有害事象管理や緩和ケアを提供することが求め られる。それにもかかわらず、薬局薬剤師は処方箋など非常に限られた情報が得 られるのみで、がん種や病期などがわからないまま、がん患者に対応せざるを得
27 延命治療)、がんの進行度(原発がん、進行・再発・転移がん)など様々な治療 背景を有している。病院における外来がん患者の QOL に関する調査はこれま でに数多く報告されているが 29, 39-41)、薬局を利用するがん患者のような、多種 多様な治療背景を持つ患者集団を対象にした調査は行われておらず、薬局薬剤 師が日常接する外来がん患者がどのような QOL の状態であるのかは不明のま まである。また、薬局薬剤師の介入による外来がん患者の QOL への影響に関す る報告もない。そこで、薬局を利用するがん患者の QOL を把握し、薬局薬剤師 の介入が外来がん患者の QOL に及ぼす影響を明らかにするため、健康関連 QOL 尺度を用いた調査を行った。また、薬局薬剤師ががん患者から治療や状態 に関する情報を収集する際に感じる困難感をアンケート調査した。 2. 方法 本研究は、名古屋市立大学医学研究科及び医学部附属病院医学系研究倫理審 査委員会にて倫理審査の承認を取得した(管理番号 60160041 )。 1 )調査期間と対象 2016 年 1 月から 2018 年 2 月の間に、愛知県、三重県内の薬局計 14 件 にて、がん治療に関わる処方箋調剤を受けるために来局したがん患者に対して 調査を行った。対象患者の除外項目は、心身の特性により質問票に回答すること が困難な患者及び未成年の患者とした。 参加薬局は千種区薬剤師会及び NPO 愛知キャンサーネットワークを通して 参加を募集した。 2 )健康関連 QOL 尺度 SF-8
がん患者の QOL は包括的健康関連 QOL 尺度 SF-8 日本語版( Medical
28 価した42,43)。SF-8 は 8 つの健康概念を短時間で簡便に測定できる。すなわち、 全体的健康感( GH )、身体機能( PF )、日常役割機能・身体( RP )、体の痛 み( BP )、活力( VT )、社会生活機能( SF )、心の健康( MH )、日常役割 機能・精神( RE )の 8 つの下位尺度を各 1 項目、計 8 項目の質問で測定す るように構成されている。また 8 つの下位尺度をもとに 2 つのサマリースコ
ア(身体的健康、 Physical component summary:PCS 、精神的健康、 Mental component summary :MCS )を算出することができる42)(表 5 )。さらに、SF-8 には国民標準値が設定されており、これを基準にして対象群の健康状態を検 討することができる。今回の調査では 2007 年総サンプルの国民標準値を用い て統計解析を行った。2007 年日本国民標準値調査参加者の特性を表 6 に示し た42)。 3 )手順及び評価方法 調査を開始するにあたって、参加薬剤師(各薬局から 1 名)に対して本調 査及び SF-8 について説明会を開催し、説明を受けた薬剤師のみが実際の調査に 携わることとした。本調査の流れ、患者への調査依頼や回答紙回収の際の注意、 個人情報の取り扱い及びSF-8 の使用方法などについて説明した。また、本調査 では用量調整、副作用管理、支持療法などの処方提案、医師へのフィードバック を薬学的介入と判断するように統一した。説明会に用いた資料を図 4 ~ 7 に示 す。
30 調査の流れを図 8 に示す。調査票は自己記述式とし、質問項目は患者の年 代、性別、診療科、及び SF-8 (8 項目)とした。口頭及び書面にて、本調査の 目的と倫理的配慮を説明し、同意を得られた患者に対して質問票を配布した。 QOL 変化の検証は、アメリカ合衆国において頭痛がある一般住民に対して行わ れたSF-8 各スコアの経時的変化への反応性を評価した研究を参考に、初回調査 から3 カ月後に 2 度目の調査を実施することとした42)。薬局内での調査を初回 とし、その 3 カ月後に同じ質問票を患者の自宅に郵送し、回答は郵送で回収し た。郵送先の患者氏名、住所は同意書内に記載してもらい、データの集計、分析 にあたっては個人が特定できないよう十分な配慮を行った。初回及び 3 カ月後 のデータから SF-8 のスコアリング法に基づき下位尺度スコア及びサマリース コアを算出し、SF-8 の国民標準値と比較した 42)。SF-8 を用いて入院/外来が ん患者の QOL 調査を行った論文に従い、回答者の年代を 60 歳未満と 60 歳 以上の群で分けた 41)。初回調査時に通常の服薬指導に加えて対象患者に介入し たと参加薬剤師が判断した場合、その介入内容を①薬学的介入、②関連する他職 種の情報提供や紹介、③その他、から選択し報告することにした。介入したと記 録された患者を介入群、介入がなかった患者を非介入群に振り分けた。 初回と 3 か月後の各スコアを、全体、年代別( 60 歳未満 vs 60 歳以上) 性別、および介入/非介入群で比較した。
33
アンケート調査の手順
1)対象者は、自施設でがん治療に関わる応需をしている成人患者とする。 2)調査の主旨と3か月後再調査のお願い(調査票回答用紙 1 枚目)を対象者に読んでも らい、調査に同意が得られた場合は、囲み枠の中に記入、署名をしてもらう。 3)回答用紙2~3枚目の質問に対象者自身で回答を記入。その場で回収。 4)回答用紙を回収後、回答に空欄が無いことを確認する。(空欄があると除外データと なるため) 5)回答用紙3枚目薬剤師記入欄に、必要事項を記入する。 ①どのような対応をしたか該当するものに〇をつける。 「薬学的介入」・・・(例)用法用量の調節や副作用などの支持療法の提案など (本調査では医師へのフィードバックは薬学的介入とする) 「他職種の紹介」・・・他職種についての情報提供や紹介を行った場合 「相談支援センターを紹介」・・そのうち相談支援センターを紹介した場合 「相談支援センター以外の他職種紹介」・・相談センター以外を紹介した場合 「その他」・・・薬学的介入、他職種の紹介以外の介入を行った場合 「何もしない」・・・本調査票の結果を利用せず、なにも介入しなかった場合。 ②備考、補足があれば記述する。 例)レジメン、支持療法、鎮痛剤。 介入した(できなかった)理由など。 6)調査期間 1 か月ごとに、調査票回答用紙1~3をまとめてレターパックで返送する。 *明らかに記述回答が無理な方、小児の場合、代理が来局した場合は対象者から除外す る。 *3か月後の再調査に対する同意の署名欄が空欄の時は、念のため再度意向を尋ねる(同 意が得られない場合は初回のみ回答してもらうこととする)。 *新患/再来局患者は問わず。ただし調査期間中、同一患者に二度調査を行わないように する。 *個人の特定につながる対象者の個人情報(氏名、生年月日、住所)は、十分な配慮のも と保管・管理し個人情報を保護する。また研究終了 5 年後にデータは破棄する。 ■ご不明な点がございましたら、下記までご連絡ください。 研究機関:名古屋市立大学大学院 薬学研究科 神経薬理学分野 名古屋市瑞穂区田辺通 3-1 TEL: 052-836-3410 E-mail: [email protected] 研究者:責任者 准教授 大澤匡弘 担当者 佐藤由美 図 6 説明会資料 - 335 4 )薬局薬剤師に対するアンケート調査 調査期間終了後、参加薬局薬剤師に対して、がん患者から情報を得やすい、 または困難と感じる内容についてアンケートを実施した。がんの部位、がんの病 期、がんの治療内容、化学療法のレジメン、痛みの有無、有害事象の有無、精神 的問題の有無の 7 項目からの選択による回答とした。 5 )統計学的処理 患者の各スコアと国民標準値との比較は Welch 検定で行った。介入群と非 介入群の患者背景の比較は Fisher の正確検定で行った。初回と 3 か月後のス コアの比較は、全対象は対応のある t 検定、年代別( 60 歳未満 vs 60 歳以上) 性別、および介入/非介入群別は Wilcoxon 符号順位和検定にて行った。初回調 査時の対応のない群間の比較は Mann–Whitney U 検定で行い、有意水準は p < 0.05 とした。すべての統計解析には EZR ソフトウエアを使用した19, 20)。 3. 結果 3 - 1. 薬局を利用する外来がん患者の QOL 調査 1 )対象患者の背景 129 人のがん患者から初回調査票を回収した。そのうち 3 件は回答が不完 全であったため除外し、126 件( 98 % )のデータを初回調査の集計、分析に用 いた。初回調査の患者背景を表7 に示した。男性が 39 名( 31 % )、女性が 87 名( 69 % )、60 歳未満が 66 名( 52 % )、60 歳以上が 60 名( 48 % )であ った。診療科は乳腺科の割合が最も高かった( 56 名、44 % )。
45 患者が 33 % であると報告されている 45)。また、転移再発した外来がん患者の 約 60 % には疼痛が出現し、その 20 % が中等度から重度の疼痛であることが 報告されている 29)。今回の調査では、薬局を利用する外来がん患者の 67 % に 疼痛が報告され、そのうち 24 % が中等度から非常に激しい疼痛であり、過去 の報告と同様の結果となった。一方、興味深いことに今回の調査では約 70 % の 患者が疼痛を感じているにもかかわらず、痛みの QOL は国民標準値との間に 違いは認められなかった。Morita らは、主治医の判断でがん患者を緩和ケアチ ームへ紹介する主な症状として、痛み( 40 % )、呼吸困難( 30 % )、せん妄 ( 20 % )そして精神的問題( 10 % )と報告している38)。また、今回の調査 に回答した全ての薬剤師は、疼痛の有無はがん患者から聴取しやすい情報であ ると回答していた。これらのことから、外来がん患者の疼痛の QOL が国民標準 値と違いがない結果となった理由として、疼痛は医療者が注意を払いやすい症 状であるため、疼痛マネジメントが効果をあげていることが考えられる。しかし、 今回の調査では、疼痛に対する治療の情報は収集していないため、外来がん患者 が適切な疼痛治療を受けているかどうかの判断まではできない。また、今回の調 査対象集団は、SF-8 の国民標準の総サンプルと比較して 60 歳以上の割合が高 くなっている(国民標準:33% 、調査対象集団:48% )。一般的に高齢になるほ ど合併症や、がんに関わらず何らかの痛みを抱えているケースが増加すると考 えられる。また、がん種によっては年齢により罹患率が異なる6)。従って、がん 以外の疾病や年齢的要素が今回の結果に影響した可能性がある。 外来化学療法による有害事象は患者の QOL を全体的に低下させるが、外来 がん患者はその多くが複数の有害事象を抱えながら職場や自宅でいつも通りの 活動を行わなければならない 39)。医師による診察の前に、病院薬剤師ががん患 者に面談を行い、患者の状態を評価することで、疼痛及びがん治療の副作用管理
46 が適切に行われることが報告されている 46)。さらに、薬局薬剤師の定期的なテ レフォンフォローアップによるアクティブアセスメントによって、外来がん患 者の有害事象の管理が良好になった症例も報告されている47)。今回の調査では、 外来がん患者の QOL は初回調査から 3 カ月後には全体的に悪化する傾向が あり、特に BP は有意に悪化した。年代別では、60 歳以上の患者で有意に BP は悪化していた。60 歳以上の患者において BP がより悪化した理由として、加 齢に伴う生理的変化や、合併症が影響している可能性がある。さらに、高齢者は 痛みを適切に表現することが難しく、痛みを我慢する傾向があると報告されて いることから 48)、患者からの訴えに基づく疼痛評価が不十分であった可能性も 考えられる。また、BP は介入群で悪化したが、非介入群では有意な変化を認め なかった。介入群と非介入群で悪化の程度が異なった理由として、ベースライン の QOL 全般が非介入群よりも介入群で悪い事が影響している可能性がある。 一方、非介入群のBP スコアが有意な低下とならなかった理由として、サンプル 数の少なさが結果に影響した可能性がある。今後は、外来がん患者が受けている 疼痛治療、支持療法の内容や、薬局薬剤師による疼痛を含む身体症状の継続的、 定期的アセスメントや治療介入による QOL への影響について長期に渡った追 加の調査が必要である。 がん患者は身体的症状の他、うつ病や不安障害を含む心理的症状も認めら れる 38, 49)。進行再発がんの外来患者を対象とした本邦での全国調査では、「精 神的苦痛がない」と回答した患者の割合は 52 % と報告されている 29)。今回の 調査では、回答者全体の RE は国民標準値より悪く、初回と 3 カ月後の値に有 意な変化は認められなかった。一方、介入群においてのみ RE が有意な改善を 示した。また、今回の調査では、薬局薬剤師は薬学的介入の他、食事相談、運動 療法の指導、関連する他職種に関する情報提供や紹介、さらに患者の不安な思い
47 への傾聴などを行っていた。本調査では、薬局薬剤師の単回の介入のみでがん患 者の RE が改善したと結論付けることはできないが、薬剤師が心身の状態を患 者からより詳細に聴く姿勢や、適切な相談先を案内することが、患者への寄り添 いとなり、患者の不安解消に繋がった可能性がある。これまでに、病院薬剤師の 介入ががん患者の不安やうつの軽減、 QOL の改善に有効であることが報告さ れている10, 50 - 52)。これらの先行文献はいずれも病院薬剤師の介入に関する報告 ではあるが、今回の結果は、薬局薬剤師の介入ががん患者の精神的側面の QOL を改善することを示唆すると考えられる。 多くの薬局薬剤師は、がん患者とのコミュニケーションやがん患者の精神的 サポートが難しいと考え、患者のプライバシーの保護が困難であると感じてい ることが報告されている 53, 54)。今回の結果においても、外来がん患者から精神 的問題を聴取することが容易であると答えた薬局薬剤師は 20 % にとどまって いる。薬局薬剤師と外来がん患者が良好なコミュニケーションを確立するため には、患者のプライバシーを遵守することは非常に重要であり、薬局における 患者のプライバシーの保護の困難さが、精神的問題の聴取が容易となりにくい 理由の一つと考えられる55- 57)。 この調査にはいくつかの制限がある。限局された地域の 14 薬局における 調査であり、調査期間中に各薬局を訪れたがん患者全員に調査を実施できなか ったため、十分なサンプル数を収集できなかった。また、選択バイアスの影響 を受けた可能性は排除できない。今回の結果をもとに、今後は薬局の地域性や 立地場所(近隣にがん診療連携拠点病院があるか、など)などを考慮したより 多施設での調査が必要である。また、薬局薬剤師による効果的な介入方法を明 らかにするために、一定の介入方法に基づく薬局薬剤師の定期的、継続的な介 入が外来がん患者のQOL に及ぼす影響をより長期にフォローアップした調査
48
が必要である。さらに、薬局薬剤師に対するアンケートについては 10 名のみ
の回答を集計したものであり、薬局薬剤師の全体像を反映する結果とはとは言
えない。従って、今後は対象規模を拡大し、薬局薬剤師のがん医療に対する経 験値も考慮した調査が必要である。
49 結論・展望 今回の薬局における緩和ケアの意識調査により、「緩和ケア」という言葉が 薬局を利用する患者の間で身近になりつつも、緩和ケアの目的や対象について 正しい理解が普及しているとは言い難い状況にあることがわかった。さらに、緩 和ケアの提供場所として、緩和ケア専門医療施設以外の医療機関は一般の患者 にはあまり認知されていなかった。しかし、がんと診断された時点で緩和ケアに 関する情報や緩和ケアの提供を希望する傾向が示された。薬局薬剤師が緩和ケ アの基本的な情報発信、教育的介入や治療初期の段階から基本的な緩和ケアを 行うことで、がんと診断された時から緩和ケアを導入できるという知識の一般 国民への普及を促進し、さらに専門性の高い緩和ケアへと切れ目のない緩和ケ アに繋げることができると期待される。 さらに、薬局を利用する外来がん患者の QOL は、広い領域で国民標準値よ り低く、特に痛みの QOL は短期間で悪化した。一方、精神的日常役割領域の QOL は、薬剤師介入群のみで改善する可能性を示した。 病院薬剤師には入院・外来を問わず患者の服薬支援、副作用の早期発見・対 処が求められているが、マンパワー不足の問題や時間的制約で全ての外来がん 患者への対応は難しいことが示されている 58, 59)。従って、薬局薬剤師が外来が ん患者の QOL を定期的に評価し、介入することで、外来がん患者の全人的苦痛 の緩和に貢献できると期待される。 地域の人々の緩和ケアに対する期待に応えるために、薬局薬剤師は、基本的 緩和ケアに関する正しい情報を地域に普及するための広報活動、個々の患者が 必要とするタイミングに合わせた適切な緩和ケアの提供の両面で地域に貢献す
50 る必要があり、そのための体制作りや人材育成が今後の課題である。将来的には 薬局でがん患者の苦痛をスクリーニングし、その結果薬局で緩和ケアを含む専 門性の高い薬学的介入を行うだけでなく、患者の苦痛に適した他職種に関する 情報提供や紹介を行う「ハブ」としての役割を担うことで、地域のがん医療、緩 和ケアに薬局は大きく貢献できるものと考える(図 10 )。 図 10 薬局を拠点とした緩和ケアの提供
51 謝辞 本稿を終えるにあたり、終始ご懇篤なるご指導と校閲を賜りました名古屋市 立大学大学院薬学研究科神経薬理学分野粂和彦教授に謹んで深甚なる感謝の意 を表します。また、本研究の遂行にご助言、ご協力頂きました神経薬理学分野大 澤匡弘准教授、臨床薬学分野菊池千草講師に心から感謝いたします。 本研究にご協力頂きましたスマイル調剤薬局畑中智笑美薬剤師、三聖堂薬局 自由ヶ丘店秋山理恵薬剤師、愛知県がんセンター立松三千子薬剤師、千種区薬剤 師会玉水誠会長、データ収集にご協力頂きました名鉄薬品(株)、スカイ調剤薬 局本郷店(現キョーワ薬局本郷店)、たんぽぽ薬局(株)、日本調剤名市大前薬局、 南山堂薬局高見店、スギヤマ調剤薬局今池店、こうなん薬局、アイリス調剤薬局 長岡店、コスモス薬局つおき店の皆さま、 NPO 法人 愛知キャンサーネットワ ークのご関係者はじめご理解とご協力を賜りました患者の方々とそのご家族の 皆さまに感謝したします。 第 5 回 杉浦地域医療振興助成により本研究を実施することができました ことに厚く御礼申し上げます。
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