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国際労働事務局の「条約および勧告」予備草案の特徴 : 最低賃金決定制度の創設をめぐって

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国際労働事務局の「条約および勧告」

        予備草案の特徴

一最低賃金決定制度の創設をめぐって一一

は し が き  国際労働事務局ぱ,!928年の第11回総会に対する提案の内容を各国政府と協 議する「質問書」を加盟国政府に送り,これに対する政府回答を分析した結論 としての政府諸提案を整理して条約案と勧告案にふりわけ,体系化して「条約 および勧告」予備草案を作成し,それを「報告書」(Blue Report)として政府 に送るとともに第11回総会に提出した。  われわれは,既に,国際労働事務局が政府回答をどのように分析し,その結        論が「質問書」の趣旨といかにかかわるかを考察した。  本稿は,第1に,条約案と勧告案のそれぞれの条文・項目の主要な内容・趣 旨を明らかにし,第2に,政府回答の結論としての諸提案が条約案と勧告案の なかで,どのように整理・体系化されたかを考察し,第3に,「条約および勧 告」予備草案の若干の特徴を指摘しようとするものである。 1  総会で決定すべき形式が,条約案か勧告案か両者か,両者のばあい如何なる 関連をもたすか,という質問14に対する政府回答の分析とその結論は,既に考         察したとおり,条約案と勧告案の両者をとり,条約案は基本的・一般的原則を  1) 拙稿「国際労働事務局による政府回答の分析」一最:低賃金決定制度の創設をめぐ   って一,彦根論叢,第195号(昭和54年3E) (以下,政府回答の分析と称す)。  2) Chapter ff General Survey of the Question in the Light of the Replies of the

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扱い勧告案はその原則を敷術し,実施する方法を指示する。両者のうち条約案 が決定的なものであり,勧告案は条約案を補足する。両者はこの意味での「補 足的」関連をもつ。  事務局は,政府回答を分析するにあたり,条約案に含めることが一般に受諾 されると思われる「基本的・一般的原則」と勧告案のなかで指示することが適 当と思われる「実施方法」(methods of apPlication)を見い出すことに努め, 政府回答の結論として可なりの数の提案を抽出し,これらを条約案か勧告案の        おう いずれかに含めた。  事務局の条約案作成の方針は,種々の国の間で有効な制度をもつ「職業の範 囲」(the extent of the trades)について,国によって態度と実際が広く異な っており,且つ制度の形態が多様である国際状況にかんがみて,(1)「統一的適 用範囲」(uniform scope of application)や「童謡の制度形態」(special form of machinery)を規定しないで,個々の国に任意決定権をもたせ,その特殊な必 要に従って解決することを委ね,②「制度の創設または維持の基本原則」及び 如何なる制度形態を実施するにしても必要不可欠と思われる「若干の幅広い原 則」に集中し(第1−4条),(3)個々の国に任意決定権をもたせるかわりに「制 度の適用結果にかんする一一定の特別情報を定期的に通告」する(第5条)こと である。この定期的通告は,事務局によれば,①条約批准国によって条約の実 施にかんする相互管理方法を組織し,②賃金問題にかんする国際労働機関の今  Governments(以下, General Surveyと称す), pp.103−4,, in:Report on Minimum  Wage Fixing Machinery, First item on the Agenda, Second Discussion, lnternational  Labour Conference, Eleventh Session, Geneva, May 1928.(以下, Report on Minimum  Wage Fixing Machin ery, May 1928.と称す)。拙稿「政府回答の分析」,11−2回目  Introduction, pp. 7−8, in: Minimum Wage Fixing Machinery, Questionnaire, item  1 on the Agenda, lnternatienal Labour Conference, Eleventh Session, Geneva, 1928.  (以下,Minimum Wage Fixing Machinery, Questionnaire,1928.と称す)。拙稿「総  会決定の質問書」,彦根論叢,第187号(昭和52年11月),20一・1頁。 3)Chapter皿Conclusions And Texts Of A Proposed Draft Convention And A  Proposed Recommendation(以下, Conclusionsと称す), p.131., in:Report on  Minimum Wage Fixing Machinery, May 1928.

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       の後の仕事の発展を促進するためにも不可欠のものと考えられている。  条約案にもり込むべき政策は,(1)既に制度をもつ国の間の相互義務のため, また未だ制度をもたない国へ条約案の基本原則を拡大するために幅広い規準を 規定し,(2)賃金分野への最初の冒険をどこまでも追求するための基礎づくりを し,(3)やがては,尚一層進んだ実際上の成果となる「諸経験を共同管理」し, (4にれらによって,結局は「できるだけ多数の国の労働者の保護を促進する」 (promote the protection of the workers in as many countries as possible)         ら  ことであるとされる。  事務局の勧告案作成の方針は,(!)条約案に含まれている基本的・一般的原則 を敷衛二し,②世界のほとんど至る処で採用されており,(3)最低賃金決定制度の 目的を促進するため最もよく計画されたものであることが経験上証明されたと        のころの,「実施方法」を政府の指針のため記録することだとされている。事務 局によれば,勧告に含まれる「経験の記録」(the record of experience)は, 最低賃金決定制度を現にもってはいないが将来採用するに至る国にとって特別        ア  の価値を有するものだと,勧告の機能も可なり高く評価されている。  事務局が作成した「条約および勧告」予備草案の原文は,前者が5条から成 タ      の り,後者が3項目から成る。以下,条約案と勧告案の結びつきを考慮しながら, それぞれの条文・項目の内容を明らかにしよう。       条約案第1条は, 「本条約を批准する国際労働機関の各締盟国は,団体協約 4) Chapter旦General Survey, pp 126−7., in;ibid. Chapter玉[Conclusions, p.132,,  1n:ibid.拙稿「政府回答の分析」,22頁。 5) Ibid., p.132., in:lbld 6)  Ibid, pp. 132−3., in: ibid. 7)  Ibid., p.133,in: ibid. 8) Ibid., pp.144−5., in; ibid. 9) Ibidr, pp./46−9., in=ibid. 10) 「条約および勧告」予備草案の訳文は,主として,労働省編,国際労働条約集(昭

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 20 その他の方法による賃金の有効なる規律のための施設がなく且つ賃金が例外的 に低廉であり,叉,該締盟国が斯様な制度を有することを適当と考える職業又 は職業の部分に雇われている労働者のため最低賃率を決定し得る制度を創設し         又は維持することを約する。」となっている。  ここでは,(1)「最低賃金決定制度の創設又は維持」, (2)「制度の適用範囲」 にかんする基本原則が規定されている。  (!) 「最低賃金決定制度の創設又は維持」原則は,①「その労働者を保護す るための最低賃金決定制度を未だ有しない国は,それを創設すべきであり,且        ユビ  つ,制度を有する国は,それを維持すべきである」とし,②それを「基本的義 務」として履行せしめるため,(i)条約批准国に,最低賃金を決定する権限と手 段を与えるに必要な,又は制度を拡大するに必要な措置を,立法その他の方法 によって執ることを要求し,(ii}制度を構成する諸部門を創設,編成し,必要な とき運用できる準備をしていなければならないことを,換言すれば「有効な制 度を現存せしめる」ことを求め,(iii)関係者を保護するため最:も重要な保証とな       ユのり,且つ,現に制度を有しない政府に対しては最大の努力を要求する。  (2) 「制度の適用範囲」にかんする原則は,①この問題が,実際上,個々の       ユの 国によって自国の必要を考慮して解決されることを任せ,②適用範囲を,(i)団 体協約その他の方法によって賃金を有効に規律する施設がなく,且つ,㈲賃金        ユのが例外的に低廉である職業又は職業の部分に限定し,③上述②の二つの主要な  和30年3月発行)に依拠しているが,この予備草案が採択された条約・勧告とは細部  で異なる点のあることに注意を払い,且つ訳文の表現をいくらかなおした箇所もある。 11) lbid., p. 144., in: ibid. 12)Ibid., p.133., in:ibid.なお,事務局によれば,ほとんどすべての政府が肯定の回  答をしたが,わずかの政府は,理由もなく又は理由ともいえない消極的又はこれに準  ずる回答をした。だが,これは原則的反対と認められないものであった。Chapter Ir  General Survey, p.90., in:ibid拙稿「政府回答の分析」,6頁。 13) lbid,pp. 92−3,, in: ibid. Chapter M Conclusions, pp. 133−4., in: ibid. 14) lbid., p. 134,, in: ibid. 15) Chapter lf General Survey, p. 93,, in: ibid. Chapter va Conclusions, p, 134,  in: ibid.

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限定条件が「同時に」(simultanously)充足されることを要求している。  この点は,きわめて重要な論争点であるから,その趣旨を更に明らかにすれ          ば,次のようになる。(i)適用範囲についての制度の目的は,未組織且つ例外的 低賃金の職業又は職業の部分における労働老のみを志向する限定的なものであ り,㈹2条件のうち1条件を充足しない職業は,自動的に条約案の義務を免か れ,ω2条件のうちの未組織条件については,条約案は正常な賃金規律の団協 方法を侵害ないし妨害するものではなく,団協方法を実施し得ないことが見い 出された若干の例外的なばあいに団協方法を完成させるに役立つことのみを目 的として,かかる職業に制度を実施したのち,その職業が自己処理能力をもつに 至れば,その制度の維持を要求するものではない。㈹条約案は,上述の2条件 について,何らかの統一的な且つ一層明確な定義を公式化すことを実際的でな      エつ いとしている。(V)第1条は,2条件を充足する職業を,個々の国が自国に現存 する事情を考慮して決定することを任せており,本条は,各国にこうした「任 意決定権」を与えることを事実上含意しており,それは第2条で一層強調され ている。㈲任意決定権は2条件を充足するか否かを決定する問題を解決するこ とを政府に委ねているだけに,とりわけ,有効な施設とか或る地域で2条件の うちいずれが一層重要と考えられるかといった条約二上の問題については,選 択の自由のない絶対的なものとされる。㈲2条件を充足する職業に対して更に 限定を加えるか否かについては,政府間に意見と実際の幅広い相違がみられ ユお  る。即ち,職業固有の性質上,多かれ少なかれ永久的に未組織,支払不足にな り易いと考えられる若干の職業のみに,とりわけ家内労働の職業のみに限定す るものと職業固有の性質上,将来,団協方法をとる可能性をもつが,事実,2 条件を充足しているとわかった職業に適用すべしとするものとが対立してい 16)  Ibid., pp.134−7., in: ibid. 17) Chapter皿General Survey, P・100・, in=ibid・Chapter皿 Concluslons, P.135.,   in: ibid. 18) Chapter J General Survey, PP・93−4・, in:ibid・Chepter皿:Conclusions, P.!35.,   in:  ibid■

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る。組織労働でも,家内労働の職業については一致しても,それ以外の職業 に適用を拡大することについては二つの意見が対立している。一方では,これ により将来の団協方法の実現を無期限に延長することになるとし,他方では, これにより賃金を保護し賃金決定機関に労働者代表制が採用され,労働組織の 促進に役立ち,団協方法をとる時期をはやめることになり,結局は団協制の有        力な補完になるとみているが,大部分の組織労働は後者の意見をとっている。 ㈹2条件のそれぞれの「統一的制度範囲」を規定することは,事務局によれ ば,「一般的に受諾し得る解決」とはならないし,全体的組織としての国際労 働機関の最高関心事ともならない。たとえ家内労働の職業に限定して2条件の 画一的規定をもうけても,家内労働の職業は国により異なるので,それは現実 的ではなく,みせかけにおわる。職業別画一規制はあり得ないこととされてい るのである。(iX>一方で家内労働に限定する国は,他の職業への拡大を約束した り,適当と考えたりはしない。他方で家内労働に対する特別保護の必要が大き くても他の国の異なる必要を考慮すれば,すべての国のための制度の範囲を家 内労働の職業に限定すべき理由はないという見解もある。こうした対立する見 解の妥協として「条約案は,それぞれの国の特別の必要を充たすため十分に幅       の 広いものであるべきだ」として,第1条の最後の語句に「締盟国が斯様な制度 を有することを適当と考える」(the Member considers it expedient to have        such machinery)職業がつけ加えられている。その趣旨は,事務局によれば, 家内労働の職業のみに有効か,これと同じく又はこれに優先して,その他の何 らかの未組織且つ例外的低賃金の職業に有効かを,自国の事情を考慮して決定 することを,それぞれの国に全く自由に任せることである,(X)いずれにして も,2条件を同時に充足する職業N.はその部分なら,それが工業,農業,商 業,家内労働であろうとその他であろうと,これら経済部門の一つであろうと 19) Chapter III General Survey, p. 97., in: ibid. 20) Chapter M Conclusions, p. 136., in: ibid. 21) lbid., p. 137. in: ibid.

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       う それ以上であろうと適用範囲になり得るとされる。  要するに第1条の総括的結論は,(1>現に制度を有する国に対しては,その適 用範囲を拡大したり,他の職業に新制度を創設することを要求するものではな く,現存制度を現行の範囲で又は望まれれば変更した範囲で維持することのみ を要求し,(2)制度を有しない国は,2条件を同時に充足するばあい,いかなる 職業に制度を創設すべきかを全く自由に決定することができ,(3)政府の任意決 定権は,事務局によれば,労働者保護手段を全く有しない国における制度の創 設を容易にし,この条約案が最大可能数の国を包含し,かくて最大の成果をつ        お くり出すことができるようにする重要機能をもつことになる。  条約案第2条は, 「各締盟国は,いずれの職業又は職業の部分に,特に,い ずれの家内労働の職業又は斯様な職業の部分に,第1条にかかげる最低賃金決        の 定制度を実施すべぎかを決定する自由を有す」と規定している。  本条は, 「制度を現実に実施する」こと及び「各国が制度の適用範囲を現実        らう に決定する自由を有する」という原則を強調している。  本条をもうけた理由を第!条との関連でみるとこうなる。第1条の二つの原 則は,それだけでは制度を現実に実施することを直接に政府に要求するに十分 ではない。そこから,総会が制度の創設にかんする決定を完成するため創設さ れる制度を現実に実施することを政府に問うべきか否か,換言すれぽ,政府が 総会の決定に従って行動するためには制度を創設するのみならず,これを真に 且つ有効に実施しなければならないかという問題が生起する。総会が,創設す べき制度に「統一範囲」を規定すれば,これを現実に実施することを要求でき るが,ここではそうではないから,かかる要求は不可能である。だが,各国は制 22)Chapter豆General Survey, p.101., in:ibid’拙稿「政府回答の分析」,10頁。 23) Chapter M Conclusions, p. 137., in: ibid. 24) lbid,, p, 144., in: ibid. 25) lbid,, p. 137. in: ibid.

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度の範囲を決定する自由を有し,国によって有効な制度は異なっている。故 に,現実の実施を規定する決定的根拠はない。事務局によれば,理論的には, 総会は各国が制度を有効に実施すべしという包括的規定をもうけ得るが,この ばあいには,実際上,広い範囲をとる国と狭い範囲をとる国との間が不均等と なるおそれがあり,政府は,こうした包括的規定よりも,むしろ創設する制度 の現実の適用範囲を自由に決定することを考慮する。こうした視点にもとづい て,第1条に含意されている問題点を,更に強く,あらためて明確に第2条で       の 規定することとなった。       ㌦       の  第2条は,制度の実施を現実に決定することを政府に任せている。それは次 の事態からの論理的必然の結果だからである。即ち,(1>すべての国のために規 定し得ると思われる「制度の統一範囲」はあり得ない,(2)制度を必要とする職 業は国によって相当異なっている,㈲制度の創設とは異なり,制度を実施する        ラ 積極的義務を規定し得る決定的根拠は何もないこと,これである。  第2条の趣旨は,既にふれた第1条に含意されている政府の任意決定権に関 して,政府がいずれの職業に制度を実施すべきかを決定する自由を有すれば, 当然,いずれの職業が第1条に規定されている2条件を充足しているかを決定 する自由をも有することは明らかであって,こうした点を強調して第1条とは        別に規定する必要があるということである。  また,本条は家内労働の職業に特に言及しているが,それは,これらの職業 が多くの国で保護される特別の必要のあることを想起せしめるためだとされて  30) いる。  なお,事務局によれば,第2条が条約を批准するために何らかの制度が現実 26) Chapter 1 General Survey, pp. 10!−2., in: ibid. Chapter M Conclusions, p, 137,,  in:ibid.拙稿「政府回答の分析」,10−1頁。 27) lbid., p. 137., in: lbid. 28) Chapter I{General Survey, pp.101−2., in:ibid, Chapter皿:Conclusions, p.137.,  in: ibid. 29) lbid., p. 137,, in: ibid, 30) 31) lbid., p. 138., in: ibib.

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に実施されていることを必要としていないのは,合理的だとみられている。け だし,差し当たりは制度の実施を必要とする職業が存在しなかったり,制度を しぼらく実施した後にその職業が自己処理能力をもつに至って,制度が撤廃さ        おわ れる国が存在し得るからである。 1.V  条約直心3条およびこれと関連する勧告案頭1項ならびに第9項をみよう。 第3条は次のとおりである。「各締盟国は,最低賃金決定制度の性質および形 態ならびにその運用方法を決定する自由を有す。但し,(1)ある職業又は職業の 部分に該制度を実施するに先立ち,関係ある使用者および労働者の代表者(そ の各団体のあるばあいはその代表者を含む)並びにその他の者で,職業又は職 務上その目的のため特に資格を有し,権限ある機関がこれと協議することを適 当と認めるものと協議すべし。②関係ある使用者および労働者は,国の法令又 は規則により定められるべき方法および範囲において,だがいかなるばあいに も同等の条件にて,該制度の運用に参与せしめられるべし。㈲決定せられた最 低賃金率は,関係ある使用者および労働者に対し拘束力を有し,彼らにより個 人的契約によって,又は該制度のもとの権限ある機関の許可を受けるのでなけ        きヨ  れば団体協約によって,引下げを受け得ない。」  第3条は,個々の国がいかなる型の制度をとろうとも基づかざるを得ないと 考えられる但し書に含まれている三つの原則,すなわち「制度実施前,労・ 使・有資格者との予備的協議原則」 「関係労使同等条件の制度運用参与原則」 「決定された最低賃金率の関係労使拘束原則」を条件として, 「制度の性質・        形態・運用方法」を決定する自由を有すという原則をうたっている。  総会が制度ないし方法を規定することは,①同一型の制度がすべての国で採 用されるべき特別の理由がなく,(2)一国の制度の性質は当該国の経済事情,労 使の組織度,行政制度といった諸要因によって決められ,これら要因は国によ 32) Ibid., pp.!44−5., in:ibid. 33) Ibid., p.138., in:ibid.

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り非常に異なっており,各国の現行制度は多様な型をもっているということか ら否定されている。だが他方で,制度ないし方法にかかわるすべてを政府の自 由な決定に任せるのみでは何らの国際的規制もできないことになる。かくて結 局,一方で「政府に制度の性質・形態・運用方法を自由に決定するよう任せ る」とともに,他方で「各国の任意決定権を無視しない範囲で,いかなる制度 をとろうとも基づかざるを得ない三つの基本的・一般的原則」を条件として規      う 定している。  但し書(1)項は,制度の実施に先立って,関係ある使用者,労働者および「職 業又は職務上その目的のため特に資格を有し,権限ある機関がこれと協議する ことを適当と認めるもの」との予備的協議原則を扱っており,すべての国の現 存制度を包含するような用語で規定されている。  このような:原則の定式化は,①「団体協約が……賃金を規律する基礎である という一般的規則を問接に再確認し」(it indirectly re−affirms the general rule that collective agreements should be the basis for the regulation of wages ……j,②「公共の制度を関係者の願望に反して強制的に押しつけるのを防ぐ 傾向がある」という理由で,使用者および労働者によって可なり価値を有する          35) ものと評価されている。  局外者との協議については,「権限ある機関がこれと協議することを適当と 認めるものと協議すべし」と規定していることから,政府に対して自由裁量の       措置を任せているといえよう。  この予備的協議原則の性格については,「いかなるばあいにも,政府の義務 は単に協議することのみであり,政府は述べられた意見によって束縛されるも         のではない」とされている。 34) Chapter且General Survey, PP.110−1., in:ibid Chapter 皿 Conclusions, P.  138.,in:ibid,拙稿「政府回答の分析」,15頁。 35) lbid., p. 139. in: ibid. 36)Chapter豆General Survey, pp.112−4., in=ibid.拙稿「政府回答の分析」,16−  7頁。 37) 38) Chapter M Conclusions, p. 139., in: ibid. t

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 但し書(2)項は,賃金決定機関の構成にかんする政府回答から定式化された 「制度運用に参与する原則」ないし「使用者および労働者の賃金決定機関の作 業への参与原則」(the principle of the employers’and workers’participation        おヨ  in the work of the wage fixing bodies)を規定している。  しかも,これは使用者および労働者に,いかなるばあいにも「同等の条件」 (equal terms)で参与することを要求する「両者同等待遇原則」(the principle of equality of treatment of the two sides)をうたっている。これは賃金決定       ラ 機関の構成にかんする二つの原則のうちの第1原則である。  この参与は,賃金決定機関の職員と単に協議するのとは異なり,参与の形 式・方法・範囲の決定を国の法令又は規則に任せることによって,実施を規則       まの 化することが意図されている。  第3条但し書②項の関係労使の同等条件での制度運用に参与する原則は,簡 単に表現されるにとどまり,勧告案第1項において詳述されている。  勧告案第工項は次のとおりである。(1>「最低賃金決定制度は,それがとる形 式の如何を問わず(例えば個々の職業に対する職業委員会,職業の集団に対す る一般委員会,強制仲裁裁判所),当該職業又は職業の部分における関係条件 を調査し尚第一に且つ主として影響を受ける利害関係者即ち該職業叉は職業の 部分における使用者および労働者と協議して,これを運用すべく,いかなるば あいでも,最低賃金率の決定に関する一切の事項については,右使用者および 労働者の意見を求め且つ充分にして均等な考慮を払うべし。(2)(a)最終的に決定 される賃金率の権威を一層大きくするためにぱ,関係ある使用老および労働者 が員数又は投票力を等しくする代表者を通じ共同して賃金決定機関の審議およ び決定に直接参加することを該制度の一般政策とすべし。いかなるばあいにお いても,一方の側が代表を許されたときは,他方の側は同一の立場において代 表されるべし。尚賃金決定機関は一名又は二名以上の中立者にし、て,その投票 39)Chapter I[General Survey, pp.115−7., in=ibld.拙稿「政府回答の分析」,18−  9頁。 40)Chapter皿Conclusions, p,!39., in;ibid.同,19頁。

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が使用者および労働者の代表者の投票の同数にわかれたぼあいに有効な決定に 到達することのできるものを包含すべし。(2) (b)使用者および労働者の代表者 が,それぞれの利益を代表する者の信任を有する者たるべきことを確保するた め,関係ある使用者および労働者は,事情の許す限り,その代表者の選定につ き発言権を与えられるべきであり,叉使用者および労働者の団体が存在すると きは,右団体は,いかなるばあいにも協議されるべきである。(2)(c)中立者は, その義務に必要な資格を有し且つ該職業又は職業の部分において,その公平を 疑われるおそれのあるような,いかなる利害関係をも有しないものと認められ る男子又は女子のなかより選定されるべし。②(d)該職業又は職業の部分におい て多数の女子が雇われるばあいには,できる限り労働者の代表者中および中立        ユラ 者中に一名又は二名以上の女子を含ましめる措置をとるべし。」  勧告案第1項(1)では,制度は,当該職業の関係条件を調査し,関係労使と協 議して運用し,最低賃金率の決定にかんする一切の事項について両者の意見を        の求め,これに対して充分且つ均等に考慮すべきものとされる。  勧告案第工項(2)(a)前段では,①最終的に決定される賃金率の権威を一層大き くするための制度の一般政策は,関係労使が員数又は投票力の等しい代表者を       ラ通じて共同して賃金決定機関の審議と決定に直接参加することであるとのべ, ②いかなるばあいにおいても,「一方の側が代表を許されたときは,他:方の側 は同一の立場において代表されるべし」と強調することによって,条約案第3         条但し書(2)項における「両者同等待遇原則」を再確認している。  勧告案第1項(2)(a)後段では,賃金決定機関が一名又は二名以上の中立者を包 含すべしとのべ,賃金決定機関の構成にかんする二つの原則のうちの第2原則         るの を明らかにしている。ただし,関係労使の参与は第1原則として条約案のなか で,中立者の包含は第2原則として勧告案のなかで扱われている。 41) lbid., pp. 146−7., in: ibid. 42) Ibid., pp 139−40., in:ibid.拙稿「政府回答の分析」,!5,19頁。 43) 44) 45) Chapter ll General Survey, p. 117., in: ibid. Chapter II[ Conclusions,  P.140.,in:ibid.同,19頁。

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      46)  勧告案第1項(2)(b)は,使用者および労働者の代表者の,勧告案第1項(2)(c)は    47)       48) 中立者の,勧告案第工臨②(d)は女子の労働者の代表者および中立者の,選定方 法を扱っている。これらについては,いずれも労使の組織や行政方式の異なる 各国の事情に最も良く適合する方法を選択するよう政府に大幅の自由を委ねて いることは,条約畑瀬3条冒頭の規定で明らかであって,勧告案でも原則的指        示にとどまっている。  条約案第3条が決定の自由を政府に委ねている制度の運用方法のうち,但し 書(2)項による関係労使の参与を要求している制度の運用に関連して,勧告案第 ]工項は,「決定されるべき最低賃金率を決定する目的のため採られるべき規準」     らの 問題を扱い,「決定せられるべき最低賃金率を決定するためには,賃金決定機 関ぱ,いかなるばあいにも,関係ある労働者をして適当な生活水準を維持する ことを得しめることが必要であることを考慮すべし。この目的のためには,先 ず労1動者の組織充分にして且つ有効な団体協約の締結された職業において類似 の仕事に対して麦払われる賃金率を,又はもし事情により斯様な依るべき水準 の得られないばあいには,当該国又は当該特定地方に行われる一般的賃金水準      ら  を参酌すべし。」となっている。  現行の実際の状態や賃金率に影響する経済的その他の問題の多様さからみ て,労働者を保護するため直ちに満足と思われ且つ一般に承認されると考えら れる「単一の確定的規準」(single definite basis)を見い出すことは不可能視さ    ら   れている。  規準については,何よりもまず「平和条約前文ならびに第13部第427条で定 46) Chapter皿General Survey, p.118., in:ibid.同,19−20頁。 47)Ibid., p.!19−20., in二ibid.同,20頁。 48)Ibid., P.120., in:ibid.同,20頁。 49) lbid., p.118., in:ibid.同,10〕頁。 50) Chapter I[[ Conclusions, p.140., in;ibid. 51) Ibid., PP.!47−8., in:ibid. 52) Chapter五General Survey, pp.105−7., in:ibid. Chapter皿 ConclusiQns, p.   140.,in;ibid.拙稿「政府回答の分析」,12−4頁。

(14)

      らき  式化されている生活賃金原則にもとづいて」 「労働者をして適当な生活水準を         ヨの維持せしめ得る必要」(the necessity of enabling the workers to maintain a suitable standard of living)が,賃金決定機関によって,いかなるばあいにも        ららう 考慮されるべぎだとされ,これが正に第!規準である。  上述の第1規準を優先B的として,この「生活水準の適当さ」を測定する第 2,第3の規準が引き出される。r労働老が充分に組織されており且つ有効な 団体協約を締結した職業における類似の仕事に対して支払われる賃金率」が第      ちの 2規準とされ,「事情により斯様な比較が不可能なぼあいには,当該国又は当       らの 該特定地方の一般的賃金水準」が第3規準とされる。こうした規準原則が, 「最低賃金率を決定するばあいの,賃金決定機関への指針として」定式化され     さの たのである。  条約案第3条但し書(3)項の条件は,決定された最低賃金率が,関係労使を拘 束するという,いかなる型の公的賃金決定制度のなかでも不可欠とされる原則   ら   である。  使用者と労働者との間の私的契約が,いかなるばあいでも,決定された最低 賃金率を逸脱することを許すべきでないということは, 「一つの普遍的規則」         として無条件に定められている。だが,団体協約は労使に優先権を与えている が故に,若干の安全装置を条件に賃金率を逸脱することを認めるばあいもある 事実を考慮して,「該制度のもとの権限ある機関の許可」(authorisation of the competent authority under the machinery)を条件としてのみ逸脱を認めるが,         しからざる限り認めないという措置が講じられている。 53) 亙bid., p.140,, in:ibid.同,13頁。 54) 55) Chapter 1[ General Survey, p. 107., in: ibid. Chapter M Conclusions, pp.  140.,in;ibid.同,13一・4頁。 56)57) Chapter 五 General Survey, p.108., in二ibid...Chapter皿Conclusions, pp.  140−1.,in;ibid. i司, 14=頁。 58) lbid., p 141. in: ibid. 59)60)Ibid., p.141., in:ibid.拙稿「政府回答の分析」,15一 6頁。 61) Chapter I[General Survey, p.112., ill:ibid. Chapter皿『Conclu9. ions, p,!41.,  in: ibid.

(15)

v

 条約寸寸4条は, 「本条約を批准する各締盟国は,関係ある使用者および労 働者に現行最低賃金率を知悉せしめること並びにこれらの率の適用されるばあ い,それより低い率で賃金が支払われないことを確保するため,監督および制 裁の制度により必要な措置をとるべし。該賃率の適用を受ける労働者にして, これらの率より低い率で賃金を支払われた者は,いかなるばあいにも,国の法 令又は規則により定められることのあるべき時間上の制限に従い,法律上又は       ビヨ  その他の手続によって耳払不足額を回収する権利を有す。」となっている。  第4条は「正式に決められた最低賃金率の実施原則」を扱い,この実施を保 証するr措置は,労働者の賃金を有効に保護するのみならず使用者を不公正競 争の可能性から保護するためにも不可欠のものであり,」それは「労働者が個       々に孤立することを考慮すれば尚一層必要である」とされる。  本条の前段は,決められた賃金率より低い率で賃金が支払われないことを確 保するための,換言すれば制度の実施を保証するための必要且つ適切な措置と して,不可分の三つの方法を含む一般原則を,すなわち(!)「関係ある使用者お よび労働者に現行の賃率を知悉せしめるための措置」(arrangements to inform the empioyers and workers concerned of the rates in force)(2)「該職業にお いて実際に支払われた賃率を監督する制度」(asystem of supervis三〇n of the rates actually paid in the trade)(3)「賃率の違反を取除き又は防止するための 制裁」(sancti・ns。f remedy or psevent infringements of the rates)を規定し   おり ているQ  本条の後段は,上述の三つの方法を含む一般原則のうち「制裁方法」の基本 的なものをとり出して規定している。 62)  Ibid., p 145., in:ibid. 63) Ibid., p 141,in:ibid. 64) Chapter ff General Survey, P・121・, in:ibid Chapter玉[Conclusions, P.141.,   in:ibld.拙稿「政府回答の分析],21頁。

(16)

 32  事務局によれば,制裁方法を一般的に実施するための統一制度を定義するこ とはできないとされるが,ここでは制裁方法のうち基本的なもののみがとりあ げられ,「①現行率より低い率で賃金を受けとる労働者は,いかなるぼあいに も,適切な手続によって,支払不足額を回収する権利を有し,且つ②共謀の可能 性を防ぐため,現行率より低い賃金を受けとることを任意に同意したことによ       って,この権利を失うことはない」という趣旨の一般原則が定められている。  条約譜第4条に規定された最低賃金率実施保証諸原則に関連して,その詳 述・再確認・実施方法をめぐる諸問題は,勧告案第皿項で扱われている。  勧告毒心皿:項は次のとおりである。「関係ある労働者の賃金を有効に保護し 且つ不公正競争の可能性に対し関係ある使用者を保護するために,決定せられ た最低率より低い率で賃金が支払われることのないように確保するため執られ るべき措置は,次の事項を包含すべし。即ち(1)使用者および労働者に現行率を 知悉せしめるための措置,図実際に支払われる賃金率に対する公の監督,㈲現 行率の違反を取除き且つ防止するための制裁。  (1)賃金決定機関の諸決定を知る自分自身の手段を有すること使用者より少 なかるべき労働者に,彼らに支払われる最低率を常時知らせることを確保する ため,現行率にかんする詳細な告示を,労働者の使用されている場所内の,又 は家内労働者のばあいには仕事が与えられ叉は完成のうえこれを返す場所内の 又は賃金の支払われる場所内の,容易に接近しうる位置に掲示することを,使 用者に命ずることを可とする。  (2)現行最低賃金率が事実上支払われているか否かを確かめ且つ該率の違反 を処理するについて権限を与えられる措置を執る目的をもって,関係ある使用 者および労働者につき調査を行うため,1923年の総会が採択した監督制度の組 織についての一般原則にかんする勧告において工場監督官にかんし提議された ものと同様の権限を有する公の監督官の充分な人員を使用すべし。監督官が充 分にその義務を遂行しうる方法として,使用者に対し,その支払った賃金の完 65) Chapter豆General Survey, p,123., in:ibid. Chapter皿:Conclusions, p.142,,  in ibid.同,21頁。

(17)

全にして確実な記録を備付けることを命じ,又は家内労働者のばあいには,そ の住所を記した労働者名簿を備付けるとともに実際に支払われた賃金が現行率 と一致するか否かを確かめるに必要な諸事項を記載する賃金簿その他の類似記 録を労働者に与えることを命ずるを可とする。  ③ 労働者が,一般に個人として法律上又はその他の適切な手続により現行 最低率の賃金を回収する権利を実行し得ないぼあいには,該率違反を防止する       う に有効と考えられるべきその他の制裁を定めることを要す。」  勧告案第皿項前段は,条約案第4条前段の規定をやや詳しく述べ且つ再確認 している。  勧告案第皿項後段は,勧告に含めることができると思われる一般原則の三つ の実施方法を詳しく扱い,(!)使用者に対して,労働者が現行率を知悉せしめら れるよう確保すべき措置を実例で指示し,(2)実際に支払われる率の有効な監督 を組織する実施方法を,種々の国で一般的に獲得されるにいたった現行の実際 にもとづいて詳述し,監督制にかんする①充分な人員を使用し②職務の遂行に 必要な権限を有し⑤賃率の遵守を検証する手段の自由をもつ,という三つの一          わ 般的指導原則をあげ,(3,)制裁については,その基本的ものとして条約案第4条 後段にかかげた支払不足額回収権原則の他に,①この権利が一般に個人として 実行し得な:いばあい,事実,最低賃金決定制度を適用しようとしている労働者 グループのばあい,こうした権利のみでは充分な制裁となりそうでなく,②こ うした権利のみでは不充分であることは,その他の,例えば罰金又は第三者 に損害回収権を与えるといった制裁のある事実をみれば一般に是認されるとい う理由から,勧告案第皿項③において,労働者が一般に個人として法律上又は その他の適切な手続により,現行最低率の賃金を回収する権利を実行し得な いぼあい,該率違反を防止するに有効と考えられる制裁方法を定めることが 必要だとしている。ただし,ここではそれ以上に特定の制裁方法を指示してい 66) Ibid., pp.148−9., in:ibid. 67) Chapter H General Survey, PP・122−5・, in:ibid・Chapter玉Conclusions, PP.  141−2.,in:ibid,拙稿「政府回答の分析」,21−2頁。

(18)

 68) ない。  条約案第5条は, 「本条約を批准する各締盟国は,最低賃金決定制度の実施 される職業又ぼ職業の部分の表および適用を受ける労働者の概数,決定された 最低賃金率および最低率に関連して定められた他の条件があれば其のうち比較        的重要なものにかんする要約的陳述を毎年国際労働事務局に通告すべし。」 と なっている。  本条は,主として①「種々の国において条約を実施した結果を相互統制する 手段を組織する」とともに②賃金問題にかんする国際労働機関の今後の仕事の 基礎づけをすることを目的とした「適用にかんする年次報告」の原則を扱って  7D) いる。  本条の必要性と重要性は,この条約案が制度の適用範囲,その現実の決定, 制度の性質・形態・運用方法を政府の任意決定ないし自由裁量に大きく委ねて        ア  いるため,とりわけ不可欠の規定として強調されている。  本条の特徴は,①全体的にみて政府に広い余地のある自由の範囲を任せつ つ,同時に,政府による価値ある情報の定期的供給の基礎を整備し,②制度の 定めたすべての条件にかんする事項を問題にするのではなく,支払われた賃率 に関連する条件の事項すなわち(D「最低賃金決定制度の実施される職業叉は職 業の部分の表」㈹「適用を受ける労働者の概数」㈹r決定された最低賃金率」 (iv)「最低率に関連して定められた他の条件があれば,其のうち比較的重要なも 68) Chapter ll General Survey, p, 124., in: ibid. Chapter M Conclusions, pp, 142−  3.,in:ibid.同,21頁。 69) lbid. p. 145,, in: ibid. 70) Chapter豆General Survey, PP.126−30., in:ibid. Chapter 皿 Conclusions, P,  i43., in:ibid.拙稿「政府回答の分析」,22頁。 71) Chapter豆General Survey, pp.126−8., in:ibid. Chapter皿 Conclusions, p.  132,143.,in:ibid.同,22頁。

(19)

  の」という四つの事項に限られ,③これらのうち(ii)㈹(iY)については, 「要約的 陳述」(asummary statement)のみが要求され,④更に㈹の他の条件について は「比較的重要なもの」でよいとされている。それは政府に対して自由裁量へ       アヨ  の途をひらいているといってよい。       アの  既に別の機会に考察したように,質問書に対する政府回答は,7分類されて いる。1「制度の創設」と「制度の適用範囲」 (質問1−4。なお,ここに含 まれる質問14「総会決定の形式」については,本稿でも既にとりあげた)豆 「最低賃金決定規準」 (質問5)皿「最低賃金決定方法の決定」(質問6−7) IV「予備的協議」 (質問8)V「賃金決定機関の構i成」 (質P。V 9 一一11)VI「最 低賃率の実施」 (質問12)W「適用についての年次報告1 (質問13)が,これ である。  一ヒ述の7分類されたそれぞれの部門にかかわる分析の結論を要約的に述べ, それらが条約案および勧告案のどこに編入され,体系化されたかを示してみよ う。  工①制度をもたないばあい創設,もっているばあい維持する原則一条約案第 1条。②適用範囲を,未組織・例外的低賃金の2条件を充足し,且つ,国が制 度をもつことを適当と考える職業とする原則一条約案第1条。③各国の,適用 職業を現実に決定する自由の原則一条壮蚕第2条。1[適当な生活水準を維持す る必要を第1規準,団体協約を締結している職業における類似の仕事の賃率を 第2規準,国又は特定地方の一般賃金水準を第3規準とする一勧告案第皿項。 皿①各国の,制度の性質・形態・運用方法を決定する自由の原則一条約案第3 条前段。②決定された賃率が関係労使を拘束する原則一条約案第3条但し書(3) 72) 国際労働事務局は,出来高賃率が保証時閻賃率にもとつくか,身心障害労働者規定,  超過時間規定等を例としてあげている。Chapter ff General Survey, p.!30,, in:ibid. 73) Chapter hi Conclusions, p. 143,in: ibid. 74)拙稿「政府回答の分析」,3−4頁。Chapter I Replis of the Governments, p. L,  in: ibid. Chapter ll General Survey, p. 89, in: ibid,

(20)

項。③関係職業の関連条件の調査,関係労使との協議運用一勧告案第1項①前 段。IV制度実施前の予備的協議原則一条約吉野3条但し書(1)項。 V①関係労使 が同等条件で制度の運用に参与する原則一条軽妙第3条但し書(2)項。②最低賃 率の決定にかんする一切の事項について労使の意見をきき充分且つ均等に考慮 する一勧告案第1項(1)後段。③同等の員数又は投票力の労使代表者が共同して 最低賃金決定機関の審議・決定に直接参加する一勧告案第工項(2)(a)前段。④最 低賃金決定機関の構成員に中立者を含める一勧告案第工項(2>(a)後段。⑤労使代 表者の選定には関係労使に発言権を与え,団体があれば,これと協議する一勧 告案重工項(2)(b)。⑥中立者の選定は,有資格且つ公平を疑われるおそれのない ことを認められた男子又は女子から一勧告案第1項(2)(c)。⑦多数の女子を雇う 職業では,労働者代表者および中立者の選定にできる限り女子を含める一勧告 案第1項(2)(d)QVI①現行賃率にかかわる知悉・監督・制裁の一般原則一条勘案 第4条前段②その詳述・再確認一勧告案第皿項前段。上述の一般原則の運用特 定方法として,③知悉の実例指示一軸告達第皿項後段(1)。④監督一勧告案第皿 項後段(2)。⑤基本的制裁としての,労働者が賃金不足額を回収する権利の原則 一条約案第4条後段。⑥上述の権利を実行し得ない労働者のための他の制裁 の必要一勧告案第皿項後段(3,)。w①実施した職業表および②(D被適用労働者概 数,(ii)決定された最低賃金率,㈹これに関連して定められた他の条件があれ ば,そのうちの比較的重要なもの,の要約的陳述を毎年国際労働事務局に通知 する原則一一条約後脳5条。 むすびにかえて  条約および勧告の原型とみられるこの予備草案について,ここでは,いくつ かの特徴をあげてみよう。  1 条約案のなかで国際的に規制する重要なものは次のとおりである。(1)制 度の創設・維持を基本的義務とする(第1条)。 (2)未組織且つ例外的低賃金の 2条件を同時に充足する職業に制度を適用する(第1条)。 ⑧適用職業を現実 に決定する(第2条)。(4)制度を実施する前に予備的協議をする(第3条但し

(21)

書(1)項)。(5)関係労使が同等条件で制度の運用に参与する(第3条但し書(2)項)。 (6)決定した最低賃金率は関係労使を拘束する(第3条但し書(3)項)。 (7)最低賃 金率の実施を保証する知悉・監督・制裁措置をとり(第4条前段),基本的制 裁として労働者は支払不足額を回収する権利をもつ(第4条後段)。 (8)適用に かんする年次報告(第5条)が,これである。こうした諸規制は,労働者の賃 金を保護し,不公正競争の可能性に対し使用者を保護することを政策目的と し,とりわけ労働者に対する保護に主眼をおいている。更に目立つことは制度 の民主的運用に力点をおき,例えば,上述の(4)予備的協議は,団協方法を賃金 規制の基本とする見解を間接に確認するものであり,それはまた,上からの押 しつけを回避する措置であり,上述の㈲労使が同等条件で制度の運用に参与す る原則も注目すべき民主的規制である。  豆 条約案のなかには,上述の国際的規制の方向と異なり,各国の任意・自 由な決定に委ねるものもある。  第1条「適用職業の原則」ぱ,2条件の同時充足のみにとどまらず「各国が 制度をもつことを適当と考える職業」という条件がついている。それは各国の 任意決定権への途をひらくことを含意しているとみられる。第2条は,各国が 制度を適用する職業を現実に決定する自由をもつ原則である。第3条では,既 にみた如く,三つの原則の規制を条件にするとはいえ,各国は制度の性質・形 態・運用方法を自由に決定することになっている。更に上述の(8>適用にかんす る年次報告では,職業表以外の項目について要約的陳述にとどめ,最低率に関 連するその他の条件についても比較的重要なものに限って,各国の任意決定権 への途をひらいている。これらは,一方で,明らかに国際的規制機能の水準を 低下せしめることになるといえようが,他方で,できるだけ多数の国の,でき るだけ多数の労働者への適用の拡大を,いわば労働者保護の国際的規模の拡大 をもたらす一面もあろう。  皿 条約案における国際的規制からはずされ勧告案にまわされた,主として 実施方法を中心とする原則的指示機能は,条約案のような規制力をもたないと はいえ,制度を導入する国に対して発揮される。(1>勧告案第1項における労使

(22)

の同等条件での制度運用に参与する数々の諸方法,(2)勧告案第皿項における制 度の運用に関連する最低賃金決定の規準㈲勧告案第皿項の制度の実施を保証す る諸方法が,これである。  国際労働事務局は,当初,国際最低賃金制の創設をめぐる主要問題として, 「制度の適用範囲」「制度の形態」「最低賃金決定規準」の三つを特に指摘して    アう  いたが,この予備草案のなかでみると「制度の適用範囲」は条約案第1条に含 まれて重要な位置をしめているが,「規準」問題は最低賃金制における最重要 問題の一つであるにもかかわらず,運用方法の一つとして勧告案第皿項で扱わ れるにとどまり,「制度の形態」は,条約案第3条で政府が自由に決定するもの に含まれ,勧告案第1項(1)で僅かにその名称のみが記されているにすぎない。 そこでは形態のあれこれより,むしろ,いかなる形態にも共通する運用方法が 詳述されている。いずれにしても,事務局の準備した予備草案は,第11回総会        アのにおける多くの国々の代表者により,甚だしく慎重だと受けとられている。 75)拙稿「最低賃金決定制度の創設にかんする国際労働事務局の基本的見解」,彦根論  叢第166号(昭和49年3月)International Labour Offlce, Minimum Wages and the  International Labour Conference, in: lnternational Labour Review, vol. 15. No. 5.  May 1927. 76) The Eleventh Session of the lnternational Labour Conference, in: lnternational  Labour Review vol. XVIII, No. 2, August 1928, p. 159.

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