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ヒト・プリオン病研究の現況

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吉備国際大学社会福祉学部精神保健福祉学科 〒716−8508 岡山県高梁市伊賀町8

Department of Mental Health and Welfare, School of Social Welfare, KIBI International University 8, Iga−machi, Takahashi−city, Okayama, Japan (716−8508)

吉備国際大学

社会福祉学部研究紀要 第11号,15−25,2006

ヒト・プリオン病研究の現況

庄盛

敏廉

Human Prion Diseases

Toshikiyo SHOHMORI

Abstract

Compared with that of other human pathogens such as bacteria and virus, the proposed replicative process of prions is very simple. It means misfolding of a single protein, the normal cellular prion protein (PrPc), into a disease−associated form called PrPSc. This is followed by PrPSc aggregation and fragmentation of aggregates, which may increase the number of replicative products. Although the correctness of this model has not yet been proved formally, much evidence indicates that pathogen− encoded DNA and RNA are not needed for prion replication. Despite the simplicity of the replicative process, the human phenotypic range of prion diseases is very variable and includes the sporadic, inherited, and acquired forms of Creutzfeldt−Jacob disease. In addition, prion diseases occur in a wide range of animals and can be propagated within and between animal species. This article reviews selected papers dealing with molecular and clinical aspects of human prion diseases.

Key words:prion, Creutzfeldt−Jacob disease, BSE, dementia

キーワード:プリオン、クロイツフェルト−ヤコブ病、狂牛病、痴呆 細菌やウイルスのような他のヒト病原因子のそれに比べて、プリオンで提案されている複製 過程は非常に単純である。それは1つのタンパクすなわち正常な細胞性プリオン・タンパク (PrPc)を、PrPSc と呼ばれる病気を起こす形態に折り畳み違いすることを意味している。こ の後に PrPSc の集合物形成、そして集合物の分解が続くが、それが複製産物の数を増加させる だろう。このモデルが正確であるということは公式に証明されてはないけれども、多くの証拠 は、病原因子をコードしている DNA や RNAがプリオン複製のためには必要でない、とい うことを指し示している。複製過程の単純さにもかかわらず、ヒトでのプリオン病の表現型の 範囲は極めて変化に富んでおり、散発性、遺伝性および後天性のクロイツフェルト・ヤコブ病 がある。その上、プリオン病は広範囲の動物に発生するし、また同じ種類の動物同士および異 なる種類の動物の間に伝わっていく。この総説は、ヒト・プリオン病の分子生物学的および臨 床的な側面を取り扱う、いくつかの報告論文を考察する。 庄盛 敏廉 15

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前置き わが国と米国の政府間で牛肉の貿易をめぐって確 執が続いている。わが国は年余にわたって米国産の 牛肉の輸入を停止している。ことの発端は、米国に おいてウシ海綿状脳症(BSE すなわち狂牛病)に 罹ったウシが続けて発見されたことにある。それに 先立ち、英国においては狂牛病のウシから感染され たと推定される新型の変異型クロイツフェルト・ヤ コブ病(CJD)がすでに多発していたのである。米 国政府はいろいろ条件をととのえて牛肉の安全性を 強調して、わが国に輸入を迫っている。伝染性海綿 状脳症(TSE)すなわちプリオン病(PrD)は、人 類や多種類の動物をおかし、必ず死に至らしめる神 経変性性の病気である1、2) 。この論文では、様々な角 度からまとめられた Glatzel ら3) の総説や標準的に解 説されている Greenberg ら4) の教科書を参考にしな がら、PrD 研究の現況を考察してみたい。 Aguzziら2) は、前世紀においてプリオンが悲劇的 エピソードに関連を持っていたことを述べている。 すなわち50年前、PrD の一つクール−(かって儀式 に人肉を食べる風習のあったフォア族の人びとに多 くみられた)がパプア・ニューギニアの人口を激減 させている。さらに、プリオンの医原性の伝播が、 250例以上の CJD を引き起こした。さらに最近、ウ シ海綿状脳症のヒトへの伝播が英国を始めとする欧 州諸国の人びとに恐慌を引き起こしたのである。 ま た、Aguzzi ら5) は、PrD は ア ル ツ ハ イ マ ー 病 (AD)のごとき他の進行性の脳症と形態学的およ び病態生理学的の類似性をもって現われるけれど も、それはプリオンで汚染された材料の接種または 摂取によって伝染するという点で独特であると述べ ている。AD と PrD は、ニューロンの膜タンパクの 代謝に関する多くの共通する特性を有している。す なわち、AD の症例ではアミロイド前駆物質タンパ クすなわち APP、PrD では細胞性プリオン・タンパ クすなわち PrPc である。APP は Aβ ペプチドを生 じるが、PrPc は悪性のプ リ オ ン・タ ン パ ク PrPSc を生じる。Aβ ペプチドも PrPSc も疾患には連関し ているが、これらの蓄積や神経毒性を何が引き起こ すのか、は知られていない。 ヒトでの PrD の最初の徴候は、認知機能の障害 と運動失調である。脳組織の組織学的分析では、活 性化された astrocyte と microglia を伴う脳の海綿状 変性が観察される。Budka ら6) によって、CJD およ びその他のヒト PrD のための詳細な神経病理学的 な診断基準が提案されている。これらの変化は宿主 由来でありプロテアーゼ抵抗性である形態のプリオ ン・タンパク(PrPSc, Scはスクレピーを示してい る)の蓄積を伴っている。プリオン・タンパクの細 胞性形態(PrPc, cは細胞性を指し示している) は、プロテアーゼ感受性を有する糖タンパクであ り、細胞膜に豊富に存在している。多くの証拠が、 異常に加工処理された PrP が PrD を引き起こす感 染性物質の内在性成分であろう、と示唆している。 Legnameら7) は、大腸菌に産生された組み換えマウ ス・プ リ オ ン・タ ン パ ク(recMoPrP)が、ベ ー タ シートに富んだ構造のサブセットであるアミロイド 原 線 維 に 重 合 さ れ て い る こ と を 認 め た。そ し て recMoPrP(89−230)で構成されている原線維を、 MoPrP(89−231)を表現するトランスジェニック (Tg)マウスの脳内に接種した。マウスは接種後 380日から660日に神経学的な機能異常を引き起こし た。脳抽出物はウェスタンブロット分析によってプ ロテアーゼ抵抗性である PrP を示した。これらの抽 出物は、それぞれ150日と90日の潜伏期をもって、 病気を野生型の FVB マウスや PrP を過剰表現する Tgマウスに伝播させた。神経病理学的所見は、新 奇なプリオン株が創製されたことを示唆している。 著者らの結果は、プリオンは感染性のタンパクであ る、という証拠を提供している。 もっとも一般的なヒト TSE は CJD であり、Glatzel ら8) によって散発性(sCJD)、家族性(fCJD)、医原 16 ヒト・プリオン病研究の現況

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性(iCJD)および変異型(vCJD)に分類されてい る。sCJD はまれであり、Glatzel ら10) がスイスにお いて、より高い発生率を報告しているけれども、世 界中に一様に分布されているようにみえる。すなわ ち、Brandel ら9) は調査監視が実行されている国々は そろって、約0.6−1.2x10−6 という年間発生率であ ることを報告している。Brandel らは、3つの異な る CJD 診断基準の使用の効果を評価している。結 論として異なる診断基準が、CJD の真の発生率の 過小評価または過大評価をもたらすかもしれない。 し た が っ て、異 な る 国 々 で の CJD 発 生 率 の 比 較 は、同一の基準を用いる診断的分類に依存すべきで あることを強調している。sCJD の病因は不明であ る。すなわち、外因性または内因性の原因が未だに 同定されていない。Hsiao ら11) は、この病気の fCJD (Gerstmann−Straussler 症候群)は常染色体優性の 特徴をもって遺伝され、プリオン・タンパクをコー ドしている PRNP 遺伝子の突然変異によって区別 されると報告している。これと対照的に、Brown ら12) は267例の iCJD の原因および地理的分布を調べ て、これらの症例は、神経外科的侵襲、組織の移植 または、未確認ではあるが TSEs を有して死亡した と思われる個体から採取した成長ホルモンの注射の せいであると述べている。そして、過去四半世紀に 獲得されたハイリスク汚染源に関する知識および、 それらを回避する方法の実行が、現在の CJD の総 数に iCJD が寄与する可能性を最小にするだろうと 希望している。1996年、新奇な型のヒト TSE が英 国に出現して新しい vCJD と称された。生化学的お よび組織病理学的の証拠は、vCJD はウシ海綿状脳 症(BSE)がヒトに伝染したものである、というこ とを示唆している。Bruce ら13) は、様々な仲介動物 種を介する実験的通過の後にも保たれている、BSE によって冒されたウシから得た病原因子の株が、マ ウスに疾患の特徴的なパターンを引き起こす、とい うことを示した。著者らは、sCJD と vCJD のマウ スへの伝播の結果を報告して、データは、同じ病原 因 子 の 株 が BSE と vCJD の 両 方 に か か わ っ て い る、と推測している。 TSEsは多くの種類の動物に観察されて き て お り、こ の 病 気 は ヒ ツ ジ の ス ク レ ピ ー、ウ シ の BSE、飼育されたミンクの TSE、およびシカやオオ シカの慢性消耗性疾患を含んでいる。ネコおよびヒ ト以外の霊長類における TSE は、たぶん、BSE の こ れ ら の 動 物 種 へ の 伝 染 の 結 果 で あ ろ う と Kirkwoodら14) は推測している。 PrPc および PrPSc の分子生物学 PrPをコードする遺伝子(PRNP )は、ヒトでは0番染色体上に局在している遺伝子である。PRNP 遺伝子は3つの exon を有しているが、exon3のみ が PrP をコードしている。ヒト PrP は253個のアミ ノ酸のタンパクである。最初の22個のアミノ酸が、 翻訳の期間中に割れてしまうシグナル・ペプチドを コードしている。51番から91番までの残基は、銅結 合部位として機能する可能性がある。PRNP 遺伝子 は、バリンまたはメチオニンのいずれかをコードし ているコドン129のところで多形性を示す。メチオ ニンに対する同型接合が PrD の進展に対する危険 因子を構成している、ということが示されている。 すなわち Palmer ら15) は、22例のうち21例の sCJD お よび、23例のうち19例の sCJD の疑い症例が、多型 性のアミノ酸残基129のところで同型接合であり、 そして正常人口の51%がこの部位において異型接合 である、ということを報告している。著者らは、同 型接合が sCJD にかかりやすくしており、そして、 このことが直接的に、プリオン・タンパク分子の間 にある相互作用がこの疾患過程の背後にあるという 仮 説 を 支 え て い る、と 主 張 し て い る。PrPc は ニューロンや中枢神経系(CNS)の他の細胞のなか に最も多量に表現される。CNS に加えて、PrPc は リンパ網内系および骨格筋または心筋に表現され 庄盛 敏廉 17

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る3) 。 PrPcは、3つのα ヘリックスと2つの短いアン チパラレルβ 鎖を含んでいる、非常に構造化され た C−末端部分、および120個のアミノ酸の構造化 されていない N−末端から成っている。翻訳に続い て、PrPc は残基181および197のところで糖化作用 を受け、さらに残基230のところでの C−末端アン カーの追加によって改変される。成熟したタンパク は、特殊なマイクロドメインにおいて、アンカーを 介して細胞表面に付着しており、細胞表面とエンド ソ−ムの間を循環している16,17) 。 PrPc の推定される機能 遺伝的に設計されて PrPc を欠如しているマウス は、それらの PrD への抵抗性を除くと、かすかな 表現型しか示さないようにみえる。Bueler ら18) は、 PrPcを欠いている Prn−p0/0マウスが正常な発育 と行動を示したと報告している。さらにマウススク レピー・プリオンを接種すると、これらのマウスは 少なくとも13ヶ月間はスクレピーの症状を示さない ままであったが、一方、野生型の対照群は6ヶ月以 内にすべて死亡したと述べている。これらのマウス を使用する研究は PrD に関する理解を大いに助け てくれているが、広い範囲の哺乳動物に保存されて いる1つのタンパクの唯一の機能が、なぜ、PrD を 可能にすることなのだろうか。PrPc の明確な機能 に対する明白な証拠がない限りは、何年もの間に提 案されてきた数々の仮定的な機能で満足せざるを得 ない。PrPc が信号伝達分子として機能する、とい う証拠がいくらかある。すなわち Solforosi ら19) は、 in vivoで PrPc が特異的モノクロナル抗体と交差結 合して、海馬や小脳のニューロンでの急速で広範な アポトーシスの引き金になる、ということを認めて いる。そして、これらの所見は、PrPc がニューロ ン生き残りの制御に機能しており、PrPc がオリゴ マー PrPSc と交差結合することが、プリオン感染の 間に起こるニューロン脱落を増加させるか否かを探 るモデルになるということを示唆している、と述べ ている。 感染病原因子の性質 1960年代に、プリオンは核酸に対する傷害によっ て殺菌することができないので、慣習的な因子とは 根本的に異なる、ということが Alper20) によって明 らかになった。この研究者は放射線の理論を用い て、病原因子が核酸であったとするならば、単一の タンパクでさえコードするには小さすぎる、という ことを見つけた。同時にかれは、病原因子が殺菌性 の UV 放射線を効果的にすり抜けることを見つけて いる。TSEs を引き起こす病原因子は完全にタンパ クから出来ている、という考えは1967年にもたらさ れた3) 。それに続いて、プリオン・タンパクのプロ テアーゼ抵抗性の形態が感染性分画の主要な成分で ある、ということが McKinley ら21) によって示され た。かれらは、スクレピーに感染したハムスター脳 から精製した画分に含まれる PrP を放射標識して、 プロテアーゼやアミノ酸特異的なトリプシンなどの 作用を調べた。PrP とプリオンとの間にある平行し た変化は、PrP が感染性のプリオンの構造的成分で あるという証拠であるとした。Prusiner22) の「タン パク唯一(protein−only)仮説」によれば、単純 化 した形では、この感染因子は核酸を欠いており、主 に PrPc と呼ばれる正常な細胞性タンパクの異常に 折り畳まれてプロテアーゼ抵抗性の、β−シートに 富むアイソフォームである PrPSc から構成されてい る、ということが述べられている。この理論に従え ば、感染能力は単純に補充と「自己触媒の」構造す な わ ち、PrPc の 病 気 を 起 こ す PrPSc へ の 転 換 に よって伝播していく23) 。PrPSc 伝播の正確な様式は 今日まで秘密のままである。少なくとも2つの可能 な説明が存在している。第一の説明にしたがえば、 単体の PrPSc がその形態を単体の PrPc に分け与え 18 ヒト・プリオン病研究の現況

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ると、その結果は PrPSc の2分子ということにな る24) 。このことは、1つのタンパクがもう1つのタ ンパクの三次元構造の変化を誘導することが可能で ある、ということを意味しているだろう。第2の説 明は、PrPSc と PrPc は平衡状態で共存している、 と述べている25) 。健康な有機体においては、存在す る PrPSc の量が非常に少なければ、平衡状態は PrPc の方向に強く傾く。PrD の症例では、PrPSc 分子の 凝集体が感染因子として機能するだろうし、またそ れが単体の PrPSc 分子を補充して「感染性の」PrPSc 凝集体の中に組み入れるだろう。この理論にしたが えば、PrPSc のみが凝集体として感染性である。こ の理論は証明されていないけれども、とくにプリオ ン複製の酵母菌モデルにおいては、実験的証拠はこ の機序を支持している26) 。 ヒト・PrD 5−1 ヒト・PrD の臨床診断 ヒト・PrD の診断は、臨床的徴候と症状の評価、 および数々の補助検査に基づいている27) 。 長い間、脳波がヒト・PrD の診断を立証するのに 選択される方法であった。この方法の総合的な感度 は限られているので、この検索の有用性は疑問視さ れてきた。Zerr ら28) は先ず、sCJD の表現型の多様 性に関して最近確立された分子的基礎に従えば、6 種の異なる表現型が病的プリオン・タンパク(タイ プ1と2)のプロテアーゼ抵抗性の断片サイズおよ び、プリオン・タンパク遺伝子のコドン129のとこ ろでメチオニンかバリンかの同型接合またはヘテロ 接合(MM1,MM2,MV1,MV2,W1お よ び W2と命名されている)によって分類される、と述 べている。次いで著者らは、それぞれの CJD 表現 型の臨床診断に関する、通常用いられる臨床テスト (EEG, CSF 中の14−3−3タンパクの検出、およ び MRI での大脳基底核の高信号強度)の価値を分 析した。そして、脳波における周期性鋭波・徐波複 合の検出は MM1および MV1患者の臨床診断にお いてのみ信頼できる、と述べている。また、CSF 中にある14−3−4タンパクの分析は、MV2患者 を除いて、すべての分析された下位集団において高 い感度を示した。バリンの同型接合の患者は陰性 EEGを示したが、ほとんどの例は CSF 中のニュー ロンタンパクの検出可能な濃度を有していた。MRI の感度は、下位集団に関係なく70%であったが、特 に MV2患者の臨床診断に信頼できるものであっ た。結論として、CJD の診断技法の範囲を広げる ことは、臨床診断の正確さを増加されるのに有用で あるのみならず、また sCJD のより非定型の症例の 同定につながる可能性がある、と述べられている。 上に研究報告を引用したように、ヒト・PrD の臨 床的疑いを確認することが可能な代替の補助試験 は、CSF 中にあるニューロン損傷の指標の上昇で ある。この指標のいくつかは、ヒト・PrD の患者の CSF中で測定されてきた。これらの代替指標の、 もっとも見込みのありそうなものは14−3−4タン パクである。このタンパク濃度の上昇は、脳炎、脳 梗塞、悪性腫瘍関連性神経疾患といった、プリオン に関連しない疾患の範囲内であることが報告されて いるので、満足できる感度と特異性は選ばれた集 団28) においてのみ達成されることが可能である。こ れらの欠点のために、この試験はヒト・PrD のふる い分け試験として推奨することができない。神経画 像法とくに磁気共鳴画像法(MRI)の最近の進歩 は、ヒト・PrD での特異的なパターンの確立につな がる可能性がある。Tribl ら29) は、急速に進行する痴 呆を示す CJD の早期診 断 の た め に 拡 散 強 調 画 像 (DWI)を勧めている。Zeidler ら30) によれば vCJD で は、視 床 枕 徴 候、す な わ ち 後 部 視 床 に お け る T2−強調 MRI の高信号強度が比較的特有であるよ うに思われるし、またこれが vCJD の患者で約75% に存在している。sCJD の場合、拡散強調 MRI は高 い感度と特異性に示しているし、またヒト・PrD の 庄盛 敏廉 19

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診断で確証を得る比較的に非侵襲性の方法であろ う31) 。 生検で切除された標本の病理学的および生化学的 な検査は、適切なバイオセイフテイ手段が確保され ている場合のみ可能であり、また治療的手段が利用 できる疾患の診断を除外するためにのみ勧められ る。最近まで、PrPSc は PrD の患者 の CNS 組 織 に おいてのみ検出されると考えられていた。ところ が、PrPSc は vCJD 患者のリンパ組織や、sCJD 患者 の嗅粘膜および筋肉組織にも検出され得ることが明 らかになってきた32、33、34) 。Hill ら32) は、リンパ網内系 組織(68件の扁桃腺、64件の脾臓、および40件のリ ンパ節)を、PrD に罹患した患者および、神経病や 正常な対照者から剖検の際に採取した。採取された 組織は、PrPSc を検出するのにウエスタン・ブロッ ト分析法により、また PrPSc をタイプ分けするのに PrP免疫組織化学によるか、または両法によって分 析された。vCJD の患者から剖検のさいに採取され た総てのリンパ網内系組織は PrPSc に対して陽性で あったが、対照者または別の PrD の患者からの試 料では陰性であった。また Zanusso ら33) は、調べた sCJDの患者すべてにおいて、PrPSc を嗅繊毛や中 枢嗅覚経路において認めたが、呼吸粘膜においては 認められなかった。PrPSc は11名の対照者からの組 織試料のいずれからも検出されなかった。さらに Glatzelら34) は、sCJD から採取した脾臓試料および 骨格筋試料に PrPSc を認めている。来るべき年月の うちに、これらの方法のいずれかがヒト・PrD の診 断を容易にする可能性があるか否かが示されるだろ う。 5−2 ヒト・PrD の分子診断 ヒト・PrD の分子診断は、臨床データと共に遺伝 学的、生化学的および神経病理学的な検索の組み合 わせに依存している。 5−2−1 遺伝学的検索 PRNP の塩基配列決定が遺伝的に引き起こされる CJDの除外を可能にする。Windl ら35) は、PrD 疑い の578名の患者を用いて、PRNP における突然変異 および多型性を調べた。著者らは、以前に病原性と して報告されたミスセンス変異を示す40症例を発見 した。これらの中に、コドン178(D178N)のとこ ろでアスパラギン酸からアスパラギンへの変化が、 最もありふれた変異であった。それに加えて、この 検索はコドン129多型性に関する情報を提供してく れる。遺伝的に改変されたマウスに関する研究およ び、ヒト・PrD の患者に関する臨床研究から、コド ン129でのメチオニンに対する同型接合が PrD の発 生の危険因子となっている、という証拠が得られて いる36) 。特に、メチオニン同型接合は sCJD の患者 でははっきりと表現されている。なおその上、vCJD に侵された個体はすべて、コドン129においてメチ オニン同型接合である。この多型性は、PrD の発生 の危険因子を構成する上に、PrD の個体での臨床 的、生化学的および神経病理学的な表現に相当な効 果を有している36) 。 5−2−2 生化学的な検索 PrPScの生化学的特徴決定の基礎は、タンパク分 解に対する相対的な抵抗に存在している。PrPc が プロテアーゼ(プロテイナ−ゼ K)によって完全に 消化されるけれども、同一の処置は PrPSc の場合に おいて、様々な数の N−末端アミノ酸の除去につな がっている。Parchi ら37) は、CJD の19症例において PrP遺伝子の配列を決定し、プロテアーゼ抵抗性の PrPのウエスタン・ブロット分析や免疫組織化学に よる脳内分布および生化学的特徴を研究した。そし て、ウエスタン・ブロット分析法上で3つの異なる バンドの出現を認めている。PrPSc の分子による分 類は、2つの指標を考慮して行われる。第一のもの は、ポリアクリルアミド電気泳動上での PrPSc の非 20 ヒト・プリオン病研究の現況

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グリコシル化バンドのサイズと移動度であるが、一 方、第2の 指 標 は、PrPSc の2−グ リ コ シ ル 化, 1−グリコシル化および非グリコシル化したものに よって引き起こされる信号強度の相対的な度合に関 する情報である。そこで、結果として得られた情報 は、提案されたシェーマにしたがって分類される PrPScのタイプを確立することである38,39) 。プロテ アーゼによる消化とウエスタン・ブロット分析法が 実施される正確な条件に依存して、3から6までの 間の異なる PrPSc タイプが区別される38,40) 。異なる PrPScタイプは、異なるプリオン株の分子的相関関 係を表していると考えられているし、また vCJD の 患者で認められる PrPSc タイプが BSE ウシに存在 する PrPSc タイプと同一であるという事実は、BSE プリオンがヒトでの vCJD 流行に責任がある1) とい う理論を支持する、主要な論議のひとつである。糖 化タイプの比率はどれほどの忠実度をもって、プリ オン複製の期間中に伝播されるかを理解するのは難 しいように思われる。この質問は基本的に未だ答え られていないけれども、酵母菌プリオンを用いた実 験26) は、このことが合成プリオン複製系では議論の 余地がないほど起こりうる、ということを指し示し ている。この現象は、プリオン凝集体の構造に関係 しているのだろう41) 。 5−2−3 組織学的検索 通常の神経病理学的検索は、中枢神経系の特定の 領域での標本採取および、PrP の免疫組織化学的な 証明である。特別な強調は、中枢神経系の様々な領 域、例えば小脳とか視床とかにおける PrP の明らか な沈着様式の検索に置かれるべきである6) 。 5−3 sCJD sCJDは急速に進行する痴呆であり、たいてい発 病から12ヶ月以内に死に至る42) 。初発症状は、認知 機能障害、睡眠障害および行動異常である。病気が 進むにつれて、他の臨床的特性すなわち錘体外路性 および錘体路性の症状、運動失調ならびに視覚障害 が明らかになり、そして患者はたいていミオクロー ヌ ス を 起 こ す42) 。終 末 に は sCJD に 冒 さ れ た 患 者 は、死の前に無動性無言症の状態に落ち入る。発生 率が加齢とともに上昇するアルツハイマー病とか パーキンソン病のごとき他の痴呆性疾患とは異な り、発生率のピークが55−65歳の間にある。 こ れ ら の 基 準 に 従 え ば、sCJD は、明 白 な 遺 伝 的、生化学的、神経病理学的および臨床的な特性か ら、数種の下位集団に分けることができる。典型的 な急速進行型の sCJD は、コドン129上でメチオニ ンに対して同型接合を示しており、またウエスタ ン・ブロット分析上で、比較的長い(従ってより ゆっくり移動する)非グリコシル化 PrPSc 断片を有 する PrPSc 型を示す。臨床的には非定型的な sCJD は、コドン129の異型接合を示すことが多く、また ウエスタン・ブロット分析上では、より短い(した がって、より速く移動する)非グリコシル化 PrPSc 断片を示す38,39) 。 5−4 遺伝性ヒト・PrD この集団の病気は、3つの表現型に下位分類する こ と が で き る。す な わ ち、fCJD, Gerstmann− Straussler−Scheinker症候群および致死性家族性不眠 症(FFI)である。PRNP の突然変異によって分離 している、これらの病気のすべてにおける遺伝の様 式は常染色体優性である43) 。fCJD は明白な臨床的 特性と連関していないし、また PRNP の塩基排列 測定の上でのみ診断されるだろう35) 。ある特定の突 然変異をもった健康な80代の保持者の存在が明らか に、PRNP 非関連性の疾患修飾者の存在を支持して 議論されるけれども、PRNP 突然変異の浸透率はた いてい高い。Gerstmann−Straussler−Scheinker 症候群 は、50代あるいは60代に発症し、認知機能の衰えを 伴い、ゆっくり進行する小脳性運動失調が特徴であ 庄盛 敏廉 21

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る44) 。他 の 遺 伝 性 ヒ ト・PrD と は 対 照 的 に、 Gerstmann−Straussler−Scheinker症候群は、広く散ら ばった多数の中心を持つ PrP 斑から構成される、特 有の神経病理学的特性を有している。いろいろな PRNP 突 然 変 異 が、Gerstmann−Straussler−Scheinker 症候群の表現型に対して記載されてきたが、P102L および G131V の突然変異が一番ありふれて認めら れる。致死性家族性不眠症は、正常な睡眠覚醒リズ ムの重篤な混乱、不眠症および交感神経の過剰活動 をあらわす45) 。致死性家族性不眠症の臨床病理学的 特性は、コドン129でのメチオニン同型接合と組み 合 わ さ っ た 時 の み、D178N 突 然 変 異 と 区 別 で き る。 5−5 後天性ヒト・PrD 5−5−1 医原性 CJD 医原性 CJD は、ヒト脳硬膜の移植のごとき神経 外科的処置、角膜片の移植、およびヒト屍体下垂体 抽出物による治療の期間に、個体のプリオン暴露に よって引き起こされる12) 。医原性 CJD はまれであ り、300例に満たない症例が公表されている。ほと んどの症例は、脳硬膜の移植と下垂体成長ホルモン の注射によって引き起こされている12) 。 プリオン接種の部位が、PrD 関連の症候群の発病 までの潜伏期間を決定しているように見える。例え ばプリオンへの直接脳内暴露やプリオン汚染脳硬膜 の移植は、短い潜伏期間(16−28ヶ月)に連関して いるが、一方、末梢でのプリオンへの暴露は、5− 30年の幅の潜伏期間を生じる27) 。なおその上、プリ オン暴露の経路は臨床表現に影響するという証拠が 存在している。脳硬膜または成長ホルモンに関係し た CJD 症例は、主に運動失調性の表現型で現れる が、プリオンが直接中枢神経系に導入された症例 は、痴呆を初発症状として現れる。 5−5−2 変異型 CJD ヒト・PrD のこの比較的新しい型は、1996年に初 めて報告された46) 。それから今までに、生化学的、 神経病理学的および伝染上の面からの研究が、vCJD は BSE プリオンのヒトへの伝染である13) 、という 懸念を実証してきた。1996年から2001年まで、英国 における vCJD の発生率は毎年上昇して、大規模な 来るべき流行の恐れを生じた。しかしながら、2001 年以来、英国における vCJD の発生率は安定しつつ あるように思われたが、英国以外の少数の国々にお いて vCJD の散発例が認められてきた。vCJD 流行 の将来に関する予想は、漠然としているため外れつ つあるけれども、vCJD 患者の総数は限られ て い る47) 、とする証拠が増大している。vCJD が明白な 臨床病理学的側面を有しているという事実は、診断 基準を定めるのを容易くしてくれた。sCJD とは対 照的に、vCJD 患者ははるかに若い(死亡時平均年 齢は29歳)。さらにその上に、発病の特徴と罹病期 間が sCJD と vCJD との間に違いがある。vCJD 患者 の約60%は精神科症状を示し、罹病期間の中央値は 14ヶ月であるが、一方、sCJD は早期の精神科症状 をまれにしか呈さないし、疾患の経過も急速である (中央値、5ヶ月)。神経病 理 学 的 に は、vCJD の 患者の中枢神経系は広範囲に散らばる PrP 斑を示 し、その一部は空胞で取り囲まれている。 5−6 PrD への治療的接近 プリオン抑制性とされる化合物による臨床的試み がなされてきたが、無情な現実は、ヒト・PrD に対 する立証された治療法がないということである48) 。 肯定的な速報によれば、いくつかの研究方法が、PrD の発病を防御する治療的機序をあきらかにするた め、現在検索されている。これらは、2つに区別さ れる種類の戦略である。第一の接近法は暴露後の予 防であり、これは末梢で感染因子を取り込んだ後に プリオンが中枢神経系へ輸送されることを停止させ 22 ヒト・プリオン病研究の現況

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るのを目指したものである。無傷のリンパ系とか PrPc−表現性末梢神経などのごとき、中枢神経系へ の効果的なプリオン輸送に関する必要条件の一部は 明確にされてきたので、リンパ器官内でのプリオン の複製や、末梢神経に沿ったプリオン輸送を停止さ せるように設計された方法が適用されて、実験室で は成功している49) 。 第2の接近法は、治療的あるいは緩和医療的なも のである。PrD のごとき神経変性疾患は、中枢神経 系への重大な傷害を引き起こす5) 。したがって、痴 呆の形で現れているヒト・PrD を治療する唯一の方 法は、傷害された中枢神経系組織を再生とか移植に よって置き換えることである。すなわち、幹細胞に 基づく治療法は未だ開発の実験段階にあるけれど も、この技術に基づいた計画が、ヒト・PrD によっ て引き起こされた症状の一部を治療することができ るかもしれないという望みはある。他方、緩和医療 的接近法は、原因疾患を治療できるというわけには 行かないが、生存期間を延長したり、認知機能の衰 えを減速させたりできるかもしれない。この分野の 研究は、PrPc が PrPSc への折り畳み違いを直接的 または間接的に予防する化合物に焦点を当てる傾向 がある50,51) 。Meier ら50) は、野生 型 の マ ウ ス を 用 い て、PrPc が 免 疫 グ ロ ブ リ ン Fcgamma へ の 融 合 (PrP−Fc!)によって可溶性の2量体になったこと が PrPSc の蓄積、病原因子の複製および、感染性プ リオンの接種後の発病を遅らせる、ということを報 告している。感染されて PrP を表現している脳にお いて、PrP−Fc!は脂質担体に位置を変え、プロテ アーゼ抵抗性を獲得することなく PrPSc と連関を持 つが、このことは PrP−Fc!が転換に抵抗している ことを指し示している。そして、PrP−Fc!のこの特 有な性質は、可溶性の PrP 誘導体が新しい種類のプ リオン複製アンタゴニストであろう、ということを 示唆している。Caughey ら51) は、プロテアーゼ抵抗 性 プ リ オ ン・タ ン パ ク(PrP−res)の 蓄 積 の 阻 害 は、TSE 治療法の開発では最重要の戦略であると 前置きし て、curcumin(diferoylmethane)す な わ ち 調味料ウコンの主要な成分が、スクレピー病原因子 に感染した neuroblastoma 細胞(50%阻害濃度、約 10nM)における PrP−res 蓄積を強力に阻害し、ま た cell−free で PrP の PrP−res への転換を部分的に阻 害する、ということを示している。理想的には、こ れらの化合物は、臨床的適用の前に in vitro と in vivo で効果を発揮しなければならない。過去数年間に、 数々の化合物が PrPSc の形成を予防したり妨げたり する能力を有している、ということが明白になって きた。これらの化合物の一部を試験する、若干の臨 床的研究が現在行われている。これらの化合物のご く少数のものが、治療的方法に適切であると判明し ているし、また、これらの生成物のいずれも臨床症 状を完全には逆転させないだろう、ということも明 白であるけれども、一部の化合物の治療的可能性は 議論の余地はない52) 。プリオンの科学が過去10年間 で急速に進展してきたことや、これらの疾患の底に 潜む基礎的機序への理解が日々新しく加わっている ことを考慮すると、近い将来に新しい治療方法の開 発が行われることになるかもしれない。 参考文献

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