Title
化粧品原料としてのサバ表皮成分の評価
Author(s)
桑原 順子, 田上 真央
Citation
福岡工業大学総合研究機構研究所所報 第2巻 P63-P66
Issue Date
2020-2
URI
http://hdl.handle.net/11478/1533
Right
Type
Departmental Bulletin Paper
Textversion
Publisher
福岡工業大学 機関リポジトリ
FITREPO
化粧品原料としてのサバ表皮成分の評価
桑原
順子(工学部生命環境化学科)
田上
真央(大学院工学研究科生命環境化学専攻)
Evaluation of Mackerel Mucus Components as Cosmetic Ingredients
Junko KUWAHARA(Department of Life, Environment, and Applied Chemistry, Faculty of Engineering) Mao TAGAMI( Life, Environment Material Science, Graduate School of Engineering)
Abstract
There was a case report that some symptoms such as atopic dermatitis such as rough hands and itching of people who have been handling many Mackerels for a long time have improved. Mucus component of Mackerel might include active ingredient to be able to improve rough skin or atopic dermatitis. If effective active ingredients are found, the novel substance might be applicable as a cosmetic or pharmaceutical ingredient. In this study, amino acids component of Mackerel’s mucus was analyzed by Ultra High Performance Liquid Chromatography and was evaluated the antioxidant activity in vitro. The sample was prepared farmed and natural Mackerels in each analysis. Low molecular fraction of farmed Mackerels showed high antioxidant activity.
Keywords:Cosmetics, Mucus, Mackerel, Antioxidant activity
1. はじめに 皮膚の角層は皮膚内部と外環境の境界に位置し、外環境か らの各種刺激に対するバリアとして機能している。バリア機 能が低下すると、角層中に保持されていた水分は蒸発しやす くなり乾燥肌を誘導する。乾燥肌は、例えば活性酸素種によ る酸化ストレスと関連していることが現在明らかにされて いる1)。本研究では養殖サバを捌く加工従事者の手の乾燥や かゆみなどのアトピー様症状が改善したという報告を受け て、活魚であるサバのぬめりにはこれらの症状を改善する何 らかの有効成分が含まれている可能性があるのではないか と考えた。魚のぬめりの主成分は糖タンパク質のムチンであ り、その他にも生理活性タンパク質やペプチド等が含まれて いると考えられる。主成分であるムチンは保水性が高く、タ ンパク質のアミノ酸組成は生物種により異なる。現在、海洋 資源由来の機能性化粧品素材としては魚の鱗から得られる コラーゲンや、サメの軟骨から得られるコンドロイチン硫 酸、スクワランなどが用いられている。しかし、魚の粘液に 関する評価は少なく、粘液の主成分に関してはあまり明らか にされていない。本研究では、水産資源から化粧品の素材と なる成分の利用を最終目的としており、サバのぬめりに含ま れる成分に注目した。超高速液体クロマトグラフィ(Ultra High Performance Liquid Chromatography, UHPLC)を用い
て国産の天然および養殖サバのぬめり加水分解物のアミノ 酸 一 斉 分 析 を 行 っ た 。 さ ら に Oxygen Radical Absorption Capacity (ORAC 法)による抗酸化活性の評価、誘導結合プラ ズマ質量分析(ICP-MS)によるセレンの定量、さらに化粧品 のとろみ成分として添加可能か検討するため、各pH でのぬ めりの粘度測定を行った。 2. 実験方法 2.1. 試料の調製 天然および養殖のサバは、それぞれ九州近海域で生育さ れた個体を使用した。アミノ酸一斉分析および ICP-MS 分析 には、採取した水分を含む試料をそのまま使用した。また、 粘性試験については、ぬめりの凍結乾燥体を用意し、水分含 量を一定にして測定した。また、天然および養殖のサバが生 息している海水についても同様に採取し、凍結乾燥を行い、 白色乾燥粉末を得た。 一方、抗酸化能を有する成分特定のため、抗酸化活性評価 の試料については透析を行い、低分子領域と高分子領域に 分画した。透析処理については次の手順で行った。 各サバのぬめりを再生セルロース透析チューブ (Thermo Fisher Scientific, DIALYSIS TUBING,分子量 12000-14000)
で透析処理を行った。透析処理中の水交換を 10 回繰り返し、
桑原 順子, 田上 真央 凍結乾燥機は東京理化機械(株)製 FD-1000 を使用した。ま た、内液についても凍結乾燥を行い白色スポンジ状の乾燥 物を各 10 mg 得た。低分子が含まれる外液乾燥体を分画 L、 高分子が含まれる乾燥体を分画 H とした。 2.2. 酸加水分解物の UHPLC によるアミノ酸一斉 分析 タンパク質ならびにペプチドを構成するアミノ酸組成を 調べるため、塩酸による加水分解後、プレカラム誘導体化処 理、その後、UHPLC による分析を行った。試料は、天然およ び養殖サバぬめりを透析した分画 L、H の乾燥粉末について それぞれ 10 mg に 6 M HCl を加え、減圧雰囲気下で 110℃、 24 時間加水分解処理を行った。その後、減圧乾固した粉末 に 0.02 M HCl を加えたものを試料溶液とした。試料溶液を 4-Fluoro-7-nitrobenzofurazan(以下 NBD-F, (株)同仁化 学研究所)で誘導体化を行った。誘導体化は、ホウ酸 0.140g と四ホウ酸ナトリウム十水和物 1.0 g に超純水を 50 mL 加 えて、0.1 M ホウ酸緩衝液(pH 9.96)とした溶液、NBD-F 0.005 g にエタノール 1 mL を加えた NBD-F (反応液)、試料溶液を 混合し、60℃、5分加熱した。その後反応停止液(トリフル オロ酢酸)を加え、0.45 µm フィルターでろ過済み試料につ いて UHPLC 分析を行った。UHPLC は SHIMADZU(株)製の Nexera X2、カラムは InertSustain®C18(GL sciences(株), 粒子 径 2.7 µm、内径 2.1×150 mm)を使用し、標準試料はアミ ノ酸混合標準液 H 型(富士フイルム和光純薬(株)製,アミ ノ酸自動分析用)を用いた。UHPLC 検出器の検出波長を 470 nm とした。また、溶離液は A 液を 0.1%ギ酸水、B 液は 0.1% ギ酸アセトニトリルを用いて、流速 0.2 mL / min とした。 B 液の分配条件について表1にまとめ、縦軸 B 溶離液 (%)、 横軸 時間 / min として図1に示した。 図 1 B 溶液組成の時間変化
Fig. 1. Time course of B-solution composition 2.3. ORAC 法による抗酸化活性評価 天然および養殖サバぬめり分画 L、H の乾燥粉末を蒸留水 に溶かした溶液を試料とした。緩衝溶液は次のように準備 した。リン酸水素二カリウム6.53 g に超純水を加え 500 mL に定容したものをA 液、リン酸二水素カリウム 5.10 g に超 純水を加えて500 mL に定容したものを B 液とし、A 液 500 mL に B 液 155 mL を加え撹拌したものを 75 mM リン酸緩 衝液(pH 7.4)とした。75 mM リン酸緩衝液(pH 7.4) 10 mL に
Fluorescein sodium salt(Sigma Aldrich)16 mg を加え、4.19 mM フルオレセインストック溶液とした。 75 mM リン酸緩衝液(pH 7.4) 50 mL に Trolox® (Sigma Aldrich)0.25 g を加え、20 mM Trolox®ストック溶液とした。 75 mM リン酸緩衝液(pH 7.4) 10 mL に 2,2'Azobis(2methyl-propionamidine)Dihydrochloride (以下, AAPH, 富士フイルム 和光純薬(株)製) 2.595 g を加え、ストック溶液とした。ス トック溶液は、測定時に適宜リン酸緩衝液で希釈して用い た。
96 well plate (Greiner, Black)に、先に調製したリン酸緩衝
液、Trolox®溶液、試料溶液を各 well に 25 µL ずつ滴下し、 全well にフルオロセイン溶液 50 µL 加えた。測定はマルチ モードプレートリーダDTX 800 (Beckman coulter(株)製) を用いた。付属の励起波長フィルター485 nm、検出波長 535 nm を使用した。測定温度は 37℃で設定した。AAPH を 25 µL 加える前に得られた蛍光強度を I0とし、AAPH を滴下後、 2 分間隔で 40 分間測定して得られた蛍光強度を I とした。
測定から得られたグラフより、ORAC 値(µmol TE/g)を算
出した。 天然および養殖サバが生息している海水においても同様 の手順で評価を行った。 2.4 試料中のセレンの ICP-MS による定量 試料中に含まれるセレン濃度について、ICP 質量分析法に より分析を行った。ICP 質量分析は本学では付属の特殊装置 がないと測定できなかったため、(財)日本食品分析センタ ーに分析を依頼して、測定を行った。天然および養殖の試料 ともに分析に大容量必要だったため、水分を含んだ状態で 分析した。 2.5 サバぬめり成分の粘性評価 ぬめりの凍結乾燥体をリン酸緩衝溶液で0.2%水溶液に調 製した。粘弾性測定装置で測定を行った。装置はAnton Paar 社 MCR302 を使用した。pH は 2 から 11 までの条件で実 験を行った。 3. 実験結果および考察 酸加水分解物のUHPLC によるアミノ酸一斉分析では、図 2で示されるように全部で18 本のピークを確認した。18 本 のピークは、標準試料のクロマトグラム(図2(A))よりア 表1 UHPLC によるアミノ酸分析時の B 液の割合 Table 1 B-solution ratio in UHPLC analysis
時間 (min.) B 液 (%) 0 0 5 2 60 40 70 100 75 100 80 2 85 2
ミノ酸およびNBD-F の分解物 NBD-OH であると帰属でき た。親水性のアミノ酸Ser 等が先に溶離し、疎水性アミノ酸 であるLeu や Phe が後半に溶離した。これらの各ピーク面 積比から存在する各アミノ酸の百分率について養殖と天然 のアミノ酸の値を比較した。その結果について図3および 表 2 にまとめた。養殖サバと天然サバを比較したところ、 Met が特に多く含まれていた。Met は必須アミノ酸であり、 蓄養によりMet が優位に減少した報告例 2)があるが、養殖 サバが天然サバに比べて5倍以上も高値を示した。サバな どの生体内にはMet のほか Met 側鎖の硫黄が同族元素のセ レンへ置換したセレノメチオニン(Sem)やセレノネインが含 まれているという報告3)があり、これらは抗酸化活性が高い ことから、天然サバと養殖サバでセレン含量に差異が認め られるのではないかと考え、ICP-MS を行った。天然サバの ぬめり成分のセレン濃度は定量下限値以下(<0.1ppm)、一 方、養殖サバの試料は0.3 ppm となり、養殖サバ試料の方が セレン濃度が高い結果を得た。ただし、今回の試料は、実験 の都合上、水分を多く含んでおり、タンパク質重量あたりの セレンの定量を行っていなかったため、正確ではない。今 後、さらに乾燥体試料での定量を行う必要がある。セレンに ついては興味深い知見もあり、セレンが結合したセレノメ チオニンにはアレルギー性皮膚炎を抑制する報告がある4)。 次に、ORAC 法で得られる蛍光強度変化の例を図4に 示す。試料は養殖サバの分画H である。AAPH 滴下後の 図 2 酸加水分解物の UHPLC クロマトグラム (A)アミノ酸標準試料, (B)養殖サバ, (C)天然サバ 番号 1-18 はそれぞれ下記のアミノ酸である。
1. His 2. Ser 3. Arg 4. NBD-OH 5. Asp 6. Gly 7. Glu 8. Thr 9. Ala 10. Pro 11. Met 12. Val 13. Cys 14. Ile 15. Leu 16. Lys 17. Phe 18. Tyr Fig. 2 UHPLC chromatogram of hydrolyzate with acid (A) Amino acid standard sample, (B)Farmed mackerel, (C)Natural mackerel
No. 1-18 are the following amino acids, respectively. 1. His 2. Ser 3. Arg 4. NBD-OH 5. Asp 6. Gly 7. Glu 8. Thr 9. Ala 10. Pro 11. Met 12. Val 13. Cys 14. Ile 15. Leu 16. Lys 17. Phe 18. Tyr
A
B
C
表 2 アミノ酸 1000 残基あたりの各アミノ酸の数 Table 2 Number of each amino acid per 1000 residues 図 3 UHPLC ピーク面積から算出した各アミノ酸の割合 Fig.3 Percentage of each amino acid calculated from UHPLC peak area value
桑原 順子, 田上 真央
初期蛍光強度を100%とし、時間経過における蛍光強度の
減少のグラフを示した。この面積からORAC 値を算出し
た。いずれも、可食部100g あたりではなく、凍結乾燥体
1g あたりに換算した。その結果、天然および養殖サバぬ
めり分画L の ORAC 値はそれぞれ 56 µmol TE/g、315
µmol TE/g であり、養殖サバの方が有意に高い値を示し た。分画H ではそれぞれ 164 µmol TE/g、202 µmol TE/g で あり、有意差は認められなかった。この結果より、養殖 サバぬめりの低分子側に抗酸化活性を示す成分が多く含 まれていることが明らかとなった。また、天然および養 殖サバの生息する海水の ORAC 値はほとんど同じ値という ことが分かった。これより、養殖サバぬめり低分子側の 315 µmol TE/g という値は海水の影響ではないという可能 性が高いと考えられる。ただし、ORAC 法に関しては DPPH ラジカル消去活性など他の抗酸化評価の試験法とも比較 しながら実験を行うべきとの報告5)もあり、今後、他の評 価方法も合わせて検討する必要がある。 試料の凍結乾燥体を0.2%水溶液に調製して、粘度測定を 行った。その結果を図5 に示す。採取試料が少なく、前処理 で脱塩ができなかったため塩を含む水溶液の結果となっ た。市販のマリンムチン(イカ由来)は塩が含まれると粘度 0.7 Pa・s 付近を示すが、今回の天然サバ由来のぬめり成分 も0.5 Pa・s 付近であり、イカ由来の市販ムチン相当の粘性 があることがわかった。また、pH7付近で急激に粘度が増 大した。タンパク質の等電点付近と推察されるため、脱塩後 の試料を準備し、詳細に調べる必要がある。 4. おわりに 養殖サバぬめり低分子分画の ORAC 値は高値を示した。し かしながら、ぬめり成分の分離、精製が十分でない試料につ いて UHPLC 分析ならびに ICP-MS を行ったため、セレノメチ オニンによるものとは断定できなかった。天然、養殖の透析 処理後の各分画について追加で試料を準備し、ICP-MS を行 う予定である。また、ORAC 法以外の抗酸化評価を行うと同 時に細胞を使ったin vitroでの機能性評価については、現 在研究環境を整え、実験を進めている。 謝辞 本研究は、一般社団法人ジャパン・コスメティックセンタ ーとの共同研究に伴う研究費助成、ならびに本学の平成 30 年度若手教員研究高度化支援事業により実施することがで きました。ここに、感謝の意を表します。 (令和元年10月23日受付) 文 献 (1) 正木仁:「皮膚の乾燥に関わる酸化的ループの提案」, FRAGRANCE JOURNAL , 7,(46), pp.44-50 (2018).
(2) Seiko Tamotsu, Kazumi Orita, Ikuo Kimura: “Acceptable period for spotted mackerel Scomber australasicus to be rested in fish cages without feeding while still maintaining high quality”, NIPPON SUISAN GAKKAISHI, 83(3), pp.392-399 (2017). (3) 山下 倫明, 今村 伸太朗, 藪 健史, 石原 賢司, 山下 由美子:「水産
物 由来 の セ レ ン :セ レ ノ ネ イ ンの 栄 養 生理 機 能 」, Biomedical Research on Trace Elements, 24(4) pp.176-184 (2013). (4) 荒川 友博, 松浦 遥香, 荻野 泰史, 奥野 智史, 上野 仁: アレルギー 性皮膚炎に及ぼすセレノメチオニンの影響, 第 44 回日本毒性学会 学術年会, 44(1) P-34(2017). (5) 山田 潤, 赤堀 雄介, 松田 秀喜, 長谷川 喜朗, 前田 俊道, 原田 和 樹: 「鰹だしおよび各種だしにおける DPPH ラジカル消去活性と ORAC 値の相関性の検討」, 日本調理科学会誌, 43(3) pp.201-205 (2010). 図 4 反応時間に対する蛍光強度変化
Fig.4 Changes in fluorescence intensity with reaction time.
図 5 各 pH でのぬめり水溶液の粘度 Viscosity of mucus aqueous solution at each pH