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三浦半島の衣笠断層帯を横断する隧道の地質

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Academic year: 2021

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(1)Sci・ Repts・・ YTokohdmLl. Nad・. Uniy・, Scc・ H, No・41/42,. pp・ 13122, October,. 1995. 三浦半島の衣笠断層帯を横断する隊道の地質 江藤哲人*. Geology. in. tunnel. route in. the. fault. throughtheKinugasa Miura. zone. Peninsula By. Tetsuto. (Received May,. ETO*. 10,. 1995). 1.はじめに. 三浦半島に西北西一束南東に並走する活断層の1つ,衣笠断層 (Kaneko,1969)を斜交して貫く送水管用トンネルの地質調査を行う機会をも ち,断層帯の性状や断層帯周辺部の構造について興味深い知見を得た。 衣笠断層帯は三浦半島の中央部を平行ないし雁行する断層群と認識され (太田・山下,. 1992) ,横須賀市久里浜港南西の丘陵北縁部から西北西に葉山 町上山口付近まで達する。その延長距離は約10kmである。この断層帯はおも に地形学的性質から認められ(Kaneko,1969など) か,. (太田ほ. ,確実度はII-Ⅲ. 1982),活動度A-Bの活断層と考えられている(活断層研究会,. 1991)。. 衣笠断層帯の主断層は全般的に北帯列の葉山層群(中・下部中新統)とその 南西側に分布する三浦層群逗子層(上部中新統)とを画するとみなされる (三梨・矢崎,. 1968;江藤,. 1986a)。しかし,衣笠断層帯の地質学的資料は. 乏しく,その断層露頭はこれまで高速道路(横浜・横須賀線)の土木工事中 に数箇所で部分的に観察されたほかは,現在,地表で確認できる所はない。 上記トンネルの筆者の調査時点では全区間の観察はできなかったが,神奈 川県内広域水道企業団の未公表資料と合わせて検討した結果,このトンネル *横浜国立大学教育学部地学教室. National. Universlty.. Geological. Institute, Faculty. of. Education,. Yokohama.

(2) 江藤哲人. 14. 内の衣笠断層帯の位置・規模・性状が明確になった。それらについて小論を 発表する次第である。. 2.調査トンネルの位置・区間 衣笠断層帯を貫く送水管用トンネルは,神奈川県内広域水道企業団による, 神奈川県綾瀬市から横須賀市武地区を結ぶ送水管路建設事業で,トンネル工 法で掘削された路線の一部区間である.調査したトンネル区間のほか大部分 の送水管路線は,東電高圧線の直下に路線が取られ,標高10-Om前後の地下 を通る(神奈川県内広域水道企業団,. 1992)。. 調査したトンネル区間は,葉山町木古庭の高圧線下で,県道横須賀一横浜 (中心距離)に位置する木古庭給水点の立坑(内径10m)か 線の南南東76m ら南南東に1200mの距離に及ぶ(第1図). 。木古庭給水点付近の地表(沖積面) の標高は約49mで,その立坑は地表下50m,つまり標高-1m深度でトンネル 底面につながる。. 木古庭給水点立坑から南側880mまではナトム(NATM)工法(わずかの距 離を掘削し直ちにグラウ卜して掘削を進める方法). ,その南側320mは在来の トンネル工法で施工された。トンネルの高さは2.5m前後,幅約2.2m,断面形. は所により馬蹄形,円形で,管径1.5mの送水管を設置し,空間をモルタル充 填される(神奈川県内広域水道企業団,. 第1図. 1992. ;一部談話)。. 調査した送水管トンネル区間の位置(実線部) (国土地理院発行, 1/5万「横須賀+を使用).

(3) 三浦半島の衣笠断層帯を横断する随道の地質. 調査区間のトンネル掘削工事は1992年3月から1994年3月にわたって行われ た。筆者が入坑調査した期日は,トンネルのモルタル充填工事の直前の1994 年11月21日である。調査区間1200mの内,ナトム工法の区間ではセメント被 覆のため,一部の箇所(木古庭立坑から南側500m前後)で側壁下部のせり出 しによってセメント壁が剥離した部分でのみ地質を観察できた。木古庭立坑 南側880m-1200mの在来トンネル工法区間では連続的に観察できた。ナトム 工法区間で筆者が観察できなかった区間の地質については,神奈川県内広域 水道企業団(1995,. MS)の田浦・武間その2区間の地質総括縦断図(㈱青木 建設による作成,地質調査は関東基礎設計㈱による)における地質記載資料 (以下,水道企業団地質資料と呼ぶ)および掘削を担当した土木関係者の談 話を参考にした。. 3.地質概要 調査トンネル区間の位置する三浦半島中部地域の地質層序を第1表に示し た。このトンネル区間の近辺一帯(地表部)に分布する地層は,下位から中 新統下部-中部の葉山層群大山層,衣笠泥質オリストストローム,矢部層, 中新統上部-鮮新統下部の三浦層群逗子層およびその基底部層の下山口砂傑 岩部層であり(江藤,. 1986a,. b),これらの地層がトンネル内に露出すると 予想される。それら各層の地表におけるおもな岩相は次のとおりである。 葉山層群大山層は凝灰質砂岩,細-中疎漏じりの凝灰質砂岩からなり硬質 シルト岩薄層を挟在する。衣笠泥質オリストストロームは擾乱したシルト岩 を主体とし,ひきちぎれたレンズ状の砂岩薄層や細粒軽石凝灰岩薄層から構 成され,不定形の大小砂岩塊,まれに蛇紋岩塊・玄武岩塊(オリストリス) を含有する。このオリストストロームはおもに森戸層,一部,鐙摺層に由来 する重力滑動起源の二次的構成岩体である(江藤,. 1986a)。三浦層群逗子層 基底部層の下山口砂傑岩部層は凝灰質砂岩からなり,所により石灰砂岩・石 灰傑岩を伴う。逗子層主体部はシルト岩砂岩薄層の互層に軽石凝灰岩を挟在 する。. 4.トンネル内の層序と岩相 トンネル内の調査と薄片観察結果に水道企業団地質資料を合わせて検討 し,このトンネル区間の層序を次のように認定・区分した(第2表)。盲′`すな わち下位から葉山層群大山層,衣笠泥質オリストストローム,矢部層(坂口 凝灰質砂岩部層). ,三浦層群逗子層(基底の下山口砂傑岩部層を含む)を認. 15.

(4) 江藤哲人. 16. 第1表. 三浦半島中部地域の層序(江藤,. 節. 完新世. 沖積層. 四 紀. 更. 後期. ローム層. 鮮. 前期. 義 層. 中. 層厚(m). 層序. 時代. 新. 1986より改編). 後甲. 第. 中 新. 期. 莱 山. 650. 逗子層事 -■-I-■■l●■-一-●■--t■■■---●---. 130-. 下山口砂磯岩部層*. 矢部層事小矢部凝灰琴砂岩シルト岩部層4CK)●-■■■■■t■■一-■●一一---・■----. 6α)-. 坂口凝灰質砂岩部層* 衣笠乾質オリストストローム*. lack)-. 大山層書事. 19X)+. ●. 世 紀. 前. 層. 期. 秤. 鐙摺層. 570-.. 森戸層. 1(XX)+. 更:更新世,鮮:鮮新世, 料. ':調査したトンネ)I,に分布する地層・. :トンネルの北側近縁に分布.. め得た。葉山層群大山層を除く他の3つの地層は全般的に西北西一束南東走 向,南側へ垂直に近い急傾斜を示し,逗子層は一部で北側へ急傾斜で逆転する。 各層の層厚は,各層の走向を衣笠断層帯の走向N60o. Wと平行するとみなし,. このトンネルの方位(約N30oW)との関係から,トンネル内の分布距離の正 弦30oと見積もった。. (1)葉山層群 大山層:水道企業団地質資料によると,木古庭立坑の北側45m-143m位置 まで98m以上の距離(層厚49m以上)にわたって分布し,細粒砂岩を主とし 泥岩塊が入り乱れた岩相で,南側の泥岩主体の地層と漸移関係,層理の識別 は困難と記載されている。この地層は大山層とされており,筆者は観察し得 なかったが,この認定を支持する。 衣笠泥質オリストストローム:これも上記地質資料により,木古庭立坑北 側45m位置から南側へ858mの位置まで903mの距離(層厚452m)にわたって 分布し,おもに泥岩,これに数m-ところにより数10cm間隔で厚さ数10cm-.

(5) 三浦半島の衣笠断層帯を横断する随道の地質. 第2表 時代. 葉山町木古庭送水管トンネル区間の層序および衣笠断層帯の性状 層序. 鮮 新・ 前・ 逗子層 期 義 世 屠 ̄ 徳 秤 下山口砂礁岩部層 期・. 矢部層 坂口凝灰貿砂岩部屠 節 中 中. 第・ 新. 期. 前. 岩相 硬質の灰色シルト岩. 菓・. 衣笠泥質オリスト 層・ ストローム=. 期 秤 .紀. 大山層. 分布位置事. 層厚(m). 末吉廃立坑か ら1182m以南. 細横混じり石灰岩,砂質石灰 岩(バイオミクライト). 1129-1182m. 硬質,黒灰色の安山岩質-玄. 960-1129m. 27. (53m). 武岩質細粒凝灰岩. (169m). 岡上わ火山横凝灰岩,粗粒凝 灰岩. 858-960m. (6):(5)と同様の岩相,790m 付近に幅20m弱の塊状の凝灰 質砂岩を含む・やや硬質 (5):灰色シルト岩に線色変. 630-858In. 質部を伴う.脆性状. (4):軟質の灰色シルト岩 に振色変質部をかなり伴 い蛇叔岩捷を食む.鏡肌. 山・. 世. 17. 85_. (102m) (228m). 51. 114. 580-630m. 25. (50m) 392-580m. (188皿). 94. と集線発達する. (3):灰色シルト岩に厚さ10 -20mの凝灰岩,レンズ、・. 塊状の凝灰質砂岩薄層を挟在 全般に硬質. (2b):改質シルト岩に撮 色変質部を伴う. (2&):捷まれたシルト岩 (鏡肌発達)・に砂岩挟在 (1):硬質灰色シルト岩にレ ンズ状・塊状の凝灰質砂岩, 軽石凝灰岩を挟在する. 凝灰質細粒砂岩に塊状のシル ト岩を乱れて挟在. 200-392m. (192m) 20-200m. 96 90. (180m) 0-20皿. (20皿). 10. 立坑北側0-45m. (45m). 23. 立坑北側へ 45-143m+. 49+. (98m+) I. :指示のない限り木舌廃立坑から南南東-の位置,括弧は分布距離を示す.層厚は衣笠断層帯 と地層の走向をN60Wとしトンネ/レの方向(南南東=N30W)との関係から分布距離の正弦30o で計算.ゴチック部は衣笠断層帯の破砕帯執 各層の分布位置と●●部の岩柏は神奈川県内広域水 道企業団(1995,MS)の地質資料に基づいて作成.. 2mの岩塊状あるいはレンズ状の凝灰質砂岩・細粒凝灰岩を挟在する岩相であ る。この地層には極めて軟質な粘土質で鏡肌の発達する破砕帯が2つの区間 にかなりの距離にわたって認められる(後述)。トンネル掘削工事中には径 数mm-30cmほどの緑色岩の磯が散在的に含有するのが観察されている(㈱ 青木建設の工事主任,池田義治氏談話)。この緑色岩傑は蛇紋岩と推定され.

(6) 江藤哲人. 18. る。この地層は上記地質資料では大山層とされているが,上記の岩相記述と 木古庭立坑の南側500m前後で筆者の観察した同様の岩相から衣笠泥質オリス トストローム(江藤,. 1986a)と認定される。. 矢部層(坂口凝灰質砂岩部層). :水道企業団地質資料によると木古廃立坑. の南側858mから露出し(筆者の調査時には880m付近から観察された). ,. 1129mまで続く次の岩相の地層を矢部層と認めた。肉眼観察では,黒灰色 (水濡れ状態) -灰色(乾燥状態)を呈し,おもに1cm以下の傑混じり凝灰質 砂岩(イ),凝灰質砂岩(ロ),凝灰質泥岩(ハ),そのほか凝灰質砂岩泥岩 互層や分級度の低い凝灰質砂泥岩の岩相を示す。層厚は136mである。 上記の「砂岩・泥岩類+. (イ,ロ,ハ)の薄片を偏光顕微鏡で観察した結. 栄,いずれも安山岩質ないし玄武岩質の凝灰岩であることが判明した。すな わち(イ)は火山疎凝灰岩であり,. 2mm以下の斜長石,少量の石英,輝石な. どの斑晶や微粒の基質から構成され,径数mm-1cmの岩片(火山傑)を少量 (4割以下)含む。火山傑はおもに細粒凝灰岩,ごくわずかのガラス質安山岩 から構成される。全体にかなり変質している。 粒砂大の細粒凝灰岩であり, 晶鉱物から構成され,. (ロ)は粗粒凝灰岩ないし細. 1mm以下の斜長石,少量の石英,輝石などの斑. 1-2mmのガラス質安山岩,ごくわずかのガラス質玄. 武岩と細粒凝灰岩の岩片を少量(2割以下)含む。. (ハ)はシルト大の微小鉱. 物からなる暗灰色細粒凝灰岩である。これらの岩石は矢部層下部層の坂口凝 灰質砂岩部層に認定される。 第2表には,水道企業団地質資料で凝灰質砂岩とされている火山傑凝灰. 岩・粗粒凝灰岩から構成さ中る下部(分布位置858m-960m,層厚51m)と, おもに泥岩とされている細粒凝灰岩からなる上部(分布位置960m-1129m, 層厚85m)に2区分して示した。 (2)三浦層群 逗子層;基底部の下山口砂傑岩部層と上部のシルト岩主体部に区分,認定 される。 下山口砂磯岩部層;. 1129m-1182m位置まで53mの距離(層厚約27m)にわ. たって分布し,細傑-砂混じりの灰白色石灰岩(バイオミクライト)から構 成される。. 1129m位置で北側に分布する下位の矢部層の細粒-粗粒凝灰岩と. の境界は整合的に見え,侵食関係は不明である。また,断層関係も認められ ない。第2表では両者の関係を地表での関係に基づいて不整合とみなして示 した。.

(7) 三浦半島の衣笠断層帯を横断する随道の地質. 19. 全分布距離53mの内,下部にあたる1129m-1170mの距離41m区間(層厚. 20.5m)は,主として数mm-1cm大の濃緑色岩片を少量(5%前後)含む石灰 岩からなり,上部の1170m-1182mの12m区間は,. 2mm以下の灰黒色の粒子. を5-10%ほど含む砂質石灰岩から構成される。薄片の検鏡の結果,前者の 濃緑色岩片と後者の灰黒色の粒子は矢部層に由来する細粒-粗粒凝灰岩であ り,後者の砂質石灰岩には1mm以下の石英,長石破片をかなり含むこと,両. 者の石灰岩とも2mm以下の微化石(有孔卑,コケムシ,ウニの刺など)や数 mmの貝殻破片を多量に含む微品質石灰泥基質の石灰岩(バイオミクライト) であることが判った。 逗子層主体部;. 1182mで砂質石灰岩から整合的に灰色シルト岩に襲わり,. 1200m位置の先端部まで連続する。砂質石灰岩との境界部の走向・傾斜は 75-80oNで,逆転しているとみなされる。シルト岩は地表部のも のに比べてかなり堅硬であり,圧密の違いを如実に示している。 N80oW,. 5.破砕帯の認定 破砕帯が認められるのはおもに衣笠泥質オリストストロームの分布区間で ある。水道企業団地質資料に記述されている地質の堅硬性,鏡肌の発達,坑 壁の押し出しや盤膨れ,泥岩の緑色変質部の含有度合などの性状に基づいて, この地層の破砕帯・非破砕帝都を区分し第2表に示した。 衣笠泥質オリストストロームの分布区間で,破砕帯とみなし得るのは,木 古庭立坑から南側へOm-200m位置の区間(第2表の本層の岩相覧の(2a) および(2b) 義-. (4). ,分布距離200m=層厚幅100m)と,. 392m-580m位置区間(第2. ,分布距離188m=層厚幅94m)である。両破砕帯の間には距離192m (層厚幅96m)の非破砕帯部を挟んでいる。つまり,北側の破砕帯,間に挟む. 非破砕帯,南側の破砕帯の各層厚幅は,それぞれ100m,. 96m,. 94mとなる。. 南側の破砕帯の南接部(層厚幅25m)は,破砕漸移帯である可能性が強い。 上記の南側の破砕帯区間の一部(立坑から南496m-515m前後)で,筆者 が観察した破砕帯の性状は次のとおりである。その岩相は湧水による含水状 態で暗灰色を示す軟弱な粘土質岩で,鏡肌を示す努断面が多数発達する。鏡 肌(面)は西北西一束南東ないし東西走向,全体としてほぼ垂直に立つが, 面走向と平行の長軸をもつ波長10-15cmほどの緩やかな波曲構造を示す。こ のような波曲構造は断層の上下運動を示すものと考えられている。また,蘇 肌(面)には条線がほぼ水平(面走向に平行)に2mm-2cm間隔で発達する。 この破砕帯の粘土質岩は,上記の性状と後述するスレーキング試験の結果か.

(8) 江藤哲人. 20. *. 、ホ 守 令 i. 山. 葉. i. 町. 尊 未 舌庭給水点立坑. ヽ ヽ..._. ヽ. Iヽ. 額 賓 餐ー. ヽ. A. i. \-ここ≡:き ヽr. ヽ. 額喪 凄蒔. 「■■ ̄・I ヽ ヽ. i. 、、木古庭. @* \. tkレ. 破砕帯. S. \. 不 動橋. *. や転義、 J. +. イ. \. \\サ /392m. イ. ヽ. .ノ. /. ヽ、. ¢. \. \ ∀. \. ノ. ?. 破砕帯. /. \. 580m/. \. ●. ---・■-′. >て':J*須賀市 \. \ \. --〈. \. ノ饗. \. /858m ETt. /. \ ヽ. 卑. 「. \. ヽ、. i;. \ _1072m. 砕帯. \・・-. 下山口砂礁岩部層. ・\..J,/. 三浦層群. ・ヤー-- Ot∼ET 逗子層. ▼} ▼}. 0. 第2図. \. I 一. I-1. 1km. 葉山町木古庭送水管トンネル区間の層序および衣笠断層帯の破砕帝位置 (境界部の位置距離は木古庭給水点立坑の南縁端からの距離である).

(9) 21. 三浦半島の衣笠断層帯を横断する随道の地質. ら,断層粘土とみなし得る。 衣笠泥質オリストストローム内の破砕帯のほか,筆者の調査観察では,矢 部層坂口凝灰質砂岩部層の分布域内に位置する木古庭立坑南側1072m1092m区間(分布距離20m,層厚幅10m)にも軟弱な断層粘土帯を認めた。そ の前後(南北)の境界はそれぞれ,黒灰色の細粒一粗粒凝灰岩の硬質岩と接 し,急に軟質岩に変わる。断層面は西北西一束南東走向,ほぼ垂直である。 上述の3つの顕著な破砕帯がこのトンネル内に認められ,それらが衣笠断 層帯を構成すると結論される。以上に記述した層序および破砕帯の位置・区 間を第2図に示す。 断層粘土質岩の簡易スレーキング試験 採集した2地点(496m,. 515m)の断層粘土質岩は,トンネル内では濡れて. 暗灰色を示しかなり軟弱(ハンマーの尖った部分が突きささる)状態であっ た。室内に放置して数日後,自然乾燥するとともに灰色となり次第に締まっ ていき,やや固くなった。ただし,両手でポロポロ割れる状態である。. 10日. ほど自然乾燥して締まった試料を厚さ1-1.5cm,大きさ3cmほどの岩片を数 個,手で割り取り,蒸発皿中に浸水させた。約1時間経過後にふやけたよう になり,指でつまむと柔らかい塑性状態で,厚さによってはちぎれるもの, 中に芯がわずかに残っているもの,があるような状態に変わった。蒸発皿ご と手で回して揺動させると,指でつまんだものはバラバラに崩れ始め懸濁状 態になる。数時間後には残っていた岩片も崩れ始め,蒸発皿を手で回して揺 動させると完全に分解,懸濁状態に変わり,蒸発皿の底に1-3mm大の淡緑 色の岩粒が少し残っている。. 6.まとめと考察 神奈川県三浦半島中央部を横断する衣笠断層帯を貫き,葉山町木古庭地域 をほぼ南北に通る送水管用トンネル内の層序ならびに衣笠断層帯の破砕帯の 性状について以下に要約し,若干の考察を行う。 1.このトンネル区間の層序は,下位から葉山層群大山層,衣笠泥質オリ ストストローム,矢部層(坂口凝灰質砂岩部層),三浦層群逗子層(基底 の下山口砂磯岩部層を含む)に認定・区分される(第2表)0 2.このトンネル区間における衣笠断層帯は,. 3つの大規模な破砕帯として. 認められる。それらは西北西一束南東走向,ほぼ垂直の断層面をもって並 走し,それぞれ断層粘土化した性状をなし,その規模(層厚幅)は北から 南へ,. loom,. 94m,. 10mに及ぶ。. 3つの破砕帯とも葉山層群内に,そのうち.

(10) 江藤哲人. 22. 前2者の主要な破砕帯は衣笠泥質オリストストローム分布域内に,他の1つ は矢部層分布域内にある。地表では衣笠断層帯は葉山層群と三浦層群を画 しており,地下の構造と異なっている。 3.破砕帯には西北西⊥東南東走向の鏡肌の断層面が多数発達し,断層面 は水平の長軸をもつ緩やかな波曲構造を示すが全体としてほぼ垂直である。 さらに鏡肌の断層面に水平の条線が多数認められる。この事突から衣笠断層 帯の活動は,条線を残した西北西一束南東走向の横ずれが最後の活動で,そ れに先だって鏡肌と波曲構造を形成した上下運動があったと判断される。. 謝辞 神奈川県温泉地学研究所の長瀬和雄研究部長,神奈川県環境部の田代. 治. 氏には上記トンネルの入坑調査の御世話をして頂いた。神奈川県内広域水迫 企業団には調査の便宜,未公表資料の提供および論文公表化の御承諾を項い た。調査に際しては,同企業団の国兼泰信氏(当時,工事課第一工事事務所 所長). ㈱青木建設ほか共同企業体の鎌田捷雄 ,和泉滞邦雄氏,今津公一氏, 氏(葉山トンネル作業所長),池田義治氏の御案内とトンネル掘削工事中の. 地質状況について教えて頂いた。横浜国立大学教育学部の小池敏夫教授には 原稿の校閲をして頂き,有馬 井上. 異教授には薄片の鉱物鑑定で御教示頂いた。. 周氏(当時,横浜国立大学教育学部4年生)には薄片作成で御世話に. なった。以上の方々に深く感謝します。. 引用文献 江藤哲人, No.33,. 1986a. :三浦半島葉山層群の層位学的研究.横浜国大理科紀要第2類,. 67-105.. 江藤哲人, 1986b :三浦半島の三浦・上総両層群の層位学的研究.横浜国大理科紀要 第2類, No.33, 107-132. 神奈川県内広域水道企業団, 1992 :送水管路線(朝比奈・武間)布設工事の概要. 神奈川県内広域水道企業団, 1995MS,地質総括縦断図(田浦・武間その2区間). Kaneko,. S・, 1969. Soc. Japan,. : Right. lateral faulting. in Miura. Peninsula,. southof. Tokyo,. Japan.. J. Geol.. 75, 199-208.. 活断層研究会, 1991 :新編日本の活断層一分布図と資料.東京大学出版会. 三梨 昂・矢崎満貫, 1968:日本油田・ガス田図6,三浦半島.地質調査所. 太田陽子・松田時彦・池田安隆・D.N.Williams ・渡辺憲司・小池敏夫・見上敬三, 1982. 80pp. :三浦半島の活断層.神奈川県地震災害検討資料,神奈川県, 太田陽子・山下由紀子, 1992 :三浦半島の活断層群細図の試作.活断層研究,. 10,. 9-26..

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