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船生演習林ヒノキ人工林における数値地形モデルに基づいた土壌水分指標による樹高推定の有効性

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船生演習林ヒノキ人工林における数値地形モデルに基づいた

土壌水分指標による樹高推定の有効性

Validity of height estimation of Hinoki cypress using soil moisture

indices based on the digital terrain model in Utsunomiya University

Forests at Funyu

江原秀宗1・松英恵吾・執印康裕・逢沢峰昭・大久保達弘

Hidekazu EHARA1, Keigo MATSUE1, Yasuhiro SHUIN1, Mineaki AIZAWA1, Tatsuhiro OHKUBO1

1宇都宮大学農学部森林科学科 〒321-8505 宇都宮市峰町350

1Department of Forest Science, Faculty of Agriculture, Utsunomiya University,

350 Mine-machi, Utsunomiya, 321-8505, Tochigi, Japan

要 旨

本研究では、宇都宮大学船生演習林のヒノキ人工林において、ヒノキの生育適地の定量的評 価に関する基礎情報を得るため、解像度を7段階に変化させた数値地形情報を用いて、地形因 子とヒノキの樹高との関係を解析した。数値地形解析に用いる因子として、森林土壌の水分 状態を表す指標のTopographic wetness index(TWI)と凹凸度に着目した。そして、光波計測 (LiDAR)データより算出した樹高を目的変数とし、数値標高モデル(DEM)より算出した TWIと凹凸度を説明変数として、回帰分析を行った。その結果、ヒノキの樹高推定には35m× 35mの解像度における凹凸度が有効な地形因子であることがわかった。また、解像度がより高 いほど凹凸度の有効性が高まることはなかった。これは35m×35mの解像度が実際の地形の凹 凸度を最もよく反映しているためと考えられた。本研究では凹凸度のみを指標として用いる ことによって、ヒノキの樹高をある程度予測できると考えられた。一方、TWIは樹高にほと んど影響を与えていなかった。その原因として、TWI算出に用いたアルゴリズムの不十分さ や、水分以外の因子の関与が考えられた。

キーワード:凹凸度、ヒノキ、数値地形解析、Topographic wetness index (TWI)、樹高

ABSTRACT

In order to obtain basic information to construct the feasible method for workers to estimate quantita-tively the suitable topographical site for Hinoki cypress (Chamaecyparis obtusa) plantation, we assessed the validity of the tree height estimation using topographical factors based on the digital terrain model in Utsunomiya University forest at Funyu. We used two variables of topographical factor, the topographic wetness index (TWI) and the convexity, as estimators of soil moisture, at seven grades of resolution. We conducted the simple and multiple regression analyses using these two as explanatory variables and the height of Hinoki cypress trees, calculated from LiDAR (Light Detection and Ranging) data, as a response variable. As the results, we found that valid resolution and topographical factor to estimate the height of the trees were the convexity at 35m×35m resolution. The higher the resolution is, the more we cannot obtain a better estimation of height of the trees using the convexity. This implied that the convexity cal-culated at 35m×35m resolution fit well real geographic feature in the survey site. In contrast, the effect of TWI on height of the trees was quite weak. This suggested that the computation algorithm of TWI we used was insufficient; soil moisture does not restrict the growth of Hinoki cypress against our hypothe-sized; and other topographical factors except soil moisture was necessity for more accurate estimation. Keywords: convexity, digital terrain analysis, height of tree, Hinoki cypress, topographic wetness index (TWI)

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序論 近年、戦後の拡大造林期に植栽された人工林資源は 間伐期や伐期を迎えつつあり、健全な人工林整備のた めの集約的で採算性の高い林業経営が求められている 13)。その中で、森林情報の基盤整備18)やゾーニングに 向けた生育適地の評価手法は人工林の集約的森林管理 を行う上で必要な技術である。 経営対象樹種の適地判定において、基準林齢におけ る上層木の平均樹高によって表される地位指数は、比 較的簡便に計測できること、林分密度の影響を受けな いことから、広く林地の生産力の指標として用いられ てきた17)。この地位指数を地形条件から推定でき、且 つこのような推定が広域的に適用可能であれば、経営 対象樹種の適地評価を行う指標としてきわめて有用で ある12)。したがって、地位指数と地形因子との関係に ついては多くの研究がなされてきた12, 20)。近年、リモ ートセンシングや地理情報システム(Geographic Information System;GIS)などの空間情報工学の発達に より、利便性に優れた空間情報の取得・管理・分析が 可能となった7)。森林・林業の分野でもリモートセン シングやGISの基盤整備と導入が急速に進みつつある。 特に、GIS技術の応用として、位置情報に対応した標 高データを格納した一連のデータセットである数値標 高モデル(Digital Elevation Model;DEM)をもとに、地 形特性を算出する数値地形解析の手法が用いられるよ うになってきた。こういった解析手法を用いることに よって、広域的な地位指数と地形因子の関係を捉える ことのできるモデルが開発されてきた11)。しかし、地 形因子はDEMの解像度を変化させることによって流 域や地形起伏規模といった捉える地形の意味が大きく 変わる。したがって、どのような指標によって地位指 数を説明できるのかといった問題に加えて、ある地形 因子や地位指数をどのくらいの解像度で捉えれば、最 も当てはまりのよい推定ができるのかといった知見が 必要である。また、最適な解像度は、地域によっても 異なるという見解17)もあることから、複数の地形因子 について、様々な解像度で解析を行う必要がある。ま た、これまで複数の地形因子に関する様々な指標が用 いられてきた2, 10, 11)が、ヒノキに関しては、その一般 的な生長特性、すなわち、尾根部の土壌水分が不足す る地形では生長が悪く、谷地形のような土壌水分量が 過多となる地形においては、樹病等の生長阻害を引き 起こす3, 5)、といった特性を考慮すると、土壌の水分状 態を表す水文学的な指標を用いることが必要と考えら れる。 宇都宮大学農学部附属船生演習林には、過去に地形 や地位を十分考慮せずヒノキ人工林の造成を行った結 果、尾根筋では生育不良となり、谷筋では樹病等の生 育阻害が生じている場所がみられる14)。戦後植栽され たこれらのヒノキは、現在、地位指数の基準となる40 年生の林齢に達しているため、このような場所はヒノ キの生育適地を評価する上で必要な、樹高と地形因子 との関係を研究する上で適した場所であると考えられ る。また、その一部の領域については、航空機に搭載 された光波計測(Light Detection and Ranging;

LiDAR)を用いた森林計測と、その精度の検証がな されている9)。したがって、樹高に関する情報が整っ ている。 以上から、本研究では、LiDARデータから算出し た樹高に、土壌の水分状態を表す水文学的な地形因子 が与える影響を定量的に評価することを目的として、 1)どの地形因子によって樹高の高低を説明できる か、2)どのくらいの解像度で捉えた地形因子が樹高 と関係性が深いか、について検討した。 研究対象地および方法 1.研究対象地 宇都宮大学農学部附属船生演習林8林班わ小班を研 究対象地とした。船生演習林は栃木県塩谷郡塩谷町に あり、北緯36°40′∼36°49′、東経139°47′∼139°51′、 標高260m∼597m、総面積は538.77haで、計10林班で 構成されている19)(図1)。 8林班わ小班は、林齢43年生、標高は348m∼549m、 傾斜は0.85°∼45.91°である。面積は25.09haと演習林 小班の中でもっとも大きい。このような大面積小班が 形成された背景には、昭和30年代の高度経済成長期を 迎え、木材需要が増加したことがあげられる。この影 響から、木材の増産を意図する第2次編成経営案(計 画・実施期間:昭和35∼44年)では輪伐期の廃止や伐 期齢の大幅短縮等が行なわれた19)。結果として、第2 次経営期前半では一時的な年伐面積の増大が生じ、造 林・保育面積の増大、さらには本研究対象地のような 同一林齢同一樹種の大面積一斉林を生み出した19)。こ の小班内には尾根筋から谷筋までヒノキが植栽されて いるため、生長の悪い箇所も存在し、地形によるヒノ キの生長の差異を評価する上で適当な研究対象地であ るといえる。 2.LiDARデータによる樹高の算出 本研究対象地では、航空機に搭載された光波計測 (Light Detection and Ranging;LiDAR)を用いた森林 計測が行われた(2006年9月20日と10月26日の2回の計 図1 宇都宮大学農学部附属船生演習林8林班わ小班の位 置図および林相図 谷本ら(2000)を基に作成。 左図の黄緑色部分が8林班わ小班を示す。 右図の緑色部分が8林班わ小班内のヒノキ林分を示す。

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測結果を合成)。LiDARによって、最初に反射してき たFirst pulseと最後に反射してきたLast pulseからそれ ぞれフィルター等の編集によりモデル化すると、数値 表層モデル(Digital Surface Model ;DSM)と数値地形 モデル(Digital Terrain Model; DTM)の2種類の DEMを算出できる。さらにそれらの差分をとること で算出されるDEMが数値樹高モデル(Digital Canopy Height Model ;DCHM)である6)。樹高は、8林班わ 小班のDCHMに局所最大値フィルタ(LMF;Local Maximum Filter)処理し6)、抽出された梢端にあたる ピクセルのDCHMの値を読み取ることで算出した。な お、LiDARによるヒノキ林分パラメータの推定値につ いて、現地調査結果と比較すると、樹高は林分密度が 高くなるほど精度が悪くなる傾向はあるものの高い精 度で算出できることがわかっている9)。したがって、 本研究対象地の林分密度(表1)を考慮すると、樹高 に関しては林分評価が可能であると判断した。 樹高は、各10m×10mから5mごとに40m×40mの解 像度(表2)までグリッドごとに平均樹高(以下、樹 高と呼ぶ)として算出した。 本研究対象地において、尾根筋などヒノキの生長の 悪いところでは、アカマツ保残帯となっているところ や広葉樹の侵入したところがある。そこで、デジタル オルソフォトから判読した林相図(図1)を使用し、 ヒノキ林相に属するグリッドの樹高データのみを抽 出・使用した。 データの作成および算出にはGISソフトTNTmips7.1 (MicroImages社,USA)とMicrosoft Fortran Power

Station 4.0(Microsoft社,USA)を使用した。 3.Beven and Kirkbyの地形指標(TWI)

流域レベルでの土壌の水分保持・流出には、斜面位

置や傾斜といった地形が大きく影響する8)。そこで、

斜面位置によって生じる土壌水分傾度を数量的にあら わす地形因子として、Beven and Kirkbyにより提案

された地形指標ln(α/tanβ)1, 2)を算出した。本研究

ではこの指標をTWI(Topographic wetness index)

と呼ぶ16)。ここで、αは単位等高線長さ当たりの集水 面積(以下、集水面積と呼ぶ)(㎡)、βは斜面傾斜 (°)である。集水面積が大きく、斜面傾斜が小さい谷 沿いや窪地部など水分の飽和しやすい場所ではTWI は大きくなり、反対に集水面積が小さく、傾斜の急な 斜面など飽和しにくい場所で小さくなる8) ある地点において、降雨がその地点に流出する全領 域を集水域といい、その面積が集水面積である。集水 面積算出法は次の通りである(図2A)。同図中の各 グリッドに書かれている数字は累積流量である。これ は算出したいあるグリッドの周囲にある8つのグリッ ドの斜面方向によって落水する方向(8方位)が決ま り、いくつのグリッドが算出したいグリッドに流れ込 むかによって決定する。この際に、各グリッドは最初 から自身の流量1を持っていると仮定する。同図中の 30のグリッドを例にすると、周り8つのグリッドの中 で落水方向が30に向かっているのは、16、7、2、1 の4つのグリッドであり、それぞれが自身の流量1を 持っているので、17、8、3、2となって30のグリッ ドに流入する。つまり、このグリッドの累積流量は、 17+8+3+2=30となる。集水面積は累積流量に各グ リッドの面積をかけたものであるので、10m×10mで あれば、集水面積は30×100㎡=3000㎡となる。TWI 算出の際には、まずグリッドごとに斜面傾斜および集 水面積を計算し、次いでこの2つの変数からTWIを算 出した。 4.凹凸度 微地形を把握し、局所的な水分環境の推定を行うた めの地形因子として凹凸度を算出した。凹凸度はDEM に2次差分型オペレータであるラプラシアンフィルタ (図2B)をかけることによって算出した。算出した いあるグリッドの標高値に−8をかけ、その値に周り 8つのグリッドの各標高値をたすことで、その合計値 が凹凸度となる。図2B(各グリッド内の数字が標高 値を示す)を例とすると、 凹凸度=(335×−8)+350+345+350+335+340+355+350+350=95 となる。この値が正の場合は凹地、負の場合は凸地と 表1 調査地概要 表2 解像度とグリッド数 図2(A)集水面積および(B)凹凸度の算出方法の例

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なる。 5.TWIと凹凸度の計算と解像度 本研究では、船生演習林のDEMを用いて、10m× 10mから5mごとに40m×40mの解像度までグリッド ごとにTWIおよび凹凸度を算出した。この際、便宜上 LiDARから作成したDEMではなく、船生演習林全域 をカバーしたDEMを用いた。船生演習林のDEMは、 5000分の1の森林基本図をラスター化した後、等高線 をベクターに変換し、そのベクターに標高値を与え、 Kriging法によって地形モデリングを行い作成した。 本研究では、先に述べた樹高同様に、TWIおよび凹凸 度は、デジタルオルソフォトから判読した林相図(図 1)を基に、ヒノキ林相に属するグリッドの数値のみ を抽出・使用した。 6.データ解析 各解像度において、樹高と各地形因子の関係性を調 べるために、樹高を目的変数、TWIと凹凸度それぞれ を説明変数として単回帰分析を行った。さらに、各解 像度において、樹高に対する各地形因子の影響度を調 べるために、樹高を目的変数、TWIと凹凸度を説明 変数として重回帰分析を行った。この結果から、樹高 の変動を説明可能で、かつ定量的評価に有効な地形因 子を決定係数(R2)の大小により決定した。また、各 解像度と各解析から得られた決定係数の関係を調べ、 最大の決定係数を示した解像度を、樹高を説明する上 での最適の解像度と判定した。統計解析にはJMP Version4.0.5J(SAS Inc,USA)を使用した。 7.現地踏査 解析によって決定された最適の解像度において、地 形因子によって樹高の高低を十分説明できないグリッ ドについては、現地踏査を行いその原因を調べた。な お、樹高の高低を説明できないグリッドは、地形因子 と樹高の平均値(m)と標準偏差(σ)を用いて判定 した。まず各グリッドにおいて、地形因子と樹高それ ぞれについてm-σ未満を1、m-σ以上且つm+σ未満 を2、m+σ以上を3と3つの階級値に区分した。そし て、地形因子の階級値から樹高の階級値の差をとり、 この値が0でないグリッドは地形因子によって樹高の 説明ができないと判断した。 結果 1. 樹高、TWI、凹凸度の算出 10m×10mから40m×40mの各解像度における、グ リッド数を表2に示した。この各グリッド内の樹高、 TWI、凹凸度の各変数を算出した。 樹高の算出結果を図3に示した。各解像度における 樹高の平均値は16.07∼16.20m、中央値は16.36∼16.61 mであり、解像度による違いはほとんどなかった。標 準偏差も解像度による違いはほとんどなく、10m× 10mで3.53m、40m×40mで4.01mであった。 TWIの算出結果を図4に示した。各解像度におけ るTWIの平均値および中央値は、解像度が大きくなる につれて増加していき、10m×10mで平均値6.57、中 央値6.18、40m×40mで平均値9.40、中央値8.97であっ た。標準偏差は各解像度においてほぼ変化はなく、 1.42∼1.58の範囲内であった。 凹凸度の算出結果を図5に示した。各解像度の凹凸 度の平均値および中央値には、解像度の変化にともな う規則的な変化はみられなかった。標準偏差は解像度 が大きくなるにつれ、次第に大きくなり、10m×10m で12.64、40m×40mで76.28であった。 図3 各解像度におけるグリッドごとの樹高の分布 樹高は各グリットの平均樹高を表す。 右列最下段は等高線図を示す。 図4 各解像度におけるグリッドごとのTopographic wet-ness index(TWI)の分布 右列最下段は等高線図を示す。

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2.樹高生長に及ぼす地形因子の影響 各解像度においてTWIを説明変数、樹高を目的変 数として単回帰分析を行った結果、どの解像度におい ても変数間の回帰式は統計的に有意であった(表3)。 像度で決定係数が最大値をとった(表3)。すなわち、 35m×35mの解像度が凹凸度から樹高を推定する上で は、最も有効な解像度であった(R2=0.466,p<0.0001)。 TWIと凹凸度は強い相関関係が見られなかったこと から、各解像度においてTWIと凹凸度を説明変数、樹 高を目的変数として重回帰分析を行った。その結果、 どの解像度においても変数間の回帰式は統計的に有意 であった(表4)。各解像度と決定係数の関係をみる と、35m×35mの解像度で決定係数が最大値をとった。 すなわち、35m×35mの解像度がTWIと凹凸度から樹 高を推定する上では、最も有効な解像度であった (R2=0.473,p<0.0001)。各説明変数の樹高への影響度 を偏回帰係数のt値を基に評価すると、TWIより凹凸 度の影響度が大きかった(TWI :t=1.59,p=0.1147 ; 凹 凸度:t=10.62,p<0.0001)(表4)。 考察 1.有効な地形因子と解像度の検討 単回帰分析を行った結果、TWIと凹凸度では樹高 を推定する上での有効な解像度が異なった。それぞれ 有効な解像度における決定係数の値をみると、TWI によって樹高は20.1%説明可能であり、凹凸度によっ て樹高は46.6%説明可能であった。これより、樹高の 推定には凹凸度がより有効であることが示唆される (図6)。さらに、重回帰分析の結果において、35m× 35mの解像度が最も有効であり、樹高の推定に凹凸度 が寄与する割合はかなり大きかった。この時の決定係 数は0.473であり、35m×35mの解像度における樹高と 凹凸度の単回帰分析の結果と決定係数に大きな差はな かった。したがって、35m×35mの解像度においては、 樹高を推定する上でTWIの影響はかなり小さいことが 示唆される。よって、本研究では、ヒノキの樹高を定 図5 各解像度におけるグリッドごとの凹凸度の分布 右列最下段は等高線図を示す。 図6 35m×35mの解像度における樹高と凹凸度の関係 表3 樹高と地形因子(Topographic wetness indexおよ

び凹凸度)の単回帰分析の結果

表4 樹高と地形因子(Topographic wetness indexおよ び凹凸度)の重回帰分析の結果 各解像度と決定係数の関係をみると、30m×30mの解 像度で決定係数が最大値をとった(表3)。すなわち、 30m×30mの解像度がTWIから樹高を推定する上で は、最も有効な解像度であった(R2=0.201,p<0.0001)。 各解像度において凹凸度を説明変数、樹高を目的変 数として単回帰分析を行った結果、どの解像度におい ても変数間の回帰式は統計的に有意であった(表3)。 各解像度と決定係数の関係をみると、35m×35mの解

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量的に評価する上で有効な解像度と地形因子を35m× 35mの解像度の凹凸度であると判断した。 2. 凹凸度の有効性 数値地形解析において、より高い解像度のDEMを 用いて地形因子を算出したほうが、特に本調査地のよ うな複雑な地形上では、微地形によってもたらされ る、より局所的な水分状態を評価できることが当初予 想された。また、TWIはより高い解像度ほど有効性が 高まると予想された。しかし、本研究において、比較 的低い解像度における凹凸度が、ヒノキの樹高生長に 影響を及ぼしていると判断された。光田ら17)は、5つ の解像度(200、100、50、25および12.5m)において 地形因子と地位指数の関係を調べた結果、50mの解像 度において最も高い精度の地位指数を予測するモデル を得た。そして、空間補完によって解像度をより高く しても、地位指数モデルの精度が向上しなかったこと から、その理由として、複雑な地形下では空間補完さ れた地形と実際の地形が乖離していたためではないか と考察している。したがって、本研究の調査地におい は、35m×35mの解像度が実際の地形の凹凸度を最も よく反映していることを示唆しており、10m×10mの 解像度では、最適な解像度の半分以下の決定係数値で あったことは、空間補完された地形と実際の地形の間 に乖離がみられためと考えられる。また、光田ら17) ら、本来のDEMデータソースの解像度(50m×50m) での解析の妥当性が示唆されるが、本研究では35mと いう50mと25mの解像度の間において最適の精度が得 られたことから、一般的に50mと25mの解像度の間で 最適精度をとる可能性も考えられる。しかし、対象地 の地形的特長や対象樹種の違いによって最適精度の解 像度が異なる可能性も考えられるため、更なる事例研 究が必要と考えられる。 凹凸度の有効性は単回帰式の決定係数0.466と比較 的低い値であった。そのため、35m×35mの解像度に おける樹高と凹凸度の平均値と標準偏差から、凹凸度 によって樹高の説明がつかないグリッドを抽出し(図 7)、そのグリッドを現地踏査することでヒノキの成長 を十分に評価できない原因を検討した。樹高が高く凹 凸度が低い(凸地)と判断された原因として、この地 点では林相図によるアカマツの抽出が不十分であり、 アカマツの樹高をヒノキの樹高として算出されたこと が考えられる。これにより樹高が予測値よりも高くな ったと考えられる。反対に、樹高が低く凹凸度が高い (凹地)と判断された地点については、その原因とし て、谷地形でもさらに中心に位置する凹地点や斜面傾 斜が強い凹地点では、礫の大量流入による土層の発達 阻害が生じていたので、これによって樹高が予測値よ りも低くなったことが考えられる。 3.TWIの問題点 寺岡ほか20)は、50m×50mの解像度におけるヒノキ の地位指数と地形因子の関係を解析し、水の表面流の 貯留能力を表す因子である有効貯留容量、水分蒸発を 表す因子である露出度、有効起伏量の順で、これらが ヒノキの地位指数を説明する上で有効な因子であるこ とを明らかにしている。そのため、ヒノキの樹高生長 を説明する上で土壌の水分状態を表す水文学的なTWI は有効であるという作業仮説を考えたが、このTWIに よってほとんど樹高の高低を説明できなかった。一つ の原因として、斜面中部から上部にかけてのTWIが、 累積流量の極端に低い値に偏っているといった計算上 の問題に起因していることが考えられる。これは累積 流量を算出する際、グリッドごとにその周り8つのグ リッドの平均値をとることで緩和される可能性はあ る。また、スギの樹高あるいはスギの生産性の推定 に、このTWIが有効であることが示唆されている15, 21) とから、樹種特性として、そもそもヒノキの樹高生長 自体が局所的な水分状態との因果関係が低く、日射係 数といった指標であらわされる光環境の影響をより強 く受けている可能性も考えられる。 以上、本研究では凹凸度を指標として用いることに より、ヒノキの樹高をある程度説明することができ た。ヒノキ人工林造成では、育林投資の採算性に及ぼ す地位の影響が大きく、地位を考慮しない育林投資 は、採算性の点で極めて危険な要素を多く含んでいる といわれている4)。したがって、GISを用いたこのよう な立地環境のもつポテンシャルを基とした容易な管理 や多面的分析・評価は、経済的背景や価値観といった 主観的な判断基準を含めていなため、知識や経験を有 する林業労働者の高齢化と後継者不足という現状を考 えると、より有効な適地評価を可能にするものと考え られる。 謝辞 本研究を進めるにあたり、宇都宮大学農学部森林科 学科の先輩・同輩諸氏には、助言およびお力添えを頂 いた。宇都宮大学農学部附属演習林関係者の方々には 調査に際して種々の便宜を図っていただいた。また、 査読者の方々には貴重なご指摘と助言を頂いた。ここ に記して感謝いたします。 引用文献

1) Beven, K.J. & Kirkby, M.J.: A physically based,

vari-図7 凹凸度で樹高の説明がつかないグリッドの抽出 各グリッドにおいて、地形因子と樹高それぞれについてm-σ未満を1、m-σ以上且つm+σ未満を2、m+σ以上を3と3つの階級値に区分し、さらに、 地形因子の階級値から樹高の階級値の差をとり、この値が0でないグリッド は地形因子によって樹高の説明ができないと判断した。

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参照

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