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東アジア経済統合の特徴と知識基盤経済 : 知的財産重視戦略からみた日本の国際競争力

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Academic year: 2021

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(1)東アジア経済統合の特徴と知識基盤経済 -一知的財産重視戦略からみた日本の国際競争力ー. 鄭. はじめに. 21世紀に入り,自由貿易協定(孤)を中心 に世界各国・地域間で経済統合が進展している. 東アジア1)では, 「欧州連合」 (EU)や「北米自 由貿易協定」. (NAm)のような制度面での統. 君. 恩. での差別待遇の排除である.その形態として, 自由貿易地域,関税同盟,共同市場,経済同盟, 完全なる経済統合の5つを挙げている. 自由貿易地域では,加盟国の関税を撤廃する が,関係各国は,非加盟国に対する関椀は従来 どおりにする.関税同盟が結成された場合には,. 合はさほど進んでいないが,実質的な経済関係. 関税同盟内における商品移動に関する差別待遇. をベースにEUやNAFIAに匹敵するほどの域. が排除されるほか,非加盟国との貿易に対し,. 内貿易緊密化を見せている.さらに,それらの. 同盟国は関税の均一化政策をとる.共同市場は,. 地域を上回る成長率を示している.. 単に貿易制限が撤廃されるだけでなく,生産要. 一方,経済統合とともに21世紀世界経済のも う1つの軸である知識基盤経済が進展している.. 素の移動に対する制限も撤廃される.経済同盟. 知識は,貿易投資自由化によってグローバル化. を撤廃すると同時に,各国の経済政策の調整も. し,ダイナミックな経済効果を国や企業にもた. ある程度実現しようとするものである.最後に,. らしている.. 完全なる経済統合にあっては,金融政策,財政. は,商品移動及び生産要素の移動に対する制限. そこで本稿では,東アジアの経済統合,すな. 政策,それに景気対策の統一化を前提とすると. わち実質的な経済関係による域内貿易緊密化を. ともに,超国家的機関を設定することが必要に. 取り上げる.特に,経済統合の動態的効果をよ. なってくる2).. り高めるものとして知識を位置づける.そして, (1989)の動態理論や国際経営論など,理論と関. 一方,近年における経済統合は2つの形態を示 「深い統合」 (deep integration)と 「浅い統合」 (shallow integration)がそれであ. 連付けながら分析を行う.. る.深い統合の典型的な例はEUである.. 内生的経済成長論と深く関連しているBaldwin. 第1章 第1節. 経済続合の進展. Balassa. 経済統合とは (1961)は,各国に属する経済単位間. における差別待遇を除去しようとする諸方策を 経済統合と定義している.すなわち,一地域内. している.. のような統合の場合,各加盟国はEUの財・サ ービスの輸入を制限することができない.そし EU内における資本及び労働の自由な移 動・企業設立の自由化などが実現される.さら て,. に,加盟国は自国の補助金政策,競争政策,間 接課税率等を自由に選ぶことができず,超国家. EU.

(2) 74. (526). 横浜国際社会科学研究. 的な欧州委員会の管理下に置かれることになる. 次に,浅い統合の代表的な例は,. FTAである.. 第10巻第5号(2006年1月). を経済統合の原動力として取り上げる. 戦後の貿易自由化は,. 「関税と貿易に関する一. (MERCOSUR) NAmや「南米南部共同市場」 などが挙げられる.特にNAFTAでは,サービ. 般協定」. ス分野の一層の自由化,投資分野での内国民待 遇の供与に加えて,労働条件・環境保護基準に. しており,国際貿易の活発化に大きく貢献した. 自由とは,貿易障壁削減と関税化によってより. 関する補完協定が締結された3).. 自由な貿易体制を作るべきとの方向を示すもの. 現在,最も経済統合が進んでいるのはEUで. (GATT)を中心に実現されてきた.. G〟ITは,自由,無差別,多角,互恵を原則と. であり,多角及び互恵はそのための手続きある. あるが,その道程は,. いはプロセスとしての多角的交渉,交渉原則と. ていないが,ユーロ圏内で統一的な金融政策を. しての互恵性を表している.したがって,政策 規律の内容を形作る原則は「無差別」という部. 実施していることから,共同市場から経済同盟. 分に集約される.無差別原則は,経済学的には,. への移行過程にあるといえる.そして,「ASEAN 自由貿易地域」 (AFTA)は,域内諸国の間で関. 市場を分断するような人為的措置をできるだけ. 税や輸入制限を撤廃しようというものであるが,. 観に基づくものである.市場が分断されれば,. 対外的な共通関横設定を行っていないため,自. 価格差が生じ,資源配分が非効率となる.そこ. Balassa理論の段階を踏 んで進化してきた.まだ,経済同盟には到達し. 由貿易地域段階にあるといえる.. NAmは,. 除去した方が資源配分の効率性が高まるとの直. で障害を取り除けば価格裁定が働き,他の市場. アメリカ,カナダ,メキシコの3ヵ国間で閑椀や. のゆがみが存在しない限り,社会厚生は向上す. 数量制限を撤廃する自由貿易地域を形成してい. る5).. るが,加えて城内の資本移動を自由化している. このような原則のもと,関税の縮小・撤廃が 促進され,ウルグアイ・ラウンド(1986-94). ので,共同市場的な側面を持っている.そして, ブラジルやアルゼンチンなど南米諸国で進行し ているMERCOSURは,将来EU型の統合を目 指しているが,現在は域外共通関税の設定段階. に至るまでの交渉の結果,先進国における工業 製品の平均関税率は4%以下にまで下がり,海外 生産が世界経済の一部分として登場した6).そし. まで進んでいるので,ほぼ関税同盟段階に該当. て,多角的な貿易交渉や各国の対外経済政策の. する4).. 自由化,規制緩和などが実現された.. れるが,近年では単なる関税引下げにとどまら. さらに1980年代半ば以降における情報通信技 術の発展によって,企業はより安いコストで多. ず,投資・サービス,労働市場,各種規制・経. くの情報処理が可能となり,広範囲に分散され. 済政策,さらには通貨統合の各面にわたる域内. ている生産・サービス関連ネットワークの管理. の障壁を低め,取り払う「深化した統合」が進 EUやNAmのよう 展している.本稿では,. も実現され,対外経済活動に係わる取引費用が 大きく低下した.この貿易自由化や取引コスト. な制度的な面での統合とは異なった形の経済統. の低下は,企業の海外進出をもたらす大きなき. 令,すなわち東アジア域内に多くみられている. っかけとなった.. このように,経済統合には様々な形態が見ら. 一貿易投資自由化がもたらした一笑質的な 経済関係の進展を取り上げる.. しかし,. される財に対する関税縮小に焦点があてられて いた.. 第2節. 経済続合の原動力ー貿易投資自由化. 今日のような経済統合を進展させた原動力は 何であろうか.本節では戦後の貿易投資自由化. GATrは財の貿易のみ,つまり輸入. 1947年以降, 7つの貿易ラウンドが行われ. ることになるが,これらの貿易ラウンドは関税 縮小のみならず,ダンピング防止,非関税措置 へと交渉が拡大されていった.特にウルグア.

(3) 東アジア経済統合の特徴と知識基盤経済(鄭). (527). 75. イ・ラウンドでは,これまでG〟ITが対象とし. 多角的投資システムとは,対内投資の完全自由. てきたモノの貿易に加え,サービス貿易,貿易. 化と外資系企業の内国民待遇を意味するが,. 関連投資措置,知的財産権に関する新たな協定 が締結されるなど,従来の関税・貿易交渉とは. TRIMsにおいては,財の製造および販売に関 わって直接投資に適用される3点の禁止条項8)が. 異なっており,. 取り決められ,直接投資の完全自由化による多. 「世界貿易機関」. (WTO)を創設. することを重要課題としていた.. 角的投資システムの完成とはならなかったもの. 化されやすい成果を伴った時代から,規制緩和. の,多くの国を直接投資の自由化へ大きく踏み 出させた9).. GAm体制か らWTO体制への変化は,関税交渉という定量. などの各国の制度改革を求めるというような, 経済と社会のグローバル化に対応するものへと. 第3節. 移りつつあることを含んでいる.. GÅIT・WTOによる貿易投資自由化は,世 界経済成長にどのような貢献をしたのだろうか.. WTO体制下での貿易投資自由化により,各 国はそれぞれの国の発展目標を開放経済の下で 設定し,世界の知的・物的財産を共通のインフ ラとして国内経済の発展に利用しようとしてい. 貿易投資自由化の経済効果'o). GDP押上げ効果を中心に見てみると次のとお りである.. まず, Baldwinモデル(1989)を中心に,哩. る.自国がWTO体制に組み込まれることの意 義は,自国の経済的・制度的環境が対外的に延. 論的なアプローチをしてみよう.. 伸すること,つまり経済的・制度的にグローバ. らす規模の経済を成長モデルの中心としている.. ル化された世界を自国の活動の場として確保す. モデルでは,経済全体における資本総額・労働 力・ GDPの関係が以下のように表されている.. ることである.. WTO体制は,経済の規制緩 和・撤廃,情報化,グローバル化によって構築 された「グローバル・ネットワーク経済」と一. Baldwinは,. 貿易障壁の撤廃による経済統合と,それがもた. GDP-j. (資本ストック)a'b (労働力)lla. 体を構成している.ここで情報化は,ネットワ ーク形成の基礎となる技術の発展によって支え られている.また,規制緩和,とりわけ参入規. この公式は,資本ストックと労働力が1%ずつ 増加すると,産出量は(1+b) %増加するとい. 制の撤廃により競争市場が形成された7).このよ. うことを表している.そして,. うなダイナミックな経済環境変化の中,積極的. を表す指標となる. b-0の場合は,規模に関. に海外事業展開を果たしたグローバル企業は,. する収穫不変を意味し,. 次第に投資の自由化を要求するようになる.. (収穫逓増)を表す.このモデルでbは,. 世界的な資本の自由化は,当然にも貿易との. bは規模の経済. b>0は,規模の経済. 大きい正数として扱われている.. 0より. (1-α)は,質. 関連で一定のルールづくりを要求し,. WTOの. 本ストソクが一定で,労働力が1%増加した時の. 貿易関連投資措置となって実現した.. WTOの. GDP伸び率である.. 「貿易関連投資措置協定」. (TRIMs). ,. 「サービス. jは,経済全体の効率を測 るパラメーターであり,技術進歩や(ヨーロッ. 貿易に関する一般協定」. (GATS),ならびに「貿. パ経済統合のような)政策転換などに強く影響. 易関連知的所有権協定」. (TRIPs)は,グローバ. される.. ル企業の投資自由化要求と深く関わっている. WTOにおいて,サービス貿易は,包括的な市 場アクセスを取り決めるまで協定を進展させる ことができたが,. TRIMsでは,多角的投資シ. ステムを完全に実現するまでには至らなかった.. αは,技術として捉えることができ る.したがってこのモデルは,技術や規模の経 演,経済統合などがGDPの成長に貢献してい ることを表している. 表1は経済産業省による試算で,鉱工業品関税 の引下げ・サービス貿易の自由化・投資の自由.

(4) 76. 横浜国際社会科学研究. (528). 第10巻第5号(2006年1月). 表1貿易投資自由化の経済効果(GDP押上げ効果). 経済効果(GDP押上げ効果[%]). 自由化の分野. 設定. 世界. 先進国. 途上圏. 財貿易の自由化. 鉱工業関税50%削減 (静態的効果のみ*). 0.18. 0.04. 0.58. サービス障壁の撤廃. 2.04. 1.97. 2.24. 2.03. 0.36. 7.86. サービス貿易の自由化. 投資の自由化によつて, 途上国-の直接投資のモメンタムが 投資の自由化. 今後とも確保されると仮定 直接投資に付随して技術移転 (生産性の移転)、が生じると仮定. 財貿易の自由化 (OECDによる試算) (注). 鉱工業関税撤廃 (動態的効果も含む☆☆). 3.1. 1.. *静態的効果:資源配分の効率化による効果. **静態的効果+動態的効果(貿易取引拡大による生産性の上昇). 2.サービス障壁の撤廃により国内産業が輸入競争圧力の程度に応じて生産性を上昇 させると仮定. (出所)経済産業省編(2000)より作成.. 化がそれぞれ世界全体で行われた場合,世界経 済にもたらされる経済効果を表している.試算. が現地子会社に技術や経営ノウハウを移転する 形,つまり直接的な技術移転によってもたらさ. の結果を見ると,これらの自由化がいずれの分 野でも,世界全体にプラスの経済的利益をもた. れる.. らしていることがわかる.. 果として特に注目されるのは,進出企業が保有. 表1で示されているように,鉱工業品関税引下. 海外直接投資が投資受入国に与えるプラス効 する先進的な技術や経営ノウハウが受入国に移. げの経済効果は,先進国に比べ途上国のほうが. 転され,国内に波及するという技術・経営ノウ. より大きい.その理由としては,第1に,関税引 下げは,引下げ国に輸入価格の低下を通じた実. ハウの「スピルオーバー効果」である.こうし た効果の大きさは,受入国がどの程度技術を吸. 質所得の増加や生産コストの低下を通じた輸出. 収する能力を持っているかに強く依存している.. 拡大による利益をもたらす.したがって,下げ. 高度な技術やノウハウに接する機会があっても,. 幅の大きい途上国の方が先進国よりも経済的利. 現地企業や現地労働者がその技術を吸収する力. 益が大きい結果となる.第2に,途上国は先進国. がなければ,技術知識は現地法人内にとどまる. に比べ貿易依存度の大きい国が多く,貿易自由 化,特に貿易量の大きい鉱工業品の関税引下げ. のみで受入国内に広まらない11) 以上のように,貿易投資自由化は各国のGDP. による利益はそれだけ大きい.. の成長に貢献している.特に,投資の自由化が 途上国のGDPの成長に大きく貢献しており,. 一方,投資の自由化が途上国にもたらす経済 効果を見てみると(表2),関椀引下げと同様に. 先述したBaldwinモデルのように,技術進歩・. 途上国にもたらされる経済利益は大きく,中で. 移転や経済統合による規模の経済効果などがそ. も直接投資の受入に付随して先進国から移転さ. の原動力となる.そして,表1・2で示されたよ. れる,進んだ技術や経営ノウハウによる生産性. うに(静態的効果より動態的効果がはるかに大. 向上効果が大きい.こうした途上国の生産性向. きい),その原動力は動態的効果として現れ,経. 上は,対内直接投資により外資系企業の親会社. 済成長に大きく貢献している.そこで,次章か.

(5) (529). 東アジア経済統合の特徴と知識基盤経済(鄭) 表2. 77. 途上国における投資自由化の経済効果(GDP押上げ効果) (単位:%) NⅠEs. 途上国全体. ASEAN4. 中国. ①資本移動による経済効果 (先進国から途上国に資本が. 0.17. 0.16. 0.20. 0.17. 7.69. 2.22. 10.14. 16.42. 7.86. 2.38. 10.34. 16.59. 移転すると′仮定) ②技.術移転による経済効果 (資本移動によつて先進国の生産性 が途上国に完全に移転すると仮定) ③投資自由化による経済効果 (①+②) (出所)表1と同じ.. らは,知識(技術)を中心に,経済統合の動態. 域外国の厚生のみならず域内国の厚生さえ宙戎少. 的効果に焦点をあてる.. する場合もある.経済統合が,貿易を創造する. 第2章. か,転換するかというのは一国の中でも産業ご. 経済統合の効果. とに異なっており,最終的な経済厚生がどのよ. 経済統合効果の理論的な枠組みは,関税の引. うに変化するかということは,消費者・生産者. 下げが資源配分の効率性に影響を与える静態的. 等,各経済主体ごとに巽なる.. 効果(static e鮎cts)と,生産性上昇や資本蓄 積を通じて経済成長に影響を与える動態的効果. 第2節. (dynamic effects)の2つに分類される.先述の ように本章では,より大きな経済効果をもたら. て展開された.. す,動態的効果を中心に論ずる.. 高度化は,種々の動態的要因によってもたらさ. Balassaの動態理論13) 動態的効果の議論は, Balassaによって初め Balassaによると,経済成長の. れる.動態的要因とは,市場拡大を前提とした 第1節. 静態的効果12). 大規模の発展,域内取引における不確実性要因. 経済統合に伴う域内国間の貿易障壁撤廃は,. の緩和,技術革新がより促進されることなどで. 域内で取引される財・サービスの価格の変化を. ある. Balassaは,これを大きく2つに分類して. 通じて,域内・域外との貿易量や経済厚生をそ. いる.それは,. れぞれ変化させる.域内障壁の削減に伴い,従. 化である.. ①大規模経済,. ②自発的技術変. 大規模経済とは,市場規模の拡大の結果起こ. 来から行われていた域内貿易がさらに拡大する. る諸投入係数の減少を意味している.投入係数. ケース(貿易創造効果)においては,輸入国の 消費者は同じ輸入財・サービスをより安く消費 することができる.また,輸出国の生産者も輸. の改善は,技術的改善を意味するものであり, 技術の採用は市場の拡大から招来される.それ. 出の拡大による利益を得ることができるため,. はある場合は規模の経済となり,ある場合は外. 域内国の経済厚生は上昇する.. 部経済の形をとる.ここで後者の外部経済,す. 一方,経済統合に伴う障壁撤廃は域内に限定 されるため,本来ある財を低コストで生産可能. なわち動態的要因としての外部経済について簡 単に触れると次のとおりである. まず, Balassaは,外部経済を市場メカニズ. な域外固からの輸入に対して関税が賦課される. ムの外で時間の経過にともなって作用するもの. 結果,高コストであるが関税が賦課されていな い域内国からの輸入に転換され(貿易転換効果). ,. とみている.これには,技術上ならびに組織上.

(6) 78. (530). 横浜国際社会科学研究. の知識が含まれ,さらに経営者階級と熟練労働 者の発展が含まれる. Balassaが論じている外 部経済の対象は企業であり,企業は既存の技術. 第10巻第5号(2006年1月). 一企業による知識進歩は他企業にスピルオーバ ーするため,市場規模の拡大をもたらす. 2.内生的技術進歩. 上の知識や熟練を利用しているだけでなく,そ. この考え方は,企業の研究開発投資,個人の. れらを絶えず創造し発展せしめている.この分. 教育投資,生産過程での労働者の技能水準の向. 野における各企業の非市場的相互作用は,現存. 上など広い意味での技術進歩の在り方が経済全. の技術知識を分け合い利用し合うだけでなく, 技術の方もまた新しい技術を生み,それによっ. 体の分権的意思決定を通じて経済内部において. て一層の進歩を促しているのである. 一方,自発的技術変化とは,改善された技術 方法の利用が市場規模の拡大によるものではな. 決定されてくるというものである.. Baldwinは,内生的技術進歩がもたらす動態 的効果を次のように説明している. 「価値を創造 するために投入されるインプットと効率性は,. い場合を指す.大規模経済と自発的技術変化を 区別するのは難しいが,両者の間には研究開発. 経営上・技術上のノウハウ(利潤志向型企業の. 活動を通じた関連性がある.研究開発活動での. 的な動機によるものとはいえないが,企業が生. 大規模経済の有利さは,新技術の発明と採用を. 産性を高めていく上で,その活用能力は重要で. 促進する.さらに,市場規模の拡大は技術改善. ある.イノベーションは,競争上の優位性をイ. をもたらすだけでなく,自発的技術変化も生産. ノベーターにもたらし,その結果利潤が拡大さ れる.このような利潤志向型イノベーションは,. 費の引下げを通してそれに貢献する.. 産物)に制約される.基礎科学の発展は,営利. 経済成長につながる.さらに,貿易障壁の撤廃. このようにBalassaは,技術の進歩・利用, 技術上・組織上の知識の発展などにおける動態. は,研究開発費をより多くの生産単位に拡大し. 的な過程を強調しており,技術を経済成長の動. ようとする潜在的なイノベーターに,より多く. 態的要因として捉えている.. の利益をもたらす有効的なイノベーションを生 み出す」.. 第3節. Baldwinの動態理論14). Balassaによる動態的効果の議論は,. Baldwin. 3.内生的イノベーションモデルと成長 内生的イノベーションと成長モデルでは,イ. により理論的枠組みが整理された. Baldwinも, 経済統合の動態的効果をもたらす要因として,. ノベーションのための研究開発費を投資として 捉えている. Baldwinによると,各期のイノベ. 規模の経済を強調している.彼は,規模の経済. ーションは,. ①技術スピルオーバー,. の源泉として, 的技術変化を挙げている.. ②内生. ①イノベーションの収益性,. ②投. 資しようとする意欲,この2点によって行われ る.イノベーションの収益性を決定する要素は. 1.技術スピルオーバー 技術スピルオーバーとは,企業が市場取引に. 以下のとおりである.. おいてその情報に対して何も支払いをせずに, 他の老によって創出された情報を入手すること. イノベーションの収益性(売上純利益率) (資源)/ (研究開発固定費用)17). ができるということを指す15).例えば,先進国 の技術者や経営者が保有する先進的な技術やノ. 貿易障壁や規制が存在しない場合,売上純利. ウハウが途上国に流入することにより,途上因 内の研究開発が刺激され,生産性の上昇や競争. 益率及びイノベーション当たりの費用は一定で. 力の増大につながることである.このようなス. その障壁を克服するための資源を投入すること. ピルオーバーは知識の特性16)によるものであり,. を意味している.いわば,潜在的生産量の中で,. ある.貿易障壁は,企業が財の生産に加えて,.

(7) 東アジア経済統合の特徴と知識基盤経済(鄭). 融解されてしまう一定部分が貿易障壁である. したがって,関税・非関税障壁を撤廃するとい. (531). 79. かの固有の特性を持っている.まず,技術は非 競合財である.すなわち,ある経済主体が財あ. った貿易の自由化によって実現された経済統合 下では,市場の規模が拡大され,企業の利益や. るいはサービスを生産するために技術を使用す. 研究開発投資が増大する.それは,売上純利益. とが可能となる.生み出された技術についての. を増大させ,さらなるイノベーションを促進す. 知識を持つ者は誰でもそれを利用できる.この. ることになる.. ような非競合性によって,技術は世界中至ると. 第3章. る時,他の経済主体が同時に技術を使用するこ. ころで,しかも同時に,様々に応用して活用す. 経済統合と知識基盤経済. ることができる.この非競合性は,規模に関し. 第1. ・2章では,貿易投資自由化による市場拡 大(経済統合)が各国の経済成長に大きく貢献. て収穫逓増であることを意味する. 次に,多くの場合,技術は部分的に非排除財. していることを論じた.特に,投資の自由化は. である.技術的情報の考案者あるいは所有者に. 技術移転を伴うため,その効果がさらに大きい. とっては,しばしば他の老がそれを非合法的に. BalassaやBaldwin. 使用しないようにすることは困難である.すな. ことが確認された.また,. の動態理論を中心に,技術や知識の発展・活用. わち,多くの技術開発者は,他者が金銭的な見. が経済成長を促進するということも指摘した.. 返りなしでその技術を使用するのを阻止できな. 本章では,このような内容を踏まえて,貿易. いという性質(非排除性)である.前述のよう. 投資自由化がもたらした経済統合と90年代半ば から急激に進展した知識基盤経済との関連性を 明らかにする. 第1節. 経済的商品としての技術及びその特徴18). 企業が研究開発投資を行う時,生産される産. に,このような非排除性は技術スピルオーバー をもたらす. 技術スピルオーバーの伝播については多くの メカニズムが存在している.新技術を使って生 産されている製品をただ単に精査することによ. 出物は技術である.成長と開発の経済学(とり. って,あるいは考案者が知識を開発するために とる行動を観察することによってある程度の情. わけ内生的経済成長論)においては,技術とい. 報は伝達可能である.他の情報は,発明者がそ. う用語には独特の意味がある.すなわち,技術 とは,生産過程へのインプットがアウトプット. の情報は特許あるいはそれ以外の知的所有権に よっては守れないことを知っているか,あるい. に変換される方式を指す.例えば,一般的な生. は適切な所有権が実現できないと考えているた. 産関数(インプットを資本Kと労働L,アウト. めに,発明者によって公表される可能性もある.. プットをyとする)をy-F(K,L,・)とする 第2節. と,生産の技術は関数F(・)で与えられる. この生産関数は,インプットのアウトプットヘ の変換のされ方を説明する.そして,コブ・ダ グラス型生産関数y-Kα (AL)1 。では,. 経済統合と知識のグローバル化. 1990年代以降,情報通信技術の目覚しい発展 とともに貿易投資自由化は本格化した.このよ. Aが. うな大波は,多くの国や地域の経済を結びつけ,. 技術を表す指標として用いられている.つまり,. それを通じてイノベーションと経済成長が促進. 技術ストソクAを用いて,資本ストックK,. されるというメカニズムを創り出した,すなわ. 労働Lが産出yの生産に結合する状況を描い. ち,外国の経済と接触し,影響し合っている国. ている.. は,新しい技術知識をより容易に得ることがで. 知識の1つの形態である技術は,経済的商品と して,成長過程における役割に関連していくつ. きるようになる.そして,すでに蓄積されてい る豊富な知識を利用することができる.そのよ.

(8) (532). 80. 横浜国際社会科学研究. 第10巻第5号(2006年1月). 経済統合の動態的効果拡大 (出所)筆者作成. 図1知識のグローバル化の背景. 国際競争力. '宴. 産業基盤経済 J 7-,:L7■章′_I,■-. 知識の発展,段階 知識習得手段 自国の優位性. a拡. IJ77.7.∠ど7/II,こp. 技術導入. 能. 藍p;-l7_7J[,. 技術改良. 低コスト.低賃金労働力. ノベ-ション. Ir. -{,1L,-L.き雷p:A,--,1:-I,1-,1.7:..三重.L7, 弓/,7ラ,T1-I:"-p1/:≡. 力. 企業間ネットワーク. 直接投資 技術.知識. 知識の創造.拡散.活用. 貿易.投資の自由化. FTA中心の自由化. 経済統合の流れ. (静態的効果中心). (動態的効果中心). (出所)筆者作成.. 図2. 知識基盤経済の発展段階と経済統合. うな観点で,. GAT・WTOによる貿易投資自 由化は,企業の海外事業展開とともに,各国の. 争から離れることになる.以上のような環境の. 優れた技術知識のグローバル化をもたらしたと. が進展しつつある今日,知識のグローバル化は, 拡大された市場の中で利益を獲得すべく,スパ. いえる.. 図1のように,知識のグローバル化は,経済統 合による市場規模の拡大によって促進される.. 中で,さらなる知識投資が行われる.経済統合. イラルのように持続的に起こっているといえる. このような知識のグローバル化は,. Drucker. 企業が活動する市場の規模が大きくなるほど,. やDunningが指摘しているように,知識基盤. 大きな売上と大きな利潤がもたらされる.他方,. 経済をもたらした19).次節では,本節の内容を. 企業は,職烈な競争に直面することになる.こ. ベースに,知識基盤経済の発展段階を概観して みることにする.. の相反する2つの局面は,潜在的なイノベーター に対し,知的財産の重要性をさらに認識させる. 知的財産の源である知識は,非競合性を持って. 第3節. 知識基盤経済の発展段階20). おり,その特徴は規模に関して収穫逓増である. 前節まで見てきたとおり,経済統合や技術進. ことを意味している.また,知識は膨大な固定 費用を伴うため,企業は製品開発のためにかか. 歩による規模の経済性などにより,知識や技術. った固定費用を利益として回収しようとする. したがって,企業が新製品や新しい知識を生産 する背景には利潤獲得があり,それゆえ完全競. し,拡散及び活用することが中核をなす知識基 盤経済へと移行しつつある.. の果たす役割が拡大した.今や知的財産を創造. 図2は,知識基盤経済の発展段階を表してい.

(9) 東アジア経済統合の特徴と知識基盤経済(鄭). (533). 81. る.まず,模倣は,製造費用の低い国において. 関税引下げ等を通じた一体的な経済圏の形成な. 生じる場合が多い.主に先進国からの技術導入. いしそれを目指す動きである.それらの動きに 合わせて,企業は域内での分業関係の構築を捉. を通して,模倣が行われる.低費用国で操業し ている企業が模倣品を組立てる能力を得るなら ば,技術的に優位な国のライバル企業よりも低. え直す考えが促進される.. い価格をつけることで,市場シェアを拡大する. とによって世界的規模で統合的に事業活動を管. ことが可能となる.模倣に成功した企業は,釈 たな生産物または製法の本来の発明者との競争. 理することになる.研究開発機能でも,基礎研. の中で,正の利潤を追求することになる.それ. 設立され,調整・分担の上で,技術や製品開発. が知識の改良によるキャッチ・アップ段階であ. に関わる研究も海外で行われる22).. る.. さらに,これらの地域を超えた調整を行うこ. 究をも含めて各研究内容に応じた海外研究所が. 現在では,グローバルに展開した先進企業間. 一方,技術的に優位な国は,そうでない国か らの模倣やキャッチ・アップに直面し,製品開. での提携関係も多く見られ,そこでは外部資源 活用のためのネットワークが形成されている.. 発のための研究開発投資を拡大することになる. そして,さらに技術力をつけたキャッチ・アッ プ段階の国は,直接投資等を持って海外に進出,. 第4節. 海外生産を行う.それまで国内に培ってきた知. ことで,. 識の海外適用である.この段階に入ると,企業 は開発の現地化を行う.現地生産により研究開. スピードが速まっていることから,企業は絶え ず差異性のある財・サービスを提供し続け,そ. 発機能の一部が現地で展開され,現地生産・販. れを価値として実現していく経営を目指すこと. 売の製品の現地適応化21)が目指される.さらに,. になる.そのような差異性を生み出す源泉とし. 海外適用は技術情報の伝達を促進する情報伝達. て,知的財産が重要になってきている.. のチャネルを開くことになり,激しい国際競争 をもたらす. 国際崩争は,新しい独自のアイデアや技術を. 知識基盤経済下での企業の価値23). 先述のように知識のグローバル化が進展する 「結果的に実現する価値」の陳腐化する. 企業における知的財産の果たす役割が拡大し ているが,これは企業がただ知的財産を保有す ることだけで競争力の強化につながるというこ. 追求するように各国の企業家を奨励する.その. とを意味するわけではない.すなわち,知狗財. 結果として,貿易は各国間にある研究努力の重. 産は,それ自体で企業価値を生み出すものでは. 複の程度を緩和する.したがって,各企業は知. なく,明確な経営ビジョンや経営戦略に基づく. 識のグローバルな組合せによって,イノベーシ. 経営プロセスの中で活用されることで,初めて. ョンを実現するグローバル・イノベーション段 階を迎えることになる.それまでの段階は,本. 競争力の源泉として顕在化し,当該企業にとっ. 国と進出先国との間の2国間関係が中心である.. て価値のあるものといえる. 図3は,企業の競争力と無形資産(とりわけ知. しかし,海外での販売及び製造,さらには開発. 的資産)活用の関係を表している.知的財産を. 拠点の増加は,それらの間の統合化を図る動機. 戦略的に企業価値に結びつけるためには「知的. を与える.すなわち,拠点間でのより効率的な. 資産経営」が重要であり,複数の知的資産を繋. 資源配分や製品・部品の供給の調整が必要とな. ぎ合わせてできている価値創造の仕組み(バリ. る.その1つの方法は,地域的な「まとまり」で 括る方法である.それを推進する環境要因とし. ューチェーン)を発展させていくことによって, 将来の利益を確実なものにすることが可能とな. ては,地域経済圏の登場が挙げられよう.すな. る.特に,インプットを結合する能力が重要で. わち,. あり,そのためには研究開発が不可欠となる.. EU・NAFTA・AFTAなど,地域内での.

(10) 82. (534). 横浜国際社会科学研究. Input:. Ⅹ. (Ⅹ1,Ⅹ2,...,. 第10巻第5号(2006年1月). 企業-f. Ⅹn). Output. :y-f. (x). ■. l. (出所)経済産業省編(2005)より作成(一部修正加筆). 図3. 表3. 企業価値の捉え方. 東アジアにおけるGDP成長率の推移 (単位:%). 2001. 2002. 2003 藍蔓.:.■.. I-妻7:-童1:I-. 7.3. 中国. 韓国. 3.8. 日本. 0.2 2.0. ASEAN. (注). 32.7. 8.0 31.6 7.0. 2004. 2005. ,.7七■逓. -i._r1_)宅.1._!モ. 9.4. .㌔;.._)丑11-_′■≡■-. 9.5. 28.5. 2006. 8.9. 8.0. 3.7. 4.7. 5.0. 5.4. 23.6. 3.1. 4.6. △0.3. 1.4. 2.7. 4.4. 5.0. 6.3. 2005年以降は予測値.東アジアと中国の下段は世界経済成長-の寄与率を表す.. ASEANは,ミャンマーとブルネイを除いた8カ国の統計である. (2005) (出所) ADB ,ジェトロ(2005)より作成.. 研究開発は,知識生産関数への非常に重要なイ ンプットであり,現在,多くの企業が研究開発 投資を拡大させている. さらに,無形資産を構成しているものは技術. なっている24).. 経済統合によるグローバル経済への参加が, 自国(企業)にもたらす最も重要な便益は,世界 にあまねく存在している知識基盤を利用可能と. 的な知識だけでなく,経営的・組織的・マーケ. することである.世界市場に取引を行っている. テイング的な知識なども同様に重要な要素であ. 国々は常に,革新的な製品を生産するのに用い. る.このような無形資産をひとたび企業が手に. られる新しい方法について多くのことを学ぶ25). 入れると,それを利用する権利は制限されない. ことが求められている.. という特徴を持っている.言い換えれば,企業 はそれを制限なしに利用する能力を手に入れる ことができるのである.このような能力は,国 内的にも国際的にも活動を広げていく原動力に. 第4章. 東アジアの経済統合26). 東アジア地域は,もっともダイナミックな経 済成長を遂げており,. mを中心に経済統合が.

(11) 東アジア経済統合の特徴と知識基盤経済(鄭). 表4. (535). 83. 東アジア3カ国・地域の貿易結合度. .毒.≒:‥置きH:..I;1.I;..宰賀...:.1..‥'-芳賀..≡写‥′.7:,....1.. 10.22. 中国. 5.92. 12.ll. 香港 韓国. 2.79 270. -7i7さ. 台湾. 4.43. 5.22. 中国 香港. ll.71. 8.261.. 25.57. 韓国. 5.62. 4.ll. 台湾. 4.75. 4.99. 2.982.. 2.76. 中国 香港 韓国. 2.76 3.43. 2,69. 台湾. 2.91. 3.53. 252.97 050.95 6. 692.12. 5.31. 3.ll. 3.432.. 912.69. 2.693.. 532.27 3. 073.29. 3.07. 2.68. (注)地理的距離から推計した貿易結合度は,経済産業省が世界の貿易データ を基に,貿易結合度を非説明変数,. 2国間の地理的距離を説明変数とする. 際豊潤 回帰分析を行い,その結果を用いて計算したものである。 地理的距離から推計した貿易結合度を上回り,かつ1995年に比べて貿易. は,. 結合度が増加しているものを示す. (出所)経済産業省編(2004)より作成.. 進みつつある.東アジアにおける経済統合は,. に高い成長率である.しかし,中国を除いた年. EUやNAmのような制度的な面での統合に. 平均GDP成長率は5.5%. は至っていないが,それに匹敵するような経済. 国が東アジアの経済成長を下支えしていること. 関係を構築しつつある.したがって,本章でい. がわかる.. う東アジアの経済統合とは,実質的な経済関係. さらに,世界のGDP成長率における寄与率 (2004年)を見ても,中国の存在は大きい.中国. によって,域内の貿易が緊密になっていること. (2004年)であり,中. を指している.. の寄与率は23.6%で,アメリカ(17.4%) ・EU (9.8) ・日本(3.7)を大きく上回っている.この. 第1節. ような統計で見る限り,中国は目覚しい経済成. 東アジアの経済成長. アジア開発銀行(ADB)が2005年8月にまとめ た「アジア経済モニター」によると,東アジア における2004年のGDP成長率は7.6%であり, これはASEAN (6.3%), EU (2.3%),世界 (5.1%)を上回る実績である.また,. 2005・2006. 長を遂げている.しかし,それは主に資本投入 に牽引された高成長である.知識基盤経済が進 展しつつある今日,中国が持続的成長を実現し ていくためには,技術進歩や効率性向上などが 不可欠である.. 年の見通しにおいても,東アジアは6.8%と6.6% の高い水準を示している(表3)27). このような東アジアの経済成長は, 97年のア ジア経済危機以来, 2000年の7.7%に次ぐ2番目. 第2節. 東アジア域内の貿易進展. 東アジアの域内貿易は,域外貿易よりも伸び が高い.域外貿易はほとんど大国によるもので.

(12) 84. 横浜国際社会科学研究. (536). 表5. 第10巻第5号(2006年1月). 地域別貿易補完係数. 東アジア. 62.5. 66.8. 68.0. 4.3. 5.5. EU. 75.0. 80.6. 81.0. 5.6. 6.0. NAFTA. 65.2. 70.1. 71.6. 4.9. 6.4. 62.0. 64.3. 65.8. 2.3. 3.8. 東アジア EU. 82.4-. 81.4. 3.5. 2.5. 68.7. 72,9. 1.4. 5.6. 77.6. 82.5. 83.1. 4.9. 5.5. NAFTA. 78.9 67.3. 東アジア EU. 85.0. 87.6. 89.2. 2.6. 4.2. NAFTA. 81.8. 84.5. 83.4. 2.7. 1.6. (出所)表4と同じ.. あるが,小国の域内貿易も増勢を示している. 貿易の統合は市場が主導したものであり,各国. つ95年と比較して高まっている組合せである. これは, 2国間の貿易結合度が距離的要因ではな く,実質的な経済関係によって,貿易が緊密に. における自主的な改革,国際公約の履行,生産 プロセス移転の動きなどといった複合的な要素. なっていることを意味する.. に起因している.また,域内における競争力向 上に牽引されたものでもある28).. 2.貿易補完係数で見る緊密化 貿易結合度は,輸出全体として2国間関係が緊. 1.貿易結合度で見る緊密化 貿易結合度は, 2国間の貿易の緊密度を表す指. 密かどうかを測るためのものであった.本項で. 標である.すなわち,貿易結合度とは,世界全. 補完的となっているかどうかを貿易補完係数で. 体の貿易量を基準とした時,. 2国間の貿易関係が 基準からどの程度かけ離れているかを示すもの. 見てみる(表5).. で,. 比較対象国の輸入品目構成とどの程度類似して. 1を上回れば2国間の貿易関係は緊密である. とされる29).. 表4のように,すでに1995年時点で東アジア3. は,東アジア各国・地域の輸出入品目の構成が. 貿易補完係数とは,自国の輸出品目構成が, いるかを示す指標である30).この係数が0の場合, 自国の輸出品を比較対象国が受け入れていない. ヵ国・地域間の貿易結合度は,香港を除く全て の国・地域間で1を上回る水準にあり,非常に緊 密であることがわかる.さらに,網掛けが施さ. ことを示し, 100の場合は,自国及び比較対象両 国における貿易品目構成が一致していることを. れている部分は,. 2001年の東アジアにおける貿 易結合度の組合せのうち, 2国間の地理的距離か. 国・地域が輸出する品目と他の国・地域が輸入. ら標準的に推計される貿易結合度を上回り,か. によると,. 示す.貿易補完係数が高ければ,域内のある する品目の一致度が高いことを示す.この係数 2002年における東アジア地域内の貿.

(13) 東アジア経済統合の特徴と知識基盤経済(鄭) 表6 1・. (537). EUと東アジアにおける貿易3分類(全産業). EU域内貿易. (単位‥%). 1996. 34.0. 66.0. 37.5. 28.5. 1997. 35.0. 65.0. 38.9. 26.1. 1998. 33.5. 66.6. 40.0. 26.6. 1999. 33.2. 66.8. 40.6. 26.2. 2000. 34.1. 65.8. 40.0. 25.8. 2・東アジア域内貿易. 1996. 85. (単位:%). 78.7. 21.3. 16.6. 4.7. 1997. 76.1. 23.9. 17.8. 6.1. 1998. 75.0. 25.1. 20.0. 5.1. 1999. 70.3. 29.7. 24.6. 5.1. 2000. 68.7. 31.3. 23.7. 7.6. (注)EU:ベルギー,イタリア,フランス,ドイツ,ギリシャ,スペイン,デンマーク, アイルランド,ルクセンブルク,オランダ,英国,ポルトガル. ASEAN, 東アジア:中国, NIEs3,日本.. (出所)深尾・石戸・伊藤・吉池(2003)より作成.. 易補完度は,既にEUやNAFIAが形成された時. 産業内貿易である.これについては節を改めて. 点31)を上回るレベル(68.0)に達しており,域内. 論ずる.. での相互補完関係が高まっていることを示して いる.. 第3節 東アジアにおける垂直的産業内貿易の進展32). さらに,域内貿易比率が高まっている機械製. 東アジア域内貿易の大きな特徴は,産業内貿. 品と機械部品の貿易補完係数を見てみると,全. 易(多くの国の間に行われている同一品目の双. 貿易財や機械製品で見た場合の貿易補完度は,. 方向貿易)の中でも特に,貿易される財に質の. EUやNAmと比較して低いものの,機械部. 違いが存在する「垂直的」産業内貿易が進展し. 品については,貿易補完度は急速に上昇してお. ていることである.同一品目であっても質の差 異が存在する場合には,要素投入比率が異なる. り,近年ではNAmと同程度に達している. 以上のように本節では,東アジアにおける域. 可能性がある.例えば,日本のような先進国が. 内貿易が緊密化しつつあるということを論じて. 資本集約的な「高級品」を輸出し,途上国から. きた.その緊密化は,経済統合がより進展して. 非熟練労働集約的な「低級品」を輸入する場合. いるEUやNAFTAに匹敵するものであり,と りわけEUと比較した場合,東アジアの域内貿. には,. 易には大きな特徴が見られる.それは,垂直的. 2国における生産要素需要や要素価格にそ れぞれ大きな影響が生じている可能性がある. GATr. ・. WTO体制下での貿易投資自由化は.

(14) 86. (538). 横浜国際社会科学研究. 第10巻第5号(2006年1月). 企業のグローバル化をもたらし,企業のグロー. し,もっとも重要な点は,東アジア諸国・地域間. バル化は先端的な商品の生産技術を途上国にも. における技術格差であると思われる.. たらした.したがって,垂直的産業内貿易の大. 第5章. 半は,グローバル企業による生産活動の国際分 業の一環として行われているものと捉えること. 日本の国際競争力. 今までの分析で「知識」の重要性を一貫して. ができる.このことは,各国間で細かな品質や. 強調してきた.経済統合による各国・地域の緊. 商品属性を反映したきめ細かな取引のネットワ. 密化が進展している中,それによる市場拡大や. ークが形成されているということを意味し,荏 済関係の緊密化を反映している.さらに,貿易. 規模の経済による利益享受などが国や企業にと. 細かな差,例えば知的資産の賦存状況の差を反. って重要であり,それが国際競争力に結びつく. このような域内経済状況の中,日本は高い技術 競争力や高付加価値産業における知識の創造・. 映していると解釈することができる.. 拡散・活用環境が整えられていること等の強み. を行っている国の持つ要素賦存状況のよりきめ. 表6は,経済統合が進んでいるEU域内と東. を最大限に活かし,自国経済の持続的な成長を. アジア域内における域内貿易(産業内貿易を中 心に)を比較したものである.前述のように,. 図っている.. 垂直的産業内貿易は,同じ財に対する輸出と輸 入の平均単価の格差が大きい場合で,品質の差. ルオーバー効果を重視し,その結果生み出され た新製品を,まずは国内に,そして海外に発信. を反映しているため,当事国間で要素購存(労. するといった戦略をとっている.これらの戦略. 働者のスキル,技術)のきめ細かな差があると. は,日本国内での投資意欲を高めており,その. 発生しやすく,水平的産業内貿易は平均単価の. コ′ストを国内のみならず,統合されつつある. 格差が小さく同様の品質で多様な財を供給し合. 国々との緊密な経済関係の中で,利益として回. っている場合で,商品属性を反映しているため, 当事国に共通する晴好の多様性を反映している.. 収しようとする戦略として捉えることができる.. 表6を見ると,. EU域内では,貿易量全体に占め. 市場拡大を大きなビジネス・チャンスと捉え,. る一方向貿易,垂直的産業内貿易,水平的産業. 圧倒的な技術競争力を持って経済統合の利益. 内貿易の割合がほぼ1/3ずつであるのに対して,. (動態的効果)を追求している日本を取り上げ. 東アジア域内では-・方向貿易が7割程度と高い割. る.. 日本は,国内及び企業内での技術開発やスピ. そこで本章では,域内での貿易緊密化による. 合となっている.他方,東アジアにおいては, 産業内貿易のうちでは垂直的産業内貿易の割合 が3/4程度に達しており,近年そのシェアが拡大 傾向にある. その原因としては,東アジアの域内貿易に対す. 第1節. 日本の知的資産水準33). 今まで論じてきたように,企業の価値創造に つながる機能を決定づけるのは,有形資産の大 小ではなく,人的資本・組織資本等の多様な知. る様々な障壁がEUより非常に高く,それらの. 的資産である.企業がどのような機能をどの. 障壁が東アジアにおける産業内貿易の度合いを低. 国・地域に立地させるかは,その国・地域の. 下させたという点が挙げられる.そして,東アジ. 「知的資産」のレベルと関連があり,また一種の. ア諸国・地域間における大きな所得格差が,労働. 集積効果が働く(知的資産レベルの高い地域に. コストその他の要素価格の差異として垂直的貿易 を増大させたという点,同時にこの格差が産業構. イノベーション機能が立地されて,さらに知的. 造及び選好の違いに反映され,水平的産業内貿易 を低減させたという点などが指摘される.しか. 資産レベルが高まる)こともある.そこで本節 では,日本と他地域との間の知的財産水準の比 較を行う..

(15) 東アジア経済統合の特徴と知識基盤経済(鄭). まず,熟練集約度.これは,一国全体の労働. (539). 87. めに指針を策定した.. 者の付加価値を,専門知識を必要とする職種と. 2004年1月に策定された 「知的財産情報開示指針」は,知財経皆の有無,. 生産活動に従事する職種とに分けた比率で,描. すなわち事業戦略,研究開発戦略及び知的財産. 数が高いほど一国全体の頭脳労働者の割合が高. 戦略が三位一体となって構築・実施されるかど. いことを意味し,国・地域別の人的資本のレベ. うか,を開示するように行政指導を行っている.. ルを評価する上で第1次接近として利用すること ができる.これを地域別に見ると,アメリカが. このような経済産業省のガイドラインに従い, 各企業が「知的財産報告書」 (知的財産の現状・. 最も高く,EU,日本,東アジア(日本を除く). 有効に活用する知財戦略,関連研究開発戦略・. の順となっている34). 次に,国・地域別知的資産暫定評価指数.こ. 事業戦略を明確にしたもの)を作成し始めてい. れは,国・地域別の知的資産レベルを暫定的に. 次に,知的財産立国.国富の源泉としての. る35).. 1人当たり売上高及び有形 固定資産回転率の積を偏差値化して国・地域別. 「知的財産」の重要性についての急速な広まり. に集計したものである.ある企業の売上高が当. 日本政府は,これまで知的財産をめぐる各種の. 該企業の使用した資本と労働という2つの投入量. 課題について様々な会議において検討を行って. から平均的に得られる売上高を上回っていれば,. きている.. 評価する指標として,. と,知的財産政策への関心の高揚を背景として,. その差分は当該企業の有する知的資産の貢献に. 2002年2月に,国家としての知的財産 戦略を早急に樹立し,産業の国際競争力の強化,. よってもたらされるという考え方に基づいてい. 経済の活性化を促進するため,. る.これを1999年と2002年について見ると,ア. 議」が設置された36).そして2003年3月には「知. メリカ・EU・日本の間ではほとんど差がなく,. 的財産戦略本部」がスタートし,. 同レベルを示している.. 「知的財産戦略会. 7月には「知的 財産の創造,保護および活用に関する推進計画」. このように,熟練集約度や知的資産暫定評価 指数を見る限りにおいては,日本はアメリカ・. 財産を重視するプロパテント国家へ向け舵を切. EUとともに高水準にあって,かつ現状におい. ったことを示すものである.. が発表された.このような政策は,日本が知的. ては東アジアの中では相対的にかなり高い水準 にあることがわかる.. 第3節. 国内と海外との機能分業体制構築37). 日本企業は東アジアを中心に最適地生産を進 第2節. 知財経営と知的財産立国. 現在,日本政府や企業は,知的財産を重視し. める一方で,国内産業の空洞化に対しては,逮 択と集中などの経営改革,新製品の開発,セル. た戦略を推進している.それは, 「知財経営」と 「知的財産立国」戦略に代表される.本節では,. 方式など多品種少量生産方式の改善,サプライ. この両戦略を概観する.. 製品開発期間や納期の短縮,コスト削減,高付. まず,知財経営.知的財産の創造・保護・活. チェーン・マネジメント(SCM)の導入による 加価値な基幹部品である半導体産業の国内生産. 用のためには,知的財産を積極的に活用する経. 強化などにより,日本国内での開発・生産体制. 営戦略を有する企業,すなわち知財経営を実践. の再構築を進め,日本発の新製品を生み出して. する企業が市場において適正に評価されつつ持. いる.. 続的な成長を実現し得る環境整備が重要である.. このような中で,国内に生産拠点を移す(国 内復帰)企業も多くみられている.それは日本. このような認識から経済産業省は,知的財産を 各企業の競争力の源泉として経営戦略の中に位 置づけ,その戦略的な取得・管理を促進するた. で開発した高付加価値製品,難易度の高い製品 は,当初は日本からの輸出を中心にして世界市.

(16) 88. 横浜国際社会科学研究. (540). 第10巻第5号(2006年1月). (出所)経済産業省編(2004).. 図4. 日系企業における日本と中国の機能分業体制のイメージ. 場に供給,次に世界市場シェアを一層獲得する. 自社のもっとも重要な市場の範囲は国際として. には,東アジアに生産拠点を構えて量産するこ. いる.研究開発については,イノベーション実 現企業の68%が日本に拠点を有している.そし. とになる.特に,デジタル家電製品分野におけ る日本と東アジアの分業では,開発のみならず 生産拠点としての日本の位置づけを重視した新. て商品の生産拠点については,イノベーション 実現企業の90%が日本に拠点を有している39).さ. たな体制が構築されつつある.. らに,東アジアにおけるビジネス・チャンスが. 例えば,日系企業の中国での事業展開におけ. 拡大している中,日本企業による日本国内での. る具体的な機能分業体制が挙げられる(図4).. 投資,すなわち持続的な競争力を維持・強化す. 中国に進出した日系企業は,高付加価値部品の. るための投資も積極化している40).. 生産機能や,商品企画・研究開発・システム設 計などのイノベーション機能を,国内において 引き続き維持・強化するとともに,国内で創り. 第4節. 擦り合わせの連頚41). 日本の産業では,機能と構造の関係が複雑な. 出された技術やシステム等の付加価値を中国で. 擦り合わせ型の製品ほど輸出率が高い.その背. 具体的に活用・実現させるために,製造・販売. 景には,高付加価値分野における日本の強みが. 拠点という形で積極的に中国での事業展開を図 っている.このような機能分業体制の構築は, 自社の技術が他社に漏れるのを防ぐためである.. ある.例えば,デジタル家電における日本の強 みは,. ①分厚い最終製品市場を抱えること,. 中核機能である設計機能が日本国内で完結して ③先端的な部品基盤が強固なこと,. また,企業による研究開発投資は,技術知識ス. いること,. トックとして企業内に蓄積され,当該企業の中. ④セル生産方式など生産技術を改善する企業努. 長期的な生産性を高めていく原動力となるから. 力,などがある.. である.. このような傾向は,文部科学省の調査(2004) をみても明らかである.それによると,イノベ. さらに,デジタル家電は市場・競争環境の変 化が激しいため,市場の近くで設計・生産でき ることが重要である.その意味で国内に大きな 市場を抱える日本は優位である.また商品の競. ーション実現企業38)の620/oは,自社のもっとも 重要な市場の範囲は「日本全国」であるとして. 争力を決定付ける設計を,関連部材メーカーと. おり,また7%は,外国を含む「国際」であると. の擦り合わせを行いつつ,国内で行えることも. している.そして企業規模が大きくなるにつれ. 日本の強みである.また,日本には世界的にみ. て,国際とする企業の割合が多くなる傾向があ. ても希有な「高度部材産業集積」があり,モノ. り,イノベーション実現大規模企業の24%は,. づくりに不可欠な要素技術のネットワーク化を. ②.

(17) 東アジア経済統合の特徴と知識基盤経済(鄭). (541). 通じた現場レベルでの迅速かつ高度な擦り合わ. ASEAN+3などの東アジア域内の地域協力や,. せが可能となっている.こうした探り合わせを. APECなどの東アジアを包含する広域的な地域 協力,さらには,より機動的な取組みが可能な. 可能とする要素技術のネットワークが中国など 他のアジア諸国に乏しいこともあり,単なるコ スト競争と-綬を画する戦略をとる企業では, 生産拠点を日本に回帰させる傾向もみられる (製造工程で用いられる製造装置,電子材料にお いては,日本企業がその大部分を供給している). このような高度部品・材料産業集積のメリッ トは,川下(最終製品). -川中(部品・材料). -川上(原材料・素材)の各段階で,関係企業 が,要素技術や設計ノウハウ,生産管理ノウハ. 89. 2国間の取組みをそれぞれの特性を生かす形で組 み合わせて活用することにより,東アジアビジ ネス圏の実現に向けて,より効果的な取組みを 進めている42). 日本企業は,従来から国内での事業活動を重 視してきた,日本企業は,海外市場にも受け入 れられる製品を本国で集中的に開発,部品調 達・生産を行い,研究開発費を世界全体での売 上によって分散させ(つまり1製品当たりの研究. ウなどを持ち寄って開発や生産の現場で極めて 濃密かつ迅速に擦り合わせを行うことができる. 開発費を低下させる),部品の調達においては系. ことである.イノベーションは,異分野の技 術・人材の融合と濃密な擦り合わせとによって,. (Just in time)方式の採用による部品在庫の圧. 柿,生産においては「規模の経済」及び「範囲. 単独の企業や研究者の従来の発想や技術を超え. の経済」を用いた国内・海外向けの製品のバラ. たところで創出されることが多い.日本の高度 部品・材料産業の集積は,イノベーションを創. エティー化を,低コストで実現するシステムを 構築した.これらが70年代後半から80年代に日. 出し,それをスピーディに商品化することを可. 本企業が有した国際競争力の源泉であった43).. 能にしている.. 列ないし下請け等の協力会社を中心にしたJIT. このような日本企業の国際競争力は,東アジ アの経済統合が進展している今日でも活かされ. いかなる要素技術の組合せでイノベーション が起こるかを予め想定することは困難である.. ている.例えば,日本はより多くの国と,例外. 多種多様な要素技術を蓄えた高度な部品・材料. 品目や数量制限のないmを結ぶことで,日. 産業群の分厚い集積があってはじめて「擦り合. 本の競争力のある製品の輸出を増やし,日本に. わせの連鎖」が実現できる.今後とも日本は,. おける本社機能や高付加価値製造工程の維持に. この擦り合わせの連鋳を最大の強みとし,日本. 成功し,国内で高賃金の雇用機会を維持しよう. 企業に新たな市場への高い対応力の維持を図っ. としている44).そして,知識基盤経済化しつつ. ていくものと思われる.. ある韓国および中国からの激しいキャッチ・ア. 第5節. ップに直面しているため,自国の優れた技術力 を活かしてグローバル・イノベーションを持続. 経済統合と日本. 日本は,東アジアにおける経済連携の制度化 を進めていく上で,. WTOにおける取組みやア. していくために,経済的補完関係にある国・地 域とのm等を積極的に推進している.その. ジア太平洋経済協力閣僚会議(APEC)のような. 背景には,前述のとおり,東アジア地域には垂. 地域レベルでの取組み,. 2国間の取組みなども戦 略的に活用し,より円滑に東アジアビジネス圏. 直的産業内貿易が進展しており,知識が国際競. を実現していこうとしている.すなわち,東ア. がって日本政府は,中国・ASEANに対して経. ジアにおける経済連携を制度化していくに当た. 済開放を求めていくとともに,協力できる分野. って,グローバルな共通の土俵作りをするWTO, 地域的な制度化の一層の展開を促進する. では強い協力関係を築いていこうとしている.. 争力強化のカギとなっているからである.した. そして,日本と中国・ASEANとの補完関係を.

(18) 90. (542). 横浜国際社会科学研究. 第10巻第5号(2006年1月). 活かすために,日本における本社機能,高付加価. 中国の知識基盤産業を取り上げ比較分析する必. 値塵業,高付加価値プロセスの維持・強化を図っ. 要があろう.. ている45).実際,内閣府のアンケート調査(2005) によると,日本企業が国際的に事業展開する上 注. での自社の強みとして「現地の顧客のニーズに あった製品及びサービスの提供」 術力の高さ」. (48%)と「技. (35.3%)を挙げている.そして,. FTAや経済連携協定(EPA)の推進が事業活動 に与える影響は「メリットがある」とする意見 (49.1%)が大半を占めている.また, FTAや EPAの相手国・地域については,中国 (47.9%)やASEAN (63.6%)を挙げている. 終わりに 東アジアにおける経済統合は,. EUのような. 制度的統合はさほど進展していないが,域内 国・地域間の実質的な経済関係によって域内貿. 1)本稿での東アジアとは次のとおりである.統 計上の分析においては, ASEAN+3を指すが, 「知識」関連の内容においては,特に断らない 限り日本・韓国・中国を指す.なお, ASEAN (東南アジア諸国連合)とは,タイ・フィリピ ン・インドネシア・マレーシア・シンガポー. ル・ブルネイ・ベトナム・ラオス・ミャン与 -・カンボジアの10ヵ国を指す.そのうち前4 カ国(タイ・フィリピン・インドネシア・マレ ーシア)をASEAN4と表記する.そして, とは,日本・韓国・中国の3カ国を指す.そし て, NIEsは韓B]・台湾・香港・シンガポール NIEs3は,その の4ヵ国・地域を指す.なお, うち台湾を除く3ヵ国・地域を指す. (1961) pp.2-3. 2) Balassa Baldwin (1997) pp.867-869. 3) 4)アジアクラブ編(2003),第3章. 5)木村福成(2004) pp.14-15. (1996) pp.95-96. 6) UNCTAD 7)宮下回生(2004) pp.32-33. 8) 3点の禁止条項とは,第1が外資系企業に現地 生産品の購入・使用を要求すること,第2が外 資系企業に輸出と輸入のバランスをとることを 要求すること,第3が外資系企業の獲得外貨を 規制し,為替制限によって輸入を制限すること,. +3. ,. ,. 易が緊密化しているという特徴を持っている. その特徴は,域内各国・地域間における知的資 産の賦存状況の差を反映している.その格差が. ,. ,. ,. 垂直的産業内貿易の進展を促進し,技術力が自 国の国際競争力を高めるカギとなっている. このような中で,各国・企業が経済統合の利 益を享受するためには,自国の技術知識及び域 内国・地域の知識をいかに用いるかが重要とな ってくる.その点からみて,日本は良い例であ る.日本は,知識基盤経済の特性を活かすとと もにFTA等を用いた市場拡大効果を享受すべ く積極的に取り組んでいる.それは,自国の優. 2005, の3点である(萩原伸次郎, p.188). 9)同上, pp.187-188. 10)経済産業省編(2000) ,第2章第1節. ll)同上, p.123. 12)同上, p.162. Balassa,op.cit., PartI. 13) Balassa, Ibid., PartI. (1989) pp.260-263. 14) Baldwin Grossman 15) (1991) p.16. and Helpman 16)詳細は,拙稿(2005年8月)を参照. 17)売上純利益率には,貿易障壁・その他の障壁 が含まれる.資源とは,財1単位当たりの支出 額である. Helpman, 18) Grossman and op.cit., pp.15-16. Jones (2002) p.79. (1993)は, 「知識が資本と労働をさ 19) Drucker しおいて最大の生産要素となり,ポスト資本主 義社会へと導いた」と知識を強調している.そ ,. れた技術力及びその創造・拡散・活用を支える 環境などが備わった国・企業は,グローバル・ イノベーションを実現することによって市場拡 大効果・規模の経済を最大限に追求し,国際競 争力強化に結びつけることが可能となるからで ある.. 本稿では,知識基盤経済下における経済統合 の動態的効果を中心に見てきたが,理論的な説 明にとどまっていることを否めない.今後,垂 直的産業内貿易と知識の関係をより明確にし, その上で東アジア各国,とりわけ日本・韓国・. ,. ,. してDunningも, 90年代以降の資本主義は知 識基盤経済であると称しており,富の創造の主 要源泉は,無形資産(自社のコアtコンビタン ス,他社の知識を利用・学習する能力等)であ.

(19) (543). 東アジア経済統合の特徴と知識基盤経済(鄭) OECD, るとしている(Dunning,2000. 1997). 20)詳細は,拙稿(前掲)を参照. 21)茂垣広志(2001),第1章第3節. 22)同上. 23)経済産業省編(2005) ,第3章第1節. Saviotti andWalsh (1987) p.160. 24) coombs, ,. Grossman. Helpman,. op.cit., Chapter9.. and 25) 26)経済産業省編(2004) ,第3章. 27)表3の中で,東アジアおよび中国の世界経済 成長への寄与率と日本のGDP成長率は,ジェ トロ(2005)の統計である.それ以外の統計は. 91. 場に導入されること,プロセス・イノベーショ ンについては,新しいあるいはかなり改善され たプロセスが市場に導入されることとしてい る.. 39)同上, pp.19-20. 40)日本政策投資銀行(2005) pp.1-35. 41)経済産業省(2004a) pp.4-18. 42)経済産業省編(2003) pp.194-201. 43)茂垣,前掲, p.150. 44)経済財政諮問会議グローバル化ワーキング・ グループ(2005) pp.14-15. 45)同上, p.20. ,. ,. ,. ,. ADBによるものである.. (2003) OveⅣiew. 28) WorldBank 29)貿易結合度は,以下の式によって計算される. 貿易結合度(輸出ベース) i固からj国への輸出額/i国の総輸出額 世界からj国への輸出額/世界の総輸出額 ,. 参考文献. -. 30)貿易補完係数は,以下の式によって計算され る.. ( lmik-Ⅹlj i ÷2) 貿易補完係数-100-∑ mik: k国のi品目の輸入シェア Ⅹlj: j国におけるi品目の輸出シェア EUの前身 31)経済産業省編(2004)によると, であるEEC設立当時(1958)の貿易補完係数 は53,4であった.そして, NAmの設立当時 (1994)の貿易補完係数は56,3である. 32)深尾京司・石戸光・伊藤恵子・吉池善政 (2003) pp.21-64. 33)経済産業省編(2004) pp.174-176. GlobalTrade 34)経済産業省が用いたデータは, Version 5 Data Base」 Analysis Projectの「GTAP であるが,このデータに収録されている熟練集 約度については1997年時点とやや古いデータで ,. ,. ある.. 35)その例としては,旭化成の「知的財産報告書」, 三菱電機や富士通の「アニュアルレポート」が ある.その内容から,各企業が知的資産を重要 な経営資源かつ競争優位の源泉であると捉えて いることがわかる.. 36)経済産業省編(2004) p.147. 37)同上, pp.164-171.ジェトロ(2004),. 日本語 旭化成株式会社(2005). 『知的財産報告書』. 『多角的視点からみるア アジアクラブ編(2003) ジアの経済統合-アジアFTAの新潮流と日本の 行方-』文異堂. 木村福成(2004) 「知的財産権保護に関する国際 的政策規律-発展途上国への含意-」アジア経 12号. 済研究所『アジア経済』 2004年11 経済産業省(2004a) 『新産業創造戦略』. 経済産業省(2004b) 『知的財産情報開示指針-特 許・技術情報の任意開示による企業と市場の相 互理解に向けて-』. 経済産業省編(2000) 『通商自書-グローバル経 済と日本の針路-』大蔵省印刷局. 『通商自喜-21世紀におけ 経済産業省編(2001) る対外経済政策の挑戦-』ぎょうせい. 経済産業省編(2003) 『通商自書一海外のダイナ ミズムの取り組みを通じた日本経済の再活性化 I. -』経済産業調査会. 『通商自書- 「新たな価値 経済産業省編(2004) 創造経済」へ向けて一』経済産業調査会. 経済産業省編(2005) 『通商白書一我が国と東ア ジアの新次元の経済的繁栄に向けて-』ぎょう せい.. ,. pp.52-. 77.. 38)文部科学省科学技術政策研究所がまとめた報 告書(2004)に用いられている「イノベーショ 1999 ン実現企業」とは次のような企業を指す. 年から2001年にかけて,新しいまたはかなりの 改善されたプロダクトを市場に導入したか,ま たは新しいあるいはかなり改善されたプロセス を自社内に導入したか,プロダクト・イノベー ションとプロセス・イノベーションの両方を行. った企業である.イノベーションが実現したと は,プロダクト・イノベーションについては,. 新しいまたはかなり改善されたプロダクトが市. 経済財政諮問会議グローバル化ワーキング・グル 『グローバル化ワーキング・グル ープ(2005) ープ報告書一壁のない,存在感のある日本へ -』. ジェトロ編(2004) 『貿易投資自書一束アジア自 由ビジネス圏の形成と日本企業の新たな飛躍 -』ジェトロ. ジェトロ編(2005) 『ジェトロ貿易投資自書一束 アジア自由ビジネス圏の進展と日本企業の成長 戦略-』ジェトロ. 「企業のグローバル化と知識基盤 鄭君恩(2005) 経済の進展-リージョナル競争優位性の構築は なぜ重要なのか-」横浜国立大学国際社会科学.

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