不規則合金の格子振動
―短距離秩序度の効果の計算機実験による研究―
(昭和49年8月31日受理)
Lattice Vibrations of Random Alloys
高橋市郎
高橋健
-Investigation of the Effect of Short-Range Order by Computer
Experiments-IchiroTAKAHASHI TakeshiTAKAHASHI Abstract Using negative factor counting method proposed by Dean, which is rederived by adifferent method in this paper, the density of states for vibrations in one−dimensional random lattice with short−range order of atoms is calculated. Peaky structure found in the density of states changes systematically accordillg to the short−raIlge order of atoms but the positions of peaks do Ilot change. (
1.序
論 合金の格子振動の理論は,Taylor1)やSoven2)の 提案したcoherent potential近似(CPA)により,非 常に進歩した3)。CPAは一格子点近似であり,環境 効果や,クラスター効果や,短距離秩序度の効果を調 べることができない。これらの効果を調べるために, CPAを改良した種々の近似が提案されている4)∼8)。 一方,一次元格子振動模型に関してクラスター効果 が重要であることは,Dean9)により以前指摘された。 彼はNegative Factor Counting Method(NFCM) を用い,上記の模型について,原子配位が完全に無秩 序の場合に状態密度を求め,その状態密度にpeaky structureが現れること,この構造は局所的な原子配 位によることを示した。また同じ模型について, phase theoryによる理論的研究も堀や松田らにより 行われている10)。 NFCMは,一種の計算機実験であり,乱数を用い て与えられた原子濃度を持つ原子配位を決め,この配 位について格子振動の状態密度を正確に求める方法で ある。 われわれはこの方法を短距離秩序度(SRO)の在る 場合に適用して,合金の一次元格子振動の状態密度の 原子濃度や原子の短距離秩序度による効果を調べる。 そして近似理論で得られる結果とこの計算機実験の結 果を比較するための資料を用意する事を目的とする。第2節でNFCMの新しい導出を与える。第3節で
用いるSROパラメーターと状態密度の計算方法を説 明する。計算結果および議論を第4飾に与える。 2, Negative Factor Counting Method N個の原子から成る一次元格子振動の運動方程式は [Mηω2−2γコUn十γUn+1十γUn_i==O (1) (π=1∼N,Uo=UN+、=O), である。ここでMnは格子点πの原子の質量で,確 率変数である。またωは角振動数,γは最近接原子間 の力定数,Unは格子点πの原子の変位である。変数 Un(n=1・vN)の連立方程式(1)の係数でできる行列式 を零とおいたω2のN次多項式の根鋤(カ=1∼N)が 格子振動の固有振動である。 状態密度D(ω2)は次式で与えられる。 D(の一揚δ(ω・一ω6)一一±露縛mE㎡+iδ一tU多コーi (・)
積分状糎N((v2)一㌦醐は(・)を用いてる魎果はDean9)により異揃法で得られてい
次のように表される。 N((・2)一認禦ml砿(ω・+‘δ一ω多) 一±え撫・ml・D・・1(ω・+i・)∬−Hl,(・) ここで,∬はN×」Vの単位行列であり,丑もN×Nの 行列でその行列要素はHnm=γ[M。Mmコー1/2[一δnm+、 +2δnm一㌦仇.、コで与えられる。(3)式はHの形に注目 して次のように変形できる。まず,N×Nの行列 A≡(ω2+iδ)∬−Hは次のように書き換えれる。 A≡(:ll::::)一(二ll:9)・(;,鴛1鋼2)・ (・)
ここでA,、,A、2, A21およびA2,はそれぞれ1×1, 1×(N−1),(N−1)×1および(N−1)×(N−1)の 行列である。したがって DetlA1=An・Detレ4(N−1)1, (5) と変形できる。ここでA(N”1)≡A22−A2、 A、、−1 A12 は(N−1)×(N−1)の行列である。A、, A1、−1A、2は Hの形から(1,1)要素のみ零でない。したがって A(N”1)はA22と(1,1)要素のみ異なる値A22≡A22 −H21All−IH12をもつ。 A(N−1)について(4)および(5) と同様な関係を用いるとN
DetlA1=Al1・A22・DetlA(N−2)1, となる。A(N’2)は(N−2)×(N−2)の行列である。 この手続きを繰り返し用いればN N
DetlA1== ll Ann, (6) %=1 と表せる。ここで会≡篇一輪、互_古.試己一N),}
(7) (3)へ(6)を代入すれば積分状態密度は N(ω・)一誌・m蕊1・互一一還θ(一?¥nn)・ (・)
と表される。ここでθ(x)はx>0なら1,x<1な ら0の階段関数である。(8)の第2番目の等式は次のよ うにして証明される。δ→0+のときもしImA脇が正 で零に近づくなら,(7)の関係からImAn+1。+、は正 で零に近づくことがわかる。またlmAiiは正で零に 近づく。したがってすべてのπについてImA。nは正 で零に近づくから(8)の等式が成立する。 すなわち負のA。nの個数を求めればN(ω2)が求ま り,それを微分することによりD(ω2)が求まる。 3.短距離秩序度のパラメーターおよび状態密度 の計算方法 簡単のため,AとBの2種の原子から成る二元合金 を取り扱い,AおよびB原子の濃度をそれぞれ認およ びy=1一エとする。最近接格子点にAB対が見出される確率をxsYとする。したがってAAおよびBB
対の見出される確率はそれぞれx(1−sy)および or (1−sx)となる。ここでsはSROパラメー一一・Lター で,s=1のとき系は完全に無秩序であり, s>1ある いはs<1のとき系は最近接格子点に異種原子あるい は同種原子が来易くなる。定義から O≦sf{9Min(1/x,1/y)である。 与えられた濃度およびSROをもつ原子配位は乱数 を用いて次のように作られる。o≦P,<1なる一様乱 数を発生させ,P、〈xならA原子をP、≧エならB原 子を一番目の格子点に置く。次にOS{P2<1なる一様 乱数を発生させる。一番目の格子点がA原子のとき, p2<syならB原子を, P22),yならA原子を二番目 の格子点に置く。もし一番目の格子点がB原子のと き,P2<sxならA原子を, P,2)sxならB原子を二 番目の格子点に置く。以下同じ手続きを繰り返して各 格子点の原子を決める。 全てのN個の格子点の原子が決ったら,あるω2に ついて(7)を用いて順次A。nを計算し,負であるものの 数からN(ω2)を求める。状態密度はD(ω2)=[N(ω2) −N(ω2−4ω2)コ/4ω2の関係から求める。 4.計算結果および議論 質量比をM./M,・=1/3,格子点の数をN=24,000 とした場合について計算を行った。また4ω2/ω2A(ωン ≡4γ/MDはO.02とした。乱数はその一様性等を検 定したものを用いた。 A原子の濃度がx・=O.9,0.5および0.1の場合に 得られた計算結果をそれぞれ図一1,2および3に示 す。用いられたSROパラメーターsは各図の中に示 されている。 AまたはB原子のみから成る系の状態密度は,良く 知られているよらに,ω2/(v2A=0∼1または0∼3の 間にU型で与えられる。図一1,2および3の(1)は5が 小さい場合で同種原子が最近接格子点に来易く,その 結果できたクラスターの振動による状態密度はAまた はB原子のみによるものと良く似ている。sを増すと 、0.8 0.6 ㌻ さo.4 0.2 0 0.8 O.6 ㌻ 零 o.4 る 0.2 0 0.8 1 ω2^ω7 2 (1) s=0.01 3 1 (3) s=0.6 ー 1 / 1 0.6 零 o・4 }1{ 0.2 1 ω2^tO,t2 2 3 (5) 刀≠P.1 0 0.8 0.6 ぎ T o.4 }ES O.2 O O.8 0.6 s< 零,.4 二 〇.2 0 0.8 0.6 零o.4
5
0.2 1 ω2^ω7 2 (2) s=0.2 3 i (4) 刀≠P 1 ω2/ωβ 2 3 (6) s=1.11 1 2 3 0 1 2 ω2/ω42 ω2/ω『 図一1x=O.9の場合に計算で得られた状態密度。用いられたSROパラメーター5は各 図に示されている。 3 /0.8 0.6 ぎ 零 o.4 tS O.2 0 0.8 0.6 ㌻ ぎo.4 tS 0.2 0 0.8 0.6 ㌻ 亙α4 0.2 1 ω2^ωβ 2 (1) s= O.Ol 3 (3) 3=0.6 1 2 ω2/呼 ii 馴 3 (5) 刀≠P.6 0.8 0.6 ∨ 零α4
5
0.2 0 『 (2) 刀≠O.2 0.8 O.6 ぎ ’S o.4 11{ 0.2 0 0.8 0.6 ㌻ 3α4 O.2 1 ω2^ωξ 2 3 (4) s二1 .| 1一剖
@ /‖
i ㎡1
1 2 ω2/ω7 3L (6) s=1.98 0 1 2 3 0 1 2ω2/ω7 ω・/ω?
図一2 x=O.5の場合に計算で得られた状態密度。用いられたSROパラメーターsは各 図に示されている。 30.8 0.6 もく 零 o.4
6
0.2 0 0.8 0.6 ㌻ 零α4 ES 0.2一 0 0.8 (1) s=0.01 | F 1 ω2^ω? 2 3 O.8 0.6 ㌻ ES o.45
0.2 (2) s−0.2\
0 0.8 1 ω2^ω』 2 3 (3) s=0.6 1 ω2^c・.? 2↓
3 0.6 べ 零 50・4 0.2 (4) 3=1岬/
0.6 ∨ ひ 30.4 0.2 (5) s=1.1‖
ti 0 0 0.8 0.6 TO・4 言 0.2 1 ω2^ωf 2 (6) s=1.11 3}
1 2 3 0 1 2ω2/ω了 ω・/ω?
図一3x=0.1の場合に計算で得られた状態密度。用いられたSROパラメーターsは各 図に示されている。 3. ♂peaky structureが現れる。 ピークの高さはsと共 に増大する。状態密度が零である領域もSと共に増 す。またその領域はB原子の濃度が大きいほど現れに くい。ピークの形は濃度や5と共に著しく変化するが, その現れる位置はこれらによらず一定である.このこ とは状態密度のピークを与える振動は局所的な原子の 配位のみによること9),そして濃度やSはその配位の 見出される確率のみに関与することを考え合わせると 理解できる。 図で,s=・1は完全に無秩序の場合の結果であり, Deal19)により調べられた場合に対応する。図一2は等 しい濃度の場合である。s>1の場合,すなわち異種 原子が近接格子点に来易くなる場合の結果には,規則 二元合金の音響的振動と光学的振動に対応する状態密 度が現れている。特に図一2−(6)では上記2種の振動と 不純物準位との区別が顕著である。 謝 辞 有益な議論をしていただきました,林英輔助教授, 安井勝講師に感謝致します。資料の整理,原稿の清書 等をして下さった秋山輝子嬢にお礼を申します。 文 献 1)D.W. Taylor:Phys・Rev・156(1967)1017・ 2) P.Soven:Phys・Rev・156(1967)809・ 3) B.Velicky, S. Kirkpatrick and H・Ehrenreich: Phys. Rev.175(1968)747. 4) F.Cyrot−Lackmann and F・Ducastelle:Phys・ Rev. Letters 27(1971)429. 5) B.G. Nickel and J・A・Krumhansl:Phys・Rev・ B4(1971)4354. 6)J.A. Blackman, D. M. Esterling and N・F・Berk: Phys. Rev. B4(1971)2412. 7)M.Tsukada:J. Phys. Soc・Japan 26(1969)684; 32 (1972) 1475. 8)LTakahashi and M・Shimizu:Prog・Theor・Phys・ 51 (1974) 1678. g) P.IDean:Proc. Roy. Soc. 254(1960)507;260 (1961) 263. 10)例えばJ.Hori:Spectral Properties of Disordered Chains and Lattices(Pergamon Press, Oxford, 1968).