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入学期における留学生の人間関係 : 事例からの一考察 利用統計を見る

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入学期における留学生の人間関係

-事例からの一考察-

伊 藤 孝 惠 要  旨  新入学生が新しい環境に適応していく上で友人の存在は大きく関わると考えら れるが、友人は人的サポート源となりうると同時に、相手との関係性や距離感次 第では、自己や他者を傷つけたり、孤立感を招いたりしかねない存在でもある。 外国からの留学生の場合、日本文化への適応も求められるため、日本人学生以上 に大学生活に馴染んでいくのに苦労すると思われる。本稿では、新入留学生の事 例を通して、留学生が日本人学生との間に言葉や年齢の壁を感じながらも、友人 を求めて人間関係を開拓していく力強さを汲み取ることができた。 キーワード : 留学生、入学期、青年期、人間関係、KJ 法 1. 研究背景と目的  青年期とは、親への心理的、経済的依存状態から抜け、肯定的な自己イメージをもつように なるための準備期間、より大きな完成形へ向かうための不安と動揺の時期ともいわれる(苫米 地,2000)。人は発達過程において、多くの他者と出会い、その関わりを通じて、他者と異なる 自分、個としての自分を知るとともに、自分のことは誰にも分からないという気持ちと、誰か に分かってほしいという気持ちとの葛藤を体験するともいわれている(吉岡・高橋,2010)。己 の独自性と社会の一員としての関係性との間で、様々なジレンマや葛藤が生じやすくなるの が、青年期の特徴であろう。青年期において、社会の中で自分は何者でどう生きていくかとい う問いは避けては通れない課題であり、自己と向き合うとともに、自分が他者にどのように映 り、自分の言動によって他者がどう反応するのかを過度に意識し、悩む発達段階にあるといえ る。吉岡(2007)は、理想としては『自分自身であること』を追求しながらも、現実は、他者 に受け入れられるために『適切な役割を演じること』の比重が大きくなり、葛藤が起こってい ると考えられるという。青年にとって友人は、より関係を深めたいと願う重要な他者であるが ゆえに、友人の前での自己の在りかたについて悩みが生じ、また孤立を恐れ良好な関係を維持 しようと思うがあまり友人に自分を合わせてしまう現状があるとも、吉岡は述べている。  青年期後期にあたる大学生にとって、友人の存在は自己を認め、確立していく上で重要な役 割を果たし、生活をより豊潤なものへと拡げ、困難な時には支えてくれる人的サポート源とな りうる。と同時に、相手との関係性、距離感次第では、自己や他者を傷つけたり、孤立感を招 いたりするばかりか、自己の存在意義すら揺るがしかねない両刃の剣である。  高校までは、決められた教室の決められた席で、各科目の先生がそれぞれ自分たちの教室に 来てくれるのをただ座って待っていればよく、限られた空間の中で少なくとも一年間は固定的 なクラスメイトとの関係が確保されていた。それが、大学に入学するや、「本人の意思」「自由 選択」という名の下、自分で選択・登録した時間割に従って、教室を移動し、授業ごとに受け

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る席も人も異なる環境の中に、自分のいる場所を自分の力で見つけていかねばならないように なる。自ら名乗り、次に会う約束なり手応えなりを取り付けつつ、今後の関係構築へとつなげ ていく努力を続けていかなければならない。若山(2010)は、新入生にとって、新しい環境に 適応することがなによりの緊急の課題であり、大学の中になんとか当面の居場所を確保したと しても、その新しい場ですぐに自分らしくいられるとは限らず、本当にこの大学に入ってよかっ たかと自問し、なかには深刻な不適応状態に陥る学生も出てくると述べている。今井(2010) も入学期の誰もが、毎時間違う受講者の中で友人を見つけなければならない緊張の連続の中で 生活していると述べ、そのため発達段階から見ても、親・家族から距離をとって自立し、友人 や異性と安定した関わりを維持することが、大学生の時期の対人関係上の課題となり、友人関 係で躓けば学生生活に大きな影響を与えることになるだろうという。新入生にとって、まずは 大学に安定した自分の居場所を確保してようやく、自分の現実に目を向けられるようになり、 学業や課外活動、将来の目標や進路等に向けて取り組み始める態勢がとれるというものである。 従って、友人作り・友人関係は、今後の学業をはじめとした大学生活をスムースにスタートさ せるための土台ともいえ、翻せばこれがうまくいかないというのは、学業や大学生活上の問題 へと発展しかねないこととして看過してはならないであろう。  国の違いという異文化を跨いで来日した外国人留学生の場合、大学入学期の新しい環境にお ける戸惑いは如何ばかりのものであろうか。  新入生ではないが、大橋(2008)が留学生のニーズの重要度と満足度を調査した結果による と、学部留学生において、41 項目のニーズのうち、学費や生活費が十分であることなどを抑 えてもっとも重要度が高かったのは、「日本人の友人がいること」であった。ほかにも「日本 人のものの見方、考え方を理解すること」(重要度7位)、「日本の風俗、習慣を理解すること」 (重要度8位)、「日本文化、日本人社会を理解する機会をもつこと」(重要度9位)とあるように、 留学生にとって日本人の友人の存在や、日本人との関わり・理解といった、日本人との人間関 係におけるニーズは大変高いといえる。その一方で、そのニーズの充足度は必ずしも高くなく、 重要度が最も高かった「日本人の友人がいること」は満足度においては 41 位中 18 位、前述の 重要度の上位を占めていた「日本人のものの見方、考え方を理解すること」(重要度7位)や「日 本の風俗、習慣を理解すること」(重要度8位)、「日本文化、日本人社会を理解する機会をも つこと」(重要度9位)も、それぞれ満足度は 17 位、14 位、22 位であり、留学生のニーズは 決して満たされた状態とはいえない。大橋は、高文脈社会である日本において、人間関係や価 値観、ものの見方、考え方、社会構造など、日常レベルの文化における認知面や情緒面、およ び行動面での適応は、滞在期間や日本語力を問わず留学生にとっては大変難しい問題であると し、これらの高いニーズに対応した方策が望まれるとしている。このような留学生にとって大 学入学期は、おそらく新たな交友関係を築き、自分らしさとのバランスを図るのに非常な困難 を要する時期であると考えられる。吉岡・高橋(2010)は、「自分らしさ」とは社会の中で認 められた地位、役割、職業、身分などの「~としての自分」という感覚に合致している安定感、 安心感、自信が得られた一つの状態であると述べている。しかし、安定した社会的関係の構築 に向け過渡期にある入学期においては、自己が意識する自分らしさを、社会、特に大学におけ

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る友人の間でまだ認められていない。それゆえ、留学生にとって、日本人の価値観やものの考 え方、話題となる文化的知識や背景の違いなども相俟って、新しい友人関係の中で自分らしく 振る舞うことの難しさを、日本人学生以上に痛感するのが、この入学期であると思われる。  以上のことから、本稿では、新入留学生が入学期において、どのような人間関係を築こうと しているのか、またその弊害と感じているものは何なのか、事例を検証することでその実態の 一部を明らかにしたい。一括りに新入生、留学生といっても、その置かれている周囲の環境(友 人・知人の有無や同国留学生数やネットワークの充実度、所属学部や学科、サークルの特徴な ど)の違いもあることから、本稿では、一つの事例を丁寧に読み解くことで、留学生の入学期 における人間関係の実態をより明瞭に示し、今後に向けた具体的な示唆を可能とすることを目 指す。 2. 研究方法 2. 1 対象者と調査時期  対象者は、東アジア出身の留学生で 22 歳男性のAさん。来日後2年間東京にある日本語学 校で勉強した後、関東甲信越にある国立大学の工学部に入学した。日常会話や、日本人学生と 共に授業を受けたり課題をこなしたりするのに支障のない程度の日本語力を習得しており、日 本語学校時代にはアルバイトの経験もある。調査は、入学した初年度の前期が終わった8月上 旬に実施した。 2. 2 調査内容と方法  入学初年度前期に、留学生がどのようにして人間関係、特に友人関係を築こうとしていたか、 また築いたかを探るため、入学後の自分の人間関係を振り返ってもらった。質問は、「あなた の入学後の人間関係を振り返ってどう思いますか」というオープン・クエスチョンで、インタ ビューした内容は本人の承諾を得て、IC レコーダーに録音した後、全て文字起こしした。調 査は調査者の研究室で行い、インタビュー時間は 31 分だった。 2. 3 倫理的配慮  調査に際し、まず調査目的や方法、及び個人情報の守秘について調査者からAに説明した後、 自らの自由意思に基づき承諾書を書いてもらった。また、質問に対しては、自分が話したいこ とを自由に語ってもらい、話したくないことは話す必要のないことも伝えた。本稿においても 調査対象者の氏名や所属学科、入学年度などは記号化するなどして、個人が特定できないよう 配慮し、本人の発話を引用する際に個別性が特定されるものは、著者が適切な言葉に置き換え た。 2. 4 分析方法  インタビューで得られた音声データを文字起こしした逐語録を、川喜多 (1997) のKJ 法の 手法を用いて、意味内容を抽出・ラベル化した。次にラベル化したもの(元ラベル)を拡げ、 意味としての類似性により分類・整理して、各カテゴリに表札を付けた(小カテゴリ、1段目 表札)。さらに各カテゴリの表札内容の訴える内容について検討し、親近性のあるものをまと めて表札を付ける作業を繰り返し(中カテゴリ、2段目表札)、最後に、大きなまとまりであ

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る大カテゴリ(島)を作り、それぞれにシンボルマークを付けた。分析の過程で、KJ 法の専 門家より助言をもらい、ラベル化や表札作り、島どりにおいては共に検討した。 3. 結果 3. 1 カテゴリの抽出  インタビューの逐語録から、文脈の意味内容に基づき、14 のラベル(元ラベル)を取り出 した。それらを分類しまとめた小カテゴリ(1段目表札)は8つ、それらをさらにまとめた中 カテゴリ(2段目表札)は5つ、最終的には【周りの人との他愛ない関係】【身近に親しい友 人のいない寂しさ】【新たに広く交友関係を開拓】の3つの大カテゴリ(島)にまとまった。 本稿では、シンボルマークを【】、大カテゴリ(島)を []、中カテゴリ(2段目表札)を「」、 小カテゴリ(1段目表札)を『』、ラベル(元ラベル)を()で示す。 3. 2 各カテゴリの特徴 3. 2. 1【周りの人との他愛ない関係】  これは、[ 自分の勉強スタイルは維持しつつ、日本人学生、同国留学生と無理しない範囲で の付き合いをしている ] カテゴリで、「日本人学生や同国留学生との付き合いに、自分自身で 割り切っている部分もあるものの、物足りなさを感じている」「勉強で分からないことはクラ スメイトに聞くが、勉強は図書館で一人でする」という2つの中カテゴリ、及び4つの小カテ ゴリ、6つの元ラベルから成り立っている。   ・(同国の留学生のBさんとCさんとは、同じ授業なら一緒に座って、授業関係の話とか生活 の話とかする。二人に会うのは、授業以外ではコンピューター端末室に行った時) ・(同国のBさんにはプログラミングのことを聞く。同国のCさんとは科目の課題についてよ く話す。自分は図書館に行って勉強するが、Bさん、Cさんは授業後大体いつも家に帰って しまう) ・(4月に同国の留学生が 2,30 人集まって食事したことはあるが、現在は同国の留学生は何人 かに絞って付き合いがある。彼らは忙しいので、LINE のようなつながりの中で話していて、 会って話すことはできない)  このように、同学科の同国留学生とは、授業や授業の延長線上のコンピューター端末室で課 題をこなす際に偶然会って授業関係の話や生活情報についてやり取りする程度で、それ以外の 場で会って話したり勉強したりすることはない。他学年・他学科の同国留学生とは、入学当初 に同国の留学生会が主催した新入生歓迎会で 2,30 人と面識をもったものの、その中からA自 ら付き合う相手として人選した数人と連絡を取り合っている。ただし、皆忙しいため、直接会 うことは叶わず、SNS での会話に留まっている。 ・(日本人学生8、9人ぐらいと一緒に学食で食事する。クラスメイトと一緒のお昼は楽しいが、

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ゲームとかついていけない話題もある) ・(チューターとは一緒に勉強する時もあるが、自分は皆と一緒に勉強すると集中できないの で、特に授業の勉強をしたい時は一人で図書館に行く)  昼食は、クラスメイトの日本人学生8, 9人ととり、他愛ない会話を楽しみつつも、互いの 趣味の違いから皆の話についていけないこともある。クラスメイトでもある日本人チューター とは、授業以外に一緒に勉強することもあるが、基本的には図書館で一人で勉強するのがAの 学習スタイルである。  Aは、日本人クラスメイトとの会話についていけないことや同国留学生と授業以外で会う機 会のないことに、どこか寂しさを感じながらも、それぞれに対し、付き合う場や内容を自分に 負担のないよう付き合い分け、それなりに納得している感が見受けられる。 3. 2. 2【身近に親しい友人のいない寂しさ】  これは、[心許せる付き合いのできる人は、東京や故郷にいて、今の自分の周りにはいない] というカテゴリで、「心から共感し付き合える友人が周りにいない寂しさや置いてきぼり感を 抱いている」「東京での友人や故郷の家族には今の自分のことを話している」という2つの中 カテゴリ、及び3つの小カテゴリ、6つの元ラベルから構成されている。 ・(クラスメイトは皆年下で、自分とは別の環境で育ち、興味も違う。皆と一緒にいる時、何 を話し、話題はどれにしようかなと。それが一番難しいかな) ・(サークルには週一回程度行っている。サークル自体は楽しい。でも、上級生ばかり。上級 生同士は皆親しく話が合っているのだけど、自分はあまり話に入れない。皆がどういう性格 なのかあまり分からないから) ・(週末は家で勉強したりご飯を作ったりして遊びに行かない。行きたいのだが、一緒に遊び に行く相手がいない) ・(悩みはそんなに多くないけど、寂しい。この寂しい気持ちを誰に…。聞き手がいない)  このカテゴリでは、周囲には見せないAの心の内が語られている。日本人学生との付き合い 自体は楽しい。それゆえ更に親しくなりたい。しかし、お互いの共通話題が見つからず、相手 に近づく手がかりを模索している状態である。サークルは週一回出ているというから、前期に サークルのメンバーと会ったのは 10 回程度であろう。サークルの上級生とも日本人クラスメ イトとも、共に過ごした経験や情報を共有する時間が、Aにとってはまだ不十分で、相手のこ とがよく理解できていないためか、話題選びに困惑し、遊びに誘うことも遠慮している。この 寂しさは、これまでの自分の友人作りの経験から比較して生じた感情でもある。大学の人たち とは、長くても出会って4か月ほどしか経っておらず、大学入学前に東京で過ごした2年間と 比べると、時間的に浅い。入学前の親しい友人を身近に失い、新しい環境ではまだ時間的にそ れまでのような近しい友人関係を築けない寂寞感が沈滞している心境を、遠く離れた旧友や家 族と連絡を取り続けることで、紛らわせているようである。

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・(東京の友だちとは今も電話したりメールしたりして今の生活の様子を話している。付き合 いが深く長いので、ここにいる人より東京の友だちに話す) ・(母国にいる家族とは少なくとも週一回連絡していて、両親は自分の様子についてはよく知っ ていると思う) 3. 3. 3【新たに広く交友関係を開拓】  このカテゴリは、[ 日本人の友人を開拓し、交友関係を拡げていく ] というカテゴリで、2 つの元ラベルをまとめた小カテゴリ、中カテゴリ各1つで構成されている。  ここでは、日本人の友人を作ろうと自分から働きかけるAの積極性や逞しさが窺い知れる。 ・(Ⅱ限の授業を一緒に履修しているクラスメイトに、最初自分から声を掛けて、一緒に学食へ。 一緒にご飯を食べたり声を掛けたりする友だちは 10 人くらい) ・(これからはもっと日本人との付き合いを増やしていきたいと思う。今はほとんどクラスメ イトに限られているので、できればほかの学科や大学の友だちも)  上述したように現在共に昼食をとったりできる日本人クラスメイトは 10 人ほどいるが、彼 らに最初に声を掛け昼食に誘ったのは、留学生のAからであった。そして現状のクラスメイト 中心の交友関係から、学科や学内を超えた広い友人関係を作りたいと、前向きな気持ちでいる。 表1 新入留学生Aの人間関係

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4. まとめと考察  新入留学生Aが入学期における自身の人間関係をどのように認識しているのかについて、3 つのカテゴリの関連性を図解化したものが、図1である。この図から、Aが【周りの人との他 愛ない関係】をもちつつ【身近に親しい友人のいない寂しさ】をも抱えていることが分かる。 日本人のクラスメイトとおしゃべりしながらの昼食は楽しいが、その一方で、クラスメイトと の会話ではついていけない話題もあり、趣味や育ってきた環境の違い、年の差などの壁を感じ ている。クラスメイトと一緒に莞爾として過ごしながら、自分がいかに皆の話にのっていくか 頭を悩ませている様子が窺い知れる。サークルについても、週一回通うのを楽しみにしている ものの、画然とした上級生同士の関係に入っていけない哀感を抱いている。同国留学生とは、 ソーシャルネットワークでのやり取りや、授業や課題のためのコンピューター端末室で会えば 勉強や身近な生活上の話はしても、課外時間や休日に共に過ごすような人はいない。このよう な状況をAは「寂しい」と語り、大学ではこの寂しさを打ち明けられる友人を見つけられずに いる。落合ら(1993)は、青年期において友人関係は、単なる遊び仲間から少数の親友関係へ と移行し、会話や活動を共有することにより心理的安定が図られるとする一方、精神的なつな がりのある人がいない時には孤独感を募らせるという。これは、新しい環境下に置かれたばか りの大学新入生の間に少なからず当てはまる心境なのかもしれないが、Aが「クラスメイトは 皆年下で、自分とは別の環境で育ち、興味も違う」と語っているように、留学生にとっては、 年齢やそれまで蓄積してきた文化的知識や情報の違いから、日本人学生との間に共有する部分 を見出すのが余計困難であろうと推測される。  とはいえ、Aは周囲との関係を維持し、自分が受け入れられるよう相手に合わせるあまり自 分らしさとの間で葛藤を起こすようなことはしていない。勉強で分からないことがあれば、そ れが得意なクラスメイトに聞いたりすることもあるが、授業の勉強は基本的に図書館で一人で している。Aはそれが自分の学習スタイルであること、誰に何を聞いたらいいかを知っており、 自分の学習スタイルを崩してまで友だちと一緒に行動しようとはしていない。また、入学当初 の新入生歓迎会では 2、30 人の同国留学生と知り合う機会があったようだが、自らの思念で付 き合う相手を選別しており、誰でもいいから傍にいて寂寥感を紛らわすようなこともしていな い。秦(2000)は、大学生を対象に行った調査などから、「居場所」を人との関係の中に見出 すものではなく自分自身の中に作るものだと考える傾向が、女子と比べ男子に強いことを示唆 しているが、Aは自分が心を許し心情的に安心できる相手が現れるまで、浮薄な態度をとらず、 周囲と距離を置きながら彼らのことを様子見しているのである。  榎本(1999)もまた、青年期における親しい友人関係とは、自分の意見をはっきり伝え、一 緒にいても自分の意思で行動し、友人を信頼して安定した関係であると述べている。ただし、 女子学生の場合、互いの相違点を理解し尊重し合う「相互理解活動」において、友人に自分が どう思われているかを気にする意識的な不安とも関連しており、男子学生の独立を伴う安定的 な「相互理解活動」とは質的に異なるとしている。本稿において、Aの男性としての特徴を示 唆することは難しいが、Aは生まれ育った環境や趣味の違いも含め、互いに理解し尊重し合え る関係の中で「自分らしく」いられる「居場所」を模索しているのだと思われる。

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 そのためかAは、日本人の中に新たな友人を獲得しようという意志の下、自ら行動に移して いる。大学におけるクラスメイトや同国留学生との間に、自分が求める交友関係が見出せない となると、学科や学校を越えてさらに交友関係を拡げようと思案している。そもそも、入学し て数か月のうちに、キャンパスで声を掛け合い一緒に昼食をとるクラスメイトが 10 名もでき たというのは、異なる言葉や文化的背景をもつ留学生にとって並々ならぬことであろう。こう したクラスメイトとの関係は、Aから声を掛け、誘って広がっていったものであり、まさに「開 拓」と呼ぶのにふさわしい行動力がAにはあるといえよう。  誰しもが不安を抱え不安定な人間関係である入学期を過ぎ、夏休みが終わり、後期に入って、 入学して一年が経とうという頃には、クラスメイト同士の人間関係も、そしてA自身もまた、 その間の経験や彼らとの共有時間を通じて、幾様にも変容していくものと思われる。前述の榎 本は、親しい友人との関係には、特に青年期の男子に多くの「共有活動」が見られ、その背景 には友人に対する信頼と安定した感情があるとしている。つまり、共に遊んだり他愛ないおしゃ べりをしたりと、共有する時間や経験を蓄積していく中で、互いへの理解が深まり、親しい関 係へと発展していくといえ、言い換えれば「共有活動」がまだ少ない入学期においては、互い の違いを認め合うことも心の内を見せることも難しい状態にあり、それがAにとって様々な相 手との壁となって立ち塞がっているように感じられるのだと思われる。今後、時間の経過とと もにA自身、およびAの人間関係がどのような変容を遂げていくことになるか、縦断的に追っ ていくことで、Aの事例を通じて、留学生の日本の大学における人間関係と「居場所」につい て、さらに示唆できるものがあると考える。 参考文献 今井智子(2010)『事例から学ぶ学生相談』第2章4, 北大路書房 榎本淳子 (1999)「青年期における友人との活動と友人に対する感情の発達的変化」『教育心理 図1 新入留学生Aの人間関係

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学研究』47, 180-190 大橋敏子(2008)『外国人留学生のメンタルヘルスと危機介入』京都大学学術出版会 落合良行・伊藤裕子・齊藤誠一 (1993)『青年の心理学』有斐閣 川喜多二郎 (1967)『発想法』中公新書 川喜多二郎 (1970)『続発想法』中公新書 川喜多二郎 (1997)『KJ 法入門コーステキスト 4.0』KJ 法本部・川喜多二郎研究所 苫米地憲昭 (2000)「青年期の発達と学生相談」『学生相談研究』21(1), 86-96 日本学生相談学会 50 周年記念誌編集委員会編 (2010)『学生相談ハンドブック』学苑社 秦彩子(2000)「『心の居場所』と不登校の関連について」『臨床教育心理学研究』26(1), 97-106 吉岡和子(2007)「友人関係における‘自己の在り方をめぐる葛藤’に関する研究」『九州大学 心理学研究』8, 195-200 吉岡和子・高橋紀子編 (2010)『大学生の友人関係論』ナカニシヤ出版 若山隆(2010)『事例から学ぶ学生相談』第2章1, 北大路書房

参照

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