大学での死の教育 :哲学的観点か らのアプローチ
市
沢
正
則
Talking about Death in the Classroom:
Creating a Philosophical Framework for a
Discussion about Death
Masanori Ichizawa
は じめに Ⅰ 子 どもと青少年 を取 り巻 く死の状況Ⅱ
哲学の授業 における 「死の教育」 1 授業全体 を貫 く方針 2 「死」 に関連 した内容 3 「死」 を考える おわ りには じめに
「多 くの人は死 に対 して無防備である - ・自分の死 について一度 も思い巡 らせ たこと がない人が末期の癌の ような死 に至る病気 になった時、備 えがで きていない分、恐れや 混乱が強 くなる。
」 1相木哲夫医師はホス ピスで2000名の方の死 を看取 り、患者や家族 と の交わ りか ら 「死 を学ぶ」 ことで、「死の教育」、すなわち 「死 を教 える」 ことの重要性 を認識するようになった とい う。 しか し、死の教育の普及 に努力 しいるアルフォンス ・ デーケ ン氏 は 「私たちは入学試験や就職 といった人生 の重要 な試練 に望む前 にはかな ら ず教育や訓練 によって準備 を整 えるが、人生最大の試練であるはずの死 に対 して、何 の清泉女学院短期大学研究紀要 (第 19号) 準備 も行 わない」 と、 日本での死 の教育の必要性 を訴えている。2 「死 の (準備)教育」 とい う言葉 は最近 日本で も聞かれるようになった。その 目的は 「死 その ものを前 もって個人的には体験することはで きないが、死 を身近 な問題 として 考 え、生 と死の意義 を探究 し、 自覚 をもって自己 と他者の死 に備 えての心構 えを習得す ること」である。 3"mementomori"「死 を想 え」 とい う考 えは西洋では中世か らあ り、 人々は死 を強 く意識 していた。学者 は書斎の机 に頭蓋骨 をおいて研究 した とい う。 日本 で も最近は生涯教育などで 「死」 について学ぼうとする機運が出て きている。本稿では 筆者が本学の 『人間 と哲学』の授業で 「死」 について どの ようにアプローチ したか、又、 その授業の内容 を紹介す る。最初 に、学生が本学 に入学するまでに育 って きた 日本の社 会 ・学校での死 を取 り巻 く状況 (死 との出会い、学校のカリキュラム、死 についての意 識、死の準備教育へのア ドバ イス) に触れてか ら、本論 に入 る。
Ⅰ.子 どもと青少年 を取 り巻 く死の状況
1. 死 との出会い 日本人の死は家庭か ら病院へ と移 っている。1947年 に91%が家庭で死 を迎 えたが、1990 年 には病院での死が93%になった。4その結果、死 に逝 く人 とその周 りの状況が どの よう に変化 したかを柏木氏 は現代 日本人の死の問題 として取 り上げている。昔 は死 に逝 く人 は家族 に囲まれていたが、現在 は集中治療室で多 くの機械 に囲 まれて、家族の付 き添い が許 されないまま、孤独 な死 を迎 える。 また、家庭での死 は家族が死 に逝 く人の変化 を 自分の 目で確 かめ、家族同士で悲 しみ を分かち、思い出を語 り合 う情緒的な死であった が、病院では人の死が検査結果の数値で測定 され、死-の過程や死その ものは医学的に のみ処理 される科学的な死 になった。死者 を看守 る機会がない現代 の 日本社会 において 子 どもや青年がみ る死 は生身の死ではな く劇化 された死 になった。ある一週間の午後6 時か ら9時 までのテ レビ番組 を観て、どれほどの人が死ぬか を調査 した ら557人の死者が 出た とい う調査結果がある。一つ一つの死 に情緒が伴 わず、物体が無 くなるように死が 扱 われる。虚像の死 しか知 らない者が何の心構 え もな く、現実の死 に向かい合 う時、そ れ を病的に否定 し、パニ ック状態 になった りす るとい う。5 この ように死 は 日常生活か ら遠のいて しまい、死 とい う現実 を身近 に経験 しな くなったゆえに、死 は自然 に学ぶのではな く意識的 に学ぶ ことが要求 されて きた。
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学校 でのカ リキュラム 子 どもたちが 日常生活の大半 を過 ごす学校 で は死 について どの ようなカ リキュラムが 準備 されているのだろ うか。文部省が定 め る 「学校教育法」 を要約 をす る。 小学校 では 「自主及び 自律」
「国際協調」 の精神 と、 日常生活 に必要 な 「衣、食、住 、 産業等」
「国語」
「数量的 な関係」
「自然現象」を処理す る能力 を養 い、「心 身の調和発達」 を図 り、「音 楽、美術、文芸等」 について基礎 的知識 の理解 と技 能 を養 う。 中学校 で は 「国家及 び社会 の形成者 として必要な資格」
「将来の進路 を選択す る能力」
「公正 な判 断 力」を養 う。高校 では 「国家及 び社会の有為 な形成者 として必要 な資質」を養 い、「一般 的 な教養 を高め、専 門的な技 能 に習熟」 させ、「個性 の確立」 に努 める。 「教育基本法」における教育の 目的は 「人格 の完成 をめ ざ し、平和 的 な国家及 び社会 の 形成者 として、真理 と正義 を愛 し、個人の価値 をたっ とび、勤労 と責任 を重 ん じ、 自主 的精神 に充 ちた心 身 ともに健康 な国民 の育成 を期 して行 なわなければな らない」 とあ る。 死 の問題が関係す る宗教教育 については 「宗教 に関す る寛容 の態度及 び宗教 の社会生活 における地位 は、教育上 これ を尊重 しなければな らない」としなが らも、「国及 び地方公 共団体が設置す る学校 は、特定 の宗教 のための宗教教育 その他 の宗教活動 を してはな ら ない」 とある。叢書 「死 の準備教育の場 とそのあ り方 :教 師教育」 の中で、坂上正道氏 は 「学校教育法」
「教育基本法」では、死 についての教育 はカ リキュラム上 ほ とん ど取 り 扱 われない、 と述べ ている。6 しか し、別 な見解 もある。 オウム真理教 団 に よる地下鉄サ リン事件 で は、大学 院生や 医者が多 く関与 していた。そのため、
「日本 で哲学 と宗教 を教 えて こなか ったか ら」 で 7、 教育界 に も一部責任がある との意見 に対 して、高等学校長で、全 国高等学校倫理社 会研 究会会長の御厨 良一氏 は次 の ように反論す る。学校教育で欠かせ ない こ とは、多 くの青 年が死の不安 に怯 え、 どの ように生 きるべ きか悩 んでい る事実 に対 して どう答 えるかで、 哲学の課題で もある。 また、「気軽 にかつ真剣 に死 を考 えるの も哲学」である。教育 の現 場 では、不十分 と言 われなが らも行 って きた。 しか し、必修科 目の 『現代社会』、『政治 ・ 経済』、『倫理』の授業 は行 った ことに して、その時間 を受験科 目の 『世界 史』、『日本史』
の授業 にあてている進学校 もある。入学試験 にこれ らの科 目を採用 してい る大学 はご く清泉女学院短期大学研 究紀要 (第19号) わずかで、試験科 目でなければ、生徒 は真剣 に学習 しない。受験エ リー トか らカル ト宗 教 に走 る者が多 くでるのは当然である
。
8最近では各学校、個人の教員が様 々な形で 「死 を考 える」教育 を取 り入れているようであるが、御厨氏が述べ るように、「死 の教育」を 行 う適当な科 目があるが、実行で きない複雑 な事情があるようだ。 3. 死の意識 この ような中で育 った子 どもたちは死 について どの ように意識 し、考 えて きたのだろ うか。3
歳か ら5
歳 になるまでの間に筆者の娘が死 を体験 した過程 と死 について どう理 解 したかを紹介 し、幼児 (5
歳児)・小学生 ・中学生 についてのある調査報告 を要約す る。 娘の体験∼3
歳 :小鳥の雛、金魚3
匹は数 日で死 に、亀 を与 えると、毎 日 「まだ死 ん でない よ」と言いなが ら観察する (死 についての理解 はほ とん どない)。4
歳 :モルモ ッ トが1年後 に死ぬ と泣 きじゃ くる。祖父の写真 を見て 「お じいちゃんは どうしたの」 と の質問に 「年 とって死ん じゃった」と答 えると、「可変そ うに」 と泣 き出す (死が別れで あ り、身近かな者や動物の死 を悲 しく思 う)。4
歳半 :電車で老婦 人か らチ ョコレー トを もらうと、「あのおばあちゃんいつ死ぬの?
」 と尋 ねる (老化が死 をもた らす と理解す る)。
「疲れた。お父 さん も年 とったな」 と言 うと、泣 きそ うにな り 「年 とってない よ」 と声 を高める (死 を否定す る気持 ちが起 こる)。 幼児が生命 について どんな見方 をしているかでは 「生 きている」 と認識す るものの割 合 は蛙 ・鳥はほほ100%、人間85%、チュー リップ42%、ロボ ッ ト39%、木37%、雲10%、 山7%、「動物 はいつかは死ぬ」(78%)、「人間はいつかは死ぬ」(52%)である。植物 を 「生 きている」もの として認識 しない理由は「動 く・動かない」など目に見 える特徴や、「手 足がある ・ない」 とい う形態的特徴 による。死 に対す る感 じ方 ・考 え方では 「死ぬのは 嫌 だなあ と思 ったことがある」 (76%)、「死ぬのは怖い」(86%)、「動物の死 と人間の死 とで は どち らが かわいそ うか」の質問で は 「動物」(52%)、「両方」(26%)、「人間」 (21%) と、約半数の子が 「動物」 と答 えている。幼児期 における 「生 と死」 に関する 意識 は未確定の段階であるが、多 くが死-の恐怖や不安 を感 じ、考 える。9 小学校2年生 にな り 「動物 はいつか死ぬ」 (96%)、「自分 もいつか死ぬ」(97%)と生 命の有限性 についてはこの頃確立す る。死 に対す る感 じ方 ・考 え方では 「死ぬのはこわ い」は学年 を問わず小学生では80%。死後の世界の とらえ方では、「死ぬ と天国か地獄へ行 く」な どの彼岸型が一番多 く、「死ぬ と赤 ちゃんになって生 まれて くる」などの再生型、 「死ぬのは眠っているの と同 じで、 また 目が さめる」 な どの復活型の順 になる。生 まれ 変 わ りたい理由で最 も多いのが 「や りたい ことが多 く、何度で も生 まれ変 わっていろい ろや りたい」 とい う現世の肯定、次 に 「今 よ りももっと良い生活が したい」 など現世 に 何 らかの疑問や誤 りを感 じ、や り直 しを望 む。「最近1年間に死 にたい と思 ったことがあ るか」の質問に対 しては 3- 6年生の平均 は20%以上が 「思 った」 と答 えている。その 理 由 として、家庭 に起因するもの、友人、学校 の順である。10 「自殺 は絶対 ゆるされないことであるか」との間 に対 して中学生の60%はそ う思 うと答 えている。逆 に、中学生の40%は自殺 に対 して肯定的な考 えを持 っている。 自殺の直接 原因は多い順番か ら、学業不振や友人関係 など学校での問題、男女間題、家庭間題、病 苦、身体的劣等感である。 自殺の時期 は学期や季節 と関係があ り、休みの始 まる7・3・ 12月は少 な く、最 も多いのは9 ・4 ・5 ・1月の順 となる。11
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死の準備教育へのア ドバイス 上述の時期 における子 どもへの死の準備教育 として各専 門家 はどの ようにア ドバ イス しているのだろうか。 前述の 「生 と死」の意識調査 に加わった宮本佑子氏 は親の役 目を次の ように記 してい る。身近 な人 に死 なれた時の気持 ちを幼児 に聞 くと、「悲 しくて泣いてばか りいた。 もう 生 き返 ってこない と思 うと、 もった優 しくしてあげればよかった」 とい う死者への追悼 、 「べつに、悲 しくはなかった」 と感情 さえ伴 わない とい う2つ に大別で きる。その観点 か ら、幼児教育 と親の役割 は、子供たちが人 との死別 を実感、経験す る機会が少 な くな る分、で きる限 り幼児期か ら動物の飼育や植物の栽培 を通 して死の体験 をさせ ること、 病人や身近 な人 との交流 を積極 的にもたせ ることである。12 小学生 になると、い じめ、 自分の性格や生 き方が嫌で死 を考 えるようになる。神経 は 過敏であるが、感情の抑制がで きず、忍耐心が乏 しく、未成熟 なため、人格 を発達 させ る必要がある。知育教育 と徳育教育のバ ランスをとり、家庭や地域で役割 を与 え、対人 関係 を多 くし、異年齢児 を含めた子 ども同士の交流の場 を増やす。 また、生命の貴重 さ・ 限界 ・醜 さを知 らせ るため、動植物の接触 を通 して、生物 の構造 ・生命の神秘 を学 ばせ、 死 を体験 させ るように、稲村博氏 はア ドバ イスす る。13清泉女学院短期大学研 究紀要 (第 19号) 中学校では成績、人間関係が精神的な圧力 にな り死 を求め、現実では満た されない何 か を実現 しようと、 自殺 を企てる。 自殺の心理学的原因の第 1は、 自我 に 目覚め、他 と の交 わ りを避 け、 自己の世界 に埋没 し、極度 な自己愛の追及の結果、死 を美化 し、永久 性のある世界 を求める。第 2は、他者 によって枠づけ られた価値観の中で 自己の存在価 値 を兄い出そ うとするが、入試 などの失敗で親の支持 を失 うことを恐れ、 自己 を捨 てる。 友人 ・家族 ・教師などと相談がで きて、「自分 は生 きるに値する人間である」 ことを自覚 し、人生 に希望 と価値 を兄い出 し、困難 に屈 しない粘 り強い精神力 を育 むことがで きる 状況 をつ くるようにと平林進氏 は勧める。14 高校生 は家族か ら自分 を切 り離 し、家庭外の人物や価値観 に関心 を移 し、 自分 とは何 か を確立する。同時 に肉体的成熟 と社会的な関心 との狭間で歪みが生 じ、知識偏重の社 会でアイデ ンテ ィテ ィが未熟 のまま知識肥大が進み、心身症 になった り、暴力 を起 こす。 これ らの問題 を抱 える高校生 に次の点 について周 りが努力す るように、河野博 臣氏 は忠 告 をす る。 1)不安 と危機の克服 :人生の問題、生 と死、人間 とは何か を自分 自身の問 題 として考えさせ る
、2
)親か らの分離体験 を通 してのアイデ ンテ ィテ ィ確立-の援助 : 子 どもは親 に依存 しなが ら成長 し、反抗期 ・分離体験 を経て、尊敬す る人に自我 を同一 させ なが ら自己 を確立する。その間の苦悩 を援助で きる時間 と場所 を提供す る、3
)親 子の共感的な体験 :親子の分離体験 で心理的死 を味わい、その悲哀 をお互いが体験する ことによって、家族 ・親子の問題 を学ぶ、 4)性の問題 :肉体の成熟 とともに生ず る性 衝動 ・性本能 を生理的、人格的なレベルで教育する。 これがなされない と、非行、対人 恐怖 ・心身症、 自殺 など、病気や欲求不満症 よる暴力、行動異常 を起 こす、 5
)愛 を学 ぶ :異性愛 と友愛 を学 ばせ る、 6)人間は自然の一部で有限 :スポーツな どを通 して自 然 と親 しみ、 自然の中での生 と死、有限性 に気付かせ る。15Ⅱ.
哲学の授業 における 「
死の教育」
ここでは本学の共通教育科 目 『人間 と哲学』の授業で どの ように 「死」 についてアプ ローチ したか、又、主な授業内容 を紹介す る。多 くの学生 は前章で触れたように幼児期 か ら本学 に入学す るまで死 に対す るなにか しらの意識 は持 ち続 けているが、それをどの ように表現 して きたか、又 は、表現せず にきたかは様 々である。小学校 か ら高校 にかけて、特 に高校時代 は疾風怒涛の時期、 自然や動物 と親 しみ、友 と語 り、社会 に貢献 した い と思 う時期で もあっただろう。 しか し、生 と死 を体験 的に学 び、 自然 と社会の中で 自 分のアイデ ンテ ィテ ィを確立す る時間があ ま りに も少 なかった と思 う。 この授業で、古 今東西で死 を体験 した り、見つめて きた人々の言葉 を紹介す ることによ り、学生が死 を 意識 し、「生 きることの意味」 を考える きっかけになることを望 んだ。 1. 授業全体 を貫 く方針 哲学の授業全体 を貫 く方針 として次の
2
点 を強調 した。 1)慣習 にとらわれず、外見 に惑わされず に物事 を問い正す :現代の若者 を示す代名 詞、「指示待 ち人間」とい う表現があるように、自分か ら考 え、発言、実行することがほ とん どなかっただろう多 くの学生 に、身近 な事柄 について慣習 として考 えられているこ とで も疑問 を持つ ことを勧めた。そ して、デカル トが言 うように、いかなる大家の説で あれ、 自分 にとって 「疑いを入れる余地の全 くない」 ほ ど 「明断かつ判明」である もの 以外 は一切受 け入れない とい う態度で臨み、哲学す る条件 を次の ように提示 した :すで にある ものの枠組み を鵜呑みにせず、で きるだけ前提が ない ところか ら 「自分」で考 え る。そのために習慣 的な考 えに逆 らって考 え、心底納得 のい く答 えが得 られるまで 「ど こまで も」考 え抜 き、 もうそれ以上問 うこ とがで きない ところ まで徹底的 に問い詰 め る。16 短いテ レビコマーシャル作成のために、企業では心理学者 などの専門家 を雇い、消費 者 にいかに訴 え、広告品を良 く見せて、 ものを買わせ るか研究 させ る。その結果、我 々 は中味 よ りもイメージで ものを買い、失敗す る例がある。皮肉だが、児童殺傷事件 を起 こした神戸の中学 2年生の手記 「懲役13年」 の内容 にも我 々が学 ばなければな らない事 があると思 う。
「大多数の人たちは魔物 を、心の中 と同 じように外見 も怪物 だ と思いが ち であるが、事実 は全 くそれに反 している。通常、現実の魔物 は、本当に普通 な "彼"の 兄弟や両親たち以上 に普通 に見 える し、実際、その ように振 る舞 う。彼 は、徳その もの が持 っている以上の徳 を持 っているかの如 く人に思 わせて しまう ・・・ち ょうど、蝋で 作 ったバ ラのつぼみや、プラスチ ックで出来た桃 の方が、実物 は不完全であったのに、 俺たちの 目には よ り完壁 に見え、バ ラのつぼみや桃 はこうい う風でなければな らない と 俺 たちが思い込 んで しまうように。
」
1
7C.
S.
ルイス著の 『悪魔の手紙』の中で悪魔のお じ清泉女学院短期大学研究紀要 (第19号) が甥 に、悪魔業 を教 える
。
「われわれの方策は差 し当たって 自分 たちを隠 してお くことで ある。」18悪魔の存在 に人間が気がつけば警戒す るか ら、お前の存在 を分か らせ ないよう に して物事 を進めなさい、 とい うことだ。「兄弟や両親」以上 に普通である人間に潜み、 思い通 りに事 を運ばせれば合格 で、怪物 と思われ、正体 を見破 られれば、悪魔業失格で ある。人間は常 に新 しい物、 きれいな物 を欲 しが る傾向 と、外見 に惑 わされるという弱 点があるようだ。それをうま く利用 して悪魔 は人間を最終的 には破壊 に導 くとい うプロ セスが この2つの話の共通点だろ う。2
)見方 を変 える :ものの見方 を変 えることによって価値観が変わること、 また、知 らず に正 しい道か ら足 を踏み外す場合 もある。広大 な砂漠の中で人が迷 うと、真直 ぐ歩 いているつ もりで も、心臓が左 にあるため、左 回 りをす る。迷 える人が 自分の前 にある 足跡 を見て安心するが、実は自分が辿 った足跡 だ とい うこともある。熟 したお湯が入 っ ているバケツに蛙 を入れると、す ぐ飛 び出すが、水が入 っているバケツに蛙 を入れ、水 を徐 々に熱 して も、蛙はそのバケツか ら出ず、死 んで しまうとい う話がある。三角形の 頂点 になっている点は、見る向 きを変 えれば、底辺の点 にもな り、底辺の点は頂点にな る。「優秀」とは 「す ぐれていること」 と辞典 にはあるが、何がす ぐれているかは書かれ ていない。「優」 を分析する と、「人」
「憂」で、「優秀 な人」 とは 「人を憂 えることに秀 でている人」 とも考 えられ、我 々が 日常使 う意味 とは違 って くる。上の例 は、 自分では 気付かず違 った方向に行 っている、違 った角度か らものを見れば今 までの考 え方 とは正 反対 にもなる、 とい うことを示唆 している。2
「死」に関連 した内容 シラバススに記述 した授業全体の内容 は次の通 りである。
「生 まれて くると同時に死ぬ 運命 にさらされている我 々、その間、我 々は様 々なことを考 え、経験する :愛、幸せ、 仕事、人間関係、い じめ、殺人、死後の世界、生 きる意味、等 々。偉大 な哲学者達はこ れ らをどの ように考 えて きたのか。そ して、あなたは ?この コースでは、我 々の 日常の 出来事 に関連づ けなが ら、上述の問題 を取 り上げ、生 きることの意味 を探究す る。」 最後の授業 (第14回 目)で 「生 と死」 とい うタイ トルで死 を取 り扱 った。 ここでは、 それ以前の授業で取 り扱 った 「死」 に関連する事柄 を紹介す る。1)時間 と永遠 :幸せ ・愛 ・知恵の観点か ら考 える
C.
S.
ルイスは西洋思想で考 え られた 「幸せ」の概念 を3
つの カテゴリーに分けた。 ア イスクリームを食べ て幸せ に感 じるな ど肉体的なものは 「快楽 (pleasure)」、人 に会 えて 嬉 しい、友人 を得 て幸せ だな ど感情的 な ものは 「喜 び(Happiness)」、道 に迷 った ときに 道標 を得 たような心か らの喜 びは 「歓喜 (Joy)」である。 パスカルは愛の種類 を3
つ (王様 -身体、天才 -精神、聖徒 -霊) に分 け、次の よう に説明す る。精神的な人々 (天才)の偉大 さは王や、富者、将軍 といった肉体的に偉大 な人々には見えない。彼等 は自分の王国、輝 き、勝利 を持 ち、肉体的な偉大 さ (王様) を少 しも必要 としない。聖徒 たちはまた独 自の王国、輝 き、勝利 を持 ち、肉体や精神の 偉大 さを必要 としない。聖徒 たちは神 と天使か らは見 えるが、身体 と精神か らは見 えな い 。 聖書 は、知恵 を3
つ に区分する。
「家 は知恵 によって建て られ、悟 りによって堅 くせ ら れ、 また、部屋 は知識 によって さまざまな尊 く、麗 しい宝で満 た される。
」
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上記3つの概念 (幸せ、愛、知)はそれぞれが3つ に区分 されているが、違いはどれ だけ長 く持続するかである。肉体的快楽 は瞬間に終 り、権力 を持つ ものは必ず倒 され、 流行 は廃 れ、部屋や家 はいつかは壊 される。 これ らは地上の世界では歓迎 されるが、い つかは消失 (死へ と向か う)す る。 しか し、人生の道標 を得 る、人 ・神 (もし存在すれ ば) を愛す る、悟 りを得 ることは具体的に見 えない もの、理解す るには難 しく、行 うに 難 し、存在 してないかの ようであるが、生 きている間に徐 々にで も獲得すれば、そ して、死 後の世界が存在すれば、死後 も存続す る可能性がある。 これ らの概念 を提起することに よ り、 目には見えないが存在す るものがあるのか も知れない とい う事 を学生 に考 えて欲 しかった。 幸せ ・愛 ・知の持続時間 永遠的観点から 時間 (死) 一 一永遠 (坐) この世的観点から 見える (生)一 一見えない (死) ルイスの幸せ 快楽 (肉体) 喜び (感情) 歓喜 (心) パスカルの愛 王様 (身体) 天才 (精神) 聖徒 (餐)10 清泉女学院短期大学研究紀要 (第 19号) 2)生 き方の選択 :マルクス ・キルケ ゴール ・ニーチ ェ 科学 の進歩、産業革命 によ り19-20世紀 の西欧 は社会構造 の変化があ り、価値観 も揺 らいでいた。 この時代 に生 まれたマル クスは、人間 らしく生 きる生活 を奪 った資本主義 社会 を崩壊 し、失われた人間生活 を社会改革 によ り取 り戻 そ うと奔走 した。 キルケ ゴー ルは、世俗化 したキ リス ト教世界 を批判 しなが らも、神 を信 じ、一個人の内的改革で神 との結合 によ り人間が本来あるるべ き姿 に戻 るこ とを主張 した。ニーチ ェは、人間 を萎 縮 させ、従順 な奴隷 に したキ リス ト教道徳 を批判 し、人間は自らの価値 を創造 して強 く 生 きるのだ と力説 した。 3者 の違い を別 な言葉 で表現す る と次の ようになる。マルクス は社会改革 (社会階層 の死)で今 まで疎外 されていた 自分が人間 らしく生 きる、キルケ ゴールは神への信仰 に よ り新 しい 自分 (古 い 自分の死) を求め続 ける、そ してニーチ ェ は今 までの古 い価値観 を捨 て (神 の死 )、新 たな強い 自分 を創 り出 してい く。学生が生 き 方の選択 をす る際 に、20世紀 を代表す るこの
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人の思想 を参考 に して もらいたか った。 マルクス ・キルケゴール ・ニーチェが考 える病める人間の回復方法 マルクス (1818-1883) キルケゴール (1813-1855) ニーチェ (1844-1900) 病名 疎外 (自己から疎遠) 罪 (神 との離別) 価値の喪失 (神の奴隷) 患部 全社会 個人 個人 症状 焦燥感 絶望 虚無感 結果 人間性の喪失 永遠の死 人間の萎縮化 原因 歴史の必然性-→労働の分化 サ タンからの誘い 人間の弱き-神に従順 処方 人間への信頼-社会改革 神への信仰- 自己改革 価値創造- 自己改革 回復 人間らしさを取 り戻す 救いによる神 との結合 進化によるスーパーマ ン 3)い じめを考 える :「個人の死 -社会の成長」 とい う観点か ら 学生の70%以上 は、い じめた り、い じめ られた経験 をもち、い じめ を見 て きた。い じ めは 日本特有の ものではないが、 日本人は集団行動 をよ く行 うため、多 く存在 してい る ようだ。い じめ にあい 自殺 した中学2年生大河内清輝君の遺書全文 を学生 に読 ませ、 自 殺 に至 った過程 を考 え させ た。仲 間の4人か ら催促 されたお金の額 はエス カ レー トして い った。いいな りにな り、「使 いば しり」にされたのが 自殺 の原因だ と書 いている。家族-の言葉 には 「お金 をとっていた人たちを責めないで下 さい。僕が素直 に差 し出 して し まったか らいけない
」
「僕 はこの世か らい ませ ん。お金 もへ る心配 もあ りません。一人分 食費がへ りま した。おかあ さんは、朝、ゆっ くりねれ るようにな ります。・・・いつ も じゃまばか りしてすみ ませ んで した。死 んでおわびいた します」 などがあった。20 心理学者エー リッヒ ・フロムは正常 ・健康 を社会 と個人の立場か ら定義 している。あ る社会の中で役割 を果た し、要求 されている流儀 に従 って働 き、再生産 に参加で きる人 間は正常 ・健康である。個人の立場か らは、個人の成長 と幸福のための最上の条件 を求 めている人間は正常 ・健康である。 しか し、二つが常 に一致す ることは現代社会ではほ とん どない。多 くの精神病学者 は社会の構造 を肯定 してお り、社会 に適応 で きない人は 価値のない存在であ り、適応で きる人は価値のある人間 と考 える。逆 に、社会 に対応 し ている とい う意味で正常 な人間は、社会 に期待 される人間になろうとし、その代償 に自 己を捨 てる。21 大河内君の場合の 「社会」 はい じめた4人のグループであ り、 この4人が規則 をつ く り、それ を慣習化 させ る。社会の流儀 に したが って働 く、すなわち、 このグループの利 益のために再生産 (お金 を稼 ぐ) に参加す ることで、価値 のある、 よき働 き手 となる。 従わなければ、罰せ られる。個人 としては不健康であるが、グループか ら見れば正常で ある。彼 は個人の正常 さを求めて、グループを否定 したのではないだろ うか。 学生 は今後所属する学校、家庭、会社、団体、地域社会で、ある事柄 について 自分 を 主張す るか、相手 (集団)の立場 を重 ん じるかの板 ばさみ になるであろう。彼女 たちが 個人の人間的成長 と社会の成長 を考える時 に、常 に何が正常であ り、異常であるのか を 認識 し、 また、両者のバ ランスの大切 さを熟慮 して もらいたかった。 社会 と個人の立場から見た 「死と成長」
社会の立場から 個人の立場から 社会に追従-自己放棄(自己の死-社会の成長) 正常 (社会に適応 .価値あ り) 異常 (人間的に不健康) 社会に不追従-自己探究(自己の成長-社会の死) 異常 (社会に不適応 .価値なし) 正常 (人間的に健康)12 清泉女学院短期大学研究紀要 (第19号)
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「死」 を考 える 1)「死 を教 える」前段階 として 最後の授業で、直接 「死」 について考 えた。その一週間前 に学生 には2つの課題 (記 名)を与 えておいた:(1)あ と2週間で 自分の人生が終わるとした ら、あなたは何 をす る と思 うか、 また、その理由 も書 く、 (2)「死」 について、あなたはいつ頃か ら意識す るようになったか、 また、「死」ついてあなたが思 うことを自由に書 きな さい。 これ らの課題 を出す ことによ り、学生 に死 について時間をかけて考 えて もらいたかっ た。価値観、生 き方の見直 しがで き、死 についての講義の理解 に役立つだろうという理 由で もある。 また、死 についてのアンケー ト (無記名) を授業 中に記入 して もらった。 ここでは、課題 (1)についての学生(
1
0
2
名)の回答 を分類 し、それについて考察 をす る。 ア ンケー トの内容 ・結果 については付録 として本稿 の最後 に掲載 した。 あ と2週間で 自分の人生が終 わる とした ら、あなたは何 をす る と思 うか 1 人 との交流 :人 と過 ごす (52)<家族 (19) 友 人 (10) 彼氏 (8) 大切 な人 (2)>
人に会 う (17) 2 人間関係 : 感謝する (ll) 思いやる (8) <親孝行 (6) 他 (2)>
愛の告 白 (5)はっ きりさせ る (3) 仲直 り (2) 仕返 し (2) 3 生 きた証 : 残す (6) 捨 てる 4 整理整頓 : 部屋 (5) 自分の身体 (2) 5 生 き方の反省 (2) 6 具体的行動 :旅行 (34) 食べ る (23) 遊ぶ (13) 買い物 (9) その他 (7) 7 何かをする :お金 をおろす (10) 実現可能 なこと (7) 自分の好 きなこと (4) 8 生活形態 :普通 (8) のんび り (3) 賛沢 (3) 笑 い (2) 9 行わない こと :学校への登校 (4) 勉 強 (2) バ イ ト 何 もしない ∼具体例 として-1 人 との交流 「何 をするか」との間では大切 な人 と一緒 に過 ご したいが一番多い。理 由は 「ゆっ くり してい られる」
「心が落 ち着 く」
「思い出を振 り返ることがで きる」 な ど、一緒 に静かに 最期 を迎 えたい気持 ちがある。 また、「少 しで も覚 えていて もらいたい」
「忘れ られた ら自分が生 きて きた ことが何 の価値 もなか った ように思 える」 ので一緒 に過 ごす人 もい る。 2 人間関係 世話 になった人 に感謝す る人 も多い。親 に 「心配 ばか りさせ て きたので家事 を した り、 何 で も手伝 い
」
「大切 に し」
「安心 させ たい」 とい う思 いが強い。 また、「人の ことを考 え られ る人 になれそ う」
「好 きな人 に尽 くしたい」 と、優 しさが表 われて くる人、「友達 と 仲 直 りをす る」 人、片思 いの人 に告 白す る人が5
名。心残 りがあるのは嫌 だか ら 「何 も か もはっ きりさせ る」人、「嫌 だった人 に嫌が らせ を し、我慢 していた もの を吐 き出す」
「自 分 を傷 つけた人 に同 じ苦 しみ をさせ る」 と今 までの恨 み を晴 らす人 も2名。3
生 きた証 「自分が して きた ことを残す」
「自分 の ことを忘 れ られた くない」等 、生 きていた証 を 作 るため 「写真 を撮 りま くる」人、子 どもをつ くり 「自分 の存在 として残 してお きたい」 人、 ビデオ レターに自分の こ とを収める とい う人 もいた。家族 ・親友 に手紙 を書 き、友 人 に会 って 「少 しで もその人の中に私が残 る ように」 との思 いがある。逆 に 「親が思 い 出 して悲 しくな らない ように、 自分 を早 く忘 れる ように」 と生 きていた証拠 を捨 てる人 もい る。 4 整理整頓 「見つかった らヤバ イ もの」
「人 に見 られた くない もの」があ るため整理整頓 をす る人、 「他人 に迷惑 をかけた くない」 ので部屋 の掃 除 をす る人 も5名。あ る人 は髪形 を変 え、 化粧 し、服 を買い、「気分 を変 えて、さっぱ りした気持 ちで残 りの人生」を過 ごす と考 え る。5
生 き方の反省 「思 い出深 い土地 を訪ねた ら、大切 な人 に会 い に行 く。思 い出 を整理 しなが ら自分 の人 生 を終 わ らせ たい。」別の学生 は 自分の人生が どうい うものであったか反省 し、「どんな 人間であったに しろ、生 きてい られたのが幸せ なことだ と思 って死 にたい」 と書 いてい る。 6 具体的行動 「旅行 をす る」が一番多い。旅行先 は、海外 (5)、エ ジプ ト(2)、ハ ワイ (2)、オース トラリア、東京 デズニー ラン ド (2)、沖縄 (2)、北海道、関西 、南 国、温泉、海、公 園、 夕 日、夜景。旅行 の理 由は 「生 きて きた世 界が どんな ものだったか、納得 してお きたい」、14 清泉女学院短期大学研 究紀要 (第19号) 海外 に行 きたい理 由は 「経験 や知識が浅い。 自分の知 らない世界 を見たい。地球 に生 ま れたか ら地球 を見たい」、エ ジプ トで遺跡 を見たい人は 「読 んだ知識 と目の前 にあるもの を一致 させたい
」
。
「家 にいて もつ まらない」 か ら旅行する人 もいた。 二番 目に多かったのが 「食べ る」こと。
「世界三大珍味」
「高級 な料理」
「食べ たことな のない料理」
「好 きなもの」 を 「体重 を気 にせず」、「食べ ま くる」 こと。 「遊 び (ま くる ・ほうける)」「(
お もい きって ・賛沢 を して)遊ぶ」 など精一杯遊び尽 くした とい う表現がい くつかあった。理由は 「毎 日何かに束縛 されて、あ ま り楽 しくな い」
「思い残す ことが ない ように」
。
「お酒 を飲 んで、騒 ぎま くる」理由は 「人の為に財産 を残す ことはで きない。 自分が可愛い し、 自分の人生 だか ら、勝手な行動 をとる。楽 し い事 を沢山 しない と損 をする とい う考 えが期 間が限定 されればなお強 くなる」。 「買い物」では服 (8)/バ ック/化粧 品/車。「前か らほ しかった服」 を 「買い ま く る」
o
「服、バ ック、化粧品を買い、髪形 を変 え、彼氏 にプロポーズする。
」
その他 は、歌 を聴 く/バ ンジャージャンプをする/映画 「シテ ィ・オブ ・エ ンジェル」 を見 る/絵 を措 く/サ ッカーの応援/ コンサー トに行 く/スノーボー ド。 7 何か をする 「自分の好 きなことする」
「自分のために何か をす る」
「後悔 しない ように全 てのことを や りぬ く」
「どうせ死ぬな ら楽 しいことをや りたい」
「実現可能 なことをする」。 8 生活形態 普通の生活 :理 由は 「おい しい物 をいっぱい食べ、貯金 を使いはたす など考 えたが、 今の生活 に満足 しているので、急 に欲 をだ して も自分 にはあわない」
「いろんなことして もどうせ終わる」
「あの人は死 んで しまうか ら、かわいそ うにと思われた くない」
「あせっ て何か して も無駄。いつ もとかわ らず家族 と、好 きな人 と一緒 に過 ごし、お互い 『今 ま であ りが とう』 と感謝の言葉 を交換す る」。 賛沢 な生活 :「そ うすることによって、死ぬ とい う恐怖 を忘れ ようとす る。命が終わっ て しまうのだか ら、かな り自暴 自棄 にな り、冷静 な状態で生活はで きない。」 のんび り :「いつ も追われているか ら家族 とのんび り過 ごす」 笑いのある生活 :「悲 しむ ことな く、感動 した り、楽 しく笑いのある生活 を したい」 「少 しで も自分が幸せ になれるように、笑い顔で死ねるように」。全体 を通 して : 初めの1週間は旅行 を した り、友達 と一緒 に過 ご し、2週 目は家族 と家で一緒 にいた い、 とい う学生が多かった。「寝 る間 も惜 しんで会話 を楽 しむ
」
「最後 は家族 と、一緒 に 夕食 を食べ る。で きれば、長芋、納豆、野沢菜。みんな笑い顔で、た くさん話 したい」。 本稿の 「は じめに」で触 れたように、病院で死ぬ人が93%ある現代社会では難 しくなっ て きたが、家族 に見守 られなが ら死 にたい とい う思いが強い。 具体的行動では旅行 を したい という学生が一番多かった。彼女 たちは自分の行動範囲 が限 られていることを自覚 しているようだ。長期の休み もクラブ活動、塾等で時間が束 縛 されることにも理由があるのだろう。「食べ る」
「遊ぶ」が二、三番 なのは、 日常生活 でいか に彼女たちが食べ物 を節制 し、規制 された生活 を しているかが伺 える。 死 に面 した時に人間の本性がでるとい う。「後悔 しない ように全ての ことをや り抜 く。 きっと自己中心的になるだろう」 と書 いた学生、又、記名 に もかかわ らず、正直 に 「自 分勝手 な行動 をとる」
「借金 をして高い もの を買いま くる。 どうせ人生が終 わるのだか ら 自分 には何 も損 はない」
「お金が な くなった ら、強盗す る。必要 な ものを買い込み、無人 島に逃 げて、人生の終 りを待つ。」学生 もいる。同時 に、親孝行 をす る、他人 に尽 くす学 生 もいる。ちなみに、ソクラテスは死刑 を宣告 され、最期 に望 むことは と尋ね られると、借 りていた鶏 を返す ように言 った という。 課題 をまとめることで、学生の生 き方や価値観 を少 なか らずかい ま見 ることがで きた。 また学生 自身、死 に面 した時 に自分はどの ような行動 をとるのか を考 えることは自分の 生 き方 を反省する上で有意義 なことであった と思 う。二人の学生の コメン トである。「授 業で人間について考えて きた。愛、幸せ、人間 として生 まれて きたことの意味、考 える ことがで きるか らこそ相手 を思いやることがで きる とい うこと。人間でなければで きな い ことは沢山ある。そんなことを して、残 りの2週間を過 ご したい。それが人間 として 生 まれて きた意味であ り、人生ではないか と思 う」
「一 日を大切 に過 ご しているのか と考 えさせ られた。今 日で きなければ、明 日がある し、他の 日にやればいいやって考 えてい る自分 に気付いた。明 日の事 なんてわか らない - ・私 は "今 ・現在" について もっと 意識 し、大切 に過 ごさなければいけない と考 えた」。16 清泉女学院短期大学研究紀要 (第19号)
2
)死 を意識す ることの必要性 死 を意識す ることで、その人の毎 日の生 き方 に違いが出て くる。死 についての教 え、 そ して死 に直面 した人の言葉 を学生 に紹介 した。 聖書 には次の例 えがある。
「ある金持 ちの畑が豊作 であった。そこで彼 は心の中で 『ど うしようか、わた しの作物 をしまってお く所がないのだが』 と思いめ ぐらして言った、 『こうしよう。わた しの倉 をとりこわ し、 もっと大 きいの を建てて、そ こに穀物や食料 を全部 しまい込 もう。そ して 自分の魂 に言お う。魂 よ、お まえには長年分の食料がた く さんた くわえてある。 さあ安心せ よ、食え、飲め、楽 しめ』。す ると神が言われた、
『愚 か者 よ、あなたの魂 は今夜の うちにも取 り去 られるであろう。そ した ら、あなたが用意 した物 は、だれの ものになるのか』。」22死 を忘れた生 き方、または忘れ ようとしている現 代人に も当てはまる話である。 全ての人間は死刑 を宣告 されていることを忘れるな とパスカルは言 う。我 々の何人か は毎 日死 んでい くが、多 くは自分の運命 を忘れたかの ように気晴 しに、そ して、お しゃ べ りにふけっている。多分その方が幸せ なのだ。 しか し、人間 よ、明 日にも死の運命が 迫 っているの に、 こんな空 しい ことにふ けっていて もよいのか、 とパ ス カルは忠告す る。23 ブ ッダは 「死」を見て次の ように考 えた。
「愚かなる異生 は、みずか ら死する ものであ り、死 をまぬかれぬ者であ りなが ら、他の人が死せ るを見ては、自己を忘れで断 じ嫌 う。わ た しもまた死 なねばな らぬ身であ り、死 を免れることを知 らない。 しかるに、みずか ら 死ぬ る身であ りなが ら、他の人の死 を兄で漸 じ嫌 うとい うことは、わた しに相応 しこと ではない、 と。比丘 たちよ、わた しはか ように観察 した とき、わた しのあ らゆる生命の 騒逸 は、 ことごとく断たれて しまった」
『中阿含経』。24我 々は人間の悲惨 さを自覚せず、 あるいは知 りなが らも目をそ らして、楽 しく毎 日を過 ごそ うとする。汚い ものには蓋 を す る発想である。若 さ、健康、楽 に生 きることはすぼ らしいが、長 くは続かない。 ブ ッ ダは青春、健康、生その ものの価値 も疑い、その反対の 「生 きる、病 む、老いる、死ぬ」 とい う人間の悲惨 さを考 えることで、青春 ・健康 ・生の価値 を豊かにす るのだ と言 って いる。25 「馬 も猿 も自分の生 きていることの意味 を問わない。人間だけが何 のために生 き、どう 生 きるべ きか を問 う。 しか し、現代人の多 くは人間の本来の在 り方 を忘れ、他人に支配され、人が生 きるように自分 も生 きるようになった、堕落 して しまっているのではない か」 と、ハ イデ イガ-は警告す る。26我 々は 「みんな と仲良 くしたい、仲 間外 れにな らな い ように」と、他人 を気使 っいるが、気 を使 わなければならないのは他人ではな く自分、そ の 自分 は死 にかかわる存在である。死 を考 えないことで死か ら逃避で きた と、 自分 に思 い込 ませ るのではな く、死 を積極的に受 け止めなければならない。「君 は死 に向か う存在 なんだよ」 と良心が呼びかけるているのが聞 こえないのか、 とハ イデ イガ-は我 々現代 人に問い、 この良心 に目覚めて生 きることによ り、主体的な人間になるのだ、 と説 く。 実際に死 に直面 した人たちはどのように考 え、 どの ような日々を送 っているのだろう。 痛 に冒 された児玉隆也氏 は毎 日の生 き方 を 『痛病棟 の99日』の中で次の ように表現 して いる
。
「私 には 日め くりが性 にあっている。一 カ月単位や、ま して一枚 の紙 に一年分 を印 刷 したカレンダーは、健康 な身には--便利 だが、おびえを持 っている人間には渡れば 崩 れ落 ちかねないつ り橋 が見 えて くる--私 はその 日め くりの ような思 いで生 きてい る。」一 日を、瞬間を精一杯生 きようとしている気持 ちが伝 わって くる。 朝 日新聞の記者が4
4
人の死刑 囚 と面接 を した。27彼等死刑 囚に共通 してい るのは感受 性が鋭 く、何 を見て も聞いて も、感動的に刻み こまれ、せわ しい印象 だった らしい。あ る老人は俳句 を20-30句 もつ くる。絵 を措 きま くる人、難解 な本 を読 む人、等 々。生活 がハ ツラツ して、一 日が濃縮 されていた とい う。死刑 囚 とは逆 に、あ ま り死 を意識 しな い無期囚は感動することもな く、芸術 とは無縁 で、塀の外の世界 には興味 を示 さず、関 心 は守衛のご機嫌 とり、 ご飯のおかずが気 にな り、刑務所 の役人 に対 しては、従順 で、 卑屈。いつかは死が訪れるに して も、殺 されることはな く、 日常茶飯事 の ことだけ しか 頭 にない。芸術的な美、いかに生 きるか といったことについては無関心であった とい う。 上述のように、学生 には死 を意識す ることで、毎 日の生 き方 に影響 し、ユニークな自 分 として、は りのある人生 を積極 的に歩 む ことがで きるんだ とい うこ とを学 んで ほ し かった。 3)死後の世界の有無 による生 き方の違い 死後の世界q)有無 によって、人間の生 き方が変わるのだろうかo古代 ギ リシャでは両 方の見方があった。 しか し、 どちらの考 え方 において も、彼等 は現世での生 き方 を否定 せず、 目的 をもって生 きた。学生 にはこの二つの生 き方 を学ぶ ことによ り、 自分の今 あ18 清泉女学院短期大学研究紀要 (第19号) る人生 を見つめるように促 した。
a.
死後の世界が無い場合 古代 ギ リシャにおいて、魂 は "psyche(人間が吸い込む 「息」)"であ り、人間の死 は 肉体 と魂の死で もあった。「神 々の享受する不死の特権がない人間は死 を癒 し、老い を防 ぐ手段 を兄い出す こともで きず、愚か しく無力 に生 を過 ごさねばな らぬ惨 めな運命 をもつ
」(『イリアス』ホメロス)。けれ ども、死が終 りであるか らこそ、力の限 り生 きたい と 願 う古代 ギ リシャ人は虚無的な生 き方 をするのではな く、人生の空 しさとはかなさの故 にいっそ う熱烈 な価値 ある生 き方 を した。その結果、多 くの歌劇 ・詩 ・彫刻 などの芸術 作品や競技 を残 し、人間の矛盾 をあ らわ した悲劇、半分が神の顔、体が動物 とい うス フィ ンクス をつ くりだ した。人生 とい う戦争、競技場 において、 自分 に とっての使命は勝負 を逃げず に引 き受 けることである、努力 しなければ生 きてい く価値がない と考 えた。英 語の "responsibility"は 「責任」 と訳 されるが、二つの単語 を合成 している。"response" 「反応、対応」 と "ability"「能力」、す なわち、与 え られた ことに対 して 「対応」す る 「能力」があっては じめて人生 に対 して 「責任がある」 とい う単語 の成 り立 ちは古代 ギ リシャ人の考 え と一致する。 b. 死後の世界がある場合 もう一つの古代 ギ リシャの死生観 は、死 は魂 の肉体か らの分離であ り、人間の魂 は誕 生 とともに彼岸か ら現世 に落ちて肉体の中に入 り、現世で浄化 された後、彼岸の世界に 戻 らない限 り 「運命の車輪」が回 り続 け、肉体の苦 しみか ら抜 け出ない とい う考 えであ る。 ソクラテスは 「善 く」生 きることが、「善 く」死ぬ ことであると言 った。すなわち、 人間にとっての最大の善は魂 を気遣 うこと、精神 を優 れた ものになるように気 を遣 うこ とである。故 に、人生で一番大切 なことは魂への配慮であ り、ただ生 きることではな く 善 く生 きることで、そのためには自分の生活 を反省 し、吟味す ることが必要である と考 える。 死 を 「ここの場所 か ら他の場所- と住所 を移す こと」 と考 えれば、胎児が子宮か ら出 て くる過程 に似 ている。胎児 として子宮での生活 は終 り (死)、空気 の世界 に居場所 を移 す ことになる。胎児 に思考能力があれば、「この狭 く暗い子宮で どうして 自分は手足 ・目 があるのだろう」 と質問するだろう。母親の栄養の取 り方で、胎児の様 々な器官の健全 な発育 に差が生 じ、誕生後の生活 に影響 を及ぼす。今度は赤子が成長する過程で人間に特有 な理性、善悪 を判断する思考能力 も発達 し、人格 も形成 される。思考で きる人間は「な ぜ 自分 には理性 ・思考能力があ り、人格形成が必要 なのか」 と問 うこともで きる。 この 空気の世界か ら離別 (死) した ときに、胎児の肉体の器官が空気 の世界で必要であった ように、次の世界で この理性 を必要 とす るか もしれない、 とい う類推 もで きる。胎児 に とって 「良い栄養 をとり」、健康 な赤子 として生 まれる とい う観点 と、ソクラテスの この 世で 「善 く生 き (魂 を浄化 して
)
」、清 い魂 として次の世界 に生 まれるとい う観点 は類似 する。 日本古来の死生観 の一つ に も、死 は魂が 肉体 か ら離 れ る とい う考 えがある。遺体 は 「亡骸 -な きが ら」 と呼ばれる。すなわち、魂が ない抜 け殻 である。魂 は別の世界で生 きる。サ ンス クリッ ト語か ら由来 した 「往生」の意味は 「往」 ば「
∼に向かって行 く、 ある状態 に入 る」、「生」 は 「生 まれる」、すなわち、安楽世界 を目指 して 「往 き」、そ こ に 「生 まれる」 とい うことで、「死」 とい う意味が入 っていない。 生物の細胞 は絶 えず死 と再生 を繰 り返す。その細胞で作 られている人間 もその可能性 があるのだろ うか。おわ りに
デーケ ン氏 の言 う如 く、人生最大の試練である死 に対 して、何の準備 もないのはおか しい。入学 ・就職試験 、様々な免許 ・資格 の試験 、結婚のためには時間をかけ準備す る。 しか し、我 々が受 けて きた教育 ・訓練 は肉体的 に自分や家族 を養 うための職業人 として の トレーニ ング、社会人 としてスムーズに生 きる基礎知識のための教育が主 なようで、 「成長すべ き人間 として生 きる職業」の為の トレーニ ングがあ ま り行 われてこなか った のではないか。生物の死 とは成長が止 ま り、腐敗 してい くことである。人間の肉体的成 長 は20代前後か ら退化 し、記憶力は13歳頃 を境 に衰 え、理解力 ・判断力 は40代 頃か ら増 して、やがて悪 くなる とい う。一生懸命勉強 し、いい学校 ・会社 に入 り、一生懸命働 い て家 を建て、 自分 ・家族 を養 う。子 どもも同様 なプロセスを辿 る。する と、我 々は何 の 為 に生 まれ、死 んでい くのか とい う疑問 も湧いて くる。ア リス トテ レスによると、 もの の本質は4つの質問 に答 えられれば理解で きる とい う。形相因 (これは何 か-名前)、目 的因 (何 のためか-目的)、質料 因 (何でで きているのか-物質)、動力因 (だれがつ くっ20 清泉女学院短期大学研究紀要 (第19号) たのか-創作着)。椅子、机、 コンピュー ターな ど身の回 りの ものについて質問すると、 確 か にその本質 を知 ることがで きる。人間、 自分 に当てはめてみ る と答 えはどうなるだ ろう。 この質問 に答 えること自体が、「死 に向か う」我々人間の生 きる意味 を考 えること になるのではないか。 人間の肉体、記憶力、理解力、判断力は衰 える。では、残 るものがあるのだろうか。 授業 を履修 した学生の半数近 くが考 えているように、死 によって全 ては終 り、消滅する のだろうか。28「生命のない状態が死であ り、後 は無だ。闇は もともと存在 しないのであ り、存在するのは光だけ。光のない状態が閣であるの と同 じように、生命のない状態が 死である。死 とはその意味 において、生命 との別れの状態 をさす
。
」これは癌で何 回 もの 手術 を受け、死 を考え続 けた宗教学者、岸本英夫氏が行 き着いた死 についての考 え方で ある。 (『死 を見つめる--ガンと戦 った十年』
)
29ドス トエ フスキーの著 『カラマーゾフ の兄弟』の中で ゾシマ長老 は 「不死 を証明す ることは誰 にもで きません。けれ どもあな たが愛 において進歩 なさるなら、それにつれて神 の存在や魂の不死 について も確信で き るようになるで しょう」 と来世 を疑 う女性 に答 える。 ドス トエ フスキーは自分が死刑 を 宣告 された経験 をもとに、死後の世界は理論ではな く、隣人愛の実践 を通 して認識 され る と考 える。30筆者が学生時代 に一緒 に過 ご した8
0
歳の老女 は家の中や周 り以外 は歩 け ない。昔のことは覚 えているが、最近のことはす ぐ忘れる。 しか し、彼女 には定職があ る。いつ も子供 と孫の健康 と幸せ を思い、神 に祈 っていた。それが 自分が存在 している 理 由だ と考える。体の衰 えと反比例 して彼女の子 どもたちに対す る 「思い」 は90歳で亡 くなるまで増 し続 けた。 死 とはこの人生 におけるある意味での終末である。何人かの学生 も死のイメージとし て 「最期 ・終末 ・人生のゴール地点 ・人生の終着点 ・終着駅」 をあげた。終末 とは英語 では ター ミナル、その語源のギ リシャ語 はテロスで、終末や 目標 とい う意味だけではな く、完成、成就、統合、成熟が含 まれているとい う。実存主義哲学者 ガブ リエル ・マル セルは人生 における成熟 とはわが ままで無責任 な自己を乗 り越 え、 よ り高い精神的次元 に到達することであると定義 している。31死後の世界の存在の有無 に関わ らず、この世界 で人間 として果 たさなければならないことがあるようだ。このマルセルの言葉 には、我々 の一生 を全 うす るために大切 な意味が含 まれいる と思 う。本稿 「
Ⅰ
」で触れた ように、幼児期 にすでに、動物 ・人は死ぬ とい うことを理解 し、 悲哀 を経験 し、身近な人の 「死」 を否定す るまでになる。 アンケー トに回答 した学生の 80%以上は死 を真剣 に考 えたことがある。 しか し、死 を考 える きっかけ、 また、生 と死 について家庭 ・学校で どの ように教育 されて きたか、 または、何 もなされてこなか った かは、各学生 によ り様 々である。毎年、数名の学生が次の ようなことを述べ る。「死、生 き方 について真剣 に話そ うとす ると、友人や家族か ら 『ち ょっ と考 えす ぎよ』
『あなた、 へ ん じゃないの』 と言 われ、そんなことを考 えるのはいけないのか と思 った。 しか し、 この ような授業があ り、安心 した。
」多 くの学生が死 を意識 し、考えた として も、それを 話 し合 うような状況、学ぶ機会が少ない ようである。5
年前 に本学で初めて教 えた 『人 間 と哲学』では 「人間の存在意義」 を哲学史を通 して考察 した。その後、で きるだけ学 生の 日常生活 に関係する事柄 を取 り扱 ってい くようにシラバス を変 えていった。幸せ、 愛、い じめ、卒業後の仕事 (生 き方)、そ して死。初年度は数名の受講者であったが、学 生の数 も増 えていった。「生 き方、死」を聞 く、話す、考 えることは多 くの学生が求めて いることであるようだ。その ような機会 をこの科 目で与 えることがで き、 よかった と思 う。死の準備教育の 目的 とは 「生 と死 の意義 を探究 し、 自覚 をもって 自己 と他者の死 に 備 えての心構 えを習得す る」ことであった。「死 についてあなたが思 うことを自由に書 き なさい」 とい う課題で一人の学生が次 にように書いて きた。 この授業が彼女の 「生 と死 の意義」を探究す る手助 けになったことを切 に期待する。「どうせ死ぬのに、どうして生 まれたのか も分か らない。今、 自分の していること全てが無駄 な抵抗 なのか もしれない。 死 んで しまった ら何 もな くなる。人はた くさんいて も、 自分の存在 を知 る人間はそれに 比べればほんの少 し。 自分 に身内 も知 り合い も全 くいなければ、生 きていて も死 んだ と 同 じ。そ う考 えると自分 は もう死 んでいるのか もしれない。
」
1 柏木哲夫 『死を学ぶ』 (有斐 閣 1995年)pp.i∼ii。 2 アルフォンス ・デーケン 「死-の準備教育の意義」、アルフォンス ・デーケン/メヂカルフ レンド社編集『
<
叢書>死への準備教育 第1巻 「死を教える」
』(メヂカルフレンド社 1996 年)p.2。
3 同上、p.2。22 清泉女学 院短期大学研究紀要 (第19号) 4 柏木哲夫 『死 を学ぶ』、pp.4-5参照。 5 同上、pp.ll-12参照。 6 坂上正道 「教師教育
」
『<叢書 >死への準備教育 第1巻 「死 を教 える」』、p.143参照。 7 御厨 良一 『哲学が好 きになる本'96年版』 (エール出版社 1996年)p.18。御厨氏が引用 し た文 は 『中央公論』(1995年6月号)での青木保氏の発言 について言及 している。 8 御厨良一 『哲学が好 きになる本'96年版』、pp.18-19参照。 9 宮本佑子「幼児教育 と両親の役割」
『<叢書 >死-の準備教育 第1巻「死 を教 える」』、pp.64 -82を参照。都立教育研究所相談部旧児童生徒研究室が行 った子供の 「生 と死」 に関す る意 識 の調査資料 (昭和56年) を宮本佑子氏が まとめ た もの を参照 した。調査対象 は幼稚 園児 (5歳)の82名。本稿でのパーセ ンテージの数字は四捨五入で記入 した。 10稲村博 「小学校教育」
『<叢書 >死への準備教育 第1巻 「死 を教 える」』、pp.85-92参照。 前述の子 どもの 「生 と死」 に関す る意識の調査資料 を稲村氏が まとめた ものを参照 した。調 査対象の小学生 (1年生か ら6年生)は計1205名。 11 平林進 「中学校教育」
『<叢書 >死への準備教育 第1巻 「死 を教 える」』、pp.99-108参照。 デー タは1976年11月に小学館編集部が調査 した資料 に基づ く。調査対象は中学生 (男子399人、 女子372人)の計771人。 12 宮本佑子 「幼児教育 と両親の役割」、pp.79-80参照。 13稲村博 「小学校教育」、pp.93-95参照。 14 平林進 「中学校教育」、pp.105-109参照。 15 河野博 臣 「高等学校教育」、p.122-125参照。 16 諸富祥彦 『自分 を変 える<哲学 >』 (教育開発研究所 平成8年)pp.56-59参照。 17 朝 日新聞朝刊1997年10月1日3面 「懲役13年」。神戸市の連続児童殺人事件で逮捕 された15 歳の少年 (当時14歳)が書いた 「懲役13年」 と題す る作文の一部である。 18 C.S.ルイス、森安綾 ・峰谷昭雄訳 『悪魔の手紙』 (新教出版社 1994年)p.57。 19 歳 言24章3-5『聖書』。 20朝 日新聞朝刊1994年12月5日3面 「大河内君の遺書全文」 (大河内清輝)0 21 エー リッヒ ・フロム、 日高六郎訳 『自由か らの逃走』 (東京創元社 平成6年)pp.156 -158参照。 22 ルカによる福音書12章16-20『聖書』。 23梅原猛 ・橋本峰雄 ・藤沢令夫編 『哲学のすすめ』 (筑摩書房 1994年)p.25参照。 24御厨良一 『マ ンガ ・哲学 って何 だろう'93年版』 (エール出版社 1993年)p.96参照。25 同上、p.97参照。 26 同上、p.91。 27 同上、pp.128-130参照。 この段落は御厨氏が載せている新聞記事 を筆者が要約 した。 28 本稿掲載の付録 「死 についてのアンケー ト」参照。 29 御厨良一 『哲学が好 きになる本 '96年度版』、p.19参照. 30 アルフォンス・デーケ ン 「教材 としての文学
」
『<叢書 >死への準備教育 第1巻 「死 を教 える」』、p.260参照。 31 平山正美 「生 と死 を考 える」、A・デーケ ン/曽野綾子編 『生 と死 を考える』(春秋社 1994 年)、p.183参照。24 清泉女学院短期大学研究紀要 (第 19号)
付録 :
「死 」 につ いての ア ンケ ー ト 調査対象 :本学の共通教育科 目 (選択)r
人間 と哲学lの履修者女子 99名 (18- 20歳) 調査期 日 :2000年 1月20日 記入時間 :20分 無記名で記入 質問内容 : 1 あなたが持つ 「死」についてのイメージはどんなものか (複数回答可) 2 今 まで死 について真剣 に考えたことがあるか :ある ない あると答えた人に質問 します :いつ頃か ら、何が きっかけで ないと答えた人に質問 します :考えない特別な理由があるか、あった らその理由 3 死後の世界は存在すると思 うか :思 う 思わない 思 うと答えた人に質問 します :いつ頃か らそ う思 うようになったか、どうして死後の世界が存在す ると考えるようになったか (具体的な例) 思わないと答えた人に質問 します :思わない特別な理由があるか 4 死後の世界が存在 したほうがいいと思 うか :思 う 思わない その理由 5 霊 (いわゆる幽霊、先祖の霊など)が存在すると思 うか :思 う 思わない その理由 6 この宇宙 を創造 した 「創造主」、いわゆる 「神」は存在すると思 うか :思 う 思わない その理由 7 この 「創造主」、いわゆる 「神」が存在 して欲 しいか :欲 しい 欲 しくない その理由 8 もしこの 「創造主」が存在するとした ら、その 「創造主」にどんな質問をしたいか (複数回答可) 回答 :で きるだけ学生の言葉 をそのまま使用す るようにした。同 じ意味合いが含 まれている場合は紙面が限 られているので割愛 した。
「複数回答可」 と指示がない回答で も複数回答がある箇所はそのまま数えた。 1:死 の イ メージ 分類 具体例 情緒的 (57) 怖い (30)/恐ろ しい (7)/悲 しい (9)/辛い (2)/孤独 (8)/切ない 感覚的 (18) 楽になる (7)/安 らぎ (4)/苦 しい (3)/冷たい (4) 色合い (13) 暗い (8)/黒 (3)/暗黒/明るい 自然/必然的 誰にで も必ず訪れる (3)/いつかはやって来る (2)/老いた ら訪れる/絶対にある/必然 (ll) /避けられない/あた りまえに来る/自然 消滅/無 存在 しな くなる .消える (9)/肉体の死 .(3)/精神の死/記憶が無 くなる/人の想像の中 (23) だけで生 きる/何 も見えない (2)/無 (6)/灰 別離 (6) 永遠の別れ (2)/別れ (2)/ 2度 と会 えない (2) 終 り (16) 終わる (ll)/最期/終末/人生のゴール地点/人生の終着点/終着駅 始 まり (5) 第二の人生 (2)/出発点/旅立ち/入 り口 他の世界 (15)未知 一別の .遠い世界 (8)/天国 (2)/天国か地獄/真 っ白な世東/雪の上/雲 (2) その他 (21) 忘却 (2)/魂 (2)/逃避 (2)/思考なしの世界 (2)/死人/不幸/絶望/絶対に来てほ しくない/残 された人に大 きな ものを与える/老い/複雑/生 と紙一重/予告な しで来る/2:死 につ い て真 剣 に考 えた :ある (81) ない (18) 無 回答 (1) 考 えた 時期 :もの心がついた時 (1)/小 さい頃、はっきりは不明 (3)/ 3歳 (1)/小学校 (28)/中学 校 (25)/高校 (12)/短大 (2)/最近 (3)/忘れた (2) 考 えた きっか け :身近 な人の死 (39)/ペ ッ トの死 (8)/人間関係 (u)/病気 (4)/テ レビ等のマス メデ ィア