コントロール感覚からみた出産体験の意味づけに関する研究
國
清
恭
子
は じ め に 出産は, 基本的には女性自らがコントロール感覚を維 持しながら, その能力を発揮して成し遂げるものであり, 出産体験の満足感を得るには, 母親が自 自身の力に よって出産を成し遂げたととらえることが重要といわれ る. しかし出産には, 自 がどう努力しても, または他者 の力を借りたとしても, 人の意志や力を超えた作用に よって支配されているという側面もあり, 母親の期待通 りにならない場合もある. 出産は母親自身の力によると いう側面のみで出産体験をとらえることは, 場合によっ ては, 母親の自己コントロールに対する自信の喪失や, 自尊心の低下を招く可能性もある. したがって, 自 以 外の力に委ねるという逃げ道をもつことは, 母親が出産 体験を前向きに意味づけ, 自尊心を維持したり出産の満 足感を高めることにつながると えられる. 筆者は, 自 の行動に対する結果が, 自 の力すなわ ち能力や努力で統制することができるという信念である 内的統制と, 運や偶然, 強力な他者や神など自 以外の 外的な力によって統制されるという信念である外的統制 からなる統制の所在 Locus of Control (以下, LOC) と いうコントロール感覚の認知様式を参 に, 母親の出産 体験のとらえ方をアセスメントする視点や, 出産体験の 意味づけを援助する手がかりを探る研究に取り組んでい る. 本稿では, その一部を紹介する. コントロール感覚からみた出産体験の内容 A 大学病院で経腟 をした産褥早期の母親 10名を 対象として, 出産体験について半構成的面接調査を行っ た. LOC の内的統制, 外的統制を参 に内容 析を行っ た結果, コントロール感覚からみた出産体験を構成する 6つのカテゴリーを見出した.【自 の力によって出産 したという体験】は, 満足感のある出産を成し遂げるた めに, 自らを統制し産み出す力を発揮することによる内 的統制に基づく体験であった.【子どもと力を合わせて 出産したという体験】は, 生まれてくる子どもの意思や 力を信じて任せる,【家族や重要他者の力を借りて出産 したという体験】は, 安心感をもって自 の力を発揮す るために, 夫やその他の家族, または医療者以外の重要 他者に統制感を預け, その力を活用し, 支援を求め, 望む ようにかかわってくれることを期待する,【専門家の力 を借りて出産したという体験】は,母子の 康を保ち,安 全な出産のために医師や助産師などの専門家に統制感を 預け, その力を活用し, 援助を求め, 任せて従う,【運や自 然の力によって出産が支配されたという体験】は, 自 の統制感を放棄し, 運に託し, 運や自然の力の支配を受 ける,【霊的なものによって自 の出産が守られたとい う体験】は,霊的な存在によって守ってもらおうと,統制 感を全面的に預けるという出産体験で, これら 5つは外 的統制に基づく体験であった. 出産体験におけるコントロール感覚の 特徴と意味づけの援助への活用 対象者の語りの 析から, 出産体験の意味づけを促す 援助としては, 必ずしも内的統制を保護し強化するばか りでなく, 外的統制を意識づける援助の有効性が示唆さ れた. 苦痛に耐え切れず吸引 を希望したことに対し 337 Kitakanto Med J 2012;62:337∼338 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科看護学講座 平成24年6月4日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科看護学講座 國清恭子て, 情けないと否定的な自己評価をしていた母親は, 子 どもの頭が大きかったから頑張っても出なかった」とす る助産師の意味づけの援助によって, 自 の努力不足が 原因ではなく運や偶然という仕方のない状況があったと 内的統制から外的統制へ意図的にシフトすることによ り, 自尊心を回復させることができていた. また, 一度外的統制に委ねた統制感を自 に引き戻し て内的統制の回復や強化を促すことも有用と えられ た. 対象事例においては, 内的統制に基づく体験が 38.8%, 外的統制に基づく体験が 61.2%であり, 自 の出 産は外的統制が優勢で進行したととらえた者が多かっ た. しかし, 外的に統制された体験とはいえ, 家族や専門 家は自 が働きかけて状況を変化させることも可能であ る. 家族や専門家を, 出産を成し遂げるために自 を支 えてくれる力, 活用できる力と認めて自 の判断で内的 統制から外的統制へシフトするという外的統制の い方 は, 敵になるか味方になるか, ふたを開けてみなければ わからない運や自然の力に対する備えや強化, すなわち, 母親にとって よりよい出産 を達成するための戦略的 なものといえる. 母親が自 自身についてコントロール するために, 他者の力を有効に活用することできた, 他 者の力は借りたが結局は自 がやったのだと意識づける ことができれば, 自 の力を発揮した出産として意味づ けられていくであろう. したがって, 外的統制の中でも 家族や医療者に預けた統制感は, 母親自身の内的統制に 戻していくことが可能と えられ, 出産体験の意味づけ を促す援助として有効な視点である. お わ り に 医療や看護の世界でセルフケアや障害・疾病コント ロールを当事者本人に帰するという えが多い昨今, 外 的統制へ意識を向け, その感覚が当事者の意識をプラス に転じる場合もあること, 外的統制感の内的統制感への 回復や強化を促す方法が効果的であるという示唆を得ら れたことは, 出産体験の意味づけに関する具体的な援助 法の研究が少ない現状において大変興味深いものであっ た. 今後は, コントロール感覚を用いて, 看護実践の場面 において利用価値の高いアセスメント尺度の開発や産褥 期の母親の心理的 康を支援する介入研究を行っていき たい. 文 献
1. Rotter JB: Generalized expectancies for internal versus external control of reinforcement. Psychological Mono-graph 1966; 80(1): 1-28. 2. 國清恭子, 齋藤やよい : コントロール感覚からみた産褥 早期の母親の出産体験の 析. 日本看護研究学会雑誌 2007; 30: 67-77. コントロール感覚からみた出産体験の意味づけに関する研究 338