Title
吹付け繊維補強セメント複合材料の引張性能と補修補強へ
の適用( 内容の要旨(Summary) )
Author(s)
森井, 直治
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(工学) 甲第427号
Issue Date
2012-09-30
Type
博士論文
Version
none
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/47942
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。9 -氏 名 ( 本 籍 ) 学 位 の 種 類 学 位 授 与 番 号 学 位 授 与 日 付 専 攻 学 位 論 文 題 目 学位論文審査委員 森 井 直 治(石川県) 博 士(工学) 甲第 427 号 平成 24 年 9 月 30 日 生産開発システム工学専攻 吹付け繊維補強セメント複合材料の引張性能と補修補強への適用
(Tensile performance of sprayed fiber-reinforced cement composites and applications to repair and strengthening)
(主 査)教 授 内 田 裕 市 (副 査)准教授 小 林 孝 一 教 授 六 郷 惠 哲 論 文 内 容 の 要 旨 本論文では,吹付けSHCC の配合,フレッシュ状態の性状並びに施工方法と引張性能との関係について検 討を行うとともに補強材と組み合わせた条件での引張分担やその効果について検討を行った。これらの検討 の上,吹付けSHCC の補修・補強への適用方法を提案するとともに追跡調査により吹付け SHCC の実構造 物へ適用後の補修効果について検討を行った。 第2 章:吹付け法における SHCC の引張性能について検討を行うため,配合,繊維混入率及び流動性が 異なるSHCC を用い,吹付け法と流込み法により作製したダンベル型供試体の引張試験を行い,引張性能結 果より吹付けSHCC に適切な配合,繊維混入率及び流動性について検討した。その結果,吹付け時に材料中 の空気が約7 割程度失われ,吹付け後の空気量は 2~6%と小さくなったが,吹付けによるフロー値の差は無 い結果となった。繊維混入率が2.0vol%の配合,流し込み法においては流動性が大きい方で,吹付け法にお いては流動性が小さい方においてバラツキが小さく安定的な引張終局ひずみが得られた。なお,繊維混入率 が1.7vol%の配合,吹付け法ではフロー値が 150mm 程度での引張終局ひずみは約 2%程度と大きかった。 第3 章では,空気量および空隙構造が SHCC の引張性能に与える影響を評価する目的で,3 種類の方法(巻 込み,AE 剤,中空骨材(シラスバルーン))により空気を導入し SHCC の引張特性を評価した。引張強度 および終局ひずみは,中空骨材,AE 剤,巻込みの順に大きくなった。さらに,巻込みおよび AE 剤によっ て導入した空気は,吹付け施工時の圧力によって消失したため,吹付け施工後の引張性能が低下した。しか し中空骨材によって導入した空気は,吹付け施工時の圧力によって消失しなかったため,吹付け施工後にお いても引張性能が低下しないことが明らかとなった。 第4 章では,SHCC を鉄筋で補強して用いることを想定し,一軸引張供試体を用いて複数微細ひび割れが 発生したときの供試体表面のひずみと鉄筋のひずみ分布を測定し,鉄筋補強されたSHCC における SHCC の引張分担について実験的に検討した。その結果,SHCC を鉄筋で補強した部材の場合,SHCC のひび割れ の有無,位置にかかわらず鉄筋のひずみは荷重の増加とともに一様に増加する傾向がみられた。また,SHCC の引張特性には明確な寸法効果が存在すること,鉄筋補強によりSHCC の分担応力と終局ひずみが改善され ることが明らかとなった。 第5 章では,地震などにより損傷を受けた RC 柱の早期復旧工法の開発を目的として,かぶりコンクリー トが剥落し鉄筋がはらみだす程度まで損傷させたRC 柱に,UHP-SHCC とポリマーセメントモルタルの 2 種類で断面形状を復元した後,材齢7 日で再載荷を行い補修前後の構造性能を比較した。その結果,超高強 度ひずみ硬化型セメント系複合材料で補修することで,最大荷重,最大荷重時の変位およびエネルギー吸収 量のいずれも初期載荷時のそれらと同程度まで回復させることができ,早期に復旧することが可能であるこ とを確認した。 第6 章では,橋梁の下面増厚補強工法への適用を目的に軽量で高強度である FRP グリッド筋を補強筋と して吹付けSHCC により被覆行い,引張及びせん断付着試験並びに部材での静的及び疲労試験により,その 耐荷性状や破壊性状にいて検討を行った。その結果,SHCC は PCM に比べ引張付着強度及びせん断付着強 度がともに高い結果となった。既設部の鉄筋の量が多いほど,降伏荷重前の初期剛性が高く,降伏荷重も大 きい結果となった。しかし,既設鉄筋の降伏後においては,補強筋量の多いほうが部材剛性が大きく,最大 荷重も大きくなる結果となった。破壊形状においては,増厚部の補強筋量が少ない供試体では主鉄筋降伏後, 既設コンクリート梁の上縁部での圧壊と FRP 筋の一部が破断して,曲げ破壊に至った。しかし,補強筋量 を多くした供試体の場合,増厚部の端部から発生したひび割れが進展し,既設コンクリート梁の主鉄筋に沿
10 -って割裂ひび割れが発生し,急激な荷重低下を伴って終局に至る付着割裂破壊を示した。SHCC と PCM の 増厚材の違いにおいては,初期ひび割れ発生荷重,初期剛性,終局荷重及び最大荷重ともに PCM に比べ SHCC ほうが大きい結果となった。 第7 章では,アルカリシリカ反応(ASR)によるひび割れが生じた重力式コンクリート擁壁の修景を主目 的として,SHCC の吹付けによる表面補修の試験施工を行った。施工後 5 年を経過した時点でも,ひび割 れ幅はほぼ0.1mm 以下に抑制されており,当初期待した SHCC の効果が確認された。本適用の範囲では, SHCC のひび割れ分散に対し,補強材の配置や基盤コンクリートのひび割れのシールの効果は明確とはなら なかった。HPFRCC 上へのアクリル系塗料の塗布には,短期的な美観改善効果しか認められなかった。 以上に述べたように,本研究においては,吹付けSHCC の引張性能や補修補強への適用方法,その補修後 の性能について評価を行った。これらは,試験室内での評価性能であり,実現場においても常に同程度の性 能が得られるかは未知である。今後、SHCC のような品質確保のために細心な注意が要求される材料を補修 補強分野で幅広く適用するためには,施工性に優れた材料の改善が大きな課題である。 論文審査結果の要旨 この論文では,引張力下においてひずみ硬化挙動を示す繊維補強セメント複合材料(SHCC)を対象とし て,吹付けSHCC の配合,フレッシュ性状,施工方法が引張性能に及ぼす影響を明らかにしている。吹付け SHCC と FRP グリットや鉄筋と組み合わせた部材において,SHCC による引張力の分担割合とその効果を 明らかにしている。吹付けSHCC をコンクリート構造物の補修・補強へ適用する場合の具体的な方法を提案 している。劣化したコンクリート擁壁の修景を目的として,吹付けSHCC により表面補修を行い,施工後 5 年間にわたって観察を行い,ひび割れ幅が小さく抑えられていることを明らかにしている。 この論文は,次に詳しく示すように重要な研究結果を含んでおり,新規性,有用性の点で優れている。し たがって,審査の結果,この論文を学位論文に値するものと判定した。 (1) 吹付け SHCC の流動性と引張性能 吹付け法における SHCC の引張性能について検討を行うため,配合,繊維混入率および流動性が異なる SHCC を用い,吹付け法と流込み法により作製したダンベル型供試体の引張試験を行い,吹付け SHCC に 最適な配合,繊維混入率および流動性を明らかにしている。吹付け時に材料中の空気が約7 割程度失われ, 吹付け後の空気量は2~6% と小さくなるが,吹付けによるフロー値の差は無いことを報告している。繊維混 入率が 2.0vol%の配合の場合,流し込み法においては流動性の大きい方が,吹付け法においては流動性の小 さい方が,バラツキが小さく安定的な引張終局ひずみが得られることを明らかにしている。 (2) 吹付け SHCC の空気量および空隙構造と引張性能 空気量および空隙構造がSHCC の引張性能に与える影響を評価する目的で, 3 種類の方法(巻込み, AE 剤,中空骨材(シラスバルーン) )により空気を導入し,SHCC の引張特性を評価している。引張強度および終 局ひずみは,中空骨材, AE 剤,巻込みの順に大きくなり,さらに,巻込みおよび AE 剤によって導入した 空気は,吹付け施工時の圧力によって消失し,吹付け施工後の引張性能が低下することを報告している。し かし,中空骨材によって導入した空気は,吹付け施工時においても消失しないため,吹付け施工後の引張性 能は低下しないことを明らかにしている。 (3) 鉄筋で補強した SHCC の引張挙動 SHCC を鉄筋で補強して用いることを想定し,一軸引張供試体を用いて複数微細ひび割れが発生したとき の供試体表面のひずみと鉄筋のひずみ分布を測定し,鉄筋で補強されたSHCC における SHCC の引張力の 分担について実験的に検討している。SHCC を鉄筋で補強した部材の場合, SHCC のひび割れの有無,位 置にかかわらず鉄筋のひずみは荷重の増加とともに一様に増加する傾向にあることを明らかにしている。 SHCC の引張特性には明確な寸法効果が存在すること,鉄筋補強により SHCC の分担応力と終局ひずみが 改善されることを明らかにしている。 (4) 吹付け UHP-SHCC で補修された RC 柱の補修効果 地震などにより損傷を受けたRC 柱の早期復旧工法の開発を目的として,かぶりコンクリートが剥落し鉄 筋がはらみだす程度まで損傷させたRC 柱を, 超高強度ひずみ硬化型セメント系複合材料(UHP-SHCC) とポリマーセメントモルタル(PCM)の 2 種類の材料で補修した後,再載荷を行い補修前後の構造性能を比 較している。その結果,UHP-SHCC で補修することで,最大荷重,最大荷重時の変位およびエネルギー吸
- 11 - 収量のいずれも損傷を受ける前のそれらと同程度まで回復させることができ,早期に復旧することが可能な ことを明らかにしている。 (5) 吹付け SHCC と FRP グリッド筋の組合せによる下面増厚補強性能 橋梁の下面増厚補強工法への適用を目的に,FRP グリッド筋を補強筋とし,吹付け SHCC により被覆を 行い,引張およびせん断付着試験並びに部材の静的および疲労試験により,その耐荷性状や破壊性状につい て検討を行っている。SHCC は PCM に比べ引張付着強度およびせん断付着強度がともに高いこと,既設部 の鉄筋の量が多いほど,降伏荷重前の初期剛性が高く,降伏荷重も大きいことを報告している。既設鉄筋の 降伏後においては,補強筋量の多いと部材剛性が大きく,最大荷重も大きくなること,破壊性状については, 増厚部の補強筋量が少ない供試体では主鉄筋降伏後,既設コンクリート梁の上縁部での圧壊と FRP 筋の一 部が破断して曲げ破壊に至ることを報告している。 (6) ASR によるひび割れが生じた擁壁への SHCC の吹付けによる修景と 5 年間の観察 アルカリシリカ反応(ASR)によるひび割れが生じた重力式コンクリート擁壁の修景を主目的として, SHCC の吹付けによる表面補修の試験施工を行っている。施工後 5 年を経過した時点でも,ひび割れ幅はほ ぼ0.1mm 以下に抑制されており,当初期待した SHCC の効果を確認している。 最終試験結果の要旨 (1) 公表論文 この論文の主要部分は,審査付き論文4 編と国際会議論文 3 編として既に発表済みである。この論文が 学位論文として完成された内容を有することを確認した。 発表論文リスト(学位論文に直接関係する論文) 審査付き論文 1) 林承燦,森井直治,閑田徹志,六郷恵哲:ASRによるひび割れが生じた擁壁へのHPFRCC吹付け による修景と5年間の観察,コンクリート工学年次論文集,Vol.31,No.2,pp.1333-1338,2009 1’) K.Rokugo, N.Morii, S-C.Lim, T.Kand, N.Sakata: Landscaping of ASR-cracked retaining wall
using HPFRCC shotcretes and observation over 5 years, Fracture Mechanics of Concrete and Concrete Structures (Framcos-7), pp.1676-1682, 2010
2) 梅田靖司,国枝稔,中村光,玉越隆史,森井直治:超高強度ひずみ硬化型セメント系複合材料で補 修されたRC柱の補修効果,コンクリート構造物の補修,補強,アップグレード論文報告集,Vol.10, pp. 349-356,2010
3) N. Morii, S-C. Lim, Y. Yamada, K. Rokugo: Effects of fluidity and placing method of HPFRCC on tensile performance test results, Fracture Mechanics of Concrete and Concrete Structures (Framcos-7), pp.1631-1637, 2010.5
4) 山田裕一郎, 森井直治, 加藤豊, 六郷恵哲:中空のシラスバルーンを用いて吹付け後の空気量 を確保したHPFRCCの引張性能,コンクリート工学年次論文集,Vol.32,№.1,pp.221-226,2010 4’) N. Morii, S-C. Lim, Y. Yamada, Y. Asano, K. Rokugo: Tensile performance of sprayed SHCC with hollow particles for keeping air content, Strain Hardening Cementitious Composites (SHCC2-Rio), pp.363-370, 2011.12 5) 坂井謙太郎,森井直治,井口裕介,内田裕市: 鉄筋補強したSHCCの引張挙動に関する研究,コン クリート構造物の補修,補強,アップグレード論文報告集,Vol.11,pp.155-162,2011 (2) 修得単位 指定された単位を修得していることを確認した。 (3) 公聴会 公聴会を開催して審査を行った。学位審査委員会で審議の結果,最終試験に合格と判定した。