Title
レチノイドによる核内転写因子を介した肝発癌制御の遺伝
子機構に関する研究( はしがき )
Author(s)
森脇, 久隆
Report No.
平成11年度-平成13年度年度科学研究費補助金 (基盤研究
(C)(2) 課題番号11670490) 研究成果報告書
Issue Date
2001
Type
研究報告書
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/528
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核に存在するステロイド・ホルモン受容体スーパーファミリーには、数十種類
の蛋白が属する。これらの受容体蛋白は、特定のリガンドの存在下に標的遺伝
子のレスポンス・エレメントと結合し、その遺伝子発現を調節する転写因子と
して働く。リガンドには各種ステロイド・ホルモンの他、甲状腺ホルモン、脂
肪酸、ビタミンAやDが同定されている。また、このような制御システムの
下流で調節を受ける機能は極めて広範囲に亘るが、その中に細胞の分化、アポ
トーシスや組織の形態形成など、発がん防御と密接な関係にあるものが含まれ
る。また、典型的には急性前骨髄球性白血病のように、受容体蛋白の機能的、
構造的異常が発がんに結びつくことも解明されつつある。
レチノイド(ビタミンA誘導体の総称)は核受容体のうちRAR、RXRのリガ
ンドであり、特に血球系・上皮細胞系の終末分化や、組織の形態形成を制御す
る。細胞分化の異常が細胞異型に、形態形成の異常が構造異型につながり、細
胞異型・構造異型が組戚学的な癌の定義であることを考えれば、レチノイドが
癌発生を抑制する方向で如何に重要な機能を有するか、容易に理解できよう。
また、この制御系の破綻が白血病、頭頚部腫瘍、子宮頚部癌、肝癌などの発生
に密接に関与すること、制御系の回復により発癌を抑制出来ることが最近明ら
かにされつつある。
本研究では特に肝癌発生に焦点を当て、核受容体蛋白のうちRXRの構造、機
能と言う面から解析を行った。その結果、(1)RXRリガンドは肝細胞の分化、
テロメラーゼ活性(プログラム細胞死)、アポトーシスを制御し、肝発がんを
抑制すること(YasudaI,JHepatol)、(2)肝癌発生過程でRXRがリン酸化に
よる構造修飾を受け、転写制御機能を喪失していること(Nishiwaki-MatsushimaR,
CancerRes)を解明した。これらの知見は、肝発がん機構の解明とレチノイド
を用いた肝発がん抑制を図る上で、極めて重要な基礎的情報であり、現在進行
中の臨床試験をさらに推進する力となるものであろう。