知的障害児を対象とした敏捷性の分析的研究
教科・領域教育専攻
生活・健康系コース(保健体育)
井 上 文 彰
1
. 緒 言
敏捷性とは,身体の一部または全身をできる
だけすばやく動かす能力のことであり,スポー
ツだけでなく, 日常生活においても重要な体力
要素の一つであるo 敏 捷 性 は い く つ か の 要 素 か
ら 構 成 さ れ る も の で あ り ザ チ オ ル ス キ ー
(1
9
6
2
)
は,敏捷性は,筋収縮速度(運動時間),
潜 伏 時 間 ( 反 応 時 間 ), 反 復 速 度 の 3要素から
構 成 さ れ , こ の 3要素は互いに相関がないと述
べているD しかし,これまでの敏捷性に関する
研 究 で は 3要素を個別に取り上げることが多
く 3つの要素から総合的に敏捷性について検
討したものはほとんど見受けられない。
一 方 , 知 的 障 害 児 は 健 常 児 よ り も 運 動 ・ 動 作
の ス ピ ー ド が 遅 い と い わ れ る 凸 し か し , 知 的 障
害 児 の 敏 捷 性 に つ い て 分 析 的 に 検 討 し た 研 究 は
見られない。そこで,本研究では,敏捷性を 3
つの要素(運動時間,反応時間,反復速度)に
分 け て 測 定 し , 敏 捷 性 能 力 の 実 態 を 明 ら か に す
ることを目的とした。さらに 知 的 障 害 児 に は
様々な障害種別があり,それぞれに特性が違っ
て い る こ と か ら , 障 害 種 別 ( 精 神 遅 滞 M R,
自閉症
:AU
, ダ ウ ン 症 :DW) に分けて敏捷性
について検討することも目的とした。
ll.
研 究 方 法
1 ) 対 象 者
徳 島 県 内 の 知 的 障 害 養 護 学 校 (3校 ) の 高 等
部 に 在 籍 す る 知 的 障 害 児
1
2
1
名
(MR90
名,
AU
指導教官 渡 遺 謙
24名, D W 7名),及びコントロール群として
高 校 生
2
0
名 を 対 象 と し て 測 定 を 行 っ た 。 し か
し,測定の結果,反応待問が大幅に
(
1
0
0
0
ms旬
以上)遅い者4名については除いて分析するこ
とにした。従って知的障害児については
1
1
7
名
(MR 8
8
名,
AU
22名, D W 7名 ) を 分 析 対 象
者とした。
2)測 定 内 容 と 方 法
①運動時間
レバーを持った手及び肘を机上に密着させて
置 き , そ の 状 態 か ら で き る だ け 速 く 前 腕 を 曲 げ
るときの運動の速さを運動時間測定器(鮒サン
ワ製,
NW4AS)
を 用 い 測 定 し た ( 運 動 幅 は
3
0
"
"
'
9
0
度 ま で の
6
0
度)。
② 反 応 時 間
ユ ニ バ ー サ ル カ ウ ン タ ー ( 明 光 社 製 , IC
S
T
A
T
E
)
を用い,青色ランプ提示後,被検者が
ボタンを押すまでの単純反応時間を測定したD
③ 反 復 速 度
ノミーソナルコンビューター (Macintosh LC-3
に独自にプログラム作成した装置)を用い 5
秒間にできるだけ速く,何回叩くことができる
かを測定した。
3)測定値について
運 動 時 間 , 反 応 時 間 の 測 定 は7回実施し,最
高と最低の値を徐く 5回の平均値を個人の測定
値 と し た 。 ま た , 反 復 速 度 に つ い て は2回測定
を行い,そのうち高い方の値を測定値とした。
p
n
u
η /
ω
A
4
4
m
.
結 果
1 )運動時間
コントロール群に比べ,知的障害児の平均値
は精神遅滞,自閉症,ダウン症のいずれも有意
に遅かった (MR116.7 msec, AU 105.7 m鉛c,D W
191.6 msec, Con柱。172.8 ms∞)。最も遅い値を
示したのはダウン症であり 精神遅滞,自関症
と の 間 に 有 意 差 が み ら れ た 。 ま た , 変 動 係 数
(CV) を求めた結果 (MR42.1 %, AU 21.3 %,
D W 29.1 %, Con位。112.9 0/0)知的障害児は変動
が非常に大きかった。さらに,コントロール群
の平均値より速い運動時間を示した知的障害児
は精神遅滞の中にのみ 13名おり,精神遅滞児
の14.8%を占めていた。
2)反応時間
コントロール群に比べ,知的障害児の平均値
は障害種別にかかわらず有意に遅かった(民銀
304.2 msec, AU 345.3 msec, D W 577.2 ms∞,
Con柱。1210.2 ms∞)。最も遅いのはダウン症で
あり,精神遅滞,自閉症との間に有意差がみら
れた。また,知的障害児は変動が非常に大きか
った (CV: M R 28.7 %, AU 36.6 %, D W 38.2
%
, Control 8.8 %)。コントロール群の平均値
より速い値を示した者は,精神遅滞児の中にの
み 6名 (6.8010)し、た。
3)反復速度
コントロール群に比べ,知的障害児の平均値
は 障 害 種 別 に か か わ ら ず 有 意 に 少 な か っ た
(MR 34.8回, AU 33.0回, D W 28.4回, Con位。1
45.6回)。また,最も遅いのはダウン症であり,
精神遅滞,自開症をの開に有意差がみられた。,
知的障害児はコントロール群よりも変動が大き
い傾向にあった (CV:M R 18.4 %, AU 14.6 %,
D W 14.4 %, Con柱。1 9.0 %)。コントロール群
の平均値より速い反復速度を示した知的障害児
は精神遅滞の中にのみ5名いたD
N. 考 察
知的障害児における敏捷性については,その
3要素全てにおいて健常児よりも遅延すること
が明らかとなった。しかし 個人の測定値に注
目すると 3要素各々において健常児の平均値
を超える値を示す知的障害児が存在した。この
ことから,知的障害児の敏捷性の機能は必ずし
も健常児より低い者ばかりでなく,要素からみ
ると,若干名であるが健常児と変わらない敏捷
牲を示す者が存在することが示唆された。
また,知的障害のグループは測定値のばらつ
きが非常に大きく,これは先行研究でも指摘さ
れてきた。しかし,個々の知的障害児の測定値
の標準偏差に着目すると 個人内のばらつきが
大きい者は 3割程度であり 7割もの知的障害
児が安定した反応を示すことができた。これま
で、知的障害児の測定値のばらつきが大きいこと
が言われてきたが,個々の知的障害児に自を向
けると必ずしもそうではないことがわかったD
障害種別による検討では,ダウン症児の敏捷
性が顕著に遅かった。ダウン症児の特性である
身体・運動機能発達の遅れが大きく関わってい
るものと考えられた白一方,知的障害児・者に
よく見ちれる運動不足等が原因で敏捷性を構成
する能力の一部が低い値を示している場合は,
体育指導等のトレーニングによって改善される
可能性を持っているのではないかと思われた。
v
.
総 括
本研究の結果から,知的障害児をひとまとま
りとして捉えるのではなく,個々の敏捷牲の実
態を的確に把握し,障害の特性に応じた指導の
重要性が示された。さらに詳しく障害種別等を
考慮した検討を行い,その運動特性に応じたき
め細かな指導計画を立てることが望まれるD
庁
i
つ
'
臼
A
4