Title
高次生命機能の制御を目的とした海洋性糖脂質の全合成研
究( 本文(FULLTEXT) )
Author(s)
岩山, 祐己
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(農学) 甲第569号
Issue Date
2011-12-28
Type
博士論文
Version
publisher
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/42955
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。高次生命機能の制御を目的とした
海洋性糖脂質の全合成研究
2011年
岐阜大学大学院連合農学研究科
生物資源科学
(岐阜大学)
岩山 祐己
2 略記一覧
本論文中において以下に示す省略表記を用いた。
Ac : acetyl
BDA : benzaldehyde dimethyl acetal Boc : t-butoxycarbonyl
Bn: benzyl Bz benzoyl CAc : chloroacetyl Cbz : benzyloxycarbonyl
CSA : (±)-10-camphorsulfonic acid DBTO : dibutyltin(IV) oxide
DBU : 1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene DIEA : N,N-diisopropylethylamine DMAP : 4-dimethylaminopyridine DMF : N,N’-dimethylformamide DMP : 2,2-dimethoxypropane EDC : 1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide Gc : glycolyl
HBTU : O-benzotriazole-N,N,N',N'-tetramethyluronium hexafluorophosphate HMPA : hexamethylphosphoramide
HOBt : 1-hydroxybenzotriazol
3 MPM : p-methoxybenzyl Ms : methanesulfonyl MS : molecular sieves Piv : pivaloyl SE : 2-(trimethylsilyl)ethyl
TBAB : tetrabutylammonium bromide TBAF : tetrabutylammonium fluoride TEA : triethylamine TES : triethylsilyl Tf : trifluoromethanesulfonyl TFA : trifluoroacetyl THF : tetrahydrofuran TIPS : triisopropylsilyl TMS : trimethylsilyl Troc : 2,2,2-trichloroethoxycarbonyl Ts : p-toluenesulfonyl
4 目次 緒言 7 第一章 ニセクロナマコ由来新奇ガングリオシド HLG-2 の全合成研究 第一節 合成戦略の立案 11 第二節 グルコースアクセプターの合成 15 第三節 ラクタム型シアロシドアクセプターの合成 17 第四節 シアリル(2→4)シアロシドの合成 第一項 シアリル化反応 19 第二項 ラクタム開環反応と三糖ドナーへの変換 21 第五節 セラミドの合成 第一項 末端分岐スフィンゴシンの合成 25 第二項 -ヒドロキシ脂肪酸の合成 27 第三項 セラミドアクセプターへの変換 29 第六節 三糖ドナーとセラミドアクセプターの縮合反応 31 第七節 脱保護反応 33 第八節 総括 34
5 第二章 トラフナマコ由来新奇ガングリオシド HPG-7 の全合成研究 第一節 合成戦略の立案 35 第二節 非還元末端二糖の合成 第一項 シアル酸ドナーの設計 39 第二項 シアル酸ドナーとグリコール酸エステルの縮合反応 42 第三項 フコースドナーの合成 46 第四項 シアル酸 4 位のフコシル化 48 第五項 非還元末端二糖カルボン酸への変換 51 第三節 還元末端三糖の合成 第一項 各種ラクタム型シアロシドアクセプターを用いた シアリル化反応の比較 53 第二項 保護基の変換とラクタム開環反応 59 第三項 非還元末端二糖との縮合反応 61 第四節 N-Troc O-CAc シアル酸ドナーを用いた還元末端三糖の合成と糖鎖伸長 第一項 新規合成戦略の立案 63 第二項 シアル酸ドナーの合成とシアリル化反応 65 第三項 還元末端三糖アミンへの変換 67 第四項 非還元末端二糖との縮合反応 69 第五項 ラクタム開環反応の検討 71 第五節 5-アジドシアル酸ドナーを用いた還元末端三糖の合成と糖鎖伸長 第一項 新規合成戦略の立案 73 第二項 シアリル化反応 75 第三項 ラクタム開環反応 76
6 第四項 非還元末端二糖との縮合反応 77 第五項 五糖ドナーへの変換 79 第六節 セラミドの合成 81 第七節 五糖ドナーと n-ヘキサノールおよびセラミドとの縮合反応 85 第八節 脱保護反応 87 第九節 総括 91 実験の部 93 謝辞 133
7 緒言 我々生命は、DNA→RNA→タンパク質のセントラルドグマによって構成され、日々の活 動を支えている。生体を構成しているのは 50 兆個を超える細胞から成り、それらは常に新 しく作られ続けている。このような生命現象に最も深く関わっている分子は、遺伝子を構 成している核酸と、遺伝子の持つ情報から創りだされるタンパク質であり、両者は鎖状分 子であり、核酸は第一の生命鎖、タンパク質は第二の生命鎖と呼ばれている。それぞれの 働きについては古くから多くの研究者によって次々に明らかとされてきており、現在では 科学の力によって、それぞれの分子を自由に操ることが出来るまでに至っている。このよ うなめまぐるしい研究の発展によって、遺伝子とタンパク質から生命現象を全て把握でき る時代が来るのではと思われたが、もう一つの重大な生命鎖として、糖鎖の働きが注目さ れてきた。糖鎖は長らく細胞壁などの組織や、エネルギー源としての働きしか知られてい なかったが、研究が進むにつれて「第三の生命鎖」と呼ばれるようになり、細胞認識、分 化、発生、免疫、癌化、感染、ホルモン作用、酵素など、非常に多彩な働きを示すことが 明らかとなってきた。これらの働きがわかってくると、糖鎖によって生命活動を制御する ことが出来ないかという期待が深まり、機能を持った糖鎖を人工的に作り出す研究が始ま った。特に疾病に関わる糖鎖については深い研究がなされ、今日までに様々な糖鎖が合成 されてきた。その中で、本研究と関わりの深いものに、神経系に関わる糖脂質があり、そ れらはシアル酸を含むスフィンゴ糖脂質、ガングリオシドと呼ばれている。ガングリオシ ドは細胞表層に存在し、シグナル伝達や免疫機能に関わっている。そして、神経突起伸長 作用があることがわかっており、ガングリオシド GM1 や GQ1b はその働きが特に強いこと から、合成が盛んに行われてきている。このようなガングリオシドは、哺乳動物から多数 見つかってきたが、近年、海洋生物から非常に特異な構造を持つガングリオシドが多数発 見されてきた。特に、ウニ、ヒトデ、ウミユリ、ナマコなどの棘皮動物から非常に多くの
8 ガングリオシドが見つかっている1。これらは生物種によってそれぞれ固有の構造を持って おり、それらの生体での働きは詳しくわかっていない。しかし、これらのガングリオシド は、神経成長因子(NGF)存在下、マウス副腎由来褐色細胞(PC12)に対し、強力な神経 突起伸長作用を示すことが明らかとなった。その作用は、Fig.1 に示すように、哺乳動物由 来ガングリオシドと同等、あるいはそれ以上のものであり、作用機序を解明することで、 我々人類の神経疾患に対し、治療改善薬の開発に寄与できる可能性を秘めている。 Fig.1 海洋生物由来ガングリオシドによる神経突起伸長作用の比較 棘皮動物由来ガングリオシドは Table 1 に示すように非常に多くの分子種が知られており、 それらの中にはシアル酸二量体、三量体を持つものも知られている。さらに、シアル酸の 5 位にはアセトアミド基とグリコリルアミド基の両方が存在し、1 分子内に両者が共存する例 1 a) 樋口隆一, 医薬資源としての棘皮動物ガングリオシド, ファルマシア, 2002, 38(9), 851-855; b) 山田耕史, 医薬素材としての棘皮動物ナマコ類のスフィンゴ糖脂質成分に関す る創薬科学的研究, 薬学雑誌, 2002, 122(12), 1133-1143; c) P. Muralidhar, P, Radhika, N. Krishna, D. Venkata Rao, Ch. Bheemasankara Rao, Natural Product Sciences 2003, 9(3), 117-142.
9 もいくつか知られている。また、8 位が硫酸化2されたものや、8 位や 9 位がメチル化3され た分子種も知られている。シアル酸の結合様式も、哺乳動物由来ガングリオシドでは見ら れない、(2→4)、(2→11)結合が存在し、シアル酸 4 位や 8 位に他の糖がグリコシル化さ れた構造も発見されている。セラミドに注目しても、一つ一つのガングリオシドにおいて、 炭素鎖の違いや、分岐炭化水素鎖、位にヒドロキシ基を持つ脂肪酸などが存在することが 知られている。これらの構造は棘皮動物由来のものに特有で、他のガングリオシド類では 未だに発見されていない。そこで、これらのガングリオシドを有機化学的手法により合成 することで、神経突起伸展のメカニズムを解明し、疾患治療の研究へと役立てたらと願い、 本研究では、ナマコに由来する 2 種類のガングリオシド、HLG-24と HPG-75(Fig.2)の全合 成を目指すこととした。 Table 1 海洋生物から発見された代表的なガングリオシドの例 生物種 代表的なガングリオシド ヒトデ類 LMG-2, AG-3, GP-2 LG-2, LLG-3, GAA-7 ナマコ類 CG-1, HPG-1, HPG-7, HPG-8, HLG-1, HLG-2, HLG-3 ウミユリ類 CJP-1, CJP-2, CJP-3 クモヒトデ類 OSG-1, OSG-2 ウニ類 Hp-s6 2
T. Ijuin, K. Kitajima, Y. Song, S. Kitazume, S. Inoue, S. T. Haslam, H. R. Morris, A. Dell, Y. Inoue, Glycoconj. J. 1996, 13, 401-413.
3
a) R. Higuchi, K. Inukai, JX. Jhou, M. Honda, T. Komori, S. Tsuji, Y. Nagai, Liebigs Ann. Chem.
1993, 359-366; b) K. Arao, M. Inagaki, R. Higuchi, Chem. Pharm. Bull. 2001, 49, 695-698.
4
K. Yamada, R. Matsubara, M. Kaneko, T. Miyamoto, R. Higuchi, Chem. Pharm. Bull. 2001, 49(1), 447-452.
5
K. Yamada, Y. Harada, T. Miyamoto, R. Isobe, R. Higuchi, Chem. Pharm. Bull. 2000, 48(1), 157-159.
10
11 第一章 ニセクロナマコ由来新奇ガングリオシド HLG-2 の全合成研究 第一節 合成戦略の立案 HLG-2 を合成するにあたって、最も困難と予想されるのは(2→4)結合を介したシアル酸 二量体の構築であると考えられる。シアル酸 4 位や 8 位の水酸基は、5 位アセトアミド基と の水素結合、および立体障害のため、反応性が低いことが推察されてきている。そのため、 これまでにシアリル化に関して様々な方法が検討されてきており、その中で当研究室の Ando らによって開発されたラクタム型シアロシドアクセプターを用いた方法では、シアリ ル(2→4)シアロシドを収率 66%で得ることに成功している(Scheme 1)6。本研究において も、当手法を用いることで効率的に目的とする HLG-2 の三糖骨格を合成できると考察し、 以下のような合成戦略を立案した。 Scheme 1 Ando らの開発したシアリル(2-4)シアロシドの構築法 6
12 最初に、N-TFAc シアル酸ドナー7とグルコースアクセプターをそれぞれ合成し、シアリル 化を行うことでシアリル(2→6)グルコシドを合成する。得られた二糖をラクタム化し、ア クセプターとした後に N-Troc シアル酸ドナー8とのシアリル化反応に供する。そして、得ら れた三糖のラクタムを開環し、ドナーへと変換してセラミドとの縮合反応に供し、最後に 脱保護を行うことで目的の HLG-2 を得ることとした。(Scheme 2) グルコースアクセプターに関しては、従来、1 位を SE 基、2,3,4 位を Bn 基で保護したも のが用いられてきた。しかし、このアクセプターを用いた場合、合成の終盤でドナーへと 変換する際、グルコース 2 位には Ac 基が導入されることとなる。2 位に Ac 基を用いたグ リコシル化反応では、オルソエステルの副生による収率低下が懸念される。そこで、本研 究ではドナーに変換する際に、グルコース 2 位に Bz 基を導入できるように設計を工夫する こととした。しかし、あらかじめ 2 位に Bz 基を導入すると、シアル酸のラクタム化反応の 際に脱保護を受けてしまうことから、アクセプター合成の段階では選択的に脱保護が可能 な MPM 基を 2 位に導入し、ドナーへと変換する過程において、適切なタイミングで Bz 基 へと変換することとした。 また、シアル酸ドナーに関しては、N-TFAc および N-Troc シアル酸ドナーといった、反応 性および立体選択性の高い供与体を用いることで、収率の向上を図った。また、N-TFAc 基 はラクタム化反応の際、弱塩基性条件にて Ac 基と同時に脱保護され、アミンを生じてシア ル酸 1 位のカルボニル炭素を攻撃するという点、N-Troc 基は選択的な Troc 基の脱保護と、 それに続く Gc 基の導入を行うことが可能という点で、戦略的に使い分けることとした。 さらに、ラクタム型シアロシドアクセプターの設計についても、Ando らよって開発され た 9-O-Bz 保護型のアクセプターでは、4 位のシアリル化の他、8 位がシアリル化された三 糖や、4,8 位の両方がシアリル化された四糖が生成し、目的化合物の精製が困難となること 7
S. Komba, C. Glalustian, H. Ishida, T. Feizi. R. Kannagi, M. Kiso, Angew. Chem. Int. Ed. 1999, 38, 1131-1133.
8
a) C.–T. Ren, C.-S. Chen, S.-H. Wu, J. Org. Chem. 2002, 67, 1376-1379; b) H. Ando, Y. Koike, H. Ishida, M. Kiso, Tetrahedron Lett. 2003, 44, 6883-6886.
13 が懸念されるため、本研究では、シアル酸 8,9 位をイソプロピリデン基で保護したアクセプ ターを合成することとした。これにより、位置異性体の生成を抑制し、目的化合物の収率 向上、および精製が容易になることを期待した。 セラミドに関しても、スフィンゴシンの末端に炭化水素鎖の分岐が存在し、脂肪酸には 2 位にヒドロキシル基が存在するなどといった、一般的な哺乳動物由来ガングリオシドとは 異なる構造を有しているため、いくつかの低分子化合物を出発物質とし、種々の手法を組 み合わせることによって合成を行うこととした。
14
15 第二節 グルコースアクセプターの合成 第一節で述べたように、グルコースアクセプターを合成する際、2 位水酸基を他と区別し て保護する必要がある。そこで、本研究では 4,6 位をベンジリデン基で保護した SE-グルコ シド9を出発物質とし、3 位 Bn 化、2 位 MPM 化を行い、最後にベンジリデンの還元的環開 裂反応10により 6 位を遊離とすることで、目的とするアクセプターを合成できると考案した。 最初に、Hung らによって開発された 3 位 Bn 化11の検討を行った(Scheme 3)。化合物 1 を出発物質とし、TMSCl、Et3N により 2,3 位を TMS 化し、続いて PhCHO、Et3SiH、TMSOTf によって 3 位 Bn 化を行った。その結果、収率 61%にて目的とする化合物 2 を合成すること に成功したが、この反応において再現性が得られず、ほとんどの場合において、構造不明 の副生成物が多く得られる結果となってしまった。Hung の手法では、4,6 位ベンジリデン保 護型グルコシドの場合、-OMe、-SPh 体ではほぼ定量的な 3 位 Bn 化を達成しているが、 -OSE 体では検証されていなかったため、何らかの原因により選択的 Bn 化が妨げられてし まったと考えられる。 Scheme 3 Hung の方法による 3 位選択的 Bn 化 そこで、大量合成に向けた 3 位 Bn 化の手法として、Scheme 4 に示した、スズアセタールを 経由する Bn 化を行うこととした。この手法では、3-O-Bn 体が 53%と中程度の収率で得ら 9
K. Jansson, S. Ahlfors, T. Frejd, J. Kihlberg, G. Magnusson, J. Org. Chem. 1988, 53, 5629-5647. 10
S. Takano, M. Akiyama, S. Sato, K. Ogasawara, Chem. Lett. 1983, 1593-1596. 11
C.-C. Wang, J.-C. Lee, S.-Y. Luo, H.-F. Fan, C.-L. Pai, W.-C. Yang, L.-D. Lu, S.-C. Hung, Angew. Chem. Int. Ed. 2002, 41, 2360-2362.
16 れ、副生成物として 2-O-Bn 体が 40%前後の収率で得られるが、シリカゲルカラムクロマト グラフィーによって容易に分割することが可能であるため、合成の初期段階の反応として は、さほど問題ないと判断した。 続いて、遊離の 2 位水酸基に対し、MPMCl、NaH を作用させ MPM 化を行った。この際、 試薬に由来する多くのスポットが TLC 上で見られ、目的物質を単離することは不可能であ ったが、2 位の MPM 化自体はほぼ定量的に進行したので、粗精製の後に次の反応に用いる こととした。 最後に、DIBAL-H を用いてベンジリデンの還元的環開裂反応を行い、化合物 3 を収率 74% (2 steps) にて得た。構造確認のため、化合物 3 のアセチル化を行ったところ、1H-NMR にお いて、グルコース 6 位プロトンのシグナルが、化合物 3 では 3.71, 3.87 ppm であったのに対 し、化合物 4 では 4.24, 4.33 ppm と、低磁場シフトすることを確認したので、化合物 3 の構 造が正しいと判断した。 Scheme 4 スズアセタールを経由した 3 位 Bn 化とグルコースアクセプターの合成
17
第三節 ラクタム型シアロシドアクセプターの合成
第二節で合成したグルコースアクセプターを用い、N-TFAc シアル酸ドナーによるシアリ ル化を行った。(Scheme 5)
アクセプター3 に対し、シアル酸ドナー5 を 1.25 当量用い、MeCN-CH2Cl2中、MS3Å 存在
下、-30℃にて NIS (2.0 eq. for donor)-TfOH (0.10eq. for donor)12を活性化剤として用いたとこ
ろ、目的とする化合物 6 が収率 75%にて得られた。この反応における副生生物として、(2→6) 結合した化合物 7 が収率 13%にて得られた。 続いて、得られた化合物 6 を NaOMe、MeOH により脱 Ac 化し、化合物 8 を収率 94%に て得た。その後、化合物 8 を DMP、CSA によるイソプロピリデン化反応に供し、収率 96% にて化合物 9 を得た。化合物 9 の構造確認は、グルコースアクセプターの際と同様、Ac 化 による 4,7 位プロトンの低磁場シフトを確認することによって行った。 次に、シアロシドのラクタム化反応を行った。化合物 9 に対し、MeOH 中、Drierite 存在 下、NaOMe を 2.5eq.用い、還流下 3 日間反応させることにより、収率 95%にてラクタム型 シアロシドアクセプター10 が得られた。ラクタム化が起こったことは、1 H-NMR にて、シ アル酸 3 位アキシャル水素と、3 位エカトリアル水素の形状が、イス型シアル酸のものとは 逆になること(通常は H-3ax が near t, H-3eq が dd →ラクタムでは H-3ax が dd, H-3eq が near
t)、メチルエステルのシグナルが消滅すること、および質量分析の結果から確認された。
12
a) G. H. Veeneman, S. H. van Leeuwen, J. H. van Boom, Tetrahedron Lett. 1990, 31, 1331-1334; b) P. Konradsson, U. E. Udodong, B. Fraser-Raid, Tetrahedron Lett. 1990, 31, 4313-4316; c) A. Hasegawa, T. Nagahama, H. Ohki, K. Hotta, H. Ishida, M. Kiso, J. Carbohydr. Chem. 1991, 10, 493-498.
18
19 第四節 シアリル(2→4)シアロシドの合成 第一項 シアリル化反応 第三節で合成したラクタム型シアロシドアクセプター10 を用い、N-Troc シアル酸ドナー との縮合反応を行った。(Scheme 6) 反応条件は、これまで Ando らによって行われてきた 9-O-Bz 型のラクタムアクセプター を用いた場合のシアリル化条件を参考にし、シアル酸ドナー11 をアクセプター10 に対し 2.0 eq.用い、EtCN 中、MS3Å 存在下、-40℃にて NIS(1.5 eq. for donor)-TfOH(0.10 eq. for donor) を 活性化剤として反応を行ったところ、目的とするシアリル(2→4)シアロシド 12 が収率 60% にて得られた。この際、副生生物としてシアリル(2→4)シアロシド 13 を 9%、その他(2→7) および(2→7)結合したと考えられる三糖、シアル酸 4 位と 7 位の両方がもしくはシア リル化されたと考えられる四糖がそれぞれ痕跡量得られた。痕跡量の生成物については精 製が困難なため単離には至っていないが、従来の 9-O-Bz 保護型のラクタム型アクセプター の場合とほぼ同程度の収率にて目的とする(2→4)シアロシドを与えながら、位置異性体の 副生を抑制することに成功した。 化合物 12、13 の立体配置の決定は、C-1 位カルボニル炭素と C-3 位アキシャル水素との 間のカップリング定数を、C-1 位メチルエステルの水素とのカップリングのみを打ち消して 観測する gated-decoupling 法13にて測定し、比較することにより行った。その結果、化合物 12 の3JC-1,H-3ax = 3.8 Hz, 化合物 13 の3JC-1,H-3ax < 1.0 Hz という結果が得られ、それぞれが体、 体であることが確認された。 13
a) J. Haverkamp, T. Spoormaker, L. Dorland, J. F. G. Vliegenthart, R. Schauer, J. Am. Chem. Soc.
1979, 101, 4851-4853; b) H. Hori, T. Nakajima, Y. Nishida, H. Ohrui, H. Meguro, Tetrahedron Lett. 1988, 29, 6317-6320; c) S. Prytulla, J. Lauterwein, M. Klessinger, J. Thiem, Carbohydr. Res. 1991, 215, 345-349.
20
Scheme 6
21
第二項 ラクタム開環反応と三糖ドナーへの変換
第四節第一項で合成した化合物 12 に対し、種々の保護基の変換反応を行った。(Scheme 7)
22 最初に、化合物 12 のイソプロピリデン基を 80%酢酸水溶液中、45℃にて切断し、続いて 遊離水酸基のアセチル化を行い、収率 82%にて化合物 14 を得た。 この際、反応条件によってはラクタム環のアミドへ Ac 基が導入されることがあった。 ラクタム環上のアミドは、一般的なアミドと比較して水素が引き抜かれやすく、アシル 化反応の際にアミド上にもアシル基が導入されることがある。この際、得られたイミド体 はアミドのものと比較して不安定であり、分解を受けやすくなる。その性質を利用して、 当研究室ではラクタム開環の条件が検討されてきており、ラクタム環上のアミドに Cbz 基 を用い、アルカリ加水分解を行うことで高収率での開環が達成されてきた。 そこで、本研究においてもこの手法を用いてラクタムの開環を行うこととした。 また、ラクタム環のアミドがアシル化などを受けやすいことを考慮し、変換工程の順番 を慎重に選択する必要がある。そこで、MPM 基を Bz 基へと変換する反応や、Troc 基を BnGc 基に変換する反応の前に、ラクタムのアミドに Cbz 基を導入することとした。 化合物 14 に対し、ピリジン中、CbzOSu と DMAP を作用させたところ、反応の進行は遅 く、試薬の追加や昇温等を行ったが出発物質を完全に消費させることはできなかった。結 果として、目的とする N-Cbz 体 15 の最高収率は 79%であった。また、過剰に用いた試薬の 除去が困難であったが、出発物質を回収して再度反応に供することが可能なため、Cbz 化反 応を繰り返すことで十分な量の三糖ユニット供給を行った。この点については、第二章の HPG-7 合成の際にも還元末端三糖は同様の中間体として存在するため、課題として挙げら れる。ただし、HPG-7 合成においては最終的に導入の容易な N-Boc 基を用いた別の合成ル ートにてラクタム開環を達成したので、第二章にて後述する。 続いて、MPM 基を Bz 基へ変換した。化合物 15 を CH2Cl2-H2O 中、DDQ によって処理す ることで MPM 基の選択的脱保護を行った。続いてピリジン中、Bz2O と DMAP によって水 酸基の Bz 化を行ったところ、収率 93% (2 steps) にて化合物 16 が得られた。
23 さらに、化合物 16 の Troc 基を亜鉛-銅錯体14で除去し、BnGcCl によるグリコリル基導入 を行ったところ、収率 89% (2 steps) にて化合物 17 が得られた。 次に、得られた化合物 17 に対し、ラクタム開環反応を行い、三糖ドナーへと変換した (Scheme 8)。 Scheme 8 ラクタム開環は 10%の TEA を含む MeCN 溶液と水を混合した溶液中、40℃にて反応を行 うことで、ラクタム環内のカルボニル炭素へ水酸化物イオンが攻撃することで行われ、結 14
24 果として得られる化合物は 1 位がカルボン酸遊離、5 位には Cbz 基が保持されたものとなる。 化合物 17 を上述の方法で処理することで、まずはイス型シアル酸のカルボン酸遊離体とし た。この際、副生生物として、Cbz 基が脱離してラクタムが維持された化合物や、一部の Ac 基が脱離した化合物が確認され、TLC 上では multi spots となったが、混合物のまま Ac 化を行うことで、Ac の脱離した化合物は、ラクタムが開環してイス型シアル酸になったも のと、Cbz 基が脱離し、ラクタムが維持された化合物について、それぞれ一点に収束した。 続いて、MeI、K2CO3によってメチルエステル化を行い、収率 73% (3 steps) にて化合物 18 が得られた。 引き続き、化合物 18 に対し、EtOH-THF-AcOH 中、水素雰囲気下、Pd(OH)2-C を用いた 接触水素添加を行い、Bn 基と Cbz 基を除去した後、Ac 化を行うことにより、収率 89% (2 steps) にて化合物 19 が得られた。 最後に、三糖をグリコシルドナーへと変換する反応を行った。化合物 19 を CH2Cl2に溶解 し、0℃にて TFA を作用させることにより SE 基の除去を行った。得られたヘミアセタール に対し、CCl3CN と DBU を作用させることで、目的とするグリコシルトリクロロアセトイ ミデートドナー20 を収率 87% (2 steps) にて得た。
25 第五節 セラミドの合成 第一項 末端分岐スフィンゴシンの合成 HLG-2 の持つセラミドには、スフィンゴシン部位の末端にアルキル鎖の分岐が存在する。 そこで、最初に Takikawa らの報告15に従って、末端分岐を持つアルキンの合成を行うこと とした。(Scheme 9) Scheme 9 まず、9-decene-1-ol(化合物 21)を出発物質とし、水酸基の Ts 化を行い、続いて iBuMgBr を用いた Grignard 反応により、末端分岐アルケン 22 とした(収率 94%, 2 steps)。次に、Br2 を用いてアルケンへの臭素付加を行った後、18-crown-6 存在下、t-BuOK によって処理する ことで、目的とする末端分岐アルキン 23 を得た(収率 62%, 2 steps)。 続いて、得られた 23 と、Garner’s aldehyde16(化合物 24)の間での炭素-炭素結合生成反 応を行った(Scheme 10)。Murakami らの報告17を参考に、アルキン 23 を THF に溶解し、 シュワルツ試薬[Cp2Zr(H)Cl]を作用させた後、Garner’s aldehyde と触媒量の ZnBr2を含む THF 溶液を系内に滴下することにより、収率 56%にて目的とするスフィンゴシンの保護体 25 を得ることに成功した。続いて、化合物 25 を 80%酢酸水溶液にて 45℃で反応させ、化 15
H. Takikawa, D. Nozawa, A. Kayo, S. Muto, K. Mori, J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1 1999, 2467-2477.
16
P. Garner, J. M. Park, J. Org. Chem. 1987, 52, 2361-2364. 17
26
合物 26 とした(収率 67%)。さらに、化合物 26 の Boc 基を TFA で切断することで、収率 81%にて遊離のアミンを持つ化合物 27 を得た。
27 第二項 -ヒドロキシ脂肪酸の合成 HLG-2 の持つセラミドに含まれる-ヒドロキシ脂肪酸の合成は、過去に Sugiyama らに よる報告がある18。しかし、その手法では 1-heptyne と 1-bromotetradecane を用いた増炭反応 の後、三重結合の転移というステップがあり、実際に本研究でも行ったが、報告例を再現 することは出来ず、構造不明の化合物を多数与える結果となってしまった。 そこで、本研究では合成法を改良し、1-イコサノール(化合物 28)を出発物質とする方 法を考案した。(Scheme 11) Scheme 11 18
28 最初に、化合物 28 を Dess-Martin 酸化19によってアルデヒド 29 とした。得られた 29 を、 CBr4-PPh320によって収率 96%にてジブロモオレフィン 30 へと変換し、続いて 30 を-78℃で n-BuLi にて処理することにより、アルキン 31 を収率 97%で得た。 得られた化合物 31 を THF に溶解し、HMPA 存在下、n-BuLi によってアルキンのリチオ 化を行った後、benzyl-(R)-(-)-glycidyl ether(化合物 32)を加えてエポキシドの開裂を伴う増 炭反応を行った。この際、-78℃では反応がほとんど進行せず、エポキシドの開裂のみが確 認されたが、反応温度を上昇させるごとに収率が改善し、室温の場合では 78%の収率で化 合物 33 を得ることに成功した。得られた化合物の水酸基を Bz 化し、収率 99%にて化合物 34 へと導き、接触水素添加により三重結合の還元と Bn 基の除去を同時に行い、得られた化 合物の水酸基を Dess-Martin 酸化によってアルデヒドへと変換し、収率 87% (2 steps) にて化 合物 35 とした。 最後に、化合物 35 を Pinnick 酸化21によりカルボン酸へと変換し、定量的に化合物 36 を 得た。 19
D. B. Dess, J. C. Martin, J. Org. Chem. 1983, 48, 4155-4156. 20
E. J. Corey, P. L. Fuchs, Tetrahedron Lett. 1972, 13, 3769-3772. 21
29
第三項 セラミドアクセプターへの変換
第一項、第二項で合成した末端分岐スフィンゴシン 27 と-ヒドロキシ脂肪酸 36 を、アミ ド形成反応に供した。
化合物 27(1.0 eq.)と化合物 36(1.2 eq.)を混合し、CH2Cl2に溶解した後、EDC・HCl を 作用させ、2 本鎖セラミド誘導体である化合物 37 を収率 68%にて得た。続いて、アクセプ ターへと変換するため、まず 1 級水酸基に選択的保護・脱保護が可能な TIPS 基を導入する こととした。化合物 37 を DMF に溶解し、TIPSCl とイミダゾールにより 1 級水酸基が TIPS 化された化合物 38 を収率 83%にて得た。次に 2 級水酸基を Bz 基で保護し、化合物 39 を収 率 99%にて得た。最後に、TBAF を用いたシリルエーテルの脱保護を行った。この際、反応 系内が塩基性に傾き、Bz 基の転移反応が起こることが懸念されるため、AcOH を添加する ことで Bz 基転移の抑制を期待した。
化合物 39 を THF に溶解し、TBAF (2.0 eq.) と AcOH (8.0 eq.) による脱シリル化反応に供 したところ、Bz 基の転移反応はほとんど見られず、収率 90%にて目的とするセラミドアク セプター40 の合成に成功した。(Scheme 12)
30
31
第六節 三糖ドナーとセラミドアクセプターの縮合反応
第四節までに述べた三糖ドナーと、第五節で述べたセラミドアクセプターの縮合反応を
行い、三糖セラミドの構築を試みた。(Scheme 13)
最初に、化合物 20(1.0 eq.)と、化合物 40(1.5 eq.)を CH2Cl2に溶解し、MSAW-300 存 在下、0℃にて、TMSOTf (0.10 eq. for donor) による縮合反応を行ったところ、TLC 上では、 ドナーの消費が滞っているように見られたため、反応開始から 3 時間の時点で TMSOTf を ドナーに対して 0.10 eq.追加した。しかし、24 時間経過後も TLC 上での目立った変化は見 られなかったので、反応を停止させ、目的物の精製を行ったところ、収率 30%にて目的と する三糖セラミド保護体 41 を得た。 この反応において、グルコース 2 位に立体的にかさ高い Bz 基を用いていたことにより、 オルソエステルの副生は見られなかった。しかし、グリコシルイミデート 20 が未反応のま ま回収されたことから、活性化剤の量を増やして反応を行うことにより、より収率が向上 すると考え、TMSOTf をドナーに対して 0.40 eq. 用いることとした。また、アクセプターに 関しては水酸基が TMS 化された化合物や Bz 基が転移した化合物が見られ、未反応アクセ プターの精製はやや困難となった。そこで、合成に多段階を要する貴重な化合物を過剰量 用いるのを避けるため、ドナーに対して 1.3 eq.に減らし、再度縮合反応を行った。その結果、 化合物 41 の収率は 49%に向上した。
32
33 第七節 脱保護反応 第六節で得られた三糖セラミド保護体 41 の脱保護反応を行った。化合物 41 は、すべて の水酸基がアシル系保護基で保護されており、カルボン酸はメチルエステルで保護されて いるため、塩基による可溶媒分解とケン化反応をワンポットで行うことにより、目的とす る HLG-2 を得られると考えられる。そこで、化合物 41 を MeOH-THF に溶解し、NaOMe によって脱アシル化反応を行った。TLC 上で、糖由来のスポットに UV 吸収が見られなく なった、すなわち Bz 基が脱保護されたのを確認したところで、反応系内に水を加え、メチ ルエステルのケン化を行った。5 日間反応を行った後、Sephadex LH-20 を用いてゲルろ過に よる精製を行ったところ、純粋な HLG-2 の完全脱保護体(化合物 42)を定量的に得ること に成功した。 Scheme 14
34 第八節 総括 本研究での最大のポイントは、シアリル(2→4)シアロシドの構築であった。反応性の低 いシアル酸 4 位に対し、どれだけシアリル化が進行するかが注目されたが、Ando らによっ て開発されたラクタム型シアル酸を用いる方法を改良し、8,9 位を保護したアクセプターを 用いることにより、位置異性体の生成を従来法より減らすことが出来た。しかし、未だシ アリル化の収率は 6 割程度にとどまる結果となり、わずかながらも 7 位もシアリル化を受 けることが判明した。これらの点は、今後 HLG-2 のようなシアリル(2→4)シアロシド構造 を持つ化合物の合成を行っていく上で改善すべき課題であると考えられる。特に位置異性 体は、TLC 上でのスポットの位置が非常に近く、それらの分離が非常に困難であるため、 目的とするシアリル(2→4)シアロシドを純粋な形でより多く得るために、極力生成を避け なければならない。 ラクタム開環反応についても、Cbz 基の導入効率の悪さ、開環時に 3 段階を要するなど、 まだ効率的とは言いがたい結果であった。ラクタム型シアロシドアクセプターの持つ、シ アリル化の際に効果的といったメリットが、皮肉にもシアリル化後の操作の煩雑さ、およ び収率低下の段階を経ることで打ち消されてしまっているので、ラクタム型シアル酸への シアリル化後の変換工程に課題が残されている。これらの問題点を解決できれば、今後様々 な結合様式のシアル酸多量体の合成がより容易に行えるようになると期待している。 グルコース 2 位をあらかじめ MPM 基で保護する戦略に関しては、糖鎖伸長の際に、MPM 基は全く影響を受けず、必要な場面でグルコース 2 位を容易に Bz 基に変換できた上、セラ ミド導入の段階でも、オルソエステルの副生を抑え、収率 49%と中程度ながらも糖鎖への 導入を実現できたことから、非常に効果的な手法であったといえる。 最終的に、ガングリオシド HLG-2 を世界で初めて全合成することに成功した。
35 第二章 トラフナマコ由来新奇ガングリオシド HPG-7 の全合成研究 第一節 合成戦略の立案 第一章で述べたガングリオシド HLG-2 の全合成を足がかりに、本研究ではさらに複雑な 構造を有するトラフナマコ由来ガングリオシド HPG-7 の全合成を目指すこととした。 HPG-7 の最も特徴的な構造は、糖鎖部分の中に存在する、すべて異なる結合様式でつな がった内部シアル酸三量体である。このような構造を持つ複合糖質は、これまで他に見つ かっておらず、合成例も無いため、未知の領域を探索する非常に挑戦的な課題であるとい える。実際には、HPG-7 の部分構造に注目した合成研究は過去に行われてきていたが、芳 しい結果を得ることは出来なかった。そこで、本研究は HPG-7 の新規合成経路を確立し、 複雑な糖鎖の合成法の開発に寄与することを目的としている。 合成に当たって最も重要な点は、シアル酸を介したそれぞれ異なるグリコシド結合をい かに効率的に達成できるか、ということである。まず、還元末端に存在する三糖骨格は、 HLG-2 と共通の構造である NeuGc(2→4)Neu(2→6)Glc のため、第一章で述べた合成法を 参考に、より効率的な合成を目指すこととした。また、非還元末端にはフコースがシアル 酸 4 位に結合した部分構造を有しており、その合成例は Ando らによって報告されており、 シアル酸受容体は 4,7 位遊離のジオール型で、ラクタムを有するものとイス型の N-Ac シア ロシドをそれぞれ用いている22(Scheme 15)。しかし、収率、位置選択性、立体選択性の点 で課題を残す結果となっている。そこで、位置選択性の問題は 7 位水酸基に保護基を導入 しておき、4 位のみを遊離にすることが出来れば解決すると考え、4 位を CAc 基、7 位を 22
H. Ando, H. Shimizu, Y. Katano, Y. Koike, S. Koizumi, H. Ishida, M. Kiso, Carbohydr. Res. 2006, 341, 1522-1532.
36 Ac 基で保護したシアル酸ドナーを設計した。さらに 5 位にはドナー、およびアクセプター23 両方の点で有用性が示されている N-Troc 基を選択することで、より効率的な合成が実現で きるのではないかと考察した。 Scheme 15 Ando らによるシアル酸 4 位フコシル化の検討 23
37 さらに、シアル酸同士の(2→11)結合に関しては、Ren らによって合成法が確立されてい る24。筆者らは、先にグリコール酸エステルをシアリル化し、後にエステルをカルボン酸に 変換してからもう一方のシアル酸の 5 位アミンとの脱水縮合で(2→11)結合を構築してお り、最終的にシアル酸 8 量体の合成を達成している。本研究では、この手法を参考にし、 HPG-7 の五糖骨格を、非還元末端二糖と還元末端三糖に分割して合成し、最後にアミド結 合で両者をつなぎ合わせて五糖とすることとした。 セラミドに関しては、HLG-2 と同一の-ヒドロキシ脂肪酸が存在しているため、この部 分は第一章の化合物をそのまま利用できる。しかし、末端分岐を持つフィトスフィンゴシ ンに関しては、新たに合成経路を探索する必要がある。そこで、末端分岐炭化水素鎖は Nakashima らの報告25を、フィトスフィンゴシンへの誘導は Chiu らの報告26を参考に合成を 進めていくこととした。以上の合成戦略を Scheme 16 に示す。 24
a) G.-T. Fan, C.-C. Lee, C.-C. Lin, J.-M. Fang, J. Org. Chem. 2002, 67, 7565-7568; b) C.-T. Ren, C.-S. Chen, Y.-P, Yu, Y.-F. Tsai, P.-Y. Lin, Y.-J. Chen, W. Zou, S.-H. Wu, Chem. Eur. J. 2003, 9(5),1085-1095.
25
H. Nakashima, N. Hirata, T. Iwamura, Y. Yamagiwa, T. Kamikawa, J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1
1994, 2849-2857.
26
38
39 第二節 非還元末端二糖の合成 第一項 シアル酸ドナーの設計 第一節で示したように、非還元末端二糖に用いるシアル酸ドナーは、5 位に N-Troc 基を 持たせ、なおかつ 4 位のみを他と区別して保護し、グリコール酸エステル導入後に選択的 脱保護してフコースを導入できるようにする必要がある。この条件を満たす保護基として、 CAc 基を選択した。CAc 基は DABCO27や(NH2)2・AcOH28、セレノ尿素誘導体29などで他の保 護基に影響を与えずに脱保護されることが知られている。そこで、シアル酸の水酸基保護 の際、8,9 位をイソプロピリデン基で保護した後、4 位に CAc 基を導入し、7 位を Ac 基と することとした。(Scheme 17)
N-Ac シアル酸ドナー(化合物 43)を出発物質とし、MeOH 中 MsOH による酸加溶媒分 解によってすべての Ac 基を除去した。続いて TrocOSu によってアミノ基の Troc 化を行い、 最後に MeCN 中、DMP と CSA によるイソプロピリデン化を行うことで、化合物 44 を収率 65% (3 steps) にて得た。 続いて、得られたジオール 44 に対する、4 位水酸基の CAc 化を検討した。 まず、反応条件を絞り込むため、少量の出発物質を用いて、TLC 上でどのようにスポッ トが出現するかを判定することとした。(Table 2)
Entry 1,2 では、溶媒に THF を用い、CAc2O を 1 当量、DMAP を 0.05 当量用いて反応を行 った。しかし、反応温度を変えても 4 位 CAc 体と 4,7 位 CAc 体がほぼ等量ずつ生成する結 果となってしまった。そこで、Entry 3 では溶媒をピリジンに変更し、DMAP を用いず、CAc2O を 1 当量用いて反応させたが、反応の進行が遅くなり、出発物質が残存し、収率、選択性
27
D. J. Lefeber, J. P. Kamerling, J. F. G. Vliegenthart, Org. Lett. 2000, 2, 701-703. 28
U. E. Udodong, C. S. Rao, B. Fraser-Raid, Tetrahedron 1992, 48, 4713-4724. 29
40 ともにあまり良い結果を与えなかった。Entry 4 ではピリジンと CH2Cl2の混合溶媒を用いた が、同様の結果となった。Entry 5 から 9 では、溶媒を CH2Cl2とし、0.05 当量の DMAP を 触媒として用いることとした。Entry 5 では、CAc2O を 1.2 当量用いたところ、これまでの 結果より選択性がかなり向上した。しかし、出発物質の残存が確認されたので、Entry 6 で は CAc2O を 2 当量に増やした。その結果、短時間で反応は進行し、良好な収率で 4-CAc 体 を与えた。そこで、さらなる選択性向上を期待し、Entry 7 では-40℃で反応を行ったが、反 応時間が長期化してしまい、結果として収率・選択性ともに低下してしまった。 Entry 5~7 の反応系内は、pH が 2~3 程度とかなり酸性であった。Sakakura らによって報告 されている DMAP を触媒としたアシル化30は、共存塩基が無くても進行することが知られ ているが、Entry 7 のような低温での反応の際、酸性条件が選択性に何らかの影響をもたら していると考え、Entry 8 では塩基として NaHCO3、Entry 9 では K2CO3を加えて、それぞれ -40℃にて反応を行った。その結果、Entry 8 では選択性が大きく低下したが、Entry 9 では非 常に高収率にて 4-CAc 体を与えた。この条件を用いて再度反応を行い、4-CAc 体を精製し た結果、収率 96%にて化合物 45 を得ることに成功した。
続いて、得られた化合物 45 の 7 位 Ac 化を行った。定法に従いピリジン中で Ac 化を行う と、CAc 基の脱離が懸念される。そこで、CAc 化を行った際に採用した触媒量の DMAP を 用いたアシル化条件を再度用い、THF 中、Ac2O と触媒量の DMAP によって Ac 化を行うこ とで、収率 99%にて化合物 46 へと導くことが出来た。
30
A. Sakakura, K. Kawajiri, T. Ohkubo, Y. Kosugi, K. Ishihara, J. Am. Chem. Soc, 2007, 129, 14775-14779.
41
Table 2 4 位選択的 CAc 化の条件検討(収率は TLC による推定)
Entry Solvent CAc2O Base(eq.) Temp Time Yield 4,7-di-
(eq.) (℃) (%) OCAc(%) 1 THF 1 DMAP(0.05) 0 1h 30 30 2 1 -40 5min 30 30 3 Py 1 - 0 >21h 20 10 4 Py-CH2Cl2 1 r.t. >13h 20 10 (1:1) 5 CH2Cl2 1.2 DMAP(0.05) r.t. 2h 60 10 6 2 r.t. 10min 80 20 7 2 -40 >26h 70 30 8 2 DMAP(0.05) -40 1.5h 40 60 + NaHCO3(1.0) 9 2 DMAP(0.05) -40 2h 95 5 + K2CO3(5.0) Scheme 17
42 第二項 シアル酸ドナーとグリコール酸エステルの縮合反応 第一項で合成したシアル酸ドナー46 と、グリコール酸ベンジルエステル 47 を用い、シア リル化反応の検討を行った(Scheme 18)。結果を Table 3 に示す。 Scheme 18 Table 3 シアリル化の条件検討
Entry Acceptor Solvent Promoter Temp. Time Yield Ratio (eq.) (eq.) (℃) (h) (%) 1 5 EtCN NIS(1.2)-TfOH(0.12) -60 3 66 1/1.4 2 1 1.5 81 1.4/1 3 1 -80→-60 27 77 2.1/1 4 1.2 -65→-60 20.5 84 1.6/1 5 1.2 NIS(1.2)-TfOH(0.36) -60 2 93 1.7/1 6 1.2 NIS(1.2)-TfOH(0.60) 1.5 87 1.4/1 7 1.2 NIS(1.2)-TESOTf(0.12) 17 75 1.8/1 8 1.2 MeCN NIS(1.2)-TfOH(0.12) -30 0.5 67 1/1.6 9 1.2 EtCN-MeCN -60→-40 18.5 53 1.6/1 (1:1)
43
Entry 1 では、溶媒に EtCN を用い、NIS-TfOH を縮合プロモーターとし、過剰量のアクセ プターを用いて-60℃にて反応を行った。その結果、目的とする化合物 48 の収率は 66%と中 程度であったが、立体選択性が悪く、体よりも体を多く与えてしまった。この原因につ いて、アクセプターが系内に過剰に存在することで、シアル酸ドナーが活性化されて生じ たオキソカルベニウムイオンへのニトリル溶媒の付加よりも、アクセプター水酸基の攻撃 が優先されてしまい、体を多く与えてしまったと推察した。そこで、Entry 2 ではアクセプ ターとドナーを等モルずつ用いて反応を行った。その結果、立体選択性は向上した。しか し、一般にシアル酸 N-Troc ドナーを用いたシアリル化では、比は 4/1~5/1 になると報告 されているため、未だ満足できる結果とは言えない。そこで、Entry 3 では反応温度を-80℃ に下げて反応を行ったが、ドナーの活性化が起こらなかったので、徐々に昇温したところ、 -65℃前後から反応の進行が見られた。しかし、反応速度が非常に遅かったため、最終的に -60℃まで昇温して反応を完結させた。結果、収率はさほど変化しなかったが、立体選択性 は向上した。Entry 4 では、反応温度を最初から-65℃に設定してシアリル化を試みたが、反 応が途中で停止したため、-60℃へと昇温した。その結果、収率は改善したが、立体選択性 はむしろ低下してしまった。 Entry 5 では、反応温度はドナーの消費が完結すると考えられる-60℃に設定しつつ、用いる TfOH の量を増やすことにより、グリコール酸エステルの持つカルボニル酸素のプロトン化 を促進し、Fig.3 に示すような環状の中間体を形成させ、水酸基の求核性を下げることで、 反応速度を下げて立体選択性を向上できると期待した。しかし、反応速度は Entry 2 と比較 してあまり変わらなかったが、収率は向上し、立体選択性もわずかに向上が見られた。そ こで、Entry 6 では TfOH の当量をさらに増やしたが、立体選択性の向上は見られなかった。
44 Fig.3 Entry 7 では、酸の種類を TESOTf に変更したところ、反応速度の低下が見られ、収率も低 下したが、立体選択性にはわずかな向上が見られた。 Entry 8 では、MeCN を用いて-30℃でのシアリル化を行ったが、ドナーの活性化は迅速に起 こり、これまでほとんど確認できなかったシアル酸の 2,3-ene 体が生成したため、目的物の 収率は低下し、立体選択性に関しても体を優先して与えることとなった。最後に Entry 9 では、EtCN と MeCN を混合した溶媒を用い、-60℃にて反応を行ったが、反応が進行せず、 -40℃まで昇温したところ、目的物の生成が確認された。しかし、収率はこれまでで最も悪 い結果となってしまい、立体選択性も Entry 4 と同程度でさほど改善点が見られなかった。 これまでの結果より、シアリル化物の収率は良好な結果を得ることが出来たが、立体選択 性は=2/1 程度にとどまる結果となってしまった。この問題について、これまでのシアリ ル化反応と大きく異なる点として、シアル酸ドナーの 8,9 位にイソプロピリデン基を持つこ とがあげられる。そこで、シアル酸 8,9 位のイソプロピリデン基をアセチル基に変更した化 合物 50 を合成して、Table 3 の Entry 4 と同様のシアリル化反応を検証した結果、収率 81%、 比は約 5/1 にてグリコール酸のシアリル化を達成した(Scheme 19)。 Scheme 19
45 しかし、この反応で得られた化合物の立体異性体は、いかなる溶媒系を用いて TLC 展開を 行っても、ほぼ 1 スポットに見え、シリカゲルカラムクロマトグラフィーでは全く分割す ることが出来なかった。この化合物は、後に続く脱 CAc 化を行っても立体異性体の分割が 出来なかったため、本研究で用いることは困難と考え、当初予定していた化合物 46 を用い てシアリル化し、体を単離して用いるという経路を選択することとした。この経路は、立 体選択性の問題を残したままではあるが、立体異性体の分離の際、それぞれの TLC 上での Rf 値が 0.1~0.2 程度離れているため、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで非常に容易に 精製が可能というメリットを持っているため、大量合成の際も精製の苦労が軽減され、体 の生成といったロスはユニット合成の初期段階としては許容範囲であると考えた。
46 第三項 フコースドナーの合成 フコシル化に用いるフコースドナーは、一般に 2,3,4 位を Bn 基で保護し、1 位に SPh、F などの脱離基を持つものが広く用いられてきた31。しかし、それらのドナーは非常に高活性 で、反応性がさほど高くないシアル酸 4 位へのフコシル化に用いると、それぞれの反応性 の差が大きすぎるために、高収率でのフコシル化を実現するためには、相当量のフコース を必要とする恐れがある。また、シアル酸 2 位に導入したグリコール酸は Bn エステルであ るため、カルボン酸にする際にフコースの Bn 基も外れてしまう。また、2,3,4-O-Bn 保護し たフコースは、糖鎖への導入後に酸性で切断されやすい性質があるため、様々な保護基の 変換過程でフコースの脱離という問題が生じる恐れもある。そこで、これらの問題を解消 するため、本研究では新たなフコースドナーとして、1 位に脱離基である SPh 基、2 位に MPM 基、3,4 位を Ac 基で保護したドナーを考案した。MPM 基は Bn 基と区別しての脱保 護が可能であり、3,4 位の Ac 基は、電子求引基であるため、ドナーとしての反応性を抑え つつ、遠隔隣接基効果として-側からの水酸基の攻撃をブロックし、立体選択性の向上にも つながると考えた。 考案したフコースドナーの合成を Scheme 20 に示す。L-フコース(化合物 53)を出発物 質とし、Ac 化、SPh 化を経て化合物 54 とした(収率 87%, 2 steps)。続いて脱 Ac 化、3,4 位 のイソプロピリデン化、2 位 MPM 化し、化合物 5532へと誘導し(収率 93%, 3 steps)、得ら れた化合物を 80%酢酸水溶液中、45℃にてイソプロピリデン基の除去を行った。この際、 長時間反応させると MPM 基の脱離が見られるので、反応をこまめに追跡して反応停止のタ イミングを注意深く見極める必要があった。最後に、水酸基を Ac 化して化合物 56 とした (収率 85%, 2 steps)。 31
K. C. Nicolaou, T. J. Caulfield, H. Kataoka, N. A. Stylianides, J. Am. Chem. Soc. 1990, 112, 3693-3695.
32
47
48
第四項 シアル酸 4 位のフコシル化
第二項で合成した化合物 48 の CAc 基を除去し、第三項で合成したフコースを導入する反 応の検討を行った。(Scheme 21)
CAc 基の脱保護法として、最初に DABCO を用いることとした。化合物 48 を EtOH に溶 解し、DABCO を 5 当量加えて 55℃にて反応させたところ、出発物質の消費が確認された。 しかし、生成物は TLC 上で multi spots となってしまい、純粋な目的化合物を得ることは出 来なかった。副生成物は特定できなかったが、おそらく塩基に弱い Troc 基、Bn エステル、 あるいは Ac 基などが脱離したものと考えられた。 DABCO は今回の基質に向いていないことが判明したので、続いてセレノ尿素誘導体によ る CAc 基の脱保護を検討した。 化合物 48 を THF に溶解し、セレノ尿素誘導体(化合物 57)を 1.2 当量加えて 50℃にて 反応させたところ、脱保護はスムーズに進行し、化合物 58 を収率 87%で得ることができた。 ただし、この反応で生じるセレノ尿素由来の副生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフ ィーで分離することは出来ず、ゲルろ過での精製が必要であった。そのため、大量合成を 行う際に手間がかかるという問題が生じる。 そこで、さらに(NH2)2・AcOH を用いた脱 CAc 化を検討することとした。 化合物 48 を THF-DMF (1:1) に溶解し、(NH2)2・AcOH を 2 当量加えて室温で反応させたと ころ、脱保護はスムーズに進行し、化合物 58 を収率 92%にて得た。この際、副生成物はほ とんど見られず、精製も容易であったので、この方法を大量合成でも用いることとした。 続いて、フコースの導入を検討した。(Table 4) Entry 1 では、フコースドナー56 とシアロシドアクセプター58 を等モル用い、エーテル溶 媒効果を期待して tBuOMe と CH2Cl2の 1:1 混合溶媒中、NIS-TfOH を縮合プロモーターとし て用い、-20℃にて反応を行った。最終的にアクセプターが一部未反応のまま回収され、目
49 的とする化合物 59 の収率は 49%であった。この際、副生成物はフコースのヘミアセタール、 フコースダイマーであり、化合物 59 の立体異性体は生成しなかった。 Entry 2 では、反応温度を-40℃に下げて、他の条件はそのままで反応を行った。しかし、 化合物 59 の収率は 50%とほとんど改善が見られなかった。 そこで、Entry 3 では、Entry 2 の条件から、ドナーを 1.5 当量に増やして反応を行った。 その結果、化合物 59 の収率は 70%まで向上した。 さらに、Entry 4 では、ドナーを 1.8 当量まで増やしたところ、59 の収率は 76%まで改善 された。 結果、ドナーをやや過剰に用いることとなったが、すべての場合において立体異性体が 生じることなく、効率的なフコシル化を達成できたと考えられる。 Table 4 シアル酸 4 位フコシル化の条件検討
Entry Donor (eq.) Temp(℃) Time (h) Yield (%)
1 1.0 -20 4.0 49
2 1.0 -40 2.0 50
3 1.5 -40 2.0 70
50
51 第五項 非還元末端二糖カルボン酸への変換 第四項で得られた二糖 59 の保護基を変換し、還元末端三糖との縮合に用いるカルボン酸 への誘導を行った。 最初に、最も酸性に弱く、なおかつフコースの脱離を促しかねないフコース 2 位の MPM 基を脱保護することとした。その際、強酸を用いる条件を避け、選択的に脱保護できる DDQ を用いる方法を選択した。化合物 59 を、CH2Cl2に溶解し、DDQ と水によって処理し、MPM 基の除去を行い、収率 95%にて化合物 60 とした。続いて、イソプロピリデン基を 80%酢酸 水溶液により、50℃にて脱保護した後、遊離水酸基を Ac 化し、収率 97%にて化合物 61 を 得た。次に、Troc 基を亜鉛によって除去し、Ac 化を行うことで、収率 81%にて化合物 62 とした。 最後に、接触水素添加により Bn エステルを除去し、化合物 63 を収率 99%にて得た。
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53 第三節 還元末端三糖の合成 第一項 各種ラクタム型シアロシドアクセプターを用いたシアリル化反応の検討 第一章では、HLG-2 合成に向けて 8,9 位をイソプロピリデン基で保護したラクタム型シア ロシドアクセプター10 を用いてシアリル化を行った。その結果、収率 60%にて目的とする (2→4)結合を持つ化合物を与えたが、位置異性体の問題を完全に解決することは出来なか った。そこで、本研究では新たな保護様式を持つラクタム型シアロシドアクセプターを設 計し、シアリル化に用いることが出来るかを検証した。 この検証では、まずモデル化合物として、以下に示す 5 種類のアクセプターを合成する こととした(Fig.4)。 化合物 64,65,66 は、7 位水酸基が遊離であることが位置異性体の生成の原因であるという考 察から、シアル酸 4 位以外の水酸基を全て保護するというコンセプトで考案した。 化合物 67,68 は、Ando らが過去に 9 位を Bz 基で保護した 4,7,8-トリオールのアクセプター を用いた際、4 位に対して優先的にシアリル化が進み、8 位にも若干シアリル化が起こった という事実を参考に、よりかさ高い保護基を 9 位に導入することで、8 位や 7 位の反応性を 下げられないかというコンセプトで考案した。さらに、Piv 基は立体障害と電子求引効果を 持つのに対し、TBS 基は立体障害のみであるため、両者を比較することで、シアリル化に 対して電子的な効果がどれほど関わっているかを検証することも可能であると考えられる。
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Fig.4 新たに考案したラクタム型シアロシドアクセプター
最初に、化合物 64~66 の合成を行った。Ando らによって過去に合成された化合物 696を
出発物質として、ピリジン中、TESCl を用いてシアル酸 4 位の TES 化を試みたところ、収 率 70%にて化合物 70 を得ることが出来た。得られた 70 を Ac 化した後、THF 中で TBAF と AcOH の作用により TES 基を除去し、化合物 64 を収率 93% (2 steps) にて得た。 さらに、得られた 64 のラクタム窒素上の Ac 基を(NH2)2・AcOH で除去し、化合物 65 を収 率 91%で得た。
また、化合物 69 を MeCN 中、DMP と CSA によりイソプロピリデン化することで、化合 物 66 を収率 79%で得た。(Scheme 23)
55 Scheme 23 また、化合物 71 を出発物質とし、ピリジン-CH2Cl2中、-40℃にて PivCl により 1 級水酸 基の Piv 化を行い、収率 96%にて化合物 67 を得た。 同様に、化合物 716をピリジンに溶解し、0℃にて TBSCl によって 1 級水酸基の TBS 化を 行い、収率 76%にて化合物 68 を得た。(Scheme 24) Scheme 24
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以上の方法で得られた 5 種類のアクセプターを用い、シアリル化反応を行った。
シアリル化の条件は、これまでのラクタム型シアロシドアクセプターを用いた場合の条 件を用い、N-Troc シアル酸ドナー11 をアクセプターに対して 2 当量用い、EtCN 中、MS3Å 存在下、NIS (1.2 eq. for donor)-TfOH (0.12eq. for donor)を縮合プロモーターとして、-40℃で 行った。その結果、化合物 64,65,66 を用いた場合、シアリル化は全く進行せず、縮合プロ モーターを追加してもドナーの分解が起こるのみであった。また、化合物 68 では、シアリ ル化の進行は見られたが、TLC 上で multi spots となってしまい、目的とする三糖を得るこ とは出来なかった。恐らく、目的とする反応以外に、位置異性体の生成や TBS 基の脱離と それに伴う 9 位シアリル化などの様々な反応が起こったため、系内が複雑になっているの だと考えられた。一方、化合物 67 を用いたシアリル化は最もスムーズに進行し、収率 28% ではあるが、目的とする(2→4)シアロシド 72 を得ることに成功した(Scheme 25)。この際、 位置異性体はごくわずかに生成したものの、8,9 位をイソプロピリデン基で保護した化合物 10 の場合より大幅に抑えられており、シアリル化条件を精査することでより効率的な合成 につながるのではないかと期待された。 Scheme 25
57 以上の結果より、4 位以外の水酸基を全て保護した場合には、7 位などの 4 位に近い水酸 基が持つ Ac 基やイソプロピリデン基などの保護基が立体障害をもたらすため、4 位の求核 性が低下し、シアリル化が起こりにくくなることがわかり、従来用いられてきた 7 位が保 護されていない 8,9 位イソプロピリデン保護型アクセプターや、9 位のみ Bz 基で保護した アクセプターが有用であったことが判明した。さらに、化合物 67 と 68 の比較より、9 位に は電子求引性を持ち、立体障害の大きな保護基を持つ必要があることがわかった。そこで、 本研究では、9 位 Piv 保護型のアクセプターを用いて、シアリル化を検討することとした。 なお、HPG-7 の合成に用いる還元末端三糖も、HLG-2 の場合と同様、グルコース 2 位に は MPM 基を持たせた状態で三糖を合成し、後に Bz 基へと変換できるのが望ましいため、 第一章第三節で合成したシアリル(2→6)グルコシド(化合物 8)を用い、9 位 Piv 保護型の ラクタムアクセプターを合成することとした。(Scheme 26) 最初に、化合物 8 のラクタム化を行うため、8 を MeOH に溶解し、Drierite 存在下、2.5 当量の NaOMe によって還流条件で反応させることにより、収率 90%にて化合物 73 へと誘 導した。続いて、73 をピリジン-CH2Cl2に溶解し、-40℃にて PivCl による 1 級水酸基の Piv 化を行い、定量的に化合物 74 を得た。 Scheme 26
58 次に、得られた 74 と N-Troc シアル酸ドナー11 を用い、シアリル化を行った。(Scheme 27) 反応条件は化合物 67 による前述のモデル実験と同様にして行ったところ、若干の未反応 アクセプターが残ったが、反応はスムーズに進行した。反応混合物を精製した結果、目的 とする(2→4)シアロシド 75 を収率 60%で得ることに成功した。この際、副生生物はドナー 由来の 2,3-ene 体、ヘミアセタール、および立体異性体や位置異性体であったが、それらの 単離は困難であったので収率の算出には至っていない。なお、化合物 75 の立体配置の決定 は、HLG-2 の際と同様、gated-decoupling 法によって決定した。その結果、化合物 75 の3JC-1,H-3ax = 6.0 Hz であり、体であることが確認された。 Scheme 27
59 第二項 保護基の変換とラクタム開環反応 第一項で合成した三糖の保護基変換と、ラクタム開環反応を行った。 最初に、化合物 75 の遊離水酸基を Ac 化した。この化合物では、ラクタム環内の窒素上 が Ac 基で保護されないように、Ac2O とピリジンを用いて Ac 化を行うと、7 位への Ac 化 が進行しにくく、時間の経過とともに徐々にラクタム窒素も Ac 化されていくことが分かっ た。そこで、Ac2O、DMAP、ピリジンを用いて、一旦全て Ac 化した後、ラクタム窒素の Ac 基を(NH2)2・AcOH で処理し、目的化合物を得ることとした。その結果、収率 90% (2 steps) にて化合物 76 へ導くことができた。続いて、ラクタム開環に向け、化合物 76 のラクタム 窒素上に Cbz 基を導入することとした。化合物 76 をピリジンに溶解し、CbzOSu と DMAP によって Cbz 化を行った。この場合も、たとえ試薬を過剰に用いたとしても出発物質を完 全に Cbz 化することは出来ず、化合物 77 の収率は最大で 82%となり、試薬由来の副生生物 の除去が困難であった。(Scheme 28) Scheme 28 続いて、アルカリ加水分解によるラクタム開環を行った。化合物 77 を 10%の TEA を含 む MeCN 溶液と水を混合した溶液中、40℃にて反応を行うことでラクタム開環が起こった
60 のを確認したが、この際に Ac 基のみならず、Troc 基の脱離も起こってしまったらしく、ラ クタム開環に続く Ac 化、メチルエステル化を経て得られた化合物は、目的とする化合物 78 の他に、高極性のいくつかの化合物であった。78 の最高収率は 62%であったが、ラクタム 開環の第 1 段階目のアルカリ加水分解において、毎回 TLC 上でのスポットのでき方が異な り、再現性を得ることが難しかった。Troc 基を残したラクタム開環はほとんど報告例が無 く、反応条件や保護基の選択の再考といった課題を残す結果となった。 最後に、得られた 78 の MPM 基を DDQ により脱保護し、Bz 化を行うことで化合物 79 を 収率 72%で得た。(Scheme 29) Scheme 29