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リスク敢行としての消費者行動
山木
神高
進修
1 消費生活におけるリスクの知覚 「自動車と飛行機のどちらに乗るほうが恐いか」と尋ねられた時,「飛行機の ほうが恐い」と答える人のほうが多いであろう。ところが事故による旅客の死 1) 亡率を計算してみると,飛行機より自動車のほうが数十倍も高い。そのことは, 人びとが客観的に安全性の高い方の飛行機を主観的に危険視していることにな る。同様のことは,喫煙によって肺がんになる高い可能性が客観的数値で示さ れても,ヘビー・スモーカーほど危険度を低く見積りたがるという逆方向の例 2) にも示される。このように客観的な確率値で示される危険性ではなく,人びと の主観に基づく危険性評価のことを,リスク知覚(リスク・バーセプションrisk perception)と呼ぶ。すなわち,多少とも危険性をはちむ社会事象に対して,心 のなかに生み出された懸念や不安が「知覚されたリスク(perceived risk)」で ある。そして人びとの態度や立場の違いに基づくリスク知覚度の個人差は,リ 3) スクのバーセプション・ギャップ(perception gap)と呼ばれる。 リスクを知覚するという事態は,日常の消費生活においても経験される。例 えば,インスタント食品を多用すれば健康を害するのではないか,高価なブラ ンドものの時計を購入したが性能はどうだろうか,気に入って購入した服だが 友人にばかにされはしないか,等々である。消費生活において経験されるこれ 1>木下冨雄 1988科学技術の発展とパブリック・アクセプタンス 市場調査(日本輿論 禾斗学協会), 196, 4. 2) Festinger, L. 1957 A Theo7y of Cognitive Dissonance. Row, Peterson and Company. 末永俊郎(監訳)1965 認知的不協和の理論一社会心理学序説 誠信書房. 3)木下冨雄 1987安全の心理学1鰯。喫1%鷹(日本アイソトープ学会),5,15.242 岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号〉 らの懸念や不安には,生理的/身体的なもの,金銭的/財産的なもの,心理的 /社会的なものなどがあるだろう。上記のインスタント食品の事例は身体の損 傷に関した生理的/身体的リスクの知覚であり,時計の事例は製品の「道具」 としての価値に関した金銭的/財産的リスクの知覚であり,衣服の事例は他者 との関係が損傷を受ける可能性に関した心理的/社会的リスクの知覚といえる。 ところで,消費生活におけるリスク知覚は,消費対象の値打を心の中でどの ように見積るかという「知覚された価値(perceived value)」に,したがって消 費行為を通して獲得が期待できる利益や恩恵の大きさに影響される。いわゆる リスク/ベネフィットの心理的取引(psychological trade−off)の問題である。 その場合の「知覚された価値」は,端的には,道具的価値と表出的価値という 両価値に関する評価から議論できる。道具的価値に関する評価とは「生活上の 道具としての値打」をいかに見積るかであり,表出的価値に関する評価とは「生 活を通して実現される自己表出の可能性としての値打」をいかに見積るかであ る。これらの価値は従来より,次のような哲学上の論争において取り上げられ てきた。一方は人文主義者たち(humanists)の考え方で,人間生活の最高の理 想(至高善)が,その対象の道具性(あるいは有用性,実用性)に基づいて考 察される。例えば“善”なる人間とは適切に職務を果たす人であり,“よい”ナ イフとはよく切れるナイフである。同様に消費者にとって“よい”商品とは, 有用性において優れている商品である。この考え方によれば,どの程度有用な 道具かという観点から商品評価が行われ,その評価に応じた期待が抱かれる。 それに対してもう一方の見解は,快楽主義者たち(hedonists)の考え方,すな わち,快楽的消費(hedonic consumption)とよばれる「多感覚的・空想的・情 4) 動的な経験を得るための消費」に認められるものである。快楽主義者たちは, 人間生活の最高の理想を最大量の喜びの感情(快感)に照らして考察する。例 えば“善”なる人間は喜びの感情を強くあたえる人であり,もしあるナイフを 見て喜びを感じるならば,よく切れなくても“よい”ナイフである。同様に消 4) Hirschman, E, C., and Holbrook, M. B. 1982 Hedonic Consumption, 」. M., 46(1), 92 −10L
リスク敢行としての消費者行動 243 費者にとって“よい”商品とは,喜びの感情を強く与えてくれる商品である。 この考え方によれば,商品は道具である以上に,人間の心理過程や心理状態を 表し出す「場」(表出場)である。そしてたとえ有用性に関して劣る商品であっ ても,それが精神的な喜びを与えるならば消費対象として価値があると判断さ れる。 確かに,この二つの考え方は相互に排他的ではない。むしろ“よい”商品と は,道具1生と表出性(あるいは実用性と美的特性)との両面において優れてい る商品のことであろう。そして道具性に重きを置いた評価に替えて,道具性と 5) 表出性という二つの次元からの評価,さらには表出性に一層重きをおいて商品 価値を評価する傾向を生み出してきたのが,成熟消費社会の特徴である。なお 商品価値をいかに捉えるかに関しては,経済学的価値論における使用・交換価 値,文化人類学的価値論における精神的・象徴的価値,記号論的価値論におけ る垂示的・記号的価値など,従来よりいくつかのアプローチが認められてきた。 このように日常の消費行為において,我々は,特定の消費対象にさまざまな 懸念や不安を感じる一方で,それらの懸念や不安を打ち消したり,補填できる ような利益や恩恵をその対象に期待する。そして,懸念の大きさと利益の大き さとの間で心理的な取引を行い,懸念の大きさ以上の利益が期待できそうな選 択案に意思を決定するだろう。しかし衝動買いや特定商品への盲目的な忠誠心 ・愛顧に基づく購買のように,消費対象のリスクの大きさとはある程度無関係 に,感情的/情動的な意思決定がなされる場合もあるだろう。 2 商品購買とリスク敢行 (1)消費者によるリスク敢行 商品の購入に際して,消費者はさまざまな懸念や不安を抱く。なぜならば購 入を意図する商品のすべてが常に満足のいくものであるとは限らないからであ る。その意味から,購買行動には絶えずリスク(危険)が伴っており,消費者 5) Boyd, V. T. 1976 Valuing of The Maten’al Environment. Michigan State Univ. : Doctoral Dissertation.
244 岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号) は商品の購入に際して危険敢行(risk−taking)を行っている。それに関してバ 6) ウアー(Bauer, R. A.)は,次のように述べている。「消費者のすべての行為 は,彼が確信をもって予測することのできない結果を引き起こし,そのいくつ かは不快なものかもしれないという意味においてリスクを伴っている」と。 消費者の行動にリスクが伴うという場合,消費者がリスクの大きさや内容を どのように捉えているかという心理的世界(すなわち「知覚されたリスク」)が 問題となる。バウアーの仮定によれば,消費者は購買状況において,そのよう な「知覚されたリスク」を最小化する決定を行おうとする。また彼の仮定では, 購買状況における「知覚されたリスク」は次の2要因の関数である。すなわち, ①起こりうる結果[危険度](consequences),②含まれる不確実性[危険が発 7) 生する確率](uncertainty)である。またカニンガム(Cunningham, S。 M.) は,この2要因を用いて,「知覚されたリスク」の程度を次の①,②,③に3分 類した。すなわち,①危険度を高く,かつ危険が発生する確率も高く知覚する (高リスク知覚),②危険度および危険が発生する確率を共に中程度に知覚する (中りスク知覚),③危険度を低く,かつ危険が発生する確率も低く知覚する(低 リスク知覚),である。 (2) 「知覚されたリスク」のタイプ 商品の購入時に消費者が知覚するリスクについては,従来よりさまざまな分 類が試みられてきた。例えば,これを機能的リスクと心理・社会的リスクとに 8) 分ける方法がある。機能的リスク(functional risk)とは商品の品質や性能に 関した懸念であり,心理・社会的リスク(psycho−social risk)とは商品が使用 者に与える幸福感や自己概念の高揚に関した懸念である。このようなリスク区 6) Bauer, R. A. 1960 Consumer Behavior as Risk Taking. ln Hancock, R. S. (Ed.) 1]lynamic Marleeting for A Changing vaorld. Proceedings of The 43th Conference of The American Marketing Association, 389−398. 7) Cunningham, S M, 1967 The Major Dimensions of Perceived Risk, ln Cox. D. F. (Ed.) Risk Taking and lnformation Handling in Consumer Behavior. Harvard University. pp. 82−108. 8)Robertson, T. S.1970 Consumer Behavior. Scott, Foreman and Company.河村豊次 (訳)1973消費者行動の科学 ミネルヴァ書房 p.33.
リスク敢行としての消費者行動 245 分に関連して,機能的リスクをさらに性能的リスク(性能に関する懸念)と物 理的リスク(破損に関する懸念)とに分け,それらに財の損失懸念である財政 的リスクを加えて「知覚されたリスク」を分類する方法もある。すなわち,① 性能的リスク,②物理的リスク,③心理的リスク,④社会的リスク,⑤財政的 リスクの5分類である。このリスク分類を使って,スポーツカー,生命保険か らトランプにいたる12商品の購入時のリスク知覚度を調べたところ,スポーツ カーや生命保険に総合的にリスクが強く知覚される一方で,背広,オーバー, 靴などの衣料品/身回り品に対しては心理的および社会的リスクが強く知覚さ 9) れた。 また,リスク内容に身体的な懸念や時間的な懸念を加えて,それを次のよう 10, IL 12) に分類する研究者もいる。すなわち,①機能的,②心理的,③社会的,④経済 的,⑤身体的,⑥時間的,の各リスクである。この場合,心理的リスクとは美 しさへの不満や屈辱を経験することへの不安であり,社会的リスクとは他者や 所属集団から不承認を受ける見込である。経済的リスク(economical risk)と は金銭や資産の損失を被ることの懸念であり,身体的リスク(physical risk) とは使用による病気や怪我の発生に関する懸念である。また時間的リスク (temporal risk)とは買い替えたり,修理することで発生する時間の損失に関 する懸念である。消費者がどのリスクを,どの程度の重みで知覚するかは,購 入商品の種類・用途・流行性,消費者をとりまく諸状況などによって相違する であろう。例えば,表1には,衣料品/お洒落用品などに関して筆者らが抽出 9) Kaplan, L. B. et al, 1974 Components of Perceived Risk in Product Purchase. /. A. P. 59(3), 287−291. 10) Cox, D. F., and Rich, S. U. 1964 Perceived Risk And Consumer Decision Making. 1. M. R. 1(4),32−39. 11) Roselius, T. 1971 Consurner Rankings of Risk Reduction Methods. 1. M., 35(1), 56 −61. 12) Jacoby, J., and Kaplan, L. B. 1972 The Components of Perceived Risk. ln Ven− katesan, M. (Ed.) Proceedings, Third Annual Conference Association for Consumer Research, 3, 382−393. 13)神山 進・高木修 1987 ファッション・リスクに関する研究(第一報)一‘知覚され たファッション・1」スク’の構造一 日本衣服学会誌,31(1),35.
246 岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号) 表1 “知覚されたファッション・リスグの成分(因子分析結果)13) 因 子 閭Xク項目. 1 II III IV
V
①愚かに,思われるのではないか。 0,781 0,136 0,039 0,184 0ユ92 ②人から,変な目でみられるのではないか。 0,734 0,111 0,151 0,141 0,282 ③慎みがないと,思われるのではないか。 0,693 0ユ51 0,026 0,179 0,178 ④大胆すぎるのではないか。 0,599 0,309 0,126 0,003 0,/34 ⑤自分の地位や立場に,ふさわしくないのではないか。 0,523 0,106 0,104 0,487 0,065 ⑥派手すぎるのではないか。 0,500 0,177 0,225 一〇.013 一〇.013 ⑦分不相応なのではないのか。 0,498 0,191 0,167 0,024 0,199 ⑧自分の年齢には,合わないのではないか。 0,458 0,199 0,171 0,079 一〇.014 ⑨体を動かしにくいのではないか。 0,104 0,612 0,062 0,209 一〇.064 ⑩型くずれが,しゃすいのではないか。 0,245 0,565 0,145 0ユ71 0,066 ⑪色あせが,しゃすいのではないか。 0,113 0,555 0,070 0,089 0,156 ⑫汚れが,目立ちやすいのではないか。 0,122 0,550 0,041 0,081 0ユ79 ⑬実用性に欠けるのではないか。 0,265 0,534 0,150 一〇.017 一〇.093 ⑭肌ざわりが,悪いのではないか。 0,144 0,513 0,140 0,171 一〇.001 ⑮手入れや,取り扱いが,難しいのではないか。 0,128 0,511 0,333 0,045 0,118 ⑯生地の質が,悪いのではないか。 0,138 0,425 0,286 0,263 0,006 ⑰着心地が,悪いのではないか。 0,017 0,412 0,396 0,124 一〇.124 ⑱体型に,合わなくなるのではないか。 0,222 0,379 0,007 一〇.050 0,184 ⑲手持ちの服に,同じようなものがあるのではないか。 0,107 0,338 0ユ66 0,161 0ユ31 ⑳着こなしが,難しいのではないか。 0,151 0,148 0,670 0,133 0,155 ⑳自分には,似合わないのではないか。 0,215 0,084 0,584 0ユ23 0,022 ⑳手持ちの服と,組み合わせにくいのではないか。 0,012 0,066 0,572 0,223 0,173 ⑳買ったあとで,後悔するのではないか。 0,110 0,128 0,503 0,019 0,099 ⑳全体のフィーリングが,悪くなるのではないか。 0,173 0,145 0,454 0,430 0,184 ⑳長く着ることが,出来ないのではないか。 0,065 0,401 0,423 0,028 0,057 ⑳それだけのお金をかける値打か,ないのではないか。 0,242 0,322 0,371 0,043 一〇.024 ⑳すぐ,あきがくるのではないか。 0,246 0,323 0,342 0,162 0,134 ⑳自分を引き立てることが,出来ないのではないか。 0,111 0ユ68 0,089 0,680 0,213 ⑳個性を発揮することが,出来ないのではないか。 一〇.017 0ユ05 0,149 0,645 0,187 ⑳自分の品位が,損われるのではないか。 0,476 0,167 0,089 0,564 0,092 ⑳着ていく場所に,ふさわしくないのではないか。 0,284 0,246 0ユ68 0,428 0,055 ⑳やぼったく,見えるのではないか。 0,158 0,187 0,307 0,404 0,278 ⑳流行に鈍感だと,思われるのではないか。 0,282 0,098 0,018 0,084 0,712 ⑭趣味やセンスが悪いと,思われるのではないか。 0,326 0,104 0,098 0,162 0,604 ⑳すぐ,流行遅れになってしまうのではないか。 0,233 0,174 0,207 0,099 0,452 ⑳スタイルが,悪くみえるのではないか。 0,061 0,382 0,111 0,305 0,385 ⑰ブランド名か,知られていないのではないか。 0,006 一〇.063 0,064 0,133 0,326 ⑳同じものを,多くの人が着用しているのではないか。 一〇.019 0,215 0,200 0281 0,311 固 有 値 4,079 3,839 2,880 2,634 2,080 寄 与 率(%) 10.7 10.1 7.6 6.9 5.5 因 子 名 「服装規範からの 峵E概念」 「品費性能 恃O」 「着こなし 恃O」 「自己顕示 恃O」 「流行性 恃O」 (神山・高木 1987)リスク敢行としての消費者行動 247 した「知覚されたリスク」の成分が示されているが,これは,上記のようなリ スクの概念的分類を基礎にして,衣料品/お洒落用品のようなファッション商 品を購入する際の懸念の内容を具体的に解釈し得ることを示している。 (3)リスク敢行モデルーTaylor, J. W.による一 バウアーが消費者行動に関して「知覚されたリスク」という問題を提案した のは,1960年であった。それ以来,多くの研究が発表され,1967年置はコック 14) ス(Cox, D. F.)によって関連論文が編集された。すなわちそれが『消費者行動 におけるリスク敢行と情報処理』である。さらに1974年には,テイラー(Taylor, 15) J.W.)が「消費者行動におけるリスク敢行モデル」を発表した(図1)。 このモデルでは,次の主要概念が使用された。すなわち,選択(choice),不 確実性/知覚されたリスク(uncertainty/perceived risk),自尊感情(self− esteem),不安(anxiety),リスク低減戦略(risk−reduction strategies),購買 決定(decision to buy),である。まず消費者行動の主要問題の一つは,製品や サービスの「選択」(購買)である(Xl)。しかし選択の良否は選択後にしかわ からないから,選択には「不確実性」が伴い,よって消費者は商品の購入にリ スクを知覚するだろう(X2)。「知覚されたリスク」は,それが「不安」を生み 出す(X3)心理的な痛みであり,なんらかの方法で処理されねばならないこと から,消費者行動を規定する重要な要因となる。 特定の購買状況において「知覚されたリスク」を処理するためにどのような 方法が用いられるかは,消費者個入の「自尊感情」の強さ(X、,X5)に影響さ れる。なぜならば,自尊感情の強さ(自己の価値・能力・適性などに対して肯 定的評価を行う度合)によって,リスク知覚からもたらされる「不安」水準が 17, 18, 19) 相違し,またリスクにいかに対処するかの様相も異なるからである。しかし通 14) Cox, D. F. (ed.),op. cit. 15) Taylor, J. W. 1974 The Role of Risk in Consumer Behavior. /. M., 38(2), 54−60. 16) lbid, p.55 17) Fischer, W. F. 1970 Theon’es of Anxiety. Harper & Row Publishers. pp.86−87. 18) Bell, G. D. 1967 Self−Confidence and Persuasion in Car Buying. f. M. R., 4(1), 46−52. 19) Winakor, G. et al. 1980 Perceived Fashion Risk and Self−Esteem of Males and Females.、H. E R.ノ.,9(1),45−56.
248 岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号) 常,多くの購買状況で消費者はさまざまな方法を用いてリスクを低める努力を するであろう(X6)。なぜならば,リスクを減少させ得ることは,消費者にとっ て自己の購買行動を正当化するための根拠になるからである。 ところで,商品選択時の「知覚されたリスク」は,2つの不確実性によって 影響されている。すなわち,①意思決定の結果(どの商品選択が良い結果を生 むか)についての不確実性(X,),②間違った商品選択が引き起こす結末につい ての不確実性(X8),である。この両タイプの不確実性は多くの購買状況におい て経験され,しかもこれらには共に,心理的/社会的損失と機能的/経済的損 失とに関する不安が含まれている(Xg, X、。)。例えばある中古自動車を買いた いと思う場合,その購買決定に対する友人や家族の評価が気遣われる場合もあ れば,性能や燃費が心配されることもあるだろう。 消費者が購買を決定できるためには,通常,このような不確実性は減少させ られねばならない。まず購買決定の結果についての不確実性(X7)が少なくな 20, 21, 22) 23) 24, 25, 26) れば(X、、),購買を決定しやすい。そのためには,情報獲得,情報伝達,情報処理 20) Arndt, J. 1967 Role of Product−Related Conversations in the Diffusion of A New Product. 1. M. R., 4(3), 291一295. Arndt, J. 1968 Word−of−Mouth Advertising and Perceived Risk. ln Kassarjian, H. H., and Robertson, T. S. (Eds,) Pe7tsPectives in Consumer Behavior. Scott, Foresman & Co. pp. 330−336. 21) Cunningham, S. M. 1967 Perceived Risk as A Factor in lnformal Consumer Commu− nications. ln Cox, D. F. (Ed.), op. cit., pp.265−288. 22) Barach, J. A. 1969 Advertising Effectiveness and Risk in the Consumer Decision Process.ノニM, R.,6(3),314−320. 23) Arndt, J. 1967 Word of Mouth Advertising and lnformal Communication. ln Cox. D. F. (Ed.), op. cit., pp, 188−239. Arndt, J. 1967 Role of Product−Related Conversations in the Diffusion of A New Product. op. cit. 24) Cox, D. F., and Bauer, R. A. 1964 Self−Confidence and Persuasability in Women. P. O. Q., 28, 453−466. 25) Hemple, D. J. 1966 An Experimental Study of the Effects of lnformation on Consumer Product Evaluations. ln Haas, R. M. (Ed.) Science, Technology, and Marleeting. American Marketing Asso., PP. 589−597. 26) Barach, J. A., op. cit.
リスク敢行としての消費者行動 249−250
商品の選択(X1)
不確実性/リスク知覚
@ (X、) 一般的な自尊感情(X・) 特定の自尊感情(X,) 不安(X、) リスク低減戦略の展聞(X、) どの商品選択が良い結果を生むかに @ ついての不確実性(X,) 間違った商品選択が引き起こす結末に @ ついての不確実性(X,) 心理的/社会的損失(X,) 機能的/経済的損失(Xlo) 心理的/社会的損失(Xg) 機能的/経済的損失(Xlo) 不確実性の低減(X11) 、 、 , 一 影響力の低減(X12) A 一 情報の獲得と処理(X13) 利害の削減ないし除去(X、)購買決定
(Taylor, J.W.1974)図1 消費者行動におけるリスク敢行モデル16)
リスク敢行としての消費者行動 251 が意欲的に行われるだろう(X13)。中古車購買の事例では,例えば購入予定車 について販売担当者に聞くなど,さまざまな情報探索が行われるだろう。一般 27) 的に情報探索行動は,不確実性を低めるために行われる。また間違った商品選 択が引き起こす結末についての不確実性(X8)が少なくなれば(X、2),購買を’ 決定しやすい。そのためには,購入商品への利害(あるいは関与の度合)を削 減したり,あるいは除去することが行われる(X14)。中古車の事例では,例え ば家族の誰かと共同購入することによって,受けるかもしれない被害を少なく することができる。 以上のように図1のモデルは,購買事態で消費者が一定のリスクを知覚する こと,リスクの知覚度が自尊感情によって左右されること,リスクが引き続い て発生する消費者行動に影響すること,そしてリスクを解消させる重要な方法 が情報探索であることを示している。またこのように情報処理系として消費者 を理解することによって,情報が消費者によっていかに獲得・処理され,リス クの低減を通して購買決定がいかにもたらされるかのプロセスを解明できる。 さらに消費者の情報処理能力の有限性やその能力の個人差/状況差を解明でき る。 3 「知覚されたリスク」の消費者行動への影響 (1)商品別にみたリスク知覚 さまざまな商品を購入する場合,購入商品の内容に応じてリスクは異なって 知覚される。例えば,百貨店からの購入に関するコックスとリッチ(Cox, D. F., 28) and Rich, S. U.)の研究では,20の商品についてリスク知覚の度合と電話注文 頻度との間の関連性が検討された。その結果,「知覚されたリスク」度の高い商 品は電話で注文される頻度が少なく,それに該当する商品として家電品,台所 のテーブルといす,ハンドバッグ,男性のスポーツウェア,婦人のブラウスと 27) Sheth, J. N., and Venkatesan, M. 1968 Risk−Reduction Processes in Repetitive Consumer Behavior. 1. M. R., 5(3), 307−310. 28) Cox, D. F. and Rich, S. U., op. cit.
252 岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号) セーターなどが明らかになった。またキャブランら(Kaplan, L. B. et al.)の 29) 研究では,研究対象となった12の商品ごとにリ.スク知覚の度合が計算された。 その結果,自動車やテレビのような比較的高額の耐久消費財,サービスを内容 とする金融商品,外衣・お洒落用品などのファッション商品に対して,全般的 にリスクが強く知覚されるようであった。リスクの細目では,スポーツカー, 背広,オーバーなどに社会的リスクや心理的リスクが,またスポーツカー,生 命保険,カラーテレビなどに性能的リスクや物理的リスクが強く知覚された。 高価な耐久消費財,金融商品,ファッション商品などにリスクが強く知覚さ 30) れる事態は,わが国でも妥当するであろう。例えば杉本は,男女大学生を対象 にして,65の男女共通商品の個々について「知覚されたリスク」度を評定させ た。そして評定結果をデータとして因子分析を行ったところ,次のような2つ の因子を得た。すなわち,第一因子は,高額商品(自動車,ステレオ,冷蔵庫, 電子レンジ,カメラ,スーツなど)に高く負荷し,従って「商品に固有のリス ク」に関係する因子であり,第二因子は,日常的に購入される商品(冷凍食品, カップヌードル,清涼飲料水,インスタントコーヒー,週刊誌など)に高く負 荷し,したがって「商品選択時に喚起されるリスク」に関係する因子であった。 この研究は,高額の耐久消費財やファッション商品などがそれ自体,潜在的に 31) 高いリスク[いわゆるベットマン(Bettman, J. R.)が「inherent risk」と 「handled risk」と区分したうちの前者(内在的リスク)]を内包した商品であ ることを示している。 なお商品別のリスク知覚の問題は,さまざまな商品の購入とその支出に伴う 心理的な痛みという視点から理解することもできる。この問題は「心理的財布」 (商品の価値を測るこころのモノサシ)の問題であり,過去の研究で多種類の 29) Kaplan, L. B. et al., op. cit. 30)杉本徹雄 1982消費者行動の基礎的研究一知覚されたリスクの測定一 日本心理学会 第46回大会論文集 p.455. 31) Bettman, J. R. 1973 Perceived Risk and lts Components: A Model and Empirical. Test. f. M. R,, 10(2), 184−190.
リスク敢行としての消費者行動 253 32) 財布が判明している。商品購入に関するそのような痛みから見れば,商品別の リスク知覚の問題は,どの心理的財布からの支出に相対的に痛みが強く感じら れるかということになる。耐久消費財,金融商品,ファッション商品などの購 入に際してリスクが強く感じられるということは,それらの商品に対して開か れる「生活水準引き上げ用」財布,「つきあい用」財布,「財産用」財布などか らの支出に相対的に痛みが強く感じられることを示唆している。 (2)リスク知覚を左右する要因 商品購入時のリスク知覚度は,①商品の種類・特性など,②商品の流行性, ③商品の購買形態,④消費者の個人的特性などによって影響される。 まず商品の種類・特性などは,リスク知覚度を左右する一要因である。例え ば,消耗品か耐久消費財か,最:寄品か専門品か,あるいは新製品か普及品かな どによって,商品購入時のリスク知覚度は異なる。前節でみたように,安価な 消耗品や最寄品よりは高価な耐久消費財や専門品の購買時に一層強い懸念が経 験される。さらに新製品に対するリスク知覚に関しては,ロバートソン(Robert− 33) son, T. S.)が,新製品の電話に対して特に心理・社会的リスクが強く知覚され 34) ると報告した。アーント(Arndt, J.)によれば,新ブランドのコーヒーの購買 には懸念が感じられ,また懸念を強く感じる人ほどそのブランドの採用は遅く, 逆にひいきにするブランドへのロイヤリティ(銘柄忠誠心)や対人的コミュニ ケーションへの依存度が強かった。すなわち新ブランドの採用,リスク知覚, ブランド・ロイヤリティ,情報の収集・処理の問に一定の関連性が存在した。 次に,商品の流行性がリスク知覚に影響するだろう。例えば,ファッション 商品の購入では,そうでない商品の購入よりも一層強い懸念が示されるであろ 35) う。ミンシャルら(Minsha11, B. et aL)は,流行に左右されがちな衣料品の購 32)小嶋外弘 1986価格の心理一消費者は何を購入決定の“モノサシ”にするのか一 ダ イヤモンド社pp.14−48. 33) Robertson, T. S. 1966 An Analysis of lnnovative Behavior and lts Deterrninants. Northwestern Univ. : Doctoral Dissertation, 34) Arndt, J. 1968. op. cit. 35) Minshall, B. et al. 1982 Fashion Preferences of Males and Females, Risks Perceived, and Temporal Quality of Styles. H. E. R.ノ.,10(4),369−379.
254 岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号) 入に関して,衣服スタイルの時間的特性とリスク知覚との間の関連性を検討し た。その結果,斬新な商品の購入に際してリスク知覚度が最も高く,流行の影 響を受けにくいクラシックな商品の購入に際してリスク知覚度は最も低かった。 36) 筆者らも,さまざまな衣料品/お洒落用品に関してリスク知覚度を調査したが, 下着や家庭着の購入よりも流行の影響を受けやすいコート・上着類やスカート ・スラックス類の購入においてリスク知覚度が一層強かった。 また,商品の購買形態によってリスク知覚度に差異が認められるだろう。特 にテレビショッピングやカタログ販売といった無店舗販売の利用,すなわち在 宅購買行動(インホーム・ショッピング in−home shopping)では,商品の購 37) 買に対して一層強いリスクが知覚される。コックスとリッチによる,電話注文 による買物がリスク知覚度の低い商品に多いことを明らかにした研究は,それ 38) を証明する先駆的な仕事であった。スペンスら(Spence, H. E. et. al.)は,コ ックスとリッチの問題意識を通信販売で検討し,小売店やセールスマンから買 う場合よりも通信販売を利用する場合のほうに,同じ商品に対しても一層強い 39)リスクが知覚されることを見出した。レイノルズ(Reynolds, F. D.)はカタロ グ販売の利用に関する要因分析を行い,カタログ販売の利用がリスク・テイカ ー(risk taker)としての傾向(つまり冒険や新しいことへの試みを通して危険 を冒したがる傾向)や人としての自信度と正に関係すると報告した。同様の結 40) 果は,バーコウィッツら(Berkowitz, E. N. et aL)による食料品宅配システ ムの利用に関する研究でも得られた。 さらに消費者の個人的特性によって,リスクを強く知覚する人としない人と 36)神山 進・苗村久恵・高木 修 1992 “知覚されたファッション・リスク”にもとつ く商品分類の提案一女子の衣料品/お洒落用品について一 繊維製品消費科学,34(1),29 −40. 37) Cox, D. F., and Rich, S. U., op, cit, 38) Spence, H. E., Engel, J, F., and Blackwell, R. D. 1970 Perceived Risk in Mailorder and Retail Store Buying. 1. M, R., 7(3), 364−369. 39) Reynolds, F, D. 1974 An Analysis of Catalog Buying Behavior. /. M., 38(3), 45−51. 40) Berkowitz, E, N. et al. 1979 ln−home Shoppers. /. R., 55(2), 15−33.
リスク敢行としての消費者行動 255 41) が区別できるだろう。バラヒ(Barach, J. A.)によれば,リスク知覚と広告へ の被説得性(広告の影響の受けやすさ)との間に関連性があった。さきのレイ ノルズの研究やバーコウ4ッツらの研究では,リスク知覚と冒険心との間に負 42) 43) の関係があった。またレイノルズやシムらの報告によれば,カタログ販売の利 用は,冒険的なことを試みたい,あるいはそれを通して危険を冒したいという 傾向が強いほど,そして人としての自信度が大きいほど多かった。ウィナカー 44) ら(Winakor, G. et a1.)は,「知覚されたリスク」と自尊心との間の関係を調 査し,両者に非線形な関係,すなわち自尊心の高い人と低い人とにリスクを強 45) く知覚する傾向があると報告した。神山と高木は,特に衣料品/お洒落用品の ようなファッション商品に関して,女性は男性より,また若年は中・高年より リスクに影響されやすいこと,またリスクの知覚内容とさまざまな社会・心理 的特性,特に劣等感・情緒不安・情報欲求・同調性・自己実現欲求・自己顕示 欲求などとの間に一定の関連性があることを明らかにした。 (3)リスク知覚と情報探索行動 消費者が特定商品を購入するまでの意思決定過程は,1.問題認知,II。情 報探索,III.選択代案の評価, IV.購買の実行と停止, V.購買後の評価,と いう5段階から構成される。それでは,商品購入時に知覚されるリスクは,こ の購買意思決定過程,特に消費者の情報探索行動をいかに規定しているであろ うか。 46) シェスとベンケートサン(Sheth, J. N., and Venkatesan, M.)は,ヘアー 41) Barach, J. A., op. cit, 42) Reynolds, F. D., op. cit, 43) Shim, S., and Drake, M. F. 199e Consumer lntention to Purchase Apparel by Mail Order. C。 T. R.ノ.,9(1),18−26. 44) Winakor, G. et al., op. cit. 45)神山 進・高木 修 1987 ファッション・リスクに関する研究(第二報〉一ファッシ ョン・リスクの知覚に影響する個人的要因一 日本衣服学会誌,31(1),40−46. 神山 進・高木修 1988流行志向性とファッション・リスクの知覚 日本衣服学会誌 32(1), 22−30. 46) Sheth, J. N., and Venkatesan, M., op. cit.
256 岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号) ・スプレー商品を用いた実験的研究によってリスク知覚と情報探索行動との間 の関連性を検討した。その結果,ヘアー・スプレー商品(これは実験時に,リ スクが強く知覚されていた商品)の購入に関してリスクを強く知覚する被験者 群(高リスク群)はリスクをそれほど知覚しない被験者群(低リスク群)に較 べて,購買決定前の熟慮や情報探索にかける平均時間が長かった。また高リス ク群は低リスク群に較べて,私的な情報源(例えば友人,家族など)かち一層 多くの情報を得ていた。すなわち消費者は,不適切な購買決定を行った場合に 被らなければならない「損失」を回避するために情報探索を行う。 47) エンジェルとブラックウェル(Enge1, J. F., and Blackwell, R. D.)は,著 書『消費者行動』の中で,消費者の情報探索傾向が強くなる6つの場合を指摘 している。すなわちそれらは,①大きな危険を伴う購買決定の場合,②関与 (commitment)の度合が高い商品(高関与商品)を購入する場合,③周囲の他 者の反応が顕著な商品を購入する場合,④記憶量が少なかったり,記憶が不正 確な商品を購入する場合,⑤激しい競争下にある商品を購入する場合,⑥有害 性や身体に対して好ましくない効果を持つと思われる商品を購入する場合,で ある。 4 「知覚されたリスク」の処理 (1) 「知覚されたリスク」の処理法について 商品の購入や使用に際して,消費者は多様なリスクを知覚する。そしてその ようなリスクに対し’トは,多くの場合,さまざまな対処行動がとられるであろ う。なぜならばリスクを一定の方法で処理できることは,消費者にとって自己 の行動を正当化するための根拠になるからである。それでは消費者は,どのよ うな方法を用いて「知覚されたリスク」を処理しているのであろうか。 まず第一に,一般的に実践される処理法として,「知覚されたリスク」を減少 させることによって自己の行動を正当化する方法,すなわちリスク低減(risk 47) Engel, J. F., and Blackwell, R, D, 1982 Consumer Behavior. The Dryden Press (4th Ed.), pp. 325−326.
リスク敢行としての消費者行動 257 reduction)による方法がある。例えば,ある消費者は,同じブランドを反復購 入することによって,また別の消費者は,情報を積極的に獲得することによっ て,リスクを低減させている。次にしばしば実践される第二のリスク処理法と して,「知覚されたリスク」を補填できるようなベネフィットを商品に期待し, そのようなベネフィットとリスクとの間で心理的な取引をする処理法がある。 例えば,ある消費者は,性能面に問題はあるもののデザインの良さから特定商 品を購入するかもしれない。また別の消費者は,金銭的損失を犠牲にしても, 友人からの称賛を期待して特定商品の購入を決断するかもしれない。第三の処 理法として,危険を敢えて冒し,ひたすら喜びや快楽を求めて商品を情動的あ るいは衝動的に購入するリスク無視の方法がある。例えば,消費者の中には, リスクを敢えて冒す冒険的な人々,すなわちリスク・テイカーがいることは既 に述べた。商品の衝動買いなどもこの方法に該当する。なお豊かな消費社会で は,懸念があればそれを十分に削減してから購買を実行するよりは,多少のリ スクは無視し,むしろベネフィットを優先させて購買を実行する(したがって リスク回避行動よりはベネフィット探求行動)方が一層顕著であろう。 (2) 「知覚されたリスク」の具体的な低減法 第一のリスク処理法は,リスクそれ自身を低減する方法である。ロゼリウス 48) (Roselius, T.)は,商品購買時に消費者が用いるリスク低減法を検討し,それ を11に整理した。すなわち,①保証(endorsements),②ブランド・ロイヤリテ ィ(brand loyalty),③ブランド・イメージ(brand image),④民聞機関によ る商品テストの利用(private testing),⑤ストア・イメージ(store image), ⑥試供品の利用(free sample),⑦金銭返却の保証(money−back guaran− tee),⑧公共機関による商品テストの利用(government testing),⑨買回り (shopping),⑩値段の高さ(expensive model),⑪ロコミ(word of mouth) である。 まず保証による方法は,有名人や専門家が推薦する商品を買うことによって リスクを下げるやり方である。ブランド・ロイヤリティによる方法はお気に入 48) Roselius, T., op. cit.
258 岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号) りのブランドを常に買うことによって,ブランド・イメージによる方法は知名 度がある好評で信望の厚いブランドを買うことによって,またストア・イメー ジによる方法は知名度がある好評で信望の厚い店に置かれた商品を買うことに よって,それぞれリスクを下げるやり方である。民間機関による商品テストの 利用,あるいは公共機関による商品テストの利用とは,民間試験機関あるいは 公共試験機関が折紙をつけたブランドを買うことによってリスクを下げるやり 方である。また試供品の利用とは,購入前に製品サンプルを使用することによ ってリスクを下げるやり方であり,金銭返却の保証は,不満ならば金を返して くれるという保証つきの商品を買うことによってリスクを下げるやり方である。 そして買回りによる方法は,いくつかの店のいくつかの商品について自分自身 で買回り,比較をすることによってリスクを下げるやり方であり,値段の高さ による方法は,高価格の商品はよい商品との信念をもつことによってリスクを 下げるやり方である。最後にロコミによる方法は,友人や家族にアドバイスを 求めることによってリスクを下げるやり方である。 またロゼリウスは,商品購入時の「知覚されたリスク」を時問の損失,健康 の損失,自我の損失,金銭の損失の4つに分けて,各損失を解消させる方法も 調査した。調査対象者は家庭の主婦472名で,特定商品の購入ではなく一般的な 買物状況を念頭において回答させた。その結果,どのような種類の損失に対し ても好ましいリスク低減法は,ブランド・ロイヤリティへの依存,一流ブラン ドの購入,試供品の利用による方法であり,逆にどのような種類の損失に対し ても好ましくないリスク低減法は,値段の高い商品を購入することによる方法 であった。なお衣料品/お洒落用品などのファッション商品を対象に,因子分 49) 析法によって筆者らが抽出したリスク低減法は,次の12であった。すなわち, ①友人/モデルによる保証,②ブランド/ストアの高イメージによる保証,③ 品質・性能の確認,④着用方法の確認,⑤ストア・ロイヤリティ,⑥購入の即 49)神山 進・苗村久恵・[H中早苗・高木 修 1989 ‘知覚されたファッション・Ilスク’ の低減法 日本衣服学会誌,33(1),5−14. 神山進・苗村久恵・田中早苗・高木修1990 ‘知覚されたファッション・リスク’ とその低減戦略一に関する研究 繊維製品消費科学,31(4),36−47.
リスク敢行としての消費者行動 259 断回避,⑦販売店員の助言,⑧家族による保証,⑨経済的犠牲の軽減,⑩着用 寿命の確認,⑪試着,⑫自己納得である。これらは,ロゼリウスの「保証」か ら「ロコミ」までの低減法が,ファッション商品に関して具体的に解釈し直さ れたものといえる。 (3) 「知覚されたリスクと知覚されたベネフィット」との心理的取引 リスク低減による方法とは別に,あるいはそれと並行して,知覚されたベネ フィットとリスクとの間で取引をすることによるリスク対処行動があげられる。 「知覚されたベネフィット」とは,「知覚に基づくある商品の効用についての 50) 消費者の全般的な評価」のことであり,買い手によって知覚された特定商品の 価値(「知覚された価値」)のことである。このベネフィットの評価基準は商品 の種類によって異なるだろう。例えば,低関与型商品(つまり消費者の関心や 思い入れの弱い商品)である飲料などでは,消費者の情報処理は受動的・限定 的となる。したがってそのような商品に対するベネフィットの評価では,レモ ン100個分といった宣伝文句やブランド知名度の高さなどの,売手が提示する一 連の価値シグナルが活用される。それに対して高関与型商品(つまり消費者の 関心や思い入れの強い商品)である乗用車などでは,消費者は可能な限り情報 を収集し,それに基づいて合理的な意思決定を行おうとする。その場合には売 手の価値シグナルだけではなく,乗用車のデザイン,快適さ,耐久性,燃費な どに関した消費者個人の内在的な価値観がベネフィット評価の重要な基準にな る。 商品購入時の「知覚されたベネフィット」の内容については,因子分析法を 用いたいくつかの研究があり,さまざまな商品によって異なった内容のべネフ 51) イットが報告されている。例えば森住は,首都圏の男女(16∼69歳)に対する 調査で,食品の購入時に知覚されるベネフィットとして「手軽さ」,「味の楽し さ」,「調理の便利さ」,「健康上の良さ」,「品質面の良さ」などを区別した。神 50) Zeithaml V. A. 1988 Consumer Perceptions of Price, Quality, and Value.」 M., 52 (3) , 2−22. 51)森住昌弘 1986生活者の求める‘商品プラスα’の分析 広告科学,第十三集,9− 18.
260 岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号) 52) 山と高木は,衣服のようなファッション商品の購入に関して,「品質・性能の良 さ」,「流行性・他者承認」,「似合い・着こなし」,「自己の顕示・解放」という 53) 4つの「知覚されたベネフィット」を区別した。秋庭と園川は,冷凍冷蔵庫・ カラーテレビ・洗濯機の購入に関して,「基本機能(本来の働きがよい)」,「付 加機能(付加的に便利さが増す)」,「弊害機能(弊害が起きない)」,「保守性(手 入れしゃすい)」,「設置性(設置・収納に適す)」,「嗜好性(好みが良い)」,な どのベネフィット特性を区別した。 それでは商品を購入する際,消費者はリスクとベネフィットとをどのように 評価しているであろうか。図2は,筆者らが,リスクとベネフィットとを相互 に独立した次元であるとみなして,さまざまな商品の購入時に知覚されるリス クとベネフィットとを男女大学生に評価させ(7段階),その結果を2次元空間 上にプロットしたものである。横軸はベネフィットの軸で,右へ行くほど有用, 左へ行くほど無用という判断が多くなることを示している。一方,縦軸はリス クの軸で,上へ行くほど危険,下へ行くほど安全という判断が多くなることを 示している。第一象限で右上から左下に引かれた45度の点線は,リスクとベネ フィットとの境界値を示すトレードオフ・ラインである。この図より,概ね次 のことがいえるであろう。すなわち,①リスクとベネフィットとの境界値近辺 にある商品は,避妊薬,船旅,インスタントラーメンなどである。②二輪バイ ク,通信販売,ホームステイ留学,アルコール飲料などは,ベネフィット以上 に大きなリスクが知覚される商品であり,逆に自動車,旅客機チケット,医療 品,土地,中古車,ファッション衣料などは,リスク以上に大きなベネフィッ トが知覚される商品である。③タバコ,整形美容,エステティック契約,高級 絵画などは,無用でリスクが高いと知覚される商品である。 (4) 「リスク・テイカー」としての消費者 52)神山 進・高木 修 1990知覚された“ファッション・ベネフィット”と“ファッシ ョン・リスク”との心理的取引に関する研究 繊維製品消費科学,31(10),42−50. 53)秋庭雅夫・園川隆夫 1986 消費者からみた耐久消費財の製品評価 日刊工業新聞社. 54)神山 進・高木修 1992 さまざまな商品に関するリスクとベネフィットのトレード ォフ(未公刊資料).
Uスク敢行としての消費者行動 261−262 ・タバコ ・整形美容 ・パチンコ ・風俗サービス 危険 (リスク) ・エステティック契約・スポーツカー ・高級絵画 ・毛皮コート ・結婚相手相談所 ・スポーツ・占い 会員権 十3 十2 ・株式投資. 宝くじ . ・ブランド品 ・高 十1 ・通信販売 ・ホームステイ留学 ・アルコール飲料 ・先物商品 級マンショ・宝飾品 / ’ ’ ’ ’ tttl ,・
P
9二輪バイク ノ’ ,ノ ・避妊薬 ttt /1 ,ノ ’ ・インスタント ラーメン ・分譲住宅 1 ’ t ’ ’ ’ t t ’ ’ ’ ノ ’ t 一 ’ ’ ノ ’ 1 ’ ’ ’ / t ノ 。土地 ・旅客機チケット ・中古自動車 ・ファッション衣料 ・医薬品 ・自動車 ン ドリンク ・雛品 一3 一2 一1 、@ ’ @’f’ .こニドリンク剤 o パックツアー @ 9 ・冷凍食ロ ¥1 ロロ 十2 十3 無用 ・金 ・タクシー 有用 清涼飲料水 (ベネフィット〉 ,・生命保険鮭
・チューインガム 一1 一2 一3 ・和服 ・インスタントコーヒー ・選べるギフト ・銭湯 ・コンドーム ・新幹線チケット ・自転車 ・パソコン ・ワープロ ・メガネ ・レンタルビデオ ・専門書 ・カメラ ・スーツ ・音響機器 ・鵬計 ・家電製品 ・米 ・下着 ・歯磨き (N=102) (神山・高木 1992)図2
さまざまな商品に関するリスク/ベネフィットのトレード・オフ54)
リスク敢行としての消費者行動 263 ある消費者は他者に較べて一層大きなリスク耐性をもっているため,リスク をそれほど低めずに購買が行えるだろう。例えば,新製品購買者は,被るかも 55) しれないリスクを楽しんでいるかのように見える。コックス(Cox, D. F.)は, 刺激的なニュー・デザインの衣服を探す婦人たちのように,消費者はリスクの 増大を求めることがあると示唆した。消費者の中には,リスクを敢えて冒すリ スク・テイカーがいる。
56) 57)
レイノルズの研究やバーコウィッツらの研究によれば,リスク・テイカーは 比較的年齢が若く,冒険的で,自信もかなり強かった。彼らは価格意識が希薄 で,知人から良い評価を得たいという気持ちも弱かった。また彼らには,通信 58) 販売を利用する度合が相対的に高かった。ギレット(Gillett, P. L.)の研究に よれば,所得,職業,学歴などの上位者に無店舗販売の利用度が高く,これら の人々はリスク・テイカーとしての特性を強く持ち,“モダン・ショッパー”(“伝 統的ショッパー”と対比して)であった。 りスク・テイカーは,購買事態においてムードや情緒に流されやすい人たち 59) であることが,購買態度に関する佐々木の研究から示唆される。この研究では 5形態の無店舗販売が選ばれ,それぞれの利用者と非利用者とがREC scaleに おけるR,E項目別評定値から比較された。 R項目とは「購買態度の合理性 (rationality)」,すなわち商品選択における実用性や必需的価値の重視,同じく 節約や低価格への積極性,商品間/店舗間の比較や探索に認められる広域性な どを測定する項目である。またE項目とは「購買態度の情緒性(emotionality)」, すなわち商品選択における感覚的・情緒的価値の重視,同じく流行や革新さへ の積極性,広告や店員による勧奨への依存度などを測定する項目である。その 結果,カタログ販売,通信販売,テレビショッピングのいずれにも共通して, 55) Cox, D. F. (ed.), op. cit 56) Reynolds, F, D., op. cit. 57) Berkowitz, E, N., Walton, J. R., and Walker, O. C., Jr., op. cit. 58) Gillett, P. L. 1970 A Profile of Urban ln−home Shoppers. 」. M., 34(3), 4e−45. Gillett, P. L 1976 ln−home Shoppers. f. M., 40(4), 81a−88. 59)佐々木土師二 1988 購買態度の構造分析 関西大学出版部.264 岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号) それらの利用者に購買態度の「情緒性」が強かった。 5 リスク/ベネフィットの知覚にみる消費者の情報処理 (1)消費者情報処理パラダイム 60) ベットマン(Bettman, J. R.)が消費者の商品選択行動を解明するために情 報処理的な視点を積極的に導入して以来,消費者情報処理パラダイムが消費者 61, 62) 行動の研究で優勢になった。このパラダイムにおける重要な命題の一つは,消 費者の情報処理能力には限界があるという「情報処理能力の有限性」の命題で ある。そしてそのような有限性がゆえに,消費者は選択に直面した場合,最適 な解を求めて可能な代替案をあれこれと分析するよりは,むしろ現実的で単純 化された決定方略(選択ヒューリスティックス)を用いることが多い。なおそ の方略として,感情帰属型,線型代償型,連結型,分離型,辞書編纂型,逐次 63) 的削除型,段階別戦略などが区別されている。 これらの選択ヒューリスティックスのどれが採用されるにしても,消費者は 60) Bettman, J. R. 1979 An lnfomaation Processing Theo73, of Consumer Choice. Reading Mass. : Addison Wesley. 61)小嶋外弘・杉本徹雄 1984 消費者行動研究の最近の動向 繊維製品消費科学,25(6), 12−17. 62)杉本徹雄・小嶋外弘・永野光朗 1991 ブランド志向の心理学 繊維製品消費科学, 32(7), 3−8. 63)例えば感情帰属型とは,過去の購買・使用・廃棄経験から最も好意的な態度を形成して いるブランド(あるいは商品)を慣習的に選ぶやり方。線型代償型とは,全体的評価が最: も高いブランド(商品)を選択するというやり方。連結型とは,各属性について必要条件 を設定し,一つでもそれを満たさないものがある場合には,他の属性の値にかかわらずそ のブランド(商品〉を拒絶するやり方。したがって全属性にわたって必要条件をクリアし た最初のブランド(商品)が選ばれる。分離型とは,各属性について十分条件を設け,一 つでもその条件を満たすものがあれば他の属性値のいかんにかかわりなく,そのブランド (商品)を採択するというやり方。辞書編纂型とは,属性の重要度の順位を決め,最も重 要な属性について最も高いスコア(信念)となるブランド(商品)を選ぶやり方。逐次的 削除型とは,選択代案となるブランド(商品)を並べておいて,属性ごとに必要条件を満 たしているか否かをチェックし,条件をクリアしていないものを拒絶していくやり方。そ して段階別戦略とは,以上のような各種ヒューリスティックスを意思決定段階に応じて使 い分けるもの。
リスク敢行としての消費者行動 265 しばしば,その採用がもたらすリスクとベネフィットとの間の取引を問題にし ているだろう。すなわち,その採用によって,払う犠牲(時間・労力・金銭の 損失,欲求不満,決定の遅滞など)以上に選択案が一層満足のいくものである とか,あるいは選択決定に至るまでの過程が一層納得のいくものであるといっ た利益や恩恵の受容が期待されているだろう。それでは,このようなリスク/ ベネフィット取引戦略は,どのようなモデルによって説明できるだろうか。 (2)リスク/ベネフィットの取引・交換を説明するモデル 64) サイモンは,その著書『人間の理性と行動』の中で,合理的な選択について の考え方を,①全知全能モデル,②行動モデル,③直観モデル,④進化論モデ ルの四つで示している。これらのモデルのいくつかは,消費者が行うリスク/ ベネフィットの取引戦略を考える場合に一つの有用な手がかりを与えてくれる。 まず全知全能モデルでは,統合された世界において包括的な選択を行う,英 雄的な人間が想定される。その人間は,前途に待ち受ける全事象を総合的に把 握でき,また利用可能な諸戦略の結果を十分に予測できる。従ってそのような 人間は,あらゆる選択肢のリスクとベネフィットの度合を比較検討して,最適 で,期待値を最:大化する特定案を選ぶことができる。これに対して行動モデル は,人間の合理性が,特にその計算能力の低さによって非常に制約されている との前提に立つ。そして限られた計算能力しかもたない人間が,いかにして適 応力ある選択を行うかが問題にされる。従って行動モデルでは,最適な選択案 ではなく,リスクとベネフィットとの比較検討を通して,一層望ましく,一層 満足のいく期待値が得られそうな特定案が選択される。さらに直観モデルでは, 直観(しばしば突然に問題に対する解に達するような観察可能な事実)の過程 が強調される。そして人間の思考が情動によって影響されていることを認め, そのような情動が問題解決にいかなる効能を有するかが考察される。サイモン は,すべての真剣な思考が,行動モデルの示唆する「探索のような諸過程」と この直観モデルの示唆する「精通したパターンについての突如として起る識別」 64)Simon, H. A.1983 Reason in Human、Affairs. Stanford University Press.佐々木恒男 ・吉原正彦(訳)1984 人間の理性と行動文眞堂.
266 岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号) といういずれの思考様式をも必要とするという。よって直感モデルによれば, 被るリスクの大きさを詳細に分析することなく,喜びの感情をベースに特定案 が選択され,逆に苦痛の感情をベースに特定案の選択が見送られる。最後に進 化論モデルとは,進化論的適応としての合理性の考え方をさす。例えば,鳥が 木の一定の高さに巣を作るのは,その位置が卵と雛とを地上の捕食者から守る という理由から合理的である。その場合,親鳥が全知全能的な,行動的な,あ るいは直観的な決定過程を経てその位置の選択を行ったというような言い方に は,何の意味もない。巣を作ることは,進化の過程を通して選択されてきた本 能的・適応的な行動だからである。進化論モデルは,人間が最大のベネフィッ トを獲得するために必要な“正確で合理的な計算をあたかも行ったかのように” 行動すると仮定する。その根拠は,最大化に成功したものだけが生き残るだろ うということである。このような4つのモデルの中でも,特に行動モデルと直 観モデルとは,豊かな消費社会における情報志向的消費者行動の説明に対して 有用な視点を提供しているように思われる。 (3)リスク/ベネフィットの評価から構想された消費者の商品受容モデル 図3は,リスク/ベネフィットの評価という視点から消費者の商品受容過程 を構想したものである。このモデルの基本的な特徴は,合理的選択に関するさ きの行動と直観との両モデルを組み入れて,消費者の意思決定過程を認知系と 情緒系とに分割している点にある。そのような視点は,サイモンによって次の ように説明された。すなわち,①人間の左側の頭脳は,分析的な機能を果たし, 思いつきによって飛躍することはできないが深い分析を可能にする。②反対に 右側の頭脳は,臨機応変な知恵と創造力とが貯えられている。③情報を収集す ることから,それを処理し,行動を起こすまでの複雑な人間の思考は,さまざ 65) まな割合と方法とで,このように分化した大脳半球体の両方を用いている。 認知系と情緒系という二つの根本的に異なった思考形態は,特定商品の購入 に関しては,認知系思考(リスク・ベネフィットの相対的評価をベースにした 分析的思考)と情緒系思考(喜びや苦痛の感情をベースにした直観的思考)と 65)同上訳書,p.26.
刺激(外部情報) リスク敢行としての消費者行動267 r
感覚レジスター
(短期記憶)
新しい討憶
iただし,比較的短時間の
@ うちに消滅する記憶)
(消費者の情報処理;意思決定に役立てるための @ 情報の取得と統合のプロセス)認知系
リスク・
xネフィット
@ 評 価
目動
W讐 せ
(分析)i直感)
歴1 ど
デモパO1
宴¥
tナ
Cリ
cテ
Nィ
^要
@因
行動
喜び・
@ 苦痛の
@ 感 情
情緒系
(長期記憶;内部情報) 社態?x
I
商対態iす度
ノる
商品知 識 過リ体祉X験
フク
267−268図3 リスク/ベネフィットの知覚にもとつく消費者の商品受容
リスク敢行としての消費者行動 269 で表現できるだろう。その上これらの二つの思考形態(従って情報処理形態) のいずれをどのように選択し,用いるかには,消費者の社会的態度,商品に対 する態度,商品知識,過去のリスク体験,デモグラフィック属性やパーソナリ ティ特性などの影響が認められるだろう。例えば,購買態度の情緒性と合理性 66) とに関する佐々木の研究によれば,デモグラフィック属性の影響に関して次の ことが示唆された。すなわち,(a)大学生は情緒系を用いる度合が一層強く,高 卒・中卒の女性は認知系を用いる度合が一層強い。(b)若年代は情緒系を用いる 度合が一層強く,年代が高くなるにつれて認知系を一層多く用いるように推移 する。(c)専業主婦は認知系を用いる度合が一層強く,勤労女性や女子学生は情 緒系を用いる度合が一層強い。(d)未婚者には情緒系を用いる度合が,既婚者に は認知系を用いる度合がそれぞれ一層強く,また子供のない既婚女性は未婚者 に近くなる。(e)上流階層から下流階層へと移るにつれて,認知系が一層多く用 いられるように推移する。(f)「中の上」階層の人々には情緒系を用いる度合が 一層強く,逆に「中の下」階層の人々には認知系を用いる一層強い傾向がある。 さらに,認知系と情緒系という異なった情報処理形態の使用は,商品の購入 67) 目的によって相違することも示唆されている。例えば,生活の簡素化や自然化, 基礎的生活側面の充実,暮しの中での家族一体化の希望などを目的にした商品 の購入では,情緒系以上に認知系が一層よく使われる傾向があるのに対して, 生活の多様化・広域化,ファッショナブルリビングの実現,くらしの中での活 動性・快適性の希求などを目的にした商品購入では,認知系以上に情緒系が一 層目く使われる傾向がある。 6 むすびにかえて一豊かな消費文化と消費者一 今日の私たちは,比較的豊かな社会の中で生活している。「豊かな社会」とい 68) う呼称が使われるのは,1958年にガルブレイス(Galbraith, J. K.)がその著書 66)佐々木土師二,前掲書,pp.223−224. 67)同上書,pp.232−234. 68) Galbraith, J. K. 1958, 1969, 1976 and 1984 The AffZzaent Sociely (4th Ed.). Houghton Mifflin Company.鈴木哲太郎(訳)1990豊かな社会 岩波書店(同時代ライブラリー 11).