滋 賀 大 学 教育 学 部紀 要 人 文 科学 ・社 会科 学 No.51, PP.67-78,2001
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ジ ョ ン ・ス チ ュ ア ー ト ・ ミ ル の 教 育 論
加
納 正
雄
John Stuart Mill,s Thought on:Education
Masao KANO 1.は じめ に 本 稿 の 目的 は、古 典派 経済学 者 であ る ジ ョン ・ ス チ ュ ア ー ト ・ミルの 思想 にお け る教 育 の役 割 を検 討 す る こ とで あ る。 た だ し、 この場 合 の 教 育 は、 人 間 の資 質 に影 響 を 与 え る とい う意 味 で の教 育 で あ り、 学 校 教 育 の み で はな く、 制 度 な どの 影 響 も含 む広 い概 念 で あ る。 ミルが 体 系 的 な教 育 論 を 展 開 して い るわ けで は な いが 、 ミル は古 典 派 経 済学 者 の なか で は、 最 も教 育 に関 す る言 及 が 多 い存在 で あ る。 この こと は、 ミル の思 想 に お いて 教育 の果 たす 役 割 が非 常 に重 視 さ れて い る こ とを意 味 す る。 これ は、 社 会 を 構 成 す る人 間 の 資 質 の進 歩 、 す な わ ち、 人 間 の知 的 ・道 徳 的 進 歩 に よ って、 社 会 を 評 価 す る と い う立 場 を、 ミル が と った ことの 結 果 で あ る。 一 方 、 ミル は古 典派 経済学 者で あ り、 人 間 の資 質 の 問題 だ けで は な く、社 会 を いか に 効 率 的 に機 能 させ るか を考 え て い る。.この二 つ の観 点 が ミル の議 論 を特 徴 づ け る もの と な って い る。 本 稿 の 目的 は、 この よ うな観 点 か ら、 教 育 の 役 割 に関 す る ミル の議 論 を 検討 す る ことで あ る。 以 下 の第H節 で は、 ミル の議 論 の時 代 背 景 を 明 らか にす る。 第 皿節 で は、 ミル の主 張 の基 礎 とな る人 間 性 と教 育 の関 係 に関 して ミルが どの よ う に考 え て い た か を検 討 す る。 第IV節 で は、 労 働 者 階 級 の教 育 にか か わ る問 題 や義 務 教 育 に 関 す る議 論 な どを検 討 す る。第V節 で は、 自由 や 個 性 と人 間的 ・社 会 的 進歩 の関 係 に関 す る ミ ル の議 論 を検 討 す る。第VI節 で は、 第V節 の議 論 との 関連 で、 大 学 教育 の改 革 に関 す る ミル の 議 論 を 検討 す る。 第W節 は、 結 論 で あ る。 H.ミ ル の 時 代 教育 に関 す る ミル の議 論 は、 労 働 者 階 級 の教 育 に 関 す る もの と上 流 階級 お よ び 中産 階 級 の教 育 に か か わ る もの が あ る。 学 校教育 に関 して は、 義 務教 育 の 問題 と大 学教 育 の 問題 で あ る。 ただ し、 ミル の議 論 は、 単 に学 校 教 育 だ け の問 題 で は な い し、 ま た、 当 時 の状 況 と密 接 に関 連 して い る。 本 節 で は、 ミル の 問題 意 識 と時 代 状 況 の 関 連 を、 後 の議 論 の 前提 と して取 り上 げ る。 ミル の生 き た時 代 は、1806年 か ら1873年 で あ る。 経 済学 にお け る ミル の主 著 「経 済 学 原 理』 は1848年 の 出版 で あ り、 ア ダ ム ・ス ミスの 「国 富 論』(1776年)よ り72年 後 で あ る。 この 時 代 の イ ギ リス の経 済 的 特徴 は、 産 業 革 命 の 結 果 、' 資 本主 義 経 済 が 確 立 し、 労 働 者 と資 本 家 の 階級 関 係 が 明確 に な る こ とで あ る。 ミルの 議論 にお い て も、 上 流 階 級(貴 族)、 中 産 階 級(商 工 業 者)、 労 働 者 階級 が明 確 に区 別 され て い る し、 教 育 に 関 す る議 論 も これ らの階 級 と関連 づ け ら れ て い る。 産 業 革 命 に よ り、 イギ リス の生 産力 は増 大 す るが、 産 業 革 命 後 の労 働 者 の生 活 は悲 惨 で あ っ た(D。 労 働 者 の 貧 困 に関 す る 問題 は、 ミル の
「経 済 学 原 理 」 の 主 要 な テ ー マ の一 つ で あ り、 労 働 者 階 級 の 教 育 の 問 題 と関連 させ て 述 べ られ て い る。 この時 代 は、 労 働 者 の 窮 状 へ の対 策 と して、 工 場 法 が 制 定 され 、労 働 時 間 の規 制 や児 童 労 働 の禁 止 な どが お こな わ れ る。 教 育 に お い て も、 国 家 に よ る教 育 制 度 の整 備 が行 わ れ る時 代 で あ る。 こ の よ うな状 況 は、 ミル の議 論 に も 反 映 して い る。 義 務 教 育 に関 す る 議 論 は 、 『経 済 学 原 理 』 や 「自由論 』(1859年)で 取 り上 げ られ て い る。 産 業 革 命 に よ る労 働 者 の増 加 と、 労 働 者 の貧 困 を背 景 に、 労 働 運 動 が 発 生 す る。1832年 の第 1次 選 挙 法改 正 に よ り資 本 家 が 選 挙 権 を獲 得 す るが 、労 働者 に よ る選 挙 権 獲 得 運 動 も始 ま る。 1867年 に、第2次 選 挙 法 改 正 に よ り労 働 者 も選 挙 権 を 獲 得 す る こと に な る。 労 働 者 階 級 の教 育 に関 す る ミル の議 論 に は労 働 者 の政 治 参 加 とい う問 題 が 強 く反 映 さ れ て い る。 次 に、 上 流 階 級 お よび 中産 階級 の教 育 に 関 す る 問題 意 識 は、 経 済 発展 が人 間精 神 に 与 え る弊 害 とい う ミル の 見解 に基 づ く もの で あ る。 この ミル の 見 解 は 、 既 に ミル が30歳 の 時 に 書 い た 「文 明 論 」(1836年)に 明 確 に現 れ て い る。 この 論 文 で の 問 題 意 識 は、 後 の 多 くの 著 作 と関 連 し て い る。 この 「文 明 論 」 にお いて 、 ミル は、 文 明 の二 つ の 意 味 を区 別 して 使 用 す る。 す なわ ち、 一 つ は、人間や社会 の知的 ・道徳的進歩を言 う。 も う一 つ は、 商 工 業 が発 展 して い るこ とであ り、 経 済 発 展 を 意 味 す る。 ミルが 問 題 にす るの は、 経 済 発 展 の意 味 で の文 明 が政 治 と人 間 の精 神 に 与 え る影 響 で あ る。 経 済 発 展 の意 味 で の文 明 が政 治 に与 え る影 響 に 関 して は次 の よ う に述 べ られ て い る。 す な わ ち 、権 力 が ま す ます 個 人 お よ び個 人 の 小集 団 か ら大 衆 へ と移 り、大 衆 の重 要 性 が絶 えず 増大 し、 個 人 の重 要 性 が 絶 え ず 減 少 しっ っ あ る こ とで あ る。 これ は、 経 済 発 展 に よ って、 大 衆 の 経 済 力 や 知性 が大 き くな る こ と によ り、 個 人 の 政 治 力 が 弱 くな り、 集 団 の力 が 強 くな る よ う な状 況 が 生 まれ る とい う こ と で あ る。 す な わ ち、 政 治 の 大 衆 化 が進 む と い うこ とで あ る。 その 結 果 、 政 治 が 大 衆運 動 に よ って決 定 され る よ うに な り、 個 人 の 役 割 は小 さ くな る ω。. 次 に、 経 済 発 展 の意 味 で の文 明 が精 神 に与 え る影 響 と して は次 の こ とが 述 べ られ て い る。 第 一 は、 文 明 が 直 接 に精 神 に与 え る影 響 で あ る。 こ れ は、 生 命 、 財 産 、 自 由 な どが 社 会 全 体 の仕 組 み で守 られ、 個 人 の力 に依 存 しな い よ うに な る 結 果 、 中 産 階 級 の 場 合 に は 、 個 人 の 精 力 (energy)が 金 儲 け に集 中 し、 既 に富 へ の 欲 望 が 満 た され て い る上 流 階級 の場 合 に は、 精 力 の 減 退 とな って現 れ る こ とで あ る。 富 裕 な 階級 の な か に、 価 値 あ る こ との た め に 何 か を しょ う と し、 ま た は何 か を 耐 え 忍 ぼ う とす る英雄 的 な 人 が 少 な くな る。 第 二 は、 個 人 が 大 衆 の な か に埋 没 して ます ます 無 意 義 にな って い くこ と に よ る 弊 害 で あ り、 個 人 が 、 そ の内 容 よ り も どの よ う に見 え るか に よ って 判 断 され 、 す ぐれ た人 々 の 大 衆 へ の影 響 力 が減 退 す る こ とで あ る(3)。 以 上 の よ うに、 ミル に よれ ば、 経 済 発 展 の意 味 で の文 明 化 の弊 害 は、 個 人 が群 衆 の な か に埋 没 して無 力 化 す る こ と、 個 人 の性 格 そ の もの が 弛 緩 し惰 弱 にな る こ とで あ る。 この よ うな状 況 に対 して、 ミル は二 つ の解 決 方 法 を示 して い る。 す なわ ち、 個 人 が集 団 の な か に埋 没 して 無 力 化 す る弊 害 に対 す る救 済策 は、 個 々 人 の 間 に よ り 大 き く完 全 な団 結 を つ くる こ とで あ り、 個 人 の 性 格 が 弛 緩 し惰 弱 にな る こ とに対 す る救 済策 は、 「個 人 の性 格 に活 気 を与 え る よ う に 考 案 さ れ た 国 家 的 な教 育 制 度 と政 治 形 態 をつ くる こと で あ る」(「文 明 論 」、p.136/206)。 た だ し、 こ こ で い う教 育 制 度 の改 革 は、 教 養 あ る富 裕 な人 々 の 教 育 で あ り、 具 体 的 に は大 学 教育 の改 革 で あ る。 大 学 の教 育 内容 を改 革 す る こ と に よ って 、 「教 養 あ る富裕 な人 々 の 間 に個 性 的 な性 格 を再 生 さ せ よ う とす る」(「文 明 論 」、p.138/209)も の で あ る。 この 「個 性的 な性 格 の再 生」 とい うテ ー マ は、 後 の 著 作 で あ る 「自由 論」 の テ ー マ と関 連 す る。 これ に関 して は、 第V節 で 述 べ る。 ま た 、 ミル は 「文 明 論 」 にお いて 、 この よ うな観 点 か ら大 学 教 育 に関 す る主 張 を述 べ て い る が、 後 の 「セ ン ト ・ア ン ドル ー ズ大 学 名 誉 学 長 就 任 講 演 」(1867年)に お い て も、 同 様 の 趣 旨 が よ り具 体 的 に述 べ られ て い る。 これ らの 問題 に 関 して は、 第VI節 で取 り上 げ る。
III.人 間 性 と 教 育 ジ ョ ン ・ス チ ュ ア ー ト 。 ミル の 教 育 論 前 述 した よ うに、 ミル の議 論 は、 労 働 者 の 貧 困 や 政 治 参 加 、 経 済 発 展 に よ る精 神 的 弊 害 の 除 去 と い う問 題 が背 景 と な って い る。 ミル は、 こ れ らの問 題 に対 して 、 人 間 の 資 質 の進 歩 とい う 立 場 で 対 応 しよ うと した。 す な わ ち 、 ミル の 救 済 策 は と もに人 間 の資 質 に影 響 を与 え る効 果 、 人 間 の知 的 ・道 徳 的 進 歩 のた め の 教育 的 効果 を 重 視 した もの で あ る。 したが って、 人 間性 や 、 教 育 と人 間 の知 的 ・道 徳 的 進歩 の関係 に関 して、 ミルが ど の よ うに考 えて い た か が 問 題 と な る。 本 節 で は、 これ らの こと を検 討 す る。 周 知 の よ うに、 ミル の基 本 的 立場 は功 利 主 義 で あ る。 人 間性 と人 間 の資 質 の 進 歩 の 問題 は、 ミル の 「ベ ンサ ム論 」(1833年)や 『功 利 主 義 論 』(1863年)な どで述 べ られ て い る。 ミル は 「ベ ンサ ム論 」 にお いて、 人 間性 の 理 解 と い う観 点 か ら、 す なわ ち、 人 間 が精 神 的 に 進 歩 す る と い う観 点 か ら、 ベ ンサ ムの主 張 を 批 判 して い る。 す な わ ち、 「ベ ンサ ム は、 人 間 が 精 神 的 完 成 を一 つ の 目標 と して 追及 で きる存 在 で あ る こと を少 し も認 めて いな い」(「ベ ンサ ム 論 」、p.95/257)と 批判 して い る。 ミル は、 人 間 は精 神 的 に進 歩 す る こ とが 可 能 で あ り、 そ れ を もと あ る 存在 で あ る こ とを 主 張 す る。 ベ ンサ ム の理 論 は 、人 間 が 自分 の利 益 に つ い て は正 し く判 断 で き る とい う前 提 の もとに成 立 して い る が 、 ミル の 場 合、 人 間 が 精 神 的 に進 歩 す る とい う立 場 を と る こ とに よ って 、 この前 提 が成 立 し な くな る。 この主 張 は 『功 利 主 義論 』 の議 論 と 関 連 す る。 こ こで は、 ミル は、 功利 主 義 に対 し て 周 知 の よ うに快 楽 の質 的 な 差 異 を持 ち込 む。 ミル に よれ ば、 「二 つ の快 楽 の うち 、 両 方 を 経 験 した 人 の 全部 ま た は ほ ぼ全 部 が、 道 徳 的義 務 感 と関 係 な く決 然 と選 ぶ ほ うが 、 よ り望 ま しい 快 楽 で あ る」(『功 利 主 義 論 』、p.448/469)。 す な わ ち、 異 種 の快 楽 の質 的 な序 列 づ け は、 両 方 を 知 っ た もの の あ い だの 多 数決 に よる とされ る。 この こ と は 、 よ り高 級 な 快 楽 を求 め る存 在 へ と 人 間 が 進 歩 す る こと を意 味 す る。 この快 楽 の 質 の 相 違 は、 個 人 の幸 福 よ り も社 会全 体 の幸 福 、 一 般 的 幸 福 を優 先 す る こ とが、 行 為 の正 しい基 準 とな る と い う主 張 と結 び付 け られて い る。 ミ 69 ル に よ れ ば、 「功利 主 義 が正 しい 行 為 の 基 準 と す るの は、 行 為 者 個 人 の幸 福 で はな く、 関 係 者 全部 の幸 福 な ので あ る」(『功 利 主 義 論 』、p.452 /478) 以 上 の よ うに、 ミル の場 合、 人 間 の精 神 的 進 歩 とは全 体 の幸 福 を 個 人 の幸 福 とす る よ うな人 間 に進 歩 す る こ とを 意 味 し、 そ の よ うな こ とが 可 能 で あ る こ とを 主張 す る もの で あ る。 この よ うな人 間 性 を 前 提 に、 ミル の問 題 意 識 は、 い か に人 間 の知 的 ・道 徳 的進 歩 を促 す か と い うこ と で あ る。 ミル が 重 視 した の は、 制 度 が 人 間 に与 え る教 育 的 な効 果 と、 学 校 教 育 で あ る。 制 度 が 人 間 に与 え る影 響 に関 して は、 ミル の 著 作 で は、 一 貫 して重 視 さ れて い る。 ミル に よ れ ば、 社 会 変 革 の た め に は、 労 働 者 と資 本家 の 性 格 の変 化 が 、 す な わ ち、 この両 者 が 公 共 的 な 利 益 を考 え る とい う こ とが必 要 であ る。 そ して、 そ の よ うな性 格 の変 化 は、 私 的 な利 害 で はな く 公 共 的 ・社 会 的 な 目的 の た あ に、 働 きか っ協 力 す る とい う学 習 に よ って、 達 成 され る。 この よ う な考 え は、 ミル の 『経 済 学 原 理』 に も明確 に 表 明 され て お り、 「共 同 の 利 害 につ い て 討 議 し 処 理 す る こ と は、 公 共 心 や 公 共 事業 に つ いて の 知 性 を育 成 す る偉 大 な学 校 」(『経 済 学 原 理 』、 p.944)と 述 べ て い る。 さ らに、 『代 議制統 治論』 (1861年)で は、 統 治 制度 を 評 価 す る 基 準 と し て 、 「す ぐれ た 統 治 の 第一 の要 素 は、 そ の共 同 社 会 を構 成 して い る人 間 の 徳 と知 性 なの だか ら、 あ る統 治形 態 が所 有 し うる卓 越 の も っと も重 要 な点 は、 国民 自身 の徳 と知 性 を 向上 させ る こ と で あ る」(「代 議 制 統 治 論 』、p.337/50-51)と 述 べ て い る。 ミル の場 合 、統 治 制 度 が 社 会 の 構 成 員 に与 え る教 育 効 果 は、公 共 活 動 へ の 参 加 を 通 じて で あ る。 ミル は、 この よ うな活 動 を 「公 共精 神 の学 校 」 と呼 ん で い る。 次 に、 学 校 教 育 の役 割 で あ る が、 重 要 な こ と は、 ミル の場 合 、 学 校 教育 は、 学 校 外 の教 育 を 含 む全 体 の なか で 位 置 づ け られ て お り、 学 校 教 育 は そ の よ うな全 体 の な か の基 礎 を な す知 性 と 教 養 を育 成 す る と ころ で あ る とい うことであ る。 ミル は、 精 神 は使 わ れ る こと に よ って の み発 展 す る と い う こ と を 強 調 して い る。 す な わ ち、 「書 物 や講 義 だ け が教 育 な の で は な い 。 人 生 は 定 理 で は な く問 題 で あ り、 行 動 は行 動 に よ って
の み学 ば れ る。 … … 入 間 教 育 の 主 要 な分 野 は、 か れ らの習 慣 的 な実 践 で あ る。 それ は、 か れ ら の 個人 的 な職 業 で あ る か、 一 般 的 な関 係 を もつ 何 か の 仕事 に 参 与 す る こと に求 あ られ る こ との どち らか に違 い な い」(「 トク ヴ ィル氏 の ア メ リ カ民 主 主 義 論H」 、PP.168-9/149-150)と 述 べ て い る。 こ の よ うに ミル は人 間 の進 歩 を議 論 の 基 礎 に 位 置 づ け て お り、r功 利 主 義 論 』 に お い て は、 社 会 全 体 の幸 福 を優 先 す る こ とが 正 しい行 為 の 基 準 とな る と い う立 場 まで 進 む 。 こ の場 合 、 ミ ル が 人 間 性 を ど の よ うに考 えて い た かが 問 題 と な る。 ミル と 同 じ く古 典 派 経 済 学 者 で あ る ア ダ ム ・ス ミスの 解 釈 に お い て は、 利 己心 が強 調 さ れ るが 、 ス ミス の主 張 に は、 利 他 心 も人 間性 と して 認 め られ て い る。 た だ し、 人 間 の動 機 と し て、 利 己心 に 比 べ た場 合 の利 他 心 の 限 界 が 強 調 され る だ け で あ る。 ミル にお い て も、利 他 心 と 利 己心 が と も に考 え られ て お り、 人 間 性 そ の も の の理 解 に関 して は、 ス ミス と同 じで あ る と思 わ れ る。 ミル の強 調 は、 人 間 性 にお け る よ い も のを 伸 ば す と い う意 味 で の発 展 で あ る。 そ の こ と に よ って 、 個 人 の行 為 を修 正 し、 全 体 の利 益 を もた らす 行 為 を 発展 させ る とい う もので あ る。 た だ し、 ス ミス の 場 合 に は、 利他 的行 為 で あれ、 利 己 的行 為 で あ れ 、 そ れ が社 会 に与 え る結 果 は、 そ の動 機 と は 別 で あ る とい う発 想 が あ る。 ミル の場 合、 社 会 全 体 の 利 益 に も とつ く行動 を重 視 す るの で あ るが 、 何 が 社 会 全 体 の 利 益 で あ るか と い う問 題 が あ る。 ただ し、 ミル の 場 合 、 社 会 に対 す る評 価 基 準 は、 社 会 を 構 成 す る人 間 の知 的 ・道 徳 的 あ り方 で あ る。 したが って 、 人 間 の 資 質 と して の 動 機 の方 に評 価 の重 点 を よ り置 い て い る と いえ る。 い ず れ に して も、 人 間 の資 質 に よ り社 会 を評 価 す る とい う立 場 は ミル の議 論 を特 徴 づ けて い る と いえ る。 ミル は、 統 治 機 構 が 人 間 の精 神 的進 歩 に与 え る影 響 を重 視 す る一 方 で 、人 間 の 能力 と資 質 を 前 提 に して、 効 率 的 に成 果 を あ げ るよ うに統 治 機 構 が っ く られ るべ きで あ る こ とを主 張 して い る。 ミル に よれ ば、 政 治 機 構 は現 実 の 人 々 の 能 力 と性 質 に適 合 させ られ な けれ ば な らな い ので あ り、 あ る統 治 機 構 が適 合 す る た め の三 つ の条 件 は、 国 民 が そ れ を進 ん で受 け入 れ る こ と、 国 民 が そ の政 体 を維 持 す る の に必 要 な こ とを す す ん で行 い、 ま た、 そ うす る ことが で き る こ と、 国民 が そ の政 体 が課 す る義 務 を遂 行 し、 ま た機 能 を果 た す こ とで あ る ω。 具 体 的 に は、 民 主 主 義 が可 能 とな る国 とそ うで な い国 が あ る とい う こ と にな る。 後者 は、 文 明 化 され て い な い 国 で あ り、 後進 植 民地 を含 む もの で あ る。 こ の よ うに ミル の主 張 に は、 人 間 の 知 的 ・道 徳 的 進 歩 を重 視 す る主 張 と、 そ れ らの相 違 を 重 視 す る と い う二 つ の面 が あ る。 後 者 は、 人 間 の 知 的 ・道 徳 的状 態 を もと に人 間 を区 別 す る と い う思 想 で あ る。 この こ とは、 『代 議 制 統 治 論 』 で 述 べ ら れ て い る よ うに、 政 治 に関 す る主 張 に は 明 確 に 現 れ て い るが、 ま た、 教 育 に関 す る主 張 で も表 れ て い る。 IV.労 働者 階 級 と教 育 前 述 した よ う に、 ミル の 時 代 に は、 産 業 革 命 後 の労 働 者 の貧 困 と、 さ らに労 働 者 の 政 治 参 加 が問 題 と な って い た。 これ らの 問 題 に関 す る ミ ル の議 論 の特 徴 は、 対 策 と して 労 働 者 に対 す る 教 育 を重 視 して い る ことで あ る。 ま た、 この時 代 は、 公 教 育 が整 備 さ れて い く時 代 で あ り、 こ れ に 関 して も、 『経 済 学 原 理 』 の い くっ か の章 と 『自 由論 』 の重 要 な テ ー マ とな って い る。 産 業革 命後 の労 働者 の貧 困 は労 働 人 口 の 急激 な 増 加 によ る もの で あ り、 マ ル サ ス の 『人 口原 理 』(1798年)の テ ー マ で あ る。 ミル は、 労 働 者 の貧 困 の 原 因 に関 して 、 マ ル サ ス と同 じ見 解 で あ り、 労 働 者 の貧 困 を 解 決 す る手 段 と して人 口制 限 の必 要 性 を主 張 して い る(5)。そ の手 段 と して、 労 働 者 へ の教 育 の普 及 が重 視 され てい る。 た だ し、 ミル は、 労 働 者 に対 す る教育 だ けで は、 人 口 を抑 制 すべ きで あ る とい う意 見 は形 成 で き な い と して、 「それ ゆえ に労 働 者 階 級 の 習 慣 を 改 あ る 目的 の た あ に、 か れ らの 知 性 と貧 困 に同 時 に向 け られ た二 重 の 活 動 が 必 要 で あ る。 労 働 者 階 級 の 子 ど も の 有 効 な 国 民 教 育(national education)が 第 一 の必 要 事 で あ る。 そ れ か ら、 そ れ と同 時 に、(フ ラ ンス:革命 で お こ な わ れ た よ うに)全 一 世 代 に わ た って極 端 な貧 乏 を駆 逐 す る方 策 の体 系 で あ る」(『経 済学 原理1、p.374) と、 国 民 教 育 と極 端 な貧 困 の駆 逐 が必 要 で あ る
ジ ョ ン 。ス チ ュ ア ー ト ・ ミル の 教 育 論 71 と述 べ て い る。 こ の よ う な ミル の議 論 の特徴 は、 単 に経 済 的 な観 点 のみ で は な く、 労 働 者 の精 神 的 自律 、 精 神 的 涵 養 、 ま たそ れ らを 促 す 制度 の 必 要 性 を 説 いて い る こ とで あ る㈹。 前 述 した よ う に、 この 時 代 は、 義 務教 育 の導 入 が 問題 に な って いた が 、 ミル は、労 働者 自身 の 問 題 だ けで な く、 社 会 に対 す る影 響 の観 点 か ら、 初等 教 育 の 義 務 化 を主 張 して い る。 す な わ ち、 「子 ど もの両 親 が、 ま た は彼 らが 頼 る人 々 が、 彼 らの た あ に この教 育 を得 る力 を持 って お り、 そ うす る こ と に失 敗 す るな らば、 二 重 の義 務 違 反 を犯 して い るの で あ る。 す な わ ち、 子 ど も自身 に対 して と、 社 会 一 般 の成 員 に対 して で あ る。 後 者 は、仲 間 の市 民 に お い て無 知 と教 育 の欠 乏 の結 果 か ら重 大 な損 害 を受 けや す いの で あ る。 そ れ ゆ え に、 政 府 が 親 に対 して そ の子 ど もに初 等 教 育 を授 け る法 律 上 の義 務 を 負 わ せ る こと は、 政 府 の権 力 の行 使 と して 承 認 して もよ い もので あ る」(「経 済 学 原 理 』、p.949)。 こ の よ うに子 ど もに対 す る教 育 が 社 会 一 般 に対 す る 問 題 で もあ る とい う理 由か ら、 義 務 化 す る こ と が 主 張 され て い る。 こ の よ う な 立 場 は、 『自 由 論 』 の第5章 「応 用」 に お い て も、 主 張 され て い る。 『自 由 論』 の テ ー マ は乱 「社 会 が個 人 に対 して 当 然 行 使 して よ い権 力 の性 質 と限 界」 で あ るが 、 「国家 が 、 そ の市 民 と して 生 ま れ た あ ら ゆ る人 間 の 教 育 を、 あ る一 定 の 標準 ま で要 求 し 強 制 す べ きで あ る と い う こ と は、 ほ とん ど 自明 の 公 理 で は な か ろ うか 」(『 自 由 論 』、p .317/ 336)と 述 べ て い る。 ミル に と って労 働 者 階級 の教 育 が 問題 に な る 具 体 的 で差 し迫 っ た理 由 は、 第H節 で述 べ た よ うに、 労 働 者 の選 挙 権 獲得 が 当 時 の課 題 と な っ て い た か らで あ る。 この主 張 が最 も明 瞭 に現 れ て い る著 書 は 『代 議 制 統治 論 』 の 第8章 「選 挙 権 の拡 大 に つ いて 」 で あ る。 ミル は、 政 治 参加 の条 件 と して 、「普通 教育(universal teaching) が普 通 選 挙 権 に先 行 しな け れ ば な らな い」(『代 議 制 統 治 論 』、p.382/219)と 主 張 して お り、 読 み書 き と普 通 の 計算 が で き な い人 物 に は選挙 権 を与 え る べ きで はな い と述 べ て い る。 以 上 の よ う に、 ミル は、 貧 困 の解 決 と労 働者 の選 挙 権 獲 得 の条 件 と して 労 働 者 階 級 の教 育 を 考 え て い る が 、 この よ うな普 通 教 育 を 国 家 が お こな うべ きか ど うか に関 して 当 時 議 論 が 起 こ っ て い た。 古 典 派 経 済 学 は、 基 本 的 に 自由 主義 経 済 の支 持 者 で あ り、 経 済 活 動 に 対 して は、政 府 が干 渉 しな い こ とを原 則 と して 支 持 す る。 ミル も、 この点 に関 して は同 じで あ るが、 教 育 に関 して は、 「自 由放 任 に対 す る大 き な 例 外 」 と し て い る(η。 ミル が 国家 に よ る教 育 の整 備 を主 張 す る の は次 の よ うな理 由 に よ る。 す なわ ち、 通 常 の財 は、 そ の財 の消 費 者 が そ の財 の 質 の最 も 適 した判 定 者 で あ る。 しか しな が ら、 教 育 に 関 して は、 「消 費者 が商 品 の 質 を 判 断 で き な い場 合 」 で あ る。 ミル に よれ ば 、 「教 養 の な い もの は、 教養 につ いて 判 断 す る適 任 の 審判 で はあ り え な い。 よ り賢 く、 また よ りょ くな る必 要 が最 もあ る人 々が そ れ を 少 しも望 ま な い の で あ る」 (『経 済 学 原 理 』、p.947)。 教 育 の場 合 に は、 子 ど もの教 育 の 質 と必 要 の程 度 を判 断す る の は親 で あ るが 、 ミル は、 貧 困 で 自分 自身 教 育 を受 け て こなか った親 の判 断 を信 用 しな か っ た。 ミル は自発 的 原 則 に基 づ い て お こ な わ れ る当 時 の教 育 を、 質 量 と も に 不 充 分 で あ る と述 べ て い る (r経 済 学 原 理 』、PP.949。950)。 した が って 、 「教育 は、 それ ゆ え に 、政 府 が 国 民 の た め に整 備 す る こ とが原 則 と して 容 認 され る事 が らの一 つで あ る。 非 干 渉 原 則 の 理 由 が必 ず し も、 ま た は一 般 的 に 拡 張 で き な い 一 つ の場 合 で あ る」 (『経 済 学原 理 」、p.948)と 述 べ て い る。 た だ し、 政 府 が 教 育 を 整備 す る こと は、 国 家 が 教育 を独 占す る こ とで はな い。 ミル は、 国 家 が 教育 を独 占す る こ と に は、 強 く反対 して い る。 す な わ ち、 「政 府 が権 利 上 にせ よ、 あ る い は事 実 上 に せ よ、 と にか く国民 の教 育 に対 す る完全 な統制 権 を 握 る とい う こ とは許 す べ か らざ る こ とで あ る。 … … 国民 の意 見 及 び感 情 を青 少 年 の 時 代 か ら造 型 す る こ とが で き る政 府 は、 国 民 に 対 して いか な る こ とで も思 うま ま にな す こ とが で きる」(『経済 学 原 理 』、p,950)。 国家 が 教育 を独 占 す る こと に反 対 す る理 由 は ・『自由論 』 にお い て よ り詳 し く述 べ られ て い る。 すなわ ち、・「「 般 的な国 家教育(state education) は、 人 々 を お互 い に そ っ くり にか た ちづ くる た め の、 た だ の道 具 にす ぎない」(『自由論』、p.318 /337)、 そ して 、 そ の教 育 の 内容 は、 政 府 にお け る宰配 的勢 力 の気 に入 る もの な ので あ る。 し
た が って 、 国 家 教 育 は政 府 が 教 育 を 独 占す る こ とで はな く、 貧 困 階級 の た あ に教 育 費 の 負 担 を す る こ とで あ る。 す な わ ち、 「政 府 は教 育 を 得 る場 所 と方 法 は両 親 の好 む と ころ に任 せ 、 み ず か らは貧 困 階 級 の子 ど もた ち の教 育 費 の支 払 を 援 助 し、 教 育 費 を 出 して くれ る人 が ほか に い な い子 ど もた ち に そ の全 額 を支 払 う こ とだ けに 満 足 して い て もよ い の で あ る」(「自由 論』、p.318 /337)。 義 務 教 育 は、 無 料 また はわ ず か な支 出 で 可 能 に な る よ う に しな けれ ば、 うま くお こ な え な い と い う主 張 は、 「経 済 学 原 理 」 で も述 べ られ て い る。 さ らに、 ミル は義 務 教 育 を実 行 す るた め に、 「この法 律 を 励 行 す る手 段 は、 す べ て の子 ど もた ち に わ た って行 わ れ る、 幼 少 時 に は じ ま る国 家 試 験 以 外 に はあ りえ ないで あ ろ う」 (r自 由論 』、p.318/338)と 述 べ 、.罰則 を 適 用 す る こ と を主 張 して い る。 この 国 家 試験 は、 読 み書 きが で き るか ど うか と、 最 小 限 の一 般 知 識 を獲 得 して い るか ど うか を 確 か ある ことで あ り、 知 識 は、 「事 実 と実 証 科 学 」 に 限 定 さ れ ね ば な らな い、 と主 張 して い る。 以 上 の よ う に、 労 働 者 に対 す る教 育 の必 要 性 に 関 して 、 よ り差 し迫 った現 実 の問題 と して は、 労 働 者 の 選 挙 権 権 獲 得 とい う問題 が あ った。 し た が って 、 「国 民 一 般 の た め の す べ て の 知 的 な 訓 練 の 目的 は常 識 を涵 養 す る こ とで あ り、 彼 ら を と り ま く環 境 に対 す る健全 で実 際 的 な判 断 を 形 成 す る資 質 を与 え る こ とで あ る」(r経 済 学 原 理 』、p.375)と され る。 この よ うな 教育 は、 必 ず し も個 人 の利 益 に直 接 結 ぴっ く教 育で はな く、 社 会 に対 す る利 益 が 重 視 され る教 育 で あ る。 し た が って、:本人 の利 益 に もとづ いて 需 要 が 生 ま れ る とい う、 通 常 の財 と は異 な る性 質 を もっ こ とに な る。 こ の こと が、 ミル に お いて は、 義 務 教 育 が必 要 で あ り、 国 家 が教 育 を強 制 す べ き理 由 とな る。 こ の よ うに、 教 育 が社 会 を維 持 す る 機 能 を、 ミル は重 視 す る の で あ るが、 他 方 で 、 そ れ が 国 民 の 同質 性 を高 め、 世 論 の専 制 を もた らす 背景 と な る可 能 性 も指 摘 して い る。 後 述 す る よ う に、 『自由 論 」 は、 個 人 の 自 由 や 個 性 に 対 す る世 論 の専 制 に 反対 して 、 人 間 の 個性 の多 様 性 や 行 動 様 式 の 多 様 性 の重 要 性 を説 い た もの で あ るが 、 「これ ま で述 べ て き た す べ て の こ と は、そ れ と同 様 の、 言 葉 で は言 い表 せ ぬ ほ ど重 要 性 を もつ も の と して の 、 教 育 の 多 様 性 を 含 ん で い る の で あ る」(『 自 由 論 』、p.318/337)と 述 べ て い る。 こ の 問 題 に 関 して は、 次 節 で 扱 う。 V.自 由 と個 性 ミルの 場 合 、 上 流 お よび 中産 階級 に 関 す る教 育 の問 題 は具 体 的 に は大学 教 育 の問題 であ るが、 これ は、 第H節 で 述 べ た よ うに 、経 済 発 展 が人 間 精 神 に与 え る弊 害 と い う ミル の 見 解 を背 景 に して い る。 ミル は、 経 済 発 展 が 精 神 に与 え る弊 害 に対 す る救 済策 と して大 学 教 育 の改 革 を主 張 す るの で あ るが、 これ は、 それ に よ り教 養 あ る 富 裕 な 人 々 の 間 に個性 的 な性 格 を再 生 さ せ るた あ で あ る。 この よ うな 問題 と密 接 に関 連 して い る著 書 が 「自由 論 』 で あ る。 本 節 で は 、 そ の よ うな ミルの 議 論 を 検 討 す る。 r自 由論 』 の テ ーマ は 「社 会 が個 人 に対 して 当 然 行 使 して よ い権 力 の性 質 と限 界」 で あ るが、 これ は 「多 数 者 の専 制 」、 す な わ ち 、 自 由 、 個 性 、 多 様 性 な ど の社 会 的 価 値 が 世 論 の 専 制 に脅 か さ れ が ち だ、 とい う認 識 が背 景 にな って いる。 特 に、 ミル が重 視 す る の は道 徳 に対 す る影 響 で あ る。 「有 力 な階 級 の あ る と ころ で は ど こで も、 そ の 国 の道 徳 の大 部 分 は、 そ の階 級 的 利 害 と階 級 的 優 越 感 と が 生 み だ して い る も の で あ る (「自由 論』、p.270/221)と 述 べ て い る(8)。 こ1 の よ うな 世 論 の 専 制 を生 み 出 す背 景 は 、社 会 の 大 衆 化 、 同 質 化 で あ るが、 そ れ らを もた らす一 つ の要 素 と して 国 民 教育 が あ げ られ て い る。 こ の こと は、 す で に 「文 明 論」 で 指 摘 され て い る が 、 「自由 論』 に お い て も 「教 育 の あ ら ゆ る拡 張 が、 そ れ を促進 す る。 なぜ な らば、教 育 は人 々 を共 通 の影 響 下 に置 き、 事 実 と感 情 の一 般 的蓄 積 に彼 らを近 づ か せ るか らで あ る(「 自 由論 」、 p.302/299)と 述 べ て い る。 この よ うな状 況 に対 して、 ミル は個 人 の 自由 を 強調 す るの で あ るが、 これ に は思 想 の 自由 に 加 え て 、 個 人 の 行 動 の 自由 が含 ま れ る。 す なわ ち 、 「他 人 へ の危 害 が な い 限 り 自 由 な 活 動 の 場 が 多 種 多 様 な性 格 に対 して与 え られ る こ と、 ま た 、 様 々 な生 活 様 式 を もし試 み る のが 適 当 と思 う人 が あ れ ば実 際 に や って み て そ の価 値 を 明 ら か にす る こと、 が有 益 で あ る。 要 す る に、 第 一
ジ ョ ン ・ス チ ュ ア ー ト ・ ミ ル の 教 育 論 73 義 的 に他 人 に関 係 しな い事 柄 に お いて は、 個 性 (individuality)」 が 自 己 を主 張 す る こ と が望 ま しい」(『自由論 』、p.293/279)。 そ の理 由 は、 「そ の人 自身 の 性 格 で は な くて 他 人 の 人 々 の 伝 統 や慣 習(custom)が 行 為 の 規 則 と な っ て い る と こ ろで は、 人 間 の幸 福 の主 要 な構 成 要 素 の 一 つ で あ り、 か っ個 人 的社 会 的進 歩 の ま さ に第 一 の 構 成要 素 を な す もの が、 欠 け て い る こ と に な るの で あ る」(『 自 由論 』、PP.293-294/279)。 引 用 した 文 章 か ら明 らか な よ うに、 ミルが 個 性 の 発 揮 を 強 調 す る理 由 は三 つ あ る。 第 一 の理 由 は、 そ れ らが、 人 間 の幸 福 の主 要 な構 成 要 素 の一 つ で あ る こ とで あ る。 す な わ ち、 ミル は、 個 性 それ 自体 を 目的 と して評 価 す るpこ の議 論 は、 人 間 に は生 まれ つ いて の個 性 が あ り、 それ が 善 な る も のだ と い う主 張 に も とづ いて い る。 したが って 、 それ を お さえ る こ とで は な く、 発 展 させ る こ とが 善 で あ る(9)。 第 二 の 理 由 は、 個 性 の 発 揮 が個 人 を進 歩 させ る第 一 の構 成 要 素 だ と い う こ とで あ る。 個 性 の 発 揮 は個 人 に精 力 を 与 え る。 ミル は願 望 や衝 動 の程 度 を 精 力 と呼 ん で い る。 個 人 が慣 習 のみ に よ って 行 動 す る と、 そ の人 の願 望 や衝 動 は弱 い もの に な って しま うが 、 個 性 を発 揮 す る こと に よ って これ らを高 め る こ とが で きる。 ま た、 個 性 の発 揮 は、 人 間 の精 神 的 諸能 力を向 上 させ る。 す な わ ち、 「知 覚 、 判 断 、 識 別 感 情 、 精 神 活動 、 倫 理 的 好 悪 さ え も含 め た人 間 の諸 能 力 は、 選 択 と い う行 為 をす る際 にの み 訓練 され る。 何 事 で あれ そ うす る のが 慣 習 だ か らとい ってす る人 は、 何 の選 択 も しな い。 彼 は最 善 の もの を見 分 け た り望 ん だ りす る訓 練 が で きな い。 肉体 的 能 力 と 同様 に精 神 的諸 能 力 も、 使 わ れ る こ とに よ っ て のみ 向 上 す る」(r自 由 論』、p.294/282)。 こ の よ うに、 個 性 の発 揮 は、 個 人 に精 力 を与 え、 精 神 的 諸 能 力 を高 あ、 個 人 を 知 的 ・道 徳 的 に進 歩 させ るの で あ る。 したが って、個人 が慣 習 に従 っ て 行 動 す る こと を ミル は批 判 す る。 ミル に と っ て は、 「個 性 が 発展 と同一 事 で あ り、 個 性 の 育 成 のみ が十 分 に発 展 した 人 間 を生 む、 あ る い は 生 む こ とが で き る」(「自由 論』、p.297/288)の で あ る。 第 三 の理 由 は、 個 性 の 発 揮 が社 会 を進 歩 させ1 る第 一 の構 成 要 素 だ と い う こ とで あ る。 ミル の 場 合、 社 会 を構 成 す る個 人 の 精 神 的 進 歩 は社会 の進 歩 で あ るが 、 ミル は、 そ れ 以 上 に、 個 性 的 な個 人 ・天 才 が 、 社 会 の 他 の 構 成 員 に対 す る影 響 を通 じて 、 社 会 を 進 歩 させ る と主 張 す る。 す なわ ち、 個 性 あ る人 は、 真 理 の 発 見 、 よ り啓発 された行 為 、洗 練 され た趣 味 、 新 しい習 慣 などの 模 範 を しあす ことによ って社 会 を進 歩 させ る00)。 この よ うに、 個 性 が 個 人 と社 会 を進 歩 させ る 要 因 で あ る こ と、 伝 統 や 慣 習 が そ の 障害 で あ る こ とが主 張 され て い る。 ミル の主 張 は、 個 人 の 行動 や判 断 を 拘 束 す る社 会 的 な 影 響力 、 す な わ ち慣 行、 伝 統 、 宗 教 な どか ら 自由 に、 個 人 が判 断 し行動 す る こ とを 求 め る こ とで あ り、 ミル の 理想 的 自 由人 は、 あ らゆ る影 響 か ら独 立 した 自 律 的 な存 在 で あ る。 この よ うな ミル の 「自由論 』 の テ ー マ は 「文 明 論」 で述 べ られ た 問 題 意識 か ら発展 して い る もの で あ るが 、 ミル の 「文 明 論」 に影 響 を与 え た トクヴ ィル は、 ミル と異 な り、 慣習 、 伝 統 、 宗 教 な ど に関 して は、 む しろ これ らを専 制 政 治 の 防御 手 段 と して 重 視 して い る。 理 由 は、 自 由 で平 等 な民 主 主 義社 会 は、 現 実 に は、 む しろ孤 立 した個 人 か らな る恐 れ が あ り、 この よ うな孤 立 した個 人 は、 自分 の こ とだ け考 え、 他 人 に は 無 関心 で あ り、 無 力 な 存在 に な り、 この よ う な 個 人 の群 集 か ら構成 され る社 会 は政 治 的 専 制 を 受 け やす いか らで あ る。 した が って、 自 由で 平 等 な社 会 にお い て、 個人 を孤 立 した存 在 に しな い た あ に、 トク ヴ ィル は、 慣 習、 伝 統 、 宗 教 を 重視 した ので あ る。 そ れ らが あ るこ とが 政 治 的 な専 制 の防 御 にな るの で あ る。 ハ イ エ ク は、 こ の よ うな立 場 か ら、 慣 習 や伝 統 に関 す る ミル の 主 張 を批 判 して い る(U)。 ハ イ エ ク は、 慣 習 や 伝統 、 そ して 道 徳 を そ の理 由 が分 か らな くと も そ れ らを守 る こ とが 秩序 を維 持 し、 恣 意 的 な 強 制 を排 し、 自由 な社 会 を守 る要 因 と な る と主 張 す る。 ただ し、 慣 行 を必 ず 遵 守す るので あれ ば、 変化 も進 化 もあ りえ な い。 ハ イ エ クの主 張 す る こ とは、 慣 行 の理 由 が わか らな い場 合 に も守 る べ きで あ り、 そ れ を守 らな い積 極 的 な理 由 が あ る場 合 に は、守 る必 要 が な い とい うことであ る。 慣 行 を守 るべ きで な い積 極 的 な理 由 が あ る場 合 に は、 個 人 に よ る実 験 が 、 社 会 的 に認 知 され る こと に よ って慣 行 が 進 化 して ゆ く。 ミル の場 合
に は、 必 ず し も明 確 で はな い が、 少 な く と も、 自 己 の選 択 と い う行 為 が あ り、 そ の理 由 が わ か らな い か ら と い う理 由 で否 定 す るもので は ない。 いず れ に して も、 ミル は、 これ らに拘 束 され な い で行 動 す る こ とを主 張 して い るの で あ る02)。 ミル は、 トク ヴ ィル の議 論 の紹 介 に お い て 、 民 主 主義 的 な 社 会 の成 員 は、海 岸 の 砂 の よ うな もの で あ り、 各 人 は極 め て 微細 で、 何 び と も相 互 に粘 着 し合 う こ と はな い、 と述 べ て い る(B)。 した が って 、 孤 立 した 個 人 とい う問 題 点 そ の も の は明 確 に認 識 して い る。 また 、r自 由 論 』 に お いて も 「人 間 の 相 互 に対 す る行為 におい て は、 何 を予 期 すべ きか を人 々が 知 る こ とが で き る よ うに、 一 般 的 な 規 則 が 大 体 にお いて ま も られ る こと が必 要 で あ る」(『自 由 論 』、p.303/303) と述 べ て い る こ とか ら、 慣 行 が 行 為 の規 則 と し て、 他 の人 間 の行 動 を予 期 させ る要 因 で あ る こ とを認 識 して い る。 た だ し、 そ れ につ つ い て 「しか し、 自分 自身 に関 す る こ と が らに お い て は、 各人 の個 人 的 自発 性 が 自 由 に活 動 す る権 利 を も って い る」(『自 由 論 』、p.303/303)と 述 べ て い る。 こ の よ うな社 会 的 な もの と個 人 的 な もの を 区 別 す る こと が可 能 か ど うか に関 して は、 議 論 が あ ろ う が、 ミル が具 体 的 に例 と して あ げ るの は、 宗 教 の問 題、 奢{多禁 止 法 、 禁 酒 法 、 安 息 日遵 守 法 、 一 夫 多妻 制 な ど の 問題 で あ り、 ミ ル が 対 象 とす る 問 題 が 、道 徳 や価 値 観 に関 わ る よ う な問 題 で あ る こ とが わ か る。 こ の よ う な ミル の主 張 は、 慣 習 、 伝 統 、 宗 教 な どが 、 専 制 政 治 に対 す る防御 と して機 能 す る こ と よ り も、 そ れ らが 自由 な判 断 の 障害 とな る こ と の ほ うを重 視 した 主張 だ とい え る。 この こ と は、 ミルが 政 治 的 な 専 制 の 防 御 よ り も、 民 主 主 義 政 治 を構 成 す る人 間 の 資 質 の進 歩 を よ り重 視 した こと の 結 果 で あ る(14)。す な わ ち 、 ミル に と って は、 「国 家 の価 値 は、 究 極 的 に は、 そ れ を構 成 す る 個 々 人 の 価 値 で あ る」(r自 由論 』、 PP.322-323/348)。 この こ とが ミル の 主 張 を 特 徴 づ け て い る の で あ る。 ミル の世 界 で は、 宗 教 が な くと も道徳 はあ り、 権 威 が な く と も法 は守 られ 、 個 性 と 自由 に もか か わ らず社 会 的 責 任 と全 体 の調 和 は達成 され る。 この よ うな世 界 が ミル の考 え る 自由 の ユ ー トピ ア で あ るが、 ミル は そ の た め の手 段 と して 教 育 を重 視 した の で あ る。 この よ うな主 張 の基 礎 に は、 進 歩 す る存在 と して の人 間 、 す なわ ち 「人 間 が 精 神 的 完成 を一 つ の 目標 と して追 及 で きる 存 在 で あ る」 とい う ミル の人 間 観 が あ る。 す な わ ち 、 「そ れ は人 間 精 神 の 一 つ の 性 質 に よ る も の で あ る。 そ の性 質 と は、 知 的 存在 と して の、 また 道 徳 的 存 在 と して の人 間 の な か に あ る尊 敬 に値 す るす べ て の もの の 源泉 、 す な わ ち彼 の誤 謬 が 訂 正 され る と い う こ とで あ る。 人 は、 自分 の誤 りを 討 論 と経 験 と によ って 改 め る こ とが で き る」(「自由 論 』、p.276/236)。 ミル の主 張 は この よ うな人 間 の 能 力 に対 す る信頼 に基 づ い て い る。 したが って 、 この よ うな ミル の教 育 の 特 徴 は、 自 己発 展 や 自己 教育 の重 視 で あ る。 自 由や 個 性 の発 揮 が 意 味 を持 つ の は、 そ れ が 自 己発 展 と 自 己教 育 の 契 機 とな るか らで あ る。 ま た、 願 望 や 衝 動 が 多 く精 力 的 な性 格 は、 自己 発 展 と 自 己教 育 力 の エ ネル ギ ーが強 い人 で あ る。 ミル の場 合 、 感 情 と衝 動 は陶 冶 され る こ と に よ り、 理 性 に導 かれ た精 力 と、 良 心 的 意 思 に よ っ て強 く抑 制 さ れ た強 い感 情 と い う理 想 状 態 に発 展 す る可 能 を有 す る。 社 会 的 に は、 この よ う な個 性 あ る人 の 行 動 か ら、 よ り価 値 の あ る ものが 選 ばれ 、 社 会 が 発 展 す る。 これ も、 社 会 全 体 と して、経 験 か ら学 び、 誤 りを正 す とい う作 用 が働 くか らで あ る。 ミル は この よ うな人 間 の能 力 を信 頼 して い た の で あ り、 この よ うな信 頼 が、 ミル の議 論 の基 礎 に あ る とい え る。 この よ うな 自 己教 育 力 が働 くよ う に、 学 校 教育 や制 度 を整 備 す る こ とが ミル の議 論 の要 点 で あ る。・ミル が、 公 共心 の学 校 と して、 公共 的 な 仕事 へ の 参加 を重 視 した の も この理 由 に よ る。 しか しな が ら、 自由 と個 性 に 関 す る ミル の 議 論 は、 当 時 の 問 題 と関 連 づ け られ た も う一 つ の 側面 を持 つ 。 自由 と個 性 の 問 題 は、 理想 と して は、 す べ て の 人 間 の 問 題 で あ る。 しか し、 ミル の ユ ー トピア は 目標 とす べ き もの で あ るが 、 当 面 の 問 題 を 解 決 す る方 法 で はな い。 ミル が 現 実 の 問 題 との 関 連 で 重 視 したの は、 多 数 者 の 知 的 エ リー トに対 す る専 制 で あ り、 世 論 の くび きか ら解 放 す べ き自 由 と個 性 は知 的 エ リー トの もの で あ る。 天 才 を生 む た め に、 天 才 の育 つ 土 壌 を 保 存 す る こ とで あ る。 この こ とは、 知 的 エ リー
ジ ョ ン ・ ス チ ュ ア ー ト ・ ミ ル の 教 育 論 75 トが 指 導 性 を発 揮 すべ きこ とを 意 味 す る。 この こ と は、 『自由 論 』 の主 張 に も現 れ て い る が 、 政 治 に お け る主 張 に お いて は、 よ り明確 に現 れ て い る。 『代 議 制 統 治 論 』 の 第8章 「選 挙 権 の 拡 大 」 に お い て は、 「道 徳 的 ま た は知 的 に高 い方 の人 間 の意 見 ・判 断力 が、 劣 った ほ うの そ れ よ り価 値 が あ る」(「代議 制統 治 論 』、p.384/225) と して、 人 間 の 知 性 に 応 じて複 数 の 投 票 権 を 与 え る こ とを主 張 して い る。 この よ うな主張 には、 多 数 を 占 あ る無 知 な労 働者 が階 級 立 法 を お こな う こ とを ミル が 恐 れ て いた とい う背 景 があ るが、 知 性 と道 徳 性 の高 い人 間 が 指導 すべ きだ とい う ミル の考 え を 反 映 して い る。 この よ うな 考 え が よ く出 て い る の は第12章 「議 会 の議 員 は誓 約 を 要 求 され るべ きか 」 で あ り、選 挙 民 が 選 ん だ 知 性 と道 徳 性 の高 い代 表 者 を 信 頼 すべ きこ とが 主 張 され て い る。 この よ う な主張 は、 代 表 を 委 任 と取 り違 え る こ とは、 民 主 主 義 の た だ一 つ の 危 険 で あ る と して強 調 さ れて い る こ とで もあ る。 VI.大 学 教 育 教 養 あ る富 裕 な 人 々 の間 に個 性 的 な性 格 を 再 生 さ せ るた め に ミル が主 張 す る具 体 的 な政 策 が 大 学 教 育 の改 革 で あ る。 この主張 は 「セ ジウ ィ ッ ク論 」(1835年)、 「文 明 論 」、 「セ ン ト ・ア ン ド ル ー ズ大 学 名 誉 学 長就 任講 演 」 と、一 貫 して 同 じ趣 旨 が 述 べ られ て い る。 ミル に と って は、 大 学 改革 の 目的 は、 生 徒 の 知 性 と性 格 を強 化 して 、 偉 大 な人 物 をつ く りあ げ る こ とを 可 能 にす る こ とで あ る。 この よ うな 主 張 は、 当 時 の大 学 教 育 に対 す る ミルの 批判 が 背 景 とな って い る。 す なわ ち 、 ミル に よれ ば 、 当 時 の 大 学 教 育 は、 生 徒 に真 実 や正 しい こ とを 判 断 す る素 質 を与 え る こ とで はな く、 真 実 だ と 考 え られ る意 見 、正 しい と考 え られ る意 見 に生 徒 を従 わ せ る こ とで あ る。 こ の よ うな状 況 の背 景 に は、 英 国 国 教会 に よ る思 想 的抑 圧 と い う宗 教 上 の争 い が あ り、 ミル は、 大 学改 革 の第 一 歩 は大 学 を全 面 的 に非 宗 教 化 す る こ とで あ る と述 べ て い る。 大 学 を 宗 教 か ら解 放 し、 自由 な思 索 と 自 由 な教 育 を 可 能 にす るこ とを主張 して いる。 ミル は、 「文 明論 」 に お い て も、 大 学 教 育 の 具 体 的 な教 科 内 容 に関 して論 じて い るが、 よ り 詳 し く論 じて い る の は 「セ ン ト ・ア ン ドル ー ズ 大 学 名 誉学 長 就 任 講 演 」 で あ る。 これ らに関 す る特 徴 は、 一 般 教 養 教 育(general education) が 重 視 され て い る こ とで あ る。 ミル は、 一 貫 し て 、 大学 教 育 は職 業 教 育 の場 で はな い こ とを主 張 して い る。 ミル に と って、 大 学 教 育 は知 性 と 活 力 を与 え る こと に よ って、 偉大 な 人 物 を つ く る こ とを 目的 とす るの で あ る。 この よ う な教 育 は、 一般 大 衆 が適 切 に評 価 す る こ とが で きな い 教 育 で あ り、 この よ うな 教育 制 度 は、 大 衆 の 目 先 の 要求 に左 右 され な い 位 置 に 置 か れ な けれ ば な らな い、 と も述 べ て い る。 した が って 、 これ らの 目的 を果 たす ため に財 団 組 織 の 大学 が 必要 とされ る と述 べ て い る(15)。 こ こで の ミル の主 張 は、 『自 由 論 』 で 述 べ ら れて い る よ うな知 的 エ リー ト、 個 性 と活 力 あ る 個 人 を育 て る機 関 と して の大 学 が 想 定 され て い る。 大 学 は、 そ の よ うな人 物 を 育 て るた あ に、 知 性 と教 養 を与 え る場 で あ る。 また 、 この よ う な人 物 の重要 性 を主 張 し、 そ の よ う な人 間 的 発 展 の基 礎 とな る要 因 を検 討 して い るの が 『自由 論 』 で あ る とい え る。 皿.結 論 ミル の議 論 の前 提 に は、 社 会 はそ れ を 構 成 す る人間 の資質 、す なわち知 的 。道 徳 的進歩 によ っ て評 価 さ れ る とい う主 張 が あ る。 ミルが よ り重 視 した の は経 済 発 展 で は な く、 社 会 を 構 成 す る 人 間 の人 間 的 進 歩 で あ る。 一 方 、 ミル は古 典 派 経 済学 者 で あ り、 人 間 の資 質 の 問 題 だ け で はな く、 制度 を いか に効率 的 に機 能 させ るか を 考 え て い る。 この二 つ の観 点 が ミル の議 論 を 特 徴 づ けて い る。 ミルが 人間 的 進 歩 を重 視 した こと が、 ミル の 議 論 にお い て教 育 が重 視 さ れ る理 由で あ る。 た だ し、 ミル に お け る教育 は、 単 に学 校 教 育 の み の問 題 で はな く、 よ り広 く制 度 に よ る教 育 を も 含 あ た もの で あ る。 この よ うな教 育 に よ り社 会 を構 成 す る人 間 の資 質 が進 歩 す る こ とに よ り社 会 が進 歩 す る と考 え て い る。 ま た、 この よ う な 人 間 の資 質 の 向上 に よ って社 会 変 革 を成 し遂 げ よ うとす る。 この よ うな ミル の議 論 の基 礎 に は、 人 間 が 精
神 的 完 成 を 求 あ て 向上 で き る存 在 で あ り、 人 間 に は その よ う な能 力 が あ る とい う信 頼 が あ る。 こ の よ うな人 間 の能 力 に よ り、 人 間 は 自己 発 展 す る こ とが で き る。 ミル の 議 論 は、 人 間 の 自己 発 展 の能 力 を 前 提 に、 い か にそ れ を 促 進 して 人 間 の知 的 ・道 徳 的進 歩 を 達 成 す るか と い う視 点 か ら構 成 され て い る。 この よ う な人 間 の 自己 発 展 に と って 最 も重 要 な要 因 が個 性 の発 揮 で あ る。 個 性 はそ れ 自身 幸 福 の要 素 で あ り価 値 あ る も の とされ るが 、また、 個 性 の発 揮 は 個人 を進 歩 させ る要 素 で もあ る。 さ らに、 社 会 は この よ うな 個 性 的 な人 間 を 通 じ て進 歩 す る。 制 度 や 学 校 教 育 もそ の よ うな 自 己 発 展 を促 進 す る とい う観 点 か ら論 じ られて い る。 した が って、 ミル の 議 論 で は、 学 校 教 育 の役 割 は、 人 間 の 自己 発 展 の 基 礎 と な る知 性 と教 養 を 育 成 す る と ころ で あ る。 た だ し、 それ だ けで は 社 会 の統 合 は達 成 で きな い。 ミル の議 論 は、 そ れ らの基 礎 の上 に、 自己 発 展 を促 す よ うな制 度 を も含 あ て教 育 を 考 え て い る とい え る。 ミル の議 論 で は、 社 会 は それ を 構 成 す る資 質 で 評 価 され るが 、 一 方 で 、 社 会 は機 能 しな けれ ば な らな い し、 効 率 的 に維 持 され な け れ ば な ら な い 。 ミル の 議 論 は当 時 の現 実 の問 題 に いか に 対 応 す るか とい う観 点 か ら も考 え られ て い る。 ミル は古 典 派 経 済 学 者 で あ り、 人 間 の 資 質 のみ を 問 題 に して い た わ けで は な い。 こ の ことが ま た ミル の議 論 を 特 徴 づ けて い る。 ミル は人 間 の 資 質 を与 件 と して 、 制 度 が 効 率 的 に維 持 され る こ とを 考 え て い る。 この 場 合 、 ミル の議 論 の特 徴 は、現 実 に は知 性 や 道 徳 性 の程 度 に よ る区 別 を 主 張 す る こ とで あ る。 これ は、 政 治 に関 す る 議 論 で は、 よ り明 白 に現 れて い る。 自由 や 個 性 と社 会 の維 持 の 問 題 は、 自 由 のユ ー トピア にお い て は問 題 にな らな い。 しか し、 これ は理 想 に す ぎな い。現 実 の問 題 に対 応 す るた あ に 、 ミル が 考 え て い た こ と は、 知 的 エ リー トが 指 導 性 を 発揮 す る こ とで あ る。 注 (1)た だ し、1800年 代 後 半 か らは、 経 済 的 繁 栄 の 時代 に 入 り、 労 働 者 の 生 活 水 準 も上昇 し た。 (2)「 文 明 論 」(p.121/184) (3)「 文 明 論 」(PP.129-134/196-202) (4)『 代 議 制 統 治 論 』(p.329/19-21) (5)貧 困 問 題 の 解 決 と教 育 の 関 係 に関 して は、 『経 済 学 原 理 』、 第2編 、 第13章 「低 賃 金 の 一 般 的 解 決 続 」、 第3節 「労 働 人 民 の 習 慣 を 引 き上 げ る二 重 の 方 法:教 育 」(p.374) で 取 り上 げ られ て い る。 (6)こ れ は 『経 済 学 原 理 』 の 第5編 第7章 「労 働 者 階 級 の将 来 の見 通 しにつ い て 」 の テ ーマ で あ る。 ミルは協 同組 合 の役 割 を重 視 してい る。 (7)こ の問 題 は、 「経済 学 原 理 』、 第5編 、 第11 章 「自 由放 任 と非 干 渉 原 理 の 根 拠 と限 界 」、 第8節 「自由放 任 に対 す る大 き な 例 外 。 消 費 者 が 商 品 の質 を判 断 で きな い場 合、教 育」 (『経 済 学 原 理 』、pp。947-950)で 扱 わ れ て い る。 (8)ミ ル に よれ ば、 イギ リスで 世 論 を 形 成 す る 人 々 は、 中 産 階 級 で あ り、 凡 庸 な 人 々 で あ る(『 自由 論』p.298/291) (9)こ の主 張 は、 ミル 自身 が 述 べ て い る よ う に フ ンボ ル トの主 張 に影 響 され て い る。 (10)自 由 を手 段 と して 強 調 す る と、 ミル にお い て 自 由 が変 質 した と い う、 古 典 的 自由 主 義 と の相 違 と な る。 ミル の 議 論 で は、 自由 は それ 自体 が個 人 の 幸 福 の主 要 な 構 成 要 素 で あ ると して、 目的 と して も重 視 されて いる。 (11)ハ イ エ ク[11]参 照 。ハ イ エ ク は ル ソ ー、 ベ ンサ ム、 ミル を 「偽 りの個 人 主 義(合 理 主 義 的 個 人 主 義)」 と批 判 して い る。 (12)猪 木r経 済 思 想 』(p.224)に よ れ ば 、J.S. ミル は、 自由 主 義 の分 岐 点 に立 っ た重 要 な 社 会 哲 学 者 で あ る。 ミル と古 典 的 自由 主 義 の相 違 の第 一 は、 古 典 的 自由 主 義 者 は 自由 を 目的 とす るの に対 して 、 ミル は 自由 を 手 段 と して い る こ とで あ る。 第 二 に、 慣 習 と い う拘 束 力 に対 す る ミル の考 え 方 が 、 古 典 的 自由 主 義 と異 な る と い う点 で あ る。 古 典 的 自 由主 義 者 は、 慣 習 や 伝 統 に よ って 支 え られ た 自由 社 会 は 自 由 の行 使 に と って 必 要 な 「安 定 的 な社 会環 境(=秩 序)」を 形 成 す る、 と見 て い る、 と い う もの で あ る。 (13)「 ア メ リカ の民 主 主 義II」(p.182/167))
ジ ョ ン ・ス チ ュ ア ー ト ・ ミル の 教 育 論 77 (14)杉 原 四 郎 『ミル と現 代 』(p.46)で は、 ミ ル の 主 張 を「発 展 的民 主 主 義 」、 ベ ンサ ム や ジ ェ ー ム ズ ・ミル の主 張 を 「防 御 的 民主 主 義 」 と特 徴 付 け る説 を 紹 介 して い る。前 者 は、 民 主 主 義 を主 と して 個 人 の 自発 的発 展 の手 段 と考 え る もので あ り、 後 者 は、被 統 治 者 を政 府 に よ る抑 圧 か ら防 御 す る こ とを 重 視 す る。 ここで の ミルの 議 論 に も 「発 展 的 民 主 主 義」 の特 徴 が 現 れ て い る。 (15)「 セ ジ ウ ィ ック論 」(p.33/116) 参考文献
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*CWはCollected Works of John Stuart Mill, Toronto University Presで あ る。 引 用 文 献 の ペ ー