中部地方-産業の視点を中心にして
兵庫県公立中学校教諭1
はじめに 新学習指導要領の新しい中項目である「日本の 諸地域」の学習は、「世界の諸地域」との違いなど、 その特徴とねらいを十分に理解したうえで指導に あたる必要がある。まずは、大項目である「(2) 日本の様々な地域」における位置づけである。 この大項目そのものが、「習得」としての「ア 日本の地域構成」「イ 世界と比べた日本の地域 的特色」、「活用」としての「ウ 日本の諸地域」、 「探究」としての「エ 身近な地域の調査」とい うように、学習の深まりを意識した構成となって いる。このことから、「日本の諸地域学習」におい ては、身につけた知識・概念・技能を十分に活用 する必要がある。 次に、「世界の諸地域」の学習が「州の特色を理 解させる」としているのに対し、「日本の諸地域」 の学習は「地域的特色をとらえさせる」と新学習 指導要領では違った表現がされていることから、 生徒の主体的な学びが求められていることがわか る。 そして何より地域の特徴的な地理的事象を中核 として、それを他の事象と有機的に関連づけて、 地理的事象を追究するようにすること、すなわち 「動態地誌的」な学習を求めている。2
新教科書の工夫と単元構成 (1)平成 24 年度用帝国書院教科書の工夫 ①平成 24 年度用『社会科 中学生の地理』(以下、 新教科書)日本の諸地域では、単元のはじめの ページに、「地図をながめて」が配置され、学 習の基礎となる気候や地形の特色を、これまで に身につけた知識・概念を活用して、そのイメー ジをつかめるように工夫されている。 ②動態地誌的に扱うという視点から、「○○地方を みる手がかり」で中核とする地理的事象と追究 する課題を設定できるように工夫されている。 また、有機的に関連づけて追究するという視 点から、中核となる地理的事象と他の地理的事 象との関連から単元が構成されており、事項の 重複なく、地域の特色が総合的にとらえられる ようになっている。 ③生徒の主体的な学びという視点から、本文の記 述を導く資料が適切に配置され、言語活動を取 「社会科 中学生の地理」p.20711 地 理 歴 史 公 民 地 図 社会科 地 理 中学生の り入れる工夫として、資料に<虫眼鏡マーク> で読み取りのポイントが示されている。 ④各単元最後の「学習のまとめ」で、基礎的・基 本的な知識を地図上で、中核となる地理的事象 を図でまとめ整理できるようにされている。 (2)単元構成 新教科書第2部3章4節「中部地方」を活用し た単元構成は以下のようになる。 時 題材名 おもな学習活動 1 中部地方はどのよ うな地方だろうか ・東海、中央高地、北陸の 自然の特色をつかみ、追究 する課題をきめる。 2 輸送機械工業がさ かんな東海 ・輸送機械工業がさかんな 理由を歴史的背景、結びつ きに着目して追究する。 3 名古屋大都市圏と 東海の農業 ・東海の農業の特色を自然、 位置に着目して追究する 4 変化する中央高地 の産業 ・果樹、野菜栽培、電気機 械工業がさかんな理由を産 業の変化に着目して追究す る。 5 北陸の産業と雪と のかかわり ・稲作や伝統的工芸品をつ くる産業がさかんな理由を 自然環境に着目して追究す る。 6 学習のまとめ 中部地方 ・自動車、米、ぶどう、茶 の生産地図を作成し、中部 地方の産業の特色を確認す る。
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具体的な学習活動 本稿では、授業に「言語活動場面を授業に積極 的に取り入れる」「地理的特色を地図上にまとめ る」という点に重点をおいた学習活動を提案する。 前者については、PISA 型「読解力」の結果におい て、わが国の生徒たちが記述式問題を苦手として いることが明らかとなったことから、新学習指導 要領でも言語活動の充実が改訂のポイントにあげ られている。この点への対応として、資料(統計 資料、写真資料)の読み取り、地理的事象の関連 (原因と結果、目的と手段、地域間の関連)をノ ートに記述する活動として取り入れたいと思う。 後者については、地理における基礎的・基本的 知識の多くが地図上における位置を含んだもので あることと、考査後に「せっかく覚えたのに場所 も答えないとだめなんて…」と口にする生徒が少 なからず見られることから、授業においても地図 上の位置を常にイメージできるように学習を進め ることが重要であるとの考えからである。そのた め、県境が引かれている中部地方の白地図を用意 したい。白地図は帝国書院の HP から取得できる。 なお、誌面の都合上、工業についての学習活動 にしぼって示すこととする。 ①中部地方はどのような地方だろうか 【言語活動】 ・富山、諏訪、静岡の雨温図の特徴をその都市の 位置(気候区名)との関連で書きなさい。 →「日本の気候の特色」で習得した知識を生か し、北陸、中央高地、東海の地域区分につな げる。 ・工業生産において、中部地方は全国の中でどの ような位置を占めていますか。 →平成24年度用『中学校社会科地図』(以下、 新地図帳)p.151〜1522都道府県別の統計 を活用。工業生産は県別で愛知県が 1 位、 地方別で中部地方が 1 位であることを確認 し、中部地方の学習を進めるうえで「産業を 中核とした考察」が適していることを確認す る。 ・富山県、長野県、愛知県ではそれぞれどのよう な産業がさかんでしょうか。 →新教科書 p.207(⑦、⑧)を活用。北陸、中 央高地、東海でさかんな産業が異なることに 気づき、「3つの地域においてなぜそれらの 産業がさかんになったのか」を追究課題とす ることを確認する。 【地図上にまとめる】 ・白地図に北陸4県、中央高地3県、東海2県のを中央高地に、南部を東海に分けて地域区分を している)。 →気候や地形の特色、工業・農業でさかんな産 業を書き込み、3地域の違いを明確にする。 ②輸送機械工業がさかんな東海 【言語活動】 ・新教科書p.208の写真の自動車工場は、何県何 はどのように分布していますか。 →愛知県豊田市。豊田市には自動車とその部品 工場、伊勢湾沿いでは化学や金属、電気機械 の工場が分布している。 ・日本を代表する3つの港(新教科書p.209④) における名古屋港の特色は何ですか。 →新教科書p.208②。自動車の町「豊田」に近 く、自動車生産との結びつきが強い。 ・豊田の自動車、浜松のオートバイや自動車産業 がさかんになる土台となったのはどのような産 業か本文から抜き出しなさい。 →豊田では繊維工業、浜松では綿織物、楽器生 産。 【地図上にまとめる】(白地図例省略*) ・中京工業地帯(豊田、四日市)、東海工業地域 (浜松、富士)と、それぞれでさかんな工業、 結びつき、歴史的背景を記述する。 ③変化する中央高地の産業 【言語活動】 ・諏訪湖周辺の工業と土地利用について。1928 年、1980年、2010年それぞれの様子はどうなっ ていますか。 →新地図帳 p.103 ③諏訪湖周辺の工業地域。 1928年では、桑畑が広がり製糸工場が多い。 1980年では、桑畑が市街地化され精密機械工 場が多い。2010年では、中央自動車道が通り、 市街地が拡大し、その他の精密機械工場や電 子部品工場に代わっている。 【地図上にまとめる】(白地図例省略* ) ・諏訪湖の位置を記入し、工業の変化と農業にも 「社会科 中学生の地理」p.208 中 央 自 動 車 道 中 央 自 動 車 道 北陸 ・日本海側の気候:冬雪が多い ・金属 ・米 中央高地 ・内陸の気候:気温差大、降水量少 ・山と盆地 ・電気機械 ・野菜、果実 東海 ・太平洋側の気候:温暖 ・輸送機械 ・野菜、花
13 地 理 中学生の 地 理 歴 史 公 民 地 図 社会科 大きく関係している中央自動車道を記入する。 →諏訪湖の位置が中央自動車道によって、名古 屋大都市圏にも東京大都市圏にも、時間的距 離が近くなったことがわかるようにする。 ④北陸の産業と雪とのかかわり(白地図例省略*) 【言語活動】 ・新地図帳 p.97 で富山県に河口を持つ、庄川、 神通川、常願寺川、黒部川の流域にたくさん見 られるものは何でしょうか。また、それがたく さん見られる理由は何でしょうか。 →水力発電所が数多く見られる。新教科書 p.148 「日本の発電所と新エネルギー」と p.138 〜 139「日本の気候の特色 」 で習得した基礎的 ・ 基本的な知識や概念から、北陸地方は、豊富 な雪どけ水と険しい地形から水力発電に好適 な場所である。 【地図上にまとめる】 ・北陸地方は冬に雪が多いため副業がさかんにな りました。副業の釘づくりから地場産業として 洋食器製造が発達した燕市と眼鏡フレームづく りが発達した鯖江市を地図中に示しなさい。 →新潟県燕市、福井県鯖江市の位置に印をつけ る。 ・伝統的工芸品として聞いたことのあるものを新教 科書 p.215 ⑥から抜き出し、地図中に示しなさい。 →新教科書 p.214〜215 で紹介されている小千 谷ちぢみや輪島塗、加賀友禅くらいを地図に 示したい。 ⑤中部地方のまとめ *自動車生産を例に帝国書院 HP の日本の統計 「自動車の生産」のデータを活用し、統計地 図を作成する。 統計法で定められた規定により、数値が公表さ れていない県があるが、8県について公表されて おり、多くは出典の経済産業省資料に記載がない ということなのでほぼゼロと考えてよいだろう。 B 4判くらいの大きめの白地図を用意する。記 載8県(上位から、愛知、神奈川、静岡、三重、 埼玉、広島、群馬、栃木)に着色(上位3県は赤、 他は青など)する。 統計地図は数値だけでなく、棒グラフや円グラ フで視覚的にその違いが明確になるような工夫が あるとよい。生徒に描かせるには、円グラフは難 しいので棒グラフが適当である。また、グラフ化 する際、数値を概数にする必要がある。これまで に学習した成果を踏まえ、生徒自身に考えさせた い。苦手な生徒に対して援助をしつつ、全員が同 じグラフ(長さ、太さ、色、線を1本にするか複 数にするか、波線を使うか、など)である必要は ないので、じっくり取り組ませたい。 作成した統計地図から、自動車生産(日本の工 業生産に大きな位置を占める)において中部地方 の全国における位置について短文でまとめさせる。 自動車生産は一部の県に集中している。中部地 方はその生産がさかんで、中心は愛知県と静岡県 を含む東海地域である。 意識して言語活動や地図化する活動を授業の中 に取り込むことで、解説中心の学習ではなく、主 体的に探究し地域的特色を明らかにしていく学習 につながる。まずは資料からという姿勢で学習を 進め、解説のための資料活用でなく、発見のため の資料活用を進めることが大切である。 *省略した白地図3点は、HPにて掲載します。 広島 群馬 三重 愛知 静岡 神奈川 栃木 埼玉 まとめ
白地図例
中京工業地帯 海外へ 東海工業地域 ・富士(製紙) ・富士(製紙) ・富士(製紙) ・浜松 (綿織物、楽器→オートバイ、自動車) ・浜松 (綿織物、楽器→オートバイ、自動車) ・浜松 (綿織物、楽器→オートバイ、自動車) ・豊田(繊維→自動車) ・豊田(繊維→自動車) ・豊田(繊維→自動車) 四日市(石油化学)・ 四日市(石油化学)・ 四日市(石油化学)・中央自動車道 諏訪湖(製糸→精密機械→電気機械) 諏訪湖(製糸→精密機械→電気機械) 諏訪湖(製糸→精密機械→電気機械)
③変化する中央高地の産業
白地図例
(自然)雪が多い (昔)副業→地場産業 伝統的工芸品 水力発電→アルミ生産 (今)アルミサッシ (自然)東京大都市圏と大阪大都市圏の間 (昔)繊維工業、楽器生産 (今)中京工業地帯、東海工業地域 日本一の自動車生産、海外へも輸出 (自然)山間の盆地 (昔)製糸→精密機械 (今)電気機械 高速道路の開通