社団法人 山梨県畜産協会
藤原 尚
ニーズに
沿った堆肥
保管庫等によ
る利用拡大
付加価
値販売
住民と
の交流
密閉式
水 稲
臭気対策
畑作物
野 菜
山梨県 田富高品質
堆肥生産利用組合の事例
堆肥化処理施設と直売所を一貫して整備し、
地域農業の振興に取り組む田富高品質堆肥生産利用組合
★
施設野菜を中心とした地域農業と連携し、良質な堆肥生産と供給に努めた
取り組み
★
住宅混住化が進む中、地域住民と環境に配慮した堆肥生産システム
名 称 田富高品質堆肥生産利用組合 山梨県 中央市 代 表 者 氏 名 組合長 渡辺 由紀夫 所 在 地 (住所・電話) 山梨県中央市馬籠 891 055 − 273 − 2448 ホームページ ─ (最寄駅,距離等) JR 東花輪駅から約 2km1 地域の紹介
中央市は山梨県の中央南部に位置し、東には鎌田川、西には釜無川が流れ、南には山道が多い 旧豊富村を有し、水や緑や花といった自然にあふれる県内でも有数の野菜生産地でもある。一方、 都市的機能も併せ持っており、大型商業店や工業団地などが建ち並ぶ。総面積 31.81km2、人口 約 32 万人、土地の利用状況をみると農地が 36.5%、宅地が 19.4%、山林が 16.4%、その他 27.7% と、 農地の占める割合が高くなっている。 年間平均気温は 13.6℃と比較的穏やかな気候であるが、内陸側に位置するため、湿度が低く、 日較差・年較差が大きい内陸性気候になる。 農業産出額は 445 千万円、そのうち耕種が 370 千万円、畜産は 75 千万円である。耕種の内訳 としては、トマト・キュウリ・ナスをはじめとした野菜が多く 220 千万円、続いて果実 50 千万 円、米 35 千万円と続く。2 田富高品質堆肥生産利用組合の概要
組 織 形 態 任意組織 構 成 員 数 3 戸 酪 農 家:1 戸(経産牛 25 頭) 耕種農家:2 戸(トマト・キュウリ) 堆 肥 生 産 量 320t/ 年(平成 19 年度) 堆肥化施設の全景。 密閉縦型コンポを囲うように堆肥舎を建設 「た・から」での袋詰堆肥販売■
配置図
老人ホーム 畑 市 道 【周辺図】 所 在 地 【施設配置図】 脱 臭 装 置 密閉縦型 コンポスト 袋詰め機 堆肥舎 牛 舎 牛ふん排出口 牛 舎 市 道 自宅■
活動の経緯
◎ 農業振興地域における土づくりの必要性 本地域は県内一の土地生産性を誇る施設野菜を中心とした都市近郊型農業を行っており、特に 町の南部地区は県下有数の産地としてキュウリは県内 1 位、トマトは県内 2 位の出荷量を誇る。 ところが近年耕地に対する堆肥等の有機質肥料の施用が減少し、地力が落ちていることが課題と なっていた。 一方、酪農を中心とする畜産農家では、家畜排せつ物法の制定により家畜排せつ物処理施設の 設置や、さらには耕種側のニーズに応える為の高度処理施設整備が必要だという声が上がり始め ていた。 ◎ 発想の転換 ∼堆肥の処理から製造へ 同じ頃、田富地域で酪農経営を営む渡辺氏も「子ども達に安全で安心な無農薬有機栽培の野 菜を食べさせたい」との想いから地域の耕種農家や行政と話し合いを重ね、地域に還元できる 良質な有機肥料を生産するため、堆肥製造施設を整備する必要性を感じるようになっていた。 そこで、地域で堆肥の「処理」から「製造」へと考え方の転換を図る中で、副産物の堆肥に付 加価値をつけ商品化する取り組みを行うこととした。 ◎ 田富高品質堆肥生産利用組合を立ち上げる 以上のような経緯を受けて、酪農経営を営む渡辺氏が中心となり平成 16 年度、家畜ふん尿処 理の生産、流通を円滑化し資源循環型農業の構築を図るために国・県・町の補助事業を利用し、 田富高品質堆肥生産利用組合を立ち上げた。■
活動の概要
水田 樹 果 合 混 料 原 ん ふ 畜 家 721t/ 年 田富高品質堆肥生産利用組合 量 産 生 肥 堆 320t/ 0 0 4 円/ 1袋 特 徴 い な 少 の い 臭 、 り よ に 置 設 の 設 施 化 肥 堆 閉 密 ① 。 る い て れ さ 産 生 が 肥 堆 質 良 堆 、 し 携 連 と 業 農 域 地 た し と 心 中 を 菜 野 設 施 ② い て れ わ 行 が み 組 り 取 た め 努 に 給 供 と 産 生 肥 。 る 畜産農家 オガクズ 0 0 5 , 6 1 円/ t 2車 0 0 5 , 6 円/ ( ラ ト 軽 1.2m3)t ラ バ 耕種農家 直 売 所 農事組合法人た・ から 入 購 詰 袋 菜 野 農作物 農作物● 家畜排せつ物の有効な利活用等 1)地域循環型農業への取り組み ◎ 田富高品質堆肥生産利用組合の活動 ∼農産物の収量増への取り組み∼ 田富高品質堆肥利用組合の取り組みのひとつとして、組合員であるキュウリ・トマト農家の協 力のもと、堆肥の施肥量及び品質に対する野菜の収量・品質について研究を重ねている。その経 験を生かし、堆肥販売の際に「堆肥の使い方」として、施肥設計に関するアドバイスをしている。 中にはキュウリの収量が 1.5 倍に増えた農家もおり、今では口コミで利用が広がっている。 今後はそういった実験データを集積し、地域における耕種農家の土づくりの一助となるよう努 力していきたいとしている。 ◎ 販売所と堆肥製造施設の一貫整備 上記のような耕畜連携での堆肥施用技術研究の他、利用組合では「販売先と堆肥製造施設の一 貫整備」することを目的とし、旧田富町役場や県、畜産協会と協議を重ねながら、平成 17 年に 地域の畜産農家や耕種農家と共に「た・から農産物直売所運営組合」を立ち上げた。そこで、農 産物の販売や後継者育成及び集客アップを目指した体験イベントを行い、地域農業の振興に努め ている。田富高品質堆肥生産利用組合で生産された堆肥(主に袋詰。バラ売りは注文を受け付ける) や、その堆肥を利用した農作物などもここで販売されている。少量でも出荷できるため、市場出 荷が困難な高齢農家や兼業農家も販売することが可能であり、参画者も増えている。製品につい ても品質が良いと好評で、午前中には商品がほぼ売れてしまうこともよくある。直売所の売上に ついても初年度は約 9,900 万円であったが、翌年(平成 19 年度)は 1 億 6,900 万円と約 7 割アッ プしている。 今年(平成 20 年)は、さらに事業を拡大するために「農事組合法人た・から」に組織を改編した。 8 月 9 日に設立総会を開き、今後は地域の遊休農地(田富地区で約 8ha)を利用した野菜生産や 加工品の製造にも取り組む方向で進めている。 農事組合法人た・からの全景。 県外からも購入者が訪れる
「た・から」内部 「た・から」内部 2)地域社会との調和や地域社会の活性化に対する貢献 <地域との交流> 生き物を飼育して牛乳や肉等の食料を生産する、またそこから出てくるふん尿を資源として循 環する等、畜産の多面的機能を活かし、渡辺氏自身は牧場を教育の場として積極的に提供してい る。また、市内の小・中学校へ堆肥を供給し、花壇等緑化への協力も行っている。近隣の小中学 校へ出向き、講義を行うこともある。 牧場の向かいにある老人ホームにも「無農薬の野菜を提供したい」として、施設の職員と協力 し、堆肥の提供とともに野菜作りも指南しながら交流を行っている。地域との共存あってこその 畜産経営、という信念が根底にある。 経営向かいの老人ホーム。 手前が供給した堆肥を入れて 施設職員が野菜を作る畑
● 堆肥化等処理技術の創意工夫 1)家畜排せつ物の処理・利活用の流れ 頭 2 4 約 牛 用 乳 約 ん ふ 牛 2t/ 日 荷 出 詰 袋 5 . 9 0 1 t/ 年 0 0 4 円/ 袋 荷 出 ラ バ 5 . 0 1 2 t/ 年 0 0 5 , 6 1 円/ t 2車 0 0 5 , 6 円/ ラ ト 軽 (1.2m3) ズ ク ガ オ 3 . 0 t/ 日 生 産 量 原 材 料 約320t/ 年 家 農 樹 果 (主に桃等) / t 5 . 1 反 家 農 菜 野 2~ /3t反 機 理 処 酵 発 型 縦 閉 密 (7~ 01 日間)50m3 盤 肥 堆 約 1t/日 堆 肥 処 理 施 設 舎 肥 堆 型 閉 密 ( 積 堆 20日間) ( し 返 り 切 1回/ 3 日) 積 堆 (5日間) 袋詰め ( 01 日間) 槽 臭 脱 式 脱 水 m 2 1 2 家 農 稲 水 0 0 5 kg/ 反 人 法 合 組 事 農 」 ら か ・ た 「 販 売 先 堆 肥 成 分 水分 C/N 比 EC 全窒素 全リン酸 カリウム 27% 25% ─ 1.5 % 0.77% 2.2% ◎ 周辺環境への配慮 住宅に囲まれた周辺環境から頻繁に切り返しが出来ない為、組合で密閉縦型堆肥化処理機を導 入し、さらに全施設を堆肥舎で覆い、この中で堆肥の製造・袋詰め作業まで一貫して行っている。 密閉縦型堆肥化処理機から出てくる臭気については、渡辺氏自身が以前設備工であったため、 その経験を生かして考案した水脱式の脱臭層で処理している。 堆肥を荷台に積む作業も購入者に任せるのではなく自ら行い、トラックが曲がるときに荷崩れ しないように覆いを被せるなど、細やかな対応が好評を得ている。また、堆肥を積んだトラック が出た後は道路の掃除も行い、周辺住民への気遣いも欠かさない。 販売についても、店任せの流通・販売ではなく、付加価値をつけた堆肥の商品化をどうするの か、需要者の声をもとに良質堆肥を生産できる技術研究を常に心がけている。 バラ堆肥の積み込み作業。 (手前が渡辺氏。カーブを曲がる際にも荷崩れしないように配慮) 密閉縦型堆肥化処理機
製品堆肥。 野菜農家からも「扱いやすく収量が増えた」と評判の堆肥 水脱式脱臭機 ◎ 臭気対策 堆肥盤での切り返しは夜間に行い、その際には敷地の境界地点でお香を焚く。お香が焚き終る 30 分以内に作業を完了することを心がけている。 また、敷地の境界線には珊瑚樹を緩衝帯として植えている。 緩衝帯として植樹された珊瑚樹 ◎ 利用者の声 <地元野菜栽培農家の声> 生育が良く味も良いとの評判で、収穫量も多くなった。 <果樹栽培農家の声> 品質が一定して果物に甘みが多く、収穫量も多くなった。
2)処理・利活用の関連建物・施設・機械等の内容 建物・施設・機械等の名称 材質・形式・導入年次等 処理能力(容積等) 密閉型堆肥舎 密閉縦型堆肥化処理機 袋詰機 平成 17 年度 〃 〃 390m2 容積:50m3
3 行政等支援組織の支援・連携
臭気測定の定期的実施 周辺住民への配慮から、山梨県畜産協会が畜産環境保全指導事業の巡回指導の一環で行ってい る臭気測定を定期的に受けている。4 今後の目標等
これまで、地域の需要に合った良質堆肥を生産するために、耕畜農家や指導機関と連携を取り ながら取り組みを進めてきた結果、今年 8 月には「農事組合法人た・から」も組織改編し、更に 活動の場を広げるなど、一定の効果を得てきた。 また、堆肥生産利用組合の堆肥を入れて作った米のブランド化も進めており、近く販売する予 定である。 今後は、さらに定時・定量生産による販売を確立しながら、田富地区の耕種農家と共に資源循 環型農業の確立を目指したい。 【執筆者】 所 属 社団法人 山梨県畜産協会 部 署・ 役 職 衛生指導課 課長代理 氏 名 藤原 尚 電 話 番 号 055 − 222 − 4004 F A X 番 号 055 − 237 − 6590 メールアドレス [email protected]現地確認評価(委員の印象)
1 堆肥を核として強いリーダーシップの基に築かれた地域農業の振興 田富高品質堆肥生産利用組合(以下、組合)が位置する地域は、山梨県の中央部で内陸性気候によっ て日格差、年較差が大きく、比較的湿度の高い気象条件であり、県内でも有数のトマト、キュウリ、ナ スなどの野菜生産地である。組合の発足は、経産牛 25 頭を飼育する渡辺氏が中心となり、トマト、キュ ウリを栽培する耕種農家 2 名の連携により、平成 18 年に国や県、町の補助事業導入等指導により立上 げることができた。元々の発端は、食の安全性が叫ばれている中で、子ども達に安全な野菜を食べさせ たいとした強い母親の思いを実現するため、堆肥を用いた有機野菜栽培の取り組みを気心の分かった仲 間が募って良質堆肥の生産と安全な野菜生産を目標に、まさに耕畜連携による安全な食の提供を目指す ために結成された。 組合の結成に加えて、良質堆肥の生産と堆肥の利用拡大をさらに進めて地力の増進による地域農産物 の高品質化を図ることを目標に、県及び町役場、畜産協会などとの協議を重ね、同年に畜産農家や耕種 農家との連携による「た・から農産物直売所運営組合」(以下、「直売所」)が結成された。「 直売所 」 の 会員は、市場出荷が困難な高齢者農家や兼業農家も販売ができることから次第に会員数は増えて約 120 名に達し、会員の多くは渡辺氏が製造した堆肥を利用し野菜の栽培が行われている。堆肥利用が進むな か、生産される野菜は収量も増え、味も品質も良くなったと好評になり、販売所では売り切れの状態が 続くなどの盛況で、売上高は 2 年目には 70% もアップしているほどである。 これら活動の中心的存在である渡辺氏は、小規模の酪農経営にもかかわらず地域農業振興のために陰 日なたになって常にリーダーシップの働きをされ地域活性化の立役者として努力されたことは非常に高 く評価される。 2 悪臭防止に配慮した良質堆肥生産施設 良質堆肥生産に向けては、家畜ふん尿の処理施設という意識ではなく、堆肥の販売促進を目標におい た堆肥製造施設としての位置づけの元に施設整備が進められた。また、堆肥舎の近隣には老人ホームの 施設があり、悪臭等に配慮する施設として検討が進められた。これら検討された中で、透明アクリル製 ハウスの堆肥舎に縦型急速発酵施設(縦型コンポ)を導入され、この排ガス対策としては悪臭物質を水 に吸着する曝気槽が併設されている。 堆肥処理の工程は、牛舎内で十分な敷料により尿を吸着した混合牛ふんをバーンクリーナーによって 舎外に排出し、そこから堆肥舎に搬入され処理が行われている。堆肥舎では、さらにオガクズと混合し て 1 ∼ 2 ヵ月間堆積発酵し、急速発酵に適切な水分になったものを縦型コンポに投入している。縦型コ ンポによる処理方法は、連続投入法ではなく、1 回投入で 1 ∼ 2 週間程度の発酵を行うバッチ運転法に より行われているところが他と異なっている。バッチ運転による処理法は、発酵期間の長短により堆肥 の品質や腐熟度が異なり、野菜では腐熟度の進んだ製品、果樹や水田では腐熟度が比較的低い製品とし て、それぞれ施用作物に適する発酵期間を設定されて製品作りと堆肥の販売をされており、1 ロット当 たりで思い通りの品質の堆肥が生産できるところが特徴である。 縦型コンポによる処理法は、送風を強化した急速発酵であるためアンモニア等の悪臭発生が非常に多 いが、牛ふんの場合は適正な水分調整をした原料では比較的悪臭発生量は少なく、堆肥舎内においても 強い悪臭は感じられなかった。縦型コンポは、ロータリー型撹拌発酵方式などに比べて悪臭物質を収集して拡散が防げることから、脱臭施設を設けることにより周囲に対する悪臭問題を解決できる点にお いて適切な選択肢であったといえる。また、本施設では灰白土などのエネルギー源を加えなくても 60℃ 以上の温度に達しており、取り出した堆肥製品は水分 40% 程度で、茶褐色の良質堆肥であり、作物によっ てはさらに堆積発酵して追熟させた製品を出荷されている。 脱臭施設は、曝気槽の水はほぼ透明であり、粉塵等の混入は少ないものと思えた。ただ、非常に曝気 量が多く見受けられたので、pH 等水質分析を行いつつ、悪臭発生量との関わりの中で曝気量を加減して 低コスト運転することが望まれた。