県産極小米「つぶゆき」を利用した環境調和型発酵食品の開発
Development of environmental harmony type fermentation food using “
Tubuyuki
”
of very small rice of Aomori Prefecture product
斎藤知明、佐藤 企*、市田淳治 (*鳩正宗株式会社) 青森県で品種化された極小の新形質米「つぶゆき」を玄米のまま用いて、各種試作試験を行っ た。つぶゆき玄米は他の玄米と比べ、たんぱく質、ミネラルが高かった。また、吸水性が高く、 水温 15℃で 3 時間以上浸漬することで製麹が可能だった。玄米酒の製造においてはアミノ酸を 高含有し(清酒の 8 倍程度)、GABA も豊富な(清酒の 10 倍程度)酒類が得られ、リパーゼ処理 することで麹菌の生長、発酵性を改善し、アミノ酸、GABA 生産を促進できることがわかった。 また、この玄米酒はポリフェノール含量が高く、従来の清酒には確認できなかった抗酸化性が 認められた。酢、味噌の製造においても良質の特徴あるものが得られた。 つぶゆき玄米酒の発酵後の圧搾粕は通常の粕に比べて、香りが高く、脂質、繊維を多く含ん でいた。これを粉砕し、一部添加したパンを製造し、一般市民を対象に試食公開したところ、 食感、香味とも良好で大きな関心を集めた。当素材は食品素材として利用価値の高いものだっ た。つぶゆきは玄米のまま用いることで、高付加価値で廃棄物を産出しない醸造物を製造可能 な米といえた。 1.はじめに つぶゆきは平成 14 年度、青森県で品種化された極小の新形質米である。近年、玄米およびその 加工品は健康志向とともに需要が伸びている。つぶゆきは従来行われていた玄米処理に比べ、吸水 処理が容易な点で加工利便性が大きい。また極小米は現在のところ本県にしかなく、用途開発それ に伴う作付拡大が期待されている。当研究はつぶゆきの玄米を材料に、醸造技術を利用して玄米特 有の栄養成分と新たな機能性を付与した食品を開発することにより、廃棄物を排出せずに物性の 改善、栄養バランスの強化を伴った機能性素材を提供し、新規食品等を提供することを目的と して行なった。 2.実験方法 2.1 成分分析 玄米の栄養成分及び無機成分および醸造物の一般成分は所定法によって分析した。アミノ酸は高 速アミノ酸分析計、香気成分はガスクロマトグラフィーを用いヘッドスペース法で行った。酵素分 析はキッコーマン社製、酵素力価分析セットによって測定した。総ポリフェノールはフォーリンデ ニス法、抗酸化性は DPPH によるラジカル補足能で測定した。 2.2 吸水試験および蒸煮試験 吸水試験は米 5g を 15℃の蒸留水にて浸漬し、遠心分離後の重量を測定し吸水率を求めた。浸漬 後 1 時間おきに 4 回計量し、その後は 21 時間後に計量した。計量後、ポリパックに入れ水分の飛散 を防ぎ、次の蒸煮試験に使用した。蒸煮試験はフルーツバスケットに入れ、甑にて 50 分間蒸した。 放冷 10 分後の重量を測り、吸水率を求めた。蒸煮後はそのまま製麹予備試験に供した。
2.3 製麹予備試験 蒸米を予め種麹(粉状北斗)白米1gあたり2mg 入れておいた無菌シャーレにいれ、蓋をして振 り混ぜ、水を張ったデシケータに入れて30℃の恒温室に放置し、肉眼で観察した。 2.4 酒類小仕込試験 2.4.1 原料処理および製麹 製麹は玄米1kg を洗米し、6時間浸漬、水切り、翌朝に蒸きょうした。放冷後種付け(粉状北斗、 0.5g/kg)し、ビニール袋に入れ、ペン先で通気口を空けた。31℃の恒温室に入れ、翌日、小型 簡易自動製麹装置に盛込み、品温センサーにより自動制御しながら盛後 32 時間で出麹した。仕込は 玄米の油による香味の悪化や発酵阻害の可能性を考慮し、リパーゼ浸漬法による仕込みも同時に行 った。リパーゼはヤクルト製リリパーゼ(1,018,000U/g)を玄米1gあたり5U 相当用いた。添 加はリパーゼを少量の水で溶解し、玄米に散布し、4時間吸着をはかりその後、玄米が十分浸る程 度に浸漬水を加えた。 2.4.2 仕込および製成 仕 込 み は 糖 化 酵 素 の 不 足 に よ る 発 酵 停滞が予想されたため、全麹の 3 段仕込 みで行った。酵母は当所保有 3711-279 株を用い酵母仕込を行った。仕込配合は 表1に示したとおりである。品温は留後 1 日1℃の割合で外気温を上げることで 調整し、外気温 15℃になった時点でその 温度を持続した。もろみは22日目にザ ル漉しして上槽した。分離した粕は全量をまとめて手動圧搾機で搾りきった。 2.5 酢醸造試験 上記玄米酒をアルコール4%ほどに希釈し、前培養した酢酸菌を移植し、酢酸発酵を行った。 2.6 玄米酒 GABA 生成試験 2.6.1 原料処理 米 400g を素早く洗米し、リパーゼ(リパーゼ酒アマノ)80mg を 200ml の水に溶かしてある 1L ビ ーカーに入れ、米全体が均一に水を吸うように浸した。室温 15℃で 6 時間浸漬後、水を切り、乾か ないようビニール袋に入れておき、翌朝に蒸きょうした。1 時間放冷後種付け(粉状北斗、0.5g/ kg)し、水切り用紙袋に入れ、さらにビニール袋に入れ、通気口を少し空けた。31℃の恒温室に 入れ、翌日、小型簡易自動製麹装置に盛込み、品温センサーにより自動制御しながら盛後 32 時間で 出麹した。対照はリパーゼ浸漬を行わず、同様に処理した。 2.6.2 液化・糖化液の製造 上記麹 30gに、水 45gを入れ、55℃、5 時間液化、糖化を行ったものと糖化酵素を加え 55℃、5 時間液化、糖化を行ったものを2反復し、1 つは遠心分離後凍結し、もう1つは発酵試験に供した。 2.6.3 小仕込試験 上記糖化もろみに乳酸 80ul、酵母 2ml を加え、アルコール発酵を行った糖化後発酵もろみと出麹 した麹の 30g相当を用いて仕込んだ並行複発酵型もろみを仕込んだ。発酵は 15℃一定で行い、もろ みには醪用糖化酵素剤を添加したものと添加なしのものを設けた。15、20、30 日目にサンプリング した。 2.7 味噌仕込試験 鳩正宗株式会社製のつぶゆき玄米麹、あきたこまち玄米麹各 1kg と大豆(オオスズ)1kg を用い て、麹歩合 10、塩きり歩合 5、仕込予定水分 48%で仕込んだ。蒸し大豆と麹、種水、酵母を混合し、 表1.仕込配合 1 踊 2 3 総米 麹米 g 160 280 560 1000 水 g 200 360 740 1300 乳酸 ml 0.6 酵母 ml 5 品温℃ 12 13 7 6
2.8 玄米酒製造実地試験 総米 60kg で玄米酒の製造を行った。仕込配 合は表2に示したとおりである。 2.9 玄米酒粕による製パン試験 上記、玄米酒の圧搾粕を材料に製パンを行 った。粕を粉砕し、小麦粉:粕を 5.6:1 で 配合し砂糖、塩を加えホームベーカリーに より製パンを行った。製パンは 2 通りの方 法で行い、一方は粕に含まれている酵母の 利用を考えパン用イーストを加えないもの、 もう一方は通常どおりイーストを加えた方法で行った。 3.結果と考察 3.1 玄米の成分 玄米組成を華吹雪と比較した。定法により栄養分析及びミネラルを測定した。表3、4に示した ようにつぶゆきの方が栄養成分、無機成分とも高いことがわかった。これはつぶゆきが小粒なため、 相対的に糠層の比率が高いことによるものと考えられた。 表3 玄米の栄養成分 表4 玄米の無機成分 3.2 吸水試験および蒸煮試験 吸水率の変化は表5に示したように「つぶゆき」の方の吸水が早かった。華吹雪は 20 時間後でも 蒸後 23.3%と通常の清酒醸造における吸水率 37~45%に及ばなかった。 3.3 製麹予備試験 3 日後、肉眼観察したところ華吹雪はほとんど破精が見られなかったが、「つぶゆき」の浸漬 3 時 間以降は麹菌の繁殖が見られた。 3.4 小仕込試験 蒸し前の吸水率は無処理、リパーゼ浸漬それぞれ 38.4%、36.8%であり、甑吸水は12%ほどで あった。出麹歩合はそれぞれ 29.5、25.8%であり、品温は図1に示したような経過をたどった。品 温経過の違いはそれぞれの操作上の影響が大きく、処理による差はないものと考えられた。製造し た麹の外観とカッターによる切断面を写真1、2に示した。外観は菌糸の繁殖により、白っぽく見 える程度であるが、切断面は空隙が多く内部に菌糸が生長しているのが観察された。これらの酵素 力価を表6に示した。参考に同時に分析した吟醸用麹の分析値を掲げてあるが糖化力、グルコアミ ラーゼは極端に低い値となった。これは基質に由来するものと考えられた。一方、α―アミラーゼ、 酸性カルボキシペプチダーゼは十分量あり、米の溶解は十分可能と考えられた。 含有量(%) つぶゆき 華吹雪 水分 13.3 15.0 灰分 1.3 1.2 タンパク質 7.5 7.0 脂質 2.3 2.3 含有量(mg%) 無機物 つぶゆき 華吹雪 Fe 5.2 4.4 Mn 3.2 2.5 Ca 61.6 52.2 K 268.0 287.3 Mg 225.5 218.1 表2 仕込配合 仕込区分 原料 酒母 初添 仲添 留添 計 総米(kg) 3 7 17 33 60 蒸米(kg) 7 7 麹米(kg) 3 17 33 53 乳酸(ml) 36 水(l) 12 22 44 78
表5 吸水率の変化 20 25 30 35 40 45 0 2.5 5 7.5 10 12.5 15 17.5 20 22.5 25 27.5 30 32.5 35 37.5 40 42.5 45 47.5 50 52.5 hr ℃ 無処理 リパーゼ 図1 製麹時の品温経過 つぶゆき 華吹雪 時間 吸水率(%) 蒸後吸水率 (%) 吸水率(%) 蒸後吸水率 (%) 1 8.6 15.0 4.1 14.0 2 14.4 16.6 6.7 14.7 3 18.5 24.7 9.2 18.1 4 21.3 21.5 8.3 - 20 36.2 38.2 20.9 23.3 表6 つぶゆき玄米麹の酵素力価(U/g・こうじ/dw) α-アミラ ーゼ活性 糖化力 α-グル コシダーゼ グルコアミ ラーゼ 酸性カルボキ シペプチダーゼ 菌体量 (mg/g・麹) 吟醸仲麹 733 1.40 0.14 190 4118 5.8 玄米麹 625 0.13 0.02 16 2413 3.2 玄米麹(リパーゼ浸漬) 549 0.13 0.02 16 3762 2.3 ℃ 写真1 出麹外観 写真2 麹切断面
3.5 もろみおよび製成 製造した麹はグルコアミラーゼ力が低いため、初期の発酵が弱かった。しかし、米は十分溶解し ており、3 日目 brix は 20%内外だった。従ってグルコース不足による発酵停滞と考えられた。よっ てもろみ日数8日目に全量を2分し、片方にグルコアミラーゼ酵素剤を添加した。グルコアミラー ゼの添加はユニアーゼ 30(ヤクルト薬品工業製)を 0.05%(対麹米)で行った。製成酒の成分は表 7に示したとおりである。リパーゼ処理の方が日本酒度、アミノ酸度が高く、アルコール分、酸度、 brix が低い傾向を示し、グルコアミラーゼを添加の方が日本酒度、アルコール分、酸度、アミノ酸 度が高く、brix が低い傾向を示した。しかし、これらの効果のうち、リパーゼ処理の効果は酵素力 価より推察されるように麹の性質によるところが多いと考えられ、グルコアミラーゼの効果につい ては単純に発酵を促進したものと考えられた。 香気成分に関しては表8に示したようにグルコアミラーゼの効果は無く、リパーゼ処理により酢 酸イソアミルの濃度が高まった。これはリパーゼ処理によって玄米の脂肪酸がエステル化され、蒸 きょうにより揮発したため、酵母のエステル生産が促進されたものと考えられた。このことは通説 どおり不飽和脂肪酸が酵母のエステル生産を阻害すること、リパーゼ処理により改善されることと 一致した結果となった。 遊離アミノ酸組成は表9に示してあるとおりである。これまでの多くの報告と比較して全てのア ミノ酸が多量に含まれていた。特にγ-ABA(GABA)に関しては大きな差が現れ、リパーゼ処理に より大幅に増加した。 表7 製成酒の成分 対照 NG LN LG リパーゼ処理 × × ○ ○ グルコアミラーゼ添加 × ○ × ○ 日本酒度 -39.3 -20.8 -30.7 -15.4 アルコール分 12.4 15.5 11.3 13.9 酸度 4.5 5.1 4.0 4.5 アミノ酸度 2.3 2.8 3.0 3.1 Brix(%) 16.0 14.7 13.7 12.8 表8 製成酒の主な香気成分 酢酸イソアミル (ppm) イソアミルアルコール (ppm) カプロン酸エチル (ppm) 無処理 5.7 288 0.64 グルコアミラーゼ添加 7.3 289 0.72 リパーゼ処理 10.2 286 0.75 リパーゼ処理、グルコアミラーゼ添加 11.0 300 0.64 ヘッドスペースガスクロマトグラフィーによった
表9 製成酒の遊離アミノ酸組成(mg/100ml) 対照 NG LN LG 既報(2) Asp 11.6 20.1 14.9 20.8 5.5 Thr 1.3 4.1 1.1 2.5 14.7 Ser 3.0 8.6 2.3 5.2 7.7 Glu 28.3 40.2 33.1 45.7 19.2 Pro 28.5 30.5 32.4 36.8 21.8 Gly 14.3 17.4 18.5 21.0 12.8 Ala 22.3 25.3 30.4 32.0 31.2 Val 14.4 15.8 21.8 22.4 11.9 Cys 8.9 9.5 9.0 9.0 6.6 Met 1.4 2.8 0.0 0.4 1.4 Lle 6.0 8.7 9.7 10.4 5.9 Leu 16.2 24.7 22.0 26.4 13.8 Tyr 18.5 21.7 28.3 31.7 9.0 Phe 15.3 18.9 21.5 23.6 5.4 γ-ABA(1) 17.6 13.1 41.9 40.7 5.7 NH3 3.5 4.8 3.8 4.6 2.2 Lys 6.5 12.7 9.7 12.3 7.7 His 4.1 6.6 5.5 7.4 3.6 Arg 28.0 34.8 47.8 46.3 10.7 (1)γ-ABA の値は過去の標準ピークと今回の標準ピークより外挿したものである (2)斎藤ら:醸協,82,134(1987) 3.6 酢醸造試験 つぶゆき玄米酒を 2 週間ほど酢酸発 酵したときの酸度は約4%と規格内に 収まった。図2に示したようにグルタ ミン酸に対する GABA 含有量が多く、官 能的にはあっさりとして、穀物酢のく せが少なく、良好だった。 3.7 玄米酒 GABA 生成試験 つぶゆき玄米酒のもろみ中のグルタ ミン酸および GABA 含量の推移を図3 に示した。もろみ経過とともにどちら の成分も増加し、30 日目には GABA は 50mg/100ml まで増加した。図4に原料 およびそれを糖化したもののグルタミ ン酸および GABA の含量を示した。GABA は玄米中にはほとんど存在していなく、 製麹により大きく増加することがわか った。また、製麹ではリパーゼ処理が GABA 変換には効果的であるといえた。 しかし、これらを糖化させた時にはリ パーゼ処理の液では同等に含まれてお 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 16.0 18.0 20.0 Glu γ-ABA つぶゆき米酢 純米酢(大手M社) 図2 つぶゆき玄米米酢のグルタミン酸、GABA の含量 0 50 100 150 200 250 10 20 30 Glu GABA もろみ日数
た。もろみ 30 日目に遠心分離 を行い、上槽をおこなった製 成 酒 の グ ル タ ミ ン 酸 お よ び GABA の含量を図5に示した。 GABA は図4に示した糖化液 と比べると、増加しており発 酵中にも増加することがわか った。また、糖化液発酵に比 べて通常の並行複発酵の方の 含量が高く、生産性が高いこ とがわかった。この玄米酒は GABA が 60mg/100ml、アミノ酸 度が 12 程度と高い値を示し、 通常の清酒に比べアミノ酸度 は 8 倍程度、GABA は清酒の 10 倍程度の値となった。 3.8 味噌仕込試 表 10 に仕込 3 ヵ月後の一般 成分を示した。あきたこまち に比べ、つぶゆきの方の F-N が多く、アミノ酸への分解が 進んでいると考えられた。 また、つぶゆきの Y%が高 く、色調が明るかった。遊離 アミノ酸の分析を行ったとこ ろ、品種による遊離アミノ酸 の構成比の差はなく、バラン スよくアミノ酸が含まれ、つ ぶゆき玄米味噌の GABA は 50mg/100g程度だった。 0 . 0 5 0 . 0 1 0 0 . 0 1 5 0 . 0 2 0 0 . 0 2 5 0 . 0 糖 化 後 発 酵 C 糖 化 後 発 酵 L 通 常 法 C 通 常 法 L Gl u γ - A B A ア ミ ノ酸 度 × 1 0 図5 つぶゆき玄米酒のグルタミン酸、GABA の含量 単位はmg/100ml。C は対照、L はリパーゼ浸漬処理を示す 写真3 玄米味噌 表 10 仕込 3 ヶ月後の味噌の一般成分 原料 米 水分 全窒 素 食塩 分 F.N R.S pH 酸度 Ⅰ 酸度 Ⅱ Y% x z つぶ ゆき 53.1 1.53 13.6 0.50 15.2 5.3 10.4 12.7 17.7 0.44 0.41 あき たこ まち 52.6 1.47 11.5 0.35 13.9 5.3 11.0 12.5 16.7 0.45 0.41 0 20 40 60 80 100 120 140 160 玄米 麹C 麹L 糖化 液C 糖化液 L 酵素糖化液 C 酵素糖化 液L Glu γ-ABA 糖化:1.5水 55℃、5hr. 図4 原料および糖化液のグルタミン酸、GABA の含量 単位は固体がmg/100g・DM、液体がmg/100ml。C は対照、L はリ パーゼ浸漬処理を示す。
3.9 玄米酒製造実地試験 鳩正宗株式会社において総米60kg の実地試験を行った結果、図6に 示したように製麹操作は順調に行われ、55 時間で出麹した。もろみ経過 は図7、8に示したように6日目で最高品温12℃となった後、約 10℃ で推移した。このように品温は低めで推移したが、これは仕込規模が小 さいため、外気温によって冷やされたためである。ボーメ度は5 日目に おいては4 度を越えていたが、順調に減少し、20 日目には 0.4 となった。 アルコール分は順調に増加し、20 日目には 16.5%となった。酸度は麹 歩合が高いことから、当初より高く4程度で推移した。20 日目に上槽し、 澱引き、ビン詰め殺菌を行った。各種歩合は表10 に示したとおりであ る。製成酒の成分は表11 に示してあるが、小仕込試験の時と比べ、ア ミノ酸度が低く、やや麹の酵素力価が低かったと考えられた。酒質は味 濃厚、くどい、苦味の指摘があるが、旨味強く、中国酒様の香りして良 いという好意的な意見もあった。 3.10 玄米酒のポリフェノールおよび抗酸化性 つぶゆき玄米酒の総ポリフェノール量を図9に示した。市販そば茶と比較しても非常に多く含まれ ていることがわかった。これは玄米由来のフェルラ酸等によるものと考えられた。また、図 10 には DPPH ラジカル補足能による抗酸化性の評価を示してあるが、同じ製造場での純米吟醸酒と比較する と抗酸化性に大きな違いがあり、つぶゆき玄米酒は高い抗酸化性を示した。 20 25 30 35 40 45 0 10 20 30 40 50 ℃ 経過時間hr. 品温 湿球温 乾球温 0 2 4 6 8 10 12 14 初添 仲 2 4 6 8 10 12 14 16 18 室温 品温 0 5 10 15 20 25 30 35 40 初添 仲 2 4 6 8 10 12 14 16 18 アルコール分 ボーメ×10 酸度 表 11 製成実績 アルコ ール分 日本 酒度 酸度 アミノ 酸度 もろみ 熟成 16.5 -4 4.1 4.0 60.0 もろみ たれ 肉 たれ 粕 もろみ 1kl 当り 欠減量 アルコ ール収 得 70.2 3.3 48.3 -70.2 220 図6 製麹経過 図7 もろみ品温経過 図8 もろみ成分経過 写真4 玄米酒
3.11 玄米酒粕による製パン試験 圧搾した粕は玄米の形を残したまま、バナナ様のエステル香が強い特徴をもっていた(写真5)。 焼きあがったパンは玄米に由来する茶色がかった色とほのかにバナナの香りと酒の風味があり、好 みの別れるところであるが大方、美味しいという意見が多かった。またイースト無添加のものは写 真6にあるように膨らみが少なく、食感はややもちっとしたものだったが、こちらの方を好む方も いた。他に当粕の利用法としてはせんべい、クッキー、ドーナッツ等が考えられた。 表 12 玄米酒粕の栄養成分 水分 タンパ ク質 脂質 灰分 繊維 糖質 エネル ギー アルコ ール分 g/100g kJ ml/100g 玄米酒粕 50.7 11.6 8.5 0.8 3.0 12.1 66.0 58.7 吟醸粕 46.8 12.5 2.5 0.5 1.0 22.9 63.2 57.5 4.おわりに 極小米「つぶゆき」の酒類への適用については、吸水性に優れてい るため、他の品種の玄米に比べ非常に処理しやすいものだった。酒質 は必ずしも嗜好性が高いとはいえない部分もあるが栄養的に優れてい ること、機能性も期待できることなどから可能性が高いものと考えら れた。特にリパーゼ処理を行った場合、GABAの生産性が飛躍的に 高まり非常に興味のあるところである。この特性は料理用清酒など他 の利用法も十分に考慮できるものだった。 固液分離した後の粕の利用法についてもパンをはじめ、クッキー等 のお菓子類に十分利用可能と考えられた。むしろ栄養、食感等を改善 出来る可能性もある。 今回の試験は予備試験的な面が多く、さらに詳細な検討が必要であるが、従来、清酒製造におい て多くの副産物、廃棄物を産生してきたことを考えれば、今回の試みは栄養機能の充実した食飲料 の生産しかつ、廃棄物を生じないこと、精米等のエネルギー、労力面で省力化されることなど多く の利点を有するといえるだろう。 写真5 玄米酒粕 写真6 試作したパン 左がイースト無添加、右が 添加したもの ppm 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 市販そば茶 つぶゆき 玄米酒 図9 つぶゆき玄米酒のポリフェノール Follin-Denis 法によるルチン相当量(ppm) ppm 0 100 200 300 400 500 600 GA ルチン つぶゆき 玄米酒 鳩正宗 純米吟醸 図10 つぶゆき玄米原酒の DPPH を用いたラジ カル補足能による抗酸化物質相当量(ppm) GA:没食子酸