腐食センターニュース No. 050 2009 年 7 月
技術資格の海外での活用
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APEC エンジニアと EMF 国際エンジニアを中心として――
高林技術士事務所 腐食防食専門士(腐食防食協会認定),技術士(金属部門,総合技術監理部門) 高林純一 1. はじめに 筆者は,海外での業務経験はないのだが,ある機会に腐食センター運営委員を兼ねるかたに 掲題の件を紹介したところ,腐食センターニュースにおいて情報提供せよ,とのお勧めを受けた. 腐食防食の実務に携わる方々に多少なりともご参考になればと思い,ここに関連団体からの公開 資料で得た情報を中心に紹介する. 2. APEC エンジニア1)1995 年 11 月に大阪で開催された APEC(Asia-Pacific Economic Cooperation)首脳会議での決 議にもとづき,APEC エンジニア相互承認プロジェクトが設置された.これにより APEC エンジニ ア・マニュアルが定められ,当マニュアルを承認した参加エコノミー(エコノミーとは国もしくは地域 のことと考えられる)の政府管轄下でAPEC エンジニア登録制度が 2000 年 11 月から始まった.こ れにより,日本では,腐食防食技術者の中にも資格保持者がいる国家資格の技術士や,その他 特定の技術資格について,その資格保持者がこの登録制度にもとづき所定機関に申請してもよ いことになった.APEC エンジニアとして登録されると,APEC エンジニア相互承認プロジェクトに おける「実質的同等性を認める枠組み」により,参加エコノミー内で少なくとも技術者としての能力 が同等であるとされる.さらに,二つの参加エコノミーの間で APEC エンジニア相互承認プロジェ クトにおける相互免除協定が締結されている場合,業務免許に必要な技術的能力の審査はお互 いに免除される。ただし当該エコノミーでは、当該エコノミーにおいて運用されている特 殊な要求事項を確認する審査が追加できるとされている。2003 年 10 月には,日本の技術 士資格とオーストラリアの Chartered Professional Engineer(CPEng)資格との間の相互 承認枠組みについての文書が署名されている. 現在におけるAPEC エンジニア登録制度と日本における制度適用の概要は次のとおり. APEC エンジニアとして登録できる技術分野:- Civil,Structural,Geotechnical,Environmental,Mechanical,Electrical,Industrial,Mining, Chemical,Information,Bio(計 11 技術分野) 参加エコノミー:- 日本,オーストラリア,カナダ,中国香港,韓国,マレーシア,ニュージーランド,インドネシア, フィリピン,アメリカ,タイ,シンガポール,チャイニーズ・タイペイ(計13 エコノミー) 日本における申請可能な国内対象資格:- 技術士,一級建築士 腐食防食実務に関係(主要なもののみ抜粋)する技術士の技術部門/選択科目(選択科目とは
腐食センターニュース No. 050 2009 年 7 月 技術士資格試験上の用語だが下位技術区分に相当.選択科目の具体的対象を[ ]内に併記し た)とAPEC エンジニア登録分野との対応:- 金属/表面技術[めっき,溶射,浸透,CVD(化学気相析出法),PVD(物理蒸着被覆法),防 錆,洗浄,非金属被覆,表面硬化,金属防食その他の金属の表面技術に関する事項]⇒ Mechanical または Chemical 金属/金属材料[構造材料・機能材料等の成分設計,複合化,材料試験,分析,組織観察 その他の金属材料に関する事項]⇒Mechanical または Chemical 化学/化学装置及び設備[流動,伝熱,蒸留,吸収,抽出,粉砕,ろ過,集じん,反応そ の他の化学的処理に係る装置及び設備並びにこれらの配置の計画及びその運営に関する 事項]⇒Chemical 応用理学/物理及び化学[力学,光学,電磁気学,熱物理学,原子・量子物理学,物理及 び化学的計測,レオロジ,化学分析,機器分析,応用数学その他の物理及び化学の応用 に関する事項]⇒Mechanical,Electrical,Chemical,Geotechnical または Environmental 機械/材料力学[構造解析・設計,破壊力学,機械材料その他の材料力学に関する事項]⇒ Mechanical APEC エンジニアになるための要件(5点ある):- ① 認定又は承認されたエンジニアリング課程を修了していること、またはそれと同等 のものと認められていること。 ② 自己の判断で業務を遂行する能力があると当該エコノミーの機関に認められてい ること。 ③ エンジニアリング課程修了後、7 年間以上の実務経験を有していること。 ④ 少なくとも2 年間の重要なエンジニアリング業務の責任ある立場での経験を有し ていること。 ⑤ 継続的な専門能力開発を満足すべきレベルで維持していること。 APEC エンジニアになるための付則要件(2 点ある):- ① 自国及び業務を行う相手エコノミーの行動規範を遵守すること。 ② 相手エコノミーの免許又は登録機関の要求事項及び法規制により、自己の行動につ いて責任を負うこと。 APEC エンジニアの有効期間と更新:-
5 年間の更新制.更新時にはCPD 記録(CPD:Continuing Professional Development:継続 研鑽。日本技術士会にてCPD 記録の認定を実施中) の提出が求められる. 日本における APEC エンジニアの事務局:- 関係9 省の申し合わせにもとづき日本 APEC エンジニアモニタリング委員会が設置され,その 事務局は(社)日本技術士会に置かれている.APEC エンジニアの Structural 分野のうち建築 構造分野は(財)建築技術教育普及センターが,建築構造分野以外のStructural 分野とそ の他の分野は(社)日本技術士会が,日本 APEC エンジニアモニタリング委員会からの負託を 受けて,審査の一部を実施している.
腐食センターニュース No. 050 2009 年 7 月 申請にあたって注意しなければならない点は,腐食防食実務を海外でしようとしても,保 持している技術士資格の技術部門により APEC エンジニアとして登録できる技術分野が決ま ってしまうため,たとえば,原子力・放射線部門で選択科目が原子炉システムの運転及び保守で ある申請者は,Chemical は申請できず Mechanical,Electrical,または Environmental に 制限されるといったことに気をつけてほしい. 3. EMF 国際エンジニア2) 1996 年 3 月に,技術者教育認定団体の協定であるワシントンアコードの加盟団体間で, 業務経験豊富な技術者に対する国際登録創設の協議が始まり,途中の会議から(社)日本技 術士会もオブザーバーとして加わった.1997 年 10 月の会議で EMF(Engineers Mobility Forum,技術者流動化フォーラム)という枠組みを設立することが合意され,2001 年 6 月の会議で11 エコノミーの民間技術者団体が EMF 協定に署名し,EMF プロフェッショ ナルエンジニア国際登録を開始していくことが合意された.現在の参加エコノミーは 13 になった. 当協定加盟の各エコノミーの技術者団体はプロフェッショナルエンジニア国際登録 (IRPE: International Register of Professional Engineers)制度を始め,これにより,所 定基準を満たしたベテラン技術者は所属エコノミー内で国際エンジニア(International Professional Engineer)の登録ができるようになった.APEC エンジニアの枠組みには, 各エコノミーの政府と技術者団体が協力して取組んでいるが,EMF の枠組みは EMF 加盟 の技術者団体間の合意により運用され,各エコノミーの政府の関与は特にない.
EMF 国際エンジニアとして登録されると,「IntPE(エコノミー名)」という形で記載さ れる称号が与えられる.IntPE は International Professional Engineer の略記である.日 本の EMF 国際エンジニアであれば IntPE(Jp)という称号となる.ただし,アメリカは IntPE の称号を採択していない.アメリカ等,エコノミーによっては法令上の理由により 業務上の使用が制限される場合がある.なお,EMF 国際エンジニアには登録にあたって 技術分野の区分はない. EMF 国際エンジニア登録により,ベテラン技術者としての能力が EMF 加盟エコノミー 間において同等とみなされる.特定専門分野を裏付けるものではないが,この称号があれ ば腐食防食実務を行う技術者も,技術者としての一般的な能力・力量への信用は海外にお いても得られるものと考えられる. 現在におけるIRPE 登録制度と日本における制度適用の概要は次のとおり. 参加エコノミー:- 日本,韓国,中国香港,マレーシア,オーストラリア,ニュージーランド,カナダ,アメリカ,アイ ルランド,南アフリカ,イギリス,シンガポール,スリランカ(計13 エコノミー) EMF 国際エンジニアになるための要件(5 点ある):- 下記の①と②を除き,APEC エンジニアになるための対応要件と同じ. ① ワシントンアコード認定またはそれと同等のエンジニアリング課程を修了してい
腐食センターニュース No. 050 2009 年 7 月 ること。(日本技術者教育認定機構(JABEE)認定の技術者教育プログラムを修了 している場合はこの要件を満たすものとされる) ② 自己の判断で業務を遂行する能力があると自らのエコノミーの機関に認められて いること。 EMF 国際エンジニアになるための付則要件(2 点ある):- APEC エンジニアになるための要件と同じ. 日本におけるEMF 国際エンジニアの事務局:- (社)日本技術士会にEMF エンジニア・モニタリング委員会事務局が置かれている.2009 年 に行われた6 回目の EMF 国際エンジニア申請受付は,APEC エンジニアの,登録済み者に よる申請,登録更新時の申請,初回申請時の申請のみとなっており,APEC エンジニア登録と 無関係のEMF 国際エンジニア単独の申請受付はしていない. 4. 日本の技術士資格3)の補足説明 この資格は技術士法により定められた国家資格であるが,弁護士や医師のような業務を 独占する資格ではなく,名称を独占する資格である.技術士とは,技術士法第 32 条第 1 項の登録を受け,技術士の名称を用いて,科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要 とする事項についての計画,研究,設計,分析,試験,評価又はこれらに関する指導の業 務を行う者とされている.ビジネスにこの資格を活用するためには,建設部門等の技術士 の保有を法的に義務付けられた業種以外,技術士みずからビジネスを開拓する必要があり, 資格保持者の中で実際にビジネスに活用している人の割合は少ないと言われている.2 次 試験から受験可能で受験者の業務成果の内容を中心とする中高年者に有利だった従来の試 験から,数年前,資格試験の構成が改定され,2 次試験からの受験に強い制限が設けられ, また受験する技術部門の全般的工学知識を問うことも含めた試験に改められたため,中高 年でかつ狭い専門分野に凝り固まった人には不利なものとなり合格者の若年化が進んでい る. 5. 海外の資格および腐食工学分野の資格 海外の技術資格では,アメリカ各州で設けられている Professional Engineer(PE)4) が有名である.公的機関や民間企業で技術責任者にはPE 資格が要求されることが多く, 日本の技術士よりも実権は強い.多くのビジネスの現場でPE のサインが必要とされる場 面があると言われている.資格試験は,全州で NCEES(全米試験協議会)が作成した同 じ試験方法を採用している.日本でもNPO 法人日本 PE・FE 試験協議会主催でアメリカ と同じ試験(もちろん英語使用)が受けられるようになっている. 腐食工学分野の資格としては,腐食防食協会元副会長杉本氏によるわかりやすい記事 5) があり,そちらを参照してほしい.アメリカに本部があるNACE International には,難 度の低いものから高度なものまで6 段階,計 30 種の資格 6)があり,一部の資格は日本で もNACE インターナショナル東京セクションで日本語使用により講習・受験が行われてい
腐食センターニュース No. 050 2009 年 7 月 る7).国内では,(社)日本防錆技術協会による防錆管理士のほか,防食技術に関する高度 な包括的技術知識と施工及び管理に関する統括職務能力と広い経験を持った腐食防食専門 技術者として,(社)腐食防食協会による腐食防食専門士がある. 6. おわりに代えて 個人的には,腐食防食専門士についても,全般的コンサルタント資格や将来創設できる ならば特定範囲の資格(たとえば腐食金属表面や環境劣化金属破面の鑑定とか,腐食デー タの統計解析など)について,APEC エンジニアのように,外国の同等団体の類似資格との 間で,(社)腐食防食協会と外国の腐食防食協会相等団体との間の相互資格承認の協定が できるならば,新たに外国の腐食防食協会相等団体の類似資格を取らなくても当該の外国 でも(社)腐食防食協会の腐食防食専門士の資格が通用し効力を持つようにするという, 将来的方向性を考えることができるのではないかと期待している。 1) http://www.engineer.or.jp/apec/APECwhatis.htm 2) http://www.engineer.or.jp/emf/index.html 3) http://www.engineer.or.jp/pejseido.pdf 4) http://www.jpec2002.org/030pelicense/031peintroduction/ 5) 杉本克久:材料と環境,52,177(2003). 6) http://www.nace.org/content.cfm?parentid=1007¤tID=1349 7) http://www.nace-tokyosection.org/profile/index.html