日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-54 404
-対処的悲観者の長期的課題への対処傾向
○藤枝 政矩 北海道医療大学心理臨床・発達支援センター 【問題】 不安を抱える対象への介入は,その不安の軽減が目 的となることが多く,実証研究からも環境や状況への 適応,そして心身の健康を高めるためには,不安の低 さ,すなわち楽観性が重要とされてきた。しかし,楽 観および悲観的思考を扱う際には,個人との適合性を 考えることが必要だとの見方があり(Norem,2014), そ れ を 示 す も の に 対 処 的 悲 観 性(D e f e n s i v e Pessimism:DP)の研究がある。DPとは認知的方略の 1 つとして概念化されており(Norem,2001),DPを日 常的に用いる者は対処的悲観者(DP者)と呼ばれる。 DP者は学業場面などにおける過去の似たような状況で 成功した経験があるにもかかわらず,これから起こる 課題に対して不安を抱く。しかし,その不安を原動力 とし,課題に対する熟慮の上で適切に対処することが できるため,DPは特性不安の高い者に有効と考えられ ている(Norem:2001)。尚,Norem(2001)は過去の課 題 と 未 来 の 課 題 と い う 2 軸 そ れ ぞ れ に 対 し て ポ ジ ティブに認知するかネガティブに認知するかによって 認知的対処法略を分類している。DP研究ではDPの適応 性を確認するため,対となる概念である方略的楽観 (Strategic Optimism:SO/過去と未来の課題共にポ ジティブ認知する)を比較対象として検討することが 多い。課題への対処方略には,大別して問題焦点型と 情動焦点型があり(Lazarus & Folkman,1984),前者 は統制可能な課題で適応的,後者は統制不可能な課題 で適応的といわれている。DP者は課題に対して好成績 を残すことが示されてきているが,これまでの研究で 対象となってきた課題はその場限りの短期的なものが 多い。しかし,課題が長引く場合,不安を原動力にす るDP者の方略は長期化する不安が増大することで精神 的健康を阻害する危険が想定されるため,情動焦点型 対処を用いることで不安が過度に上昇しないよう適宜 調整する必要があるといえる。DP者は問題解決型の対 処を得意とすることが知られているが,先行研究に よって,例えば統制不可能な課題に際しては不完全な がらも情動焦点型の対処を試みることが報告されてい る(細越・小玉,2006)。但し,同一課題に対してそ の段階に応じた適切な対処を行えるかどうかについて は明らかになっていない。そこで本研究では大学生の 就職活動を長期的課題とし, 2 , 3 年生を横断的にみ ることでDP者の対処方略の違いおよびSO者との違いを 検討する。 【方法】 調査対象:大学生303名( 2 年生の男性65名,女性 74名, 3 年生の男性117名,女性46名,不明者 1 名, 全体の平均年齢20.11±1.14)。調査期間:2015年10月 下旬から11月上旬。質問紙:DP者等を抽出する尺度に 荒木(2008)のJDPIを,課題への対処方略を測るもの に杉本(2007)の就職活動プロセス初期活動尺度と, 高本と相川(2012)の情動焦点型行動的対処尺度およ び情動焦点型認知的対処尺度を就職活動に特化して用 いた。 【結果と考察】 尺度の整理:確認的因子分析を行ったところ,JDPI は作成者と同じ 4 因子(下位尺度名:『悲観』『過去の 成績』『肯定的熟考』『努力』)となった。しかし就職 活動に関する尺度は作成者のものと異なる結果と なったため,就職活動プロセス初期活動尺度では『中 核的就職活動(就職サイトへの登録など)』と『周辺 的就職活動(自己分析など)』,情動焦点型行動的対処 尺度と情動焦点型認知的対処尺度では『課題接近的情 動対処(課題を前向きに捉えるなど)』『課題回避的情 動対処(課題と無関係な気晴らしなど)』と名づけ, それらを下位尺度とした。分析対象:荒木(2008)に 倣いクラスター分析を行ったが,解釈可能な結果は得 られなかった。そこでNorem(2001)の認知的方略の概 念を参考とし,『悲観』と『過去の成績』の因子得点 の平均値を基準とした高群,低群の組み合わせによっ て,DP者とSO者を抽出した。DP者の統制可能な長期的 課題への対処傾向:各認知的対処方略と学年を独立変 数,就職活動に関する各下位尺度を従属変数とした 2 要因の分散分析を行ったところ,『中核的就職活動』 において学年の有意な主効果(F( 1 ,118)=12.45,p <.01)がみられ,( 3 年生> 2 年生,p <.01),『課題 回避的情動対処』において認知的方略の有意な主効果 (F( 1 ,118)=18.93,p <.001)がみられた(DP者>SO 者,p <.001)。図 1 に示す。また『周辺的就職活動』 に て 有 意 な 交 互 作 用 効 果 が み ら れ た(F( 1 ,118) =4.50,p <.05)。そこで『周辺的就職活動』について 認知的方略と学年別にt 検定を行ったところ, 2 年生 のDP者-SO者間の得点差に有意傾向がみられた(DP者 >SO者,t =,1.96,df =52,p =.056)。図 2 に示す。『中 核的就職活動』の得点は認知的方略の違いに関係な く,学年が上がることによって増加した。これは就職 活動という課題が本格化することによって生じる当然日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-54 405 -の結果だといえる。一方『周辺的就職活動』について は,有意差こそなかったものの 2 年生においてDP者> SO者となる傾向にあった。ここからは,DP者は長期課 題の場合,SO者に比べてより早い段階から問題焦点的 な課題対処の取り組みを始めていることが推察され, 且つ,『周辺的就職活動』という課題対処の性質を具 体的な就職活動に移るための準備段階と捉えるなら ば,DP者は課題達成までの時期に応じた課題対処を用 いうる可能性が示唆された。次に『課題回避的情動対 処』の得点が学年に関わらずDP者>SO者となった。こ れをDP者がSO者に比べて問題焦点型対処をより早い段 階から始めていたことと併せて考察すると,DP者は特 性上,課題に対する不安感情を長期に亘り抱えている ことになる。その不安が過剰でも過少でも課題対処の パフォーマンスを下げる可能性があるため,『課題回 避的情動対処』を用いることで不安のレベルが適度に なるように,DP者は自分自身で調節しているのかもし れない。細越ら(2006)の研究では,統制不可能な課 題に対し,DP者は情動焦点型対処を上手く用いられな い脆弱性があると指摘している。しかし,今回の研究 で扱った課題は統制可能な要素を含む課題であり,課 題への対処法が具体的な場合,課題に対する不安のコ ントロールも明確になるため,DP者は情動焦点型対処 を積極的に用いうる可能性があると示唆された。注) 本研究は帝京大学研究倫理委員会にて承認(承認番号 280)を得ている。