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地中熱利用ヒートポンプを用いた冷却システムによる 肉豚の発育性や生理変化および暑熱ストレスへの影響

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Academic year: 2021

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2019 年 7 月 19 日受領 2019 年 12 月 18 日受理 Correspondence: satou.masamichi@pref.yamaguchi.lg.jp 〔研究資料〕

地中熱利用ヒートポンプを用いた冷却システムによる

肉豚の発育性や生理変化および暑熱ストレスへの影響

佐藤正道・廣中智希

・秋友一郎

山口県農林総合技術センター畜産技術部 *現鹿野ファーム

Cooling Ventilation Driven by a Geothermal Heat Pump Can Improve

Growth Performance and Physiological Characteristics in Growing-Finishing Pigs

Masamichi Sato, Tomoki Hironaka

and Ichiro Akitomo

Yamaguchi Prefectural Agriculture & Forestry General Technology Center, Livestock Reserch

Present address KANO farm limited company

Summary

In recent years, concerns have arisen that the productivity and profitability of livestock may be reduced owing to heat stress in summer due to the effects of global warming. Thus, we investigated the effects of cooling ventilation driven by a geothermal heat pump system (CVGHPS) on growth performance and physiological characteristics in growing-finishing pigs in hotter summers in Yamaguchi Prefecture. Pigs were housed with either CVGHPS cooling or natural ventilation (25-35 °C). In growing pigs, CVGHPS cooling significantly suppressed the increase of respiratory rate between the cooler morning (09:00) and the hotter daytime (14:00) relative to the control (P < 0.01). However, it had no significant effect on daily feed intake or average daily gain (ADG). As it did not affect the salivary content of cortisol, a stress hormone, it had no apparent effect on stress. In finishing pigs, CVGHPS cooling non-significantly increased ADG and average carcass weight but had no significant effect on feed intake or ADG. Therefore, CVGHPS in geothermal regions might improve ADG if total ventilation rate and wind speed are increased. These results suggest that CVGHPS in geothermal regions could be useful in raising growing-finishing pigs, although the optimum total ventilation rate and wind speed in the pig house need to be determined.

Ⅰ 緒   言  近年,地球温暖化等の影響により,特に夏期にお ける暑熱ストレスによる家畜の生産性や収益性の低 下が懸念されている.21 世紀の終わり(2081~2100 年)には 20 世紀(1981~2000 年)と比較して,本 県の平均気温は 0.98℃(気候モデル MRI,排出シナ リオ RCP2.6)~6.35℃(気候モデル GFDL,排出シ ナリオ RCP8.5)上昇すると予想されている(気候 変動適応情報プラットフォーム;http://www.a-plat.

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に冷却され,吹出口より豚房内へ送風される仕組み になっている(第 2 図).なお,ラジエーター内のクー ラントの冷却は井水循環を想定していたが,当部で は井水が出なかったため,代わりにヒートポンプを nies.go.jp/webgis/yamaguchi/index.html).豚の適温域 は 5℃~20℃ とされ,上臨界温度 27℃ を超えると 体温上昇や採食量の減少により生産性の著しい低下 が懸念される4), 6)ため対策が急がれる.また,日本 の畜産物の海外への輸出が拡大する中,日本の畜産 業の信頼性の確保や環境への配慮等がより一層求め られている.これらに対応するため,現在,農業生 産工程管理手法(GAP)の取組が進んでいる.一般 社団法人日本 GAP 協会作成「家畜・畜産物につい ての管理点と適合基準(2017)」によれば,経営の 基本として「アニマルウェルフェアの考え方に対応 した豚の飼養管理指針」2)に基づいた対応を農場認 証要件の一つとしており,可能な限り適温を維持す る等豚の熱環境への配慮が求められている.  このような状況の中,生産現場では家畜の暑熱ス トレスを軽減するとともに,収益性を向上させるた め,より効率的な暑熱対策を行う必要がある.  そこで,水資源や化石燃料に依存せず,地球上ど こでも利用できる自然エネルギーを活用した地中熱 ヒートポンプを用いた冷却システムによる暑熱対策 について調査を行い,肥育豚においてその効果を検 証したので報告する. Ⅱ 材料および方法 1 地中熱利用送風機の概要  地下数十m深での温度は一年中安定しており,夏 は地表より涼しく,冬は地表より暖かく,これらを 利用して効率よく冷暖房や給湯などに使うのが地中 熱ヒートポンプを用いた冷却システムであり8),農 業分野でもイチゴやトマトなどへの局所冷却・暖房 技術も検討されている.地中熱利用送風機(㈱ジオ パワーシステム,山口県美祢市)は,この地中熱と いう枯渇することなく,地球上どこでも得ることが 出来る安定した自然エネルギーを有効に活用し,効 率的な熱交換(冷却)を行うことが出来るものであ る.地下からの採熱システムとして,アルミ製パイ プ(以下ジオパイプ)を地中約 5 mの深さまで挿入 し,夏は冷気を取り出す.ジオパイプ内地下 5 m付 近の温度は,17℃付近で安定しており(第 1 図), 地中熱で一定温度に冷却された空気は,ジオパイプ を経由してラジエーターを通過することによりさら 15 20 25 30 35 40 0 :0 0 2 :0 0 4 :0 0 6 :0 0 8 :0 0 1 0 :0 0 1 2 :0 0 1 4 :0 0 1 6 :0 0 1 8 :0 0 2 0 :0 0 2 2 :0 0 0 :0 0 2 :0 0 4 :0 0 6 :0 0 8 :0 0 1 0 :0 0 1 2 :0 0 1 4 :0 0 1 6 :0 0 1 8 :0 0 2 0 :0 0 2 2 :0 0 0 :0 0 2 :0 0 4 :0 0 6 :0 0 8 :0 0 1 0 :0 0 1 2 :0 0 1 4 :0 0 1 6 :0 0 1 8 :0 0 2 0 :0 0 2 2 :0 0 2016/7/5 2016/7/6 2016/7/7 ℃ 時 外気温 地下3m 地下5m 第 1 図 ジオパイプ内の温度 【 横 面 】 【 上 面 】 第 2 図 地中熱利用送風機の概略図(調査 1)

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調査期間中毎日 9:00 と 14:00 に体温計(テルモ 電子体温計 C402)で計測し,調査日の 14:00 と 9: 00 の直腸温度差を求めた.呼吸数は調査期間中毎日 9:00 と 14:00 に豚 1 頭あたり 15 秒目視(肋の開帳) にて計測し,60 秒あたりの呼吸数に換算した.呼吸 数差は調査日の 14:00 から 9:00 の呼吸数を引い て求めた.ストレス調査として,唾液中コルチゾル を測定した.唾液中のコルチゾル濃度は Salimetric Oral Swab(フナコシ㈱)で唾液を採取し,測定は Salivary EIA Kit(Cortisol, EIA Kit, Expanded Range, High Sensitivity, Salivary, フ ナ コ シ ㈱ ) を 用 い, ELISA 法で行った. 3 調査 2 肥育後期豚を用いた調査 1)供試豚および調査区分  山口県農林総合技術センター畜産技術部で生産さ れた 127 日齢から 131 日齢の三元交雑豚(LWD:平 均体重 74.9 ± 3.8 kg)10 頭を用い,当部の自然換気 型豚舎(1 豚房面積 4 m× 2.5 m= 10 ㎡,軒高 2.3 m, セミモニタータイプ,床はコンクリート,敷料なし) にて,同一豚舎内に地中熱利用送風区および対照区 を設け,それぞれ 5 頭ずつに分けて(雌 2 頭,去勢 3 頭)調査を行った.  調査は調査 1 と同様,暑熱の影響を最も受ける梅 雨明け後に行うこととし,豚房への馴致期間を 6 日, 調査期間を 2018 年 8 月 1 日から 9 月 13 日午前まで の 44 日間として調査を実施した後,福岡食肉市場 株式会社(福岡市)へ出荷して枝肉成績を得た.水(自 由飲水)と配合飼料(TDN78%以上,DCP14%以上) 飼料は不断給餌とした.  調査区分について,地中熱送風区は調査 1 と同様 に地中熱利用送風機10)を用いた.なお,調査 2 で は吹出口を新たに 1 つ増設(合計 3ヶ所)して調査 を行った.対照区は工場扇による送風とした.また 地中熱利用送風区および対照区については,より送 風量を確保するとともに体感温度の低下や除湿効果 を期待し,調査開始から終了まで終日送風を行った. 2)調査項目  豚房内の温度,供試豚の体重および飼料摂取量は 調査 1 と同様の方法で行った.また枝肉成績として, 枝肉重量,枝肉歩留および背脂肪厚の成績を得た. 用い,井水循環を想定したラジエーター内クーラン トの冷却を行うこととした. 2 調査 1 肥育前期の豚を用いた調査 1)供試豚および調査区分  山口県農林総合技術センター畜産技術部で生産さ れた 77 日齢から 96 日齢の三元交雑豚(LWD:平均 体重 42.7 ± 10.7 kg)6 頭を用い,当部の自然換気型 豚舎(1 豚房面積 4 m× 2.5 m= 10 ㎡,軒高 2.3 m, セミモニタータイプ,床はコンクリート,敷料なし) にて,同一豚舎内に地中熱利用送風区および対照区 を設け,それぞれ 3 頭ずつに分けて(雌 2 頭,去勢 1 頭)調査を行った.  調査は暑熱の影響を最も受ける梅雨明け後から行 い,豚房への馴致期間を 2 日,調査期間を 2018 年 8 月 4 日から 31 日までの 28 日間として調査を実施し た.なお,水(自由飲水)と配合飼料(TDN77%以上, DCP15.5%以上)は不断給餌とした.調査区分につ いて,地中熱利用送風区は地中熱利用送風機10) 用い,豚房への吹出口は 2ヶ所とし,地中熱利用送 風区の調査期間中の送風は 9:00 から 17:00 まで とした.対照区は暑熱対策未実施とした. 2)調査方法 (1)地中熱利用送風機の冷却能力の測定  地中熱利用送風機の冷却能力について,地中に埋 設したジオパイプ内の温度を測定した.温度データ ロガー(サーモクロン G,KN ラボラトリーズ)を ジオパイプ内の地上から地下 3 mと 5 mのところに 設置して 2016 年 7 月 5 日~7 日に 60 分おきに温度 を測定した. (2)豚房内の温度  豚房内の温度は豚房中心付近から温度データロ ガーを天井より吊り下げて豚房床面から一定の高さ に設置し,60 分おきに計測した. (3)供試豚の発育および生理変化  供試豚の体重は試験開始時,開始から 1 週間毎, 試験終了時にそれぞれ計測した.日増体量は試験終 了時から試験開始時の体重を引き,調査日数で除し て計算した.飼料摂取量は給与量と残飼量を毎日計 測し,調査期間中の飼料摂取量の総量を供試豚頭数 と調査期間日数で除して計算した.飼料要求率は飼 料摂取量を日増体量で除して計算した.直腸温度は

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において対照区に比べ飼料摂取量が増え,有意差は 認められなかったが日増体量の平均値も数値的に大 きくなったことから,豚が地中熱利用送風機からの 送風効果を受けやすくすることで,より一層の効果 が期待できると思われる.直腸温度について,9: 00 時点と 14:00 時点では両区間に有意差は認めら れず,直腸温度差についても両区間で有意差は認め られなかった.呼吸数について,9:00 時点では両 区間で有意差は認められなかったが,14:00 時点で は対照区に比べ地中熱利用送風区で有意(P < 0.05) に少なくなり,呼吸数差は対照区に比べ地中熱利用 送風区で有意(P < 0.01)に小さくなった.対照区 は地中熱利用送風区に比べ呼吸数を増加させて放熱 を促し,体熱平衡を維持しようとしていると考えら れ,日中は暑熱の影響を受けていたものと推察され た.  唾液中ストレスマーカーとして唾液中コルチゾル の変化を第 3 表に示した.唾液中コルチゾル濃度は 調査開始前では両区間で有意差は認められなかっ た.終了直前では対照区に比べ地中熱利用送風区で 4 統計処理  統計ソフト「R」を用い,地中熱利用送風区およ び対照区間の調査項目の有意差検定については等分 散を確認できたものは t 検定,等分散を確認できな いものおよび枝肉格付成績は Welch の検定にて行っ た. Ⅲ 結果および考察 1 肥育前期における地中熱利用送風機の効果  調査期間中の飼料摂取量について第 3 図に示し た.調査期間 28 日のうち対照区に比べ地中熱利用 送風区で飼料摂取量の多かった日が 19 日間となり, 地中熱利用送風区では対照区に比べ多くの日で暑熱 による採食量の低下を抑制することができた.  豚房内の温度変化について第 1 表に示した.地中 熱利用送風区の豚房内の温度は,対照区と比べ平均 温度で 1.0℃,舎外に比べ 2.1℃低下したが,上臨界 温度 27℃6)を超える温度となった.これは,自然 換気型豚舎では吹出口から出た冷気は外気により拡 散されるが,温暖化の影響から,外気がより高温で あった日が多く,地中熱利用送風の効果が軽減され たためと考えられた.  発育成績および生理変化について第 2 表に示し た.終了時の体重は両区間で有意差は認められな かった.調査期間中の飼料摂取量は対照区に比べ地 中熱利用送風区で多く,日増体量は両区間で有意差 は認められなかったが,対照区より地中熱利用送風 区の方が数値的に大きくなった.地中熱利用送風区 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 2 01 7 /8/ 4 2 01 7 /8/ 5 2 01 7 /8/ 6 2 01 7 /8/ 7 2 01 7 /8/ 8 2 01 7 /8/ 9 2 01 7 /8 / 10 2 01 7 /8 / 11 2 01 7 /8 / 12 2 01 7 /8 / 13 2 01 7 /8 / 14 2 01 7 /8 / 15 2 01 7 /8 / 16 2 01 7 /8 / 17 2 01 7 /8 / 18 2 01 7 /8 / 19 2 01 7 /8 / 20 2 01 7 /8 / 21 2 01 7 /8 / 22 2 01 7 /8 / 23 2 01 7 /8 / 24 2 01 7 /8 / 25 2 01 7 /8 / 26 2 01 7 /8 / 27 2 01 7 /8 / 28 2 01 7 /8 / 29 2 01 7 /8 / 30 2 01 7 /8 / 31 飼 料 摂取 量 (kg ) 地中熱利用送風区 対照区 第 3 図 調査期間中の毎日の飼料摂取量(調査 1) 平均温度 (℃) 29.0 ± 1.9 30.0 ± 1.9 31.1 ± 2.7 最大温度 (℃) 33.9 34.9 37.5 最低温度 (℃) 23.8 25.0 24.2 対照区 舎外 送風区 地中熱利用 (参考) 第 1 表 調査期間中の豚房内温度(調査 1) 注 1)平均温度±標準偏差 注 2)豚床より 100cm 高の豚房中心付近の温度を測定 注 3)温度測定は 9:00~17:00 注 4)舎外温度は豚舎出入口屋根下付近の温度

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2 肥育後期における地中熱利用送風機の効果  調査期間中の飼料摂取量について第 4 図に示し た.調査期間を通じて対照区に比べ概ね地中熱利用 送風区の方が多かった.調査 2 では地中熱利用送風 区の送風吹出口を増やし,送風時間を長くしたこと により,試験豚に対して均等に送風効果が与えられ たことによるものと考えられた.  豚房内の温度変化について第 4 表に示した.対照 区に比べ地中熱利用送風区で調査期間中の豚房内の 平均温度は 0.3℃,最大温度は 0.5℃低下した.  調査期間中の肥育豚の体重の推移について第 5 図 に示した.調査開始から対照区に比べ地中熱利用送 風区で常に重く推移しており,特に 8 月下旬から調 査終了までの間は,その傾向がより顕著であった. 8 月下旬の外気温は平年値を下回る日が多く,送風 効果が得やすい気候となり,飼料摂取量が増加し体 重増加に繋がったと考えられた.  発育成績および枝肉成績について第 5 表に示し た.終了時の体重は両区間で有意差は認められな かった.調査期間中の飼料摂取量は対照区に比べ地 中熱利用送風区で多かったが,日増体量は両区間で 有意差は認められなかった.飼料要求率は両区とも ほぼ同等であった.105 kg 到達日齢(推定)は両区 低い傾向であったが,両区とも開始前より増加し, その増加割合(開始前/終了直前)は両区間で有意 差は認められず,地中熱利用送風による暑熱ストレ スの低減効果は確認出来なかった.唾液中のストレ スマーカーの測定は,密飼いなどの慢性的に負荷さ れるストレスの評価には適していない可能性が考え られている1).今回の試験では唾液中コルチゾル濃 度には個体差が見られ,特に対照区のうち 1 頭と他 の 2 頭で大きな差が見られたことから,正確な評価 には測定頻度や供試頭数を増やす必要がある.暑熱 ストレスの評価としては,体温や呼吸数の変化とあ わせ,採食量を反映する血液中の総コレステロール (T-cho)等の血液生化学検査により,採食量の変化 による栄養状態を把握し,総合的に判断することが 必要と考える. 開始時日齢 (日) 89.0 ± 10.4 89.0 ± 10.4 1.00 開始時体重 (kg) 42.0 ± 11.9 42.2 ± 12.1 0.99 終了時日齢 (日) 116.0 ± 10.4 116.0 ± 10.4 1.00 終了時体重 (kg) 67.3 ± 11.7 65.2 ± 16.0 0.86 日増体量 (kg) 0.94 ± 0.01 0.85 ± 0.14 0.41 飼料摂取量注2) (kg) 2.24 1.99 飼料要求率 2.38 2.33 直腸温度 (℃) 9:00 39.4 ± 0.3 39.6 ± 0.5 0.16 (℃) 14:00 39.6 ± 0.3 39.7 ± 0.5 0.28 直腸温度差注3) (℃) 0.15 ± 0.23 0.13 ± 0.25 0.81 呼吸数 (回/min) 9:00 49.1 ± 14.4 58.6 ± 17.5 0.10 (回/min) 14:00 48.6 ± 18.8 * 75.8 ± 28.5 * 0.01 呼吸数差注3) (回/min) -0.6 ± 13.7 ** 17.1 ± 20.5 ** <0.01 対照区 項 目 地中熱利用 送風区 P値 第 2 表 肉豚の発育成績及び生理変化(調査 1) 注 1)平均値±標準偏差(n = 3) 注 2)調査期間中の飼料摂取量 注 3)直腸温度差,呼吸数差は 14:00 と 9:00 の差 注 4)有意な区間差あり:*P < 0.05,**P < 0.01 P値 開始前(A) (ng/ml) 1.43 ± 0.11 1.79 ± 0.54 0.31 終了直前(B) (ng/ml) 1.60 ± 0.07 2.14 ± 0.27 0.06 B/A (%) 112.2 ± 4.6 128.8 ± 45.4 0.59 唾液中コルチゾル 地中熱利用 送風区 対照区 第 3 表 肉豚の唾液中コルチゾルの変化(調査 1) 注)平均値±標準偏差(n = 3)

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いて第 6 表に示した.吉本9)は,風が吹き出る穴の 位置は豚の頭上から 45 cm 程度とし,風速は 8~10 m/s が適当であり,養豚場の夏場対策として送風ダ クトの位置が高すぎたり,風力が弱すぎるとその効 果は期待できず,実際の調査でも皮膚温が低くなり 呼吸数も少なくなったが,直腸温にまで影響せず, 多少過ごしやすくなったであろうが体温を下げるほ どの影響は無かったと報告している.今回,調査 1 では換気量としては必要量を満たしているものの同 様の結果となったため,吹出口の直径,吹出口の設 置場所や吹出口数等の検討が必要であると考えられ た.調査 2 では必要換気量を下回っており,調査 1 同様に多少過ごしやすかったと思われるが,暑熱対 策としては十分ではなく,必要に応じてファンの増 設や 1 房あたりの飼養頭数を制限し,1 頭あたりの 換気量を確保する必要がある.また,今回の調査で は直径 150 mm のダクトを使用したが,風速が 3.5 ~5.0 m/s とやや遅く,直径を絞るなど風速を速める 必要がある. 間で有意差は認められなかったが,数値的には対照 区に比べ地中熱利用送風区で 2.5 日早くなった.枝 肉成績のうち枝肉重量は数値的には対照区に比べ地 中熱利用送風区で多かったが,有意差は認められず, 格付成績,枝肉歩留および背脂肪厚についても両区 間で有意差は認められなかった.  今回の調査時の地中熱利用送風区の送風条件につ 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 2 018 /8/ 1 2 018 /8/ 2 2 018 /8/ 3 2 018 /8/ 4 2 018 /8/ 5 2 018 /8/ 6 2 018 /8/ 7 2 018 /8/ 8 2 018 /8/ 9 2 018 /8/ 10 2 018 /8/ 11 2 018 /8/ 12 2 018 /8/ 13 2 018 /8/ 14 2 018 /8/ 15 2 018 /8/ 16 2 018 /8/ 17 2 018 /8/ 18 2 018 /8/ 19 2 018 /8/ 20 2 018 /8/ 21 2 018 /8/ 22 2 018 /8/ 23 2 018 /8/ 24 2 018 /8/ 25 2 018 /8/ 26 2 018 /8/ 27 2 018 /8/ 28 2 018 /8/ 29 2 018 /8/ 30 2 018 /8/ 31 2 018 /9/ 1 2 018 /9/ 2 2 018 /9/ 3 2 018 /9/ 4 2 018 /9/ 5 2 018 /9/ 6 2 018 /9/ 7 2 018 /9/ 8 2 018 /9/ 9 2 018 /9/ 10 2 018 /9/ 11 2 018 /9/ 12 飼 料 摂取 量 (kg ) 地中熱利用送風区 対照区 第 4 図 調査期間中の毎日の飼料摂取量(調査 2) 平均温度 (℃) 27.4 ±3.0 21.3 ±1.9 27.7 ±3.2 27.3 ±3.9 最大温度 (℃) 34.5 26.0 35.0 37.5 最低温度 (℃) 20.0 16.0 20.5 18.5 地中熱利用送風区 対照区 舎外 豚房内 吹出口 豚房内 (参考) 第 4 表 調査期間中の豚房内温度(調査 2) 注 1)平均温度±標準偏差 注 2)豚床より 90cm 高の豚房中心付近の温度を測定 注 3)吹出口は一部データ欠損のため 8/27AM9:00 からの値 注 4)温度測定は終日実施 注 5)舎外温度は豚舎出入口屋根下付近の温度 70.0 80.0 90.0 100.0 110.0 120.0 8/ 1 8/ 3 8/ 5 8/ 7 8/ 9 8/ 11 8/ 13 8/ 15 8/ 17 8/ 19 8/ 21 8/ 23 8/ 25 8/ 27 8/ 29 8/ 31 9/2 9/4 9/6 9/8 9/ 10 9/ 12 体 重 (k g ) 地中熱利用送風区 対照区 第 5 図 試験豚の体重の推移(調査 2)

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一連の肥育期間を 49 日間とすると,地中熱利用送 風区では肥育期間が 2.5 日短縮できるので 46.5 日間 となる.地中熱利用送風機による送風効果が得られ る期間を 7 月から 9 月末までの 3 か月間(92 日間) と仮定すると,この間の肥育豚出荷の回転数は,地 中熱利用送風区で 92 日÷ 46.5 日/1 回転≒ 1.98 回 転,対照区で 92 日÷ 49 日/1 回転≒ 1.88 回転となる. 1 回転あたり 100 頭出荷と仮定すると,暑熱期間で は 100 頭×(1.98 - 1.88)= 10 頭となり,地中熱 利用送風区の方が対照区に比べ 10 頭多く出荷する ことが出来る.これに肥育豚 1 頭あたりの所得5) (11,062 円:肥育豚生産費,飼養頭数規模別 1~100 頭未満)を乗ずると 110,620 円となり,この分所得 が増え,これを地中熱利用送風機設置費用にあてる と,約 23 年で償還できる見込みとなる.さらに, 地中熱利用送風機については今回調査していない が,暑熱対策のみならず地中熱を利用した防寒対策 にも使用することができ,その効果を踏まえ長期的 な視点から考えると,夏期に送風機のみを複数台設 置するよりもより効果的であると考える.  以上から,地中熱利用送風機の暑熱対策利用につ いて,唾液中コルチゾル濃度の低減効果は確認出来 なかったが,豚房内温度の低減,呼吸数の増加防止 や肥育後期での増体性の向上傾向が確認でき,初期 3 経費の試算  肥育後期の豚 100 頭(10 頭 / 房)への送風を想定し, 地中熱利用送風機の必要経費等について第 7 表に示 した.地中熱利用送風機設置に必要な費用は合計で 約 254 万円(ファン 1 台,ジオパイプ 4 本,吹出口 10ヶ所等),暑熱期間中のランニングコスト(電気代) は 13,686 円となる.消費電力 150 W の工場扇 10 台 設置した場合,電気代は 42,768 円(電気代 27 円/ kWh:中国電力従量電灯 A,稼働日数 44 日)となり, 地中熱利用送風の方が 29,082 円安く抑えることがで きる.  また,第 5 表より対照区の豚の肥育期間を 42 日間, 出荷後の豚舎の消毒と自然乾燥に 7 日かかるとして 開始時日齢 (日) 129.4 ± 2.2 129.4 ± 2.2 1.00 開始時体重 (kg) 74.9 ± 3.1 74.9 ± 4.8 0.98 終了時日齢 (日) 171.4 ± 2.2 171.4 ± 2.2 1.00 終了時体重注2) (kg) 117.2 ± 5.0 113.7 ± 4.1 0.25 日増体量 (kg) 1.01 ± 0.12 0.92 ± 0.08 0.25 飼料摂取量注3) (kg) 3.52 3.21 飼料要求率 3.49 3.47 105kg到達日齢注4)(日) 159.5 ± 4.2 162.0 ± 4.6 0.87 枝肉重量 (kg) 79.2 ± 3.5 76.7 ± 3.3 0.28 格付成績注5) 2.0 ± 1.0 1.8 ± 1.1 0.77 枝肉歩留注6) (%) 67.5 ± 1.6 67.4 ± 0.8 0.91 背脂肪厚 (cm) 2.5 ± 0.8 2.4 ± 0.8 0.80 値 P 区 照 対 目 項 地中熱利用 送風区 第 5 表 肉豚の発育成績および枝肉成績(調査 2) 注 1)平均値±標準偏差(n = 5) 注 2)出荷日の前日を終了時として体重測定を実施 注 3)調査期間中の飼料摂取量 注 4)日増体量から推定 注 5)枝肉格付成績の「上」「中」「並」をそれぞれ 1,2,3 とした 注 6)枝肉歩留=枝肉重量/終了時体重× 100 調査1 調査2 肥育前期 肥育後期 供試頭数 (頭) 3 5 吹出口風量 (㎥/h) 650 650 吹出口数 (口/房) 2 3 吹出口直径 (mm) 150 150 風速 (m/s) 5.0 3.5 送風量 (㎥/分・頭) 3.61 2.17 夏期推奨値3)注) (㎥/分・頭) 2.12 3.40 項 目 第 6 表 地中熱利用送風区の送風条件 注)1cfm/unit を 1.699㎥ /h に換算して記載

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摂取量や日増体量に有意な差を及ぼさなかったが, 温度上昇による呼吸数の増加が有意に抑えられた. 唾液中コルチゾル濃度は,調査前後での変化量に有 意な差は認められず,両区とも開始前よりも増えて おり,暑熱ストレスの低減効果は確認出来なかった. 肥育後期の豚において,有意な差は認められなかっ たが,日増体量や枝肉重量が数値的に増加しており, 必要換気量や風速等の確保が必要であるが,暑熱対 策として地中熱利用送風の有用性が示唆された. 投資が必要となるものの,送風条件等を検討するこ とにより,化石燃料に頼らない自然エネルギーを活 用した暑熱対策として効果が期待できると考えられ た. Ⅳ 摘   要  地中熱利用送風機を用いて暑熱対策の効果の検証 を行い,肉豚の発育性や生理変化および暑熱ストレ スへの影響について調査した.  地中熱利用送風機は,肥育前期の豚において飼料 必要セット数注2) 1 10房分 飼養頭数 (頭/房) 10 吹出口送風量 (㎥/hr) 1,500 1,500㎥/h×1set  所 か 1 き つ に 房 1 0 1 数 口 出 吹 吹出風速   (m/s) 5.0~5.5 直径100mm 送風量 (㎥/分・頭) 2.50 消費電力 (W)   480 稼働時間   (h) 24 電気量 (kWh/日) 11.52 稼働日数注4) (日) 44 電気代注3) (円/日) 311.04 期間中電気代 (円) 13,686 ダクト,配管注5) (円) 400,000 直径250mm,約60m~70m ファン (円) 83,750 1,500㎥/h(480W)×1set 熱交換器 (円) 315,000 ヒートポンプ注6) (円) 362,500 5kW~7kW×1set ジオパイプ (円) 508,000 直径250mm×5m×4本 ジオパイプ埋設工事 (円) 160,000 水中ポンプ (円) 140,800 5m汲み上げ×4台 機械設置工事注7) (円) 153,000 工賃 電気工事 (円) 101,000 材料+工賃 試運転調整費 (円) 17,000 諸経費 (円) 294,000 合 計注8) 2,535,050 (税別) 【ランニングコスト】 【設置費用等】 備 考 【前提条件】 項 目 第 7 表 経費等の試算 注 1)肥育後期 100 頭(10 頭 / 房)への送風を想定 注 2)1set =ジオパイプ 1 本+ファン 1 台 注 3)1kWh = 27 円で計算 注 4)稼働日数は調査 2 と同等とした 注 5)配管施工費は別途必要 注 6)井水が利用できれば設置は必要なし 注 7)ファン,ラジエーター,給排水の設置費用 注 8)期間中の電気代+設置費用等の合計 注 9)運搬費,交通費,井水配管費等は別途必要

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8, 34, Midwest Plan Service, 1983 4) 野中最子・小林洋介・樋口浩二・永西 修,地 球温暖化が日本における家畜の生産性に及ぼす 影響評価の現状と課題,地球環境,14,215-222,2009 5) 農林水産省,農業経営統計調査,平成 29 年畜 産物生産費,2017 6) 阪谷美樹,暑熱ストレスが産業動物の生産性に 与える影響,産業動物臨床医誌,5,238-246, 2015 7) 曽根 勝,繁殖豚に対する暑熱の影響とその対 策,日豚会誌,32,136-139,1995 8) 安 川 香 澄 ら, 地 質 ニ ュ ー ス,611 号,10-20, 2005 9) 吉本 正,養豚場の夏場対策,日豚会誌,32, 128-135,1995 10) 特許第 5771319 号,自然力を利用した冷温風供 給装置 Ⅴ 謝   辞  本調査において,株式会社ジオパワーシステム(山 口県美祢市)に地中熱利用送風機の設置と助言を頂 いた.ここに深甚なる謝意を表する. 引 用 文 献 1) 藤田慶一郎・菊 佳男・高橋孝志・野口宗彦・ 溝呂木聖子・矢ケ部陽子・宗田吉広,密飼いが 肥育豚の増体や免疫機能及び唾液中ストレス マーカー濃度に与える影響,日獣会誌,68, 43-47,2015 2) アニマルウェルフェアの考え方に対応した豚の 飼養管理指針,公益社団法人畜産技術協会, 12-13,2019

参照

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