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滋賀県における水稲の高温登熟性基準品種の選定

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緒  言

 滋賀県では,1999 年以降,早生品種を中心に登熟期間 の高温が原因と見られる米の外観品質の低下が続いてお り,高温登熟性に優れ高温年でも品質が低下しにくい早生 品種を育成することが急務となっている.また,2010 年 と 2011 年には,これまで比較的品質が安定していた中生・ 晩生品種においても品質低下が発生しており,今後は中生・ 晩生品種にも優れた高温登熟性を付与することが必要と なってくると考えられる.  高温登熟性に優れる品種を効率的に育成するためには, 高温登熟性を正確に検定できることが前提となる.滋賀県 農業技術振興センターでは,2009 年 2 月に水田圃場に高 温登熟性検定ハウス(以下,検定ハウス)を設置し,2009 年度からそれを利用した育成系統の高温登熟性検定を開始 した.  高温登熟性の検定については,温水かけ流し(重山ら 1999,坪根ら 2008),ビニルハウス(小牧ら 2002,表野ら 2004),ガラス温室(飯田ら 2002,福井ら 2004,神田・須 藤 2005),世促温室(山川・神田 2003),人工気象室(表 野ら 2003,表野ら 2004,神田・須藤 2005)などを利用す る方法などさまざまある.しかし,これらの多くは北陸あ るいは九州での事例であり,近畿で高温登熟性を評価した 報告はなく,水田圃場に常設したハウスで高温登熟性を評 価した例もない.  そこで,本調査では,2009 ∼ 2011 年にかけて,検定ハ ウスにおいて,高温登熟性の異なる品種・系統および本県 奨励品種計 25 品種・系統を栽培し,玄米の整粒歩合およ び白未熟粒の発生率を調査した.その結果を既存の知見と 比較し,滋賀県において高温登熟性を検定するための基準 品種の選定を行った.

材料および方法

 試験は 2009 年∼2011年に,滋賀県農業技術振興センター (滋賀県近江八幡市安土町大中)の検定ハウスを利用して 実施した.検定ハウスは面積が 3.2 a で,短辺 8 m,長辺 40 m,軒高 3.0 m,棟高 4.96 m で通常の水田と同様な機械 作業ができるように水田圃場内に設置されている.検定ハ ウスが設置されている水田圃場は,短辺 10 m,長辺 80 m であり,検定ハウス内および外に水稲を作付することがで きる.検定ハウス内の温度は天窓および長辺方向の両サイ ドに上下 2 段ある側窓の開閉で管理する.  第 1 表に供試品種を示す.飯田ら(2002),山川・神田 (2003),星ら(2004),石崎(2006),若松ら(2007),和田 ら(2010),永吉ら(2011)の報告により高温登熟性が異な ると考えられる品種・系統および本県奨励品種計 25 品種・ 系統を供試した.このうち,「金南風」は 2009 年および 2010 年のみ,「元気つくし」および「おてんとそだち」は 2011 年のみ供試した.これらの品種・系統は 5 月上旬に 播種し,5 月 31 日頃に検定ハウス内および検定ハウス外 へ移植した.栽植密度は 30 cm × 15 cm(22.2 株/m2),1 株 3 本植えとした.各品種・系統は 1 条植えで 7 株以上を植 え付けた.年次および品種・系統によって異なるが,検定 ハウス内・外それぞれに 2 ∼ 6 反復を供試した.各反復の 中では,熟期区分ごとに品種・系統を配置した.施肥は 10 a 当たり窒素成分で 7 kg をハイ LP コート 024(速効性 窒素を 20%,シグモイド型 100 日タイプの被覆尿素を 40%,リニア型 140 日タイプの被覆尿素を 40%の割合で 配合)で全量基肥として施用した.  温度管理は移植後,2009 年は 7 月 14 日,2010 年は 7 月 22 日,2011 年は 7 月 16 日までは,天窓および側窓を全開

滋賀県における水稲の高温登熟性基準品種の選定

中川淳也・森 茂之

滋賀県農業技術振興センター(〒 521 − 1301 滋賀県近江八幡市安土町大中 516) 要旨:滋賀県農業技術振興センター水田圃場に設置した高温登熟性検定ハウス内で,2009 年から 2011 年に 高温登熟性の異なる品種・系統および本県奨励品種計 25 品種・系統を栽培し,玄米の整粒歩合および白未 熟粒の発生率の調査結果から,高温登熟性を検定するための基準品種の選定を行った.極早生および早生で は,品種の高温登熟性の順位関係は年次にかかわらずほぼ同じであった.そこで,極早生では「ふさおとめ」 を“強”,「てんたかく」,「ハナエチゼン」および「越路早生」を“やや強”,早生では「越南 222 号」,「こ しいぶき」および「レーク 65」を“やや強”の基準品種とし,高温登熟性に優れる系統の選抜指標とした. 中生∼晩生については,新たな品種・系統の供試も含め,基準品種の選定に向けて引き続き検討が必要と考 えられた. キーワード:玄米品質,高温登熟性,水稲,基準品種,品種間差異 2012 年 4 月 30 日受理 連絡責任者:中川淳也(nakagawa-junya@pref.shiga.lg.jp)

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24 とした.以後は天窓と上段の側窓は常に全閉とし,下段の 側窓のみ検定ハウス内の気温が 32℃で開閉するように調 節し,高温処理を行った.  各品種・系統の籾黄化率が 85 ∼ 90%となった時を成熟 期とし,条の中央 3 株を収穫した.風乾後,脱穀,籾摺り した粗玄米について,重量,整粒歩合および白未熟粒歩合 を測定した.その後,篩にかけ,粒厚 1.8 mm 以上の玄米 を精玄米とし,精玄米の重量,整粒歩合および白未熟粒歩 合を測定した.整粒歩合および白未熟粒歩合は,穀粒判別 器(RGQI10B,サタケ)にて測定し,整粒粒比を整粒歩合, 乳白粒,基部未熟粒,腹白未熟粒,青死米および死米の割 合の合計を白未熟粒歩合とした.  気象条件については,検定ハウス内外の気温は,Thermo Recorder(おんどとり TR−71U,ティアンドデイ)を穂の 高さ付近に設置し栽培期間中測定した.また,日照時間は 農業技術振興センター内の気象観測装置の測定結果を用い た.

結果および考察

気象条件  第 1 図に各年の栽培期間の検定ハウス内外の日平均気温 の推移を示す.いずれの年も高温処理を開始するまでは, 検定ハウス内外で気温の差はなかった.高温処理開始から 最後の品種を収穫するまでの期間の日平均気温は,検定ハ ウス内が 2009 年で 1.8 ℃,2010 年で 1.5 ℃,2011 年で 2.0 ℃ 高くなった.第 1 表に各品種・系統の出穂期,第 2 表に出 穂後 20 日間の平均気温および平均日照時間を示す.出穂 後 20 日間の平均気温が 27 ℃以上となると白未熟粒の発生 が増加し玄米の外観品質が低下するとされる(若松ら 2007,坪根ら 2008,森田 2009).2009 年は検定ハウス内 の極早生および早生では 27 ℃以上となったが,検定ハウ ス内の中生以降および検定ハウス外は 27 ℃以下にとどま り,滋賀県の水稲の登熟期間としては比較的低温年であっ た.2010 年は,検定ハウス内・外を問わずすべての品種・ 系統が 28 ℃以上の高温に遭遇することとなり,特に検定 ハウス内の中生∼晩生(「にこまる」を除く)では 30 ℃以 上の高温条件となった.また,日照時間は多く,高温多照 年であったといえる.2011 年は,2010 年ほどではないが 比較的高温となり,検定ハウス内ではすべての品種・系統 で 27 ℃以上となり,極早生および早生では検定ハウス外 でも 27 ℃以上となった.また,8 月中旬および 9 月上旬 が寡照となったため,中生∼晩生の出穂後 20 日間の平均 日照時間は少なくなった. 検定ハウス内・外の生育   中生および晩生では高温処理開始から出穂期まで 20 日 以上あったが,高温によって検定ハウス内で出穂が早まる ことはなかった。また,出穂前の遮光によって出穂が遅く なる(中野 2000,小谷ら 2006)との報告もあるが,本試 験では出穂遅延は見られなかった。いずれの品種・系統と 第 1 表 供試品種・系統の出穂期

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第 1 図 検定ハウス内・外の日平均気温の推移. 第 2 表 供試品種・系統の出穂後 20 日間の平均気温と平均日照時間

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26 も検定ハウス内・外で出穂期に大きな違はなかった.  検定ハウス内は生育期間を通して遮光率約 30%の条件 であった.遮光条件下では分げつの発生が抑制される(清 水ら 1962,玉置・山本 1997,中野 2000).本試験では茎 数および穂数調査を実施していないため具体的なデータは ないが,目視の観察で,生育期間を通じて検定ハウス内で は検定ハウス外と比べて茎数は少なく推移し,最終的な穂 数も少なくなった.このため,m2あたりの籾数が少なくなっ たと考えられ,検定ハウス内では検定ハウス外と比べて収 量が約 30%減少した(データ略).また,検定ハウス内で は検定ハウス外と比べて葉色は濃く推移した. 玄米の整粒歩合と白未熟粒率  第 3 表に各品種・系統の整粒歩合を,第 4 表に白未熟粒 率を示す.極早生および早生では,すべての年次,品種・ 系統で整粒歩合は検定ハウス内が検定ハウス外より低く、 白未熟粒率は検定ハウス内が検定ハウス外より高くなっ た.検定ハウス内の整粒歩合が高い品種・系統は検定ハウ ス外の整粒歩合も高い傾向が見られ,品種の順位関係は若 干の変動があるものの 3 カ年を通じてほぼ同様の傾向を示 した。また,白未熟粒率も,2009 年を除いて 2010 年およ び 2011 年は検定ハウス内の白未熟粒率が低い品種・系統 は検定ハウス外の白未熟粒率も低い傾向が見られ,品種の 順位関係は若干の変動はあるものの 2 ヶ年ともほぼ同様の 傾向を示した.整粒歩合および白未熟粒率について検定ハ ウス内と検定ハウス外で品種の順位関係が同様の傾向を示 したのは,極早生および早生では検定ハウス外についても, 登熟期間の高温の影響を受けたためと考えられる.また, 整粒歩合の順位関係と白未熟粒率の順位関係はほぼ同じで あり,整粒歩合の高い品種・系統は白未熟粒率が低い傾向 が見られた.  整粒歩合および白未熟粒率の品種間差異は検定ハウス内 でより明瞭になった.極早生で整粒歩合の高い「ふさおと め」と低い「トドロキワセ」の整粒歩合の差は,3 カ年の 平均で検定ハウス外では 10.6 であったのに対し,検定ハ ウス内では 44.0 であり,早生でも同様に検定ハウス内で 差が大きくなった.極早生で白未熟粒率の低い「ふさおと め」と「トドロキワセ」の差は,2010 年および 2011 年の 平均で,検定ハウス外では 6.4 であったのに対し,検定ハ ウス内では 49.6 であり,早生でも同様に検定ハウス内で 差が大きくなった.検定ハウス内で品種間差異が大きく なったのは,検定ハウス外に比べて高温であったことと遮 光されたことが原因と考えられるが,高温と遮光がそれぞ れどの程度寄与したのかは不明である.遮光の影響にかか わらず検定ハウス内・外で品種の順位関係がほぼ同じで あったことから,極早生および早生では品種間差異がより 明瞭となる検定ハウス内の整粒歩合および白未熟粒率で高 温登熟性の強弱を判定するのが良いと考えられた.  中生および晩生でも,一部の例外を除いて整粒歩合は検 第3表 供試品種・系統の整粒歩合

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定ハウス内で検定ハウス外より低く、白未熟粒率は検定ハ ウス内で検定ハウス外より高くなった.また,整粒歩合の 高い品種は白未熟粒率が低い傾向が見られた.しかし,整 粒歩合の高さと白未熟粒率の低さについて品種の順位関係 は年次によって変動した.2009 年は出穂後 20 日間の平均 気温が検定ハウス内でも 27 ℃以下となっており,高温登 熟性の検定ができなかったと考えられる,2010 年は非常 に高温で多照,2011 年は高温で寡照と条件が異なった.背・ 基白は出穂後 20 日間の平均気温が 27 ∼ 28 ℃以上で多発 し(若松ら 2007),乳白粒は登熟期間が高温かつ寡照とな ると多発する(高田ら 2008).そこで,2010 年は背・基白 粒の発生程度,2011 年は乳白粒の発生程度が整粒歩合お よび白未熟粒率を左右したと考えられる.実際に 2011 年 は中生および晩生では検定ハウス外のサンプルについても 乳白粒が目立った.このため,高温と低日射に対する反応 の違いが品種の順位関係の年次変動につながったと考えら れる.ただし,順位関係が変動したとしても今回供試した 品種の多くは後述するように高温登熟性が弱いと考えられ ること,滋賀県において通常の気象年では中生および晩生 は検定ハウス外では高温条件とならないことから,極早生 および早生と同様に検定ハウス内の整粒歩合および白未熟 粒率で高温登熟性を検定することとした(以降,特に記述 がない場合,「整粒歩合」および「白未熟粒率」は検定ハ ウス内の「整粒歩合」および「白未熟粒率」を示す). 高温登熟性の判定  極早生では,「ふさおとめ」はいずれの年も整粒歩合が 最も高く,白未熟粒率が低かった.そこで「ふさおとめ」 を“強”と判定した.「ふさおとめ」は,多くの試験地で“強” と判定されており(山川・神田 2003,石崎 2006,若松ら 2007,高田ら 2010),本試験も同様の結果であった.  「てんたかく」は,篩後の整粒歩合および白未熟粒率に ついて「ふさおとめ」に次いで優れていた.しかし,「て んたかく」は篩前の整粒歩合では「ハナエチゼン」および 「越路早生」と同等からやや劣り,白未熟粒率では「ハナ エチゼン」および「越路早生」より優れたがこれらの品種 との差は小さくなった(データ略).第 4 表に屑米重歩合 を示すが,「てんたかく」は高温年となった 2010 年および 2011 年には屑米重歩合が高くなり,特に検定ハウス内の 屑米重歩合は約 24%と他の極早生品種より高くなった.森 田(2009)は登熟期間の高温によって粒厚の減少を伴って 玄米 1 粒重が低下するとしている.「てんたかく」は高温 の影響を受けて整粒歩合が低下したにもかかわらず,増加 した不完全粒が粒厚の減少によって屑米となったため,み かけの整粒歩合が高く保たれたと考えられる.屑米の増加 は収量減につながり,農家収入が減少する.今回供試した 品種・系統には「てんたかく」のように屑米重歩合が高く, かつ整粒歩合が高い品種・系統は他になかったが,本県の 育成中の系統には散見された.このことから屑米重歩合も 第4表 供試品種・系統の白未熟粒率

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28 考慮して高温登熟性の判定を行うことが必要と考えられ た.そこで,本試験では「てんたかく」を「ふさおとめ」 より 1 ランク下の“やや強”と判定した.  「ハナエチゼン」,「越路早生」および「あきたこまち」 について,飯田ら(2002)によると「越路早生」は“強”, 「あきたこまち」は“中”,中央農業研究センター北陸地域 基盤研究部稲育種研究室(2004)によると,「ハナエチゼン」 は“強”,「あきたこまち」は“中”としている.本試験で は 2009 年の「あきたこまち」が「ハナエチゼン」および「越 路早生」より順位が高くなったが,2010 年および 2011 年 は「ハナエチゼン」および「越路早生」が「あきたこまち」 より優れていた.このことから本試験では「ハナエチゼン」 および「越路早生」を“やや強”,「あきたこまち」を“中” と判定した.山川・神田(2003)は「アキヒカリ」を“中” と評価しているが,本試験では「あきたこまち」と整粒歩 合および白未熟粒率で有意差はつかないものの,3 カ年を 通じて劣ることから「アキヒカリ」を“やや弱”と判定し た.「トドロキワセ」は「アキヒカリ」より有意に整粒歩 合および白未熟粒率が劣ったことから,“弱”と判定した. ただし,検定ハウス外の整粒歩合および白未熟粒率は 3 カ 年とも「アキヒカリ」が「トドロキワセ」と同等∼劣った ことから,「トドロキワセ」は「アキヒカリ」より遮光に 弱く低日射の影響を受けやすいといえる.  早生では,整粒歩合では「越南 222 号」が,白未熟粒率 では「レーク 65」が最も優れたが,「こしいぶき」を含め て 3 品種・系統はほぼ同等と考えられた.熟期が遅くなる ほど気温が下がっていった 2009 年を除くと,2010 年およ び 2011 年は極早生と早生とで気象的にはほぼ同じ条件で あったが,これら 3 品種・系統は極早生の“やや強”品種 である「ハナエチゼン」および「越路早生」よりやや劣る. 生育期間が異なるため単純に極早生と比較できないが,こ れら 3 品種・系統に“強”の判定を下すことは難しい.「こ しいぶき」は高温登熟性検定を行い育成した品種で高温年 でも 1 等米比率が高いこと(星ら 2004),「レーク 65」も 高温年でも白未熟粒の発生が少ないこと(中川ら 2005)か ら,「越南 222 号」,「こしいぶき」および「レーク 65」を“や や強”と判定した.  「ひとめぼれ」は,2009 年および 2011 年は“やや強”で ある「越南 222 号」,「こしいぶき」および「レーク 65」と 同程度の高温登熟性を示したが,2010 年はこれらの品種・ 系統より劣り「コシヒカリ」と同程度であった.「コシヒ カリ」は「越南 222 号」,「こしいぶき」および「レーク 65」より明らかに 1 ランク下の高温登熟性であったことか ら,「ひとめぼれ」をやや強に近い“中”,「コシヒカリ」 を“中”と判定した.「ひとめぼれ」は,飯田ら(2002)で は“やや弱”,石崎(2006),若松ら(2007)では“中”,山川・ 神田(2003)では“やや強”と評価が分かれているが,こ れは試験地により栽培条件や高温登熟性の評価方法が異な るためと考えられる.「コシヒカリ」より高温登熟性の劣 る「キヌヒカリ」および「初星」をそれぞれ“やや弱”お 第5表 供試品種・系統の屑米重歩合

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よび“弱”と判定した.  中生では,「黄金晴」は背・基白粒をもとに判定すると“や や弱”と評価される(若松ら 2007).これをもとに 2010 年の結果を見ると,供試した中生品種はすべて“やや弱” より弱いと考えられる.2011 年の結果では,「元気つくし」 を除くと「秋の詩」は整粒歩合が高く白未熟粒率も低い. しかし,滋賀県内で栽培されている「秋の詩」の 2011 年 の 1 等米比率は 55.5%(平成 23 年 12 月 31 日現在)であり, 2010 年の 9.0%よりは高いものの 2011 年も品質が低下し ている.このことから 2011 年の「秋の詩」が示した整粒 歩合および白未熟粒率では高温登熟性が不十分であり,「元 気つくし」以外の品種は乳白粒に関しても高温に強いとは 言い難いと考えられた.「元気つくし」は温水かけ流しに よる高温登熟性検定によって育成された高温登熟性に優れ る品種である(和田ら 2010).本試験でも整粒歩合が高く 白未熟粒率も低く,屑米重歩合も低いことから高温登熟性 の“強”あるいは“やや強”の基準品種として利用可能と 考えられるが,単年度の結果であり引き続き検討が必要で ある.  晩生についても,2009 年は高温登熟性の検定ができな かった.2010 年および 2011 年の結果から,「にこまる」は 「ヒノヒカリ」より高温登熟性に優れた.「にこまる」の高 温登熟性については,鹿児島県農業試験場における判定で は“弱”の「ヒノヒカリ」に対して“中”であり,育成地 の検定では“やや強”の「コガネマサリ」と比較して基部 未熟粒,白未熟粒の発生が少ないとされる(坂井ら 2010). 本調査では,2010 年の高温・多照条件では「ヒノヒカリ」 より明らかに整粒歩合が高く,白未熟粒が少なかった.た だし,「にこまる」は「ヒノヒカリ」より出穂期が 5 日遅かっ たため,出穂後 20 日間の気温が 0.8 ℃低くなっており,単 純には比較できない.また,2011 年も,出穂後 20 日間の 平均日射量が「ヒノヒカリ」より多くなっている.「にこ まる」は熟期が遅く気象条件が他の晩生品種と異なること から,本県において基準品種とすることは難しい.「ヒノ ヒカリ」の高温登熟性は,若松ら(2007),和田ら(2010) によると“弱”である.2010 年の整粒歩合が 26.4%,白 未熟粒率が 45.6%と「にこまる」と比較してかなり高温登 熟性が劣ったこと,2011 年の整粒歩合および白未熟粒率 は「にこまる」と比較してさほど悪くはなかったが,屑米 重歩合が 27.7%と高くなったことから「ヒノヒカリ」を“弱” と判定した.「金南風」は背・基白粒の発生程度から高温 登熟性が“強”と判定されているが,品種特性として腹白 粒が多く(若松ら 2007),本調査のように穀粒判別器を用 いた調査では整粒歩合が低く,白未熟粒率が高くなるため, 高温登熟性の基準品種としては不適と判断した.そこで, 2011 年は高温登熟性が優れるとされる「おてんとそだち」 (永吉ら 2011)を供試した.整粒歩合は「ヒノヒカリ」よ り高かったが有意差はなく,白未熟粒率は「ヒノヒカリ」 と同程度であり,2011 年の結果では高温登熟性が強いと は言えなかった.これらのことから,晩生で高温登熟性が “強”あるいは“やや強”の基準品種の選定については, 新たな品種・系統の供試も含めさらなる検討が必要である.  以上の判定をまとめ,滋賀県における高温登熟性の基準 品種を第 6 表に示す.本試験で,これまでの報告とほぼ同 様の結果が得られたことから,極早生から早生に関して検 定ハウスを利用しての高温登熟性検定が可能であると考え られる.坪根ら(2008)は,穀粒判別器を利用することに よって目視調査で要した多大な作業労力と作業時間を大幅 に軽減でき,玄米品質調査の効率化を図ることができると している.筆者らも育成系統の高温登熟性の検定のため年 間 800 サンプルの調査を行っており,目視で調査を行うこ とは多大な労力を要する.今回,穀粒判別器で測定した整 粒歩合および白未熟粒率によって高温登熟性が評価できた ことは,高温登熟性に優れる品種を効率的に育成するため に有益であると考えられる.

引用文献

中央農業総合研究センター北陸地域基盤研究部稲育種研究 室(2004)北陸地域を対象とした早生水稲の高温登熟性 検定基準品種の選定.関東東海北陸農業研究成果情報 平成 16 年度Ⅲ:238 − 239. 福井清美・桑原浩和・佐藤光徳(2004)水稲品種系統の高 温登熟性について.九州農業研究 66:16. 星 豊一・阿部聖一・石崎和彦・重山博信・小林和幸・平 尾健一・松井崇晃・東 聡志・樋口恭子・田村隆夫・浅 井善広・中嶋健一・原田 惇・小関幹夫・佐々木行雄・ 阿部徳文・近藤 敬・金山 洋(2004)新しい選抜方法に よる高温登熟性に優れた良食味水稲早生品種「こしいぶ き」の育成.北陸作物学会報 39:1 − 4. 飯田幸彦・横田国夫・桐原俊明・須賀立夫(2002)温室と 高温年の圃場で栽培した水稲における玄米品質低下程度 の比較.日作紀 71:174 − 177. 石崎和彦(2006)水稲の高温登熟性に関する検定方法の評 価と基準品種の選定.日作紀 75:502 − 506. 第6表 高温登熟性の基準品種

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30 神田伸一郎・須藤 充(2005)青森県中生熟期水稲におけ るガラス温室を利用した高温登熟性検定法の確立.東北 農業研究 58:7 − 8. 小谷俊之・松村洋一・黒田 晃(2006)出穂前後の遮光処 理が水稲品種「ゆめみずほ」の収量および品質に及ぼす 影響.石川農総研研報 27:1 − 9. 小牧有三・笹原英樹・上原泰樹(2002)ビニルハウスによ る高温条件下での登熟に関する早生水稲の品種間差.北 陸作物学会報 37:12 − 16. 森田 敏(2009)水稲高温登熟障害の生理生態学的解析. 九州沖縄農研報 52:1 − 78. 永畠秀樹・黒田 晃(2004)高温処理が早生水稲の白未熟 粒発生および食味関連形質に与える影響.北陸作物学会 報 39:81 − 84. 永吉嘉文・中原孝博・黒木 智・齋藤 葵・藪押睦幸・角 朋彦・川口 満(2011)高温登熟性に優れる水稲新品種「南 海 166 号」の育成.日作九支報 77:1 − 4. 中川淳也・吉田貴宏・寺本 薫・野田秀樹・谷口真一(2005) 水稲新品種「レーク 65」の育成について.滋賀農総セ 農試研報 45:1 − 12. 中野尚夫(2000)生育初期の遮光が水稲の生育および収量 構成要素に及ぼす影響.日作紀 69:182 − 188. 表野元保・小島洋一郎・蛯谷武志・山口琢也・向野尚幸・ 山本良孝(2003)人工的高温条件下における水稲の登熟 性検定法.北陸作物学会報 38:12 − 14. 表野元保・蛯谷武志・山口琢也・宝田 研・向野尚幸・山 本良孝(2004)人工的高温条件下における水稲の登熟性 検定法 第 2 報 効率的高温処理時期の検討.北陸作物学 会報 40:24 − 27. 坂井 真・岡本正弘・田村克徳・梶 亮太・溝淵律子・平林 秀介・八木忠弘・西村 実・深浦壯一(2010)食味と高 温登熟条件下での玄米品質に優れる多収性水稲品種「に こまる」の育成.九州沖縄農業研報 54:43 − 61. 重山博信・伊藤喜美子・阿部聖一・小林和幸・平尾健一・ 松井崇晃・星 豊一(1999)新潟県における水稲品種の 品質・食味の向上 第 16 報 水稲の高温水灌漑による高 温登熟性の検定法.北陸作物学会報 34:21 − 23. 清水 強・関口貞介・盛田英夫・須崎睦夫(1962)主要作 物の収量予測に関する研究Ⅷ.水稲の分げつ発生に対す る日射の影響.日作紀 31:141 − 144. 高田 聖・坂田雅正・亀島雅史・山本由徳・宮崎 彰(2008) 高知県早期栽培水稲における白未熟粒発生の年次,地域 間差の要因.日作四国支報 45:56 − 57. 高田 聖・坂田雅正・亀島雅史・山本由徳・宮崎 彰(2010) 西南暖地の早期栽培における水稲品種の寡照条件下での 高温登熟性の評価法.日作紀 79:142 − 149. 玉置雅彦・山本由徳(1997)遮光および施用窒素量が水稲 の出葉速度と分げつ発生に及ぼす影響−特に出葉転換点 に着目して−.日作紀 66:29 − 34. 坪根正雄・尾形武文・和田卓也(2008)登熟期間中の温水 処理による高温登熟性に優れる水稲品種の選抜方法.日 作九支報 74:21 − 23. 山川智大・神田幸英(2003)水稲高温耐性検定方法の改良 と基準品種の選定.日作紀 72(別 1):100. 和田卓也・坪根正雄・井上 敬・尾形武文・浜地勇次・松 江勇次・大里久美・安長智子・川村富輝・石塚明子(2010) 高温登熟性に優れる水稲新品種「元気つくしの」育成お よびその特性.福岡農総試研報 29:1 − 9. 若松謙一・佐々木修・上薗一郎・田中明男(2007)暖地水 稲の登熟期間の高温が玄米品質に及ぼす影響.日作紀 76:71 − 78.

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Selection of Standard Rice Cultivars for Ripening Capability under High Temperature

Conditions in Shiga Prefecture

Junya Nakagawa and Shigeyuki Mori

Shiga Prefecture Agricultural Technology Promotion Center(516 Dainaka, Azuchi, Omihachiman Shiga 521 − 1301, Japan)

Summary: The standard rice cultivars for ripening capability under high temperature conditions (RCHTC) were selected in Shiga Prefecture.

 Twenty five rice cultivars were cultured in green house on a paddy field to evaluate the RCHTC. Among extremely early cultivars and early cultivars, the varietal differences in the percentage of whole grain and white immature grain influenced with husked rice quality were observed. The order of cultivars in RCHTC was fairly consistent between 2009 and 2011. Therefore, we selected following cultivars as standard: ‘Fusaotome’ for “strong”, ‘Tentakaku’, ‘Hanaechizen’ and ‘Kosijiwase’ for “moderate strong” (for extreme early cultivar), ‘Etsunan222’, ‘Koshiibuki’ and ‘Lake65’ for “moderate

strong” (for early cultivar).

 Among medium and late cultivars, the order of cultivars in RCHTC differed annually. Therefore, it was thought that further study was needed to select standard for medium and late cultivar, including testing new cultivars.

Key words: Husked rice quality, Ripening capability under high temperature conditions, Rice, Standard cultivars, Varietal difference

Journal of Crop Research 57 : 23 − 31(2012) Correspondence : Junya Nakagawa(nakagawa-junya@pref.shiga.lg.jp)

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