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忘れられた形態形質 : コエビ下目ゾエアにおける顎脚外肢の剛毛配列について

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(1)

C A N C E R

19 (2010), p.27-29

忘れられた形態形質

コエビ下目ソ工アにおける顎脚外肢の剛毛配列について

小西光一 ・南保暢聡

ゾエア幼生の分類では様々な形態形質が用い られるが,一般には成体よりも幼生の方が観察可 能な形質は少ないため,その数少ないデータの範 囲内で成体と同じレベルの種 ・発育段階の判別を することには当然ながら困難が伴うものである わが国における幼生形態の研究は

80

年近 くの歴 史があるが,昨今は D N A 解析技術の飛躍的進歩 と,これによりもたらされた膨大なゲノム情報の 蓄積をベースとして,例えば従来は海洋プランク トンにおいて標本の形態のみに頼 って 判断してい たフイロソーマ幼生においても,形態によらない 分子レベルでの属 ・種の判別も可能にな って来 た (C h o w

et

al.

, 2006; Konishi

et al.

2006

など) . この 様な状況下,形態を調べること自体に意味がある かとの議論もあるが,現在の所,浮遊幼生を持っ すべての種について遺伝子データが蓄積されてい る訳ではなく, さらには D N A 解析で属や種の判 別は出来ても,齢期の判別は現時点では不可能で、 あり,やはり形態を無視することは出来ない. し たがって事実上,当面は形態情報の蓄積と分析, およびこれらに基づく形態による同定という作業 がなくなることはないと思われる. 現在の幼生形態の記載において標準的に使われ ている形質は以下の通りである: ・全体の大きさと概形 (頭胸甲,腹節 ・尾節) ・各付属肢の形状と剛毛配列( 第

1

2

触角, 5 胸脚,腹肢 ・尾肢) ・色素胞の有無と 配置 一方,実際にプラン クトン 等のサンプルで判別

Kooichi K ONISHI

&

Nobuaki N ANJO: T h e lost morphological character - arrangements of maxil-lipedal exopod setae in the caridean zoeas sug-gested by Dr. Yokoya in 1957 を行う際には,採集やその後の作業工程において サンプルの付属肢等が脱落・破損し,上記の形質 もすべてが使えないことは多々ある. よって使え る形質は多ければ多いほど,信頼性および利便性 は高くなるのは言うまでもない . こ の様な中で, いわゆるエピ類の,とりわけコエ ビ下 目の各科幼 生は ,十脚甲 殻類の中ではグループ聞の形態変異 が大きい方ではなく,たとえ限られた分類群では あっても, 判別に使える形質があれば,積極的に 取 り入れたい所である . 図1 カ二類における第1 ソヱアの第 1 顎脚外肢先端 の遊泳毛の走査電顕像 (原図). 白丸 で固まれた部分 に計4本の遊泳毛が先端に一対,やや下方に一対と 左右対称 に配列されており, 十脚目での典型的なタ イプといえる

(2)

28

忘れ られた形態形質ーコエピ下目ゾエアにおける顎脚外肢の剛毛配列について 十脚目の付属肢の中で,顎脚は 浮遊幼生期には 遊泳器官,変態着底後は摂食器官として機能し, 発育段階によりそ の機能が大き く変わる点が特徴 である . 幼生期の遊泳行動に 主に 関わるのは,外 肢先端にある羽状毛であ り,大部分の種ではふ化 直後の第

1

ゾエアでは

4

本が左右対称に並び (図

1

参照), そ の 後 の 脱 皮 で通常は

6

本,

8

本,

10

本, ・… と 規 則 的 に 本 数 が 増 え て 行 く こ と が 知 ら れている. ここで「大部分の種」と述べた様に, このタ イプが一般的であり , さらには外肢よりも 内肢の方が分類上良く使われて来た傾向がある こ とも手伝 って,顎脚外肢はどの種でも 同 じタイプ で特に齢期 (脱皮齢) の判定以外には使えないと いった,ある種の先入観が生じ,幼生研究者の問 では系統的分類のための形態形質としては注目さ れて来なかった , というのが実情であろう.

横屋

(1957)

はコエピ下目幼生の分類の中で, 顎脚外肢の先端にある遊泳用の羽状毛の配列につ いて ,対称性を含めた 配列 に着目し, A - D の4 型に分けた. 以下にその要約を ,表 1 で示す こ れ ら

4

型が当時幼生のデータがあ った

9

科がそれ ぞれ割り振られることにより,科レベルでの判別 の助けとなるわけである . 彼は「…. . この事実を 従来の研究者が殆ど皆不問に付しているのは不思 議の ほか ない

.J

と述べているが,確かに幼生標 本を実際に解剖 ・検鏡する 立場からは , この部分 は上述の理由もあり,見過ごしやす いポ イントで あ る と感 じる . しかしながら,この形質はその後 も注目されることなく,今日に至 って いるのが実 情であろう 横屋の原文にはないが,本表では便 宜 的 にA . B型を対称型, C ' D 型を非対称型に グループ分け,さらに最近 の幼生記載論文で,著 表 1 コエビ下目の ゾエアの顎脚外肢先端の剛毛の配列 (横屋 (1 9 5 7) を基に作成). 下線 を付 した科は,最近

の論文データか ら追加したもの で, 具体的な文献は以下の通り 1 ) Gonzalez-Gordillo & Rodriguez (2000), 2 ) Bruce (1986), 3 ) Foxton & Herring (1970), 4 ) Nanjo & Konishi (2009)

対称型

非対称型 A 型

I

B 型 先端に2本が並び, その

I A

型に似て先端に2本並 両端にわずか下って2 本│ び,その両側に 1 本ずつ あり, 一見4本が先端に│ あり,これからやや下つ あるように見える . これ│ て各側に2 - 3本が順 次 からやや下って各側に1

I

並んでいる . 本の小毛がある. C 型

I

D 型 正確にいえば,先端に

I C

型に似ているが,先端 1 本,それに接して僅か│ の 2 本が並んでそれに接 下って1 本,なお反対側│ して僅かに下って 1 本, に僅か下 って1 本,これ│ これからやや下って反 らが殆ど近接しているた│ 対側に1本の羽状毛があ め先端に 3 本あるように│ る . 見える . これらから下っ て各側に 1 本ある . ※ 第1 顎脚で は先端の 4

I

※ 第1 顎脚では先端の 4

I

※ 第1 顎脚では先端に 3

I

※ 第1 顎脚では基部に近 本だけがある場合がしば│ 本だけある場合がある.

I

本のみある場合がある .

I

い1 - 2本がない場合が し ば あ る あ る ヌマエピ科, ヒオドシエ ピ科,テッポウエピ科, カクレエピ亜科,ツノメ エピ科1 ) ヨコシマエピ 科2 ) テナガエピ亜科,タラパ │ モエピ科,ロウソクエビ エピ科 │ 科,エピ ジャコ科,主主 カブトエピ科3 ) オキエピ科 ( ソコシラエ ビ属,シラエピ属4 ))

(3)

小西光一・南保暢聡 29 者達自身はおそらく気付いていないものの,記載 図が精確であることに よ り,この配列が確認でき るものを選び,データを 加 えてみた . ただし,異 尾下目や短尾下目などの,他の主だったグループ では非対称的な配列は知られておらず,当面利用 が可能なのはコエピ下目に属する科やその亜科レ ベルと思われる . 最近,著者らはシラエピ (Pωiphaea japonica)

の幼生形態を記載する機会があったが,その中で この剛毛配列を調べた所,一見すると

D

型である が, より詳しく見れば横屋の区分には当ては まら ないことが分かった (Nanjo

&

Konishi, 2009). すなわち ,配列は図

2

に示す様に,左右対称であ るが,片側の羽状毛に相当する部分が短い線状突 起にな っており,

A

型の先端から

2

段目の片方が 赫状に退化あるいは未分化と解釈した方が良いと 思われ,さらには配列型の進化を考える場合の参 考になる可能性もある. この形質を更に分析して 行けば,属レベル以上のゾエア幼生の分類を考え る際に大きなヒントが得られるかも知れない. た だし,ゾエアの発育段階が進むにつれて羽上毛数 が不規則に増えることも想定すると,やはりこの 様な個体変異もふくめたバラツキの少ない第1期 ゾエアを当面の検討対象とした方が良いかも知れ ない .

A

B

C

B ' A '

WM

N

I

l

-図2 シラエビの第 1 ゾエアの顎脚外肢先端の遊泳毛 (Nanjo & Konishi (2009)より一部改変 ).

A 'とB 'は先端部 を拡大 したもの. 形態の記載は, これを実行する 研究者が閉じグ ループの範囲内においては 同 じ基準で対応しなけ れば,それまでのデータが,無駄になってしまう ことはいうまでもない( 小西,1999). 今後も , ゾ エアの標本を検鏡する機会があるたびに,今回の ポイン トを精査することにより,横屋の区分を発 展 的に拡充し,少なくともコエピ下目幼生の分類 に寄与することが期待される もしも特にコエピ 下 目のゾエアの形態を記載される場合には,本稿 で紹介 したこれら顎脚の外肢にも注目して頂けれ ば幸い である .

文 献

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参照

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