387 整 形 外 科 と 災 害 外 科 49:(2)387∼391,2000.
小児 に認め られ た一過性頸椎椎 間板石灰化 症の1症 例
大分医科大学整形外科
川嶌
眞
之 ・高
下
光
弘
松
本
博
文 ・内
納
正
一
津
村
弘
Cervical
Intervertebral
Disc Calcification
in aChild
-A
Case
Report-Masayuki
Kawashima,
Mitsuhiro
Takasita,
Hirofumi
Matsumoto,
Shoichi
Uchinou,
and Hiroshi
Tsumura
Department
of Orthopaedic Surgery,
Oita Medical University, Oita, Japan
It is said that calcified intervertebral
disc was confirmed anatomically
by Luschka
in 1858, and Benke proved it radiologically
with cadaver in 1897.
In 1922, calcified
nu-cleus pulposus was found by Calve and Galland, and they named it "calcification
du
nu-cleus pulposus".
Then Barsony renamed
it "calcification
intervertebralis",
because
calcification
was not seen only in nucleus pulposus but everywhere in the intervertebra.
On the other hand, pediatric disc calcificationwas
described by Baron in 1924.
Since
then, about 200 cases of children have been reported.
In Japan Calcified intervertebral
disc is considered rare.
In 1932, the cases of a
13-year-old girl and 68-13-year-old female were described by Mizumachi.
Since then, there
have been sereval case reports of adults with especially intervertebral
thoracial discs, but
few reports of children.
This paper reports the case of a 12-year-old boy with a calcified intervertebral
disc
at C 4-5 discovered by neck pain.
With conservative treatment,
X-rays 18 months later
showed complete resolution of the calcification.
Key words:intervertebral disc calcification(椎 間 板 石 灰 化),cervical spine(頸 椎),child (小 児) は じ め に 椎 間板 石 灰 化 症 は,我 が 国 で は 比 較 的 稀 な もの と さ れ て お り,世 界 的 に 見 て も多 くは ない.特 に,我 が 国 の 小 児 に お け る椎 間板 石灰 化 症 は,1932年,水 町 が 報 告 した13歳 女 子 の症 例 が 最初 の 報 告 で あ り,以 後 我 々が 渉 猟 し得 た の は5症 例 の み で あ る. 今 回,頸 部 痛 を 主訴 と し,単 純X線 像 上 頸 椎 椎 間 板 に石 灰 化 陰 影 認 め た小 児 の1症 例 を経 験 した の で, 若 干 の 文 献 的 考 察 を加 え て報 告 す る. 症 例 [症例]12歳 男 児 [ス ポ ー ツ歴]サ ッ カー [現病 歴]1996年1月 よ り,特 に誘 因 も な く頸 部 痛 が 出現 した.近 医 を受 診 し,単 純X線 像 上C4/5椎 間 に異 常 陰 影 を認 め た た め,同 年2月 当 科 を紹 介 され 受 診 した.痛 み は そ の 間 減 弱 し,初 診 時 には 前 医 受 診 時 に認 め た 自発 痛 は既 に な く,後 屈 時 に 軽 度 の 疼 痛 を 認 め る の み で あ り,斜 頸,筋 の 萎 縮 も認 め な か った.
図1初 診 時 画 像 a.単 純X線 正 面 像 b.単 純X線 側 面 像 c.単 純CT像 d.MRI矢 状 断T1強 調 像 e.MRI矢 状 断T2強 調像 a.初 診 時b.5ケ 月 後c.18ケ 月 後 図2単 純X線 側 面像 の経 過
389 表1本 邦 で報告 された小児椎 間板石灰化症 神 経 学 的 に は,知 覚 ・運 動 神 経 共 に 異 常 な く,病 的 反 射 も み ら れ な か っ た.単 純X線 及 び 断 層 像 上,C4/5 椎 間 板 腔 に 髄 核 に 一 致 す る 楕 円 状 の 石 灰 化 陰 影 を認 め, MRIのT1・T2強 調 画 像 上 同 部 に 低 信 号 域 を,CT に てC4/5椎 間 板 中 心 部 に 石 灰 化 像 を 認 め た(図1). 骨 シ ン チ グ ラ ム で は,明 ら か な 集 積 は 認 め な か っ た. [血 液 検 査 所 見]WBC 5180/mm3,CRP 0.02mg /dlと 炎 症 所 見 は な く,他 に 特 記 す べ き こ と も な か っ た. [経 過]頸 椎 椎 間 板 石 灰 症 と 診 断 し,サ ッ カ ー で の ヘ デ ィ ン グ を 禁 止 し た 他 は,特 に 活 動 制 限 を 行 わ ず, 経 過 を 観 察 し た.18ケ 月 後,石 灰 化 はX線 像 上 消 失 し た(図2). 考 察 椎 間 板 の 石 灰 化 は,1858年,Luschkaに よ っ て 初 め て 解 剖 学 的 に 確 認 さ れ,そ の 後1897年,Benkeが 死 体 に お い てX線 的 に 証 明 し た と い わ れ る20).1922 年,CalveとGallandは,X線 像 上 レ ン ズ 状 の 石 灰 化 陰 影 を 見 つ け,そ れ が 髄 核 の 位 置 に 一 致 して い る こ と か ら,"calcification du nucleus pulposus"と 名 づ け た2)9)20).そ の 後,Barsonyは,石 灰 化 は 髄 核 の み な らず 椎 間 板 の あ ら ゆ る 部 分 に 起 こ り う る と し, "calcification intervertebralis"と 改 め た2) .一 方, 小 児 の 椎 間 板 石 灰 化 症 は,1924年,Baronら に よ り 初 め て 記 述 さ れ(12歳 男 子)1),そ れ 以 降,約200例 の 報 告 が 見 ら れ る. 本 邦 で は,1932年,水 町 が13歳 と68歳 の 女 性 の2 症 例9),1936年,同 じ く 水 町 が49歳 の 女 性 例10)を 報 告 後,1966年,安 田 が30歳 の 男 性 例20)を 報 告 す る ま で は 文 献 上 報 告 を 認 め な か っ た.以 後,成 人 の 椎 間 板 石 灰 化 症 の 報 告 は 散 見 す る よ う に な っ た が,小 児 例 に お い て は,我 々 が 渉 猟 す る 限 り1970年 に 福 田 ら が5 歳 女 子 例5)を,1975年 に酒 匂 らが11歳 男 子 例14)を, 1977年 古 川 らが6歳 女 子 例6)を,1993年 大 賀 ら が12 歳 男 子 例12)を報 告 して い るの み で あ る(表1). 椎 間板 の 石灰 化 は,小 児,成 人 共 に認 め られ るが, 成 人 の 場合,多 くは 加 齢 に よ る退 行 性 変 化 で あ り,無 症 状 の経 過 を とる と され て い る.ま た,椎 間 板 組 織 に お け る 石灰 化 の 部 位 は,多 くは線 維 輪 や 軟 骨 板 が 主 で あ り,ひ とた び 石灰 化 が 起 これ ば 消 失 はみ られ ず,永 久 的 に存 在 す る と言 わ れ て い る.一 方,小 児 にお け る 椎 間板 石灰 化 は,周 囲 の 線 維 輪 に及 ぶ こ と もあ るが, 主 と して髄 核 を中 心 と し,時 間 の 経 過 と共 に 自然 消 失 す る とい わ れ る14).特 異 的 な 所 見 と して 福 田 ら は, 1)局 所 の疼 痛 あ る い は 関 連 痛,2)脊 椎 の 運 動 制 限, 3)炎 症 の存 在 事 実(血 沈 の 亢 進,体 温 上 昇 な ど), 4)椎 間板 の石 灰 化,5)小 児期 の み の 発 症,6)良 好 な予 後 を挙 げ て い る5).Jawishら は,し ば しば 急 性 発 症 す る病 変 部 の疼 痛,斜 頸,腰 背 部 の こわ ば り,筋 硬 直 をcrisisと 呼 び,こ れ ら の 症 状 は,時 に 外 傷 や 上 気 道 炎 が 誘 因 とな っ て起 こる が,石 灰 化 の 過 程 との 関係 は 明 らか で は な い と して い る.ま た,crisisに 伴 う微 熱 や赤 沈 亢 進,白 血 球 増 多 は,上 気 道 炎 に 付 随 し た もの で,本 疾 患 に有 意 で は な い と して い る.無 症 状 で 発 見 さ れ た もの の うち,症 状 発 現 まで の 期 間 は,文 献 的 に は1ケ 月 か ら12年 と様 々 で あ っ た.さ ら に, Jawishら は31症 例 を検 討 し,診 断 時 の 年 齢 は 生 後 7日 か ら16歳 で あ り,crisisの 期 間 は4日 か ら6ケ 月 で,13症 例 は1ケ 月 以 内 に症 状 が 消 失 した と報 告 し て い る7).小 児63症 例 の検 討 を行 っ た 酒匂 らは,診 断 時 の 年 齢 を生 後8日 か ら13歳 で特 に5∼7歳 に 多 く, 大 部 分 の症 例 は1年 以 内 に症 状 の消 失 が 見 られ,石 灰 化 の 消 失 も多 くは1年 以 内 に見 られ た と して い る14).
Sonnabendら は,小 児127症 例 を検 討 し,症 状 に つ い て,2/3は3週 以 内 で,95%は6ケ 月 以 内 で消 失 す る と報 告 して い る18). Jawishら は,骨 シ ンチ グ ラ ム にお い て,crisis時 検 査 した4症 例 全 例 で 石 灰 化 集 積 を認 め て い る7)が, 今 回 の症 例 で は,明 らか な集 積 を認 め な か っ た. ま た,Jawishら は,単 純X線 像 も し くは 断 層 像 上,homogenous type(卵 円形,レ ン ズ状 で濃 い均 質 な石 灰 化 を呈 す る もの),fragmented type(分 節 化 した もの),protruded type(脊 柱 管 な ど に 石 灰 化 が 突 出 した もの)に 分 類 して い る7).Weensは,症 状 が 発 症 す る か な り前 か ら石 灰 化 は発 現 し,石 灰 化 が 吸 収 され る 時,若 し くは そ の 直 前 に症 状 が 出現 す る と 推 定 した19)が,さ ら にJawishら は,X線 像 と症 状 経 過 との 間 に 次 の よ うな 興 味 深 い 考 察 を行 っ て い る. つ ま り,石 灰 化 が 消 失 した18症 例 中16症 例 は消 失 前 に分 節 化 が起 こっ て い る こ と,無 症 状 で偶 然 発 見 され た もの や 症状 軽 度 な も の の う ち,X線 像 上 石 灰 化 が 消 失 して い な い もの は 分 節 型 以 外 の もの で あ る こ と, 逆 に,偶 然 発 見 され た 後crisisを 伴 っ た も の は,そ の 後 石灰 化 像 が 消 失 して い る こ と,以 上 の点 か ら本 症 で は,長 期 間 無 症 状 で あ った 石 灰 化 が 分 節 化 し,cri-sisを 伴 っ て 消 失 す る とい う もの で あ る7). また,椎 間板 の 石灰 化 にお い て,成 人 と小 児 で は, 発 症 す る 脊椎 レベ ル に違 い が み ら れ る こ とが 報 告 され て い る.Sonnabendら は,成 人 で は下 位 胸 椎 に 好 発 し,小 児 で は,症 候 性 の もの は頸 椎 に,無 症 候 性 の も の は胸 椎 に 好 発 した こ と を示 して い る18).Jawishら は,crisisは 頸椎 にお こ りや す く,83%が6ケ 月 で 石 灰 化 の 消 失 をみ た と して い る7). 発 症 の 原 因 につ い て は,成 人 の石 灰 化 に は,副 甲 状 腺 機 能 亢 進 症,カ ル シ ウ ム代 謝 異 常,ヘ モ ク ロマ トー シ ス,組 織褐 変 症 等 が 関 与 して い る とす る報 告 が 従 来 な され て い た が,Sonnabendら は,小 児 の 石 灰 化 に は,こ れ ら を始 め,ビ タ ミ ンD過 剰 症,軟 骨 石 灰 化 症 の 関 連 も見 い だ せ なか っ た と述 べ て い る18).近 年 は, 成 人 の 場 合 は退 行 変 性 が 生 じ,二 次 的 に 石灰 沈 着 した もの と考 え られ て い るが,小 児 で は異 な っ た 機 序 に よ る もの と され て お り,外 傷 に よ る血 腫 形 成,上 気 道 か らの 感 染,椎 間 板 の 虚 血,無 腐 性 壊 死,血 管 の 関 与, 椎 間 板 の 発 育 異 常 等 の説 が あ る.Weensl9),Smithl7), Schmitら15)を は じめ,多 くの著 者 が外 傷 や 軽 度 あ る い は 反 復性 の 上気 道 炎 が 関 与 す る と して お り,更 に Jawishら は,後 方 突 出 のprotruded typeは ス ポ ー ツ外 傷 との 強 い 関 連 を,前 方 突 出 のprotruded type は 上気 道 炎 との 関 連 を示 唆 して い る7). 組 織 学 的 に は,大 賀 らは 石 灰 化 した椎 間板 が 後 方 へ 突 出 した た め に,嚥 下 障 害 を来 した症 例 に対 して前 方 固 定術 を施 行 し,摘 出 した 髄 核 に カ ルシ ウム の沈 着 と, そ れ に 対 す る 炎 症 反 応 と して 組 織 球 と異 物 型 巨細 胞 を 認 め て い る12)ほか,Smithら も過 度 の 繊 維 化 を 伴 っ た 同 様 の 所 見 を報 告 して い る17). 治 療 につ い て は,Jawishら は,次 の よ うに ま と め て い る.1)疼 痛 を伴 う と き は,安 静 と鎮 痛 薬 を 投 与 し,X線 に よ る経 過 観 察 を2ケ 月毎 に行 い,2)さ ら に 変 形 を伴 う例 に は外 固 定 が 必 要 で あ る.3)無 症 状 例 で は 治 療 の 必 要 は な く,crisisが 起 こ る可 能性 を 説 明 し,そ の 時 に受 診 さ せ る.4)protruded typeの 場 合 は,疼 痛 の み で 神 経 症 状 が な い と きは 牽 引 に よる 安 静 と し,5)脊 髄 圧 迫,嚥 下 障 害 に至 れ ば 手 術 を行 う と して い る7). ま と め ① 特 に誘 因 が な く,頸 部 痛 を 主訴 とす る小 児 の 頸椎 椎 間 板 石 灰 化 症 の1例 を経 験 した. ②18ケ 月 の 経 過 観 察 後,石 灰 化 は 自然 消 失 した. ③ 小 児 の 椎 間板 石 灰 化 症 は,我 々 が渉 猟 す る 限 り, 本 邦 にお い て5例 目の報 告 で あ り,非 常 に稀 な 症 例 と 思 わ れ た. ④ 症 候 例 は頸 椎 例 に多 く,無 症 候 例 は胸 椎 例 に 好発 す る. ⑤ 石 灰 化 の 原 因 は,今 な お不 明 で あ る が,外 傷,反 復 す る上 気 道 炎 と何 らか の 関連 が あ る と考 え られ る. ⑥ 無 症 候 例 で は治 療 の必 要 は な く,脊 髄圧 迫,嚥 下 障 害 に至 れ ば手 術 が 必 要 とな る. 参 考 文 献
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