茨城県立医療大学紀要 第 23 巻 A S V P I Volume 23 連絡先:藤井義大 茨城県立医療大学保健医療学部放射線技術科学科 〒 300-0394 茨城県稲敷郡阿見町阿見 4669-2 電 話:029-888-4000 FAX:029-840-2318 E-mail:[email protected] 要旨 本稿では,茨城県立医療大学地域貢献研究の一環として,平成 18 年度からの茨城県事業である「いばらきを食 べよう学校給食推進事業」に端を発し,平成 25 年度に文部科学省により採択されたスーパー食育スクール事業(SSS) の活動の中の一つについて紹介する。本活動は,先行研究により得られたアンケート調査の結果をもとに小・中学 生やその保護者に「食」と「食育」に興味・関心を持ってもらい,その重要性を感じてもらうことを目的とした。 実際に行った活動は,茨城県内の小・中・特別支援学校の栄養教諭を中心に , 減塩メニューの提案と試食,CT 立 体画像を使用した食育教材の開発,および茨城県立医療大学附属図書館における特別展示での情報発信である。こ れらの活動を学会や研究会で発表することで,多くの人が「食」と「食育」に興味・関心を持ち,その重要性の理 解につながったと思われる。今後も活動を継続することが重要と考える。 キーワード : 減塩食,食育,CT 画像 1)茨城県立医療大学保健医療学部放射線技術科学科 2)茨城県牛久市立岡田小学校 3)茨城県立境特別支援学校 4)茨城県立下妻特別支援学校 5)茨城県立常陸太田特別支援学校 6)茨城県立つくば特別支援学校 7)茨城県立協和特別支援学校 8)茨城県立水戸飯富特別支援学校 9)茨城県立牛久市立向台小学校 10)茨城県立医療大学保健医療学部看護学科 藤井義大1), 潮﨑純子2),高山絵美3),赤田部恵美子4),萩谷洋美5),酒井弘実6) 佐藤敦子7), 倉本裕美子8),福井恵子9),森 浩一1), 中島修一1), 山口 忍10)
茨城県における食育推進の重要性
栄養教諭による自主学習会の開催経緯と成果報告
-資 料
1.はじめに 茨城県は,全国と比較して脳血管疾患,糖尿病な どの生活習慣病による死亡率が高い状況である1)。 また,平成 28 年度国民健康・栄養調査によると, 野菜の摂取量の平均値は,全国有数の野菜の産地で 身近に野菜が豊富にあるにもかかわらず男女ともに 全国平均とほぼ同程度である。食塩摂取量は全国平 均より男女ともに若干高い傾向にある2)。これらの 食習慣の改善に向けて食育推進は重要な課題である。 本学が所在する阿見町では,平成 18 年度から茨 城県事業である「いばらきを食べよう学校給食推進 事業」を開始し,阿見町特産品を給食に導入,農業 協同組合,学校栄養士が所在の小学校で講義を行っ ていた。平成 20 年度から町単一の事業となり,平 成 21 年度からは茨城大学が,平成 24 年度から本学も参加した。本学は健康の維持増進の視点から食材 の栄養と健康,茨城大学は食物の特性,農業協同組 合は食物の育て方や流通についてそれぞれが担当す ることとなった。それらの活動は児童生徒の「朝食 摂取率 100%」「共食の増加」「地産地消」を目指す 食育活動として展開され,平成 25 年度に文部科学 省スーパー食育スクール事業(SSS)に採択された。 これを契機に,今までは茨城県立医療大学保健医療 学部看護学科との連携で進められた事業が,同学科 が中心となって茨城県立医療大学地域貢献の一環と して展開され,事業の実質化を図るために栄養教諭 による自主勉強会も開催されるようになった。 本活動は,先行調査3)に基づき,1)健康を意識 したメニュー開発を行い,朝食の質の向上を図るこ と,2)栄養教諭や大学教員の専門性を発揮した教 材開発を行い,小学生・中学生・その保護者などの 食に対する意識を高めることを主な目的とした。 2.活動内容 茨城県の食行動を概観し,阿見町の食育活動成果 の基礎資料を得ることを目的に,茨城県小学生 1,867 名,中学生 974 名,高校生 482 名及びその保護者を 対象とした自記式質問紙調査を県教育庁から自治体 教育委員会を通して実施した。調査の実施は地域貢 献研究委員会の活動として位置付けた。アンケート 調査の実施状況は,児童生徒の回収率 97.6%,保護 者 91.1%と非常に高かった。それらの結果は,主に 日本公衆衛生学会で報告するとともに,茨城県内の 学校栄養教諭が組織する茨城県学校栄養士協議会主 催の研修で「平成 26 年度茨城県『食』の調査結果 から考える食育推進に向けた課題」と題して,平成 28 年 2 月 19 日に報告をした。そこでは,「自分の 学校だけではなく,県内にも同じ健康上の問題解決 を課題としている人々がいることを知った」という 声が聞かれ,大変熱心に報告内容を聞いてくれた栄 養教諭の姿に感銘を受けた。そこで,「これらの膨 大なデータを,栄養士の視点で分析し,もっと自分 たちの児童生徒のことを知り,それを学会等で報告 しよう!」との趣旨で,茨城県学校栄養士協議会, 茨城県教育庁保健体育課を通して声掛けをした。約 30 数名の有志により,平成 28 年 5 月 14 日,茨城 県立医療大学において,第 1 回の自主学習会が開催 された。ここでいう自主学習会とは,業務以外の自 分たちの時間を活用し,自らの考えを基に分析の視 点を持って調査データを整理・検討する学習会を意 味する。 自主学習会においては,参加者が自らの視点で題目 を決め 4 つの研究班が構成された。研究班には,1 - 2 名の本学教員が入り栄養士が行う研究活動をサ ポートした。 その中で,食育研究を推進する研究班として,茨 城県内の特別支援学校・小学校の栄養教諭,茨城県 立医療大学教員によるグループが構築された。具体 的な取り組みとしては,小・中学生においても,減 塩食の摂取が必要であること,朝食の摂取率が低い ことをメンバーで確認した後に,日本古来の食材の 長所を見直す意義も含めて,茨城県内で入手できる 古代食材(黒米,赤米,あわ,ひえ等)を用いた「減 塩メニューの提案」,茨城県立医療大学附属図書館 での特別展示との合同開催による食育推進に関する 情報発信,さらに,本学のオープンキャンパスにお ける同種企画の経験から,食や食材に興味を持って もらうために食材をX線 CT で撮影した画像を用い た教材開発の提案である。また,より幅広い情報発 信を達成するために,これらの活動をまとめ,学術 学会や研究会での発表も行った4)。 1)食への興味を引き出すための古代食材を用いた 「減塩メニューの提案」 朝食メニューとして,作り置きができ,おいしく て健康的で,地元の食材に加えて,食への興味を引 き出すために古代食材(黒米,赤米,あわ,ひえ等) を用いたメニューの提案を行った。具体的な献立は 表1の通りである。実際の調理写真を図 1 に示した。 5 回行った自主勉強会の後半の数回は,秋期に開催 されたことから,減塩行楽弁当メニューの提案を 行った。特に,彩り豊かで,地場産物や旬の食材を 使用したものを作成した。具体的な献立は表2の通 りである。実際の調理写真を図2に示した。学校給 食の基準値と比較すると,素材そのものの味,食材 の組み合わせ等を工夫し,食塩相当量をかなり抑え る(2.1 ~ 2.5g)ことに成功した。また,古代食材 や地元の食材である野菜等を多く使用することに よって,栄養バランスを考慮し,食物繊維や鉄を多 く摂取することができた。これを表 3 に示した。
勉強会と同日に行われた調理当日には,茨城県立医 療大学において試食会を開催した。試食会には,勉 強会のメンバーと大学教員が参加し,すべてのメ ニューに関して好評価を得ることができた。 2)本活動の情報発信 茨城県立医療大学の平成 28 年度創療祭において は,附属図書館での弥生時代の人々の食生活に関す る特別展示(テーマ名:卑弥呼の鏡)と同時に今回 提案した各種メニューのレシピ(全 12 種類)の公 開と自由配布を通して情報発信を行った。特に人気 のあったレシピとして,「れんこん肉団子の豚汁」 と「卵焼き」について図 3(a,b)に示した。 また,各学校において,食育だよりや掲示物を通 して児童生徒・その保護者への情報発信も行った(図 4)。 表1 朝食メニュー 表2 行楽弁当メニュー 図1 実際の朝食メニュー 表3 栄養摂取量(項目は抜粋) 図2 実際の行楽弁当メニュー 3)食育推進のための教材開発の提案 茨城県立医療大学放射線技術科学科において,メ ロン等の果物の CT 画像の撮影を行った。これらの 画像データより,実際に試食を行わなくても熟度, 糖度やカロリーなどが分かるようなソフトの開発な ども期待できる。また,食材の立体画像を学校現場 でも掲示物や授業の中で使用して,児童生徒・保護 者らが「食材」を科学的視点も含めて多方面から学 び,描写の意外性から , 食材や食そのものに興味を 持つきっかけとしたいと考えている。食材の立体画 像の事例を図 5 に示した。なお,この作業は,食材 に放射線を照射することを奨励するものではない。 4)学術学会・研究会での発表 2016 年 11 月に埼玉県大宮市で開催された第 20 回日本健康福祉政策学会学術大会及び 2017 年 2 月 に阿見町で行われた第 9 回三大学交流セミナーにお エネルギー 炭水化物 たんぱく質 脂質 カルシウム 鉄 食物繊維 食塩相当量 摂取値 689kcal 92.3g 23.3g 23.9g 118mg 3.7mg 6.7g 2.1g 基準値 650kcal 92.4g 27.6g 18.1g 350mg 3.0mg 5.0g 2.5g
図3 配布レシピ a:れんこん肉団子の豚汁 b:卵焼き
図4 食育だより、掲示物の例
図5 X 線 CT により撮影した各種果物 いて活動内容を発表し,情報発信・交換を行ってきた。 自由討論においては,多くの方に興味・関心を持っ て頂き,活発な議論と情報交換の良い機会となった。 3.まとめ 本活動は前述の通り,「食」と「食育」に興味・ 関心を持ってもらい,その重要性を感じてもらうこ とを目的とした。今回実際に行った大きく分けて4 つの活動により,この目的をある程度達成できたと 考えている。また,栄養教諭と医療職の立場である 茨城県立医療大学教員とが共同したことにより,新 しい食育,つまり食育と健康とのつながりが見え始 め,今後のさらなる展開の見通しもできた。 しかし,今回の活動は食育の啓蒙においては足が かりに過ぎず,まだ十分とは言えない。そこで,今後 の活動として,1)開発した健康メニューを学校給食 のメニューに取り入れたり,家庭教育座談会や調理講 習会等の保護者との関わりにある機会を通して伝えた りして,朝食の質の向上に取り組んで行くこと,2)今 回は途中となってしまったので,食べることに興味・関 心を持ってもらうことを目的とした食育推進のための教 材開発を続けていくこと,3)さらに魅力のあるおいし いレシピを開発し,食と食育の重要性を引き続き伝え ていくことの3つのことが必要であると考えている。 謝辞 本学附属図書館における食育展示では,減塩レシ ピの印刷と配布にご協力いただきました菅野明里 氏,ほか附属図書館司書スタッフの皆様に感謝いた します。 文献 1) 厚生労働省 人口動態統計年報 主要統計表 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ jinkou/suii10/(参照 2017-09-23). 2) 厚生労働省 国民健康・栄養調査報告 h t t p : / / w w w . m h l w . g o . j p / f i l e / 0 4 - Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/kekkagaiyou_7. pdf(参照 2017-12-14). 3) 平成 26 年度スーパー食育スクール事業実績報 告 食に関する調査報告書 茨城県教育委員会 平成26年度3月. 4)食から広がる郷土愛育成に向けたメニュー開発 潮﨑純子,金子絵美,赤田部恵美子,森浩一 他5名 第 20 回日本健康福祉政策学会 埼玉 平成 28 年 11 月.